TSゆりフタ令嬢侍女メイド! 作:min(みならい)R18
◆♀◆ 6、ダンゼイズ伯の、たくらみ ◆♀◆
「わっはっは!」
「めでたいことじゃ! めでたいことじゃ!」
ダンゼイズのお館に、やかましい笑い声が響きます。
バーシー王を囲んでの宴会です。
「諸君。余は、名残り惜しいぞ。明日にはここを去らねばならぬとは」
「まったくですじゃ!」
・・・別れの宴ですな。
私は、ちょっと離れたところで見守っております。
フターリアです。
伯爵令嬢モードです。
明るいブルーの絹のドレスに、毛皮のコートなどを羽織ってます。
変な取り合わせだとは思うんですが・・・まあ、寒いんでね。しょうがないです。
でっかい暖炉をガンガンに炊いていても、大広間はどうにも・・・。
っと。
父がやって来ました。
「これは、父上」
「フターリア・・・」ちょっとこっち来い、って感じで引っ張られました。
「な、なんです?」
周囲に人のいない、隅っこに連れてかれました。
寒いんじゃが・・・。
「アスカリア伯爵のことだ。わかっとるとは思うが・・・?」
父上。
じーっと、フターリアを見てきます。
・・・居心地悪ィ。
お父さん。
あ、名前はユージューさんね? フターリアの父親。
娘を見る父親の目なんですよね。
居心地悪ィんだよなー。騙してるみたいでさぁ・・・
ま、それはそれとして。
『わかっとるな』ってのは、『派閥工作しろ』ってコトかな。
「アイメンカ侯爵から?」
「いや」父は、ニヤリと笑って、「じゃが、当然じゃろ?」
当たりか。
勇者さまをアイメンカ派に引き込め。
侯爵からは何も言われてないが。
ってコトね。
うーん・・・
俺が思うに、ユリって、こういう工作は嫌がるタイプなんだが・・・
しかも、これって『トカゲのシッポ役をやれ』ってコトだよね?
侯爵の命令でもないし、父も明言してないし。
ムカつくんだが・・・
「かしこまりました」
・・・だが、しょうがない。
アイメンカ家に出仕して10年。
他人の都合で振り回されるのにも、もう慣れちゃった。
「では、テニスお嬢さまと相談して」
「・・・いや。おまえの手柄にせい」
「・・・恩のある御方ですのに。それに、相談相手は必要ですわ」
「足場の狭い御方じゃ。手柄を上げれば、危険となる」
「・・・。」
私がうつむくと、父は話を切り上げました。
「侯爵に育てて頂いたおまえじゃ。これからも、うまくやれよ」
「――あ、では、モリーヌを侍女にしますわ! 彼女に相談することにいたします」
私は宣言しました。
トカゲのシッポ役に慣れちゃったこの身。
自分の利益をネジ込むのも、慣れたモンですよ。
ところがです!
「これがうまくいったら、認めてやろう」
ユージュー・ダンゼイズ伯爵! 前言を翻しやがった!
前に頼んだときは『いつでもいいぞ』みたいに言ってたのに!
条件後付けしやがったぞ!?
「そんな・・・父上。ひどい」
めそめそ。
私は、泣き真似をしました。
「私に、ひとりぼっちで出て行けと仰るのですね・・・!」
「なんじゃと?」
「実家をまた出なくてはならないというだけで、心細い気持ちですのに・・・」
さっき、『騙してるみたいで』とか思ったけどさ。
アレ取り消すわ。もう悪いとか思わねえ。
騙してやらぁ!
「父上は、私のことなど、なんとも思っておられないのですね・・・!」
「おいおい。宴の席じゃぞ」
父は、国王陛下の顔色を気にし始めました。
そうだ気にしろ。陛下に醜聞嗅ぎつけられるぞ?
「わ・・・わかった。わかったから。泣くのはやめよ。な?」
「言葉だけですのね!」
「いやいや、そんなことは」
「もう結構です。母上に訴えますわ・・・!」
「ま、待て」
「いいえ! もう、頼れるのは母上だけですっ!」
「ダメじゃ。待て。クロッカーカはダメじゃ」
「――私の何がダメなのです? あなた」
「ひっ!? クロッカーカ」
――というワケで。
モリーヌを、正式に貰い受けることになりました!
◆♀◆ 7、娘さんを頂きます ◆♀◆
パカランパカラン。
翌、早朝。
私は、モリーヌの実家に向かいました。
パカランパカラン。
もちろん本人も一緒です。私の後ろを走ってます。
護衛が後ろなのは、アレだ。馬ですからね。ウンコすることがあるんで。
はい、到着しました。
ダマルト近郊の山ン中です。
2階建ての木造邸宅が見えてきました。お庭、結構広いですね。
すでに御家族が並んでくれてます。
馬脚をゆるめ、モリーヌを先にします。
モリーヌはサッと飛び降りて、私を補助してくれました。
・・・ま、いらんのだがな。補助。
フターリア、運動神経いいし。
俺、乗馬好きだしね。
この世界に来て『いいね!』ってなった事の1つですわ。乗馬。
馬も、旅の初めのころから乗ってる、いつもの彼だし。
首を叩いてやると、ベロ~ンと舌出してウィンクしてくれました。よしよし。お疲れ。
さて、ごあいさつだな。
「早朝にすみません。大切な話だというのに」
「いいえ、フターリアさま。わざわざ、田舎まで・・・」
モリーヌの父ちゃんは、頭を下げてくれました。
「大切な娘さんを、10年も私に付けて下さったこと。感謝しますわ。ほんの気持ちです」
私は、ベロ~ン君に積んできた荷物を、手渡しました。
金貨。父の印章入りの手紙。
そして、肖像画――小さな女の子を支える、キリッとした娘の木炭画です。
小さなものですが、美しい額に収めて持ってきました。
「おお・・・!」
御家族は、本人と見比べてニヤニヤしてます。
「お嬢さまがお気に召して、ぜひ取っておいて、と仰って・・・」
モリーヌは、ちょっと恥ずかしそうです。
・・・この肖像画。オマケというか、余禄の一品です。
テニスお嬢さまの誕生日に、侯爵が絵を描かせたんですがね?
その時に、練習で描かれたスケッチなんですよ。
予行演習ですね。私がテニスお嬢さま役、モリーヌが侯爵役というワケです。
「くっきりした、綺麗な絵じゃ。お嬢さまの髪の美しさがよう出とる」
「モリーヌの美しさも、よく捉えられていると思いませんか?」
「いやいや! 姫にくらべれば」
「絵描きに『保存したい』と相談したんじゃ。したら、丁寧に作業してくれての・・・」
と、モリーヌ。
家族相手なので、御国言葉でしゃべってます。
「・・・膠を塗っていくとな? グッと、深みが出てな? お嬢さまが綺麗になってな?」
「そうか、そうか・・・」
「彼女のこと、大切にします。また来ますわ!」
そう約束して。
侍女となったモリーヌを、今度は横に並ばせて。ダマルトへと引き返すのでした。
◆♀◆ 8、国王一行、ダンゼイズをゆく ◆♀◆
ダマルトに着くとすぐ、国王陛下に付き従っての、出発の時間になりました。
『城壁の間』の戸口まで馬で乗り付けます。
「すみません。忙しい朝に!」お嬢さまに謝りましたところ。
「いいのよ。荷物は、もうまとめたわ」テニスさまは、大丈夫そうでした。
この子、ホントしっかりしてるよね。
13歳なのにな。
「ばあやに手伝ってもらったのよ」
「なるほど」
「お帰りなさいませ」
乳母のリチャータが出てきました。
私たちの乳母。しばらくぶりですが、元気そうです。
「若返ったわね?」冗談を言うと、
「温泉のおかげですかねぇ」乳母は笑いました。
「ばあやは、ここで待っててもらうことにしたわ」
お嬢さまが、乳母の背中を撫でました。
「付いてきてほしいのはやまやまだけど、冬の旅だものね」
「そうですねぇ」
ホントしっかりしてんな!
お嬢さまと私は、乳母を抱き締めて、「また会いましょう」と約束しました。
乳母の身体は、ずっと小さくなったようでした。
雪が降ってきました。
ダマルト正門近くの城まで、馬で移動。そのまま大広間に入ります。
馬で入れる大広間。こういう時に便利なんですよね。
「・・・お嬢さまは、大丈夫ですか? 雪中の行軍は」
「ばあやが耳袋作ってくれたわ!」
「みみぶくろ」
お嬢さまは、ハーフエルフの耳を包む毛糸の帽子みたいなのを見せてくれました。
帽子なんだけど、耳のとこがふんわり余裕があるという専用装備です。
「なるほど」
「私より、馬は大丈夫かしら」
「あー・・・ちょっと走らせ過ぎましたかね?」
私が、撫でてみると。
ベロ~ン君はベロ~ンして、『いつでも行けるぜ?』みたいなジェスチャーしてきました。
「元気やな」
「いい子ね! ニンジンあげるわ」
私たちは出発しました。美々しい旗に従って。
先頭をゆくのは、国王陛下に王女さま、女勇者に、女侯爵。
キラキラ輝く豪華な旗が、じつにお似合いの一団です。
その後ろに従うのが、我々アイメンカ侯爵一派。
私たちだけでなく、父とダンゼイズ戦士団も一緒です。
先触れの使者を走らせたり、戦士団を前後左右に走らせたりと、忙しそうでした。
よしよし。これなら私がせっつかれることもなかろう。
街道には、雪が降り積もっていましたが・・・
我が祖国の同胞が、ワラワラと現れて。
雪かきをして。
バーシー国王を、気持ちよく進ませてくれました。
おかげで、何事もなく、予定の町に到着。
国王陛下は、また宴です。また財宝を配ってらっしゃる。
大変ですな!
私は控え目に参列するだけなので、大したことはなかったです。
一応、父が見てるタイミングで、ユリに話しかけたんですが。
すぐさま王女殿下が現れて、私を追い払ってくれました。
父は『なにしとる! おまえも付いて行かんかい!』という顔をしてましたが。
アホか。王女に殺されるわ。
「今日は進展なしだわ」
と伝えると、新米侍女モリーヌ。
「それでよろしいのでは?」と、平然としてました。
「よろしいんかね?」
「戦略的にも淫欲的にも、お嬢さまが得してますでしょう?」
「淫欲言うな」
ちなみに、ユリは気にしてくれてたようで、夜中にこっそりやって来まして。
「リア~~~」と、抱きついて来ました。
「愛しの勇者さま。お姫さまのことはよろしいので?」
「うるさい」
ユリは、フターリアのデカパイに顔をうずめて、
「私、束縛されんの、キライ」
「ほ・・・ほほう?」
その一言、トカゲのシッポにもグサリと来ましたぞ?
そのあとは、お茶して終わりでした。
お嬢さま・モリーヌ・私。
ユリと、ちょっと遅れて来た、魔術師にしてユリの正妻(予定)の、マレーナ姉さん。
この5人で・・・
「北方領は、なんとかなりそうだ。問題は本領だね」
新米伯爵のユリが、私たちに報告をして・・・
「あっち行ってたの!?」「優秀な部下がいらっしゃるのね?」
俺(バカ)とお嬢さま(かしこい)が、質問をして・・・
「王都から、若手の文官を何人か回してもらいました」
マレーナ姉さんが、答えて・・・
「マレーナの父上、王宮勤めの高官だからね。助かるんだよなー」
ユリが補足をする。
そんな感じで、アスカリア伯爵一派の情報を共有したのです。
「本領はね、無法者の天国でさ。税も取られてなかったから、この10年ほどは」
「ヤバい土地なの?」「怪物も、強いのが出るとか?」
「はい――農業に支障がある程度には。いいえ――ユリが負けるような怪物は」
「吸血鬼には負けるかもよ? ヤツらは、都から出て来ないけどね」
せっかくユリが来てくれたのに、エロいコトできなかった・・・
この後、マレーナさんとヤルのかな・・・いいな・・・
「そんな物欲しそうな顔をなさってはいけません」
新米侍女に、淫欲を見抜かれました。
「テニスさまもマレーナさまも、譲って下さっているのですから」
「マレーナ姉さんも?」
「遅れて来たじゃありませんか。ユリさまが、あなたに甘えれるように」
「あー・・・!」
私は感心しました。
「考えてみれば、あの人が一番ガマンしてるよね」
「はい」
「見直しましたわ・・・」
「こっちも見直してほしいところね!」
「あ、はい。もちろんですとも、お嬢さま」
私は、お嬢さまの髪を梳き、肩をマッサージして御機嫌を取りました。
「さっさと寝るわよ。風邪を引いたら、そこで脱落だもの」
「はーい」
◆♀◆ 9、国王一行、中間地をゆく ◆♀◆
翌日、盛大に見送られて、私たちはダンゼイズ領を出ました。
川を渡って、ショーシナー伯領に入ります。
入ったらすぐ、盛大に歓迎されました。
ショーシナー伯爵の戦士団。
これまた、アイメンカ侯爵派ですんで、選手交代というワケですわ。
ショーシナー伯爵、すなわち祖父ちゃんが、国王の側について案内をして。
バイーズの都で、一泊です。
宴です。財産放出です。大丈夫か国王。
「・・・大丈夫じゃない。リアと遊びたい」
また夜にユリがやって来て、フターリアのおっぱいを堪能していきました。
正直やめてほしいです。
胸に顔うずめてグズられると、可愛すぎて、帰せなくなります。
「甘えるのが上手いオンナよね!」
「お嬢さまは手厳しいですね」
「あなたが鈍いからよ!」
翌日、私たちはショーシナー領を出て、アイメンカ侯爵領に入りました。
ここで、また選手交代です。
「国王陛下! 父に代わってお迎えに上がりました。長男のボンロウケです」
お嬢さまの義兄が、アイメンカの騎兵隊を率いて現れました。
ガッチリとチェインメイルを着こなしてます(寒くないんか・・・?)。
ボンロウケさま、19歳。
ゴツくて威圧感のある若者です。
小さくて可愛らしいお嬢さまとは全然似てませんな。
「うむ。よろしく頼むぞ」
バーシー王はうなずいて、
「アイメンカ侯爵は、まだ戦闘中と聞くが? 戦況はどうじゃ」
「は! もはや勝ちは揺るぎませぬ。これも陛下の援軍のおかげです!」
などと、会話しながら進み始めました。
「・・・そうなんですか?」
「・・・近況は知らないわ。最後に返信もらったの、王女さまの救出前だから」
お嬢さまに確認してみたら、そんな答えが返ってきました。
私は、毛皮のマントの下で、お嬢さまをギューッと抱き締めました。
この日は野営。ただし、廃村を利用しての野営です。
行きに私たちが泊まった廃村ですな。
生き残りと名乗る人々が、国王から酒や食料をもらっていました。
次の日は、コシモン村。あの別荘のある村ですね。
行きのルートを逆走するみたいになってますね。
大きな街道が限られてるせいです。必然的に同じルートになるんですよね。
小さな宴が開かれ、陛下は散財しました。
私とお嬢さまは呼ばれませんでした。村長が用意してくれた民家で、さっさと寝ます。
「ファリア」
「なんでしょう?」
「私が調べたところによれば、ネムリタロッカ殿下は、2階の一等客間に泊まるそうよ」
「えー・・・」
私とお嬢さまがヤリ狂った部屋じゃないですか・・・。
あのベッドで寝るんだ。王女。1人で・・・。
「・・・カワイソw」
「あなた意外と陰険ね!」
「ってか要人の寝床の情報洩らすとか。誰ですか。バカですね」
「そうね! 本人に言っておくわ!」
「・・・え? 誰です?」
「アスカリア伯爵閣下よ」
「言わないで!?」
次の日、私たちは侯爵領を出ました。
関所になっている城を抜けたのです。
ですが。
「・・・ここから、アスカリア伯領ですかね?」
「・・・さあ、どうかしら?」
お嬢さまに訊いてみたら、あやふやな答えが返ってきました。
「どうかしらとは?」
「アイメンカの関所は出たけど、アスカリアの関所に入ってないわ」
と、お嬢さま。
「中間地、と言うべきじゃないかしら」
「中間地ですか・・・」
この、中間地で。
揉め事が起こりました。
「アイメンカの若殿! お疲れさまです。ここからは、領主である私にお任せあれ!」
と、ユリ・アスカリア伯爵が言いまして。
「いやいや! ここはまだ、アイメンカ領でござるからして!」
と、アイメンカ侯爵の戦士団が言い返したのです。
「・・・おっと? これはどうなるんでしょう?」
「・・・言った者勝ちじゃないかしら」
両者、国王陛下の足を止めてまで、言い争い。
一歩も譲らず・・・
「お美しい女伯爵は、口先だけは達者でいらっしゃる!」
「私の腕を知らんようですな!」
「知っておりますとも。詩人どもの荒唐無稽な作り話ならば、たーんとな!」
「そうか! 作り話ではない、実力を見たいと申すか!」
ユリは、剣を抜きました。
「身の程知らずの戦士どもよ。どこからでも、かかって来るがよい!」
「なんたること! アスカリア伯が、剣を抜きましたぞ。陛下! お裁きを!」
さて、国王陛下の裁定は。
「口先だけで統治はできぬ。もっともな意見じゃ。アイメンカの戦士よ」
バーシー国王は。
ユリの背後に、ゆっくりと馬を巡らせて。
「その言葉、証明して見せい! アスカリア伯爵と、一騎討ちするのじゃ!」
と、お命じになったのでした。
◆♀◆ 10、中間地の争い ◆♀◆
さあ、大変なことになって参りました!
言い争いする両者に対し、『一騎討ちせよ』との裁定!
これはもう、弱肉強食の蛮人王国だぁ!
新興のアスカリア伯爵と、アイメンカ侯爵の騎兵!
鎧に身を包み、馬に乗って、槍試合とシャレ込むようです!
フターリアです。
目の前で一騎討ちが始まりました。
ユリは、ここまで徒歩だったのですが、国王が「馬を貸してやれ」と仰って。
鎧も着ていなかったのですが、国王が「ツクノーよ、何とかならぬか?」と仰って。
「・・・これもう実質アイメンカの敗北では?」
「・・・あの戦士が死ねば落ち着くでしょ」
「お嬢さまは落ち着いてますな」
「帰る気ないもの」
ハーフエルフの美少女は、ジロッと私を見上げました。
「私は、勇者さまに賭けたのよ」
「――はい」
私は、ちょっとビビりましたが、頑張ってニッコリしました。
「私もそっちに賭けたかったんですよ」
「私の決定よ。責任も、私が取るわ」
「おお、我が主・・・!」
さて。
ツクノーさまが「何とか合わせましたが」と言って、鎧を着たユリを連れて戻って来ました。
金属兜で顔を覆ったユリ。別人のようです。
胴体はチェインメイルと毛皮の外套。当然冷えるので、鎧下もガッチリ着込んでます。
着膨れて、モコモコして見えて・・・ちょっと可愛いですね。
盾には黒いネコ(?)の紋章があり、手にした槍は黒く、長く・・・
「・・・あれ? “コノマーズの黒”?」
と、私が声を上げると。
「そうじゃが?」
と、私のところに馬を寄せて、コノマーズ女侯爵。
「それがどうかしたか? フターリア姫」
「いや、折れたではありませんか!」
「うむ。折れたが?」
「・・・予備あったの?」
「当然じゃろ。槍なんぞ。折れるもんじゃのに」
ツクノーさまは、ニヤニヤと笑いました。
「大げさに謝ると思ったら、あれ1本きりじゃと、勘違いしておったのか?」
「お人が悪い・・・!」
「はっはっは」
一騎討ちが始まりました。
アイメンカの戦士は、口先だけではありませんでした。
掛け声も高らかに馬を走らせると、揺れる馬上でしっかり槍の狙いを定めて・・・
ユリの持つ盾の中心を突いて見せたのです!
が、それだけでした。
ユリは前傾し、盾を押し付けるようにして、槍の切っ先を流しました。
敵の槍が、横に流れて、ユリを通せんぼする形になります。
前世・日本の知識で言うと、踏切の遮断器みたいな感じですな!
ユリは遮断器突っ切るバカってとこですが・・・
この場合、その遮断器を持ってるのは、人間の手ですからね。
え? ランス乗せる穴のついた鎧? あー、アレないんですよ。この世界。
手で持って脇に挟んでるだけです。
よって・・・
グキッと手をねじった戦士は、槍を取り落とし、体勢まで崩してしまいました。
そして。
この時には、すでに。
ユリの“コノマーズの黒”は、敵手の盾を突き破り、チェインメイルを突き破り、脇腹にザックリと突き刺さって、鞍上から吹っ飛ばしていました。
馬上から転落した戦士。地面に叩きつけられ、気絶。そのまま動かなくなりました。
「立て!」「まだ決着はついとらんぞ!」
アイメンカの戦士たちが騒ぎますが・・・
「そこまでじゃ!!!」
バーシー王が、戦士たちを鎮めました。
「余は見届けたぞ。この勝負、アスカリア伯爵の勝ちじゃ! ・・・さ、手当てをしてやるがよい」
「やったーーー!!!」
私はガッツポーズしました。
「ユリぃーーー!!」
無意識に馬の腹を蹴って、ベロ~ン君を走らせます。
ベロ~ン君。
我が相棒。
私の意を汲むことについては、かなりのモンです。
ユリのところまで私を連れてってくれました。
「さすがです! 勇者さま!」
「・・・ありがと」
兜を脱いだユリは、興奮する私を見て、笑いました。
「動きづらくってさぁ、ちょっとヒヤッとしたよ」
「完璧に勝ってたじゃん!」
「そこまでじゃないよ」
「お疲れさま」
マレーナ姉さんもやって来ました。
「ユリ、兜を」
「ん」
ユリの兜を受け取って、丁寧に拭いて、ツクノーさまの従者に返します。
さすが正妻・・・。
「参りました。アスカリア伯爵」
敵の親玉、ボンロウケさまも来ました。
「しかし、これも民のことを思えばこそ。今後は親しくお付き合いをさせてもらいたいもの」
「私の気持ちは、まこと、あなたの本心と同じですよ」
ユリは皮肉っぽく言い返しました。
「しかし、領主としてはこう命じます。負けた以上、早々に立ち去るがよい、とな」
「ええ、陛下の護衛はお任せしましょう。今日のところは」
ボンロウケさまは馬首を巡らせて・・・
「テニス、帰るぞ」
と、お嬢さまに命じました。
「はい?」お嬢さまは首をひねりました。「なんとおっしゃいましたかしら」
「・・・帰るぞと言ったのだ」
ボンロウケさま。
お嬢さまより6歳上の19歳。この世界では、領主やっててもおかしくはない年齢です。
身体つきも逞しく、威圧感がありました。
その背後にアイメンカの戦士が集まってくると、これはもう、震えるほどの迫力でした。
やべぇ・・・。
私、睨まれてるわ。
アイメンカの戦士に。
『裏切りおって』『所詮はよそ者だな』みたいな目で。
当然ですわね。
アイメンカが負けたのに喜んじゃったもんね。
トカゲのシッポとか言っといてコレだから。
ま、しょうがないね。ユリのコト、好きだもん。
・・・などと、思っていたのですが。
「いいえ、私は帰りませんわ」
お嬢さまが、命令を拒絶したのです。
「テニス。アイメンカは、引き揚げるのだ」
「はい。しかし、私は現在、勇者さまの配下ですから」
「なに?」
「私とファリアは、勇者さまの配下で、修行をさせて頂く話になっておりますわ」
「聞いておらぬが・・・?」
ボンロウケさまは、ユリを見ました。
ユリは、うなずきました。「ええ。お嬢さま方は、私が預かってます」
「・・・そうですか」
お嬢さまの義兄上は、ため息をついて、
「なら、口出しはすまい。元気でな」
「・・・はい。義兄上も、御武運久しからんことを」
「フンw いま途切れたばかりだがな?」
ボンロウケさまは、そう言って笑い、騎兵たちを引き揚げさせたのでした。
街道は次第に上りになり、丘と丘のあいだを蛇行するようになり・・・
夕方になって、前方に湖が見えてきました。
山あいの湖です。大きくはないが、綺麗な湖でした。
「さあ、あと少しですよ!」
と、ユリがみんなを励ましたところで。
「前方に怪物!」
「ゼウッツボーです! ゼウッツボーが、2~30体!」
と、王の戦士たちが警報を上げました。
◆♀◆ 11、絶望の蛇 ◆♀◆
「テニス、マレーナに合流! フにゃーリア、来い!」
ユリが私たちに命令しました。
「はい!」
と言いつつ、私は躊躇しました。
ここで『変容』すんの・・・?
パンツずらさないとダメなんだけど・・・?
「さっさとやるわよ」
「は、はい。しかしながら」
「みんなに余裕ができたら逆に見られるわよ」
「くそ」
私は、防寒用の毛皮のマントの下で、モソモソとパンティとタイツをずらしました。
丸見えではないけど、お尻のあたり触ってんのバレバレなんだよな・・・
アイメンカの戦士が引き揚げたので、後ろに誰もいないのは救いですが。
「変容せよ、フターリア。猫の力をその身に宿し、密かに優美に敏捷に。──ネコ娘に、な~れ!」
「ニャーン」
マントを脱ぎ捨てた私は、ベロ~ン君から飛び降りました。
「・・・寒っ!」
突如襲いかかる『やってられねー!』の気持ち!
抱っこしてた湯たんぽ(テニッサメイズという名前がついてます)から離れて。
毛皮のマントを脱ぎ捨てて。
しかもパンティとタイツをずらして、尻尾のあたりを出してるから。
寒いんじゃ!
ネコにこんな寒い仕事させんニャ!
「うわー、もう帰りてぇ」
ブツクサ言ってたら、
「フにゃ! とっとと来い!」勇者さまに怒られました。
「ひぃ! すみません・・・」
前方では、すでに戦闘が始まっていました。
国王の戦士たちが、ヘビのような怪物と戦っています。
その怪物。
黒と青の混ざった冷たい色をしています。
胴体の太さは、男の太腿ほど。長さは1尋を優に超えます。
さらに。
頭部は、胴体の3倍もふくらんで、袋のように大きな口を開けています。
その口で、噛みついてくるのです。
国王の戦士団は、これを巧みに盾や剣でさばいて、ザクリと斬り返します。
「絶虚壺めが!」と、戦士。「これでも喰らえ!」
「噛まれると痛いぞ。気を抜くな!」と、ユリ。
「ぶっといヘビだニャー・・・」
私は、気を抜いてトトトト・・・と前進しました。
その時でした!
「ファリア! 後ろよ」
「お嬢さま、背後、足元!」
「んにゃ?」
――私のお尻に、ガブリと牙が喰い込んだのは。
「ぎニャあーーー!!!」
私は飛び上がりました。
ビョーンと跳ね上がって空中で半回転し、お尻に噛みついたモノを振り払おうとします。
外れない!
ってか、痛い!!
なにか強烈に冷たいものが、身体の芯に入ってくる!
私は地面に落ちて、のたうち回りました。
「あぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」
「私に任せよ! クロ、動くな!」
「ほぎゃぎゃ」
身悶えつつ、ツクノーさまが近づいてくるのに気付いた私は。
なんとか痛みをこらえて、じっとしました。
ドスン!!
衝撃がお尻に響き、これまでで最強の痛みと絶望が襲ってきました。
「ぎゃーーー! もうダメだーーー!」
私は泣き叫びました。
「もうおしまいだー。殺されるぅー! みんなに嫌われて1人ぼっちで凍えて死ぬんだーーー!」
「こりゃ。しっかりせよ。いま治癒してやるから」
馬から飛び降りたツクノーさまに抱かれて、言い聞かされるのですが。
パニックになった私は、身体を制御できません。
女侯爵の肩を掴んで、彼女の腕から飛び出そうとします。
心臓がドッキンドッキン鳴ってるのがわかります。
ものすごい力で、弾丸のようにスッ飛んで逃げるのです。
――そのハズだったのですが。
ツクノーさまは、妙に慣れた手付きで私を抱きかかえると、
「治癒のためじゃ。尻を見るぞ、フターリア」
「もうだめだぁー!」
「陽の火よ、熱よ、輝きよ。このネコ娘を変容せしめよ。癒し、祓い、清めたまえ」
じゅわじゅわじゅわ・・・。
お尻に不思議な熱が広がりました。
「う・・・うう・・・」
気が付くと、フにゃーリアの身体は完全にツクノーさまに抱えられていました。
スカートがめくられ、パンティとタイツが(変容したときよりも)大きくずらされて・・・
お尻が丸出しになっております!!!
一応、お嬢さまとモリーヌが馬を寄せてくれてはいるのですが。
こちらを見ている者には、私の――シッポの生えたフにゃーリアのお尻は、丸見えでした。
「・・・ぷw」
よりによって、王女殿下に!
じっくり見られて、笑われてしまいました!
「もうおしまいだー! 身の破滅だぁー!」
「・・・絶虚壺は、大した怪物じゃないんだ。ただ牙が鋭くて、噛まれると痛いだけで」
「・・・それだけじゃないようだけど?」
ユリの声が遠くでします。
お嬢さまの声も。
みんなが、どんどん遠ざかっていきます。
私が死ぬからでしょう。身も心も、冷たい暗黒の中に引きずり込まれてゆくのです。
「うん。あの噛み付きには毒があってね――」
ほら。ユリも『毒』って言ってる。
もうダメです。フターリアの人生はここまでです。
ごめんなさい、お嬢さま。もっと側にいたかった。私はダメな侍女でした・・・。
「―― その名の通り、絶望の毒で心を蝕む。歳を取った人間だと、これで実際に死ぬこともある」
「解毒方法はあるの?」
「解毒方法はない。生命をつなぎ止める方法はある。けど・・・」
「何でもするわ。言ってちょうだい」
「・・・こっちが持たない可能性があるんだよね」
「どういうこと?」
「絶望の毒には、欲望で対抗する」
ユリは、ヘアバンドを取って、赤い髪をばさばさと掻いて、
「――ひたすら食わせるか、ひたすらヤラせるか、どっちかさ」
と、言いました。