※この作品はR-18です。

TSゆりフタ令嬢侍女メイド!   作:min(みならい)R18

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寵妾アヤツリア ◇ 死霊使いの最期

◆♀◆ 7、白亜の墳墓の内側は ◆♀◆

 

 白亜の墳墓の内側は、茶色のトンネルでした。

 

 王家の墓。狭くて、長い、地下トンネルの集合体なのです。

 クモの巣みたいに四方八方に伸びるトンネル・・・

 幅は、1間ほど。フターリアが両手広げて当たらない程度です。

 高さはその1.5倍。ユリが上段に構えたら、剣の先っちょが天井に当たっちゃう。

 長~~~い通路。

 驚いたことに、等間隔で灯りがついてます。

 ロウソクね。壁の凹みにセットされてる。

「誰が点けたんだコレ・・・」

「助かるよな」とユリ。

「まあ、助かるっちゃ助かるけど」

「だよねー! なにしろ、封印は、ずーっと奥にあるからねぇー!」

 

 ・・・ユリさん、すごく棒読みですが。どうしたの?

 

「なぁ、ユリ」

 ツッコミ入れようとしたところで。

 かさかさっ・・・、と、土が鳴る音がしました。

 キシキシッ・・・、という、小さな小さな軋みも聞こえました。

「ん?」

 私はそっちを見ました。

 ロウソクのあたりです。壁の凹みで燃えているロウソク。その影のあたりか・・・?

「いま、音がしたわよね?」

 テニスお嬢さまも気付いたようです。

 ハーフエルフのお嬢さま。母上・ティニーモノーシャさまのエルフの耳を引き継いでます。

 今夜は、宝飾の杖をついて歩いてて、完全に『魔術師』って感じです。

 ・・・あ、この杖は国王陛下の御下賜品ね。王女救出の御褒美でもらった、あの杖です。

「何かいましたよね?」と、私が訊くと、

「ええ。ネズミかしら?」

「ですかねぇ?」

 

 通路を抜け、少し広めの部屋(遺体が壁の中に眠ってるそうです)に出て、また通路に入り。

 階段をくだって、古い時代の階層に移動。

 また通路を抜け、少し広めの部屋に入り・・・

 

「ずいぶん遠いね?」

「そうだねー。封印だけなら、3代前の墓に行きゃいいんだけどねー!」

 ユリは棒読みです。

 声もちょっとデカい。反響して耳障りなぐらい。

「見回りもしとかなきゃいけないからねー」

「ふむ」

 ま、確かに。

 まっすぐ突っ走るのは危ないか。枝道に伏兵とかが潜んでたらね。

 けど、それだけじゃないよね?

 考えがあるんなら、説明してくれないかなぁ。

 

「ユリ、あのさ、」

 説明を求めようとしたところで。

 かさかさっ・・・、土が鳴って、

 キシキシッ・・・、軋みが聞こえました。

「またか」

「またね」

 ロウソクのあたりです。

 こちらと反対側、凹みの奥のほうだった。

 お嬢さまをかばいつつ、覗いてみますが・・・

「何もいねーな」

「ロウソクの音ではないと思うわ」

「ですよね。何かが逃げてくような音だった」

 

 通路を抜け、少し広めの部屋に。さっき来た部屋のような気がする。

 ユリは、少し太めの通路に入りました。幅が1尋から1尋半ぐらいに広くなった。

 細い列柱が両サイドに並んでいます。

 

「雰囲気変わったね?」

「この先は、代々の国王の霊廟だからねー! 封印もそこにあるのさー!」

「・・・あのさ」

「なに?」

「ユリ。オマエ、大丈夫?」

「ん? バカにす――あー! そうだねー、本調子とは言えないなー!」

 棒読みユリちゃん。あっさり不調を認めました。

「こんな状態で、死霊使いには会いたくないもんだねぇー!」

 

 ・・・ああ、そういうコトね?

 

「そ、そうだなー!」私は調子を合わせました。「オマエ死にかけたもんなー!」

「そうだよー! なんとか剣振れる程度にはしてもらったけどさー!」

 と、私たちがヘタクソな演技したところで。

 かさかさっ・・・、

 キシキシッ・・・。

「いたわ! そこよ!」

 お嬢さまが、宝飾の杖でビシッと指しました。

 私は振り向きました! お嬢さまをかばって、そいつの姿を見極めます!

 壁の凹み。ロウソクの陰。走り去る、異形の姿あり!

 白く照り映える、スカスカのボディ。

 肉もなく動く、そいつの正体は・・・

「ひッ!?」

 私は飛び上がりました。

「ガイコツネズミ!」

 お嬢さまに抱きついて盾にします。

「・・・私、あなたより弱いわよ?」

「すっすすすスミマセン。つい思わず。ガイコツはどうもダメで!」

 私は、お嬢さまを盾にしながら謝りました。

「ゆっゆゆユリっ!? ガイコツ、ガイコツいるよ」

「なんだってぇー」ユリは棒読みです。「まさか、一体なぜ、こんなところにガイコツがー!」

 

 すると。

 

「それは、わらわの使い魔じゃ!」

 女の声が、そう答えたのです。

 

◆♀◆ 8、寵妾アヤツリア ◆♀◆

 

 私たちの行く手に現れたのは、1人の女でした。

 歳の頃は、30代。

 褐色の肌は若々しく、薄茶の髪も艶めかしい。

 妖しく潤んで輝く碧瞳。薄ら笑いにゆるんだ唇。

 ふっくらした頬。むっちりと盛り上がる胸に、腰。

 

 着ているドレスは貴族のもの。

 額には、貴人を示す宝石。瞳によく合う、エメラルド。

 セクシーな腰に巻きつく飾り帯にも、青緑の石が輝いています。

 

 『妖姫』といった雰囲気の、美女でした。

 そんな美女が、

 

「その髑髏鼠(ドクロッソー)は、わらわの使い魔じゃ」

 と、言ったのです。

 

「アヤツリア姫! なぜ、ここにー!」

「ハハハ! 馬鹿め。私を出し抜いたつもりだろうが、そうはゆかぬぞ? 勇者よ」

 妖姫アヤツリアは、ユリを指差して、宣言しました。

「封印の場所を教えてくれたこと。感謝するぞ・・・!」

 

「・・・アヤツリアさま。では、やはり」お嬢さまもビックリしてます。

「・・・?」

「バーシー陛下のお妾さんよ。『寵妾』といったところね」

 私が沈黙していると、お嬢さまが解説してくれました。

 さすがお嬢さま。「誰だっけ・・・?」の沈黙を正しく解釈してくれる。好き。

「ハジンドータ伯爵領の生き残りで、相続を放棄して陛下の元に身をお寄せになったのよ」

「ハジンドータ・・・」

 

 はい。

 これは、さすがに覚えてますよ。

 爺ちゃんの領地に関わる話ですからね。

 

「・・・ドラゴンにやられて、お家断絶したという?」

「いかにも」

 妖姫アヤツリアは、私の呟きを拾って、こちらを睨んできました。

「ドラゴンに荒らされ、死に絶え、よそ者の手に渡ったハジンドータじゃ」

「・・・。」

 

 あー、ハイ。

 その『よそ者』、うちの爺ちゃんですわ。

 

「・・・領地を守れぬ貴族には、文句を言う資格もありませんわ」

 と、私は言い返しました。

 黙ってるの、まずいんですよ。貴族はね。言われたら言い返さないと。

 そんな私の心を見透かしたように。

「フン。そち、やはりタダのメイドではないな?」

 アヤツリアは、嘲笑いました。

「名を聞いておこう」

「・・・ウソーリア、ってコトで」

「またそれか」

 妖姫アヤツリアは、ニタリと笑いました。

「だが、二度目はないぞ。ユリと共に、ここで死ね。――出でよ、ハジンドータの死の戦士!」

 そして両手を掲げました。

 すると、ガイコツの剣士が現れたのです・・・

 

 列柱の影から、1人。

 そして、もう1人。

 短めの剣に、大きな盾。そして、チェインメイルの要所に鉄板を当てた鎧。

 

「ゆけ、髑髏浪人(ドクローニン)。女勇者を切り刻め!」

 

 ズシャ、ズシャ。

 歩く足音は・・・人間のものよりも、不思議に軽い。

 それもそのハズ。

 鎧兜の下にある、彼ら2人の肉体は――とっくに『肉』を失っているのですから。

 ガイコツ剣士、2体。

 狭い通路をふさいで、ユリに向かって来ました。

 

 戦闘開始です!

 

 長剣のユリが斬りかかります。しかし、剣で弾かれました。

 2撃め。今度は盾で逸らされました。

 3撃めを出す前に、敵が反撃に来ます。ユリは剣をハネ上げられました。天井に切っ先が当たり、火花が散りました。

「クソっ。コイツ、やるぞ」ユリが棒読みをやめました。「ニーズ、リアを『変容』!」

「はい」

 お嬢さまが宝飾の杖を構えて、私に呪文をかけようとしますが。

「二度目はないと言うたぞ?」

 アヤツリアの呪文のほうが、先でした。

 

「変容せよ、ウソーリアと詐称する者よ。すべての人がそうなるように、」

 私を指差して、妖姫が唱えます。

「――『老いさらばえよ』! 完遂の時まで、呪文よ、『循環せよ』!」

 

 すると、突然。

 私の背中が曲がりました。

 太腿の肉が痩せ衰え、首が細くなり・・・

 乳房が萎んで、ブラジャーがスカスカになり・・・

 目が霞み、手が震え、ユリが奮戦する音が、遠くなり・・・

 

「クックック! 別れを言うなら急ぐがよい。四半刻も持つまいからな!」

 勝ち誇って逃げてゆくアヤツリアの声も、急速に遠くなってゆきました・・・

 

◆♀◆ 9、フターリア、老いさらばえる ◆♀◆

 

「リア!」「ファリア、しっかりして、ファリア!」

 2人の若々しい声が、遠く響きます。

 

 クソ。馬鹿な。

 ポッと出の新キャラに、負けてたまるか・・・!

 

 ・・・と、思うのですが。

 身体が言うことを聞きません。

 膝に力が入りません。背筋を伸ばすことができません。

 

 これは・・・どうも、ダメみたいですわ・・・。

 

「お嬢・・・しゃま・・・」

 私は、前屈みになって。

 柱にもたれかかり、ずるずると崩れ落ちて。

 地面に、うずくまりました。

「ファリア!?」

「この・・・呪文ッ・・・!」

 フニャフニャと口を動かして、なんとかお嬢さまに伝えようとします。

「し、死霊使いの、呪文でしゅ・・・! アヤツリアは、死霊使い・・・!」

 

 『老いさらばえよ』。

 この呪文。死霊使いが、私に使ったことがあるのです。

 それを、お嬢さまに伝えたところで。

 

 私は・・・力尽きました・・・。

 

 ・・・この時。

 フターリアは、すっかり干からびていたそうです。

 『シノ婆さんより枯れ木っぽかったわ』と、お嬢さまの表現。

 ひどいな。シノ院長を引き合いに出すのやめろや。

 

 お嬢さまは、パニックになりました。

 フターリアが。

 あんなに背が高かった乳姉妹が、見る見るうちに干からびて、自分よりも小さく・・・!

 抱き起こそうとした腕は、枯れ枝のように細く。

 メイド服の袖に引っ込んだ指は、骨と皮でしかなく。

 

 ――まるで、悪夢にそっくりの光景だったので。

 

 テニッサメイズお嬢さまは、何度か、悪夢を見たことがありました。

 乳姉妹のフターリアや、リチャータ(私たちの乳母です)、モリーヌ(私の護衛・侍女です)が、死ぬ夢を。

 それも、ただ死ぬのではありません。

 お嬢さまの目の前で、年老いて、お婆ちゃんになって、死んでゆくのです。

 父も、長兄も次兄も、仲の良くない義理の母も。みんな骨になってしまうのです。

 ハーフエルフのお嬢さまだけを、現世に残して。

 

 このせいで、お嬢さまはパニックになってしまったというワケです――

 

「置いていかないで。ファリア! ねえ!」

 唱えかけた呪文も忘れて、乳姉妹に抱きつきました。

 揺さぶろうとして、ハッとなって、やめました。

 揺さぶったら、砕けて潰れてしまいだったので・・・。

「う・・・ウ・・・ゥ・・・」

「嘘でしょ。フアーリアお姉ちゃん。『変容』の天才でしょ、なんとかして!?」

 ・・・と、叫んだところで。

 お嬢さまの、賢い頭脳が働きました。

 

「そうだ、『変容』!」

 立ち上がります。

 宝飾の杖を構えます。

「老衰も『変容』なら――元に戻すのも、『変容』!」

 

「変容せよフターリア! 猫の力をその身に宿し、密かに優美に、若々しく。──ネコ娘に、な~れ!」

 

 フターリアの身体が『変容』しました。

 黒い耳が、頭の上にふくらんで・・・

 黒・灰シマシマの尻尾が、スカートの中から顔を出して・・・

 干からびていた身体に、女らしいふくらみが、戻って・・・

 

 そして、ふたたび老衰し始めました。

 

 黒いネコ耳の毛が薄れて。

 尻尾が、細くなって。

 身体は小さく、干からびていって・・・。

 

「これは、」お嬢さまは、観察しました。「――『老いさらばえよ』が、繰り返されている?」

 もう一度、『ネコ娘にな~れ』を唱えます。

 経過を観察します。

 若返った身体が・・・・・・・・・ふたたび干からびるのを、確かめました。

「間違いない。『循環せよ』ね。この呪文を解かなくては、ファリアは助からないわ」

「ニーズ! リアは!?」

 ユリが叫んできました。

 チラッとそちらを見てみれば。

 2体の髑髏浪人は、どちらも健在。1体も倒せていません。

 そして、ユリは汗だくでした。

 赤毛がべっとりと額に張り付き、ハァハァと呼吸は乱れて。

 まるで、ユリまで老衰してしまったかのようでした――実際には、ケガの影響でしょうけどね。

 フターリアを救わねば、ユリも倒れる。

 あとは、言うまでもない。

 全滅です。

「私が助けます!」お嬢さまは言いました。「いま、しばらく」

「わかった! 任せた!」

 ユリはもう何も言わず、呼吸を節約して戦闘を続けます。

 お嬢さまは、一瞬何もせず、ピタッと動きを止めました。

「・・・呪文を解除する呪文。そういう呪文は、お母さまの本には、書かれていなかった」

 呟きます。

「でも、私は知っている」

 お嬢さまは杖を握り、すっくと立ちました。

「お母さまの本を開くのに、そういう魔術が、要求されたから」

 

「『循環せよ』の呪文よ、変容せよ!」

 テニスお嬢さまは、唱えました。

 まずは、フターリアにかかっている呪文を指して。

「閉じた扉を開け放ち、私を主人と受け入れて――それで最後に、な~れっ!」

 次に、干からびたフターリア本人を指して。

「変容せよ、フターリア! 猫の力をその身に宿し、若く幼く、ハイエルフよりも長命に! ──ぴちぴちニャンコに、なれっ!!!」

 

 すると。

 

 うずくまっていた、枯れ木のフターリアが・・・

 鼻息も荒く、立ち上がって。

 黒い目を、カッと見開いたかと思うと。

 

「こニョ服ニ゛ャ魔ニャッ!」

 

 ダブついたエプロンをかなぐり捨て。

 ズリ落ちるメイド服からスポーンとジャンプで飛び出して!

 小っちゃいボディを、お嬢さまの前に現しました!

 

 フターリア、復活です!

 

◆♀◆ 10、ぴちぴちニャンコ、奮戦す! ◆♀◆

 

「ニュリっ!」

 

 はい、フターリアです。

 元に戻りました!

 ・・・元に? いや、なんかちがう気もしますが。とにかく元気です!

 ユリを助けます!

 

 エプロンを捨てて、濃紺のメイド服を捨てて、白いシャツとタイツだけの姿となって。

 ユリの足元をスルリと抜けて、列柱の隙間を駆け抜けて。

 髑髏浪人どもの後ろに回って――

 

「フニ゛ャッ!」

 後ろから、そいつの膝を、蹴り抜きました!

 後ろ蹴り膝カックンじゃ!

 ガラッシャアアアン・・・!! 派手に鎧を鳴らして、そいつは仰向けに転びました。

「よし・・・っ!」

 ユリが剣を突き立てます。

 切っ先はチェインメイルを貫いて、そいつの背骨を見事に砕き、ふたたび永眠させました。

 もう一体が私に気付いて、半身になります。

 剣でユリを、盾で私を相手しようとします。

 そんな簡単に行くかい!

 私は、盾に抱きつきました。先日、ユリがやったヤツです。盾に抱きついて、相手のバランスを崩す!

 ついでに、後ろ足を伸ばして、兜を蹴ってやりました。

 兜がズレました。髑髏の眼窩が隠れました。そいつが『うおっ!?』みたいな動きをしました。

「離れろ!」

「ホイ」

 私がパッと手を離して地面に転がった瞬間、ユリが剣を閃かせました。

 兜が、宙を飛んで、落ちました。

 ガラン、ゴロン・・・! 転がる兜の中に、そいつの頭蓋骨も、入っていました。

 

 髑髏浪人2体、討伐です!

 

「ハァハァ・・・!」

「ニャい丈夫?」

「オマエこそ、ハァハァ、大丈夫かッ・・・!?」

 ユリが私に抱き着――覆い被さってきました。

「リアっ・・・」

「重いっニェ!」

「こんな小さくなって! ニーズ、大丈夫なのコイツ!?」

「たぶん大丈夫ですわ」

 と、お嬢さま。涙を拭いながら。

「老衰の呪いを無限循環させる、という術でした。厄介な相手で、少々焦りましたが」

「よく解けたね・・・」

「大したことは。母の本の封印のほうが手強かったですわ」

「お嬢さミャ」

 私は、お嬢さまのところに行きました。

 前足を伸ばして、お嬢さまの腰にしがみつきました。

「ふふふw ファリア。ちょっと若返らせ過ぎたわね」

 お嬢さまは私を抱き上げて、ギューッとしました。

 ユリが剣を収めて、近付いてきます。

「リア、服はいいの?」

「スカートがニャ魔ニャんニャよ」

「何言ってるかわかんないなw」

 ユリが、私が脱ぎ捨てた服を拾います。

「さ! もう一踏ん張りだ」

 歩き始めました。

「裏切り者の寵妾を追い詰めるぞ!」

 

「・・・最初から、このつもりだったのですか?」

 お嬢さまが問いかけると、

「うむ」

 ユリは、少し苦い表情をしました。

「ダーリンがうるさくてね。『絶対アヤツリアだから、罠を仕掛けてください』って」

「ニ゛ャーリン姉ちゃんが」

「珍しいですわね? あの人が、強く出るのは」

「うん。・・・私はさ。気が合うほうだったんだ。アヤツリアは」

 ユリは肩をすくめました。

 そして、少し言いよどんでから、呟きました。

「ダメだな。私も。人を見る目には、自信があったんだけど」

「・・・誰にでも、見落としはありますわ」

「あいつも見落としてるニ゛ェ。おミャえの釣りに、ミャんミャと引っ掛かって」

「だなw」

 

 私たちは、太い通路の終わりに達しました。

 通路は、部屋に繋がって・・・

 

 目の前が、一気に、大きく開けました。

 

◆♀◆ 11、大玄室 ◆♀◆

 

 そこは、一大玄室でした。

 

 私たちが出たのは、壁際の回廊――というか、岩棚の通路でした。

 霊廟を見下ろす形の回廊でした。ただし、墓は私たちより高い位置にあります。

 いったん階段を降りて霊廟の前に行き、ふたたび階段を上がって墓にたどり着く、という構造です。

 墓は、大きな墓碑と花壇からなっていました。

 墓碑。

 大きな石のベッドのようです。

 表面に、大きな文字。こう刻んでありました。

 

 『かつての王、いまは王国の守護者、シーツァーオー』

 

 その名の下に、私には読めない文字がズラズラと。

 最後に、円形の魔方陣が刻まれていました。

 

「封印を、こんなところに描くとはのう・・・」

 墓碑の前に立つ女が、私たちに言いました。

 アヤツリア。

 国王の寵妾にして、魔王の重臣・死霊使い。

 こちらより高い墓地からユリを見下ろして、笑いました。

「いくら頼んでも、墓参させてくれぬワケじゃ。フフフ・・・バーシーの努力も、これでムダになったのう」

「やめろ」ユリが言いました。「その封印を解くな。恐ろしいことになるぞ」

「そうじゃろうとも」

 アヤツリアは笑いました。

「じゃが、もう遅い。わらわは、すでに呪文を読み解いた。あとは合言葉を唱えるだけ」

 墓碑を見下ろして、

「合言葉!」

 両手を広げて、また笑いました。

「なんと迂闊な仕掛けよ。合言葉ひとつで解けてしまう封印とは」

「・・・ティニーモノーシャさまの得意の術なんだ」とユリ。

「馬鹿なエルフじゃ」

「お嬢ニャまの母上を侮辱するニャ!」私は噛みつきました。

「ウソつきメイドは黙っておれ。・・・『循環』を解くとは、やるのう? エルフの娘よ」

「・・・。」お嬢さまは黙って会釈しました。

「さて、」

 アヤツリアは、墓碑に手をかざしました。

「もはや、そちらにできることはない。黙って見ておれ」

「・・・なぜだ? アヤツリア」

 ユリが静かに訊きました。

「なぜ、バーシー王の愛情を裏切った」

「愛情じゃと?」

 アヤツリアは、本気でくだらなさそうに、横を向きました。

「フン。そんなモノ。まやかしに過ぎぬわ」

「まやかし?」ユリは一歩前に出ました。

「動くでない! 動くなら、こちらは即座に封印を解くぞ」

「チッ・・・」

「そうじゃ、おとなしくしておれ。――愛など、まやかしじゃ。生命とは、仮初めのモノなれば」

「馬鹿なことを」

「馬鹿はそちらじゃ」

「ハジンドータの民を殺されて、おかしくなったのか? それなら、同情するが・・・」

「いいや? わらわは、生まれた時から、こういう人間じゃ」

 アヤツリアは私たちを見ました。

 美しい碧瞳が、いまは、曇った翡翠のようです。

「死体を見ると喜ぶというので、気味悪がられてな。幼い頃から、離れに隔離されておった」

「・・・。」

「バーシーに聞いたか? 別に構わんぞ。隠しておるワケでもなし――いや、隠すフリはしてきたが」

 くっくっく。

 アヤツリアは、楽しそうに笑いました。

「バーシーもトリートラレッカも、わらわを憐れみおって。馬鹿め。ククク」

 

「・・・トにぃトにゃにぇッカって、」私は囁きました。

「・・・王妃さまよ!」お嬢さまが囁いてくれました。

 

「愛はまやかしだから。バーシーが、王妃殿下が馬鹿だから・・・裏切ったのか?」

「いいや?」

 アヤツリアは素直に答えました。

「陛下に忠誠を誓った身だからじゃ」

 

◆♀◆ 12、アヤツリア、語る ◆♀◆

 

 アヤツリアの話は、こうでした。

 

 「ハジンドータ伯爵領が、ドラゴンに襲われたとき。

  わらわは、いつも通り、離れに隔離されておってな。

  連れ出されたのは、事の終わった後じゃった。

  父母と共に、死体の中を歩いた。

  喰い殺され、焼き殺された領民どもの中をな。

 

  美しかった・・・。

  死に絶えた人間どもの残骸は、真実の美しさに包まれておった・・・。

 

  そこに、ドラゴンが戻ってきた。

  父は母を、母はわらわをかばった。

  わらわは2人を突き飛ばして、死にゆく2人を見守った。

  そして確信した。

  やはり、この世はまやかしじゃと。

 

  生命だの、愛情だの、親子の絆だの・・・

  そんなものは、『死』には勝てぬ。

  最後に勝つのは『死』じゃ。

  『死』こそ、我らの本来の姿じゃ――とな。

 

  わらわは、生き延びるつもりはなかった。

  そこで物体に戻るつもりじゃったが・・・

 

  そこに、陛下が現れてな。わらわに、現世での仕事をお命じなさったのじゃ」

 

「陛下・・・というのは、バーシーではなく?」

「当然じゃ。わらわが『陛下』と仰ぐは、たった御一柱・・・」

 アヤツリアは、両手を広げ、墓碑に差し伸べました。

 

「ノロ・ノロ・マータ! 呪いの神霊なる、あの御方をおいておらぬ!」

 

「魔王陛下か・・・!」ユリが歯軋りしました。

「いかにも」

 アヤツリアは微笑みました。

「陛下は焼け野原に降臨なさり、ドラゴンを追い払い、わらわに本を授けて下さった」

「死霊術の?」

「そう。この世に死をばらまけ。仮初めの生命にすがる人間に、真実を見せてやれ・・・とな」

「なるほど」

 ユリはうなずきました。

「ノロ・ノロ・マータさまの信徒だったのか。バーシー陛下に拾われる前から」

「そうじゃ。バーシーに取り入ったのは、人を殺すのに都合が良かったからに過ぎぬ」

「モターズ伯を殺したのも?」

「うむ。あやつめ。わらわを口説いておいて・・・」

 アヤツリアは、私を見ました。

「・・・ダンゼイズの姫を娶りたい、口添えを頼む。などと抜かしおってのう」

「あきれたヤツだな!」

「じゃろ?」

「だから殺したのか」

「いや。いずれにせよ、殺すつもりじゃった。ま、少々苦しめてやったがな。『虚ろな食料』で」

 

 虚ろな食料。

 ガイコツどもが『食べた』あとの食事のこと。

 味はするけど、カロリーはゼロ。・・・というような物らしい。

 いくら食べても栄養が取れず、やがて栄養失調で死ぬハメになる。

 

 しかし、どうやって城の食料庫に入り込んだのか・・・?

 

「・・・ネズミニャ!」

 私は飛び上がりました。

「ほニェ(骨)のネズミで、食料を虚ろにしたニャ!?」

 

「よくぞ気付いた。ダンゼイズの姫、フターリアよ」

 アヤツリアは、私の本名を言い当てました。

 そうして、ニッコリと、笑いました。

 まことに悔しい話ですが・・・その笑みは、魅力的でした。

 思わず味方をしてやりたくなるほどに。

 まさに妖姫。

 しかし、続く言葉は凶々しいものでした。

「――死んで物体に戻ったら、わらわのしもべにしてやろう」

「死んだ後に、しもべもニャいだろ」

「ふむ?」アヤツリアは、また笑いました。「そうかも知れぬな」

「魔王陛下には、何を約束されたのだ?」とユリ。

「約束?」首をひねるアヤツリア。

「褒美だよ。死後に悪霊にしてやろう・・・とか?」

「いいや? なにも」

「見返りもナシに?」

「そなたは、何を約束されたのじゃ」

「私?」

「勇者になる前に、何かを約束されたのか」

「いや、別に」

 ユリは肩をすくめました。

「私は、陛下に拾われた。だから、お役に立ちたい――そう思っただけだ」

「わらわも、そうじゃ」

「ああ・・・!」ユリは嘆息しました。「それでか。御身と、気が合ったのは!」

「そのようじゃな」

 アヤツリアは、私たちに背中を向けました。

「では、さらばじゃ」

 

「やめろ!」

 ユリは腰から短刀を抜いて、投げました。

 短刀は、ゆっくり回転しながら飛んで・・・

 アヤツリアに命中する、その直前!

 襟元から飛び出したガイコツネズミに、遮られました。

 短刀は、小さな頭蓋骨に命中。突き刺さり、一緒に地面に落ちてしまいました。

「ダメか! リア、行くぞ」

「ニャ!」

 私たちは回廊を駆け抜け、階段を飛ぶように降りました。

 しかし、アヤツリアの合言葉のほうが先でした。

 

 「世を忍ぶ仮の墓碑よ、解けよ。

  日の目を見れぬそなたを縛る眠りの封印も。

  魔術の王よ! 自由になって、現れたまえ!」

 

「唱えたか・・・!」

「あの世でエルフに言うてやれ。『合言葉なんぞに頼るな』とな」

 アヤツリアは哄笑しました。

 その背後で。

 墓碑が、ひとりでに、動きました。

 ズズズ・・・と、ズレて。真っ黒な口を、地面に開きました。

 その下から。

 この世ならぬものが、姿を現しました。

 

 きらびやかな鎧を纏い、長剣を抱いた、高貴なる戦士。

 ガイコツの王が、墓の中から立ち上がったのです。

 

◆♀◆ 13、ガイコツの王 ◆♀◆

 

<・・・お呼びかな?>

 ガイコツの王は、どこからともなく響く声で、言いました。

「・・・そちは、誰じゃ?」

 アヤツリアは、首をひねりました。

「陛下では・・・ないな」

<うむ。そなたが『陛下』と呼ぶ御方ではないな>

「なんじゃと。では一体、誰なのじゃ?」

「ハハハハハハ!」

 ユリが、哄笑しました。

 今度はこちらが笑う番だ、とばかりに、玄室じゅうに響き渡る声で。

「言ったろう、アヤツリア! 恐ろしいコトになるぞ、とな」

「ユリ・・・貴様ッ、騙したな・・・!」

 アヤツリアは、美貌をグニャッと歪めました。

「いったい、何の封印じゃ!? これは!」

「何って・・・書いてあるじゃないか」

 ユリは、手のひらで墓碑を指しました。

 

 『かつての王、いまは王国の守護者、シーツァーオー』

 

「3代前の、国王陛下さ」

「ばかな・・・!」

「――終わりだ、アヤツリア」

 ユリは剣を抜きました。

 切っ先は、まっすぐアヤツリアの碧瞳を指しました。

「降参しろ。自決を選べるよう、掛け合ってやる」

 ユリとしては、最大限の譲歩だったのでしょう。

 しかしアヤツリアは応じませんでした。

「・・・わらわが、死を恐れるとでも?」

 と、笑ったかと思うと。

 剣を恐れる様子もなく、呪文を唱えたのです。

 

「事物の連鎖よ、変容せよ。恨みつらみが牙となり、殺した者が殺されるように」

 

「アヤツリアッ!」

 ユリは剣を振りました。死霊使いの首めがけて。

「ダメっ!」お嬢さまが叫びました。

<ならん!>

 ガイコツ王・シーツァーオー陛下も叫んで、剣を振り上げました。

 

 ガキィン・・・! 玄室に、火花が輝きました。

 

「なにをなさる!」ユリがキレました。

<『復讐の鎖』じゃ>

 と、ガイコツ王。

 その剣はユリの剣と噛み合い、アヤツリアを守っていました。

<こやつを殺せば、そなたも死ぬぞ>

「は?!」

「一種の呪殺ですわ」と、お嬢さま。

「そんなもの、『妨害』で」

<できん>

「変容するのは現実です。あなたではなく」

「面倒な!」

 ユリは、エプロンを取り出しました。私のエプロンですね。さっきまで着てたヤツ。

 それでアヤツリアを縛ろうとしたようですが。

 

「我は変容す。空気に浮かぶ舟となる・・・!」

 

 アヤツリアはそう唱え、ぽんと地面を蹴って、空中に逃げました。

 ふわ~ん・・・と、漂って。

 玄室の天井まで舞い上がったかと思うと。

 天井を手で叩いて、移動。回廊に着地しました。

「ニャに逃がしてんニョ!」

「シーツが邪魔するからだ!」

<邪魔せなんだら、そなたが死んだっちゅうのにから>

 

 私とユリは、妖姫を追いました。

 妖姫はこちらを振り向いて・・・

 ユリを見、私を見、お嬢さまを見て・・・

 最後にガイコツ王に目をやって、

 

「シーツァーオーよ」

<なんじゃ。ハジンドータ伯爵家の名を穢した女よ>

「すっかり引っ掛けられたお返しに、おまえを支配して、手駒にしてくれよう!」

<ほう?>

 

「心よ変容せよ。己れを失い、我が言葉にのみ従うように。完遂の時まで、呪文よ、『循環せよ』!」

 アヤツリアが唱えました。

 

<呪文よ変容せよ。自分にかかれ>

 シーツァーオーが同時に唱えました。

 

◆♀◆ 14、死霊使いの最期 ◆♀◆

 

「な・・・ッ!?」

 アヤツリアは、輝く碧玉のような瞳を見開きました。

 のけぞり、後じさります。通路の壁にぶつかりました。が、それに気付きもしない様子です。

「そんな呪文・・・陛下の魔術書には、なかった・・・!」

<あってたまるか。秘伝の術じゃぞ>

 ガイコツ陛下は笑いました。

<我が姉弟子、ティニーモノーシャの得意技じゃ>

「お・・・おおお!」

 アヤツリアは、壁にすがりつき、よろめいて・・・転倒しました。

 階段に落ちて、ゴロゴロゴロゴロと、転がり落ちてきました。

 私たちの足元に倒れます。

 ひどい打ち身をしたハズです。しかし、痛がる様子はありません。

「わ、私の心が! 変容する! おお。私の心が、消えてしまう!!」

 そう叫び、血眼になったアヤツリアは。

 最期に。

 ギロリと、私を見上げて。

 

「わ・・・わらわは、命じる」

 と、呻きました。

「殺せ。黒髪の女を殺せ・・・!!!」

 

 そして。

 死霊使いアヤツリアは、それっきり、言葉を失いました。

 

 一言も発することなく立ち上がり、両手を伸ばして、私に掴みかかってきます。

 私はかわしました。

 ぴちぴちニャンコの私に、アヤツリアさんの突進は遅過ぎました。当たるハズもない。

 ただ、薄気味悪すぎて、反撃はできませんでした。ユリの背後に隠れます。

 ユリが、事もなげにアヤツリアをネジ伏せます。

 うつ伏せに押さえ、もがく彼女の手を、エプロンで後ろ手に縛り上げました。

「いっちょ上がり」

「ニャんで俺?」

「・・・!」

 アヤツリアは私を睨んでいます。その瞳は、虚ろでした。

「あとは、引っ立てるだけだな」

<『復讐の鎖』を解くまでは、殺すんじゃないぞ>

「最期まで面倒なヤツだ」

 ユリたちは、もう終わったこととして、平然としゃべっています。

 私は・・・

「・・・。」

 アヤツリアだったものを、見下ろしました。

 そいつの目は、まだ私を睨んでいます。

「・・・ニャんで、俺?」

<そなた、トリートラレッカに似とるからのう>

 ガイコツ王は、ため息をついたようでした。

<嫉妬しとったんじゃろ。この女も。人並みにな・・・>

 

 これが、アヤツリアの最期でした。




◆♀◆ ※このページの修正記録 ◆♀◆
2026/02/27
「13、ガイコツの王」
 アヤツリアの呪文の末尾が間違ってたので修正。
 × 「心よ変容せよ。己れを失い、我が言葉にのみ従うように。完遂の時まで、呪文よ続け!」
 ○ 「心よ変容せよ。己れを失い、我が言葉にのみ従うように。完遂の時まで、呪文よ、『循環せよ』!」

「11、大玄室」
 王妃(トリートラレッカ)の名が初出なのを忘れてたので2行追加。
 これです↓
 追) 「・・・トにぃトにゃにぇッカって、」私は囁きました。
 追) 「・・・王妃さまよ!」お嬢さまが囁いてくれました。

「8、寵妾アヤツリア」
 お嬢さまの驚き方が不自然だったのを修正。
 × 「・・・アヤツリアですって!?」お嬢さまもビックリしてます。
 ○ 「・・・アヤツリアさま。では、やはり」お嬢さまもビックリしてます。
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