TSゆりフタ令嬢侍女メイド! 作:min(みならい)R18
◆♀◆ 29、フターリア、ヘロヘロになる ◆♀◆
フターリアです。
疲れ果てた哀れな伯爵令嬢です。
名も知らぬ女の粘着に耐えています。
「その、眠りの触手? とやらの戦闘について。いま少し詳しくお聞かせ願えますか?」
「よく覚えていません・・・夢の中のことですから。ですが、少なくとm──」
「あっ、ハイハイ。フターリア姫は状況を把握しておられなかった」
女はメモを取ります。
私は、ボーッとその手の動きを見てから、
「把握はしていました・・・」
「はい? 次の質問行ってよろしいですか?」
「いいえ・・・把握はしていたと申しております。いまのメモ、訂正して頂けますか?」
「訂正の必要はございませぇん。メモは適切に取ってございます。次の質問ですが、」
ツクノーさまの『報告』、四半刻。
それから私の『報告』、1刻。
映画を余裕で見終わるぐらいの時間、私は、この女に粘着されています。
初めはピンと立っていたフにゃーリアの耳も ─(・_・)─ こうなり、ついには消えてしまいました。
素ターリアです。眠くてたまりません・・・。
「いい加減にせんか! ダンゼイズの姫に対して、なんたる無礼。いつまで引き留める気じゃ!」
とうとう、同席しているダンゼイズの戦士が怒鳴りました。
しかし、女文官(?)の鉄面皮には通用しません。
「可及的速やかに終わらせてお休み頂きたいと存じます。ところでぇー、最初に戻りますがぁー、」
・・・ま、そろそろですかね?
これ以上引き延ばすと、ウチの戦士が剣を抜きそうですからね。
ってか、私も3回ほど斬り捨てました。この女。頭の中でね。
私は背筋を伸ばし、パッチリと目を開けて、女を見ました。
『疲れ果てた哀れな伯爵令嬢』はここまでよ!
「──そなたは、主の報告も、このように聞き流したのですか?」
「はい? 最初に戻ってよろしいですか?」
「あっ、ハイハイ。私の発言だけ故意に聞き流していると」
私は、相手の口調をマネしました。
そして、立ち上がります。
「時間の無駄のようですから、私は食事を取って、眠りますわ」
「あっ、報告を拒否なさると! では、国王陛下にそのように──」
「あっ、1刻もの報告をなかったことにすると! ではツクノーさまに、そのように伝えます」
「・・・。」女文官は黙りました。
「・・・ツクノーさまは、お休み中じゃ」コノマーズの騎兵が、代わりに口を開きました。「面会は認められぬ」
「どなたか存じませんが、あなたの許しは求めておりませぬ」
「ダンゼイズの姫! 言わせて頂きますが、そもそm──」
「忠告なら間に合っておりますわ。ダンゼイズ は 忠臣に恵まれておりまして」
私は顎をしゃくって、ダンゼイズの戦士に命令しました。
「者ども! 引き揚げじゃあ!」
「おう!」
「・・・ファリア。あなた、いつから武将になったの?」
「はて? いつからでしょうな」
「もうw」
お嬢さま。
まだ毛布にくるまって、ショボショボした目をしてらっしゃいます。
でも、姿勢は正して。
「ごめんなさい。あなたが帰って来たら、気が抜けちゃって。完全に寝てしまったの」
「いえいえ」
「無理もありません」
モリーヌがそう言いました。
「テニスお嬢さまは、限界まで魔術を使っておられました。失態は、私だけにあります」
彼女、麦粥を温めてくれてるんですがね。
平然と粥を掻き回してるんですよね。
あんま反省してないだろ、オマエ。
「モリーヌはどこにいたの?」
「コノマーズの騎兵に『手伝ってくれ』と言われて、丘の向こうの確認に・・・」
「昨日は、モリーヌが鬼を連れ回したのにね。今朝は逆になったわ」
「鬼?」
「髑髏大鬼よ。昨夜攻めてきた」
ツクノーさまと私が、『眠りの城』を攻略するあいだ。
外は、ガイコツの軍勢に襲われていました。
髑髏大鬼7体、髑髏老魔1体、そして髑髏狼人が、ウジャウジャと。
一時、かなりの劣勢だったとか。
ユリが舞い戻って、なんとか死者0で乗り切ったんだと。
「モリーヌはね、1人で大鬼を1体引っ張って、遊兵にしたのよ」
「よくやった」
「光栄です」
「ガイコツ戦では、とても協力的だったのよ。コノマーズ」
「ツクノーさまも好人物でしたよ」
「でも、家臣は掌握できてない?」
「たぶん。昨日も、私たちの面前で怒鳴られてたじゃないですか」
「そうね。なるほどね。よくやってくれたわ、フターリア」
「お嬢さまの侍女ですから。フッフッフ・・・」
「テッテッテ・・・」
私とお嬢さまは、悪い笑みを浮かべました。
他家の弱点。すなわち、我が家の得点ですからね!
「ところで、テッテッテってなんです?」
「テニスだからテ」
「は?」
「フターリアだからフッフッフなんでしょう?」
「んなワケあるか」
「モッモッモ──やぁン♥」
モリーヌは牛みたいだったので、乳を掴んでやりました。
そのあと、彼女は真面目な顔になって、
「コノマーズの騎兵は、一度も制止しなかったのですか? 食事を勧めたりも?」
「全然。私が出ようとしたら、偉そうにケチつけただけ」
「・・・。」
モリーヌは剣の柄に手をやって、3回ニギニギしました。
「オマエなに考えたいま」
「コノマーズを3人ほど。頭の中で」
「ばかもの」
「考えなかったのですか・・・?」
「考えた」
「ですよね!」モリーヌは晴れやかな笑顔になりました。
ダンゼイズの戦士、脳筋すぎる・・・。
で。
「どうぞ」
「ありがとう。頂きます」
温かい麦粥を啜っていると、マレーナさんが天幕を訪れました。
「ファリアさま。申し訳ございません。私、惰眠をむさぼっておりました」
「無理もないわ」と、お嬢さま。「マレーナも、魔法を使い続けていたもの」
「ありがとうございます。ですが、ユリが動けないときは、私が代理ですから」
マレーナ姉さんは、頭を下げました。
そして、金一封を差し出して来ました。
「フターリア姫への嫌がらせを防げなかったこと。このマリエレジーナの責任です。謝罪いたします」
「許します」私は受け取りました。「ま、得点も上げたしね!」
「得点」
「コノマーズ家臣団は高圧的です。ツクノーさまは、侯爵家を掌握できていないのかも知れません」
「なるほど・・・」
マレーナさんはニヤリとしました。
「侯爵への苦情は、ユリからということで、よろしいですか?」
「ええ、お任せするわ」とお嬢さま。「今回、リーダーはユリですものね」
「はい。──ファリアさま。二度とこんなマネはさせません。御安心ください」
「ありがと、マレーナ姉さん」
「・・・姉さん?!」
「なんとなく」
「そ・・・そうですか」マレーナさんは、はにかんで、「ではまた。身分高き妹よ」天幕を出てゆきました。
「なるほどね・・・」
「なにがなるほどなの?」
「ユリは、ああいうタイプに弱いのかな・・・と」
「どういうタイプ?」
「裏表あるタイプ」
「・・・・・・・・・。」お嬢さま、私の顔をジーッと見つめて、「なるほどね!」
「なにがなるほどなの?!」
私は、麦粥を食べ終えるまでに、かいつまんだ報告をしました。
本来、こっちが最優先なんじゃがのう・・・
「・・・あの、」
報告を聞き終えたモリーヌ。
真っ青な顔になって、こう言いました。
「そのトラ・・・ヒサモンモーリアさまではありませんか・・・?」
◆♀◆ 30、あのトラ、ウチ ◆♀◆
「女神の、ヒサモンモーリアさまのこと?」
「そうです。日の差さない森の女神の」
「まさか・・・」
「ヒサモンモーリアさまの聖域で生きてゆけるのは、闇のトラだけと言います」
「ふむ」キジトラのトラを、私は思い浮かべました。
「刃歯虎という・・・」
「やいばっこー?」
「ものすごく長い牙をしたトラです」
「ふむ」ちがったわ。
「魔王軍の怪物じゃなかったかしら?」と、お嬢さま。
「はい。魔王に仕える怪物であり、ヒサモンモーリアさまの森に棲む聖獣でもあるのです」
「私が会ったのは、ふつうのトラだったけどな・・・」
「あなた、トラ見たことあるの?」
「ないですね」
「ふつうのトラをなんで知ってるの?」
あ、しまった。失言した。
寝不足だとダメだな。
「なんでと言われても・・・」誤魔化しました。「なんせ、牙はふつうの長さでした」
「刃歯虎でないのなら、ヒサモンモーリアさまでしょう!」
モリーヌは立ち上がりました。
「いますぐに、御礼のお供えをしなくては!!!」
「・・・寝てからじゃダメ?」
「ダメです!!!」
モリーヌに急かされて、私はフラフラと森に向かいました。
マレーナ姉さんも付いて来ました。ダンゼイズの戦士もワラワラと付いて来ました。
着きました。
まあ、丘を下ってすぐですからね。森。
「ファリアさまが出て来たのは・・・このあたりでしたか?」
「はて・・・」「どこも同じようじゃし・・・」
「ここよ!」と、お嬢さま。
モリーヌと戦士たちが、即席の祭壇を造り始めました。
「よくわかりましたね。どこも同じようなのに。エルフの血でしょうか?」
「さあ? ともあれ、見たものをそのまま覚えるのは得意よ」
「そう言えば、フタゴンも速攻で覚えてましたねぇ」
石を積んで、綺麗な板を渡して、絹の布をかぶせて。
私が、女神さまに御礼申し上げて、お酒とお肉を備えました。
「ダンゼイズ式であれば、香木と香油を焚くのですが」とモリーヌ。
「やめたほうがいいと思うわ!」
「うん。私もそう思う」
「じゃ、ファリア。パンツずらして?」
「・・・あのね? テニスさま。いまね、戦士がいるんですよ」
「知ってるけど」
「なんでそんなクソビッチにしようとしますか?」
「フにゃーリアのほうが喜ばれるんじゃないかと思って」
「・・・なるほど!」
私は、木の陰に隠れて、パンティとタイツをずらしました。
お嬢さまが、私をネコ娘にします。
「フニャー」
「ふわぁ」
お嬢さまは、大あくびをしました。
「あれ? 大丈夫ですか?」
「ダメ・・・」
寝不足のお嬢さま。『ネコ娘にな~れ』一発でダウンです。
モリーヌが、お嬢さまをおんぶして天幕に引き返しました。
「やれやれ・・・」
私がため息をついていると、マレーナ姉さんが袖を引っ張ってきました。
「ニャんですか?」
「・・・。」
後ろ、後ろ、と、マレーナさんが目で示します。
珍しく動揺してらっしゃる様子。
振り向くと。
トラ娘がいました。
・・・トラじゃないですよ? トラ娘ね。
褐色の肌に、黒とダークグレーの髪。キジトラみたいなシマシマの髪です。
トラ耳のダークエルフですね。
トラ縞の服が、身体にぴっちり張りついてます。こっちは銀・黒です。
私を見て、ニンマリと笑うその顔は、すごい美人です。
それでいて、美しさよりは愛嬌が先にくるぐらい、愛くるしいです。
「あ、どうも。お姉さん。こんニャちは」
「ん」
トラ縞のダークエルフさん。
手を出してきました。
「アメちゃん食べる?」
「これはどうも・・・頂きます」
「ん」
「あー。眠い頭に染み渡る・・・」
「おいしい?」
「うミャい、うミャい・・・」
「ほほほ」
ダークエルフさん、笑いました。
「アメちゃん1個で喜んでもろうて(もらって)・・・こっちが悪いみたいやわぁ。ねぇ?」
「いえいえ。ホントに。ニャんか力が湧いてきました」
「ん。ほなね」
「あのぅ・・・今朝助けてくださったトラさんは、お姉さんでしょうか?」
「あのトラ、ウチよ」
「やっぱり! でしたら、こちらのお供えを、いかがですか?」
「それ私のん?」
「ヒサモンモーリアさまへのお供えなんですけども」
「私がもろうてええのん?」
「はい。お姉さんは、きっと女神さまの御意志でいらっしゃったのでしょうから。お怒りにはなられないかと」
「ほほほ」
ダークエルフさん、口に手をやります。優雅な仕種。
「そやねぇ。まぁ、ある意味、女神さまの御意志やわねぇ。ほな、頂いてくわぁ」
お供え物は、パッと消え去りました。
「・・・え?」
「ほなね。もう入って来たらアカンで」
ガサガサ。
お姉さんが森に入ってく音がしました。
「今回は、あのお城潰してくれたからねぇ。出してあげたけどねぇ。次はないから」
気のせいでしょうか。
彼女の頭に、黒いネコが乗っていた気がしました。
帰って、モリーヌに報告すると。
「女神さまは・・・『眠りの城』が、お気に召さなかったのかも知れませんね」
と、言いました。
「女神の聖域では、人間は生き延びられないことになっているのですから」
「あー。王女殿下は、2年間、あそこにいたんだもんな」
「ええ・・・」
「神さま、ありがとうございました」
私は、あらためて森を拝んで。
「ぐぅ」倒れて寝ました。
◆♀◆ 31、ダンゼイズ領に到着しました ◆♀◆
パカ、ポコ、パカ。
セックスしてぇ!!!
・・・すみません取り乱しました。フターリアです。
爽やかなエピソードの直後に、下品な私ですみません。
けどね!
15歳の健康な娘にね!
何日も何日もセックスもオナニーも禁止って、ムリですよ!!!
イラつくわ!!! 何もかも投げ捨てて逃げ出したくなるわ! お嬢さまとユリかっさらって!!!
「邪気を感じるわ!」
私の前に乗っているお嬢さまが振り向きました。
ぴしっ! フワフワポニテが私の顔に当たりました。
「あいて。・・・さすがお嬢さま。敏感でいらっしゃいます」
「あなたが邪気の源なの?」
「そうですね」
「ヒューマンはこれだから」お嬢さま、前向く。ポニテぴしっ!
「あいて。・・・なんだと、エルフめ」
「フン」
「あ、そう言えば、エルフって発情期ないんですか?」
「ないわよ」
「ないの?」
「人間だってないでしょ」
「ああ、そういう意味ね」
「・・・って、母上の本に書いてあったわ」
「お嬢さまの母上って・・・」
「なによ」
「・・・偉い魔術師なのに、俗世の事にも気が利く御方だなぁと」
「いま母上のこと下品って言った?」
「いいえ。これは純粋に褒めてます」
「いつもは皮肉なの?」
「なんでそんな噛みつくの?」
「イライラしてるから」
「あ、お嬢さまもですか」
「あなたとイチャつきたいのに余裕がないし、あなたはツクノーさまだ女神さまだと浮気するし」
「してませんが? ま、休みは欲しいですよね」
「ええ」
「・・・話を戻しますがね?」
「なに?」お嬢さま、振り向く。ポニテぴしっ!
「あいて。わざとやってます?」
「なにが?w」
お嬢さま、ブルンとポニテ振り回してきました。
「あぶねっ! こいつぅ」
「キャッキャッ」
「まったく・・・それでね? 母上の呪文って、未来を予知してるみたいだと思いません?」
「どこが?」
「私の望みを叶えてくれたり、勇者さまをフタゴンが助けたり、フにゃーリアが役に立ったり・・・」
「偶然じゃないかしら」
「そうですかね?」
「どこかで歯車が狂ってたら、私たちは死んでるわ」
「それはまあ」
「死んでないパターンを、私たちは生きているのよ」
「まあ、はい」
「だから噛み合ってるのは当然よ」
「私の乳妹が哲学的です・・・」
王女殿下の救出から、3泊4日。
我々は、ダンゼイズ領との境まで戻って来ました。
王女殿下の体調を考えて、行きより1泊増やしたのですが。
旅路は順調で、私たちはどの町でも歓迎され、何も問題はありませんでした。
セックスできない以外は・・・
王女殿下は、日に日に顔色が良くなられ、3日目には歩けるようになりました。
勇者さまとツクノーさまが付きっ切りでお世話したのも良かったのでしょう。
おかげでユリとセックスできなかったけどな・・・!
お見舞いには行ったんですけどね。
王女殿下は、ずーっとユリの手を握っておられて、ブン殴りt──ほほえましかったです。
クソぅ・・・。
俺の脳内の『ユリ』が、爽やか勇者に上書きされてゆく・・・
ユリの絶頂のアヘ顔が、もう、思い出せない・・・
人の記憶の、なんと儚いことよ・・・!
などと、憂鬱になっていると。
「どうしたの? ボケーとして」
お嬢さまが振り向いてきました。
フワフワポニテが鼻をくすぐります。
「ッくちゅん。・・・失礼。これはまた、手厳しい御冗談ですわねー。オホホ」
「ボケーとしてたわ。口も半開きだったわ」
「お嬢さま。これはですね。世を儚む思索の表情なんですよ」
「いやらしいコト考えてたのね」
「な、何を根拠に、そのような」
「あなたが難しい言葉を並べるの、いやらしいコト考えてる時だから」
「えっ・・・!」
「ブロロw」私たちの去勢馬が、ベローンと舌を垂らしました。
私たちは、モターズ領を渡り終えました。
深緑川の流れが、目の前に横たわります。
左手には、お城。
橋を渡った先にも、お城。
モターズの城と、ダンゼイズの城ですね。
「行きも思ったんだけど」
「はい」
「ずいぶん近くにお城が建ってるのね? 睨み合うみたいに」
「そうですね」
城を話題にしていると、ダンゼイズの戦士がチラッチラッと私を見てきました。
なんや? しゃべりたいんか?
「──みなさん」
「はっ! 姫」
「なんなりと、フターリアさま!」
「──この城に務めたことのある者はいますか?」
「はい! はい!」「わし、わし」「わしもじゃ」
「──あれ? 結構いるね?」
「そりゃあ、そうじゃ」
「前線じゃったもの。このへん」
「──あ、そうか。魔王と戦ってた頃は、ここも前線だったのね」
「そうじゃ。深緑川防衛線じゃ。ワシらが城を建てて、魔王の軍を叩いてやった」
「モターズのモンも、ずいぶん助けてやったわい」
「──ほほう?」
「じゃというのに、田舎侍どもめ」
「ワシらに文句付けて、こんな見栄っ張りな城を建てよって」
「──付き合いがあったのですか?」
「当然じゃ」
「城に務めとるモン同士、互いの顔は、知っときませんとな」
「──なるほど。顔合わせをね。酒でも呑みながらね?」
「・・・まあ、その」
「・・・ハイ」
「──おい。酒盛りで顔覚えたんじゃなかろうな?」
「そんなコトぁしませんぞ! 酒と女は、ちゃんと町に出て買っt──ぐへっ」モリーヌに蹴られました。バカめ。
「ヤツら、うるさいで。何度も顔を合わせましてな。それで覚えたんじゃ」
「──うるさい?」
「川で泳いだだけで『紛らわしいコトをするな』などと、苦情入れてきよる」
「細かいコトを、うるさいんじゃ。あいつら。オカンか」
「──あははw 仲いいじゃないですか」
「冗談じゃないわい!」
「あんな口ばかりの連中!」
私たちは、空っぽの城の前を通りすぎました。
モターズの人間は、誰も顔を出しません。見張りも居らず、門も開いたままでした。
「・・・田舎侍ども。みな、死んでしもうたんかのう」
「・・・うむ」
パカ、ポコ、パカ。
橋を渡って。
私たちは、ダンゼイズ領に戻ってきました!
すると。
ダンゼイズ側の城から、ワラワラワラ・・・と、戦士が出てきて。
その先頭で、馬上にあって、槍を構えた少年が・・・
「怪しい者ども、そこで止まれい!」
と、ショボい槍を私たちに向けてきました。
「身元が明らかになるまで、このナンカヂーノが、一歩も先には進ませんぞ!」
私は、鞍から飛び降りて、少年に駆け寄りました。
◆♀◆ 32、ナンカヂーノ君、反省する ◆♀◆
状況は一気に緊迫しました。
ガチャガチャッ! コノマーズ騎兵が、槍を構えます。
ザザッ・・・! ダンゼイズの戦士が、剣や斧に手をやりつつ、コノマーズ騎兵に向き直ります。
ツクノーさまが、左手で王女を抱き締め、右手を槍持ちの従者に伸ばしました。『槍を寄越せ』というのでしょう。
勇者さまが列の後ろから走って来ます。「何だ? 何が起こった?」
そして、少年が・・・
「ここからは、ダンゼイズ領である! モターズの者どもは・・・あれ? 姉上?」
「気付くのが!!! 遅いわ!!!」
私は、弟の足を掴んで馬から引きずり落とし、ブン殴りました。
「この! バカ! 何しに! 来やがった!」
「な、何をなさる。やめっ──やめんかクソアマァ!」
弟も殴り返してきました。
力はまあまあ強いですね。
しかし私のほうが強いです。
「フシャーッ!」
フにゃーリアみたいな戦闘ボイスで、弟をビビらせて。
力の抜けたパンチを、頭突きでハネ返して。
頬っぺたをビンタしました。
「ぐへっ」
「てめっこのボケっ何やったかわかってんのかっ」
「な、なにが」
「王女殿下の御前だぞっ」
「は?」
私とナンカヂーノは、土下座しました。
・・・正面に、ツクノーさまの軍馬の足があります。
右には、土下座するナンカヂーノ少年の手が見えます。
ユリの足も見えました。
「下ろしてください」
王女殿下の声がしました。
可愛らしいブーツが、すとん、と、地面に着いて。
私たちに、近付いていらっしゃっいました。
「ダンゼイズ伯爵の御子息ですか?」
「・・・はい」と、ナンカヂーノ。
「今年12になる、不肖の弟です」と、私。「とんだ御無礼をいたしました!」
「そうでしたか。どうぞ、お立ちください」
ネムリタロッカ姫は、そう仰って。
恐る恐る顔を上げた私たち姉弟を見比べて・・・
「たしかに姉弟ですね。美女と美男子ですわ」
「いえ、そんな・・・」
どうやら、許してもらえそうな雰囲気?
と思っていたら、王女の背後から、コノマーズの騎兵隊長が。
「王女殿下。いまの無礼、見過ごしにはできませんぞ! 裁きや、いかに!」
ここでオマエらか。
これは・・・もう、一戦覚悟せなダメかもわからんね・・・。
と、いうところで。
王女殿下が、朗らかなお声で仰いました。
「裁きでしたら──もう、十分のように見えますわ。ご覧なさい」
「・・・なにをです?」
「弟さんの頬っぺたを」
「あっははは! たしかに。紅葉のごとき罰の痕!」
ユリが大笑いしました。
「いかがです、侯爵? 王女殿下のお裁きは」
「そうじゃな」
ツクノーさまも、笑いました。
「軽はずみな口には、女の軽い平手が、似合いであろう」
・・・で。真顔になって。
「ナンカヂーノとやら。覚えておくがよい!」
突然、雷の鳴るような声を出しました。
「いったん武器を抜いたらば、止まるに止まれぬコトもある! そのコトをな!」
「・・・。」
「王女殿下がいらっしゃったこと、一生の幸運と思うのじゃぞ」
「は、はい!」
「殿下。ツクノーさま。ありがとうございました」
私は頭を下げました。
「フターリア姫。あなたは、私の生命の恩人ではありませんか」
「殿下の仰る通りじゃ。我が友、フターリアよ!」
侯爵・・・好き♥
内政ダメっぽいけど・・・そこもまた可愛い・・・。
「フターリア姫は、本来の姿でも、お強いのですね!」
王女は笑って、ふたたび馬上の人となりました。
ツクノーさまが、馬を動かしました。
コノマーズ騎兵も、槍を持ったままで、私たちの前を通り過ぎます。
ユリたちもついていきます。
彼女らが、丘の向こうに消えると・・・
「くそっ!」
「冷や汗かいたわい。今回で一番じゃ」
と、戦士たちがぼやきました。
「・・・姉上」
「なに?」
「俺、その・・・つまり、迎えに来たんだけど」
私は、一瞬、『コイツ斬り捨ててやろうか』と思いまいた。
しかし。
「1カ月、謹慎する。だから、姉上の護衛はできなんだと、父上に言ってくれ──ください」
「・・・そうか」
「はい」
「なんで勘違いした?」
「言い訳はせん」
「説明。手短に」
「何度か、モターズ領から、難民どもが押し寄せて来まして」
「ふむ」
「武装した集団が接近中と聞いて、とうとう強盗に及んだかと、早合点しました」
「わかった」
私は去勢馬に飛び乗りました。
「姉上・・・」
「誰も死ななくて、良かったよ」
◆♀◆ 33、ねこ3匹 ◆♀◆
パカ、ポコ、パカ。
フターリアです。セックスしたいです。
ユリに犯されたい。メッチャクチャにされたい。
俺は本当は男で・・・! とか言って抵抗して。
こんな弱い男がいるかよ、とか罵られて。
気絶するまで犯されたい。
・・・いやね。
弟を助けた私を、戦士たちが褒めてくれるんですよ。
さすがは姫じゃ! 立派でしたぞ! とか言って。
ちがうんだよ。俺、一瞬、弟を斬ろうかって思ったんだよ。
冷徹な計算とかじゃなくて。
私まで巻き添えにされる! って、ビビってだよ。
俺、そんな人間なんだよ・・・!
って叫ぶのをガマンしてたら。
ユリっぽい──もとい、マゾっぽい考えが湧いてきたんだよ。
あいつならわかってくれるのかなぁ。
訊いてみたいけど・・・先に行っちゃったんだよなぁ。
くっそー・・・。
ナンカヂーノ! ユリを遠ざけた恨みは忘れんぞ・・・!
などと呪詛しつつ。
私たちは、その日の宿にたどり着きました。
「フターリアさまぁーーー!」
「ダンゼイズ! ダンゼイズ!」
「姫ぇー! カッコいいですーーー!」
大歓迎です!
お嬢さまにしっかり手を回して、2人一緒に手を振ってあげると、
「キャーーー!!!」
「アイメンカのお姫さまぁーーー!!!」
「ダンゼイズのドラゴンさまーーー!!!」
「お似合いですぅーーー!!!」
「お・・・おお・・・!」
私は、すっかり元気になりました。
ええのう。若い女子の黄色い声!
よく見れば、美人も多いし!
よいところじゃ。ダンゼイズ!
「ぬっふっふ♥ お似合いですって!」
「顔、ゆるんでるわよ」
宿は、侯爵たちとは別でした。
宿の主人に訊くと、同じ宿の予定だったが、ナンカヂーノから急使が来て、慌てて分けたとのこと。
ユリに会えぬ・・・!!!
食事が終わった頃になって、町長が挨拶に来ました。
町長。外はもう寒いのに、汗をかいてます。
「私たちは満足していますわ。それより、殿下のお世話、しっかりね」
と言って上げたら、じゃ! みたいな感じで走って行きました。
「・・・身分の差を感じますわね」
「世の常よ」
ハーフエルフの美少女さんは、ポニテ解いてフワッとさせました。
「お嬢さまは、冷静ですね」
「『妾腹の娘』歴13年のベテランよ」
寝室です。
お嬢さまはベッドに寝転んで、お母さまの魔術本を開きます。
私はお茶の準備です。
と言っても、暖炉はすでに具合良くしてあり、お湯も沸かしてありましたが。
「・・・次はどんな魔術を覚えようかしら」
「カッコいい呪文あります?」
「『種馬にな~れ』で、タネゴンってのはどう?」
「フターリア要素が足りませんな」
私はお茶を淹れました。
魔術本を覗いてしまわないよう、お嬢さまの足元に目を逸らしながら、カップはちゃんと枕元に配膳します。
「お尻を見てるの?」
「見てませんって」
「私なんて見る価値もないと言うのね!」
「理不尽な御立腹」
「正妻は理不尽なものよ」
「偏見ですよね?」
お嬢さまは寝っ転がったままお茶を啜りました。
「寝たまま食べると牛になりますよ?」
「一緒に牛になりましょうか」
「イヤです」
「私とは一緒になれないって言うのね!」
「牛になりたいんかオマエは! あーん!?」
「きゃあ♥」
私は、お嬢さまの髪をクシャクシャにして、左右にツノみたいに絞りました。
ツインテールですね。
「もー・・・♥」
こっちを見上げるお嬢さまが凶悪に可愛かったことは、言わないでおきますね。
私はポニーテイル派なんですが・・・
この娘は、好みとかブチ壊すぐらい可愛いからな・・・
「はぁ。可愛い・・・」言っちゃった。
「いまさらお世辞言ってもダメよ!」
「お世辞なんて・・・」
「お世辞も言えないっていうのね! 泣くわよ!」
「オマエなw」
コン、コン。ノックの音がしました。
「アスカリアのユリです。お嬢さまがた、いらっしゃいますか?」
「はいっ♥」
「ホントに泣くわよ!?」
「すみませんでした」私は、ひれ伏しました。「・・・開けていいですか?」
「いいわよ。淫乱」
「くっ・・・!」
私は辱めに耐えて、ドアを開け、ユリを迎え入れました。
「失礼いたします。御二方」
とか言って入ってきた彼女は、ドア閉めた途端、
「リアぁ~~~!」
と、倒れてきました。
熱い身体。フニャフニャになっています。
「なんじゃ。どうした?」
「ひどい」ユリは唇を尖らせました。お嬢さまに、「ねえ聞いた? いまの。『どうした』だって」
「私よりマシよ!」
「えーと、すみません。お嬢さまは一番です」
「当然よ!」「・・・は?」
「ユリは浮気だから」
「はァ?!」
「いやオマエだって浮気だろ」
「ボクもう帰る」
ふくれっ面になったユリを、私は後ろから引き留めました。
「まあまあ。綺麗な火の髪のお嬢さん」
「・・・。」
「せめて、お茶の一杯を呑むあいだ、この浮気者に、その綺麗な御髪を愛でさせて下さいな」
ネコ撫で声で囁きながら、抱き締めたユリの胸に手を這わせ、首筋に頬をこすりつけます。
『帰る』と言った時点ではカチッと締まっていたユリの身体が、ふたたびフニャフニャになるのを感じました。
この娘は、ココがすごく可愛いです。
黙ってても、身体の反応で気分が読めちゃう。
私は調子に乗って、彼女の赤毛に鼻を埋めて、囁きました。
「フターリアは浮気者です。ですが、ユリ、あなたのコトは、ホントに大切に思ってます」
「・・・そう?」
「うん」
「リア♥」
「ユーリア♥」
「見せつけるだけなら帰ってくれないかしら!」
「ごもっとも」「ごめんごめん」
私たちは、ベッドに移動しました。
お嬢さまに、私が抱きついて。
その私に、ユリがしなだれかかる形です。
えー・・・
なんかその・・・
エロいというよりか・・・
ネコが3匹、一緒に寝てるみたいな。そんな感じです。
ま、あったかくて気持ちイイんで、いいんですけど。
「はぁ・・・落ち着く・・・」
ユリが似たような感想を洩らしました。
「だよね」
「犯されたい・・・」
「落差がひどいな」
「ンだよー。おまえボクのコト犯したくないのかよー」
「犯したいw」
「だろw」
「今日に限っては、ユリに犯されてみたい」
「・・・ほう?」ユリの眼がキラーンと光りました。
「一応言っておくけど、」と、お嬢さま。「ここの壁は薄いわよ」
「はい・・・」「は~い・・・」
私とユリは欲求不満顔で見つめ合い、キスしました。
ちょっとワインの匂いがする。コイツ呑んだな?
お嬢さまが唇を尖らせたので、私はお嬢さまにもキスをしました。長めに。
するとユリが不満を浮かべ、私を押しのけてお嬢さまにキスしました。
白い白いお嬢さまの頬が、赤くなってゆきます。
「・・・。」
私は、ユリを押し倒しました。
「あ・・・」
小さく喘ぐ彼女を、仰向けに押え付けて。
覆いかぶさって。
強いだけでなく女らしくもある首筋に、カプッと噛みつきました。
「あ、あン・・・♥」
「お嬢さま、今です」
「なにが?」
「『フタナリにな~れ』するなら、今しかありませんよ。カモン!」
「壁薄いって言ってるでしょ!」
「はい・・・」「は~い・・・」
私たちは、またネコ一緒寝モードに戻りました。
お嬢さまは、足パタパタしながら本を読んでおられます。
そんな彼女を挟んで、私はユリに謝りました。
「ユリ」
「なに?」
「今日、ごめん。弟のこと」
「いいさ。まだ12歳だろ?」
「うむ。彼が言うにはだね──」
私は、弟が勘違いした経緯を説明しました。
「なるほど。ありそうな話だ」
「助けてくれて、ありがと」
「王女のおかげさ。彼女が怒ってたら、私は口を出せなかった」
ユリは、私に頭をくっつけました。
それから、お嬢さまの髪を、そっと撫でました。
「私は所詮『王が認めた』勇者だからね。侯爵とは、背景の厚みがちがう」
「動かせない背景だけど」と、お嬢さま。
「それはどうかな」
「勇者と言えばさー、ユリ。これ、訊いちゃダメなのかも知れないけど」
「訊いてみな」
「魔王って、オマエが殺したワケじゃないの?」
◆♀◆ 34、勇者は魔王をどうしたの? ◆♀◆
「貴様! 私を侮辱するのか? ならば血だまりに倒れる覚悟をせよ!」
「へ?」
「それとも、吟遊詩人の歌も聞けぬ田舎者か? ならば行って聞かせてもらえ、私と軍団兵の功績を!」
私が『魔王を殺したワケじゃないの?』と訊いた途端、ユリがお芝居始めました。
なんじゃいきなり?
「──そう言えって、言われてるのね」と、お嬢さま。
あ、そういうコトか。
公式には倒したことになってるから、ホントのことは言えないと。
私たちにすら言えないほどの秘密だから、察しくれと・・・
「ぶっちゃけ、倒してない」
「言うんかい」
「仲間だろ?」
「・・・そうだな。そうだった」
私は、ユリの身体を抱き締めました。
お嬢さまもユリの太腿をポンポンとしました。本読みながらですが・・・。
「魔王は、倒せないらしくてね」と、ユリ。
「なんで倒せないの?」
「元が神さまだったから」
魔王。呪いの悪霊。人を呪い殺すのが得意。
ブレロッケ王国を滅ぼそうとして、勇者に倒された──ことになっている。
元々は、呪いを司る神さまだったと言います。
が、神々の盟約を破って地上に手出しをするようになった。
おまえはもはや神ではない──と追放され、悪霊に転落したそうです。
「その追放の際、マーミクリーテさまに、呪いをかけられたんだってさ」
「魔術の神さまだね?」
「そうそう」
「呪いの神なのに、呪いをかけられたの?」
「そう。皮肉だよねw 3つの才能の呪いだって」
「・・・魔術の3つの才能のこと?」
「そうだよ。『発動』『変容』『妨害』に、人間と同じように、縛られるようになったのさ」
「弱くなったの?」
「うん。大幅に。と言っても、3つの才能すべて高いんだけどね」
「強いじゃん」
「才能に縛られるって時点で、神より弱いのさ」
「他の悪霊は、どうなの?」と、お嬢さま。
「魔王ほど強いのはいないね」
魔王以外の悪霊は・・・
血の悪霊。ヴァンパイアが『神』と崇める、吸血と伝染病の悪霊。日光・火・銀に弱いらしい。
狂犬の悪霊。人間をワーウルフに『変容』させ、オオカミを呑馬狼に成長させるという。水に弱い。
無色の死の悪霊。闇や窪地に潜む目に見えない死。ダークエルフが恐れる悪霊である。風に弱い。
汚泥の悪霊。トロールが『神』と崇める。全身が泥でできた不死の存在だが、火を用いれば動きを止めることができる。
・・・などです。
「どれも強そうだけど」
「魔王ほどじゃないね」
「よく封印できたな・・・」
「ティニーモノーシャさまのおかげだよ」
「母の・・・?」
「そう。あなたの母上の考案した封印なのさ。『誰にも教えてない』って仰ってたけど・・・」
勇者さまは、お嬢さまの髪を撫でながら、チラッと魔術の本を見ました。
私も、お嬢さまの髪を撫でました。
「勇者って、秘密だらけなのね」
「秘密だらけさ。世の中は」
「勇者って、もっとスカッと自由なのかと思ってた・・・」私はため息つきました。
「自由だよ? 身体が動くあいだはねw」
ユリは笑いました。
「ま、元気なウチに、もらうモンはキッチリもらうさ。フッフッフ」
◆♀◆ 35、国王陛下、お待ちになる ◆♀◆
翌日。
今日は一団にまとまって出発しました。
ただし、ダンゼイズを先頭に、ユリを中間に挟んで、コノマーズ──という配置ですがね。
1日かけて、ダンゼイズの都ダマルトに到着すると、国王陛下が城門で待ってました。
「・・・は?」
聞き返した私に、ダンゼイズの伝令はポタポタ汗を垂らしながら、
「国王陛下が、城門にて、お待ちです!」
「やべぇ」
「お嬢さま、急ぎましょう!」
モリーヌに言われて、私は去勢馬の腹を蹴りました。
去勢馬のヤロー、「ア?」って感じでこっちを振り向き、顎をズラして舌をダラリとしました。
「ベローンしとる場合か! 走れ、走れィ」
「ブヒッ」
アホな馬のおかげで、最後尾のコノマーズ騎兵に抜かれてしまいました。
ユリも、『駿馬』の呪文を唱えて、遥か前方をスッ飛んでいっとる。
ツクノーさまは、突っ走りはしませんでした。姫を乗せてますのでね。
城門が見えてくると・・・
「ハイヤー!」
巨大な軍馬に乗った戦士が、お伴を連れて、ズドドドド! とこちらに走ってきました。
お伴の1人が、この国で一番豪華な旗を掲げています。
もう、伝令をもらうまでもありません。
国王陛下です。
バーシー・ブレロッケ王。御歳35歳。
なのに、兜を脱いだその髪は、早くも白髪交じりです。
私たちを見下ろすその目に、死線をくぐった王者の貫祿あり。
私たちは馬を止めて、馬上で頭を下げました。
これは別に無礼ではなく、ブレロッケ王国の野外ではふつうの光景です。
「国王陛下! 姫を、救い出して参りました」
ユリが口を開きました。
「うむ!」
「こちらはアイメンカの姫。後ろは、当地ダンゼイズの姫。私の配下で、大きな功績を上げてくれました」
「うむ。簡潔な報告は聞いたぞ」
「いずれ長々と報告をいたしましょう。ですが・・・」
ユリが言葉を切ったところに、ツクノーさまの馬が到着しました。
「・・・いまは、姫君のため、また最大の功労者のために、口をつぐむべきでしょうな」
「陛下。お待たせいたしました」
「ツクノー! よくやってくれた」
「父上」
「ネムリタ、おいで!」
国王は、馬上で娘を抱き締めて、涙にくれました。
「・・・ユリ。聞こえたぞ。ひどいことを申すのう?」
ツクノーさまが引き返してきて、私の隣に並びました。
「最大の功労者が、ツクノーじゃと。どう思う? フターリア姫」
私の脇腹を突っ付いてきます。
「その栄誉は、そちのものであろう? なあ? クロ」
「・・・光栄ですわ。けれども、」
私は、にっこり笑って返しました。
「ツクノーさまと“コノマーズの黒”なくして、私たちは生還できませんでしたわ」
「なんと? そち、領地はいらぬと申すか?」
「いや、領地は頂く」ユリが答えました。
「ほう? 私を『最大の功労者』と言いつつ、実利はかすめ取ると、こう申すか」
「いいえ?」
ユリは、ほほえみました。
「私は、約束された正当な報酬を、頂くだけですよ」
◆♀◆ 36、アスカリア伯爵、ユリ ◆♀◆
「最大の功労者であるコノマーズ侯爵には、約束通り、領地を与えよう」
ちょっと涙の跡のある国王陛下。
ダンゼイズ城の大広間(馬で入れるトコね)で、功績を決定なさいました。
王都で発表するんじゃないの? って言われそうですけどね。
「よくやったな。褒めてやるから王都まで来い」
なんて言おうもんなら、
「ア? ウチの都じゃ発表できねえってのか!」
忠誠度ダウン! です。
逆に、王が来てくれれば「名誉なことじゃ!」と、大喜びする。
ウチの父も、涙流して喜んでますからね。
これが、ブレロッケ王国です。
「そして、」
陛下は、ユリを見ました。
「第二の功労者、アスカリアの勇者にも、領地を与えよう」
そして、私に目をお留めになられました。
「勇者に協力した、ダンゼイズの姫フターリア。娘を目覚めさせてくれた恩人よ。そなたにも、深く感謝する」
私たちは、揃って頭を下げます。
ツクノーさまと、コノマーズ騎兵。
ユリ、マレーナ、ダーリン。
私、テニッサメイズお嬢さま、モリーヌと、ダンゼイズの戦士たち。
そして、付き従ってくれた下男ども。
ずらりと並んで、陛下に頭を下げました。
・・・ユリにも領地与えるって言ったよね?
ホンマかいな? ずいぶん大盤振る舞いですよね。
「ツクノーよ。そなたには、地続きの領地を用意できるぞ。ハクアミの港じゃ。どうかな?」
「この上ない褒美でございます」
ツクノーさまは、南方の港を1つもらったようです。
おそらく、莫大な恩恵があるハズです。
「ユリ。そなたには3つの褒美がある。1つ目は、『冒険者の村』じゃ」
「喜んで」
おっと?
これはひどい・・・。
『冒険者の村』は、アイメンカ侯爵領の南方にある、自由領の村です。
自由領とは、ぶっちゃけ、無法地帯のこと。
領主が殺されたりして、統治不能になってる土地です。
そんな土地の、村ひとつを、『褒美』と抜かしたか?
と、私が血圧を上げていると。
「冒険者の村は、そなたの生地。実質的に支配もしておるようじゃが、今後は、正式に任す」
「はい」
「2つ目は、爵位じゃ。そなたは今後、アスカリア伯爵を名乗るがよい。そして──」
国王は、声を一際大きくしました。
「3つ目は、モターズ伯領じゃ。ここを、アスカリア伯爵の領地とするがよい!」
「この上ない褒美でございます」
うーん・・・???
滅亡したモターズ伯爵領を治めろと来ましたか。
それ、ユリの持ち出し(おそらく多額の借金含む)で、復興しろってことですよね?
しかも、冒険者の村からは、歩いて何日もかかる飛び地ですわ。
あと、これは雑魚情報なんですけどね?
うちの父ちゃんが、ユリを値踏みするような目で見てるんですよね。
領地切り取れるかな? っていう目ですわ。
やめとけ。死ぬぞ。
貧乏クジ + 飛び地 + ユリとフターリアの分断・・・って感じですか?
やってくれたな、バーシー・・・!
「──そして、2人の勇士を助けた者どもよ。そなたらも、私からの褒美を受け取るがよい」
バーシー・ブレロッケ国王が、そう仰ると。
巨大な櫃が、広間に運び込まれました。
ギィ・・・と、フタが開かれます。
中には、金銀財宝が!
従者たちが、それを私たちに配りました。
私には、黄金の首飾りと腕輪、そして(気が利いたことに!)後ろ髪を留める白銀のピン。
テニスお嬢さまには、魔術師の使う杖──に、宝石をたっぷりつけたもの。
マレーナ姉さんには、黄金の象嵌入りのクロスボウ。なんと王家の紋章入りです。こりゃ実用はできんな。
ダーリン姉ちゃんや下男どもにもは、金貨・銀貨・銅貨が配られました。
装飾品じゃないのは、「気兼ねなく生活に使いなさい」という意味でしょうね。
ツクノーさまやユリには、それぞれ、櫃が丸ごと1箱ずつ与えられました。
全員が満足したところで。
ネムリタロッカ王女が、にっこり笑って、仰いました。
「みなさん、ありがとう。
冷たい呪いの眠りから、私を呼び戻してくれて。
ツクノーさま。ユリさま。フターリアさま。みなさん。
まこと、あなたがたのおかげです。ありがとうございました」
私たちは、宴を開きました。
寒い夜にも眠りにも負けない火を焚いて。
◆♀◆ 37、みんなの希望 ◆♀◆
宴のあと。
私たちは、『城壁の間』に引き揚げました。
ダマルトの町は、お祭り騒ぎです。
あの大広間に、みんなが出入りして・・・。
貴族と戦士だけではありません。地元の住民から旅人から、みんなです。
国王に御挨拶をし、タダで飲み食いさせてもらい、酔っぱらって帰るのです。
帰り際には、金貨を1枚ずつ頂いたりもして。
もう、バカ騒ぎです。
父ちゃんと母ちゃんは大変だろうなー。
けど私は逃げます。私は、セックスしたいかr──大変だったからね!
「うー・・・」
「しっかりしろ」
私は、ダーリン姉ちゃんと2人で、フラつくアスカリア伯爵閣下を支えております。
女伯爵のユリちゃん。だいぶダメな感じです。
「ユリが酔っぱらうの、初めて見たわ」
「私もです」マレーナさんが、私の後ろで言いました。「家臣団との交渉が大変だったようで」
「姫を救い出したら、領地を与えるって、バーシーが言ったんだ・・・」
と、ユリ。
「リアの分も、あるから・・・、飛び地でもいいって、ブン獲った・・・」
「私のぶん!?」
「当然だろ・・・王女助けたの、オマエだし・・・」
「私、まだ15歳だぞ?」
「私だって20歳だよ・・・」
「改めて、おめでとうございます。ユリさま」と、お嬢さま。
「ありがとー・・・」
「これで、私たちの希望も、叶う望みが出てきましたわ」と、マレーナさん。
「・・・。」
私は、沈黙しました。
希望か。
お嬢さまの希望。
恋愛したいとか、勇者さまに雇ってもらいたいとか、言ってはいたけど・・・。
本音は『家に帰りたくない』だよな。
それは、どうなんだろう?
・・・と、考え込んでいると。
ボフッ。お嬢さまに、尻を叩かれました。
宝石のいっぱい付いた杖で。
「あいた!? なんてコトすんの!?」
「あなたの希望もよ、ファリア」
「私も?」
「当然でしょ」ほほえんで、マレーナ姉さん。「私たち、みんなの希望です」
「・・・そっか」
そうか。アスカリア伯爵閣下が成功すれば、私たちも成功できるのか。
私は・・・
私の希望って、なんだろ?
お嬢さまと主従水入らずのヤリまくり生活?
アスカリア伯爵の屈服セックス?
あれ?
もしかしてフターリアって、ただの淫乱・・・
ハイ! ちょっと置いときましょう。私のコトはね。ハイ置いといた。
みんなの希望ね。
そうか・・・!
「よっしゃ! んじゃ、頑張りますか」
「よろしくね、ダンゼイズの姫・・・」
「うむ!」
私たちは、『城壁の間』にたどり着きました。
「と、ところで、今夜なんだけど? ハァハァ」
「ごめん。無理・・・」
「だよね。ごめんごめん。ハハハ・・・ハァ」
セックスしてぇ・・・!!!
ボフッ。私は、また尻を叩かれました。