※この作品はR-18です。

TSゆりフタ令嬢侍女メイド!   作:min(みならい)R18

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中間地の争い ◇ 絶望の蛇

◆♀◆ 6、ダンゼイズ伯の、たくらみ ◆♀◆

 

「わっはっは!」

「めでたいことじゃ! めでたいことじゃ!」

 ダンゼイズのお館に、やかましい笑い声が響きます。

 バーシー王を囲んでの宴会です。

「諸君。余は、名残り惜しいぞ。明日にはここを去らねばならぬとは」

「まったくですじゃ!」

 ・・・別れの宴ですな。

 私は、ちょっと離れたところで見守っております。

 フターリアです。

 伯爵令嬢モードです。

 明るいブルーの絹のドレスに、毛皮のコートなどを羽織ってます。

 変な取り合わせだとは思うんですが・・・まあ、寒いんでね。しょうがないです。

 でっかい暖炉をガンガンに炊いていても、大広間はどうにも・・・。

 っと。

 父がやって来ました。

「これは、父上」

「フターリア・・・」ちょっとこっち来い、って感じで引っ張られました。

「な、なんです?」

 周囲に人のいない、隅っこに連れてかれました。

 寒いんじゃが・・・。

「アスカリア伯爵のことだ。わかっとるとは思うが・・・?」

 父上。

 じーっと、フターリアを見てきます。

 

 ・・・居心地悪ィ。

 お父さん。

 あ、名前はユージューさんね? フターリアの父親。

 娘を見る父親の目なんですよね。

 居心地悪ィんだよなー。騙してるみたいでさぁ・・・

 

 ま、それはそれとして。

 『わかっとるな』ってのは、『派閥工作しろ』ってコトかな。

 

「アイメンカ侯爵から?」

「いや」父は、ニヤリと笑って、「じゃが、当然じゃろ?」

 

 当たりか。

 勇者さまをアイメンカ派に引き込め。

 侯爵からは何も言われてないが。

 ってコトね。

 

 うーん・・・

 俺が思うに、ユリって、こういう工作は嫌がるタイプなんだが・・・

 しかも、これって『トカゲのシッポ役をやれ』ってコトだよね?

 侯爵の命令でもないし、父も明言してないし。

 ムカつくんだが・・・

 

「かしこまりました」

 

 ・・・だが、しょうがない。

 アイメンカ家に出仕して10年。

 他人の都合で振り回されるのにも、もう慣れちゃった。

 

「では、テニスお嬢さまと相談して」

「・・・いや。おまえの手柄にせい」

「・・・恩のある御方ですのに。それに、相談相手は必要ですわ」

「足場の狭い御方じゃ。手柄を上げれば、危険となる」

「・・・。」

 私がうつむくと、父は話を切り上げました。

「侯爵に育てて頂いたおまえじゃ。これからも、うまくやれよ」

「――あ、では、モリーヌを侍女にしますわ! 彼女に相談することにいたします」

 私は宣言しました。

 トカゲのシッポ役に慣れちゃったこの身。

 自分の利益をネジ込むのも、慣れたモンですよ。

 

 ところがです!

 

「これがうまくいったら、認めてやろう」

 ユージュー・ダンゼイズ伯爵! 前言を翻しやがった!

 

 前に頼んだときは『いつでもいいぞ』みたいに言ってたのに!

 条件後付けしやがったぞ!?

 

「そんな・・・父上。ひどい」

 めそめそ。

 私は、泣き真似をしました。

「私に、ひとりぼっちで出て行けと仰るのですね・・・!」

「なんじゃと?」

「実家をまた出なくてはならないというだけで、心細い気持ちですのに・・・」

 

 さっき、『騙してるみたいで』とか思ったけどさ。

 アレ取り消すわ。もう悪いとか思わねえ。

 騙してやらぁ!

 

「父上は、私のことなど、なんとも思っておられないのですね・・・!」

「おいおい。宴の席じゃぞ」

 父は、国王陛下の顔色を気にし始めました。

 そうだ気にしろ。陛下に醜聞嗅ぎつけられるぞ?

「わ・・・わかった。わかったから。泣くのはやめよ。な?」

「言葉だけですのね!」

「いやいや、そんなことは」

「もう結構です。母上に訴えますわ・・・!」

「ま、待て」

「いいえ! もう、頼れるのは母上だけですっ!」

「ダメじゃ。待て。クロッカーカはダメじゃ」

「――私の何がダメなのです? あなた」

「ひっ!? クロッカーカ」

 

 ――というワケで。

 モリーヌを、正式に貰い受けることになりました!

 

◆♀◆ 7、娘さんを頂きます ◆♀◆

 

 パカランパカラン。

 翌、早朝。

 私は、モリーヌの実家に向かいました。

 パカランパカラン。

 もちろん本人も一緒です。私の後ろを走ってます。

 護衛が後ろなのは、アレだ。馬ですからね。ウンコすることがあるんで。

 

 はい、到着しました。

 ダマルト近郊の山ン中です。

 2階建ての木造邸宅が見えてきました。お庭、結構広いですね。

 すでに御家族が並んでくれてます。

 馬脚をゆるめ、モリーヌを先にします。

 モリーヌはサッと飛び降りて、私を補助してくれました。

 

 ・・・ま、いらんのだがな。補助。

 フターリア、運動神経いいし。

 俺、乗馬好きだしね。

 この世界に来て『いいね!』ってなった事の1つですわ。乗馬。

 馬も、旅の初めのころから乗ってる、いつもの彼だし。

 首を叩いてやると、ベロ~ンと舌出してウィンクしてくれました。よしよし。お疲れ。

 

 さて、ごあいさつだな。

 

「早朝にすみません。大切な話だというのに」

「いいえ、フターリアさま。わざわざ、田舎まで・・・」

 モリーヌの父ちゃんは、頭を下げてくれました。

「大切な娘さんを、10年も私に付けて下さったこと。感謝しますわ。ほんの気持ちです」

 私は、ベロ~ン君に積んできた荷物を、手渡しました。

 金貨。父の印章入りの手紙。

 そして、肖像画――小さな女の子を支える、キリッとした娘の木炭画です。

 小さなものですが、美しい額に収めて持ってきました。

「おお・・・!」

 御家族は、本人と見比べてニヤニヤしてます。

「お嬢さまがお気に召して、ぜひ取っておいて、と仰って・・・」

 モリーヌは、ちょっと恥ずかしそうです。

 

 ・・・この肖像画。オマケというか、余禄の一品です。

 テニスお嬢さまの誕生日に、侯爵が絵を描かせたんですがね?

 その時に、練習で描かれたスケッチなんですよ。

 予行演習ですね。私がテニスお嬢さま役、モリーヌが侯爵役というワケです。

 

「くっきりした、綺麗な絵じゃ。お嬢さまの髪の美しさがよう出とる」

「モリーヌの美しさも、よく捉えられていると思いませんか?」

「いやいや! 姫にくらべれば」

「絵描きに『保存したい』と相談したんじゃ。したら、丁寧に作業してくれての・・・」

 と、モリーヌ。

 家族相手なので、御国言葉でしゃべってます。

「・・・膠を塗っていくとな? グッと、深みが出てな? お嬢さまが綺麗になってな?」

「そうか、そうか・・・」

 

「彼女のこと、大切にします。また来ますわ!」

 

 そう約束して。

 侍女となったモリーヌを、今度は横に並ばせて。ダマルトへと引き返すのでした。

 

◆♀◆ 8、国王一行、ダンゼイズをゆく ◆♀◆

 

 ダマルトに着くとすぐ、国王陛下に付き従っての、出発の時間になりました。

 『城壁の間』の戸口まで馬で乗り付けます。

「すみません。忙しい朝に!」お嬢さまに謝りましたところ。

「いいのよ。荷物は、もうまとめたわ」テニスさまは、大丈夫そうでした。

 

 この子、ホントしっかりしてるよね。

 13歳なのにな。

 

「ばあやに手伝ってもらったのよ」

「なるほど」

「お帰りなさいませ」

 乳母のリチャータが出てきました。

 私たちの乳母。しばらくぶりですが、元気そうです。

「若返ったわね?」冗談を言うと、

「温泉のおかげですかねぇ」乳母は笑いました。

「ばあやは、ここで待っててもらうことにしたわ」

 お嬢さまが、乳母の背中を撫でました。

「付いてきてほしいのはやまやまだけど、冬の旅だものね」

「そうですねぇ」

 

 ホントしっかりしてんな!

 

 お嬢さまと私は、乳母を抱き締めて、「また会いましょう」と約束しました。

 乳母の身体は、ずっと小さくなったようでした。

 

 雪が降ってきました。

 ダマルト正門近くの城まで、馬で移動。そのまま大広間に入ります。

 馬で入れる大広間。こういう時に便利なんですよね。

 

「・・・お嬢さまは、大丈夫ですか? 雪中の行軍は」

「ばあやが耳袋作ってくれたわ!」

「みみぶくろ」

 お嬢さまは、ハーフエルフの耳を包む毛糸の帽子みたいなのを見せてくれました。

 帽子なんだけど、耳のとこがふんわり余裕があるという専用装備です。

「なるほど」

「私より、馬は大丈夫かしら」

「あー・・・ちょっと走らせ過ぎましたかね?」

 私が、撫でてみると。

 ベロ~ン君はベロ~ンして、『いつでも行けるぜ?』みたいなジェスチャーしてきました。

「元気やな」

「いい子ね! ニンジンあげるわ」

 

 私たちは出発しました。美々しい旗に従って。

 先頭をゆくのは、国王陛下に王女さま、女勇者に、女侯爵。

 キラキラ輝く豪華な旗が、じつにお似合いの一団です。

 その後ろに従うのが、我々アイメンカ侯爵一派。

 私たちだけでなく、父とダンゼイズ戦士団も一緒です。

 先触れの使者を走らせたり、戦士団を前後左右に走らせたりと、忙しそうでした。

 よしよし。これなら私がせっつかれることもなかろう。

 

 街道には、雪が降り積もっていましたが・・・

 我が祖国の同胞が、ワラワラと現れて。

 雪かきをして。

 バーシー国王を、気持ちよく進ませてくれました。

 おかげで、何事もなく、予定の町に到着。

 国王陛下は、また宴です。また財宝を配ってらっしゃる。

 大変ですな!

 私は控え目に参列するだけなので、大したことはなかったです。

 一応、父が見てるタイミングで、ユリに話しかけたんですが。

 すぐさま王女殿下が現れて、私を追い払ってくれました。

 父は『なにしとる! おまえも付いて行かんかい!』という顔をしてましたが。

 アホか。王女に殺されるわ。

 

「今日は進展なしだわ」

 と伝えると、新米侍女モリーヌ。

「それでよろしいのでは?」と、平然としてました。

「よろしいんかね?」

「戦略的にも淫欲的にも、お嬢さまが得してますでしょう?」

「淫欲言うな」

 

 ちなみに、ユリは気にしてくれてたようで、夜中にこっそりやって来まして。

「リア~~~」と、抱きついて来ました。

「愛しの勇者さま。お姫さまのことはよろしいので?」

「うるさい」

 ユリは、フターリアのデカパイに顔をうずめて、

「私、束縛されんの、キライ」

「ほ・・・ほほう?」

 その一言、トカゲのシッポにもグサリと来ましたぞ?

 

 そのあとは、お茶して終わりでした。

 お嬢さま・モリーヌ・私。

 ユリと、ちょっと遅れて来た、魔術師にしてユリの正妻(予定)の、マレーナ姉さん。

 この5人で・・・

「北方領は、なんとかなりそうだ。問題は本領だね」

 新米伯爵のユリが、私たちに報告をして・・・

「あっち行ってたの!?」「優秀な部下がいらっしゃるのね?」

 俺(バカ)とお嬢さま(かしこい)が、質問をして・・・

「王都から、若手の文官を何人か回してもらいました」

 マレーナ姉さんが、答えて・・・

「マレーナの父上、王宮勤めの高官だからね。助かるんだよなー」

 ユリが補足をする。

 そんな感じで、アスカリア伯爵一派の情報を共有したのです。

「本領はね、無法者の天国でさ。税も取られてなかったから、この10年ほどは」

「ヤバい土地なの?」「怪物も、強いのが出るとか?」

「はい――農業に支障がある程度には。いいえ――ユリが負けるような怪物は」

「吸血鬼には負けるかもよ? ヤツらは、都から出て来ないけどね」

 

 せっかくユリが来てくれたのに、エロいコトできなかった・・・

 この後、マレーナさんとヤルのかな・・・いいな・・・

 

「そんな物欲しそうな顔をなさってはいけません」

 新米侍女に、淫欲を見抜かれました。

「テニスさまもマレーナさまも、譲って下さっているのですから」

「マレーナ姉さんも?」

「遅れて来たじゃありませんか。ユリさまが、あなたに甘えれるように」

「あー・・・!」

 私は感心しました。

「考えてみれば、あの人が一番ガマンしてるよね」

「はい」

「見直しましたわ・・・」

「こっちも見直してほしいところね!」

「あ、はい。もちろんですとも、お嬢さま」

 私は、お嬢さまの髪を梳き、肩をマッサージして御機嫌を取りました。

「さっさと寝るわよ。風邪を引いたら、そこで脱落だもの」

「はーい」

 

◆♀◆ 9、国王一行、中間地をゆく ◆♀◆

 

 翌日、盛大に見送られて、私たちはダンゼイズ領を出ました。

 川を渡って、ショーシナー伯領に入ります。

 入ったらすぐ、盛大に歓迎されました。

 ショーシナー伯爵の戦士団。

 これまた、アイメンカ侯爵派ですんで、選手交代というワケですわ。

 

 ショーシナー伯爵、すなわち祖父ちゃんが、国王の側について案内をして。

 バイーズの都で、一泊です。

 宴です。財産放出です。大丈夫か国王。

 

「・・・大丈夫じゃない。リアと遊びたい」

 また夜にユリがやって来て、フターリアのおっぱいを堪能していきました。

 正直やめてほしいです。

 胸に顔うずめてグズられると、可愛すぎて、帰せなくなります。

「甘えるのが上手いオンナよね!」

「お嬢さまは手厳しいですね」

「あなたが鈍いからよ!」

 

 翌日、私たちはショーシナー領を出て、アイメンカ侯爵領に入りました。

 ここで、また選手交代です。

「国王陛下! 父に代わってお迎えに上がりました。長男のボンロウケです」

 お嬢さまの義兄が、アイメンカの騎兵隊を率いて現れました。

 ガッチリとチェインメイルを着こなしてます(寒くないんか・・・?)。

 

 ボンロウケさま、19歳。

 ゴツくて威圧感のある若者です。

 小さくて可愛らしいお嬢さまとは全然似てませんな。

 

「うむ。よろしく頼むぞ」

 バーシー王はうなずいて、

「アイメンカ侯爵は、まだ戦闘中と聞くが? 戦況はどうじゃ」

「は! もはや勝ちは揺るぎませぬ。これも陛下の援軍のおかげです!」

 などと、会話しながら進み始めました。

「・・・そうなんですか?」

「・・・近況は知らないわ。最後に返信もらったの、王女さまの救出前だから」

 お嬢さまに確認してみたら、そんな答えが返ってきました。

 私は、毛皮のマントの下で、お嬢さまをギューッと抱き締めました。

 

 この日は野営。ただし、廃村を利用しての野営です。

 行きに私たちが泊まった廃村ですな。

 生き残りと名乗る人々が、国王から酒や食料をもらっていました。

 

 次の日は、コシモン村。あの別荘のある村ですね。

 行きのルートを逆走するみたいになってますね。

 大きな街道が限られてるせいです。必然的に同じルートになるんですよね。

 小さな宴が開かれ、陛下は散財しました。

 私とお嬢さまは呼ばれませんでした。村長が用意してくれた民家で、さっさと寝ます。

「ファリア」

「なんでしょう?」

「私が調べたところによれば、ネムリタロッカ殿下は、2階の一等客間に泊まるそうよ」

「えー・・・」

 私とお嬢さまがヤリ狂った部屋じゃないですか・・・。

 あのベッドで寝るんだ。王女。1人で・・・。

「・・・カワイソw」

「あなた意外と陰険ね!」

「ってか要人の寝床の情報洩らすとか。誰ですか。バカですね」

「そうね! 本人に言っておくわ!」

「・・・え? 誰です?」

「アスカリア伯爵閣下よ」

「言わないで!?」

 

 次の日、私たちは侯爵領を出ました。

 関所になっている城を抜けたのです。

 ですが。

「・・・ここから、アスカリア伯領ですかね?」

「・・・さあ、どうかしら?」

 お嬢さまに訊いてみたら、あやふやな答えが返ってきました。

「どうかしらとは?」

「アイメンカの関所は出たけど、アスカリアの関所に入ってないわ」

 と、お嬢さま。

「中間地、と言うべきじゃないかしら」

「中間地ですか・・・」

 

 この、中間地で。

 揉め事が起こりました。

 

「アイメンカの若殿! お疲れさまです。ここからは、領主である私にお任せあれ!」

 と、ユリ・アスカリア伯爵が言いまして。

「いやいや! ここはまだ、アイメンカ領でござるからして!」

 と、アイメンカ侯爵の戦士団が言い返したのです。

 

「・・・おっと? これはどうなるんでしょう?」

「・・・言った者勝ちじゃないかしら」

 

 両者、国王陛下の足を止めてまで、言い争い。

 一歩も譲らず・・・

「お美しい女伯爵は、口先だけは達者でいらっしゃる!」

「私の腕を知らんようですな!」

「知っておりますとも。詩人どもの荒唐無稽な作り話ならば、たーんとな!」

「そうか! 作り話ではない、実力を見たいと申すか!」

 

 ユリは、剣を抜きました。

 

「身の程知らずの戦士どもよ。どこからでも、かかって来るがよい!」

「なんたること! アスカリア伯が、剣を抜きましたぞ。陛下! お裁きを!」

 

 さて、国王陛下の裁定は。

 

「口先だけで統治はできぬ。もっともな意見じゃ。アイメンカの戦士よ」

 バーシー国王は。

 ユリの背後に、ゆっくりと馬を巡らせて。

 

「その言葉、証明して見せい! アスカリア伯爵と、一騎討ちするのじゃ!」

 と、お命じになったのでした。

 

◆♀◆ 10、中間地の争い ◆♀◆

 

 さあ、大変なことになって参りました!

 言い争いする両者に対し、『一騎討ちせよ』との裁定!

 これはもう、弱肉強食の蛮人王国だぁ!

 新興のアスカリア伯爵と、アイメンカ侯爵の騎兵!

 鎧に身を包み、馬に乗って、槍試合とシャレ込むようです!

 

 フターリアです。

 目の前で一騎討ちが始まりました。

 ユリは、ここまで徒歩だったのですが、国王が「馬を貸してやれ」と仰って。

 鎧も着ていなかったのですが、国王が「ツクノーよ、何とかならぬか?」と仰って。

 

「・・・これもう実質アイメンカの敗北では?」

「・・・あの戦士が死ねば落ち着くでしょ」

「お嬢さまは落ち着いてますな」

「帰る気ないもの」

 ハーフエルフの美少女は、ジロッと私を見上げました。

「私は、勇者さまに賭けたのよ」

「――はい」

 私は、ちょっとビビりましたが、頑張ってニッコリしました。

「私もそっちに賭けたかったんですよ」

「私の決定よ。責任も、私が取るわ」

「おお、我が主・・・!」

 

 さて。

 ツクノーさまが「何とか合わせましたが」と言って、鎧を着たユリを連れて戻って来ました。

 金属兜で顔を覆ったユリ。別人のようです。

 胴体はチェインメイルと毛皮の外套。当然冷えるので、鎧下もガッチリ着込んでます。

 着膨れて、モコモコして見えて・・・ちょっと可愛いですね。

 盾には黒いネコ(?)の紋章があり、手にした槍は黒く、長く・・・

 

「・・・あれ? “コノマーズの黒”?」

 と、私が声を上げると。

「そうじゃが?」

 と、私のところに馬を寄せて、コノマーズ女侯爵。

「それがどうかしたか? フターリア姫」

「いや、折れたではありませんか!」

「うむ。折れたが?」

「・・・予備あったの?」

「当然じゃろ。槍なんぞ。折れるもんじゃのに」

 ツクノーさまは、ニヤニヤと笑いました。

「大げさに謝ると思ったら、あれ1本きりじゃと、勘違いしておったのか?」

「お人が悪い・・・!」

「はっはっは」

 

 一騎討ちが始まりました。

 アイメンカの戦士は、口先だけではありませんでした。

 掛け声も高らかに馬を走らせると、揺れる馬上でしっかり槍の狙いを定めて・・・

 ユリの持つ盾の中心を突いて見せたのです!

 

 が、それだけでした。

 ユリは前傾し、盾を押し付けるようにして、槍の切っ先を流しました。

 敵の槍が、横に流れて、ユリを通せんぼする形になります。

 前世・日本の知識で言うと、踏切の遮断器みたいな感じですな!

 ユリは遮断器突っ切るバカってとこですが・・・

 この場合、その遮断器を持ってるのは、人間の手ですからね。

 え? ランス乗せる穴のついた鎧? あー、アレないんですよ。この世界。

 手で持って脇に挟んでるだけです。

 よって・・・

 グキッと手をねじった戦士は、槍を取り落とし、体勢まで崩してしまいました。

 そして。

 この時には、すでに。

 ユリの“コノマーズの黒”は、敵手の盾を突き破り、チェインメイルを突き破り、脇腹にザックリと突き刺さって、鞍上から吹っ飛ばしていました。

 馬上から転落した戦士。地面に叩きつけられ、気絶。そのまま動かなくなりました。

「立て!」「まだ決着はついとらんぞ!」

 アイメンカの戦士たちが騒ぎますが・・・

「そこまでじゃ!!!」

 バーシー王が、戦士たちを鎮めました。

「余は見届けたぞ。この勝負、アスカリア伯爵の勝ちじゃ! ・・・さ、手当てをしてやるがよい」

 

「やったーーー!!!」

 私はガッツポーズしました。

「ユリぃーーー!!」

 無意識に馬の腹を蹴って、ベロ~ン君を走らせます。

 ベロ~ン君。

 我が相棒。

 私の意を汲むことについては、かなりのモンです。

 ユリのところまで私を連れてってくれました。

「さすがです! 勇者さま!」

「・・・ありがと」

 兜を脱いだユリは、興奮する私を見て、笑いました。

「動きづらくってさぁ、ちょっとヒヤッとしたよ」

「完璧に勝ってたじゃん!」

「そこまでじゃないよ」

「お疲れさま」

 マレーナ姉さんもやって来ました。

「ユリ、兜を」

「ん」

 ユリの兜を受け取って、丁寧に拭いて、ツクノーさまの従者に返します。

 さすが正妻・・・。

「参りました。アスカリア伯爵」

 敵の親玉、ボンロウケさまも来ました。

「しかし、これも民のことを思えばこそ。今後は親しくお付き合いをさせてもらいたいもの」

「私の気持ちは、まこと、あなたの本心と同じですよ」

 ユリは皮肉っぽく言い返しました。

「しかし、領主としてはこう命じます。負けた以上、早々に立ち去るがよい、とな」

「ええ、陛下の護衛はお任せしましょう。今日のところは」

 ボンロウケさまは馬首を巡らせて・・・

「テニス、帰るぞ」

 と、お嬢さまに命じました。

「はい?」お嬢さまは首をひねりました。「なんとおっしゃいましたかしら」

「・・・帰るぞと言ったのだ」

 ボンロウケさま。

 お嬢さまより6歳上の19歳。この世界では、領主やっててもおかしくはない年齢です。

 身体つきも逞しく、威圧感がありました。

 その背後にアイメンカの戦士が集まってくると、これはもう、震えるほどの迫力でした。

 

 やべぇ・・・。

 私、睨まれてるわ。

 アイメンカの戦士に。

 『裏切りおって』『所詮はよそ者だな』みたいな目で。

 当然ですわね。

 アイメンカが負けたのに喜んじゃったもんね。

 トカゲのシッポとか言っといてコレだから。

 

 ま、しょうがないね。ユリのコト、好きだもん。

 

 ・・・などと、思っていたのですが。

 

「いいえ、私は帰りませんわ」

 お嬢さまが、命令を拒絶したのです。

「テニス。アイメンカは、引き揚げるのだ」

「はい。しかし、私は現在、勇者さまの配下ですから」

「なに?」

「私とファリアは、勇者さまの配下で、修行をさせて頂く話になっておりますわ」

「聞いておらぬが・・・?」

 ボンロウケさまは、ユリを見ました。

 ユリは、うなずきました。「ええ。お嬢さま方は、私が預かってます」

「・・・そうですか」

 お嬢さまの義兄上は、ため息をついて、

「なら、口出しはすまい。元気でな」

「・・・はい。義兄上も、御武運久しからんことを」

「フンw いま途切れたばかりだがな?」

 ボンロウケさまは、そう言って笑い、騎兵たちを引き揚げさせたのでした。

 

 街道は次第に上りになり、丘と丘のあいだを蛇行するようになり・・・

 夕方になって、前方に湖が見えてきました。

 山あいの湖です。大きくはないが、綺麗な湖でした。

「さあ、あと少しですよ!」

 と、ユリがみんなを励ましたところで。

 

「前方に怪物!」

「ゼウッツボーです! ゼウッツボーが、2~30体!」

 と、王の戦士たちが警報を上げました。

 

◆♀◆ 11、絶望の蛇 ◆♀◆

 

「テニス、マレーナに合流! フにゃーリア、来い!」

 ユリが私たちに命令しました。

「はい!」

 と言いつつ、私は躊躇しました。

 ここで『変容』すんの・・・?

 パンツずらさないとダメなんだけど・・・?

「さっさとやるわよ」

「は、はい。しかしながら」

「みんなに余裕ができたら逆に見られるわよ」

「くそ」

 私は、防寒用の毛皮のマントの下で、モソモソとパンティとタイツをずらしました。

 丸見えではないけど、お尻のあたり触ってんのバレバレなんだよな・・・

 アイメンカの戦士が引き揚げたので、後ろに誰もいないのは救いですが。

 

「変容せよ、フターリア。猫の力をその身に宿し、密かに優美に敏捷に。──ネコ娘に、な~れ!」

「ニャーン」

 

 マントを脱ぎ捨てた私は、ベロ~ン君から飛び降りました。

「・・・寒っ!」

 突如襲いかかる『やってられねー!』の気持ち!

 抱っこしてた湯たんぽ(テニッサメイズという名前がついてます)から離れて。

 毛皮のマントを脱ぎ捨てて。

 しかもパンティとタイツをずらして、尻尾のあたりを出してるから。

 寒いんじゃ!

 ネコにこんな寒い仕事させんニャ!

「うわー、もう帰りてぇ」

 ブツクサ言ってたら、

「フにゃ! とっとと来い!」勇者さまに怒られました。

「ひぃ! すみません・・・」

 

 前方では、すでに戦闘が始まっていました。

 国王の戦士たちが、ヘビのような怪物と戦っています。

 その怪物。

 黒と青の混ざった冷たい色をしています。

 胴体の太さは、男の太腿ほど。長さは1尋を優に超えます。

 さらに。

 頭部は、胴体の3倍もふくらんで、袋のように大きな口を開けています。

 その口で、噛みついてくるのです。

 国王の戦士団は、これを巧みに盾や剣でさばいて、ザクリと斬り返します。

「絶虚壺めが!」と、戦士。「これでも喰らえ!」

「噛まれると痛いぞ。気を抜くな!」と、ユリ。

 

「ぶっといヘビだニャー・・・」

 私は、気を抜いてトトトト・・・と前進しました。

 その時でした!

 

「ファリア! 後ろよ」

「お嬢さま、背後、足元!」

「んにゃ?」

 

 ――私のお尻に、ガブリと牙が喰い込んだのは。

 

「ぎニャあーーー!!!」

 私は飛び上がりました。

 ビョーンと跳ね上がって空中で半回転し、お尻に噛みついたモノを振り払おうとします。

 外れない!

 ってか、痛い!!

 なにか強烈に冷たいものが、身体の芯に入ってくる!

 私は地面に落ちて、のたうち回りました。

「あぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」

「私に任せよ! クロ、動くな!」

「ほぎゃぎゃ」

 身悶えつつ、ツクノーさまが近づいてくるのに気付いた私は。

 なんとか痛みをこらえて、じっとしました。

 

 ドスン!!

 衝撃がお尻に響き、これまでで最強の痛みと絶望が襲ってきました。

 

「ぎゃーーー! もうダメだーーー!」

 私は泣き叫びました。

「もうおしまいだー。殺されるぅー! みんなに嫌われて1人ぼっちで凍えて死ぬんだーーー!」

「こりゃ。しっかりせよ。いま治癒してやるから」

 馬から飛び降りたツクノーさまに抱かれて、言い聞かされるのですが。

 パニックになった私は、身体を制御できません。

 女侯爵の肩を掴んで、彼女の腕から飛び出そうとします。

 心臓がドッキンドッキン鳴ってるのがわかります。

 ものすごい力で、弾丸のようにスッ飛んで逃げるのです。

 ――そのハズだったのですが。

 ツクノーさまは、妙に慣れた手付きで私を抱きかかえると、

「治癒のためじゃ。尻を見るぞ、フターリア」

「もうだめだぁー!」

 

「陽の火よ、熱よ、輝きよ。このネコ娘を変容せしめよ。癒し、祓い、清めたまえ」

 じゅわじゅわじゅわ・・・。

 お尻に不思議な熱が広がりました。

 

「う・・・うう・・・」

 気が付くと、フにゃーリアの身体は完全にツクノーさまに抱えられていました。

 スカートがめくられ、パンティとタイツが(変容したときよりも)大きくずらされて・・・

 

 お尻が丸出しになっております!!!

 

 一応、お嬢さまとモリーヌが馬を寄せてくれてはいるのですが。

 こちらを見ている者には、私の――シッポの生えたフにゃーリアのお尻は、丸見えでした。

「・・・ぷw」

 よりによって、王女殿下に!

 じっくり見られて、笑われてしまいました!

「もうおしまいだー! 身の破滅だぁー!」

 

「・・・絶虚壺は、大した怪物じゃないんだ。ただ牙が鋭くて、噛まれると痛いだけで」

「・・・それだけじゃないようだけど?」

 ユリの声が遠くでします。

 お嬢さまの声も。

 みんなが、どんどん遠ざかっていきます。

 私が死ぬからでしょう。身も心も、冷たい暗黒の中に引きずり込まれてゆくのです。

「うん。あの噛み付きには毒があってね――」

 

 ほら。ユリも『毒』って言ってる。

 もうダメです。フターリアの人生はここまでです。

 ごめんなさい、お嬢さま。もっと側にいたかった。私はダメな侍女でした・・・。

 

「―― その名の通り、絶望の毒で心を蝕む。歳を取った人間だと、これで実際に死ぬこともある」

「解毒方法はあるの?」

「解毒方法はない。生命をつなぎ止める方法はある。けど・・・」

「何でもするわ。言ってちょうだい」

「・・・こっちが持たない可能性があるんだよね」

「どういうこと?」

「絶望の毒には、欲望で対抗する」

 ユリは、ヘアバンドを取って、赤い髪をばさばさと掻いて、

 

「――ひたすら食わせるか、ひたすらヤラせるか、どっちかさ」

 と、言いました。

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