TSゆりフタ令嬢侍女メイド! 作:min(みならい)R18
◆♀◆ 18、城、あらわる ◆♀◆
満月の光が差してきました。
その冷たい光が、目の前にそびえ立つ森に当たります。
すると。
真っ黒な壁のように、分厚かった森が・・・
氷が溶けるように、ゆるんで、左右に開いて、穴が空いて・・・
小さなお城が、見えてきたではありませんか!
「わーお・・・」
「5町というところか?」
「ああ。十分行き来できる距離だね」
ボケーとしている私の隣で、女侯爵ツクノーさまとユリが目測を立てます。
で、ユリは私を見ました。
「──リア。ホントに来る気か?」
「行きます」
「ん」ユリはうなずきました。
「ファリア」
「はい、お嬢さま」
「おまじないをしておくわ」
「おまじない?」
バリバリの魔術師であるお嬢さまが、『おまじない』とか言ってますが・・・?
首を傾げる私に、お嬢さまは手をかざして、
「みずから言葉を唱えたら、変容せよ、フターリア。淀みを抜けて、流れに戻れ──目を覚ませ!」
さあ、どこが変わるのかな!?
私は自分の身体を見下ろしました。
でっかい胸。長い手足。メイド服。尻尾(黒とダークグレイのシマシマ)。
・・・いつものフにゃーリアですが?
「なにが変わったのです?」
「いまは何も」
「ん?」
「目覚ましのまじないよ。合い言葉を唱えると、夢から覚めれるの」
「・・・あ、『眠りの城』対策ですか!」
「そうよ」
お嬢さまは、私の肩を掴んで、背伸びをしました。
唇を近付けてきます。
可愛い唇。冬の空気で、少し荒れていらっしゃる・・・
みんなの前で・・・大胆!
などと、ドキドキしたのですが。
キスではなく、耳元で囁くだけでした。
「合い言葉は、こうよ──」
「ニーズ愛してますぅ~!」
「・・・。」
どう反応しろというのか?
お嬢さまは、ニッコニコです。
ハーフエルフの美少女さん。愛情と期待に満ちた目で、私を見上げています。
喜べってことですね。
「おお・・・! ありがとうございます」
「忘れちゃダメよ?」
「もちろん。この合い言葉なら、忘れる心配はありませんわ!」
「でしょ!」
お嬢さま、ご満悦です。
「ですが・・・私が唱えて、効果あるのですか? 『発動』からっきしの私が」
「大丈夫よ。合い言葉は、ただの言葉だから」
「そっか」
「あなたが自分で唱えるのよ? あと、1回限りだから、試したりしちゃダメよ?」
「1回限り。わかりました」
私は、小さくて可愛らしい乳姉妹を見下ろして、ガッと抱き締めました。
「・・・じゃ、行ってきます。ニーズ。愛s「ダメだってばw」
モリーヌが背負い袋をくれました。
軽食や寝具に加えて、火付け用具が入っています。
私は、彼女も引っ張り寄せて、一緒に抱き締めてやりました。
そして。
私たちは、不思議な森へと踏み込んだのです。
◆♀◆ 19、城門を抜けて ◆♀◆
ダーリン姉ちゃん、ユリ、私、ツクノーさま。
4人で、月光の道をゆきます。
不気味に静かな森でした。
フクロウの声も、風の音もしない。
道は浅い谷のようになっていて、ジメジメと柔らかく、ブーツの爪先が冷えました。
小さな城はずっと前方に見えていましたが、入り口はだんだん見えづらくなってゆきます。
ついには、黒々とした木々で、完全に遮断されてしまいます。
お嬢さまは、その時までこちらを見ていました。
「足跡です」
城までの距離の、半分ほどを歩いたでしょうか。
ダーリン姉ちゃんが声を上げ、しゃがみ込みました。
「・・・サンダルの跡です。人間の男かと」
「失礼」
私はダーリンの隣に行きました。姉ちゃんが指差す足跡に、鼻を近付けます。
先日、一緒に狩りをしたときに編み出した連携ですね。
「クンクン。──若い男です。風呂入ってない。大勢。新鮮な感じ」
「新しい?」とユリ。「何日ぐらい?」
「うーん・・・半日ぐらいかな」
「陛下の話では、前回の満月じゃったな?」とツクノーさま。
「ああ。軍団兵ならね」とユリ。「ダーリン。入り口からここまで、足跡は?」
「気付きませんでした」
「リア?」
「クンクン・・・ないですね」
不思議なことに。
ここまで歩いてきた道には、足跡がなく、匂いも残っていませんでした。
突然、足跡がハッキリしたのです。
しかも・・・
「だんだん新しくなっていきます」
「うん。匂いも新しくなってる」
・・・城に近付くにつれ、足跡が、急速に新しくなってゆく。
「ただ道を隠しているだけではないな」
ユリが呟きました。
「どんな魔術がかかっているかわからん。みんな、油断するなよ」
「おう」
私たちは、緊張して歩みを進めました。
が。
「・・・何事もなかったのう」
「ここまではね」
私たちは、何の障害もなく、城に着いてしまいました。
小さなお城。
城壁1枚で囲っただけの、石造りの城です。
高さは・・・3階建てマンション程度でしょうか。
1階は、城壁に遮られて見えません。
2階には、細い窓がいくつか。矢狭間ですね。
3階には、バルコニーが突き出していました。
鎧戸は開け放たれて、この世界では珍しいガラスの窓が見えます。
白いカーテンのせいで、室内の様子は見えませんが・・・
「殿下は、あそこか?」
「はやるなよ、侯爵」
「そちこそ、足が前に出ておるぞ」
ユリが剣を、ツクノーさまが黒槍を構えました。
ダーリン姉ちゃんは、私の後ろに下がって、ショートソードを抜きます。
私は、軽く腰を落とすだけです。メイン武器、ネコキックですからね。
それから、匂いをチェックしました。
「おえー」
「なんだ?」
「死体の匂いがします」
「どこから?」
「城門のほうからです、マム」
「わかった。リアとダーリンはそのまま」
ユリとツクノーさまが、城門に向かって前進。
門前まで、何事もなし。
扉は、木と金属の組み合わせ。格子ではないので、中の様子は見えません。
「私が行く」
「身共も『妨害』はできるぞ」
「身軽なのは私だ。ダーリン、縄を掛けろ」
「はい」
ダーリン姉ちゃんが、背負い袋からロープを取り出しました。
数歩走って勢いを付け、城壁に投げます。
ガチャリ!
ロープの先端、金属の鉤手が、胸壁に引っ掛かりました。
ユリが縄を引っ張って確認。
よじ登ります。
初めは綱登り。
門の上にかぶさっている橋まで登ると、壁に足を着いての登攀となります。
「来た」と、ユリが言いました。「呪いが来た」
「眠りの呪いか?」と侯爵。
「うん。繰り返し襲ってくる。これは厄介!」
登攀しながら、呪いを『妨害』して登ってゆくユリ。
その綺麗な形のお尻を見上げて、女侯爵は「・・・見事」と呟きました。
ユリは、登り切りました。
城壁上で向こうを見回して、すぐ、向こう側へ飛びました。
ガラガラガラ・・・ウインチを巻く音。
ゴロ、ゴロ、ゴロ・・・扉が、上にスライドしてゆきます。
ガチャリ! ロックを掛ける音がして、
「入って来い。──あ、建物には触るなよ?」
私たちは、城門をくぐりました。
小さな中庭。
本丸の玄関扉は、すぐそこです。
玄関の扉には、丸いものを叩きつけた凹みが残っていました。
そして、その足元に、丸太が転がっています。
ロープをくくりつけた丸太です。
「即席の破城槌じゃな」
「ダーリン、前。リア、後ろを頼める?」
「はい」「はい」
ダーリン姉ちゃんと私で、ロープを握って、丸太を釣り上げます。
前後に揺らして・・・
「いっせーのーで!」
踏み込んで!
どこーん!! 玄関扉に、ブチ当てます!
要するに、鐘撞きですな。
あれを人力でやるわけです。
メッチャ重労働でした。持つだけで重いわ、揺らすのも大変だわ、当てた衝撃もすごいわで・・・
ダーリンと私が、汗だくになるまで鐘撞きを繰り返して・・・
やっと・・・
ぐわ~ん! ミシミシミシ! と、扉が悲鳴を上げて・・・
次の一撞きで、内側にひしゃげてくれました!
すかさず、ユリとツクノーさまが突入します。
そのまま最上階まで突っ走りそうな勢いでした。
しかし。
ゾンビと、ガイコツが、2人の女の行く手を阻みました。
◆♀◆ 20、ゾンビ軍団兵 ◆♀◆
「死体兵じゃ! 10体!」
「奥に、髑髏老魔、1! 呪文来るぞ!」
爆音!
突入した2人が、炎に包まれました!
その火が消えるよりも早く、ゾンビが入り口に押し寄せて来ます。
ゾンビ──と、言いましたが。
彼らは、生きた人間にしか見えませんでした。
フにゃーリアの鼻が「コイツ死んでる!」と叫ばなければ、私は混乱したと思います。
なんせ、その見た目。王国の軍団兵、そのまんまなので。
黒い髪。日焼けした肌。
ブロンズの兜と鎧。硬い革の籠手と臑当て。足首まで編み上げるサンダル。
四角い盾とショートソードで、肉弾戦に持ち込む戦術。
何もかも、王国の軍団兵のものでした。
最初に斬りつけたのは、ユリです。
火の中から剣が出て、切っ先が閃いて、軍団兵に斬りかかる。
それをショートソードが受け止めて、火花を散らして受け流す。
ユリは勢いを削がれ、刃はブロンズの胸当てを引っ掻くだけに終わりました。
「硬い! 力も・・・強いぞ!」
次は、ツクノーさまです。
黒い槍を振り回して、ゾンビの脛を刈り払います。
ゾンビはスッ転び、横倒しになりました。
「喰らえ、“コノマーズの黒”!」
ツクノーさまは、鋭い突きを撃ち下ろします。
ブロンズを見事に貫いて、ゾンビの胸に大穴を開けました。
ゾンビ軍団兵は、かりそめの生命を失いました。その腕が、バタリと床に落ちました。
ここで、ユリがようやくゾンビの首を落としました。
ユリの剣を二度三度と受け流す敵を、私は初めて見ました。
「・・・ユリ。隣、入る?」
「ダメ! 呪文が来る!」
「了解」
しょうがない。
観戦を続けることにします。
私は奥を見ました。
ゾンビ軍団兵の向こう。登り階段があります。
その階段の途中に、ローブを着たガイコツがいました。
髑髏老魔──ガイコツ魔術師です。
そいつが、ユリが言った通り、次の呪文を唱えました。
「変容セヨ。肌身モ骨モ、石トナレ──石化!」
ピシピシピシ。私の頬っぺたが、ヒビ割れるような音を立てました。
私かい!
私は、フシャーッと尻尾を立てて、反射的に四つん這いになりました。
ガイコツは見えなくなりました。
石化・・・は・・・してないですね!
(ニャんか攻撃された)
フにゃーリアは、カッとなりました。
(殺す!)
敵っぽい → ブチのめす! ──野生のルーチンですね。
相手の正体を見極めるとか、真意を問いただすとか、そんなステップはない。
ブチのめす!
「シャーッ!!」
私はジャンプしました。
ゾンビ軍団兵の頭を飛び越して、柱を蹴ってさらにジャンプ!
空中で身をねじって、ガイコツ魔術師に躍りかかります。
「大気ヨ変容セヨ! 近付ク者ヲ吹キ飛バセ!」
バゴン! 私の顔面を空気が叩きました。
メイドの髪飾り(まだしてた)が吹っ飛び、髪がバラけて暴れます。
しかし。
私には、モリーヌの『鉄身』がある!
「ニ゛ャッ!!」
衝撃を無視。
そのまま右手を繰り出して、ネコパンチでガイコツをブッ叩きます!
ぱこーん! 頭蓋骨、飛ぶ!
髑髏老魔、崩れ落ちる!
「フガーーーッ!」
怒り狂う私。
目の前のダークエルフの美女に、左手でネコパn──
「・・・お見事」
「ごめんニャさい」
──あっぶね。
ダーリン姉ちゃんブッ叩くとこだった。
彼女も、髑髏老魔を倒しに来てたようです。私が横取りしちゃった形ですね。
「上は見ました。増援はナシですわ」
「はい」
私たちは、玄関に向き直りました。
ゾンビ軍団兵は、あと7体ほど。
「ユリ、苦戦してる」
「呪文ナシでやっとるせいです」
そんな私たちに、ゾンビが剣を向けてきます。
「ウチがやりますんで」
「私は?」
「手ェ汚れますで?」
「あー。ほな、任せますわ」
ダーリン姉ちゃんが前に出て、ゾンビを阻みます。
倒す──つもりはないらしい。浅く斬り結び、階段の手すりを盾にして時間を稼いでいます。
その間に、ツクノーさまが1体倒しました。あと6体。
「勇者よ!」
「なんだよ!」
「膝じゃ。膝を撃て」
「・・・ああ!」
ツクノーさまの助言で、ユリが下段攻撃を増やしました。
軍団兵の鎧は、膝から股間がガラ空き。脛当ても革なので。
ツクノーさまの槍はもちろん、ユリの長剣でも、足を狙うほうが効果的なのです。
やがて。
ゾンビ軍団兵は、全滅しました。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
ユリが、珍しく息切れしてます。
音はそれだけでした。1階の広間に、私たち以外の生き物はいなかったので。
そんな広間に。
<またか。勇者よ。貴様の顔にも、飽きてきたぞ>
恐ろしい声が、響きました。
◆♀◆ 21、死霊使い、ふたたび ◆♀◆
「おや、これは・・・はぁはぁ・・・『死霊使い』閣下」
声の出所は、私とダーリンの足元。
髑髏老魔の首にブラ下がっていた、水晶玉でした。
とても生きているとは思えない恐ろしい顔が、水晶玉に浮かび上がって。
ダーリン姉ちゃんを、私を、ジロジロと見つめます。
<メイド。名はなんと言う>
「ウソーリアと申します」
<変容せよ、ウソーリア! すべての人がそうなるように。『老いさらばえよ』!>
「ばーかw」
ユリが、水晶玉にハンカチをかぶせました。
<ぬわっ>
「これでよしと。リア、答えなくていいんだぜ?」
「時間を稼げるかと思って」
<・・・チッ。悪知恵の回るメイドだ>
「光栄ですわ」
「お初にお目にかかる。閣下」ツクノーさまが口を開きました。
「コノマーズの勇士だ」ユリがあいまいな紹介をしました。
<これでは、お目にかかれんのだがな? ボロ切れをどけるように、孤児めに言うてくれ>
ハンカチの下で死霊使いが言いました。
ツクノーさまは黙殺しました。
「身共が来ると、どこで知った?」
<髑髏魔人は、我が手足なれば>
「ここに来るまでに、3つの町のガイコツどもをバラバラにしてきたが、」
<破壊者め。呪われてあれ>
「3つ目の町で、『髑髏大鬼が出た』という話を聞いたのじゃが──」
ツクノーさま。
“コノマーズの黒”で、どすん、と地面を叩いて、
「大鬼、どこに伏せた?」
<クックック>
死霊使いは、恐ろしい笑いを上げました。
<さすがはコノマーズ侯爵よ。孤児やエルフより、話が早い>
「外に伏せたな!」
ツクノーさまは、ユリを見ました。
「勇者よ。外の連中が危険じゃ!」
「くそっ」
ユリは、私を見て・・・
外を見て・・・
階段の上──ネムリタロッカ姫がいるであろう方向を見て・・・
私を見ました。
「リア、ここは任せた!」
「・・・はい!」
ユリは左手でダーリンの手を握って、
「我らは変容する。駿馬のごとく、駆け抜ける!」
──ハンカチをかぶせた水晶玉をかっさらい、風のように舞い戻ってゆきました。
「・・・ゆくとするか」
「外は、よろしいので?」
「言うたであろう。身共の連れは、強いのじゃ」
「かしこまりました」
◆♀◆ 22、眠りの城とは ◆♀◆
私が先に立って、階段を登ります。
「待て待て」
「はい?」
「そち、見えるのか?」
「・・・なにがです?」
「真っ暗じゃのに」
・・・あ、真っ暗なのか。
「気付いてませんでした」
「ネコの目になっとるんじゃな」
「そのようですね」
ランタンを、壁から取りました。
背負い袋から、火付け用具を出します。
油の小瓶も入っていたので、そいつをランタンに補充。
火打ち石を、カチ、カチ。
・・・OK。ちゃんと使えそうです。
「油の量が心もとないのですが」
「急ぐとしよう」
ゴツン、ゴツン。
硬い靴を鳴らして、女侯爵が先に立ちます。
狭い階段を上っ──ゴツン! 槍がぶつかりました。
「狭い!」
「まあ、防衛上ね」
2階に上がりました。
長い廊下が、外壁に沿って、真っ直ぐ伸びています。
矢狭間から、月光が差し込んでいました。
「弓兵のための廊下じゃな」
「そのようで・・・」
私は、月を見上げました。
・・・月は、見上げるほど高い位置にありました。
「閣下。月が」
「ん?」
「月が、進み過ぎではありませんか?」
私たちは、月の出とほとんど同時に、森に入ったのです。
ここまで歩いてくるのに、1時間もかかってません。
なのに・・・
「もう、夜半ではないか!」
・・・月は、中天に差しかかっているのです。
「これは、したり!」
女侯爵は舌打ちしました。
「『眠りの城』とは、おとぎ話の城であったか」
ゴツゴツゴツ! 女侯爵は、早足で歩き始めました。
「おとぎ話?」
「知らぬか? 『ウタラハの天女』という話じゃ」
「・・・いいえ」
一瞬、「浦島太郎みたいな?」って言いそうになったわ。
「北方には伝わっとらんか。まあ、海の国の話じゃからな」
女侯爵は角を曲がりました。
廊下は、やはり真っ直ぐ続いています。
「昔、ある男が、天女を助けてな。その御礼に、海の向こうの宮殿に招かれるのじゃ」
「はい」
「そこで、一月を楽しく過ごし、戻ってみたらば、」
「・・・。」
「なんと! 一生ぶんの時間が過ぎておったのじゃ!」
やっぱ浦島太郎じゃん。
「急ぎましょう!!!」
「うむ。じゃが落ち着け。罠にかかってもいかん」
「あ、はい」
私たちは、角を曲がり、さらに曲がって、突き当たりの梯子にたどり着きました。
私が四つ足で駆け上ります。
上がった先は・・・天井の低い、おかしな通路でした。
天井が極端に低くて、立つことができません。
で、その天井が、格子なのです。
側溝のフタみたいな感じ。あれを、ずっと大きくした感じです。
「私なら、槍兵をここに置いたのじゃが」
「嫌な想像をさせないでください」
「はっはっはw」
侯爵、なぜか、楽しそうです。
声は苦しそうですが。
屈んで歩いてますからね。槍も邪魔になるし、大変そうです。
私? フにゃーリアは四つん這いで歩けますので。
「・・・ときに、フターリア姫」
「はい、ツクノーさま」
「そちの尻尾、どこから生えておるのじゃ?」
「お尻からですが?」
「・・・そうか」
「・・・。」
振り向くと、ツクノーさまは、私のお尻から目をそらしました。
私は、尻尾をペシッと彼女の足に当てました。彼女は、なぜか、ニヤケていました。
窮屈な廊下を、また1周しますと。
最後は、扉に行き当たりました。
半フロアぶんぐらいの階段があって、その上に、鉄の扉です。
「・・・カギは掛かっておらぬ。開けるぞ」
「はい」
私たちは、戦闘を覚悟して扉を開けました。
しかし、向こうにいたのは、敵ではありませんでした。
「──殿下!」
扉の向こうには、ベッドがあって。
可憐な少女が、月明かりの下で、眠っていたのです。
「王女殿下でいらっしゃいますか。この御方が?」
「うむ」
ブレロッケ王国の姫。
私は、初めて見ました。
まっ黒な髪が、白いクッションに広がっています。
青白い胸が、夜着の下で波打っています。薄い絹に、乙女の肌が透けて見えました。
ネムリタロッカ姫。
御歳、13歳。
2年前に魔王にさらわれ、生存は絶望的と思われていた、王位継承者です。
「殿下。目をお覚ましあれ」
ツクノーさまが、兜を脱いで、王女の肩を揺さぶります。
私は、窓辺に移動しました。
白いカーテンの隙間から、外を見ます。
敵の姿、ナシ。満月・・・先ほどと同じような位置。
ひと安心です。
カーテンを開けます。
月光が入って、王女の黒い髪が輝きました。
ベッドに突っ伏しているツクノーさまの髪も・・・
「・・・ツクノーさま!?」
私は、慌てて彼女を揺さぶりました。
ベッドに手を付き、彼女を抱え起こそうとして・・・
ツクノーさまに抱きつくようにして、コテンと眠ってしまったのです。
◆♀◆ 23、クロの夢 ◆♀◆
・・・気が付くと、私は中庭にいました。
大きなお城の中庭です。
遠くに、戦士たちの掛け声が聞こえます。
黒い耳を生やした私は、尻尾をユラユラしながら、高い高い石の壁を回り込みました。
そこに、私の主人がいました。
ご主人さま。
槍を抱えて、泣いています。
私が近付くと、あわてて涙を拭って、
「目にゴミが入ったのじゃ」
と、言い訳をしました。
そして、私を見て。
「クロ? そち、クロではないか!?」
と、叫びました。
はい?
「おお、クロ・・・!」
ご主人さま。
私を抱き締めて、撫で回しました。
若い彼女の胸は、温かくて、ミルクの匂いがしました。
「なんでじゃ。なんでじゃ」
低い声が、私の胸によく響きました。
「ひどいではないか。父上と一緒に死んでしまうなど・・・」
私は・・・
首を伸ばして、ご主人さまの頬っぺたを舐めました。
ぺろ。ぺろ。彼女の涙を舐め取ります。
「クロぉ♥」
ご主人さまは、壁際に座りました。
胸元に私を抱いて、私の頭に顎を乗せて、話し始めます。
「私はな。やはり、槍の才能なんて、ないのじゃ・・・」
ご主人さまの手が、私の頭を撫でます。
私は、ネコ耳を倒して、歓迎しました。
気持ちいい・・・。
見上げると、彼女が見下ろしてきます。
私が目を細めると、彼女も目を細めました。
「母に習うた魔術なら、うまくやれるんじゃがのう」
ご主人さま、ため息。
「コノマーズの頭がこれではと、先生にもガッカリされる始末でな」
首を振って・・・
「もう、生きてゆくのが、つらいのじゃ・・・」
私はご主人さまを見つめました。
目を合わせてくれません。
私は首を伸ばして、フンフンと鼻を鳴らして、彼女の顔を探りました。
「なぁ」
ご主人さまは、顔を背けたまま、訊いてきました。
「そちの所に、行ってはダメか?」
すると。
ダブルネコパンチが、彼女の顔に入りました。
両前足を押しつけ、伸びするみたいに、押し返します。
「むぎゅー」
ツクノーさまは、苦笑しました。
「ダ・・・ダメか・・・!」
ツクノーさまは、あらためて私を抱き締めて、首筋をこすりつけてきました。
私は頬っぺたでそれを受けました。
クロが自分の首筋や後頭部を彼女にこすりつけました。
「じゃあの」
ツクノーさまは、立ち上がります。
「死ぬまでは、こっちで頑張ってみるわい」
“コノマーズの黒”を、握り直して。マントを翻して、歩み去りました。
私もそうしました。
振り向くと、クロはネコ正座で見送っていました。
◆♀◆ 24、眠りの夢 ◆♀◆
私たちは、お城に入りました。
重たい砲撃の音がします。
ツクノーさまは、王女殿下のお部屋に入って、お茶の席に着きます。
私は、お茶を淹れて、お出ししました。
また砲撃の音がしました。
さざ波の立ったお茶を、ツクノーさまは、持ち上げました。
「姫。心配はいらぬ。この城は落ちぬ。勇者もこちらに向かっておるそうじゃし」
姫は、カップには手を付けず、波を見つめています。
「ツクノーさま」
「なんじゃ?」
「こんなことをして、何になるのでしょう?」
「こんなこと?」
「魔王にあらがって、私たちを守って・・・何百人も、戦士が死ぬ。むなしいことではありませんか」
「・・・そのようなこと、戦士の前では、仰らぬがよい」
ツクノーさまはカップで唇を隠しました。
私からは、彼女のお茶が揺れているのが見えました。
「姫。我らはな。魔王のヤツめが、気に喰わんのじゃ」
「気に喰わぬ?」
「魔王は、強い。アスカリアの勇者ですら、1人では太刀打ちできぬという」
カチン。
ツクノーさまは、カップを置きました。
「じゃから、従わざるを得ぬ──などというのは、不快極まりないことじゃ」
「・・・。」
「我らの祖先は、みずから王を選び、この王国を築いたのじゃ。話し合いもし、殺し合いもしてな」
「はい」
「そうして築いたこの祖国。魔王なんぞに手出しされるなぞ、死んでもゴメンじゃ」
「ですが・・・」
「なんじゃ?」
「私と父母の首、3人を差し出すだけで、戦士が救われ、みなが自由になれるのなら──」
「バカおっしゃい!」
ツクノーさまは、姫を叱りました。
「みずから王と定めた御方を、生贄に差し出すじゃと? それが、自由な人間のすることか」
「・・・。」
姫は、立ち上がりました。
「・・・私は、疲れました。もう、床につくことにします」
姫はベッドに向かいました。
豪華なベッドです。向こう側には、バルコニーが見えました。
カーテンは開いていて、月光が差し込んでいました──西の空の向こうから。
私は、姫の腕を掴みました。「ネムリタロッカさま。いけません」
「何をするのです? 放しなさい」
「クロ」侯爵が立ち上がりました。「手を放せ。無礼じゃぞ」
「いいえ。いいえ」
私は、手に力を込めました。
柔らかな少女の腕に、私の長い指が食い込みました。
「痛っ・・・」
「こりゃ! 身共に、そちを手打ちにさせる気か!」
「侯爵! お月さまを見てください」
「月じゃと・・・?」
バルコニーから差し込む月の光は、じわり、じわりと、西の地平に沈んでゆきます。
「・・・いかん!」
ツクノーさまは、私に同調しました。
もがく王女の、もう一方の腕を掴みます。
「ネムリタ。起きるのじゃ。父君の元に帰るのじゃ」
「いや。いや」
王女は顔を背けました。
「兄も、戦士たちも、死にました。陛下も、母も、死ぬのです。ですから私も、もう、このまま・・・!」
「そなたの父君は、まだ生きておいでじゃ」
「いずれ死にます! 魔王に殺されて・・・」
「魔王は封印された」
「え?」
ネムリタロッカ姫は、もがくのをやめました。
「本当ですか?」
「本当じゃ」
「でも・・・魔王は、消し去ることができないと、陛下が仰っていました」
「そうじゃ」
ツクノーさまは、姫の肩を撫でて、落ち着かせました。
「じゃから、勇者と陛下の戦士たちは、封印を選んだのじゃ」
・・・あれ?
これ、もしかして、すごい機密情報では?
私は『勇者が魔王を倒した』としか聞いてませんよ。
「そうでしたか・・・」
王女は、肩の力を抜きました。
強張っていた表情がほぐれました。
「では、戦士たちも?」
「うむ。もう魔王に殺されてはおらぬぞ。残党を蹴散らしておるのじゃ」
「おお・・・!」
「これから先。未来。我らがどうなるかは、わからぬ。じゃが──」
ツクノーさまは、王女の髪を撫でました。
「──御身が戻れば、我らは喜ぶ。それは、間違いのないことじゃ」
「わかりました」
ネムリタロッカ王女は、ほほえみました。
とても美しい笑顔でした。
「私は、目を覚ますことにします!」
その時でした。
フにゃーリアの鼻が、ネットリとした甘い香りを嗅ぎつけたのは。
「何か来ます。ベッドの下!」
「敵か!」
ツクノーさまが、王女をかばいます。手を伸ばしました。
“コノマーズの黒”が飛んできて、その手に収まりました。
すげえ! ルーク・スカイウォーカーみたい。
夢の中だけの特典かな?
ベッドの下から、何かが現れました。
ヌルヌルと・・・
うねくりながら・・・
透き通った、太い、ツタのようなものが・・・私たちに手を伸ばしてきました。
見るからにいやらしい、粘っこい汁を垂らしながら・・・
その姿は、まるで・・・
エロ触手ですわ。完全に。
◆♀◆ 25、vs エロ触手 ◆♀◆
エロ触手。
フターリアの太腿(わりと太いです)ぐらいある、透明な触手です。
数は・・・8本か。
私たちに、襲いかかってきました!
ツクノーさまが槍を振るって、右、左! 2本を叩き落とします。
なおも王女を狙う触手が1本。これを身体を張って防ぎました。
触手が、彼女の女体に絡みつきます。
ベチャリ・・・!
武家らしい、飾りのない正装が、粘液に穢されました。
背中を回って、脇腹から胸へ、いやらしく触手が巻き付きます。
成熟した女体のふくらみが、ムッチリと搾り上げられました。
「むむ・・・!」
残る5本が、王女に殺到します。
王女はとっさに身を投げ出し、私の足元に伏せました。
いい判断ですが・・・
そのせいで、私が狙われることになりました。
「フシャー!」
私はネコパンチで1本を弾き、サイドキックでもう1本を弾きました。
が、続くネコパンチは空振り。
低い姿勢のフにゃーリアよりずっと低く触手が飛んできて、ヌルリと、股の間に入られました。
そいつが、波打つようにハネ上がって。
ベチャ! スカートのお尻を、叩きました。
「ふぎゃ!?」
尻尾が折れた! 痛い!
立ちすくんだ私の股に、触手が這い登ります。
スカートをベロリとめくり返され、尻尾の付け根に絡みつかれる。
ヌルリッ・・・! と、舐め上げられました。
「に゛ゃあん♥」
あ、ダメだこれ。
スイッチ入りました。
フにゃーリアのニャンニャンスイッチ。ONになってしまいました!
「クロ!」
ツクノーさまが手を伸ばしてきました。
届きません。
尻尾を舐められてのけ反ったフにゃーリア。
2本目の触手に、胴体を巻き上げられます。左腕が巻き込まれました。
3本目が右手に絡みつきました。
4本目に首を締め上げられました。ヌチャリと生暖かい粘液が、メイド服の胸元に垂れ落ちます。
そいつの先端が、唇に迫ってきました。
きたない!!!
エロ触手なんですがね?
エロいイラストとかで見る分には、気になりませんけどもね?
実際にやられると、「汚い!」ってなるんですわ。
オマエいま床這って来ただろ! 唇にくっつくんじゃねえ!
マジでやめろ!!!
もがくフにゃーリア。
ですが、どうにもなりません。
エロ触手。太くて強くて、ヌルッヌル。
力で敵わん上に、滑りまくる。
強い・・・!
「あニャッ♥ やめっそこっうニャッ♥」
ヌルヌルと全身を撫で回されて、フにゃーリアは悲鳴を上げました。
5本目の触手が、スカートの中にグイグイ入ってきます。
こうなるとメイド服は弱い。
ワンピースなので・・・!
すでに股間と尻尾に絡みついている触手を乗り越え、さらに上へ。
お腹を舐め回し、帯の下を強引にくぐって、ブラジャーへ。
フにゃーリアのデカパイに。
生ぬるい触手。熱くもなく、冷たくもなく、ちょうど気持ちいい温度なのが、腹立ちます。
全身がヌラヌラと穢されてゆくのに、変に気持ち良くて・・・
力が抜けてしまうのです・・・!
「あ・・・ふぁ・・・♥」
フにゃーリアは、ズルズルと、ベッドに引きずり込まれます。
右手で絨毯にしがみついたのですが、爪の痕が残るだけでした。
ベッドの上で、大の字にされて。
本格的に、嬲られ始めました。
メイド服が乱れてゆきます。
フにゃーリアの女性器が熱を持ち、溶け始めたのがわかります。
だからチョロすぎだって!
「クロ!」
「クロさま。ダメです。こいつらに気を許しては。これらは、いつも、私を・・・!」
「ふにゃ?」
「私を淫らな眠りに引きずり込むのです。目を覚まそうと決意するたびに・・・」
「さては、これが呪いの正体か!」
「にゃぁっ・・・!」
暴れるうちに、ブラジャーの肩紐がズレました。
左の乳房からブラジャーが浮きます。
触手がそれを察知。
ブラジャーの中に・・・乳房に、ヌルッヌルの触手が、滑り込みました。
ヌルリヌルリと乳揉みされ、ついでみたいに乳首がこじくり倒されます。
「ふあっ・・・くそ、コイツ・・・ふにゃぁあ♥」
「おのれ」
ツクノーさまは、2本の触手に絡まれています。
その状態で、何とか右手を伸ばしました。
ネムリタロッカ姫が、床に転がる“コノマーズの黒”を拾って、渡そうとしたところで。
「あっ・・・!?」
彼女の足首にも、触手が巻き付きました。
つんのめって倒れる姫。
触手はすかさず、彼女の、羅紗のスカートの中に、突入します。
「あっ・・・あ、ああっ・・・!」
叫んで、王女はスカートを抑えました。
しかし勝ち目はありません。ツクノーさまやフにゃーリアでもダメな敵です。王女に止めれるワケがない。
厚手のスカートの中で、ヌタリヌタリと触手が動くのが見えました。
その膨らみが下腹に達すると、王女の声が、明らかに淫らになりました。
「ああン・・・! いやぁっ・・・♥」
王女は髪を振り乱して、喘ぎました。
涙ぐみながら・・・
自分のカラダを守ろうとするのをやめて、槍に、手を向けました。
掴んだ!
そして、ツクノーさまの右手に向かって、投げます。
せいぜい足元にしか届かない、弱々しい投擲でしたが・・・
槍は。
またしても、不思議に飛んで、ツクノーさまの手に収まりました。
女侯爵は、その槍をクルリと回して・・・
「変容せよ、“コノマーズの黒”! 穢れを祓い、淫魔を断ち切る刃となれ!」
・・・呪文を唱えて、突き立てました!
すると。
ジュッ! と、触手に穴が開いたではありませんか!
穴は、そのまま広がり続け・・・ついに、その触手を分断しました。
力を失った先端が、侯爵の乳房から滑り落ちます。
「セイヤ!」
ベトベトの粘液を垂らながら、侯爵はもう1本の触手を断ちます。
侯爵は自由になりました。
あとは独壇場です。
王女を襲う触手を断ち、ベッドに駆け寄って、フにゃーリアを陵辱する触手を次から次に仕留めてくれました。
「ふニャー・・・♥」
「クロ。しっかりせよ」
「はい・・・」
私は、最高に気持ちのいいお湯から立ち上がるようにして、起き上がりました。
侯爵が私を抱き起こし、さらに王女も助け起こします。
「ハァ、ハァ。一刻も早く、起きねばならぬ」
彼女は、息を切らせて言いました。
「見よ。もう、月が沈みそうじゃ」
その言葉通り。
バルコニーの向こうの月は、いまにも沈みそうです。
「ですが、どうすればよいのです?」
王女が喘ぎました。
「目を覚ますということが、どういうことなのか、私は忘れてしまいました」
「なんじゃと」
「もうずっと、魔王にさらわれてから、ずっと眠っているので・・・」
ここに至って。
私は、確信しました。
お嬢さまがかけてくれた『おまじない』を使うのは、いまだと。
「御二方。まずは、ベッドから離れましょう」
3人で支え合って立ち上がり、バルコニーに出ます。
「おまじないをやってみますね」
「まじないじゃと?」
「どんなおまじないです?」
「目覚めのまじない・・・らしいです。私に掴まっていてくださいね」
「う、うむ」
私は、ニッコリと笑って、息を吸い込んで、
「ニーズ! 愛してますぅ~!!!」
絶叫しました。
「は?」
「なんと?」
お二人は、反応に困ったようでした。
◆♀◆ 26、脱出 ◆♀◆
「むニャ・・・」
冷たい石の床から、私は顔を起こしました。
見回すと。
隣にツクノーさまが。
反対側にネムリタロッカさまが、突っ伏していました。
場所は、バルコニーです。
周囲を確認しました。
触手はいません。
月は・・・
月は、半分ほど、森の陰に沈んでいました。
「ツクノーさま!」
「んむ・・・」
「月が沈みます。お早く!」
「む!」
女侯爵は一気に覚醒し、バッと手を伸ばしました。
まるで飛んできたように、“コノマーズの黒”がその手に収まります。
転がっていた兜をかぶり直して、彼女は立ち上がりました。
「フターリアよ、王女を運べるか?」
「よいしょ・・・」
私は背負い袋を前にして、王女を背負いました。
殿下は、まだお目覚めになりません。しかし「んむ・・・」と呻いており、覚醒は近そうです。
「・・・なんとか!」
「よし、ゆくぞ」
天井の低い通路を抜け、矢狭間の廊下を走って、階段にたどり着きます。
王女を背負う私は汗びっしょりです。足がガクついて、歩けなくなってきました。
「交代じゃ。クロを頼む」
「はい」
今度はツクノーさまが王女を背負い、私が槍を預かりました。
階段を降りて、1階の大広間へ。
私が先に出て外をチェック。敵ナシ。戻ってツクノーさまを助けます。
と、ここで。
ゴゴゴゴ、と、城が揺れ始めました。
カコン! 私の頭に、石が当たりました。
「いてっ」
見上げると。
城を構成する石材と木材が、バラバラになって、私たちに降り注いでくるところでした。
「フにゃー!!?」
私は、王女殿下のお尻を押しました。
ツクノーさまも必死で走ります。
しかし、自由落下のほうが、当然速い!
私たちの頭上に、巨大な石材が落ちて来て・・・
ガキッ! と、私が握っていた槍が、弾け飛んで・・・
侯爵と私は、王女もろとも倒れ込んで・・・
ものすごい轟音と共に、城が崩れ落ちました。
私と侯爵の爪先の、ほんの1尋ほど後ろで。
私と侯爵は王女を抱き上げ、こけつまろびつ、城門を抜けました。
その城門も、私たちの後ろに崩れ落ちました。
「はひっ、はひっ・・・こ、侯爵、御無事ですか」
「はぁ、はぁっ・・・御無事じゃ。殿下も、身共もな」
侯爵は、汗だくの顔で、ニヤリと笑いました。
「言うた通りになったわ」
「・・・何がです?」
「“コノマーズの黒”が、殿下を救ってくれたぞ」
彼女の指差す先。
崩れた城の残骸の中に、黒い槍の一部が見えました。
「さっき、何かがぶつかって・・・」
「うむ。身共は見たぞ。落ちてくる石に、槍がつっかえたのじゃ。それで、間に合うた」
「おお・・・!」
私はひれ伏しました。
「申し訳ございません。侯爵閣下。大切な槍を!」
「馬鹿なことをするでない。時間がないのじゃ。立て。走れ」
「はい」
私と侯爵は、眠れる姫を抱き抱え、ヒィヒィ言いながら森を走りました。
どう考えても、間に合わない苦行でした。
そして、案の定。
半分も進まないうちに、月は無情にも、西の空に沈んでしまったのです。
◆♀◆ 27、覚えておるか? ◆♀◆
「・・・フターリアよ」
「・・・はい」
私たちは、木のウロの中に、ぼんやりと座っていました。
侯爵が王女を抱いて、私に頭をもたせかけています。
満月の夜は、終わってしまいました。
朝がやって来たのです──外の世界にだけ。
私たちを、日の差さない森に置き去りにして。
月光が去ると共に、道は消え失せました。
歩く隙間もないほどに密集した樹木によって、城壁よりも強固な壁ができあがりました。
私と侯爵は、もちろん、道を探しました。
しかし、フにゃーリアの鼻をもってしても、何も見つけられませんでした。
私はパニックになりました。
侯爵は私をなだめ、私が言うことを聞かないとわかると、キレました。
放せ! 放さぬ! と怒鳴り合い、ついに引っ掻き合いになりかけたとき。
ネムリタロッカ王女が目を覚まして、
「ごめんなさい・・・」
と、仰ったのです。
「私を救おうとしてくれたばかりに、お二人が、危険な目に・・・」
この一言で、私と侯爵は争うのをやめました。
手近な古木にあったウロの中に3人で入って、とにかく、王女を休ますことにしたのです。
「・・・そち、覚えておるか?」
「・・・何をです?」
私は、侯爵を見ました。
彼女は、うつむき加減に私を見ていました。頬が赤くなっています。
あー。夢の話ね?
「あー、はい。いいえ。なにも・・・」
私はそう答えました。
侯爵はガッカリしたようでした。
私は、黒い髪とネコ耳を、彼女の頬にこすりつけました。
「ふふ・・・w」
侯爵は、私の頭を撫でました。
静かに時が流れてゆきます。
私は、お嬢さまのことを考えて、ため息をつきました。
侯爵も、ため息をつきました。
王女は、また眠りに落ちました──咳をし、震えながらです。
侯爵がマントをかけ、左右から私たちが抱き締めて、温めているのですが・・・震えは収まりませんでした。
「栄養失調かも知れぬ」
「あ、食べるもの、あったハズです」
ありました。
モリーヌが持たせてくれた食料。
ほんの少しだけ、王女に食べさせてみました。
少し顔色が良くなったようでした。
「火を起こせないか、やってみます」
「うむ」
私は、四つん這いで移動して、ウロから頭を出しました。
下半身はウロの中に残しておきます。なんか、完全に出たら戻れない気がしたので。
左右を見回します。
乾燥した枝・・・
ないですね。
どこもかも冷たく湿っていて、腐りかけの枝しか見当たりません。
上はどうかな?
見上げると。
トラがいました。
◆♀◆ 28、日差さぬ森のトラ ◆♀◆
えーと。
私の真上に、トラがいます。
黒いトラです。ブラックタイガーです。エビじゃないですよ?
ネコなら『キジトラ』かな? ダークグレイと黒のシマシマです。
・・・あ、フにゃーリアと同じ色ですね。
えー・・・そのキジトラのトラにですね。
虎視眈々と、狙われているわけですが。
「こんにちは。お姉さん」
私は、あいさつしました。
声になってなかったかも知れません。侯爵が反応しませんでしたからね。
「お邪魔しております。えー・・・もしかして、ここは、御身のお家でしたでしょうか?」
「・・・。」
トラは、まばたきしました。
ペロリ。舌を出して、軽く舌なめずりしました。
ぶおん・・・!
私を飛び越して、音もなく向こうに着地しました。
「・・・!!」
悲鳴を上げなかった私のこと、褒めてもらっていいですよ。
さて・・・。
キジトラのトラさんですが。
のっし、のっし、のっし。三歩進んで。
のそっ・・・と、こちらを振り向きました。
「なんでしょう?」
「どうしたのじゃ」
侯爵が出てきました。
トラを見て、私と同じように絶句しました。
トラは、侯爵を見て、私を見て。
のっし、のっし、のっし。と、また三歩進んで。
のそっ・・・と、振り向きました。
「なんでしょうかね?」
「『ついて来い』と言うておる」
「は?」
「あれは『我に付いて来い』の意味じゃ」
「ホントですか?」
「クロが飯を催促するとき、ああやったモンじゃ」
侯爵は取って返して王女を抱き上げ、ウロから出ました。
「こ、侯爵?」
「ゆくぞ。ここに居ったところで、望みはないのじゃから・・・」
私たちは、キジトラのトラに従って歩き始めました。
分厚い樹木の壁を──私たちには『壁』にしか見えない樹木の中を。
キジトラのトラは、スルスルと進んでゆきました。
しばらく歩いたところで。
彼女(?)が止まりました。
ネコ正座して、フン、と顎をしゃくります。
「あっちへゆけと言うておる」
「藪しかないのですが?」
「まあ、行ってみよ。ここまで導いてくれた御ネコ様じゃもの」
「トラですが?」
私は、ブツブツ言いながら、藪に鼻面を突っ込みました。
ビシバシ。
枝が当たります。
幸い、『鉄身』の効果が続いているようで、枝をヘシ折って突っ込むことができました。
首を振りながら、強引に進みます。
ずぼっ。顔が、外に出ました。
眩しい!
目が眩んで、何も見えません!
──でも、音は聞こえました。
「リアっ!!!」ユリの声です!「リアだ。リアが出てきた。みんな、こっちだ!」
私は、ユリに引きずり出されました。
眩しい光の正体は、日光でした。冬の空に昇ったお日さまです。
背中が一気に温かくなって・・・涙が出てきました。
「ファリア・・・」
フラフラと近付いてくるお嬢さまも、涙を浮かべていました。
「あ、どうも。遅くなりました」
「・・・!」
飛び付いてきたお嬢さまを、私は受け止めました。
「助かりましたよ。おまじない」
「・・・!!」
お嬢さまはガクガクうなずくだけで、声が出ません。
モリーヌもやって来たので、引っ張って抱き寄せました。
「心配かけたね」
「本当に・・・よく、お戻りになられました」
ユリとダーリン姉ちゃんが、王女殿下を担架に乗せました。
殿下はほとんど意識がないようでしたが、ちょっとだけ目を開いて、
「ありがとう、ツクノー。クロ」
と、私たちに声をかけて下さいました。
まこと立派な王女っぷりです。私は感服しました。
・・・ただですね。
その後に、ユリの顔を見上げて、
「アスカリアの勇者さま。お会いしとうございました・・・!」
と、目を潤ませて話しかけていたのは、非常に頂けないですがね!
「・・・ファリア?」
「あ、はい」
「クロって、なに?」
「ああ。とあるネコの名前ですよ」
私は、そう答えて。
「やはり、覚えておるではないか!」
侯爵に肩をつつかれるのでした。