※この作品はR-18です。

TSゆりフタ令嬢侍女メイド!   作:min(みならい)R18

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ネムリタロッカ姫

◆♀◆ 18、城、あらわる ◆♀◆

 

 満月の光が差してきました。

 その冷たい光が、目の前にそびえ立つ森に当たります。

 すると。

 真っ黒な壁のように、分厚かった森が・・・

 氷が溶けるように、ゆるんで、左右に開いて、穴が空いて・・・

 

 小さなお城が、見えてきたではありませんか!

 

「わーお・・・」

「5町というところか?」

「ああ。十分行き来できる距離だね」

 ボケーとしている私の隣で、女侯爵ツクノーさまとユリが目測を立てます。

 で、ユリは私を見ました。

「──リア。ホントに来る気か?」

「行きます」

「ん」ユリはうなずきました。

 

「ファリア」

「はい、お嬢さま」

「おまじないをしておくわ」

「おまじない?」

 バリバリの魔術師であるお嬢さまが、『おまじない』とか言ってますが・・・?

 首を傾げる私に、お嬢さまは手をかざして、

 

「みずから言葉を唱えたら、変容せよ、フターリア。淀みを抜けて、流れに戻れ──目を覚ませ!」

 

 さあ、どこが変わるのかな!?

 

 私は自分の身体を見下ろしました。

 でっかい胸。長い手足。メイド服。尻尾(黒とダークグレイのシマシマ)。

 

 ・・・いつものフにゃーリアですが?

 

「なにが変わったのです?」

「いまは何も」

「ん?」

「目覚ましのまじないよ。合い言葉を唱えると、夢から覚めれるの」

「・・・あ、『眠りの城』対策ですか!」

「そうよ」

 お嬢さまは、私の肩を掴んで、背伸びをしました。

 唇を近付けてきます。

 可愛い唇。冬の空気で、少し荒れていらっしゃる・・・

 みんなの前で・・・大胆!

 などと、ドキドキしたのですが。

 キスではなく、耳元で囁くだけでした。

「合い言葉は、こうよ──」

 

「ニーズ愛してますぅ~!」

 

「・・・。」

 どう反応しろというのか?

 

 お嬢さまは、ニッコニコです。

 ハーフエルフの美少女さん。愛情と期待に満ちた目で、私を見上げています。

 喜べってことですね。

「おお・・・! ありがとうございます」

「忘れちゃダメよ?」

「もちろん。この合い言葉なら、忘れる心配はありませんわ!」

「でしょ!」

 お嬢さま、ご満悦です。

「ですが・・・私が唱えて、効果あるのですか? 『発動』からっきしの私が」

「大丈夫よ。合い言葉は、ただの言葉だから」

「そっか」

「あなたが自分で唱えるのよ? あと、1回限りだから、試したりしちゃダメよ?」

「1回限り。わかりました」

 私は、小さくて可愛らしい乳姉妹を見下ろして、ガッと抱き締めました。

「・・・じゃ、行ってきます。ニーズ。愛s「ダメだってばw」

 

 モリーヌが背負い袋をくれました。

 軽食や寝具に加えて、火付け用具が入っています。

 私は、彼女も引っ張り寄せて、一緒に抱き締めてやりました。

 

 そして。

 私たちは、不思議な森へと踏み込んだのです。

 

◆♀◆ 19、城門を抜けて ◆♀◆

 

 ダーリン姉ちゃん、ユリ、私、ツクノーさま。

 4人で、月光の道をゆきます。

 

 不気味に静かな森でした。

 フクロウの声も、風の音もしない。

 道は浅い谷のようになっていて、ジメジメと柔らかく、ブーツの爪先が冷えました。

 

 小さな城はずっと前方に見えていましたが、入り口はだんだん見えづらくなってゆきます。

 ついには、黒々とした木々で、完全に遮断されてしまいます。

 お嬢さまは、その時までこちらを見ていました。

 

「足跡です」

 城までの距離の、半分ほどを歩いたでしょうか。

 ダーリン姉ちゃんが声を上げ、しゃがみ込みました。

「・・・サンダルの跡です。人間の男かと」

「失礼」

 私はダーリンの隣に行きました。姉ちゃんが指差す足跡に、鼻を近付けます。

 先日、一緒に狩りをしたときに編み出した連携ですね。

「クンクン。──若い男です。風呂入ってない。大勢。新鮮な感じ」

「新しい?」とユリ。「何日ぐらい?」

「うーん・・・半日ぐらいかな」

「陛下の話では、前回の満月じゃったな?」とツクノーさま。

「ああ。軍団兵ならね」とユリ。「ダーリン。入り口からここまで、足跡は?」

「気付きませんでした」

「リア?」

「クンクン・・・ないですね」

 不思議なことに。

 ここまで歩いてきた道には、足跡がなく、匂いも残っていませんでした。

 突然、足跡がハッキリしたのです。

 しかも・・・

「だんだん新しくなっていきます」

「うん。匂いも新しくなってる」

 ・・・城に近付くにつれ、足跡が、急速に新しくなってゆく。

「ただ道を隠しているだけではないな」

 ユリが呟きました。

「どんな魔術がかかっているかわからん。みんな、油断するなよ」

「おう」

 私たちは、緊張して歩みを進めました。

 

 が。

 

「・・・何事もなかったのう」

「ここまではね」

 

 私たちは、何の障害もなく、城に着いてしまいました。

 

 小さなお城。

 城壁1枚で囲っただけの、石造りの城です。

 高さは・・・3階建てマンション程度でしょうか。

 1階は、城壁に遮られて見えません。

 2階には、細い窓がいくつか。矢狭間ですね。

 3階には、バルコニーが突き出していました。

 鎧戸は開け放たれて、この世界では珍しいガラスの窓が見えます。

 白いカーテンのせいで、室内の様子は見えませんが・・・

 

「殿下は、あそこか?」

「はやるなよ、侯爵」

「そちこそ、足が前に出ておるぞ」

 ユリが剣を、ツクノーさまが黒槍を構えました。

 ダーリン姉ちゃんは、私の後ろに下がって、ショートソードを抜きます。

 私は、軽く腰を落とすだけです。メイン武器、ネコキックですからね。

 それから、匂いをチェックしました。

「おえー」

「なんだ?」

「死体の匂いがします」

「どこから?」

「城門のほうからです、マム」

「わかった。リアとダーリンはそのまま」

 

 ユリとツクノーさまが、城門に向かって前進。

 門前まで、何事もなし。

 扉は、木と金属の組み合わせ。格子ではないので、中の様子は見えません。

 

「私が行く」

「身共も『妨害』はできるぞ」

「身軽なのは私だ。ダーリン、縄を掛けろ」

「はい」

 ダーリン姉ちゃんが、背負い袋からロープを取り出しました。

 数歩走って勢いを付け、城壁に投げます。

 ガチャリ!

 ロープの先端、金属の鉤手が、胸壁に引っ掛かりました。

 ユリが縄を引っ張って確認。

 よじ登ります。

 初めは綱登り。

 門の上にかぶさっている橋まで登ると、壁に足を着いての登攀となります。

「来た」と、ユリが言いました。「呪いが来た」

「眠りの呪いか?」と侯爵。

「うん。繰り返し襲ってくる。これは厄介!」

 登攀しながら、呪いを『妨害』して登ってゆくユリ。

 その綺麗な形のお尻を見上げて、女侯爵は「・・・見事」と呟きました。

 

 ユリは、登り切りました。

 城壁上で向こうを見回して、すぐ、向こう側へ飛びました。

 

 ガラガラガラ・・・ウインチを巻く音。

 ゴロ、ゴロ、ゴロ・・・扉が、上にスライドしてゆきます。

 ガチャリ! ロックを掛ける音がして、

「入って来い。──あ、建物には触るなよ?」

 

 私たちは、城門をくぐりました。

 小さな中庭。

 本丸の玄関扉は、すぐそこです。

 

 玄関の扉には、丸いものを叩きつけた凹みが残っていました。

 そして、その足元に、丸太が転がっています。

 ロープをくくりつけた丸太です。

 

「即席の破城槌じゃな」

「ダーリン、前。リア、後ろを頼める?」

「はい」「はい」

 ダーリン姉ちゃんと私で、ロープを握って、丸太を釣り上げます。

 前後に揺らして・・・

「いっせーのーで!」

 踏み込んで!

 

 どこーん!! 玄関扉に、ブチ当てます!

 

 要するに、鐘撞きですな。

 あれを人力でやるわけです。

 メッチャ重労働でした。持つだけで重いわ、揺らすのも大変だわ、当てた衝撃もすごいわで・・・

 ダーリンと私が、汗だくになるまで鐘撞きを繰り返して・・・

 やっと・・・

 ぐわ~ん! ミシミシミシ! と、扉が悲鳴を上げて・・・

 次の一撞きで、内側にひしゃげてくれました!

 

 すかさず、ユリとツクノーさまが突入します。

 そのまま最上階まで突っ走りそうな勢いでした。

 しかし。

 

 ゾンビと、ガイコツが、2人の女の行く手を阻みました。

 

◆♀◆ 20、ゾンビ軍団兵 ◆♀◆

 

「死体兵じゃ! 10体!」

「奥に、髑髏老魔、1! 呪文来るぞ!」

 

 爆音!

 突入した2人が、炎に包まれました!

 その火が消えるよりも早く、ゾンビが入り口に押し寄せて来ます。

 

 ゾンビ──と、言いましたが。

 彼らは、生きた人間にしか見えませんでした。

 フにゃーリアの鼻が「コイツ死んでる!」と叫ばなければ、私は混乱したと思います。

 なんせ、その見た目。王国の軍団兵、そのまんまなので。

 黒い髪。日焼けした肌。

 ブロンズの兜と鎧。硬い革の籠手と臑当て。足首まで編み上げるサンダル。

 四角い盾とショートソードで、肉弾戦に持ち込む戦術。

 何もかも、王国の軍団兵のものでした。

 

 最初に斬りつけたのは、ユリです。 

 火の中から剣が出て、切っ先が閃いて、軍団兵に斬りかかる。

 それをショートソードが受け止めて、火花を散らして受け流す。

 ユリは勢いを削がれ、刃はブロンズの胸当てを引っ掻くだけに終わりました。

「硬い! 力も・・・強いぞ!」

 

 次は、ツクノーさまです。

 黒い槍を振り回して、ゾンビの脛を刈り払います。

 ゾンビはスッ転び、横倒しになりました。

「喰らえ、“コノマーズの黒”!」

 ツクノーさまは、鋭い突きを撃ち下ろします。

 ブロンズを見事に貫いて、ゾンビの胸に大穴を開けました。

 ゾンビ軍団兵は、かりそめの生命を失いました。その腕が、バタリと床に落ちました。

 

 ここで、ユリがようやくゾンビの首を落としました。

 ユリの剣を二度三度と受け流す敵を、私は初めて見ました。

「・・・ユリ。隣、入る?」

「ダメ! 呪文が来る!」

「了解」

 しょうがない。

 観戦を続けることにします。

 私は奥を見ました。

 ゾンビ軍団兵の向こう。登り階段があります。

 その階段の途中に、ローブを着たガイコツがいました。

 髑髏老魔──ガイコツ魔術師です。

 そいつが、ユリが言った通り、次の呪文を唱えました。

 

「変容セヨ。肌身モ骨モ、石トナレ──石化!」

 ピシピシピシ。私の頬っぺたが、ヒビ割れるような音を立てました。

 

 私かい!

 

 私は、フシャーッと尻尾を立てて、反射的に四つん這いになりました。

 ガイコツは見えなくなりました。

 石化・・・は・・・してないですね!

 

(ニャんか攻撃された)

 フにゃーリアは、カッとなりました。

(殺す!)

 

 敵っぽい → ブチのめす! ──野生のルーチンですね。

 相手の正体を見極めるとか、真意を問いただすとか、そんなステップはない。

 ブチのめす!

 

「シャーッ!!」

 私はジャンプしました。

 ゾンビ軍団兵の頭を飛び越して、柱を蹴ってさらにジャンプ!

 空中で身をねじって、ガイコツ魔術師に躍りかかります。

 

「大気ヨ変容セヨ! 近付ク者ヲ吹キ飛バセ!」

 

 バゴン! 私の顔面を空気が叩きました。

 メイドの髪飾り(まだしてた)が吹っ飛び、髪がバラけて暴れます。

 しかし。

 私には、モリーヌの『鉄身』がある!

「ニ゛ャッ!!」

 衝撃を無視。

 そのまま右手を繰り出して、ネコパンチでガイコツをブッ叩きます!

 ぱこーん! 頭蓋骨、飛ぶ!

 髑髏老魔、崩れ落ちる!

「フガーーーッ!」

 怒り狂う私。

 目の前のダークエルフの美女に、左手でネコパn──

「・・・お見事」

「ごめんニャさい」

 ──あっぶね。

 ダーリン姉ちゃんブッ叩くとこだった。

 彼女も、髑髏老魔を倒しに来てたようです。私が横取りしちゃった形ですね。

「上は見ました。増援はナシですわ」

「はい」

 私たちは、玄関に向き直りました。

 ゾンビ軍団兵は、あと7体ほど。

「ユリ、苦戦してる」

「呪文ナシでやっとるせいです」

 そんな私たちに、ゾンビが剣を向けてきます。

「ウチがやりますんで」

「私は?」

「手ェ汚れますで?」

「あー。ほな、任せますわ」

 ダーリン姉ちゃんが前に出て、ゾンビを阻みます。

 倒す──つもりはないらしい。浅く斬り結び、階段の手すりを盾にして時間を稼いでいます。

 その間に、ツクノーさまが1体倒しました。あと6体。

「勇者よ!」

「なんだよ!」

「膝じゃ。膝を撃て」

「・・・ああ!」

 ツクノーさまの助言で、ユリが下段攻撃を増やしました。

 軍団兵の鎧は、膝から股間がガラ空き。脛当ても革なので。

 ツクノーさまの槍はもちろん、ユリの長剣でも、足を狙うほうが効果的なのです。

 

 やがて。

 ゾンビ軍団兵は、全滅しました。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 ユリが、珍しく息切れしてます。

 音はそれだけでした。1階の広間に、私たち以外の生き物はいなかったので。

 

 そんな広間に。

 

<またか。勇者よ。貴様の顔にも、飽きてきたぞ>

 恐ろしい声が、響きました。

 

◆♀◆ 21、死霊使い、ふたたび ◆♀◆

 

「おや、これは・・・はぁはぁ・・・『死霊使い』閣下」

 

 声の出所は、私とダーリンの足元。

 髑髏老魔の首にブラ下がっていた、水晶玉でした。

 

 とても生きているとは思えない恐ろしい顔が、水晶玉に浮かび上がって。

 ダーリン姉ちゃんを、私を、ジロジロと見つめます。

 

<メイド。名はなんと言う>

「ウソーリアと申します」

<変容せよ、ウソーリア! すべての人がそうなるように。『老いさらばえよ』!>

 

「ばーかw」

 ユリが、水晶玉にハンカチをかぶせました。

<ぬわっ>

「これでよしと。リア、答えなくていいんだぜ?」

「時間を稼げるかと思って」

<・・・チッ。悪知恵の回るメイドだ>

「光栄ですわ」

「お初にお目にかかる。閣下」ツクノーさまが口を開きました。

「コノマーズの勇士だ」ユリがあいまいな紹介をしました。

<これでは、お目にかかれんのだがな? ボロ切れをどけるように、孤児めに言うてくれ>

 ハンカチの下で死霊使いが言いました。

 ツクノーさまは黙殺しました。

「身共が来ると、どこで知った?」

<髑髏魔人は、我が手足なれば>

「ここに来るまでに、3つの町のガイコツどもをバラバラにしてきたが、」

<破壊者め。呪われてあれ>

「3つ目の町で、『髑髏大鬼が出た』という話を聞いたのじゃが──」

 ツクノーさま。

 “コノマーズの黒”で、どすん、と地面を叩いて、

「大鬼、どこに伏せた?」

<クックック>

 死霊使いは、恐ろしい笑いを上げました。

<さすがはコノマーズ侯爵よ。孤児やエルフより、話が早い>

「外に伏せたな!」

 ツクノーさまは、ユリを見ました。

「勇者よ。外の連中が危険じゃ!」

「くそっ」

 ユリは、私を見て・・・

 外を見て・・・

 階段の上──ネムリタロッカ姫がいるであろう方向を見て・・・

 私を見ました。

「リア、ここは任せた!」

「・・・はい!」

 ユリは左手でダーリンの手を握って、

 

「我らは変容する。駿馬のごとく、駆け抜ける!」

 

 ──ハンカチをかぶせた水晶玉をかっさらい、風のように舞い戻ってゆきました。

 

「・・・ゆくとするか」

「外は、よろしいので?」

「言うたであろう。身共の連れは、強いのじゃ」

「かしこまりました」

◆♀◆ 22、眠りの城とは ◆♀◆

 

 私が先に立って、階段を登ります。

「待て待て」

「はい?」

「そち、見えるのか?」

「・・・なにがです?」

「真っ暗じゃのに」

 

 ・・・あ、真っ暗なのか。

 

「気付いてませんでした」

「ネコの目になっとるんじゃな」

「そのようですね」

 

 ランタンを、壁から取りました。

 背負い袋から、火付け用具を出します。

 油の小瓶も入っていたので、そいつをランタンに補充。

 火打ち石を、カチ、カチ。

 ・・・OK。ちゃんと使えそうです。

「油の量が心もとないのですが」

「急ぐとしよう」

 ゴツン、ゴツン。

 硬い靴を鳴らして、女侯爵が先に立ちます。

 狭い階段を上っ──ゴツン! 槍がぶつかりました。

「狭い!」

「まあ、防衛上ね」

 

 2階に上がりました。

 長い廊下が、外壁に沿って、真っ直ぐ伸びています。

 矢狭間から、月光が差し込んでいました。

「弓兵のための廊下じゃな」

「そのようで・・・」

 私は、月を見上げました。

 

 ・・・月は、見上げるほど高い位置にありました。

 

「閣下。月が」

「ん?」

「月が、進み過ぎではありませんか?」

 

 私たちは、月の出とほとんど同時に、森に入ったのです。

 ここまで歩いてくるのに、1時間もかかってません。

 なのに・・・

 

「もう、夜半ではないか!」

 

 ・・・月は、中天に差しかかっているのです。

 

「これは、したり!」

 女侯爵は舌打ちしました。

「『眠りの城』とは、おとぎ話の城であったか」

 ゴツゴツゴツ! 女侯爵は、早足で歩き始めました。

「おとぎ話?」

「知らぬか? 『ウタラハの天女』という話じゃ」

「・・・いいえ」

 

 一瞬、「浦島太郎みたいな?」って言いそうになったわ。

 

「北方には伝わっとらんか。まあ、海の国の話じゃからな」

 女侯爵は角を曲がりました。

 廊下は、やはり真っ直ぐ続いています。

「昔、ある男が、天女を助けてな。その御礼に、海の向こうの宮殿に招かれるのじゃ」

「はい」

「そこで、一月を楽しく過ごし、戻ってみたらば、」

「・・・。」

「なんと! 一生ぶんの時間が過ぎておったのじゃ!」

 

 やっぱ浦島太郎じゃん。

 

「急ぎましょう!!!」

「うむ。じゃが落ち着け。罠にかかってもいかん」

「あ、はい」

 

 私たちは、角を曲がり、さらに曲がって、突き当たりの梯子にたどり着きました。

 私が四つ足で駆け上ります。

 

 上がった先は・・・天井の低い、おかしな通路でした。

 天井が極端に低くて、立つことができません。

 で、その天井が、格子なのです。

 側溝のフタみたいな感じ。あれを、ずっと大きくした感じです。

「私なら、槍兵をここに置いたのじゃが」

「嫌な想像をさせないでください」

「はっはっはw」

 侯爵、なぜか、楽しそうです。

 声は苦しそうですが。

 屈んで歩いてますからね。槍も邪魔になるし、大変そうです。

 私? フにゃーリアは四つん這いで歩けますので。

「・・・ときに、フターリア姫」

「はい、ツクノーさま」

「そちの尻尾、どこから生えておるのじゃ?」

「お尻からですが?」

「・・・そうか」

「・・・。」

 振り向くと、ツクノーさまは、私のお尻から目をそらしました。

 私は、尻尾をペシッと彼女の足に当てました。彼女は、なぜか、ニヤケていました。

 

 窮屈な廊下を、また1周しますと。

 最後は、扉に行き当たりました。

 半フロアぶんぐらいの階段があって、その上に、鉄の扉です。

「・・・カギは掛かっておらぬ。開けるぞ」

「はい」

 

 私たちは、戦闘を覚悟して扉を開けました。

 しかし、向こうにいたのは、敵ではありませんでした。

 

「──殿下!」

 

 扉の向こうには、ベッドがあって。

 可憐な少女が、月明かりの下で、眠っていたのです。

 

「王女殿下でいらっしゃいますか。この御方が?」

「うむ」

 

 ブレロッケ王国の姫。

 私は、初めて見ました。

 まっ黒な髪が、白いクッションに広がっています。

 青白い胸が、夜着の下で波打っています。薄い絹に、乙女の肌が透けて見えました。

 

 ネムリタロッカ姫。

 御歳、13歳。

 2年前に魔王にさらわれ、生存は絶望的と思われていた、王位継承者です。

 

「殿下。目をお覚ましあれ」

 ツクノーさまが、兜を脱いで、王女の肩を揺さぶります。

 私は、窓辺に移動しました。

 白いカーテンの隙間から、外を見ます。

 敵の姿、ナシ。満月・・・先ほどと同じような位置。

 ひと安心です。

 カーテンを開けます。

 月光が入って、王女の黒い髪が輝きました。

 ベッドに突っ伏しているツクノーさまの髪も・・・

 

「・・・ツクノーさま!?」

 私は、慌てて彼女を揺さぶりました。

 ベッドに手を付き、彼女を抱え起こそうとして・・・

 

 ツクノーさまに抱きつくようにして、コテンと眠ってしまったのです。

 

◆♀◆ 23、クロの夢 ◆♀◆

 

 ・・・気が付くと、私は中庭にいました。

 

 大きなお城の中庭です。

 遠くに、戦士たちの掛け声が聞こえます。

 黒い耳を生やした私は、尻尾をユラユラしながら、高い高い石の壁を回り込みました。

 

 そこに、私の主人がいました。

 

 ご主人さま。

 槍を抱えて、泣いています。

 私が近付くと、あわてて涙を拭って、

「目にゴミが入ったのじゃ」

 と、言い訳をしました。

 そして、私を見て。

「クロ? そち、クロではないか!?」

 と、叫びました。

 

 はい?

 

「おお、クロ・・・!」

 ご主人さま。

 私を抱き締めて、撫で回しました。

 若い彼女の胸は、温かくて、ミルクの匂いがしました。

「なんでじゃ。なんでじゃ」

 低い声が、私の胸によく響きました。

「ひどいではないか。父上と一緒に死んでしまうなど・・・」

 

 私は・・・

 

 首を伸ばして、ご主人さまの頬っぺたを舐めました。

 ぺろ。ぺろ。彼女の涙を舐め取ります。

「クロぉ♥」

 

 ご主人さまは、壁際に座りました。

 胸元に私を抱いて、私の頭に顎を乗せて、話し始めます。

「私はな。やはり、槍の才能なんて、ないのじゃ・・・」

 ご主人さまの手が、私の頭を撫でます。

 私は、ネコ耳を倒して、歓迎しました。

 気持ちいい・・・。

 見上げると、彼女が見下ろしてきます。

 私が目を細めると、彼女も目を細めました。

「母に習うた魔術なら、うまくやれるんじゃがのう」

 ご主人さま、ため息。

「コノマーズの頭がこれではと、先生にもガッカリされる始末でな」

 首を振って・・・

「もう、生きてゆくのが、つらいのじゃ・・・」

 私はご主人さまを見つめました。

 目を合わせてくれません。

 私は首を伸ばして、フンフンと鼻を鳴らして、彼女の顔を探りました。

 

「なぁ」

 ご主人さまは、顔を背けたまま、訊いてきました。

「そちの所に、行ってはダメか?」

 すると。

 ダブルネコパンチが、彼女の顔に入りました。

 両前足を押しつけ、伸びするみたいに、押し返します。

「むぎゅー」

 ツクノーさまは、苦笑しました。

「ダ・・・ダメか・・・!」

 

 ツクノーさまは、あらためて私を抱き締めて、首筋をこすりつけてきました。

 私は頬っぺたでそれを受けました。

 クロが自分の首筋や後頭部を彼女にこすりつけました。

「じゃあの」

 ツクノーさまは、立ち上がります。

「死ぬまでは、こっちで頑張ってみるわい」

 “コノマーズの黒”を、握り直して。マントを翻して、歩み去りました。

 私もそうしました。

 

 振り向くと、クロはネコ正座で見送っていました。

 

◆♀◆ 24、眠りの夢 ◆♀◆

 

 私たちは、お城に入りました。

 重たい砲撃の音がします。

 ツクノーさまは、王女殿下のお部屋に入って、お茶の席に着きます。

 私は、お茶を淹れて、お出ししました。

 また砲撃の音がしました。

 さざ波の立ったお茶を、ツクノーさまは、持ち上げました。

「姫。心配はいらぬ。この城は落ちぬ。勇者もこちらに向かっておるそうじゃし」

 姫は、カップには手を付けず、波を見つめています。

「ツクノーさま」

「なんじゃ?」

「こんなことをして、何になるのでしょう?」

「こんなこと?」

「魔王にあらがって、私たちを守って・・・何百人も、戦士が死ぬ。むなしいことではありませんか」

「・・・そのようなこと、戦士の前では、仰らぬがよい」

 ツクノーさまはカップで唇を隠しました。

 私からは、彼女のお茶が揺れているのが見えました。

「姫。我らはな。魔王のヤツめが、気に喰わんのじゃ」

「気に喰わぬ?」

「魔王は、強い。アスカリアの勇者ですら、1人では太刀打ちできぬという」

 カチン。

 ツクノーさまは、カップを置きました。

「じゃから、従わざるを得ぬ──などというのは、不快極まりないことじゃ」

「・・・。」

「我らの祖先は、みずから王を選び、この王国を築いたのじゃ。話し合いもし、殺し合いもしてな」

「はい」

「そうして築いたこの祖国。魔王なんぞに手出しされるなぞ、死んでもゴメンじゃ」

「ですが・・・」

「なんじゃ?」

「私と父母の首、3人を差し出すだけで、戦士が救われ、みなが自由になれるのなら──」

「バカおっしゃい!」

 ツクノーさまは、姫を叱りました。

「みずから王と定めた御方を、生贄に差し出すじゃと? それが、自由な人間のすることか」

「・・・。」

 姫は、立ち上がりました。

「・・・私は、疲れました。もう、床につくことにします」

 

 姫はベッドに向かいました。

 豪華なベッドです。向こう側には、バルコニーが見えました。

 カーテンは開いていて、月光が差し込んでいました──西の空の向こうから。

 

 私は、姫の腕を掴みました。「ネムリタロッカさま。いけません」

 

「何をするのです? 放しなさい」

「クロ」侯爵が立ち上がりました。「手を放せ。無礼じゃぞ」

「いいえ。いいえ」

 私は、手に力を込めました。

 柔らかな少女の腕に、私の長い指が食い込みました。

「痛っ・・・」

「こりゃ! 身共に、そちを手打ちにさせる気か!」

「侯爵! お月さまを見てください」

「月じゃと・・・?」

 

 バルコニーから差し込む月の光は、じわり、じわりと、西の地平に沈んでゆきます。

 

「・・・いかん!」

 ツクノーさまは、私に同調しました。

 もがく王女の、もう一方の腕を掴みます。

「ネムリタ。起きるのじゃ。父君の元に帰るのじゃ」

「いや。いや」

 王女は顔を背けました。

「兄も、戦士たちも、死にました。陛下も、母も、死ぬのです。ですから私も、もう、このまま・・・!」

「そなたの父君は、まだ生きておいでじゃ」

「いずれ死にます! 魔王に殺されて・・・」

「魔王は封印された」

「え?」

 ネムリタロッカ姫は、もがくのをやめました。

「本当ですか?」

「本当じゃ」

「でも・・・魔王は、消し去ることができないと、陛下が仰っていました」

「そうじゃ」

 ツクノーさまは、姫の肩を撫でて、落ち着かせました。

「じゃから、勇者と陛下の戦士たちは、封印を選んだのじゃ」

 

 ・・・あれ?

 これ、もしかして、すごい機密情報では?

 私は『勇者が魔王を倒した』としか聞いてませんよ。

 

「そうでしたか・・・」

 王女は、肩の力を抜きました。

 強張っていた表情がほぐれました。

「では、戦士たちも?」

「うむ。もう魔王に殺されてはおらぬぞ。残党を蹴散らしておるのじゃ」

「おお・・・!」

「これから先。未来。我らがどうなるかは、わからぬ。じゃが──」

 ツクノーさまは、王女の髪を撫でました。

「──御身が戻れば、我らは喜ぶ。それは、間違いのないことじゃ」

「わかりました」

 ネムリタロッカ王女は、ほほえみました。

 とても美しい笑顔でした。

「私は、目を覚ますことにします!」

 

 その時でした。

 フにゃーリアの鼻が、ネットリとした甘い香りを嗅ぎつけたのは。

 

「何か来ます。ベッドの下!」

「敵か!」

 ツクノーさまが、王女をかばいます。手を伸ばしました。

 “コノマーズの黒”が飛んできて、その手に収まりました。

 

 すげえ! ルーク・スカイウォーカーみたい。

 夢の中だけの特典かな?

 

 ベッドの下から、何かが現れました。

 ヌルヌルと・・・

 うねくりながら・・・

 透き通った、太い、ツタのようなものが・・・私たちに手を伸ばしてきました。

 見るからにいやらしい、粘っこい汁を垂らしながら・・・

 その姿は、まるで・・・

 

 エロ触手ですわ。完全に。

 

◆♀◆ 25、vs エロ触手 ◆♀◆

 

 エロ触手。

 フターリアの太腿(わりと太いです)ぐらいある、透明な触手です。

 数は・・・8本か。

 

 私たちに、襲いかかってきました!

 

 ツクノーさまが槍を振るって、右、左! 2本を叩き落とします。

 なおも王女を狙う触手が1本。これを身体を張って防ぎました。

 触手が、彼女の女体に絡みつきます。

 ベチャリ・・・!

 武家らしい、飾りのない正装が、粘液に穢されました。

 背中を回って、脇腹から胸へ、いやらしく触手が巻き付きます。

 成熟した女体のふくらみが、ムッチリと搾り上げられました。

「むむ・・・!」

 

 残る5本が、王女に殺到します。

 王女はとっさに身を投げ出し、私の足元に伏せました。

 いい判断ですが・・・

 そのせいで、私が狙われることになりました。

「フシャー!」

 私はネコパンチで1本を弾き、サイドキックでもう1本を弾きました。

 が、続くネコパンチは空振り。

 低い姿勢のフにゃーリアよりずっと低く触手が飛んできて、ヌルリと、股の間に入られました。

 そいつが、波打つようにハネ上がって。

 ベチャ! スカートのお尻を、叩きました。

「ふぎゃ!?」

 尻尾が折れた! 痛い!

 立ちすくんだ私の股に、触手が這い登ります。

 スカートをベロリとめくり返され、尻尾の付け根に絡みつかれる。

 ヌルリッ・・・! と、舐め上げられました。

「に゛ゃあん♥」

 

 あ、ダメだこれ。

 スイッチ入りました。

 フにゃーリアのニャンニャンスイッチ。ONになってしまいました!

 

「クロ!」

 ツクノーさまが手を伸ばしてきました。

 届きません。

 尻尾を舐められてのけ反ったフにゃーリア。

 2本目の触手に、胴体を巻き上げられます。左腕が巻き込まれました。

 3本目が右手に絡みつきました。

 4本目に首を締め上げられました。ヌチャリと生暖かい粘液が、メイド服の胸元に垂れ落ちます。

 そいつの先端が、唇に迫ってきました。

 

 きたない!!!

 

 エロ触手なんですがね?

 エロいイラストとかで見る分には、気になりませんけどもね?

 実際にやられると、「汚い!」ってなるんですわ。

 

 オマエいま床這って来ただろ! 唇にくっつくんじゃねえ!

 マジでやめろ!!!

 

 もがくフにゃーリア。

 ですが、どうにもなりません。

 エロ触手。太くて強くて、ヌルッヌル。

 力で敵わん上に、滑りまくる。

 

 強い・・・!

 

「あニャッ♥ やめっそこっうニャッ♥」

 ヌルヌルと全身を撫で回されて、フにゃーリアは悲鳴を上げました。

 5本目の触手が、スカートの中にグイグイ入ってきます。

 こうなるとメイド服は弱い。

 ワンピースなので・・・!

 すでに股間と尻尾に絡みついている触手を乗り越え、さらに上へ。

 お腹を舐め回し、帯の下を強引にくぐって、ブラジャーへ。

 フにゃーリアのデカパイに。

 生ぬるい触手。熱くもなく、冷たくもなく、ちょうど気持ちいい温度なのが、腹立ちます。

 全身がヌラヌラと穢されてゆくのに、変に気持ち良くて・・・

 力が抜けてしまうのです・・・!

「あ・・・ふぁ・・・♥」

 フにゃーリアは、ズルズルと、ベッドに引きずり込まれます。

 右手で絨毯にしがみついたのですが、爪の痕が残るだけでした。

 ベッドの上で、大の字にされて。

 本格的に、嬲られ始めました。

 メイド服が乱れてゆきます。

 フにゃーリアの女性器が熱を持ち、溶け始めたのがわかります。

 だからチョロすぎだって!

「クロ!」

「クロさま。ダメです。こいつらに気を許しては。これらは、いつも、私を・・・!」

「ふにゃ?」

「私を淫らな眠りに引きずり込むのです。目を覚まそうと決意するたびに・・・」

「さては、これが呪いの正体か!」

「にゃぁっ・・・!」

 暴れるうちに、ブラジャーの肩紐がズレました。

 左の乳房からブラジャーが浮きます。

 触手がそれを察知。

 ブラジャーの中に・・・乳房に、ヌルッヌルの触手が、滑り込みました。

 ヌルリヌルリと乳揉みされ、ついでみたいに乳首がこじくり倒されます。

「ふあっ・・・くそ、コイツ・・・ふにゃぁあ♥」

「おのれ」

 ツクノーさまは、2本の触手に絡まれています。

 その状態で、何とか右手を伸ばしました。

 ネムリタロッカ姫が、床に転がる“コノマーズの黒”を拾って、渡そうとしたところで。

「あっ・・・!?」

 彼女の足首にも、触手が巻き付きました。

 つんのめって倒れる姫。

 触手はすかさず、彼女の、羅紗のスカートの中に、突入します。

「あっ・・・あ、ああっ・・・!」

 叫んで、王女はスカートを抑えました。

 しかし勝ち目はありません。ツクノーさまやフにゃーリアでもダメな敵です。王女に止めれるワケがない。

 厚手のスカートの中で、ヌタリヌタリと触手が動くのが見えました。

 その膨らみが下腹に達すると、王女の声が、明らかに淫らになりました。

「ああン・・・! いやぁっ・・・♥」

 王女は髪を振り乱して、喘ぎました。

 涙ぐみながら・・・

 自分のカラダを守ろうとするのをやめて、槍に、手を向けました。

 掴んだ!

 そして、ツクノーさまの右手に向かって、投げます。

 せいぜい足元にしか届かない、弱々しい投擲でしたが・・・

 槍は。

 またしても、不思議に飛んで、ツクノーさまの手に収まりました。

 女侯爵は、その槍をクルリと回して・・・

 

「変容せよ、“コノマーズの黒”! 穢れを祓い、淫魔を断ち切る刃となれ!」

 

 ・・・呪文を唱えて、突き立てました!

 すると。

 ジュッ! と、触手に穴が開いたではありませんか!

 穴は、そのまま広がり続け・・・ついに、その触手を分断しました。

 力を失った先端が、侯爵の乳房から滑り落ちます。

「セイヤ!」

 ベトベトの粘液を垂らながら、侯爵はもう1本の触手を断ちます。

 侯爵は自由になりました。

 あとは独壇場です。

 王女を襲う触手を断ち、ベッドに駆け寄って、フにゃーリアを陵辱する触手を次から次に仕留めてくれました。

「ふニャー・・・♥」

「クロ。しっかりせよ」

「はい・・・」

 私は、最高に気持ちのいいお湯から立ち上がるようにして、起き上がりました。

 侯爵が私を抱き起こし、さらに王女も助け起こします。

「ハァ、ハァ。一刻も早く、起きねばならぬ」

 彼女は、息を切らせて言いました。

「見よ。もう、月が沈みそうじゃ」

 その言葉通り。

 バルコニーの向こうの月は、いまにも沈みそうです。

「ですが、どうすればよいのです?」

 王女が喘ぎました。

「目を覚ますということが、どういうことなのか、私は忘れてしまいました」

「なんじゃと」

「もうずっと、魔王にさらわれてから、ずっと眠っているので・・・」

 

 ここに至って。

 私は、確信しました。

 お嬢さまがかけてくれた『おまじない』を使うのは、いまだと。

 

「御二方。まずは、ベッドから離れましょう」

 3人で支え合って立ち上がり、バルコニーに出ます。

「おまじないをやってみますね」

「まじないじゃと?」

「どんなおまじないです?」

「目覚めのまじない・・・らしいです。私に掴まっていてくださいね」

「う、うむ」

 

 私は、ニッコリと笑って、息を吸い込んで、

 

「ニーズ! 愛してますぅ~!!!」

 絶叫しました。

 

「は?」

「なんと?」

 お二人は、反応に困ったようでした。

 

◆♀◆ 26、脱出 ◆♀◆

 

「むニャ・・・」

 冷たい石の床から、私は顔を起こしました。

 

 見回すと。

 隣にツクノーさまが。

 反対側にネムリタロッカさまが、突っ伏していました。

 場所は、バルコニーです。

 周囲を確認しました。

 触手はいません。

 月は・・・

 

 月は、半分ほど、森の陰に沈んでいました。

 

「ツクノーさま!」

「んむ・・・」

「月が沈みます。お早く!」

「む!」

 女侯爵は一気に覚醒し、バッと手を伸ばしました。

 まるで飛んできたように、“コノマーズの黒”がその手に収まります。

 転がっていた兜をかぶり直して、彼女は立ち上がりました。

「フターリアよ、王女を運べるか?」

「よいしょ・・・」

 私は背負い袋を前にして、王女を背負いました。

 殿下は、まだお目覚めになりません。しかし「んむ・・・」と呻いており、覚醒は近そうです。

「・・・なんとか!」

「よし、ゆくぞ」

 

 天井の低い通路を抜け、矢狭間の廊下を走って、階段にたどり着きます。

 王女を背負う私は汗びっしょりです。足がガクついて、歩けなくなってきました。

「交代じゃ。クロを頼む」

「はい」

 今度はツクノーさまが王女を背負い、私が槍を預かりました。

 階段を降りて、1階の大広間へ。

 私が先に出て外をチェック。敵ナシ。戻ってツクノーさまを助けます。

 

 と、ここで。

 

 ゴゴゴゴ、と、城が揺れ始めました。

 カコン! 私の頭に、石が当たりました。

「いてっ」

 見上げると。

 

 城を構成する石材と木材が、バラバラになって、私たちに降り注いでくるところでした。

 

「フにゃー!!?」

 私は、王女殿下のお尻を押しました。

 ツクノーさまも必死で走ります。

 しかし、自由落下のほうが、当然速い!

 私たちの頭上に、巨大な石材が落ちて来て・・・

 ガキッ! と、私が握っていた槍が、弾け飛んで・・・

 侯爵と私は、王女もろとも倒れ込んで・・・

 

 ものすごい轟音と共に、城が崩れ落ちました。

 私と侯爵の爪先の、ほんの1尋ほど後ろで。

 

 私と侯爵は王女を抱き上げ、こけつまろびつ、城門を抜けました。

 その城門も、私たちの後ろに崩れ落ちました。

 

「はひっ、はひっ・・・こ、侯爵、御無事ですか」

「はぁ、はぁっ・・・御無事じゃ。殿下も、身共もな」

 侯爵は、汗だくの顔で、ニヤリと笑いました。

「言うた通りになったわ」

「・・・何がです?」

「“コノマーズの黒”が、殿下を救ってくれたぞ」

 

 彼女の指差す先。

 崩れた城の残骸の中に、黒い槍の一部が見えました。

 

「さっき、何かがぶつかって・・・」

「うむ。身共は見たぞ。落ちてくる石に、槍がつっかえたのじゃ。それで、間に合うた」

「おお・・・!」

 私はひれ伏しました。

「申し訳ございません。侯爵閣下。大切な槍を!」

「馬鹿なことをするでない。時間がないのじゃ。立て。走れ」

「はい」

 

 私と侯爵は、眠れる姫を抱き抱え、ヒィヒィ言いながら森を走りました。

 どう考えても、間に合わない苦行でした。

 

 そして、案の定。

 

 半分も進まないうちに、月は無情にも、西の空に沈んでしまったのです。

 

◆♀◆ 27、覚えておるか? ◆♀◆

 

「・・・フターリアよ」

「・・・はい」

 

 私たちは、木のウロの中に、ぼんやりと座っていました。

 侯爵が王女を抱いて、私に頭をもたせかけています。

 

 満月の夜は、終わってしまいました。

 朝がやって来たのです──外の世界にだけ。

 

 私たちを、日の差さない森に置き去りにして。

 

 月光が去ると共に、道は消え失せました。

 歩く隙間もないほどに密集した樹木によって、城壁よりも強固な壁ができあがりました。

 私と侯爵は、もちろん、道を探しました。

 しかし、フにゃーリアの鼻をもってしても、何も見つけられませんでした。

 

 私はパニックになりました。

 侯爵は私をなだめ、私が言うことを聞かないとわかると、キレました。

 放せ! 放さぬ! と怒鳴り合い、ついに引っ掻き合いになりかけたとき。

 ネムリタロッカ王女が目を覚まして、

「ごめんなさい・・・」

 と、仰ったのです。

「私を救おうとしてくれたばかりに、お二人が、危険な目に・・・」

 この一言で、私と侯爵は争うのをやめました。

 手近な古木にあったウロの中に3人で入って、とにかく、王女を休ますことにしたのです。

 

「・・・そち、覚えておるか?」

「・・・何をです?」

 私は、侯爵を見ました。

 彼女は、うつむき加減に私を見ていました。頬が赤くなっています。

 

 あー。夢の話ね?

 

「あー、はい。いいえ。なにも・・・」

 私はそう答えました。

 侯爵はガッカリしたようでした。

 私は、黒い髪とネコ耳を、彼女の頬にこすりつけました。

「ふふ・・・w」

 侯爵は、私の頭を撫でました。

 

 静かに時が流れてゆきます。

 私は、お嬢さまのことを考えて、ため息をつきました。

 侯爵も、ため息をつきました。

 王女は、また眠りに落ちました──咳をし、震えながらです。

 侯爵がマントをかけ、左右から私たちが抱き締めて、温めているのですが・・・震えは収まりませんでした。

「栄養失調かも知れぬ」

「あ、食べるもの、あったハズです」

 

 ありました。

 モリーヌが持たせてくれた食料。

 ほんの少しだけ、王女に食べさせてみました。

 少し顔色が良くなったようでした。

 

「火を起こせないか、やってみます」

「うむ」

 私は、四つん這いで移動して、ウロから頭を出しました。

 下半身はウロの中に残しておきます。なんか、完全に出たら戻れない気がしたので。

 左右を見回します。

 乾燥した枝・・・

 ないですね。

 どこもかも冷たく湿っていて、腐りかけの枝しか見当たりません。

 上はどうかな?

 

 見上げると。

 トラがいました。

 

◆♀◆ 28、日差さぬ森のトラ ◆♀◆

 

 えーと。

 

 私の真上に、トラがいます。

 黒いトラです。ブラックタイガーです。エビじゃないですよ?

 ネコなら『キジトラ』かな? ダークグレイと黒のシマシマです。

 ・・・あ、フにゃーリアと同じ色ですね。

 

 えー・・・そのキジトラのトラにですね。

 虎視眈々と、狙われているわけですが。

 

「こんにちは。お姉さん」

 私は、あいさつしました。

 声になってなかったかも知れません。侯爵が反応しませんでしたからね。

「お邪魔しております。えー・・・もしかして、ここは、御身のお家でしたでしょうか?」

「・・・。」

 トラは、まばたきしました。

 ペロリ。舌を出して、軽く舌なめずりしました。

 ぶおん・・・!

 私を飛び越して、音もなく向こうに着地しました。

「・・・!!」

 悲鳴を上げなかった私のこと、褒めてもらっていいですよ。

 さて・・・。

 キジトラのトラさんですが。

 のっし、のっし、のっし。三歩進んで。

 のそっ・・・と、こちらを振り向きました。

「なんでしょう?」

「どうしたのじゃ」

 侯爵が出てきました。

 トラを見て、私と同じように絶句しました。

 トラは、侯爵を見て、私を見て。

 のっし、のっし、のっし。と、また三歩進んで。

 のそっ・・・と、振り向きました。

「なんでしょうかね?」

「『ついて来い』と言うておる」

「は?」

「あれは『我に付いて来い』の意味じゃ」

「ホントですか?」

「クロが飯を催促するとき、ああやったモンじゃ」

 侯爵は取って返して王女を抱き上げ、ウロから出ました。

「こ、侯爵?」

「ゆくぞ。ここに居ったところで、望みはないのじゃから・・・」

 

 私たちは、キジトラのトラに従って歩き始めました。

 分厚い樹木の壁を──私たちには『壁』にしか見えない樹木の中を。

 キジトラのトラは、スルスルと進んでゆきました。

 

 しばらく歩いたところで。

 彼女(?)が止まりました。

 ネコ正座して、フン、と顎をしゃくります。

「あっちへゆけと言うておる」

「藪しかないのですが?」

「まあ、行ってみよ。ここまで導いてくれた御ネコ様じゃもの」

「トラですが?」

 私は、ブツブツ言いながら、藪に鼻面を突っ込みました。

 ビシバシ。

 枝が当たります。

 幸い、『鉄身』の効果が続いているようで、枝をヘシ折って突っ込むことができました。

 首を振りながら、強引に進みます。

 

 ずぼっ。顔が、外に出ました。

 

 眩しい!

 目が眩んで、何も見えません!

 ──でも、音は聞こえました。

「リアっ!!!」ユリの声です!「リアだ。リアが出てきた。みんな、こっちだ!」

 

 私は、ユリに引きずり出されました。

 眩しい光の正体は、日光でした。冬の空に昇ったお日さまです。

 背中が一気に温かくなって・・・涙が出てきました。

 

「ファリア・・・」

 フラフラと近付いてくるお嬢さまも、涙を浮かべていました。

「あ、どうも。遅くなりました」

「・・・!」

 飛び付いてきたお嬢さまを、私は受け止めました。

「助かりましたよ。おまじない」

「・・・!!」

 お嬢さまはガクガクうなずくだけで、声が出ません。

 モリーヌもやって来たので、引っ張って抱き寄せました。

「心配かけたね」

「本当に・・・よく、お戻りになられました」

 

 ユリとダーリン姉ちゃんが、王女殿下を担架に乗せました。

 殿下はほとんど意識がないようでしたが、ちょっとだけ目を開いて、

「ありがとう、ツクノー。クロ」

 と、私たちに声をかけて下さいました。

 まこと立派な王女っぷりです。私は感服しました。

 ・・・ただですね。

 その後に、ユリの顔を見上げて、

「アスカリアの勇者さま。お会いしとうございました・・・!」

 と、目を潤ませて話しかけていたのは、非常に頂けないですがね!

 

「・・・ファリア?」

「あ、はい」

「クロって、なに?」

「ああ。とあるネコの名前ですよ」

 私は、そう答えて。

 

「やはり、覚えておるではないか!」

 侯爵に肩をつつかれるのでした。

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