※この作品はR-18です。

TSゆりフタ令嬢侍女メイド!   作:min(みならい)R18

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> ユリのほうが速ェ!

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侯爵あらため令嬢槍メイド!

◆♀◆ 18、冒険者の村へようこそ! ◆♀◆

 

 パカ、ポコ、パカ。

 フターリアです。

 雪の中を騎行中です。

 ユリの故郷、『冒険者の村』に向かって。

 

 先頭は、そのユリです。雪を踏みしめながら、湖畔の道を歩いてゆきます。

 その隣に、馬に乗ったツクノーさま。

 時々ため息をついて、私のほうをチラッと見てきます。

 ツクノーさまのことは好きなので、助けてあげたいのは山々ですが・・・

 この件では、ちょっとね。

 メイド服を罰ゲームに指定したの、ツクノーさまですからね。

 私の好きなものを罰ゲーム扱いされちゃ、助けるわけにいかないですな。

 で。

 そのツクノーさまの後ろに、私たちとモリーヌの馬。

 その後ろに、バーシー国王が付けてくれた護衛と、ダーリン姉ちゃんが続いております。

 

 私が乗ってるのは、いつもの去勢馬です。

 彼、歩きながら、ギョロ目でこちらを見てくるんですが。

 なんじゃ?

 ふざけとるワケじゃないし・・・

 何か訊きたそうだな?

「なんじゃ。どうした」

「ブヒン・・・?」

「もしかして、俺のコト、心配してくれてる?」

「ブヒ」

「もう大丈夫だぜ。ありがと!」

 手を伸ばして首を叩いてやると、ベロ~ンと舌出してくれました。

「すっかり相棒ね」

 と、テニスお嬢さま。

 お嬢さまは、私の前に座ってます。いつものポジションですね。

 ハーフエルフの小っちゃな身体。風除けになって、あったかいです。

 お返しに、モコモコの毛皮のマントでくるんで抱きしめて差し上げております。

 私はお腹とおっぱいが温かく、お嬢さまは背中が温かい。互恵のポジションですわ。

「話のわかる、いい男ですよ」

「ブヒ」

「この子も、引き取らせてもらいたいところね・・・」

 お嬢さまは、しみじみと仰いました。

 

 おや?

 この一言・・・

 『本気で家を出るわよ』という、意思表示でしょうか?

 そろそろ準備しといてね、という?

 

「うまく行きそうですか?」

「侯爵御本人は、認めて下さると思うわ。払うものを払えればね」

「足りますかね?」

「馬だけならね」

「そうですか。ふへへ」

 私はニヤケてしまいました。

 

 馬だけなら(王女救出の褒美で)足りる。

 ――しかし、払い切れないモノが、まだあると。

 それは当然、馬より高いモンでしょう。

 たとえば、忠実なメイドとか!

 

「これからも、お嬢さまのメイドでありたいもんですな」

「あなたは侍女よ」

 軽口叩きつつ、お嬢さまは毛皮の下の私の腕をギュッと握りました。

 

 このようにして、四半刻ほど歩いたところで。

「着いたよ!」

 ユリが言いました。

 こちらを振り向いて、腕を広げています。

「アイメンカの姫、ダンゼイズの姫。ようこそ、冒険者の村へ!」

 

 女勇者さまが示してくれた先には。

 湖に流れ込む小さな川があって。

 舟が何艘かもやってあって。

 木造の、半ば腐れ落ちたような小屋が並んでいて。

 雪が積もって、踏まれて解けて、グチャグチャの泥になってから凍った道(?)があって。

 その黒いカチンコチンの道の先に、大通り(?)が伸びていて。

 両脇の建物の玄関に、酒のビン持った浮浪者が座り込んでおりました。

 

「汚ねぇ・・・」

「ちょっと!」

 

◆♀◆ 19、汚ねぇ・・・ ◆♀◆

 

「いま『汚い』っつったな?」

 ユリが私を睨んで、ニヤッと笑いました。

「我が領を侮辱する者は、タダでは帰さんぞ。ダンゼイズのドラゴン姫よ」

「・・・。」

 

 侮辱だと?

 おいおい。

 

「侮辱はそちらではありませんか? アスカリア伯爵」

 私は言い返しました。

「コノマーズ侯爵と、アイメンカ侯爵の令嬢がいらっしゃるのですよ」

「だから?」

 ユリは、悪役みたいな顔をしました。

 こちらを見下すような顔です。

 コイツ、こういう表情うまいんだよな。すげぇイラッとくる。

 私は・・・

 後ろから近づいてきたダーリン姉ちゃんに、訊くことにしました。

「・・・ユリ、もしかして、試合したがってる?」

「・・・はい。たぶん」

「そっか」

 私は背を伸ばしました。

「――アスカリア伯爵閣下。公衆衛生も、領主の務めではありませんか?」

「おやおや! ダンゼイズのドラゴン姫は、綺麗好きのようですなあ!」

 ユリは笑いました。

「きっと、馬のフンにも、お怒りになられるんでしょう」

 

 ボトッ。我が相棒が、ウンコしました。

 

「・・・おい! 今すんじゃねーよ」

「ブヒ」ベロ~ン君は尻尾を振りました。

「ほらほら、馬を叱って下さいよ、潔癖姫」

「うるせぇ!」

 私はちょっとキレました。

 味方がポカしたときは逆ギレするに限る。

「浮浪者、こんなトコに寝かせんな! 凍え死ぬだろ! 救貧宿ぐらい造らんかい!」

「うへへw」浮浪者が笑いました。「おもしれー女が来やがったぞ」

「いいぞ。やれやれ! やっちまえー」

 浮浪者が立ち上がって騒ぎ、建物のドアや窓が開いて住民が顔を出します。

「なんの騒ぎだ」「ユリがケンカしてんだよ」「あ、そう」「どっちに賭ける?」

 たちまち盛り上がり、人だかりができます。

「よかろう!」

 ユリがカッコつけて、私を指差します。

「ダンゼイズのドラゴン姫! 明日のこの時間、広場にて、決着をつけようじゃないか!」

 

 ユリも浮浪者も住民も、ニヤニヤ笑いながら私を見ています。

 

「む・・・」

「ビビってやがる」「なんだ、口先だけか」「所詮はお嬢ちゃんだな」

 私がちょっとためらうと、すぐに野次馬が笑い出しました。

「くそっ!」

 私は、毛皮のマントをお嬢さまに掛けました。

 去勢馬の鞍上で、膝を伸ばして、立ち上がります。

「その勝負、受けて立ちますわ!」

 鐙を踏ん張り、胸を張って(デカパイに一斉に視線を浴びて)、言い返します・・・

 

 「アイメンカの姫に仕えるメイドが「侍女よ!」、

  口先だけの女などと思われては、お嬢さまの名誉に関わります!

  見せてやりますわ!

  アスカリア伯爵、あなたにも、あなたの領民にも!

  このフターリアが、口先だけのメ「侍女よ!」ではないと!」

 

「ヒュー!」「ユリにタンカ切りやがった」「生命知らずなオンナだ」

「・・・なんだよ、まったく」

 私は鞍に座り直しました。

「演し物でしょ」お嬢さまは平然としてます。

「だしもの?」

「バーシー王や領民を楽しませる見世物にするつもりなのよ。自分とフタゴンを」

「あの野郎・・・」

 

 パカ、ポコ、パカ。

 去勢馬は、何事もなかったかのように歩き出しました。道のド真ん中に、ウンコを残して。

 

◆♀◆ 20、我が家へようこそ ◆♀◆

 

 私たちは、凍った道を登ってゆきました。

 つづら折れのカーブを曲がったところで・・・

 突然。

 道路も、建物も、綺麗になりました。

 雪かきの行き届いた石畳の道。

 窓に明るい光の灯った家々。

 浮浪者の姿もありません。

「あれ・・・?」

 私は、坂道の下を見ました。

 そっちは、やっぱり汚いです。

 汚いのですが・・・

 どの家も、窓から明るい光が洩れているのは、こちらと同じです。

 煙突からは、元気に煙も立っております。

「・・・意外と豊か?」

「薪は足りているようね」と、お嬢さま。

「先ほどの浮浪者ですが、」モリーヌが馬を寄せてきました。「密偵の類かも知れません」

「密偵?」

「キッチリ目が合いました。酒乱ではなく、弓取りのごとき目でした」

「・・・。」

 私は、ダーリン姉ちゃんを見ました。

 姉ちゃんは、ニヤリとしました。「モリーヌさまは、お目が高い」

 

 話してるあいだに、一行は大きな館の前に着きました。

 広い庭つきの、3階建てのお屋敷です。

 立派な・・・と、言いたいところですが。

 

「ヘンな建物ね」

「ツギハギですな」

 

 それは、ツギハギのお屋敷でした。

 1階と、2階左半分は、古い石造りの館なのですが。

 2階右半分と3階は、新しい木造・・・という。

 壁が途中から木に変わってるんですよ。

 そんな建物、ある?

 屋根も木造で、雪の重みで、たわんでるように見えるんですが・・・

 煙突は、レンガ造りのガッチリしたのが突きだしてる。

 

「・・・ユリ」

「なんだよ」

「ここに住んでんの?」

「うん」

「大丈夫なの? 屋根。めげそうだけど」

「失礼なヤツだな!」

 ユリは笑いました。

「心配いらないよ。陛下と殿下は、あっちに泊めてるから」

 ユリは、道をもうちょっと行った先にある、新しい館を指しました。

 2階建て、レンガ造り。居心地良さそうな館です。

「だが、私の仲間には、ここに泊まってもらう」

 ユリは。

 挑むような目をして、お嬢さまと私を見上げました。

「後悔した? なら、逃げてもいいぜ?」

「・・・。」

 

 お嬢さまは私を見ました。

 私は、モリーヌを見て、ベロ~ン君を見て。

 お嬢さまに目を戻しました。

 

 お嬢さまは、こう仰いました。

「アスカリア伯爵。私たちは、お金について来たのではありませんわ」

「ほう?」

「あなたの可能性に、ついてきたのです」

「ん!」

 ユリはにっこりしました。

 

「あらためて、ようこそ、我が家へ」

 

◆♀◆ 21、秘密基地 ◆♀◆

 

「厩は、向かって右ね」

「はーい」

 私たちは、ユリの館に入りました。

 手綱を引いて、右手に向かいます。

 砂利の敷かれた小路の奥に、たしかに厩がありました。

 で。

 それとは別に、子供の声が聞こえてきました。

「キャー!」

「ウキャアー!」

「ぎゃははははは!」

 ・・・クソガキボイスですな。

 お隣の、縦に細長い建物の中から聞こえてくるようです。

 幼稚園かなんかかな?

「お隣は、孤児院ですわ」

 と、ダーリン姉ちゃん。

「アスカリアの婆さまが院長やっておられます。いまは、出張中ですけどねぇ」

「アスカリア・・・というと」

「はい。聖女の御名前ですわ」

 

 アスカリアの勇者。アスカリア伯爵。

 ユリの称号ですね。

 聖女の名を、そのまま冠したということですね。

 

「さぞかし、すごい聖女さまなんでしょうね」

「すごいっちゃ、すごいんですけどねぇ・・・w」

 ダーリンは、我が相棒を厩に繋ぎながら、笑いました。

「ごっつい気の強い婆さまでねぇ。『あの院長にして、この勇者あり』ですわ」

「へぇ」

 

 出張中で良かった、とか思ってしまった。

 『初めまして。ユリの浮気相手です』とか挨拶できねえもんな。

 

「ユリは、この孤児院の出身なんだね」

「昔は、別の建物やったそうですけどねぇ」

「引っ越したってこと?」

「はい。ここは、ユリさまが建て直したんですわ。元は、あっちの・・・」

 ダーリンは、村の入り口を指しました。

「・・・『冒険者の村』の方にありましてん」

「そっか」

 私は、頭を掻きました。

「『救貧宿建てろ』とか言っちゃったけど。ユリ、とっくにやってたんだな」

「そうですねぇw」

「――冒険者の村って、」と、お嬢さま。「本当に、冒険者がいたの?」

「はい。ここは、吸血鬼討伐の拠点やったんですわ」

「いまはやってないの?」

「吸血鬼が引っ込みましてねぇ・・・」

 ダーリンは、山の向こう、南の方角を見ました。

「遠征すると途中で夜になりますでしょ? 夜に、吸血鬼に襲われたらねぇ・・・」

「なるほどね」

 

 厩を出た私たち。ツギハギ館に入ります。

 両開きの玄関扉をくぐると、大きなホールでした。

 正面にでっかい暖炉があって、ガンガン燃えてます。

「いらっしゃいませ」

 ドレス姿の美女が、私たちを迎えてくれました。

「マレーナ姉さん・・・」

 魔術師のマレーナ姉さんでした。化粧をして、オトナの女という雰囲気です。

 彼女の隣で、ユリがニコニコしてます。

 マレーナ姉さん、完全に『奥方』の貫禄ですな。

「見ての通りのボロ屋ですが・・・歓迎しますわ。テニスさま。ファリアさま」

「リアさぁ、『屋根が抜けるんじゃない?』とか抜かしたんだぜ」

「おい、告げ口すんな!」

「補強はしてますよ」

 マレーナは笑いました。

「御三方には、2階の客間を御用意いたしましたので。さ、どうぞ・・・」

 

 ドレスの姉さんについて、2階に上がります。

 狭くて急な階段。

 前をゆくマレーナ姉さんのドレスの尻が、目の前に。

 ユリの女の尻・・・と思うと、ちょっとドキドキします。俺はホントにダメだな。

 

 階段を上ると、目の前にボロっちい扉がありました。

 これが・・・?

「物置です」

「物置か」

 狭い廊下を歩いて、反対側の扉へ。こちらは頑丈そうな扉でした。

 中は、扉の多い部屋になっていました。

 いま入ってきたのと、正面と、左手。全部で3つ扉があります。

 さらに、天井にハシゴが伸びています。

 ダーリン姉ちゃんが、ここで荷物を下ろしました。

「ここは、ダーリンの部屋です」

「この奥で寝てますねん」正面の扉を指して、ダーリン。

「ほう・・・」

 私はハシゴを見上げました。

「・・・秘密基地みたいやなぁ」

「そやなぁw」ダーリンは笑いました。「ウチは、ダークエルフの番人ってトコですわ」

 

 ダーリンをここに残して、私たちは左の扉へ。

 また狭い廊下です。突き当たりの左右に、扉がありました。

 右の扉を、マレーナが開きました。

「こちらです。左は、主人と私の部屋ですわ」

 うーむ、正妻。

 私たちの客間には、ベッドが3つ並んでいました。

 窓は、2つ。左側の壁にあります。十分に明るい部屋でした。

 暖炉はナシ。

 でも、部屋はあったかい。

 2枚の窓の間に、ズドーンと柱が通っているのですが・・・

 この柱が、まるでヒーターのように、ポカポカと温まっているのです。

「煙突ですわ」

「なるほどね」

 

 私たちは、真ん中のベッドをお嬢さまのものとしました。

 入り口に近いベッドはモリーヌ。奥に私です。

「ファリア。奥は、寒いんじゃないかしら?」

「大丈夫ですよ」

「くっつけてもいいのよ?」

「よっしゃ!」

 ズゴゴ。私はベッドをくっ付けました

 モリーヌのも動かそうとしましたが、こちらは断られました。

「私は、剣を抱いて寝ますので」

「剣を・・・?」「そんな趣味が・・・?」

「護衛としてです! 御二方をお守りするためにです!」

 

 私たちはベッドに座って、しばらくイチャイチャしました。

 それから、お嬢さまが母上の魔術の本を取り出して、勉強開始。

 私は1階に向かいました。

「・・・御用ですか?」

「あ、ダーリン姉ちゃん。お茶を淹れようと思ってね」

「はいはい。御案内しますわ」

 食堂に案内されました。

 1階、玄関ホールの隣。

 私たちの客間の真下ですね。

 10人ほどが会食できそうな、長細い食堂です。

 奥に小さな暖炉。天板にヤカン。一口呑んでみると・・・

「いい湯加減」

「どうぞ、お使い下さい」

 

 お湯をもらって、お茶の用意をしました。

 したところ。

 

「御免!」

 背の高い女侯爵が、食堂に入ってきました。

「ツクノーさま」

「フターリア姫。お邪魔じゃったか?」

「いえ。私に御用でしょうか」

「うむ。用というか、頼みというか」

「指導を頼みたいんだってさ!」後ろから、ユリが現れました。

「あ、メイドのですか?」

「うむ」

「ふむ・・・」

「やるからには、きちんとやりたいのじゃ。真面目にメイドやっとる者に習うてな」

「・・・そういうことですか。でしたら、喜んで!」

 

 というわけで。

 私は、ツクノーさまと一緒に、お嬢さまのところへ戻るのでした。

 

◆♀◆ 22、なんでメイド? ◆♀◆

 

「・・・そもそもじゃが、フターリア姫よ。なぜ、メイドなのじゃ?」

 

 一緒に、お茶を呑みながら。

 ツクノーさまが、口を開きました。

 

「メイドやってるときは、ファリアで結構ですよ」

「ええのか?」

「そのほうがメイドっぽいですし」

「はぁ」

 ツクノーさまは、赤毛っぽく日焼けした金髪を傾けて、

「では、ファリア。なんでメイドなのじゃ?」

「なんでとは」

「伯爵の娘じゃろ」

「いえ、本業は「侍女よ!」ですから」

「・・・そちは、このコトに限っては、話の通じぬヤツになるようじゃ」

 ツクノーさまは、肩をすくめました。

「その格好、気に入っとるワケじゃろ?」

「もちろん」

「その気持ちを聞きたいのじゃ」

「かまいませんが・・・役に立ちますかね?」

「本心からメイドを好む理由は、真似事をする者にも、参考になるハズじゃ」

「なるほど!」私は喜びました。「侯爵閣下は、人から話を聞き出すのがお上手ですな!」

「ツナでよいぞ」

「・・・ツナ?」

「私の愛称じゃ。いまでは、そのように呼ぶ者も居らぬが」

 侯爵は、頬も少し赤くしました。

 

 ツナ。

 ツナですか。

 猫好きの侯爵の愛称が、ツナ・・・。

 

「・・・ほほう」

「なにを戸惑っておる」

「いえ・・・ね、猫に、お似合いの、愛称だなと・・・」

「そうか?」

「クロも喜ぶでしょう。ツナ・・・っ・・・www」

「なにを笑っておる」

「いえwww」

「ファリアは、ふつうの女とは違うところで、ツボに入るのですわ」とお嬢さま。

「そうか・・・」

「失礼なwww」

 

 前世の感覚でツボに入っとるだけじゃ!

 かわいそうな子・・・みたいな目で見るのはやめろw

 モリーヌ! オマエもだぞ!

 

「・・・ええと。失礼しました。では、えー・・・ツナさん」

「なんじゃ。ファリア」

「メイドですが。この格好をするようになったきっかけはですね、」

「うむ」

「私も覚えてません」

「なんじゃ・・・」

「子供の頃からやってますのでね。お嬢さま、覚えてます?」

「全然」

 テニスお嬢さまは、首を振りました。金髪ポニテがふわんふわんしました。

「最初からメイド服着てた気がするわ」

「そうなの? モリーヌ」

「まさか」モリーヌは手をヒラヒラしました。「初めだけは、伯爵令嬢っぽく装っておられましたとも」

「初めだけかい」

「ええ。――テニスお嬢さまのお世話をするのに、ドレスを汚すことがありまして」

「子供だもんね」

「そうです。5歳でいらっしゃいました。それで、リチャータが作業着を用意したのですが、」

「・・・あ、リチャータは乳母です。お嬢さまと私の」

「ほう? そなたら、乳姉妹であったか」

「はい。光栄なことに」

 

 いまは互いの乳ペロペロする仲だけどな! うへへ!

 ・・・とかゲスなこと考えたら、お嬢さまに蹴られました。

 

「ところが、ファリアさまがその作業着を『カッコ悪い』と言い出して」

「失礼な。誰だそんなこと言い出したのは」

「御身です」

「記憶にございませんわ」

「それで、どんな服にしますか? と、ばあやが訊いたら、『アレ』と」

 モリーヌは、私のメイド服を指差しました。

「・・・メイド服を?」

「はい。奥様の執務室を担当するような、上級メイドを」

「身の程知らずなガキだな。どこのどいつだ」

「御身です」

「それで、メイド服になったんだ」

「ひと悶着ありましたが」

「そうじゃろうな」

「ええ。下女の格好は・・・と、侯爵閣下も悩まれたとか」

「マジで」

 

 侯爵悩ませるとか、何してんの俺・・・

 ちょっと恐くなりました。

 

「・・・もしかして、いまでも結構問題になってる? 俺」

「はい」

「なってたの!?」

「ダンゼイズでも、色んな人に訊かれましたよ。『下女の姿をさせられているのか!?』と」

「な・・・なんて答えた・・・?」

「フターリアさまは、ただの侍女ではない。テニスさまの無二の忠臣である、と」

 モリーヌは、涼しい顔で、お茶をすすりました。

「誰よりも身近でお世話をなさるので、汚れてもいい服として使っておられるだけです――と」

「モリーヌ、オマエなかなか嘘が上手いな」

「嘘のつもりはございませんが?」

「・・・。」

「・・・。」

 私たちは睨み合いました。

「・・・えー、オホン」

 モリーヌが折れる気配がないので、私は咳払いをしました。

「というワケです! 参考になりましたか?」

「いや全然ならぬ」

 ツナちゃんは首を振りました。

「そなたがなんでメイドを気に入っておるのか、一言も聞いておらぬ」

「む・・・」

 

 ・・・困るんだよね。

 そういう、なんで? っていう、ストレートな質問。

 理屈で服着てるワケじゃねーし。俺。

 

 お嬢さまがなんとなく嬉しそうだったから、とか。

 フターリアがクールな美少女で、メイド服が似合うとか。

 単純に、動きやすいとか。

 そんなんだし。

 

 あ、抵抗が少なかったから、ってのもあるかな?

 伯爵令嬢として過ごすの、抵抗あったから。

 俺は男だ!!! って。

 メイド服って、仕事のための服じゃん?

 令嬢のおしゃれ着から、だいぶ離れてる服だからさ。

 

 ・・・あとは、お嬢さまだね。

 母親が妾なのは、この王国じゃよくあることだから、しょうがない。

 けど、その妾を戦死させて、娘は放置ってどうよ?

 ――それでも父親かよ! って、思ってた。

 だから、侯爵家の一員とみなされるのは、イヤだった。

 俺はちがう。

 お嬢さまの味方はしてやる。

 けど、貴族としてじゃない。1人の男としてだ!

 そう思ってた。

 

 ・・・え?

 1人の男としてメイドって、どういうコトかって?

 うるせえな。男として助けようと思ったけど女だったんだよ!

 

 いまは、侯爵の考えもわかるよ。

 お嬢さまを嫌ってたんじゃない。正妻の嫉妬を恐れてたんだって。

 けどね。

 わかったって、お嬢さまが失ったものは戻ってこねーんだよ。

 

「・・・女の子ではなく、『仕事人』と見られたかった、というところでしょうか」

 私は、そのように表現しました。

「あとは、この御方に仕えるという、やり甲斐です」

「ほう?」

「テニッサメイズさまは、賢く、冷静で、逆境にあってもコツコツ努力できる御方ですので」

「褒めすぎよ」

「そのような御方の、専属メイドです。やり甲斐は最高なワケです!」

「・・・なるほど。その気持ち、身共にもわかるぞ」

「わかりますか!?」

「うむ。身共は、王女に仕えたことがあってな」

「ツクノーさまは、王女殿下の教育係だったとか?」と、お嬢さま。

「そうじゃ」

 ツナちゃんは、頷きました。

「まだ幼い頃にな。あれは、やり甲斐のある仕事じゃった」

「ツナちゃん! それです!」

「ツナちゃん?」

「その『やり甲斐』です! 私の、メイド服に対する気持ちというのは!」

 私は立ち上がりました。

 

「さあ! 明日に向けて、メイドの理想を探求しましょう!」

「あ、はい・・・?」

 

 テンションの上がった私は。

 その日の残り、みっちりと、ツナちゃんを指導したのでした。

 

 ・・・ツナちゃん、貴重な休日だったらしいんですがね。

 熱中しすぎたのは悪かったと思ってます。はい。

 

◆♀◆ 23、侯爵あらため令嬢槍メイド! ◆♀◆

 

 で、翌日。

 ツナちゃんのメイドデビューの日です!

 

「なんとか間に合いました・・・」

 マレーナさんが持ってきてくれたのは、なんと。

 

 ダークブルーの、光沢のあるメイド服。

 コットンではなく、亜麻に南方の麻を混合して織った、光沢のある生地。

 シャツは絹。ボタンは鼈甲。

 作業着というには高級すぎる、その服は・・・

 

「フターリア・カスタムじゃん!」

 

 なんと。

 ツナちゃんのために用意されたメイド服は。

 素材から縫製まで、ほぼ、私のと同じ!

 姉妹品と言えるほどの一品でした!

 

「いつの間に・・・」

「あなたのもあるのよ」

 

 なんと、さらに!

 ツナちゃん用とは別に、メイド服が1セット、出てきたではないですか!

 

「テニスお嬢さまに御協力頂いて、実現したのです」

「その代わり、この1着の代金を持ってもらったの」

「おお・・・!」

 

 私たちは、部屋でメイド服に着替えました(まあ、私は朝からメイド服でしたが)。

 着てみますと、細かいところで、違いがありました。

 肩の、パフスリーブになったとこの、ギャザーの数が、ツナちゃんのほうが多いとか。

 リボンタイ用のブローチの装飾がちがうとかね。

 私のは、丸い女の子の顔に、エルフ耳が生えてて。

 ツナちゃんのは、面長な美人の顔に、ネコ耳が生えてるんですよ。

 リボンタイの色もちがいます。ツナちゃんは美しい黒で、私のは赤です。

 

「黒は"コノマーズの黒"ですな?」

「そなたの赤はなんじゃろか」

「なんですかね・・・うーん・・・」

 お嬢さまを見ました。ニコニコしてます。

 

 そう言えば。

 お嬢さま、今日『フタゴン』の呪文もかけてもらうことになるんだよな。

 大丈夫なんかな。マナ切れ・・・というか、眠くなるヤツ。

 ユリのやつ。お嬢さまに無理させやがって。

 ブレスの一発でも浴びせとかないとな。

 

「・・・あ、フタゴンの炎?」

「当たり!」

「御二方の、得意の武器にちなんだ色にしてみました」

 

 私たちは、楽しく騒ぎながらメイド服を着ました。

 ツナちゃんは着慣れてないので、ワンピースの背中の紐は私が結んであげたりとか。

 あ、それと、髪ですね。

 ツナちゃんは、わりと長い髪をしてるんですが。

 これを、左耳の上でまとめて、横ポニーテイルにしました。

 本業の私は、事務的に後ろでまとめてるんですがね。

 彼女は、女っぽくしてあげようというわけです。

 

 着終えた頃には、予定の時間になっておりました。

 調理場に向かいます。

 1階の奥。

 調理人が黙って頭を下げて、茶菓子を出してくれました。

 すみませんね。お遊びでプロの仕事場にお邪魔して。

 菓子は私が。

 お茶はツナちゃんが持ちます。

「みなさま、食堂でお待ちですから」と、マレーナ姉さん。

「かしこまりました、奥さま」

「奥さま・・・!」

「行きましょう。ツナちゃん」

「う・・・うむ・・・!」

 ツナちゃんと、私。

 侯爵メイドと、侍女メイド。

 新品のメイド服を見せびらかすべく、食堂に向かいます。

 

 食堂には、扉はありません。

 並んだ石の柱のあいだに、風除けの幕が垂れているだけです。

 お盆を持ったままでも、問題なく、くぐれます。

 ・・・くぐれるのですが。

 ツナちゃんが、その幕の手前で、立ち止まってしまいました。

 

「どうしたんです?」

「・・・恥ずかしくなってきた」

 

 なんと。

 ツナちゃん、ここに来て足が動かなくなりました。

 

「大丈夫ですよ。ツナちゃん美人だし。アイツら、私で慣れてますし」

「いや・・・じゃが、しかし・・・」

「私に見られても平気だったじゃないですか」

「そなたは同類じゃから・・・」

「同類ってなんじゃ」

 

 しばらく説得しましたが、足が動かない様子。

 慰めるのはやめて、発破をかけることにしました。

 

「ツナ。主人を待たせるようでは、メイド失格ですよ」

「む」

「さ、職務を果たしましょう」

「むむむ・・・」

 ツナは、ギクシャクした動きで、私を振り向きました。

「・・・そなたが、クロになってくれれば、頑張れる気がするのじゃが」

「なに条件付けてんの?」

 私は断ろうとしたのですが。

「じゃ、やるわよ」

 背後で、お嬢さまの声がして。

 

 スカートがめくられて。

 タイツがずり下ろされて。

 パンティが、

 

「おい!? ちょっと!」

「いいからジッとしてて」

「ジッとしてろはこっちのセリフですが!?」

 

 パンティが、ずり下ろされて。

 

 お尻にひんやりと風が当たったかと思うと。

 

「変容せよ、フターリア。猫の力をその身に宿し、ツナを魅了するネコ娘に、な~れ!」

「うニュー!」

 

 私は、『変容』させられて。

 黒いネコ耳と、ダークグレイのキジトラ尻尾の持ち主になってしまいました。

 

「あのですね。お嬢さま」

「なに? 時間がないから手短に」

「本人の同意を得るべきだと思います」

「ツナさまだけ恥ずかしい思いをさせたらダメでしょ」

「ぬぐう!」

 私は言い負かされました。

「じゃ、行ってらっしゃい」

「くそ! しょうがニャ! 行きますよ、ツニャちゃん!」

「うむ!」

 

 なんか元気になったツナちゃんとクロは、垂れ幕をくぐって食堂に入りました。

 

「おま、お待っ、たせ、いたしましたっ!」

 ツナちゃんが名乗りを上げました。

 その声は、食堂に響き渡りました。

 食堂は、一瞬静まり返ってから・・・

「うひゃひゃひゃ!」ユリの笑い声がして。

「おお、ツクノーよ。見事に着こなしたもんじゃのう!」バーシー王の声がして。

 パチパチパチ・・・!

 と、拍手で、私たちを迎えてくれました。

 

 ・・・いや、茶菓子持ってきただけで拍手されても困るんだけどね?

 

 食堂の人々に、茶菓子を配ります。

 ユリ。

 バーシー王。

 口をぽかーんと開けている、ネムリタロッカ王女。 

 いま席に着いたマレーナ姉さん、テニスお嬢さま、モリーヌです。

 

「これはいい! 可愛い2人組だ!」

 ユリは、大はしゃぎです。隣に座ったマレーナの腕を叩いて喜んでます。

 王女の目が、ジトーッと私を見てきました。

 私は、ツナの影に隠れました。

 ツナさまは私をかばって、王女に近付くと、

「いかがかな? 御主人さま。新米メイドの入れた茶で、畏れ多いのじゃが」

「あ・・・え、ええ。いえ。そんなことは、」

 姫はお茶を口に入れました。

「うん。おいしいですよ。ツクノー・・・さま・・・?」

 戸惑いながらそう言うと、首を伸ばして私を見てきました。

「フターリアさまは、また耳が生えてらっしゃるのですね」

「はい。先ほど、ちょっと」

「クロに似とると思わんか? この色」

「・・・そうですね」

「確かにな」

 バーシー王もうなずきました。

「そういう色合いじゃったのう。コノマーズ家の黒豹は」

 

「・・・黒ヒョウ?」

 

「うむ。クロ、クロというて、ツクノーはたいそう可愛がっておった」

「ヒョウだったの!? ネコじゃニャくて?」

「ヒョウじゃぞ?」

 ツナは、私の頭とネコ耳を一緒に撫でました。

「ちょうど、このぐらいの大きさでな。怒らせると、恐ろしい子じゃった」

「そりゃそうでしょうニャ・・・!」

 

 歓談が始まりました。

 ツナちゃんは大人気です。

 私は王女さまに大人気でした(ネガティブな意味で)。

 陛下が私にも話しかけて下さるので、抜けるに抜けれません。

 なかなかハードな時間でした。

 

 ユリがあんまりからかうので、ツナちゃんが槍に手を伸ばす(フリをする)場面もありました。

 それを見たユリ。

「おお! 令嬢槍メイドですな!」

 これを、バーシー王が面白がって。

 ツナちゃんは、槍を持って立つという余興をやらされました。

 メイド姿のサイドテールの美女が、槍持って、赤面してる姿。

 正直言って、かなり・・・可愛かったです。

 

「いや、楽しい趣向であった。ツクノーは、貴婦人の相手がまことに巧みじゃ」

 バーシー王は御機嫌です。

 陛下、ここのところずーっと、お金をバラまくおじちゃん係でしたからね。

 気晴らしになったのなら、まことによいことです。

 私にできることなら、なんでもお手伝いを――

 

「しかも、この後、試合を見せてくれるそうではないか?」

「ええ。リアが私にケンカを吹っかけてきましてねぇ」

「ダンゼイズのドラゴン姫! ウワサだけは聞いておるぞ。楽しみじゃ!」

 

 ――しようかなと思ってましたが。やめときましょう。

 私の主人は、お嬢さまですし。

 

「じゃ、フタゴン行きましょうか」

「待て待て待てぃ! 着替えるまで待たんかい」

「ノリが悪いわね」

「いま『変容』したら、新品のメイド服が破れるでしょうが」

「それもそうね。じゃ、脱いで」

「ストリップになるじゃろ!」

 

 私の主人も、たまにちょっとおかしいんですよね。

 どうしたらいいんでしょうかね。

 

「フターリアさまは大胆ですね。ユリさまに勝負を挑むなんて・・・」

「姫は、このユリを応援してくれますよね?」

「もちろんですわ! ユリさま♥」

 

 どうしたらいいんでしょうねぇ!?

 

◆♀◆ 24、フタゴン、ピンチになる ◆♀◆

 

 午前の楽しいお茶会も終わって、お昼です。

 約束の時間がやって参りました。

 

 『冒険者の村』の、広場です。

 私は、毛皮のマントに身を包んで、ユリを待っています。

 隣にはお嬢さま。モリーヌ。

 それに、ツナちゃんが付いてくれています。

 

 ・・・ツナちゃん、メイド服のままなのですが?

 ええんか?

 

「バーシー王も、姫も、あっちに付いてしもうたからのう」

 ツナちゃん。

 侯爵メイド。野次馬の視線を、一身に浴びて。

「誰じゃアレ」「美人じゃな」「ユリの親戚かなんかか?」「おっぱいデカいな」

 かなり下品な野次を浴びて。

 頬っぺた、真っ赤になってますが。

 手も震えてますが。ホントに大丈夫?

「む・・・むろんじゃ。こ、これは、そなたを応援するために、着てきたのじゃから」

「ツナちゃん・・・!」

 

 ユリは、私たちをずいぶん待たせて、悠然と現れました。

 チャンピオン演出かよ。

 まあ、領主だから、そこは許してやるけどさ。

 国王と王女を引き連れて来るのはダメだろ!

 これじゃ、ホントにこっちが悪者になっちゃうじゃねーか!

 

「私たちがついてるわ!」

「そうじゃ。身共はそちの勝利を信じておるぞ」

「・・・お嬢さま。ツナちゃん!」

「引き際を誤らないでください。ユリさまを本気にさせてはいけませんよ」

「・・・モリーヌ。現実的なアドバイスをありがとう」

 

 私は、なんとかやる気を奮い起こしました。

 バッ! と、毛皮のマントを脱ぎ捨てます。

 白いトーガ一枚の姿になりました。

 

「・・・あれ?」

「なんですか、ツナちゃん!」

「メイド服は・・・?」

「脱いできました! フタゴンの時は、邪魔なので!」

「え?」

「じゃ、行くわよ!」

「カモーン!」

 

「変容せよ、フターリア! 幻のドラゴンの力よここに。地を這い火を吐き勇者を倒せ! ──フタゴンに、な~れ!」

「ガオーゥ! ・・・いや、勇者倒すのはまずくない?」

 

 ドラゴン娘に『変容』する私。

 見る見るうちに伸びてゆく私の身長を見て、野次馬がどよめきました。

 ばさり! 翼を広げると、

「うおおおお・・・!!!」

 まさに、畏怖、そのものの声を上げて、のけぞります。

 うむ。気分が良くなってきた。

 勇者にも勝てそうな気がしてきた!

 

「・・・あ、あれ?」

「なんですか、ツナちゃん!」

「ネコ耳は・・・?」

「フタゴンは、ネコでもヒョウでもありませんので!」

「え?」

「・・・あ、もしかして『応援するのやめようかな』とか思ってます?」

「いや思っておらぬ。今日の私は、そなたの後輩。新米メイドのツナじゃから」

「あなたという人は・・・!」

 

 私は、がぜんやる気になりました。

 

「見ててください。ツナちゃんのために戦いますよ私は!」

「うむ!」

「・・・私は?」

「引き際・・・!」

 

 ずしん、ずしん。フタゴン前進します。

 野次馬が「ひぇぇ・・・」とか言いながら左右に割れました。

 ギロリ。ちょっと睨んであげました。

 子供が泣き出しました。

 あれ? やり過ぎたかな。

 

「恐れることはない!」

 ユリがカッコつけ始めました。

「我が領民よ、このアスカリア伯爵が、そなたらを守る」

「・・・おい」

「なんだよ」

「オマエな」

 

 なあ、ユリよ。

 

 ヒールやらせるなら「ヒールやってくれ」って頼めよ。

 事前に了承取れよ。

 それが礼儀ってモンだろ?

 それナシで人を悪モンにするのは、裏切りだぞ?

 

 俺、ちょっと本気で腹立ってきたんだけど。

 

「さあ、我が領民を脅かすドラゴンよ! 勝負と行こう!」

 ユリは調子に乗ってます。

「正々堂々の一本勝負だ! 勝った方が「エロいのはナシな」・・・」

 

 ちょっとムカついていたので、ユリのおふざけをカットしました。

 ユリの笑顔が固まりました。

 

「え? いや」

「エロいのはナシだ」

「・・・。」

「当然だろ。何人見てると思ってんだ」

 

 チッ。

 ユリが、舌打ちしました。

 たまに見せる、素の表情っぽい顔になりました。

 

 チンピラ女の表情です。

 

 王女には見えない角度でやるのがユリらしいとこですね。

 ・・・オマエのそういうトコ、オレ、嫌いだよ。

 

 ユリが剣を抜きました。「・・・じゃ、いいよ。お楽しみナシでやってやる」

「他に言うことは?」

「ないよ」

「あ、そう」

 

 ヒールやらせてごめんな、とか。

 そういう一言、ないわけね?

 

「・・・じゃ、行くぞ」

「いつでもおいで、尻軽のフターリア」

「てめぇ」

 

 一発ぐらい、本気でブン殴ってやるか。

 ・・・いや。

 やっぱ、顔は殴る気にならん。足元にしとこ。

 

 ズシンズシンズシン! フタゴン前進しました。

 右前足を、招き猫みたいな感じで上げて――地面に!

 上げてから叩き付けるまでの時間、ほぼ、ゼロ!

 人外の速度!

 ヒグマのごとき一撃!

 人間の骨や筋肉では、なし得ない速度でもって!

 ユリの足元の地面を、粉ッごなに、打ち砕きました!

 

 ・・・同時に、私は鼻面を蹴り飛ばされていましたが。

 

「ぐあッ・・・!?」

「どこ叩いてんだ。私を舐めてんのか!?」

 金属の閃き。

 とっさに首をすくめる。ドラゴンのツノに、ガキィンと剣がぶつかりました。

 

 ・・・え?

 ツノが欠けたんですけど。

 あれ?

 コイツ、俺を殺しに来てない?

 

「ガアーーー!!!」

 

 フタゴン、反射的にブレス吐きました

 ユリの背後に、国王と王女がいるのに。

 いや、頭で考えたワケじゃないんだ。

 反射的にやっちゃったんだ。

 ヤベェ殺される! ってなって。

 相手を下がらせたくて、ビビらせるだけのつもりで、吼えたんだよ。

 そしたら、ブレスが出ちゃったんだ。

 

 ま、火噴く直前に、顎にアッパー喰らってて。

 炎は空に向かって飛んでったけどね。

 

「・・・バカ! 周り見て動け!」

「・・・うるせぇ」

 こっちを殺そうとしたクセに!

「都合のいいこと言いやがって」右前足の横斬り。

「なにがだっ」しゃがんで回避。

「人をっ・・・悪者にしてっ・・・!!」左前足のバックブロー。

「なんの話――」バックステップして回避。ギリギリの間合い。反撃に来るつもりか。

「ユリのバカっ!」尻尾スイング。コイツは伸びがちがうぞ!

「っ!」脛に当たった!

「こうなったら――」低い位置から、ブレスを吐くフリ。

「おまえ!?」

 ユリは、フタゴンの頭を上から叩こうとしました。

 私はブレスを吐こうとする動作をやめて、ペタンと伏せ。

 四つ足で腹這いになりました。名付けて『ほとんどワニのポーズ』!

 頭をガツンとユリに殴られましたが、ツノで受ける。たぶん痛いのはユリのほうです。

 そして・・・

 

 ブワサッ!!!

 

 翼を叩いて、身体を浮かせます。

 

 下半身だけ。

 

 頭はユリに抑えられたまま、足と尻尾だけ、空に上げました。

 背中をユリに押し付けるようにして、前転します。

 頭が抜けました。ユリが離れたようです。

 私はそのまま前転。

 でんぐり返り――というより、ほとんど輪っかに近いポーズに。

 名付けて『ウロボロスのポーズ』!

 からの――

 

「死ねぇ!」

 尻尾を伸ばして、前方をブッ叩く!

「ドラゴンローリングテイルじゃあ!!!」

 

 ――私の尻尾は、想像以上の破壊力を持っておりました。

 土の道を、ズガァァァァン・・・!!! と、地割れさせたのです。

 

 ・・・ま、ユリにはカスリもしませんでしたが。

 

 どこ行ったんだ? と思って、キョロキョロしてたら。

 真後ろで詠唱が聞こえました。 

 

「我は変容する。駿馬のごとく、駆け抜ける」

「いつの間に!」

 

 慌てて振り向いて、右前足を繰り出す私ですが。

 そんな雑な攻撃が当たる相手ではない。

 駿馬のごとく飛びのいたユリ。

 後ろに下がります。

 『ブレス吐いていいぜ?』みたいなジェスチャーしながら・・・

 お嬢さまの、目の前に、ポジションを取りました。

「おまえ、卑怯ッ――」

 

「我は変容す! 雷切り裂く剣聖の、剣の妙技よ我にあれ!」

 

「・・・え。ちょ。それ、死ぬヤツじゃ?」

「・・・尻尾で試してみようぜ」

「おいィ!!?」

 

 私は下がりました。ユリは前進しました。

 ユリのほうが速ェ! 追いつかれる!

 うわあああ!!!

 

 私は飛び上がりました。

 地面を蹴って、翼を広げて、空に逃げます。

 

「大気よ変容せよ」

 ユリの詠唱が追いかけてきます。

「我を巻き上げ、我が剣に切り裂かしめよ。――つるぎの竜巻!」

 

 風が渦巻いて。

 フタゴンの体勢が崩れました。

 高度が落ちる。

 逆に、女勇者は舞い上がって来ます。竜巻に乗って。

 その手には、『剣の妙技』のかかった剣が。

 巨人の骨をも断ち切る、必殺の刃が!

 

「シギャーーー!!!」フタゴン絶叫します。「死にたくないーーー!!!」

「先に『死ね』って言ったの、そっちだろ!」

 ユリは剣を引き絞りました。

「尻尾出せっ!」

「いやだああああ!!!」

 

 フタゴン(の尻尾)が風前の灯火となった、その時でした。

 

「コラ、ユリっ」

 鋭い女の声が、広場に響いたのは。

 

「ひっ」

 竜巻に乗ってフタゴンを追っていたユリが体勢を崩しました。

 赤毛を逆立てながら、ストーンと地面に落ちていきます。

「・・・!?」

 私は心臓をドッキドッキバックバックさせながら、なんとか空中に留まりました。

 キレたユリは恐すぎる。絶対近付きたくない。

 

 ・・・あ、ダメだわ。

 地面には、お嬢さまがいるんだった。

 俺だけ逃げてどうすんだ。

 

 私は、円を描いて高度を下げました。

 ズシャア!! 半凍状態の地面を砕いて、フタゴン着地です。

 野次馬が逃げ惑ってますが、気にしません。

「お嬢さま。御無事で?」

「こっちのセリフよ!」

 私はお嬢さまを両腕で抱き締めました。

 周囲は大騒ぎです。みんな私から逃げて・・・

 

「やべぇ、アスカリアのババアだ」「逃げろ逃げろ」「おい! 俺の賭け金っ・・・!」

 

 ・・・おや?

 

「お久しぶりじゃな。アスカリアの聖女さま」

 ツクノーさまが、挨拶をしています。

 その態度は、すっかり女侯爵に戻っていました。

「・・・ツクノーさま。珍しいお姿で?」

「あ、いや。これはじゃな」服はメイドのままですが。

「で・・・、」

 鋭い声の主は、シャーベット状の地面をサンダルで踏みしめて、こちらへやって来ました。

 見れば。

 枯れ木のように痩せ細り、筋張った顔をした女が。

 ビシッと背筋を伸ばして立っていました。

 左手で、ユリの襟首を掴んで。ユリは仔ネコみたいに黙ってぶら下がってました。

「・・・御身が、ダンゼイズのドラゴン姫、フターリアさまでしょうか」

「あ、はい」

「ユリがいつもお世話になっております」

 女は深々と頭を下げました。

「私はシンノレーナ。『聖女アスカリア』の称号を頂いた孤児院長で、ユリの養母です」

 そして。

 聖女アスカリアさまは、にっこり笑って、こう仰いました。

 

「ユリと2人で、何を騒いでいらっしゃったのか。聞かせて頂けますか?」

「・・・ハイ」

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