TSゆりフタ令嬢侍女メイド! 作:min(みならい)R18
◆♀◆ 22、まっすぐ行ってみなさい! ◆♀◆
スイー・・・
ツタに支えられた私は、空中を滑って、移動。
テニスお嬢さまに近付きました。
「大丈夫ですか?」
「・・・。」
お嬢さまは雪の中から立ち上がり、汚れを払いました。
払った後から、すぐに雪がくっつくのですが・・・
睫毛にくっつく雪をまばたきで落としながら、
「冷たくない?」
「ん?」
「私、殺されかけたのよ?」
「ああ・・・」
スイー・・・。
私は近付いて、そーっとお嬢さまを抱き締めました。
「すみませんね。トゲがあるもんで」
「ホントだわ。実もついてるわね」
「え? どこに?」
「ここ」
お嬢さまは私の頭の左側を撫でました。
見てみると・・・
「見えん」
「小さな粒よ」
「ホントに植物なんだなぁ・・・」
樹ターリアです。
いまは、木の姿ではなく。そこから飛び出した乙女(?)の姿です。
ツタで母樹とつながってるので、『ツタの乙女』モードってところでしょうか?
「ふつうにしゃべれるのね」
「・・・言われてみれば、そうですね。動きも速いし」
シュシュ!
パンチしてみると、ほぼ、人間なみのスピードで腕が動きます。
ツタの乙女は、運動性能は高いようです。力も強いような感じがする。
ただですね・・・
拳には、トゲが生えてるし・・・
腕全体が、樹皮に包まれてるし・・・
色が青黒いし・・・
「グロくないですかね・・・?」
「そう?」
「顔は何色ですか?」
「顔はフターリアっぽいわよ。髪の毛は枝葉になってるけど」
「はぁ」
「腕だって、綺麗な色じゃない。藍みたいで」
「ドレスが藍染めでしたからね」
『変容』前に着てたドレスが、藍染めのダークブルーなんですよね。
私が自分のテーマカラーに決めてる色ですわ。
まあ、腕だけならいいか・・・ボディペイントみたいなもんだと思えば・・・。
母樹を見れば、そちらは黄土色です。毛皮のマントの色ですね。よく見たら毛生えてるしw
「まあいいわ。いまはそれどころじゃないわ」
「ですな。下がどうなってるか」
下町――『冒険者の村』を、確認しようとします。
強い雪をすかして・・・
無理ですね。
「なんも見えん」
「ただでさえ夜なのに、この雪ではね」
たいまつの光も戦闘の音も、すべて打ち消されて。
不気味な静けさだけが、私たちを包んでいました。
「助けに行ける?」
「わかりませんが、」
『変容』がいつ切れるのかは、私にもよくわからない。
しかし。
「力が溢れてる感じはしますね」
「眠くなったりはしてない?」
「してませんね」
「ダーリン」
お嬢さまは、ダーリン姉ちゃんを呼びました。
ダークエルフのダーリン姉ちゃん。ハッと顔を上げて、私たちを見ました。
「樹ターリアを、下に出しませんか?」と、お嬢さま。
「・・・行けますか?」
「行けます。が・・・足遅いですよ、母艦」
「ぼかん?」
「コレ。本体の木ね。母樹」
「ああ」
「頑張っても、人間が歩くより遅いぐらいで」
「私に考えがあるわ」
お嬢さまは、下町の方向をまっすぐに指差しました。
「まっすぐ行けばいいのよ!」
「は?」
下町への直線ルート。
森です。
いや、『森の壁』です。
ほとんど崖なんですよね。傾斜がキツすぎて。
その壁面にヒョロヒョロと木が生えてる。横向きに。
縦にじゃなくて、ほぼ真横に向かって生えてんですよ。
ここを下れと?
『鵯越えの逆落とし』かな?
「ご冗談を」
「いまのあなたは、生ける樹木よ。森での移動は速くなるハズよ」
「そんな。ゲームじゃないんですから」
「いいからやってみなさい!」
やってみたら、できました。
◆♀◆ 23、アスカリアの逆落とし ◆♀◆
ずっ、ざっ、ざっ、ざっ・・・!!!
樹ターリアです。
鵯越えの逆落とし――もとい、『アスカリアの逆落とし』ステージを攻略中です!
えー、現在、私、母艦モードです。
引っ込んでます。木の中に。
恐いんでね!
樹の中に引っ込んで、真っ逆さまに落ちていくかのごとき恐怖に、耐えております!
樹ターリアねぇ・・・
急斜面を駆け下りるような木じゃないんですよ。
いや、そもそも木は駆け下りねーよってのは置いといてね?
幹が太めの、重たい樹木(たぶん柑橘系)なんですわ。
無理だろ逆落としとか!
絶対倒れて転がり落ちるわ!
・・・と、思ったんですよ。思いますよね?
それがねー。
一歩踏み出してみたら。
行けちゃったんですよねー。
根っこが、他の根っこと絡み合ってね。
感覚的には、手の指を他人と絡め合ってるような感じかな?
それを、足の指(=根っこ)でやるワケですがね。
いやー、速い!
落下する・・・よりはちょっと遅いかな? ぐらいの速度ですわ。
突進する樹ターリア。
他の木は、あわてて避けてくれます。
避けるんですよ。木が。「うわあ」って感じで傾いてね。
・・・まあ、樹ターリアが衝突したら折れそうな木ばっかりだしね。スマンな。
というワケで。
アスカリアの逆落とし、パーフェクト成功です!
「わーっ!」「ぎゃあ」「うおおおっ・・・!」「飛び出すなっ! マリさまを守れ!」
戦闘の音が聞こえてきました。
『冒険者の村』は、すぐそこだ!
暗くて何も見えんが・・・
私には、森サーチがある!
・・・あ、『森サーチ』ってのは、アレです。
近くの木の存在がわかるんですよ。根っこで。
えーっとですね。
人間にたとえるますと。
おしくらまんじゅう。・・・やったコトない人もいるか。
満員電車。・・・乗ったことない人もいるのかな?
つまりホラ。アレですわ。
人の群れ。
ぎゅうぎゅう詰めの人の群れにぶつかったら、ハネ返されるじゃないですか?
そういう感覚です。
「混んでるな!」っていうのが、わかる。
根っこを掴むとね。その反応でわかるんですよ。混んでる・空いてるって。
その森サーチで。
周辺の樹勢を把握!
木のないところ。すなわち人間の領域の間際まで移動して・・・
ゴニョゴニョと、合言葉を唱えます。
「本光る太き幹の中の花、
異国の樹霊なる俺は。
羽織る木皮を脱ぎ捨てて、
羽ばたき変わるぜ、樹ターリア!」
ばくり・・・。樹皮が左右に縦割れます。
ニョロ~ン。ツタの乙女が這い出します。
冷たい雪の空間に。
吸血鬼どもの、真後ろに!
「おらァ!!!」
樹ターリア・バックスタブじゃあ!
飛びかかって抱きつき、爪を喰い込ませて、喉に噛みつく――
フにゃーリア(ネコ娘)で、ユリ相手にやったことのあるテクニックです。
ユリにはあっさり叩き落とされて「飛ぶな」って注意されたけど。
いまは『噛みつき』もないけど。
でもいいんだ。敵陣を乱せるし。
いまは、ツタがあるから・・・
「ぎゃあ!」「なんだっ!?」「後ろだ!」
吸血鬼どもが、あわてて振り向きます。
「人間・・・ではないな?」「血の匂いがしない」「かまわん、敵だ、殺せっ!」
雑魚吸血鬼ども。
手を伸ばしてきました。
白い手。爪は長く伸びて、ナイフのよう。
抱き付きスラッシュを放った直後の私に、四方八方から襲いかかって来ます。
私がネコだったら、回避が間に合わんかったかも知れん。
だがいまは、ツタがあるから。
しゅるるる・・・!
ツタを母艦に引き戻してもらって、高速後退!
吸血鬼どもの手を、すべて回避しました。
ツタがあるから、浮かんでいても回避ができる!
これぞ樹ターリア、『ツタの乙女』の戦力よ!
「なにやつ」「樹の魔物だ」「勇者め、エルフの神木まで、味方にしていたのか!」
おののく吸血鬼どもの、その姿は。
雑魚。
見た目が雑魚です。
服装はボロっちく、頬は痩せこけ、髪の毛はボサボサ。
白い肌と紅い紅い眼だけは、シーモイベーヌとかいう少女と同じでしたが。
それ以外は、まったくちがう。
栄養が足りていない――ひどいのになると、幽鬼のごとく痩せ細っている。
中に、エルフの耳をした女もいました。もしかして、ダークエルフの女? 肌が白くてよくわからんが・・・
ダーリン姉ちゃんの縁者でしょうか?
彼ら・彼女らは、血を吸われた被害者かも知れません。
そう思うと、かわいそうではありますが・・・
吸血鬼どもの向こうに、惨状があるから。
倒れた男ども。
ユリの手下。
仰向けに倒れて動かない若者。私が「斧を片付けとけ!」って怒鳴ったアイツです。
血まみれでその若者を引きずって退却していくおっさん。「バケツも!」って怒鳴った(略。
その2人を守るため、叫びながら木の槍を振り回してるおっさん連中は、「脱税しようぜ」とか笑ってたヤツら。
・・・そんな状況だったから。
「ブッ殺す」
私は、ツタでもって空中に伸び上がり、吸血鬼を見下ろしました。
「アスカリア伯爵領を、冬至の祭りを、よくも踏みにじってくれたな。――ブッ殺してやる!」
「ひっ・・・!?」
雑魚吸血鬼ども。私を見上げて、すくみ上がりました。
ん~~~。
いい気分だァ~!
人間をやめて、弱い吸血鬼どもを見下ろすのは・・・
最高の気分だなァ~?
と、空中で優越感にひたっていたら。
「・・・火、火だ。火を奪え」「そうか、火だ」「オラッ、人間め。そのたいまつを寄越せ!」
吸血鬼どもが、ユリの手下からたいまつを奪って。
私に突き付けてきました。
「火ギャーーー!」
樹ターリア、パニック。
森の中に逃げ込みます。
「やはり、火が効くぞ」「燃やせ、火をつけろ」「燃やしてまえー!」「灰にしたらァ!」
「火ィィ炎ェェン!?」
形成逆転です。
火はアカンて・・・!
一気にピンチになった私でしたが。
「やめんか!」
太い声が響き渡り、雑魚吸血鬼どもを制しました。
「付け火は許さぬ。手駒が増やせぬ。1人ずつ捕らえ、血を吸って、下僕にするのじゃ!」
ドカドカドカッ・・・!
鋼鉄の蹄の音がして。
ガイコツ馬にまたがった、フルプレ吸血鬼が、姿を現しました。
◆♀◆ 24、吸血将軍、ナゴローシン ◆♀◆
ガイコツ馬。
巨大な馬の――白骨死体です。それが軍馬の装備をして、鞍を着けて、立っている。
その背にまたがっているのは。
フルプレ吸血鬼。
黒光りするプレートメイルに身を包んだ、全身これ黒鉄といった出で立ちの騎兵。
とんがった兜もフルフェイスで、顔もまったくわかりません。
季節外れの金属装備。
人間なら凍傷になること間違いなしですが・・・
ま、コイツも吸血鬼なんでしょう。
夜の魔物というより、冬の魔物ですな。この世界の吸血鬼は。
「樹木の精霊か」
低く轟くような声で、フルプレ吸血鬼が言いました。
私を睨みます。
恐ェ・・・
つ、強い吸血鬼に睨まれると、身がすくみますね・・・!
「――にしては、娘の血の匂いが強いが。まあよい。邪魔立てするなら、仕留めるまでじゃ」
フルプレ吸血鬼は、騎兵の盾を構え、黒い槍を構えました。
・・・む? 盾の紋章。黒いネコ?
「コノマーズの騎兵?」
「ほう。人間の紋章の知識があるのじゃな」
フルプレ吸血鬼は低く笑いました。
「我が名はナゴローシン。吸血将軍ナゴローシン。――じゃが、かつてはコノマーズの騎兵じゃった」
「だったら、なんで人間を襲う」
「かつて人間であったればこそじゃ!」
『吸血将軍』とやらは、鼻で笑いました。
フルフェイスの兜の面頬を上げもせず、無礼な態度で私に言い放ちます。
「いまは魔王に仕える身じゃと、証を立てねばならぬのじゃ」
「・・・馬鹿野郎。てめぇの都合で、人の生命を奪ってんじゃねえ」
私は、恐怖に耐えて言い返しました。
時間を稼げれば、しめたもの・・・という考えもあった。
けど、それだけじゃない。本当に言いたかったのは、
「ツクノーさまに、恥ずかしいと思わねぇのかっ!」
これでした。
「侯爵は、頑張ってんだぞ! つらいのに耐えて、コノマーズの領主やってんだ!」
「・・・姫の名を出せば、身共がひるむと思うたか?」
「せめて、盾の紋章は消せや! "コノマーズの黒"も置けっ!」
「フン。敵の皮を剥いで使うは、戦士のならいよ。太古の狩人から続く伝統じゃ」
「原始人かよ。恥知らず」
「原始人じゃと・・・?」
ブワッ・・・。
樹皮が逆立つような殺気が、フルプレ吸血鬼から放たれました。
「樹木ごときが、高貴な魔人たる吸血鬼を侮りおって」
「・・・。」
私は、声が出なくなりました。
恐ェーよコイツ・・・
本物の人殺しだよ・・・
クール美少女と男子高校生の2人(?)で、どうにかなる相手じゃねぇよ・・・
「この槍は、ノガダーパさまから授かったもの。この盾も、正当なる戦士身分を明かすもの」
殺気だけで私を黙らせた吸血鬼は、吼えました。
ビリビリと肌に響く声です。
「――そして今や、吸血将軍たる身共の、勝利の証!」
「勝利・・・?」
「いかにも。取るに足らぬ人間、ナゴローシンに勝利した証じゃ!」
「くく・・・楠・・・クスっ・・・」
「――なにを笑っておる!」
「言い訳じゃねぇか・・・」
「なに!?」
「コノマーズの武具が優れてるから、使いたいだけだろ?」
ぐにょぐにょ。
私は、ヘンな踊りを踊って、吸血将軍を挑発しました。
「吸血鬼は、鍛冶もできねぇ、槍削りもできねぇってか?」
「貴様ッ・・・! "コノマーズの黒"を、タダの削った木と抜かすかッ・・・!!」
黒い槍――"コノマーズの黒"を、私に向けて。
フルプレ吸血鬼は、馬の腹を蹴りました。
・・・腹、ないけどね。ガイコツ馬だし。
ガキッって骨が鳴っただけですが。
突進!!!
弾き飛ばされた石つぶてのごとく、ガイコツ騎兵が突進してきました!
「慮外の無知者! 串刺しにして思い知らせてくれるわ!!!」
「ひっ!?」私は腰を抜かしました。「樋ぃェェェ・・・!!」
ド・・・ガン!!! ベキベキベキ!
突撃を喰らった樹木が、地面に倒れました!
哀れ、名もない若木。樹ターリアが根っこで動かして盾にしたばっかりに!
・・・いやホントごめん。
とっさに動かして盾にしちゃった。
『変容』してる時って、本能的に動作が出ちゃうから。
ホントごめん。
若木の怒りが、根っこを通じて伝わってきます。
芯が痛いです。木の怒りが私ではなく吸血鬼に向いているのが、健気すぎて痛い。
「口ほどにもない! 雑魚めが!」
「ち・・・ちくしょー・・・!」
木と木の間をすり抜けて、私は逃げ回りました。
母艦をズリズリと動かしつつ、ツタの乙女である私が右往左往する状態です。
人間にたとえるとですね・・・
左右の手でスマホ持って、アクションゲーム同時プレイ! みたいな感覚かな?
それよりは若干ラクかな?
母樹のほうは、目で見なくても根っこ感覚で動けるからね。
ただ・・・
「それが本体か」
「植ッ!?」
・・・その母樹が、敵に見つかると。
非常にヤバいんですよね。
足が、遅いので。
逆落としの間は速かったけど、平地では。
「フッハハハ! この髑髏竜王(ドクリューオー)からは、逃れられぬぞ!」
見る見るうちに追いつかれ・・・
母樹の背に、槍の狙いを定められて・・・
「たっ・・・助けてぇぇぇ! ユリぃぃぃ!!!」
悲鳴を上げた、その時でした。
「待たせた、なッ!」
赤毛の女勇者さまが現れて。
ガイコツ馬の足を、叩き斬ってくれたのは。
◆♀◆ 25、勇者と樹木と吸血鬼 ◆♀◆
「ユリっ!」
「よくやってくれた! コイツに手こずってたんだ!」
ユリは落馬したフルプレ吸血鬼に剣を振るいます。
フルプレはそれを、なんと篭手パンチを合わせて受け流しました。
神速で斬り付けるユリの剣技に、迎撃でパンチを合わせて、剣の向きを変えたのです。
さらに、剣の流れたユリに向けて、黒ネコ(ヒョウかな・・・?)の盾を突き出します。
盾パンチ!
・・・知らん人は「なんだ盾パンチか」と思うでしょうがね?
盾って、剣より重いんですよ。
で、剣を受け流せる程度には頑丈なんですよ。
総金属製ってワケじゃなくて、木の枠に革を張ってる盾なんかもありますがね?
その木の盾ですら、枠の角っこで殴られたら、頭蓋骨陥没まで行くんですよ。
で。
吸血将軍の盾は、鉄枠の、重い盾で。
それを、吸血鬼の怪力でもって――
ゴオン! と、風を鳴らして突き出して来やがったので。
さすがのユリも、飛びのくしかありませんでした。
落馬直後のチャンスは終了。
吸血将軍は、立ち上がってしまいました。
「チッ・・・」
「馬の足を斬った剣とは思えんナマクラっぷりじゃな。魔術か?」
「・・・。」
「呪文などに頼るからそうなる!」
ゴッ!!! "コノマーズの黒"が、突き出されます。
神速!
轟突――轟く雷がごとき突き!
ロボットゲーのパイルバンカーみてぇな速さで、槍が射ち出されてますわ!
さらに足払い! フェイント!! ――からの盾パンチ!!!
「くそッ・・・!」毒づきながら避け続けるユリも、すごいですが。
「避けるだけか?」その轟突&盾パンチを連発してくる吸血将軍は、さらにすごい!
「コノマーズの・・・騎兵、恐るべし・・・だな・・・!」
「我が名は吸血将軍。コノマーズの旗は、とうに倒れた」
「ツクノー・・・姫は・・・健在だぞッ・・・!」
ユリは、下生えと根っこの絡み合った地形を、踊るように後退していきます。
吸血将軍は逆に、足を引っ掛け、転びそうになること数回。
攻撃では圧倒しながら、ユリに追いつくことができません。
「・・・貴様ッ!」
「バレましたか」
はい。足払いの仕掛け人、樹ターリアです。
木の根っこ操って転ばそうとしたんですがね。
ダメでした。
完全に引っ掛けてやったのに・・・
ドダァン!! とか足音立てて、踏ん張りやがるんだもん。
「どうしようもねぇよコイツ・・・!」
「助かってる!」ユリが叫んで来ます。「続けて!」
「おう」
「させぬ!」吸血将軍がこっちに振り向きました。
「木ャァァァ!!」私、悲鳴上げて逃げる――と同時に、足払い。
「フン!」フルプレブーツで、踏み折られました。
「我は変容す――」ユリが唱えながら前進。
「呪文に頼る弱者めが!」吸血将軍が後ろ蹴り。
フルプレブーツがユリの腰をかすめ、ユリが吹っ飛ばされる。
私は若木を傾けてユリを受け止め、同時に根っこを出して敵の足首を取りに行く。
・・・根っこは粉砕されました。地面を叩くような盾パンチ、一発で。
「フッハハハハ! よい気分じゃ! 雑魚を蹴散らし、見下すのは!」
「樹ィーッ・・・!」
苛立つ私ですが、どうしようもない。
いまのところ互いに無傷ですが・・・
ユリの息が切れてきています。ハァハァ喘ぐ声が聞こえてる。
しかも、ジワジワと森の外へ押し出されつつあります。
ユリも私も、敵を誘い込もうとしているのですが。
吸血将軍ナゴローシンは、私たち2人を相手取りながら、ユリを確実に追い立ててゆくのです。
森の外へ。
樹ターリアの支援が切れてしまうところへ・・・!
「さあ、もう後がないぞ!」
とうとう、ユリの足が、森から出ました。
フルプレ吸血将軍も当然それに続きます。
私の最後の足払いは、蹴散らされました。文字通り、蹴り一発でオガクズにされたのです。
「ユリっ・・・!」
「リア。もういい。逃げろ・・・!」
汗を拭って。
ユリは、最後の攻撃に転じました。
「大気よ変容せよ! 我を巻き上げ、渦巻く剣に切り裂かしめよ――」
「くだらぬ! 小手先!」
私に『飛ぶな』と言ったユリが。
よりによって、強敵の前で、空中に。
竜巻に乗って飛ぶユリは、巣立ったばかりの若鳥のようでした。
自分の運命も知らない、愚かな鳥のように。
黒ヒョウの眼の前で、ふわっと浮き上がってしまったのです。
「アホウドリめが!!!」
「――つるぎの邪竜!」
「なにっ!?」
・・・"コノマーズの黒"に貫かれる、まさに直前!
ユリの身体が、グニャッとねじれて、横に逸れました。
まるで、槍に巻きつくヘビのように。
貫かれることなく身をかわし、黒ヒョウの盾に飛びつきました。
がしっ。
両手両足で、抱き付くように盾に飛びついたユリ。
「下がれリアッ!!! ――撃て、マリっ!」
「――なんじゃと?!」
「斉射!」
「おう!」「おう!」「おう!」
マレーナ姉さんの声が。応じる男の声がして。
3発の、拳よりも大きな粘土玉が、飛んできました。
私は一目散に逃げ出しました。
最高速でツルを巻き上げ! 樹皮に飛び込み!
(前後逆さまの収納になってしまいましたが、かまいません!)
悲鳴を上げる余裕もなく、木々をかき分けて遁走です!
「此は三連、魔の爆火!!! ――焼き滅ぼせッ!」
背後に詠唱が聞こえて。
爆炎が、私の背中を舐めました。
「火ィィィィッ!!?」
私は当然、パニックです。
同じように悲鳴を上げる木々の中を、爆炎に押されるように突っ切ります。
ただ・・・
前後逆に格納されていたため、私(ツタの乙女)の目は、背後にあったので・・・
最期の一瞬を見ることができました。
「お見事・・・!」
首だけとなって宙を飛ぶ、吸血将軍ナゴローシンの最期と。
「・・・。」
剣を振り切った姿勢で炎の中に立ち尽くし、一言も発することなく倒れるユリの姿とを。
◆♀◆ 26、冬至のその日の黄金の ◆♀◆
吸血鬼どもは、逃げ散りました。
ナゴローシン――コノマーズの騎兵であり、『吸血将軍』に堕ちた武者が倒れると。
太陽の光を浴びてしまった日陰の虫どものように、逃げ散っていったのです。
ユリは、起き上がりませんでした。
村に宿泊していた、太陽の女神の司祭補助さまが、治療のために呼ばれたのですが・・・
(太陽の神殿は、治療の神術、つまり医術を伝えてるんですよ。いわゆるヒーラーですね)
「これは・・・いけない!」
若い男の司祭補助さん。
ユリの服をはだけさせ、胸を調べて、悲鳴を上げました。
「火傷が深い。深すぎる。私ごときでは・・・どなたか、治癒の得意な方は!?」
「・・・。」
女どもは、顔を見合わせました。
「・・・ここには、治癒のできる者は、」
マレーナ姉さんが声を絞り出しました。
「あなたを頼るしか、ありません。どうかお願いします」
「もちろん、全力でやりますが。しかし、私にはわかるのだ。自分の手には負えないと!」
司祭補助さん、冷や汗。
倒れたユリの服を慎重にゆるめ、手当てをしてゆきますが・・・
治癒の呪文を唱えても・・・
ユリは、起き上がりませんでした。
「ああ! やはり、私の治癒では、勇者の生命を取り留めることはできぬ!」
彼は首を打ち振って嘆きました。
「せめて・・・せめて、あの実があれば――神聖な冬至の実があったなら!」
「なんじゃそれ」
私がボソッと呟くと、彼は手当てを続けながら教えてくれました。
「伝説の黄金の果実です。冬至のその日にだけ、あらゆる傷病を癒す薬となるのだ」
「じゃあ、いまからでも取りに――」
「むりだ」
彼はうなだれました。
「それは人知れぬ深い森に生える怪物樹! しかも、実はすべて秋のうちに落ちてしまう!」
「じゃあ、冬至には取れないじゃないですか」
「そうです。ハイエルフの秘術だけが、冬至まで実を守ることができるとか」
「そ・・・それじゃ、ユリはッ・・・!」
「・・・。」
私は、地面に落ちました。
膝ならぬ『ツタが砕けた』といったところです。
ゴツン。・・・髪(枝?)の房が頬にぶつかりました。
いてぇな。
邪魔なんだよな、この房。なんか重いし。
私はその房を払いのけました。
「リア! ユリさまの具合は!?」
お嬢さまが駆け込んで来ました。
私は、黙って首を振りました。
ゴツンゴツン。・・・房が鼻面に当たります。邪魔だっつーの。私はそれを払いのけました。
「ユリ! ユリっ!」
マレーナ姉さんの悲鳴が聞こえます。
お嬢さまは、私を見上げました。
「ユリは・・・」
私は、邪魔な房を手でよけながらお嬢さまを見ました。
「怪物樹の実をハイエルフが冬至の日に採って来ない限りは、って・・・」
お嬢さまは、私の手を払いのけました。
「え? なに?」
「じっとしてて」
「はい? はい」
ひゅっ。
白い手が伸びてきて・・・
ぶちっ。
邪魔な房を、千切りました。
「いてっ。なにすんの」
「これ」
と言って、お嬢さまが見せてきたもの。それは。
ツヤツヤと光り輝く、まんまる~い、お月さんみたいな・・・
冬至のその日の、黄金の果実でした。
◆♀◆ 27、髪が ◆♀◆
「・・・。」
「あの。ファリア。・・・フアーリアお姉ちゃん? ゴメンね?」
フターリアです。
鏡を見ております。
鏡の中の、フターリアちゃん。
髪が、半分、なくなっています。
向かって左側。
髪の毛が根元からチョン切れて、バッサバサになっております。
まるで草刈り直後――あるいは野焼き直後の、草むらのごとし。
坊主頭みたいに短い毛が、しかも長さバラッバラで、ツンツンに立っております。
女の坊主頭って・・・すごく・・・「大丈夫?」って言いたくなるよね・・・。
「ご・・・ゴメンね!?」
お嬢さま、涙目になって、ナイフを抜きました。
「わッ、私も切るわ! お揃いにするから! だから許し――」
「やめんか」
「ひっ・・・!?」
私は、お嬢さまの手首を掴みました。
ガッチリ掴んで、震えるお嬢さまから、そっとナイフを取り上げます。
「鞘を」
「・・・。」
「鞘を出してください」
「は、はい」
私が立ち上がると、お嬢さまは腰砕けになって、言うことを聞きました。
鞘を出させて。
ナイフを収めて。
取り上げました。私の、青いドレスの腰帯に、その鞘を差します。
「今日はやめておきましょう。お互い、冷静じゃないですから」
「・・・ごめんなさい。そんな風になるなんて、思ってなくて」
お嬢さまは、泣き出しました。
私は彼女を抱き締めました。
「いいよ。髪だけで済んだんだ。安いもんだよ」
「私・・・!」
私は、彼女の髪を撫でました――が、お嬢さまがビクッとしたので、背中にしました。
なんだよ・・・オマエの髪を切ったりしねーって・・・
触り心地最高なんだぞ? 羽毛みたいにフワフワして・・・
「ごめんなさい・・・」
「いいって。ユリが助かったんだ。ホント、安いモンだったって」
あの、黄金の果実。私の髪からちぎられたヤツ。
ホントに傷病を治す薬になったのです。
ひどい火傷で死にかけていたユリも。
吸血鬼に噛まれ、暴れていた男も。
骨を折られ、息を引き取ったと思われていた男まで・・・!
あの果実から搾り取った汁を、ほんの一滴垂らして。
司祭補助が治癒をかけて回ったら、あら不思議!
みーんな、回復し始めたのです。
いや効果強すぎだろ・・・
俺とお嬢さま、絶対セットで狙われるじゃんコレ・・・
髪よりそっちのが問題だわ・・・
「ま、とにかく、ユリのトコ行ってみようぜ。マリ姉さんも疲れてると思うし」
「そ・・・ぞうね・・・!」
鼻声のお嬢さまと、半分坊主になった俺は、ユリの病室へと向かいました。
◆♀◆ 28、ユリ復活 ◆♀◆
「いやー、死ぬかと思ったよ!」
ベッドに座ったユリは、笑って私たちを迎えてくれました。
笑っとるが・・・
頬が引きつってるぞ?
まだダメなんだな? まあベッドから立ち上がる様子がないもんな。
私の髪を見たユリが、笑顔を曇らせたので・・・
「支払いはしてもらうからな!」私は、笑って指差してやりました。「髪1本につき1発でどう?」
「・・・何百発ヤラれるんだよ」ユリはニヤケました。
私たちは、ユリの隣に座っているマレーナさんに挨拶しました。
かわいそうに姉さん、目の下の隈がひどいことになってます。
連日寝不足の最後にコレだもんな・・・
「マリ姉さん、徹夜?」
「ええ・・・」
「俺たちが見てるから、少しそこで横になったら?」
「でも・・・」
「いいから。何かあったら絶対起こすから、大丈夫」
「そうそう」ユリも言いました。「寝て? でないと、ボクも心配だから」
「・・・そうね」
マレーナさんはフラフラと立ち上がりました。
私の肩をギュッと握って、「おねがいね・・・」と言って、ユリの隣のベッドに倒れます。
ここは、ユリたちの寝室。
この前乱交をやらかした、あの部屋です。
ふだんは大きなベッドが1基あるだけなのですが、いまは隣に簡易寝台がある。
「・・・マリ姉さん用?」
「・・・そう。運び込ませた。けど、寝てくれなくてさぁ」
「だろうな」
私はマリ姉さんを仰向けにしてやりました。
雪と泥に汚れて煤けてる服は着替えさせたいが・・・もう寝ちゃったよ。しょうがない。
帯をゆるめ、毛布をかけて。顔と髪だけ拭いてあげました。
「ごめんね。リアも、ショックだろ。それ」
「ん。まあな」
私は肩をすくめました。
フターリアはクール系美女メイド。
ってのが、俺のイメージだったからね。
それが・・・
なんかこう・・・サイバーパンク? みたいな感じになっちゃって・・・
髪型がキツいと、すげぇキツい女に見えるんだよな。フターリア。
それがショックっちゃショックだね。
髪がなくなったのは・・・どうでもいいや。どうせ伸びるでしょ。まだ若いし。
「どんな髪型にしようか、これ」
「うーん・・・そうだなァ・・・」
私とユリは、しばらく軽口を叩きました。
が、ふざけてばかりもいられない。
ダーリン姉ちゃんがお湯を持ってきてくれたのをきっかけに、真面目な報告もしました。
「吸血鬼の話なんだけど。ひとりごとで、メッチャ重要っぽい話をしててさ」
「どんな話?」
「死霊使いは人間女だ、って話」
「・・・!?」
驚くユリとダーリン姉ちゃん。
それに、お嬢さまと、後から呼び寄せたモリーヌに。
私は、吸血貴族シーモイベーヌのひとりごとを、再現して聞かせてやりました・・・
◆♀◆ 29、情報 ◆♀◆
「魔王陛下の解放――なんて、眉唾だと思ったけど。
これが死霊使いの、敵も味方も騙すあの人間女のやり口だとしても。
『収奪砦』の飛べない吸血土民どもが騙されていても。
『希望の港』の正当な後継者、このシーモイベーヌに利益があるのなら、乗ってやる」
「・・・ってな感じだったかな」
私が報告を終えると。
「男だと思ってたよ・・・!」
「ウチもです・・・」
ユリとダーリン姉ちゃんは、ため息をつきました。
「道理で、正体が掴めないハズだ」
「女やとすると・・・話が全然変わってきますで。陛下の寝室に入っとる女っちゅう可能性も」
「そこまでだ。証拠が先、断罪は後だ」
「はい」
ユリはダーリンを諫めてから、私を見上げました。
「よくやってくれた。1枚だけ書いて、マリに預けて」
「原本のみね?」
「そう。絶対に写しは取るな」
「了解」
私はモリーヌに筆記用具を取って来させ、この場で筆記を始めました。
その間、お嬢さまが質問をします。
「伯爵。『収奪砦』とは、聞きなれない名ですが」
「ダーリン?」
「はい。伯爵に代わって、ウチが説明させて頂きます」
ダークエルフのダーリン姉ちゃん。背筋を伸ばして、私たちに説明します。
「ヤツら吸血鬼が『収奪砦』と呼ぶのは、正しくは『夜明け砦』。ダークエルフの要塞でした」
「ああ・・・それなら聞いたことがあります。吸血鬼に滅ぼされた砦では?」
「よく御存知ですね。その通りです。ウチらの大都市、『黄昏の星』を守る砦でした」
「たしか、孤立して滅ぼされたのよね。同盟を組んでた人間の領主が、援軍を出し渋って・・・」
「はい」
ダーリンは穏やかにうなずきました。
「ウチは子供でしたし、直接関わってはおりませんが、そない聞いてます」
「なんで出し渋ったんだろ?」
書き終わった私は、そう訊いてみました。
「人間も滅ぼされたんだよね? ダークエルフの後に」
「はい。ウチらがやられて、吸血鬼の下僕が増えて。手に負えんようになったんですわ」
「バカか・・・!」
「なぜ出し渋ったのかしら? 援軍を」
「さあ?」
ダーリンは肩をすくめました。
「ダークエルフが弱るのを待って、都を奪い取るつもりやったとか・・・」
「ありそうな話ですね」とモリーヌ。「人間相手なら成功したかも知れませんが」
「大失敗じゃん」
「領主がバカだと苦労するよ」ユリがポツリと言いました。
「ンだな・・・」
私は、ユリの手を握りました。
「オマエが領主で、良かったよ」
◆♀◆ 30、ユリ・アスカリア伯爵を囲んで ◆♀◆
「領主、ね」ユリは、肩を落としました。「このザマだぜ?」
「バカ言え」
私は、彼女に発破をかけました。
「あんな吸血鬼、誰が倒せるんだよ! オマエとマリ姉さんしかいねーよ」
「ホンマですわ」
「・・・ありがと」
ユリは「ん」と頬っぺたを出してきました。「ん!」
「お礼もらうのはこっちじゃね?」
「伯爵が『頬にキスさせてやる』って言ってんだぞォ~?」
ユリはチンピラ化しました。
「褒美だぞォ~? ありがたがれやァ~」
「はいはい」
私は、ユリの顔をそーっと支えて、優しく優しくキスをしました。
「ダーリンもダーリンも!」
「失礼します・・・」
私の向こうから、ダーリン姉ちゃんもキス。
「ふぅ・・・♥」ユリの目が蕩けます。「こういうのも・・・いいね。ギャップがあって・・・」
「ギャップってなんだよ」
「リア、セックスになると乱暴なんだもん。そこがイイんだけど♥」
「元気になったら、いくらでもヤッてやるよ」私は耳に吹き込みました。
「この淫魔っ・・・!」ユリはくすぐったがりました。
ユリから離れて。
私は、お嬢さまを抱き寄せました。
今日はちょっとね。ツッコミも来ないぐらいだから、構ってあげないと。
フワッフワ金髪に頬をこすりつけつつ、モリーヌも引っ張って抱き寄せます。
で、話を戻します。
「昨晩はさ。ダーリン姉ちゃんも頑張ったんだぜ」
「ああ」
ユリは、側にいたダーリンを抱き寄せました。
「マリから聞いた。仇を取ったな、ダーリン」
「・・・はい」
「ごめんな。私がやるって言っといて、その場にいもしないって」
「ええんです」
しばらく、互いの体温を確かめた後で。
ユリはダーリンを見ました。
「――で、どう思う? ダーリン。ヤツの、『ひとりごと』」
「シーモイベーヌさまは・・・。リアさまがお聞きになったのは、本音や思います」
ダーリンはそう言いました。
「策略には疎い御方でした。陰謀を好まず、力を恃み、友は少なく、ひとりごとは多く・・・」
そして、涙をこぼしました。
「・・・すみません。ユリさまを、裏切るつもりやないんです」
「いいよ」
「ちゃうんです。ウチ・・・ウチは・・・!」
私たちは、ユリたちを残して、寝室を出ました。
「・・・傷は残りそうですね」モリーヌが呟きました。
「・・・うん」私は、お嬢さまを抱き締めました。
「・・・支えて行きましょ」と、お嬢さま。「私たちで」
「ですな」
アスカリア領の危難は、終わりました。
そして、それから間もなく・・・
『王都で異変』
『勇者の助力を乞う』
・・・との急報が、私たちに届けられたのでした。