※この作品はR-18です。

TSゆりフタ令嬢侍女メイド!   作:min(みならい)R18

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アスカリア伯爵、ユリ

◆♀◆ 29、フターリア、ヘロヘロになる ◆♀◆

 

 フターリアです。

 疲れ果てた哀れな伯爵令嬢です。

 名も知らぬ女の粘着に耐えています。

 

「その、眠りの触手? とやらの戦闘について。いま少し詳しくお聞かせ願えますか?」

「よく覚えていません・・・夢の中のことですから。ですが、少なくとm──」

「あっ、ハイハイ。フターリア姫は状況を把握しておられなかった」

 女はメモを取ります。

 私は、ボーッとその手の動きを見てから、

「把握はしていました・・・」

「はい? 次の質問行ってよろしいですか?」

「いいえ・・・把握はしていたと申しております。いまのメモ、訂正して頂けますか?」

「訂正の必要はございませぇん。メモは適切に取ってございます。次の質問ですが、」

 

 ツクノーさまの『報告』、四半刻。

 それから私の『報告』、1刻。

 映画を余裕で見終わるぐらいの時間、私は、この女に粘着されています。

 初めはピンと立っていたフにゃーリアの耳も ─(・_・)─ こうなり、ついには消えてしまいました。

 素ターリアです。眠くてたまりません・・・。

 

「いい加減にせんか! ダンゼイズの姫に対して、なんたる無礼。いつまで引き留める気じゃ!」

 とうとう、同席しているダンゼイズの戦士が怒鳴りました。

 しかし、女文官(?)の鉄面皮には通用しません。

「可及的速やかに終わらせてお休み頂きたいと存じます。ところでぇー、最初に戻りますがぁー、」

 

 ・・・ま、そろそろですかね?

 これ以上引き延ばすと、ウチの戦士が剣を抜きそうですからね。

 ってか、私も3回ほど斬り捨てました。この女。頭の中でね。

 

 私は背筋を伸ばし、パッチリと目を開けて、女を見ました。

 『疲れ果てた哀れな伯爵令嬢』はここまでよ!

 

「──そなたは、主の報告も、このように聞き流したのですか?」

「はい? 最初に戻ってよろしいですか?」

「あっ、ハイハイ。私の発言だけ故意に聞き流していると」

 私は、相手の口調をマネしました。

 そして、立ち上がります。

「時間の無駄のようですから、私は食事を取って、眠りますわ」

「あっ、報告を拒否なさると! では、国王陛下にそのように──」

「あっ、1刻もの報告をなかったことにすると! ではツクノーさまに、そのように伝えます」

「・・・。」女文官は黙りました。

「・・・ツクノーさまは、お休み中じゃ」コノマーズの騎兵が、代わりに口を開きました。「面会は認められぬ」

「どなたか存じませんが、あなたの許しは求めておりませぬ」

「ダンゼイズの姫! 言わせて頂きますが、そもそm──」

「忠告なら間に合っておりますわ。ダンゼイズ は 忠臣に恵まれておりまして」

 私は顎をしゃくって、ダンゼイズの戦士に命令しました。

「者ども! 引き揚げじゃあ!」

「おう!」

 

「・・・ファリア。あなた、いつから武将になったの?」

「はて? いつからでしょうな」

「もうw」

 お嬢さま。

 まだ毛布にくるまって、ショボショボした目をしてらっしゃいます。

 でも、姿勢は正して。

「ごめんなさい。あなたが帰って来たら、気が抜けちゃって。完全に寝てしまったの」

「いえいえ」

「無理もありません」

 モリーヌがそう言いました。

「テニスお嬢さまは、限界まで魔術を使っておられました。失態は、私だけにあります」

 彼女、麦粥を温めてくれてるんですがね。

 平然と粥を掻き回してるんですよね。

 あんま反省してないだろ、オマエ。

「モリーヌはどこにいたの?」

「コノマーズの騎兵に『手伝ってくれ』と言われて、丘の向こうの確認に・・・」

「昨日は、モリーヌが鬼を連れ回したのにね。今朝は逆になったわ」

「鬼?」

「髑髏大鬼よ。昨夜攻めてきた」

 

 ツクノーさまと私が、『眠りの城』を攻略するあいだ。

 外は、ガイコツの軍勢に襲われていました。

 髑髏大鬼7体、髑髏老魔1体、そして髑髏狼人が、ウジャウジャと。

 一時、かなりの劣勢だったとか。

 ユリが舞い戻って、なんとか死者0で乗り切ったんだと。

 

「モリーヌはね、1人で大鬼を1体引っ張って、遊兵にしたのよ」

「よくやった」

「光栄です」

「ガイコツ戦では、とても協力的だったのよ。コノマーズ」

「ツクノーさまも好人物でしたよ」

「でも、家臣は掌握できてない?」

「たぶん。昨日も、私たちの面前で怒鳴られてたじゃないですか」

「そうね。なるほどね。よくやってくれたわ、フターリア」

「お嬢さまの侍女ですから。フッフッフ・・・」

「テッテッテ・・・」

 

 私とお嬢さまは、悪い笑みを浮かべました。

 他家の弱点。すなわち、我が家の得点ですからね!

 

「ところで、テッテッテってなんです?」

「テニスだからテ」

「は?」

「フターリアだからフッフッフなんでしょう?」

「んなワケあるか」

「モッモッモ──やぁン♥」

 モリーヌは牛みたいだったので、乳を掴んでやりました。

 そのあと、彼女は真面目な顔になって、

「コノマーズの騎兵は、一度も制止しなかったのですか? 食事を勧めたりも?」

「全然。私が出ようとしたら、偉そうにケチつけただけ」

「・・・。」

 モリーヌは剣の柄に手をやって、3回ニギニギしました。

「オマエなに考えたいま」

「コノマーズを3人ほど。頭の中で」

「ばかもの」

「考えなかったのですか・・・?」

「考えた」

「ですよね!」モリーヌは晴れやかな笑顔になりました。

 ダンゼイズの戦士、脳筋すぎる・・・。

 で。

「どうぞ」

「ありがとう。頂きます」

 

 温かい麦粥を啜っていると、マレーナさんが天幕を訪れました。

 

「ファリアさま。申し訳ございません。私、惰眠をむさぼっておりました」

「無理もないわ」と、お嬢さま。「マレーナも、魔法を使い続けていたもの」

「ありがとうございます。ですが、ユリが動けないときは、私が代理ですから」

 マレーナ姉さんは、頭を下げました。

 そして、金一封を差し出して来ました。

「フターリア姫への嫌がらせを防げなかったこと。このマリエレジーナの責任です。謝罪いたします」

「許します」私は受け取りました。「ま、得点も上げたしね!」

「得点」

「コノマーズ家臣団は高圧的です。ツクノーさまは、侯爵家を掌握できていないのかも知れません」

「なるほど・・・」

 マレーナさんはニヤリとしました。

「侯爵への苦情は、ユリからということで、よろしいですか?」

「ええ、お任せするわ」とお嬢さま。「今回、リーダーはユリですものね」

「はい。──ファリアさま。二度とこんなマネはさせません。御安心ください」

「ありがと、マレーナ姉さん」

「・・・姉さん?!」

「なんとなく」

「そ・・・そうですか」マレーナさんは、はにかんで、「ではまた。身分高き妹よ」天幕を出てゆきました。

 

「なるほどね・・・」

「なにがなるほどなの?」

「ユリは、ああいうタイプに弱いのかな・・・と」

「どういうタイプ?」

「裏表あるタイプ」

「・・・・・・・・・。」お嬢さま、私の顔をジーッと見つめて、「なるほどね!」

「なにがなるほどなの?!」

 

 私は、麦粥を食べ終えるまでに、かいつまんだ報告をしました。

 本来、こっちが最優先なんじゃがのう・・・

 

「・・・あの、」

 報告を聞き終えたモリーヌ。

 真っ青な顔になって、こう言いました。

 

「そのトラ・・・ヒサモンモーリアさまではありませんか・・・?」

 

◆♀◆ 30、あのトラ、ウチ ◆♀◆

 

「女神の、ヒサモンモーリアさまのこと?」

「そうです。日の差さない森の女神の」

「まさか・・・」

「ヒサモンモーリアさまの聖域で生きてゆけるのは、闇のトラだけと言います」

「ふむ」キジトラのトラを、私は思い浮かべました。

「刃歯虎という・・・」

「やいばっこー?」

「ものすごく長い牙をしたトラです」

「ふむ」ちがったわ。

「魔王軍の怪物じゃなかったかしら?」と、お嬢さま。

「はい。魔王に仕える怪物であり、ヒサモンモーリアさまの森に棲む聖獣でもあるのです」

「私が会ったのは、ふつうのトラだったけどな・・・」

「あなた、トラ見たことあるの?」

「ないですね」

「ふつうのトラをなんで知ってるの?」

 

 あ、しまった。失言した。

 寝不足だとダメだな。

 

「なんでと言われても・・・」誤魔化しました。「なんせ、牙はふつうの長さでした」

「刃歯虎でないのなら、ヒサモンモーリアさまでしょう!」

 モリーヌは立ち上がりました。

「いますぐに、御礼のお供えをしなくては!!!」

「・・・寝てからじゃダメ?」

「ダメです!!!」

 

 モリーヌに急かされて、私はフラフラと森に向かいました。

 マレーナ姉さんも付いて来ました。ダンゼイズの戦士もワラワラと付いて来ました。

 着きました。

 まあ、丘を下ってすぐですからね。森。

「ファリアさまが出て来たのは・・・このあたりでしたか?」

「はて・・・」「どこも同じようじゃし・・・」

「ここよ!」と、お嬢さま。

 

 モリーヌと戦士たちが、即席の祭壇を造り始めました。

 

「よくわかりましたね。どこも同じようなのに。エルフの血でしょうか?」

「さあ? ともあれ、見たものをそのまま覚えるのは得意よ」

「そう言えば、フタゴンも速攻で覚えてましたねぇ」

 

 石を積んで、綺麗な板を渡して、絹の布をかぶせて。

 私が、女神さまに御礼申し上げて、お酒とお肉を備えました。

 

「ダンゼイズ式であれば、香木と香油を焚くのですが」とモリーヌ。

「やめたほうがいいと思うわ!」

「うん。私もそう思う」

「じゃ、ファリア。パンツずらして?」

「・・・あのね? テニスさま。いまね、戦士がいるんですよ」

「知ってるけど」

「なんでそんなクソビッチにしようとしますか?」

「フにゃーリアのほうが喜ばれるんじゃないかと思って」

「・・・なるほど!」

 

 私は、木の陰に隠れて、パンティとタイツをずらしました。

 お嬢さまが、私をネコ娘にします。

 

「フニャー」

「ふわぁ」

 お嬢さまは、大あくびをしました。

「あれ? 大丈夫ですか?」

「ダメ・・・」

 寝不足のお嬢さま。『ネコ娘にな~れ』一発でダウンです。

 モリーヌが、お嬢さまをおんぶして天幕に引き返しました。

「やれやれ・・・」

 私がため息をついていると、マレーナ姉さんが袖を引っ張ってきました。

「ニャんですか?」

「・・・。」

 後ろ、後ろ、と、マレーナさんが目で示します。

 珍しく動揺してらっしゃる様子。

 

 振り向くと。

 トラ娘がいました。

 

 ・・・トラじゃないですよ? トラ娘ね。

 

 褐色の肌に、黒とダークグレーの髪。キジトラみたいなシマシマの髪です。

 トラ耳のダークエルフですね。

 トラ縞の服が、身体にぴっちり張りついてます。こっちは銀・黒です。

 私を見て、ニンマリと笑うその顔は、すごい美人です。

 それでいて、美しさよりは愛嬌が先にくるぐらい、愛くるしいです。

 

「あ、どうも。お姉さん。こんニャちは」

「ん」

 トラ縞のダークエルフさん。

 手を出してきました。

「アメちゃん食べる?」

「これはどうも・・・頂きます」

「ん」

「あー。眠い頭に染み渡る・・・」

「おいしい?」

「うミャい、うミャい・・・」

「ほほほ」

 ダークエルフさん、笑いました。

「アメちゃん1個で喜んでもろうて(もらって)・・・こっちが悪いみたいやわぁ。ねぇ?」

「いえいえ。ホントに。ニャんか力が湧いてきました」

「ん。ほなね」

「あのぅ・・・今朝助けてくださったトラさんは、お姉さんでしょうか?」

「あのトラ、ウチよ」

「やっぱり! でしたら、こちらのお供えを、いかがですか?」

「それ私のん?」

「ヒサモンモーリアさまへのお供えなんですけども」

「私がもろうてええのん?」

「はい。お姉さんは、きっと女神さまの御意志でいらっしゃったのでしょうから。お怒りにはなられないかと」

「ほほほ」

 ダークエルフさん、口に手をやります。優雅な仕種。

「そやねぇ。まぁ、ある意味、女神さまの御意志やわねぇ。ほな、頂いてくわぁ」

 

 お供え物は、パッと消え去りました。

 

「・・・え?」

「ほなね。もう入って来たらアカンで」

 ガサガサ。

 お姉さんが森に入ってく音がしました。

「今回は、あのお城潰してくれたからねぇ。出してあげたけどねぇ。次はないから」

 

 気のせいでしょうか。

 彼女の頭に、黒いネコが乗っていた気がしました。

 

 帰って、モリーヌに報告すると。

「女神さまは・・・『眠りの城』が、お気に召さなかったのかも知れませんね」

 と、言いました。

「女神の聖域では、人間は生き延びられないことになっているのですから」

「あー。王女殿下は、2年間、あそこにいたんだもんな」

「ええ・・・」

「神さま、ありがとうございました」

 私は、あらためて森を拝んで。

 

「ぐぅ」倒れて寝ました。

 

◆♀◆ 31、ダンゼイズ領に到着しました ◆♀◆

 

 パカ、ポコ、パカ。

 

 セックスしてぇ!!!

 

 ・・・すみません取り乱しました。フターリアです。

 爽やかなエピソードの直後に、下品な私ですみません。

 

 けどね!

 15歳の健康な娘にね!

 何日も何日もセックスもオナニーも禁止って、ムリですよ!!!

 イラつくわ!!! 何もかも投げ捨てて逃げ出したくなるわ! お嬢さまとユリかっさらって!!!

 

「邪気を感じるわ!」

 私の前に乗っているお嬢さまが振り向きました。

 ぴしっ! フワフワポニテが私の顔に当たりました。

「あいて。・・・さすがお嬢さま。敏感でいらっしゃいます」

「あなたが邪気の源なの?」

「そうですね」

「ヒューマンはこれだから」お嬢さま、前向く。ポニテぴしっ!

「あいて。・・・なんだと、エルフめ」

「フン」

「あ、そう言えば、エルフって発情期ないんですか?」

「ないわよ」

「ないの?」

「人間だってないでしょ」

「ああ、そういう意味ね」

「・・・って、母上の本に書いてあったわ」

「お嬢さまの母上って・・・」

「なによ」

「・・・偉い魔術師なのに、俗世の事にも気が利く御方だなぁと」

「いま母上のこと下品って言った?」

「いいえ。これは純粋に褒めてます」

「いつもは皮肉なの?」

「なんでそんな噛みつくの?」

「イライラしてるから」

「あ、お嬢さまもですか」

「あなたとイチャつきたいのに余裕がないし、あなたはツクノーさまだ女神さまだと浮気するし」

「してませんが? ま、休みは欲しいですよね」

「ええ」

「・・・話を戻しますがね?」

「なに?」お嬢さま、振り向く。ポニテぴしっ!

「あいて。わざとやってます?」

「なにが?w」

 お嬢さま、ブルンとポニテ振り回してきました。

「あぶねっ! こいつぅ」

「キャッキャッ」

「まったく・・・それでね? 母上の呪文って、未来を予知してるみたいだと思いません?」

「どこが?」

「私の望みを叶えてくれたり、勇者さまをフタゴンが助けたり、フにゃーリアが役に立ったり・・・」

「偶然じゃないかしら」

「そうですかね?」

「どこかで歯車が狂ってたら、私たちは死んでるわ」

「それはまあ」

「死んでないパターンを、私たちは生きているのよ」

「まあ、はい」

「だから噛み合ってるのは当然よ」

「私の乳妹が哲学的です・・・」

 

 王女殿下の救出から、3泊4日。

 我々は、ダンゼイズ領との境まで戻って来ました。

 王女殿下の体調を考えて、行きより1泊増やしたのですが。

 旅路は順調で、私たちはどの町でも歓迎され、何も問題はありませんでした。

 

 セックスできない以外は・・・

 

 王女殿下は、日に日に顔色が良くなられ、3日目には歩けるようになりました。

 勇者さまとツクノーさまが付きっ切りでお世話したのも良かったのでしょう。

 

 おかげでユリとセックスできなかったけどな・・・!

 

 お見舞いには行ったんですけどね。

 王女殿下は、ずーっとユリの手を握っておられて、ブン殴りt──ほほえましかったです。

 クソぅ・・・。

 俺の脳内の『ユリ』が、爽やか勇者に上書きされてゆく・・・

 ユリの絶頂のアヘ顔が、もう、思い出せない・・・

 人の記憶の、なんと儚いことよ・・・!

 などと、憂鬱になっていると。

「どうしたの? ボケーとして」

 お嬢さまが振り向いてきました。

 フワフワポニテが鼻をくすぐります。

「ッくちゅん。・・・失礼。これはまた、手厳しい御冗談ですわねー。オホホ」

「ボケーとしてたわ。口も半開きだったわ」

「お嬢さま。これはですね。世を儚む思索の表情なんですよ」

「いやらしいコト考えてたのね」

「な、何を根拠に、そのような」

「あなたが難しい言葉を並べるの、いやらしいコト考えてる時だから」

「えっ・・・!」

「ブロロw」私たちの去勢馬が、ベローンと舌を垂らしました。

 

 私たちは、モターズ領を渡り終えました。

 深緑川の流れが、目の前に横たわります。

 左手には、お城。

 橋を渡った先にも、お城。

 モターズの城と、ダンゼイズの城ですね。

「行きも思ったんだけど」

「はい」

「ずいぶん近くにお城が建ってるのね? 睨み合うみたいに」

「そうですね」

 城を話題にしていると、ダンゼイズの戦士がチラッチラッと私を見てきました。

 なんや? しゃべりたいんか?

「──みなさん」

「はっ! 姫」

「なんなりと、フターリアさま!」

「──この城に務めたことのある者はいますか?」

「はい! はい!」「わし、わし」「わしもじゃ」

「──あれ? 結構いるね?」

「そりゃあ、そうじゃ」

「前線じゃったもの。このへん」

「──あ、そうか。魔王と戦ってた頃は、ここも前線だったのね」

「そうじゃ。深緑川防衛線じゃ。ワシらが城を建てて、魔王の軍を叩いてやった」

「モターズのモンも、ずいぶん助けてやったわい」

「──ほほう?」

「じゃというのに、田舎侍どもめ」

「ワシらに文句付けて、こんな見栄っ張りな城を建てよって」

「──付き合いがあったのですか?」

「当然じゃ」

「城に務めとるモン同士、互いの顔は、知っときませんとな」

「──なるほど。顔合わせをね。酒でも呑みながらね?」

「・・・まあ、その」

「・・・ハイ」

「──おい。酒盛りで顔覚えたんじゃなかろうな?」

「そんなコトぁしませんぞ! 酒と女は、ちゃんと町に出て買っt──ぐへっ」モリーヌに蹴られました。バカめ。

「ヤツら、うるさいで。何度も顔を合わせましてな。それで覚えたんじゃ」

「──うるさい?」

「川で泳いだだけで『紛らわしいコトをするな』などと、苦情入れてきよる」

「細かいコトを、うるさいんじゃ。あいつら。オカンか」

「──あははw 仲いいじゃないですか」

「冗談じゃないわい!」

「あんな口ばかりの連中!」

 私たちは、空っぽの城の前を通りすぎました。

 モターズの人間は、誰も顔を出しません。見張りも居らず、門も開いたままでした。

「・・・田舎侍ども。みな、死んでしもうたんかのう」

「・・・うむ」

 

 パカ、ポコ、パカ。

 橋を渡って。

 

 私たちは、ダンゼイズ領に戻ってきました!

 

 すると。

 ダンゼイズ側の城から、ワラワラワラ・・・と、戦士が出てきて。

 その先頭で、馬上にあって、槍を構えた少年が・・・

「怪しい者ども、そこで止まれい!」

 と、ショボい槍を私たちに向けてきました。

「身元が明らかになるまで、このナンカヂーノが、一歩も先には進ませんぞ!」

 

 私は、鞍から飛び降りて、少年に駆け寄りました。

 

◆♀◆ 32、ナンカヂーノ君、反省する ◆♀◆

 

 状況は一気に緊迫しました。

 ガチャガチャッ! コノマーズ騎兵が、槍を構えます。

 ザザッ・・・! ダンゼイズの戦士が、剣や斧に手をやりつつ、コノマーズ騎兵に向き直ります。

 ツクノーさまが、左手で王女を抱き締め、右手を槍持ちの従者に伸ばしました。『槍を寄越せ』というのでしょう。

 勇者さまが列の後ろから走って来ます。「何だ? 何が起こった?」

 そして、少年が・・・

「ここからは、ダンゼイズ領である! モターズの者どもは・・・あれ? 姉上?」

 

「気付くのが!!! 遅いわ!!!」

 

 私は、弟の足を掴んで馬から引きずり落とし、ブン殴りました。

「この! バカ! 何しに! 来やがった!」

「な、何をなさる。やめっ──やめんかクソアマァ!」

 弟も殴り返してきました。

 力はまあまあ強いですね。

 しかし私のほうが強いです。

「フシャーッ!」

 フにゃーリアみたいな戦闘ボイスで、弟をビビらせて。

 力の抜けたパンチを、頭突きでハネ返して。

 頬っぺたをビンタしました。

「ぐへっ」

「てめっこのボケっ何やったかわかってんのかっ」

「な、なにが」

「王女殿下の御前だぞっ」

「は?」

 

 私とナンカヂーノは、土下座しました。

 ・・・正面に、ツクノーさまの軍馬の足があります。

 右には、土下座するナンカヂーノ少年の手が見えます。

 ユリの足も見えました。

「下ろしてください」

 王女殿下の声がしました。

 可愛らしいブーツが、すとん、と、地面に着いて。

 私たちに、近付いていらっしゃっいました。

「ダンゼイズ伯爵の御子息ですか?」

「・・・はい」と、ナンカヂーノ。

「今年12になる、不肖の弟です」と、私。「とんだ御無礼をいたしました!」

「そうでしたか。どうぞ、お立ちください」

 ネムリタロッカ姫は、そう仰って。

 恐る恐る顔を上げた私たち姉弟を見比べて・・・

「たしかに姉弟ですね。美女と美男子ですわ」

「いえ、そんな・・・」

 

 どうやら、許してもらえそうな雰囲気?

 と思っていたら、王女の背後から、コノマーズの騎兵隊長が。

 

「王女殿下。いまの無礼、見過ごしにはできませんぞ! 裁きや、いかに!」

 

 ここでオマエらか。

 これは・・・もう、一戦覚悟せなダメかもわからんね・・・。

 

 と、いうところで。

 王女殿下が、朗らかなお声で仰いました。

「裁きでしたら──もう、十分のように見えますわ。ご覧なさい」

「・・・なにをです?」

「弟さんの頬っぺたを」

「あっははは! たしかに。紅葉のごとき罰の痕!」

 ユリが大笑いしました。

「いかがです、侯爵? 王女殿下のお裁きは」

「そうじゃな」

 ツクノーさまも、笑いました。

「軽はずみな口には、女の軽い平手が、似合いであろう」

 ・・・で。真顔になって。

「ナンカヂーノとやら。覚えておくがよい!」

 突然、雷の鳴るような声を出しました。

「いったん武器を抜いたらば、止まるに止まれぬコトもある! そのコトをな!」

「・・・。」

「王女殿下がいらっしゃったこと、一生の幸運と思うのじゃぞ」

「は、はい!」

「殿下。ツクノーさま。ありがとうございました」

 私は頭を下げました。

「フターリア姫。あなたは、私の生命の恩人ではありませんか」

「殿下の仰る通りじゃ。我が友、フターリアよ!」

 

 侯爵・・・好き♥

 内政ダメっぽいけど・・・そこもまた可愛い・・・。

 

「フターリア姫は、本来の姿でも、お強いのですね!」

 王女は笑って、ふたたび馬上の人となりました。

 ツクノーさまが、馬を動かしました。

 コノマーズ騎兵も、槍を持ったままで、私たちの前を通り過ぎます。

 ユリたちもついていきます。

 彼女らが、丘の向こうに消えると・・・

「くそっ!」

「冷や汗かいたわい。今回で一番じゃ」

 と、戦士たちがぼやきました。

「・・・姉上」

「なに?」

「俺、その・・・つまり、迎えに来たんだけど」

 

 私は、一瞬、『コイツ斬り捨ててやろうか』と思いまいた。

 しかし。

 

「1カ月、謹慎する。だから、姉上の護衛はできなんだと、父上に言ってくれ──ください」

「・・・そうか」

「はい」

「なんで勘違いした?」

「言い訳はせん」

「説明。手短に」

「何度か、モターズ領から、難民どもが押し寄せて来まして」

「ふむ」

「武装した集団が接近中と聞いて、とうとう強盗に及んだかと、早合点しました」

「わかった」

 私は去勢馬に飛び乗りました。

「姉上・・・」

「誰も死ななくて、良かったよ」

 

◆♀◆ 33、ねこ3匹 ◆♀◆

 

 パカ、ポコ、パカ。

 フターリアです。セックスしたいです。

 

 ユリに犯されたい。メッチャクチャにされたい。

 俺は本当は男で・・・! とか言って抵抗して。

 こんな弱い男がいるかよ、とか罵られて。

 気絶するまで犯されたい。

 

 ・・・いやね。

 弟を助けた私を、戦士たちが褒めてくれるんですよ。

 さすがは姫じゃ! 立派でしたぞ! とか言って。

 

 ちがうんだよ。俺、一瞬、弟を斬ろうかって思ったんだよ。

 冷徹な計算とかじゃなくて。

 私まで巻き添えにされる! って、ビビってだよ。

 俺、そんな人間なんだよ・・・!

 

 って叫ぶのをガマンしてたら。

 ユリっぽい──もとい、マゾっぽい考えが湧いてきたんだよ。

 

 あいつならわかってくれるのかなぁ。

 訊いてみたいけど・・・先に行っちゃったんだよなぁ。

 くっそー・・・。

 ナンカヂーノ! ユリを遠ざけた恨みは忘れんぞ・・・!

 

 などと呪詛しつつ。

 私たちは、その日の宿にたどり着きました。

 

「フターリアさまぁーーー!」

「ダンゼイズ! ダンゼイズ!」

「姫ぇー! カッコいいですーーー!」

 

 大歓迎です!

 お嬢さまにしっかり手を回して、2人一緒に手を振ってあげると、

 

「キャーーー!!!」

「アイメンカのお姫さまぁーーー!!!」

「ダンゼイズのドラゴンさまーーー!!!」

「お似合いですぅーーー!!!」

 

「お・・・おお・・・!」

 私は、すっかり元気になりました。

 ええのう。若い女子の黄色い声!

 よく見れば、美人も多いし!

 よいところじゃ。ダンゼイズ!

「ぬっふっふ♥ お似合いですって!」

「顔、ゆるんでるわよ」

 

 宿は、侯爵たちとは別でした。

 宿の主人に訊くと、同じ宿の予定だったが、ナンカヂーノから急使が来て、慌てて分けたとのこと。

 ユリに会えぬ・・・!!!

 

 食事が終わった頃になって、町長が挨拶に来ました。

 町長。外はもう寒いのに、汗をかいてます。

「私たちは満足していますわ。それより、殿下のお世話、しっかりね」

 と言って上げたら、じゃ! みたいな感じで走って行きました。

 

「・・・身分の差を感じますわね」

「世の常よ」

 ハーフエルフの美少女さんは、ポニテ解いてフワッとさせました。

「お嬢さまは、冷静ですね」

「『妾腹の娘』歴13年のベテランよ」

 寝室です。

 お嬢さまはベッドに寝転んで、お母さまの魔術本を開きます。

 私はお茶の準備です。

 と言っても、暖炉はすでに具合良くしてあり、お湯も沸かしてありましたが。

「・・・次はどんな魔術を覚えようかしら」

「カッコいい呪文あります?」

「『種馬にな~れ』で、タネゴンってのはどう?」

「フターリア要素が足りませんな」

 私はお茶を淹れました。

 魔術本を覗いてしまわないよう、お嬢さまの足元に目を逸らしながら、カップはちゃんと枕元に配膳します。

「お尻を見てるの?」

「見てませんって」

「私なんて見る価値もないと言うのね!」

「理不尽な御立腹」

「正妻は理不尽なものよ」

「偏見ですよね?」

 お嬢さまは寝っ転がったままお茶を啜りました。

「寝たまま食べると牛になりますよ?」

「一緒に牛になりましょうか」

「イヤです」

「私とは一緒になれないって言うのね!」

「牛になりたいんかオマエは! あーん!?」

「きゃあ♥」

 私は、お嬢さまの髪をクシャクシャにして、左右にツノみたいに絞りました。

 ツインテールですね。

「もー・・・♥」

 

 こっちを見上げるお嬢さまが凶悪に可愛かったことは、言わないでおきますね。

 私はポニーテイル派なんですが・・・

 この娘は、好みとかブチ壊すぐらい可愛いからな・・・

 

「はぁ。可愛い・・・」言っちゃった。

「いまさらお世辞言ってもダメよ!」

「お世辞なんて・・・」

「お世辞も言えないっていうのね! 泣くわよ!」

「オマエなw」

 

 コン、コン。ノックの音がしました。

 

「アスカリアのユリです。お嬢さまがた、いらっしゃいますか?」

「はいっ♥」

「ホントに泣くわよ!?」

「すみませんでした」私は、ひれ伏しました。「・・・開けていいですか?」

「いいわよ。淫乱」

「くっ・・・!」

 私は辱めに耐えて、ドアを開け、ユリを迎え入れました。

「失礼いたします。御二方」

 とか言って入ってきた彼女は、ドア閉めた途端、

「リアぁ~~~!」

 と、倒れてきました。

 熱い身体。フニャフニャになっています。

「なんじゃ。どうした?」

「ひどい」ユリは唇を尖らせました。お嬢さまに、「ねえ聞いた? いまの。『どうした』だって」

「私よりマシよ!」

「えーと、すみません。お嬢さまは一番です」

「当然よ!」「・・・は?」

「ユリは浮気だから」

「はァ?!」

「いやオマエだって浮気だろ」

「ボクもう帰る」

 ふくれっ面になったユリを、私は後ろから引き留めました。

「まあまあ。綺麗な火の髪のお嬢さん」

「・・・。」

「せめて、お茶の一杯を呑むあいだ、この浮気者に、その綺麗な御髪を愛でさせて下さいな」

 ネコ撫で声で囁きながら、抱き締めたユリの胸に手を這わせ、首筋に頬をこすりつけます。

 『帰る』と言った時点ではカチッと締まっていたユリの身体が、ふたたびフニャフニャになるのを感じました。

 この娘は、ココがすごく可愛いです。

 黙ってても、身体の反応で気分が読めちゃう。

 私は調子に乗って、彼女の赤毛に鼻を埋めて、囁きました。

「フターリアは浮気者です。ですが、ユリ、あなたのコトは、ホントに大切に思ってます」

「・・・そう?」

「うん」

「リア♥」

「ユーリア♥」

「見せつけるだけなら帰ってくれないかしら!」

「ごもっとも」「ごめんごめん」

 

 私たちは、ベッドに移動しました。

 お嬢さまに、私が抱きついて。

 その私に、ユリがしなだれかかる形です。

 えー・・・

 なんかその・・・

 エロいというよりか・・・

 ネコが3匹、一緒に寝てるみたいな。そんな感じです。

 ま、あったかくて気持ちイイんで、いいんですけど。

 

「はぁ・・・落ち着く・・・」

 ユリが似たような感想を洩らしました。

「だよね」

「犯されたい・・・」

「落差がひどいな」

「ンだよー。おまえボクのコト犯したくないのかよー」

「犯したいw」

「だろw」

「今日に限っては、ユリに犯されてみたい」

「・・・ほう?」ユリの眼がキラーンと光りました。

「一応言っておくけど、」と、お嬢さま。「ここの壁は薄いわよ」

「はい・・・」「は~い・・・」

 私とユリは欲求不満顔で見つめ合い、キスしました。

 ちょっとワインの匂いがする。コイツ呑んだな?

 お嬢さまが唇を尖らせたので、私はお嬢さまにもキスをしました。長めに。

 するとユリが不満を浮かべ、私を押しのけてお嬢さまにキスしました。

 白い白いお嬢さまの頬が、赤くなってゆきます。

「・・・。」

 私は、ユリを押し倒しました。

「あ・・・」

 小さく喘ぐ彼女を、仰向けに押え付けて。

 覆いかぶさって。

 強いだけでなく女らしくもある首筋に、カプッと噛みつきました。

「あ、あン・・・♥」

「お嬢さま、今です」

「なにが?」

「『フタナリにな~れ』するなら、今しかありませんよ。カモン!」

「壁薄いって言ってるでしょ!」

「はい・・・」「は~い・・・」

 

 私たちは、またネコ一緒寝モードに戻りました。

 お嬢さまは、足パタパタしながら本を読んでおられます。

 そんな彼女を挟んで、私はユリに謝りました。

 

「ユリ」

「なに?」

「今日、ごめん。弟のこと」

「いいさ。まだ12歳だろ?」

「うむ。彼が言うにはだね──」

 

 私は、弟が勘違いした経緯を説明しました。

 

「なるほど。ありそうな話だ」

「助けてくれて、ありがと」

「王女のおかげさ。彼女が怒ってたら、私は口を出せなかった」

 ユリは、私に頭をくっつけました。

 それから、お嬢さまの髪を、そっと撫でました。

「私は所詮『王が認めた』勇者だからね。侯爵とは、背景の厚みがちがう」

「動かせない背景だけど」と、お嬢さま。

「それはどうかな」

「勇者と言えばさー、ユリ。これ、訊いちゃダメなのかも知れないけど」

「訊いてみな」

「魔王って、オマエが殺したワケじゃないの?」

 

◆♀◆ 34、勇者は魔王をどうしたの? ◆♀◆

 

「貴様! 私を侮辱するのか? ならば血だまりに倒れる覚悟をせよ!」

「へ?」

「それとも、吟遊詩人の歌も聞けぬ田舎者か? ならば行って聞かせてもらえ、私と軍団兵の功績を!」

 

 私が『魔王を殺したワケじゃないの?』と訊いた途端、ユリがお芝居始めました。

 なんじゃいきなり?

 

「──そう言えって、言われてるのね」と、お嬢さま。

 

 あ、そういうコトか。

 公式には倒したことになってるから、ホントのことは言えないと。

 私たちにすら言えないほどの秘密だから、察しくれと・・・

 

「ぶっちゃけ、倒してない」

「言うんかい」

「仲間だろ?」

「・・・そうだな。そうだった」

 私は、ユリの身体を抱き締めました。

 お嬢さまもユリの太腿をポンポンとしました。本読みながらですが・・・。

「魔王は、倒せないらしくてね」と、ユリ。

「なんで倒せないの?」

「元が神さまだったから」

 

 魔王。呪いの悪霊。人を呪い殺すのが得意。

 ブレロッケ王国を滅ぼそうとして、勇者に倒された──ことになっている。

 

 元々は、呪いを司る神さまだったと言います。

 が、神々の盟約を破って地上に手出しをするようになった。

 おまえはもはや神ではない──と追放され、悪霊に転落したそうです。

 

「その追放の際、マーミクリーテさまに、呪いをかけられたんだってさ」

「魔術の神さまだね?」

「そうそう」

「呪いの神なのに、呪いをかけられたの?」

「そう。皮肉だよねw 3つの才能の呪いだって」

「・・・魔術の3つの才能のこと?」

「そうだよ。『発動』『変容』『妨害』に、人間と同じように、縛られるようになったのさ」

「弱くなったの?」

「うん。大幅に。と言っても、3つの才能すべて高いんだけどね」

「強いじゃん」

「才能に縛られるって時点で、神より弱いのさ」

「他の悪霊は、どうなの?」と、お嬢さま。

「魔王ほど強いのはいないね」

 

 魔王以外の悪霊は・・・

 

  血の悪霊。ヴァンパイアが『神』と崇める、吸血と伝染病の悪霊。日光・火・銀に弱いらしい。

  狂犬の悪霊。人間をワーウルフに『変容』させ、オオカミを呑馬狼に成長させるという。水に弱い。

  無色の死の悪霊。闇や窪地に潜む目に見えない死。ダークエルフが恐れる悪霊である。風に弱い。

  汚泥の悪霊。トロールが『神』と崇める。全身が泥でできた不死の存在だが、火を用いれば動きを止めることができる。

 

 ・・・などです。

 

「どれも強そうだけど」

「魔王ほどじゃないね」

「よく封印できたな・・・」

「ティニーモノーシャさまのおかげだよ」

「母の・・・?」

「そう。あなたの母上の考案した封印なのさ。『誰にも教えてない』って仰ってたけど・・・」

 勇者さまは、お嬢さまの髪を撫でながら、チラッと魔術の本を見ました。

 私も、お嬢さまの髪を撫でました。

「勇者って、秘密だらけなのね」

「秘密だらけさ。世の中は」

「勇者って、もっとスカッと自由なのかと思ってた・・・」私はため息つきました。

「自由だよ? 身体が動くあいだはねw」

 ユリは笑いました。

 

「ま、元気なウチに、もらうモンはキッチリもらうさ。フッフッフ」

 

◆♀◆ 35、国王陛下、お待ちになる ◆♀◆

 

 翌日。

 今日は一団にまとまって出発しました。

 ただし、ダンゼイズを先頭に、ユリを中間に挟んで、コノマーズ──という配置ですがね。

 

 1日かけて、ダンゼイズの都ダマルトに到着すると、国王陛下が城門で待ってました。

 

「・・・は?」

 聞き返した私に、ダンゼイズの伝令はポタポタ汗を垂らしながら、

「国王陛下が、城門にて、お待ちです!」

「やべぇ」

「お嬢さま、急ぎましょう!」

 モリーヌに言われて、私は去勢馬の腹を蹴りました。

 去勢馬のヤロー、「ア?」って感じでこっちを振り向き、顎をズラして舌をダラリとしました。

「ベローンしとる場合か! 走れ、走れィ」

「ブヒッ」

 

 アホな馬のおかげで、最後尾のコノマーズ騎兵に抜かれてしまいました。

 ユリも、『駿馬』の呪文を唱えて、遥か前方をスッ飛んでいっとる。

 ツクノーさまは、突っ走りはしませんでした。姫を乗せてますのでね。

 

 城門が見えてくると・・・

「ハイヤー!」

 巨大な軍馬に乗った戦士が、お伴を連れて、ズドドドド! とこちらに走ってきました。

 お伴の1人が、この国で一番豪華な旗を掲げています。

 もう、伝令をもらうまでもありません。

 国王陛下です。

 

 バーシー・ブレロッケ王。御歳35歳。

 なのに、兜を脱いだその髪は、早くも白髪交じりです。

 私たちを見下ろすその目に、死線をくぐった王者の貫祿あり。

 

 私たちは馬を止めて、馬上で頭を下げました。

 これは別に無礼ではなく、ブレロッケ王国の野外ではふつうの光景です。

「国王陛下! 姫を、救い出して参りました」

 ユリが口を開きました。

「うむ!」

「こちらはアイメンカの姫。後ろは、当地ダンゼイズの姫。私の配下で、大きな功績を上げてくれました」

「うむ。簡潔な報告は聞いたぞ」

「いずれ長々と報告をいたしましょう。ですが・・・」

 ユリが言葉を切ったところに、ツクノーさまの馬が到着しました。

「・・・いまは、姫君のため、また最大の功労者のために、口をつぐむべきでしょうな」

 

「陛下。お待たせいたしました」

「ツクノー! よくやってくれた」

「父上」

「ネムリタ、おいで!」

 国王は、馬上で娘を抱き締めて、涙にくれました。

 

「・・・ユリ。聞こえたぞ。ひどいことを申すのう?」

 ツクノーさまが引き返してきて、私の隣に並びました。

「最大の功労者が、ツクノーじゃと。どう思う? フターリア姫」

 私の脇腹を突っ付いてきます。

「その栄誉は、そちのものであろう? なあ? クロ」

「・・・光栄ですわ。けれども、」

 私は、にっこり笑って返しました。

「ツクノーさまと“コノマーズの黒”なくして、私たちは生還できませんでしたわ」

「なんと? そち、領地はいらぬと申すか?」

「いや、領地は頂く」ユリが答えました。

「ほう? 私を『最大の功労者』と言いつつ、実利はかすめ取ると、こう申すか」

「いいえ?」

 ユリは、ほほえみました。

 

「私は、約束された正当な報酬を、頂くだけですよ」

 

◆♀◆ 36、アスカリア伯爵、ユリ ◆♀◆

 

「最大の功労者であるコノマーズ侯爵には、約束通り、領地を与えよう」

 ちょっと涙の跡のある国王陛下。

 ダンゼイズ城の大広間(馬で入れるトコね)で、功績を決定なさいました。

 

 王都で発表するんじゃないの? って言われそうですけどね。

「よくやったな。褒めてやるから王都まで来い」

 なんて言おうもんなら、

「ア? ウチの都じゃ発表できねえってのか!」

 忠誠度ダウン! です。

 逆に、王が来てくれれば「名誉なことじゃ!」と、大喜びする。

 ウチの父も、涙流して喜んでますからね。

 これが、ブレロッケ王国です。

 

「そして、」

 陛下は、ユリを見ました。

「第二の功労者、アスカリアの勇者にも、領地を与えよう」

 そして、私に目をお留めになられました。

「勇者に協力した、ダンゼイズの姫フターリア。娘を目覚めさせてくれた恩人よ。そなたにも、深く感謝する」

 

 私たちは、揃って頭を下げます。

 ツクノーさまと、コノマーズ騎兵。

 ユリ、マレーナ、ダーリン。

 私、テニッサメイズお嬢さま、モリーヌと、ダンゼイズの戦士たち。

 そして、付き従ってくれた下男ども。

 ずらりと並んで、陛下に頭を下げました。

 

 ・・・ユリにも領地与えるって言ったよね?

 ホンマかいな? ずいぶん大盤振る舞いですよね。

 

「ツクノーよ。そなたには、地続きの領地を用意できるぞ。ハクアミの港じゃ。どうかな?」

「この上ない褒美でございます」

 ツクノーさまは、南方の港を1つもらったようです。

 おそらく、莫大な恩恵があるハズです。

 

「ユリ。そなたには3つの褒美がある。1つ目は、『冒険者の村』じゃ」

「喜んで」

 おっと?

 これはひどい・・・。

 

 『冒険者の村』は、アイメンカ侯爵領の南方にある、自由領の村です。

 自由領とは、ぶっちゃけ、無法地帯のこと。

 領主が殺されたりして、統治不能になってる土地です。

 そんな土地の、村ひとつを、『褒美』と抜かしたか?

 

 と、私が血圧を上げていると。

 

「冒険者の村は、そなたの生地。実質的に支配もしておるようじゃが、今後は、正式に任す」

「はい」

「2つ目は、爵位じゃ。そなたは今後、アスカリア伯爵を名乗るがよい。そして──」

 国王は、声を一際大きくしました。

「3つ目は、モターズ伯領じゃ。ここを、アスカリア伯爵の領地とするがよい!」

「この上ない褒美でございます」

 

 うーん・・・???

 滅亡したモターズ伯爵領を治めろと来ましたか。

 それ、ユリの持ち出し(おそらく多額の借金含む)で、復興しろってことですよね?

 しかも、冒険者の村からは、歩いて何日もかかる飛び地ですわ。

 

 あと、これは雑魚情報なんですけどね?

 うちの父ちゃんが、ユリを値踏みするような目で見てるんですよね。

 領地切り取れるかな? っていう目ですわ。

 やめとけ。死ぬぞ。

 

 貧乏クジ + 飛び地 + ユリとフターリアの分断・・・って感じですか?

 やってくれたな、バーシー・・・!

 

「──そして、2人の勇士を助けた者どもよ。そなたらも、私からの褒美を受け取るがよい」

 バーシー・ブレロッケ国王が、そう仰ると。

 巨大な櫃が、広間に運び込まれました。

 ギィ・・・と、フタが開かれます。

 

 中には、金銀財宝が!

 

 従者たちが、それを私たちに配りました。

 私には、黄金の首飾りと腕輪、そして(気が利いたことに!)後ろ髪を留める白銀のピン。

 テニスお嬢さまには、魔術師の使う杖──に、宝石をたっぷりつけたもの。

 マレーナ姉さんには、黄金の象嵌入りのクロスボウ。なんと王家の紋章入りです。こりゃ実用はできんな。

 ダーリン姉ちゃんや下男どもにもは、金貨・銀貨・銅貨が配られました。

 装飾品じゃないのは、「気兼ねなく生活に使いなさい」という意味でしょうね。

 ツクノーさまやユリには、それぞれ、櫃が丸ごと1箱ずつ与えられました。

 全員が満足したところで。

 ネムリタロッカ王女が、にっこり笑って、仰いました。

 

 「みなさん、ありがとう。

  冷たい呪いの眠りから、私を呼び戻してくれて。

  ツクノーさま。ユリさま。フターリアさま。みなさん。

  まこと、あなたがたのおかげです。ありがとうございました」

 

 私たちは、宴を開きました。

 寒い夜にも眠りにも負けない火を焚いて。

 

◆♀◆ 37、みんなの希望 ◆♀◆

 

 宴のあと。

 私たちは、『城壁の間』に引き揚げました。

 

 ダマルトの町は、お祭り騒ぎです。

 あの大広間に、みんなが出入りして・・・。

 貴族と戦士だけではありません。地元の住民から旅人から、みんなです。

 国王に御挨拶をし、タダで飲み食いさせてもらい、酔っぱらって帰るのです。

 帰り際には、金貨を1枚ずつ頂いたりもして。

 もう、バカ騒ぎです。

 父ちゃんと母ちゃんは大変だろうなー。

 けど私は逃げます。私は、セックスしたいかr──大変だったからね!

 

「うー・・・」

「しっかりしろ」

 私は、ダーリン姉ちゃんと2人で、フラつくアスカリア伯爵閣下を支えております。

 女伯爵のユリちゃん。だいぶダメな感じです。

「ユリが酔っぱらうの、初めて見たわ」

「私もです」マレーナさんが、私の後ろで言いました。「家臣団との交渉が大変だったようで」

「姫を救い出したら、領地を与えるって、バーシーが言ったんだ・・・」

 と、ユリ。

「リアの分も、あるから・・・、飛び地でもいいって、ブン獲った・・・」

「私のぶん!?」

「当然だろ・・・王女助けたの、オマエだし・・・」

「私、まだ15歳だぞ?」

「私だって20歳だよ・・・」

「改めて、おめでとうございます。ユリさま」と、お嬢さま。

「ありがとー・・・」

「これで、私たちの希望も、叶う望みが出てきましたわ」と、マレーナさん。

「・・・。」

 私は、沈黙しました。

 

 希望か。

 

 お嬢さまの希望。

 恋愛したいとか、勇者さまに雇ってもらいたいとか、言ってはいたけど・・・。

 本音は『家に帰りたくない』だよな。

 それは、どうなんだろう?

 

 ・・・と、考え込んでいると。

 

 ボフッ。お嬢さまに、尻を叩かれました。

 宝石のいっぱい付いた杖で。

「あいた!? なんてコトすんの!?」

「あなたの希望もよ、ファリア」

「私も?」

「当然でしょ」ほほえんで、マレーナ姉さん。「私たち、みんなの希望です」

「・・・そっか」

 

 そうか。アスカリア伯爵閣下が成功すれば、私たちも成功できるのか。

 私は・・・

 

 私の希望って、なんだろ?

 

 お嬢さまと主従水入らずのヤリまくり生活?

 アスカリア伯爵の屈服セックス?

 あれ?

 もしかしてフターリアって、ただの淫乱・・・

 

 ハイ! ちょっと置いときましょう。私のコトはね。ハイ置いといた。

 

 みんなの希望ね。

 そうか・・・!

 

「よっしゃ! んじゃ、頑張りますか」

「よろしくね、ダンゼイズの姫・・・」

「うむ!」

 私たちは、『城壁の間』にたどり着きました。

「と、ところで、今夜なんだけど? ハァハァ」

「ごめん。無理・・・」

「だよね。ごめんごめん。ハハハ・・・ハァ」

 

 セックスしてぇ・・・!!!

 

 ボフッ。私は、また尻を叩かれました。

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