TSゆりフタ令嬢侍女メイド! 作:min(みならい)R18
◆♀◆ 7、白亜の墳墓の内側は ◆♀◆
白亜の墳墓の内側は、茶色のトンネルでした。
王家の墓。狭くて、長い、地下トンネルの集合体なのです。
クモの巣みたいに四方八方に伸びるトンネル・・・
幅は、1間ほど。フターリアが両手広げて当たらない程度です。
高さはその1.5倍。ユリが上段に構えたら、剣の先っちょが天井に当たっちゃう。
長~~~い通路。
驚いたことに、等間隔で灯りがついてます。
ロウソクね。壁の凹みにセットされてる。
「誰が点けたんだコレ・・・」
「助かるよな」とユリ。
「まあ、助かるっちゃ助かるけど」
「だよねー! なにしろ、封印は、ずーっと奥にあるからねぇー!」
・・・ユリさん、すごく棒読みですが。どうしたの?
「なぁ、ユリ」
ツッコミ入れようとしたところで。
かさかさっ・・・、と、土が鳴る音がしました。
キシキシッ・・・、という、小さな小さな軋みも聞こえました。
「ん?」
私はそっちを見ました。
ロウソクのあたりです。壁の凹みで燃えているロウソク。その影のあたりか・・・?
「いま、音がしたわよね?」
テニスお嬢さまも気付いたようです。
ハーフエルフのお嬢さま。母上・ティニーモノーシャさまのエルフの耳を引き継いでます。
今夜は、宝飾の杖をついて歩いてて、完全に『魔術師』って感じです。
・・・あ、この杖は国王陛下の御下賜品ね。王女救出の御褒美でもらった、あの杖です。
「何かいましたよね?」と、私が訊くと、
「ええ。ネズミかしら?」
「ですかねぇ?」
通路を抜け、少し広めの部屋(遺体が壁の中に眠ってるそうです)に出て、また通路に入り。
階段をくだって、古い時代の階層に移動。
また通路を抜け、少し広めの部屋に入り・・・
「ずいぶん遠いね?」
「そうだねー。封印だけなら、3代前の墓に行きゃいいんだけどねー!」
ユリは棒読みです。
声もちょっとデカい。反響して耳障りなぐらい。
「見回りもしとかなきゃいけないからねー」
「ふむ」
ま、確かに。
まっすぐ突っ走るのは危ないか。枝道に伏兵とかが潜んでたらね。
けど、それだけじゃないよね?
考えがあるんなら、説明してくれないかなぁ。
「ユリ、あのさ、」
説明を求めようとしたところで。
かさかさっ・・・、土が鳴って、
キシキシッ・・・、軋みが聞こえました。
「またか」
「またね」
ロウソクのあたりです。
こちらと反対側、凹みの奥のほうだった。
お嬢さまをかばいつつ、覗いてみますが・・・
「何もいねーな」
「ロウソクの音ではないと思うわ」
「ですよね。何かが逃げてくような音だった」
通路を抜け、少し広めの部屋に。さっき来た部屋のような気がする。
ユリは、少し太めの通路に入りました。幅が1尋から1尋半ぐらいに広くなった。
細い列柱が両サイドに並んでいます。
「雰囲気変わったね?」
「この先は、代々の国王の霊廟だからねー! 封印もそこにあるのさー!」
「・・・あのさ」
「なに?」
「ユリ。オマエ、大丈夫?」
「ん? バカにす――あー! そうだねー、本調子とは言えないなー!」
棒読みユリちゃん。あっさり不調を認めました。
「こんな状態で、死霊使いには会いたくないもんだねぇー!」
・・・ああ、そういうコトね?
「そ、そうだなー!」私は調子を合わせました。「オマエ死にかけたもんなー!」
「そうだよー! なんとか剣振れる程度にはしてもらったけどさー!」
と、私たちがヘタクソな演技したところで。
かさかさっ・・・、
キシキシッ・・・。
「いたわ! そこよ!」
お嬢さまが、宝飾の杖でビシッと指しました。
私は振り向きました! お嬢さまをかばって、そいつの姿を見極めます!
壁の凹み。ロウソクの陰。走り去る、異形の姿あり!
白く照り映える、スカスカのボディ。
肉もなく動く、そいつの正体は・・・
「ひッ!?」
私は飛び上がりました。
「ガイコツネズミ!」
お嬢さまに抱きついて盾にします。
「・・・私、あなたより弱いわよ?」
「すっすすすスミマセン。つい思わず。ガイコツはどうもダメで!」
私は、お嬢さまを盾にしながら謝りました。
「ゆっゆゆユリっ!? ガイコツ、ガイコツいるよ」
「なんだってぇー」ユリは棒読みです。「まさか、一体なぜ、こんなところにガイコツがー!」
すると。
「それは、わらわの使い魔じゃ!」
女の声が、そう答えたのです。
◆♀◆ 8、寵妾アヤツリア ◆♀◆
私たちの行く手に現れたのは、1人の女でした。
歳の頃は、30代。
褐色の肌は若々しく、薄茶の髪も艶めかしい。
妖しく潤んで輝く碧瞳。薄ら笑いにゆるんだ唇。
ふっくらした頬。むっちりと盛り上がる胸に、腰。
着ているドレスは貴族のもの。
額には、貴人を示す宝石。瞳によく合う、エメラルド。
セクシーな腰に巻きつく飾り帯にも、青緑の石が輝いています。
『妖姫』といった雰囲気の、美女でした。
そんな美女が、
「その髑髏鼠(ドクロッソー)は、わらわの使い魔じゃ」
と、言ったのです。
「アヤツリア姫! なぜ、ここにー!」
「ハハハ! 馬鹿め。私を出し抜いたつもりだろうが、そうはゆかぬぞ? 勇者よ」
妖姫アヤツリアは、ユリを指差して、宣言しました。
「封印の場所を教えてくれたこと。感謝するぞ・・・!」
「・・・アヤツリアさま。では、やはり」お嬢さまもビックリしてます。
「・・・?」
「バーシー陛下のお妾さんよ。『寵妾』といったところね」
私が沈黙していると、お嬢さまが解説してくれました。
さすがお嬢さま。「誰だっけ・・・?」の沈黙を正しく解釈してくれる。好き。
「ハジンドータ伯爵領の生き残りで、相続を放棄して陛下の元に身をお寄せになったのよ」
「ハジンドータ・・・」
はい。
これは、さすがに覚えてますよ。
爺ちゃんの領地に関わる話ですからね。
「・・・ドラゴンにやられて、お家断絶したという?」
「いかにも」
妖姫アヤツリアは、私の呟きを拾って、こちらを睨んできました。
「ドラゴンに荒らされ、死に絶え、よそ者の手に渡ったハジンドータじゃ」
「・・・。」
あー、ハイ。
その『よそ者』、うちの爺ちゃんですわ。
「・・・領地を守れぬ貴族には、文句を言う資格もありませんわ」
と、私は言い返しました。
黙ってるの、まずいんですよ。貴族はね。言われたら言い返さないと。
そんな私の心を見透かしたように。
「フン。そち、やはりタダのメイドではないな?」
アヤツリアは、嘲笑いました。
「名を聞いておこう」
「・・・ウソーリア、ってコトで」
「またそれか」
妖姫アヤツリアは、ニタリと笑いました。
「だが、二度目はないぞ。ユリと共に、ここで死ね。――出でよ、ハジンドータの死の戦士!」
そして両手を掲げました。
すると、ガイコツの剣士が現れたのです・・・
列柱の影から、1人。
そして、もう1人。
短めの剣に、大きな盾。そして、チェインメイルの要所に鉄板を当てた鎧。
「ゆけ、髑髏浪人(ドクローニン)。女勇者を切り刻め!」
ズシャ、ズシャ。
歩く足音は・・・人間のものよりも、不思議に軽い。
それもそのハズ。
鎧兜の下にある、彼ら2人の肉体は――とっくに『肉』を失っているのですから。
ガイコツ剣士、2体。
狭い通路をふさいで、ユリに向かって来ました。
戦闘開始です!
長剣のユリが斬りかかります。しかし、剣で弾かれました。
2撃め。今度は盾で逸らされました。
3撃めを出す前に、敵が反撃に来ます。ユリは剣をハネ上げられました。天井に切っ先が当たり、火花が散りました。
「クソっ。コイツ、やるぞ」ユリが棒読みをやめました。「ニーズ、リアを『変容』!」
「はい」
お嬢さまが宝飾の杖を構えて、私に呪文をかけようとしますが。
「二度目はないと言うたぞ?」
アヤツリアの呪文のほうが、先でした。
「変容せよ、ウソーリアと詐称する者よ。すべての人がそうなるように、」
私を指差して、妖姫が唱えます。
「――『老いさらばえよ』! 完遂の時まで、呪文よ、『循環せよ』!」
すると、突然。
私の背中が曲がりました。
太腿の肉が痩せ衰え、首が細くなり・・・
乳房が萎んで、ブラジャーがスカスカになり・・・
目が霞み、手が震え、ユリが奮戦する音が、遠くなり・・・
「クックック! 別れを言うなら急ぐがよい。四半刻も持つまいからな!」
勝ち誇って逃げてゆくアヤツリアの声も、急速に遠くなってゆきました・・・
◆♀◆ 9、フターリア、老いさらばえる ◆♀◆
「リア!」「ファリア、しっかりして、ファリア!」
2人の若々しい声が、遠く響きます。
クソ。馬鹿な。
ポッと出の新キャラに、負けてたまるか・・・!
・・・と、思うのですが。
身体が言うことを聞きません。
膝に力が入りません。背筋を伸ばすことができません。
これは・・・どうも、ダメみたいですわ・・・。
「お嬢・・・しゃま・・・」
私は、前屈みになって。
柱にもたれかかり、ずるずると崩れ落ちて。
地面に、うずくまりました。
「ファリア!?」
「この・・・呪文ッ・・・!」
フニャフニャと口を動かして、なんとかお嬢さまに伝えようとします。
「し、死霊使いの、呪文でしゅ・・・! アヤツリアは、死霊使い・・・!」
『老いさらばえよ』。
この呪文。死霊使いが、私に使ったことがあるのです。
それを、お嬢さまに伝えたところで。
私は・・・力尽きました・・・。
・・・この時。
フターリアは、すっかり干からびていたそうです。
『シノ婆さんより枯れ木っぽかったわ』と、お嬢さまの表現。
ひどいな。シノ院長を引き合いに出すのやめろや。
お嬢さまは、パニックになりました。
フターリアが。
あんなに背が高かった乳姉妹が、見る見るうちに干からびて、自分よりも小さく・・・!
抱き起こそうとした腕は、枯れ枝のように細く。
メイド服の袖に引っ込んだ指は、骨と皮でしかなく。
――まるで、悪夢にそっくりの光景だったので。
テニッサメイズお嬢さまは、何度か、悪夢を見たことがありました。
乳姉妹のフターリアや、リチャータ(私たちの乳母です)、モリーヌ(私の護衛・侍女です)が、死ぬ夢を。
それも、ただ死ぬのではありません。
お嬢さまの目の前で、年老いて、お婆ちゃんになって、死んでゆくのです。
父も、長兄も次兄も、仲の良くない義理の母も。みんな骨になってしまうのです。
ハーフエルフのお嬢さまだけを、現世に残して。
このせいで、お嬢さまはパニックになってしまったというワケです――
「置いていかないで。ファリア! ねえ!」
唱えかけた呪文も忘れて、乳姉妹に抱きつきました。
揺さぶろうとして、ハッとなって、やめました。
揺さぶったら、砕けて潰れてしまいだったので・・・。
「う・・・ウ・・・ゥ・・・」
「嘘でしょ。フアーリアお姉ちゃん。『変容』の天才でしょ、なんとかして!?」
・・・と、叫んだところで。
お嬢さまの、賢い頭脳が働きました。
「そうだ、『変容』!」
立ち上がります。
宝飾の杖を構えます。
「老衰も『変容』なら――元に戻すのも、『変容』!」
「変容せよフターリア! 猫の力をその身に宿し、密かに優美に、若々しく。──ネコ娘に、な~れ!」
フターリアの身体が『変容』しました。
黒い耳が、頭の上にふくらんで・・・
黒・灰シマシマの尻尾が、スカートの中から顔を出して・・・
干からびていた身体に、女らしいふくらみが、戻って・・・
そして、ふたたび老衰し始めました。
黒いネコ耳の毛が薄れて。
尻尾が、細くなって。
身体は小さく、干からびていって・・・。
「これは、」お嬢さまは、観察しました。「――『老いさらばえよ』が、繰り返されている?」
もう一度、『ネコ娘にな~れ』を唱えます。
経過を観察します。
若返った身体が・・・・・・・・・ふたたび干からびるのを、確かめました。
「間違いない。『循環せよ』ね。この呪文を解かなくては、ファリアは助からないわ」
「ニーズ! リアは!?」
ユリが叫んできました。
チラッとそちらを見てみれば。
2体の髑髏浪人は、どちらも健在。1体も倒せていません。
そして、ユリは汗だくでした。
赤毛がべっとりと額に張り付き、ハァハァと呼吸は乱れて。
まるで、ユリまで老衰してしまったかのようでした――実際には、ケガの影響でしょうけどね。
フターリアを救わねば、ユリも倒れる。
あとは、言うまでもない。
全滅です。
「私が助けます!」お嬢さまは言いました。「いま、しばらく」
「わかった! 任せた!」
ユリはもう何も言わず、呼吸を節約して戦闘を続けます。
お嬢さまは、一瞬何もせず、ピタッと動きを止めました。
「・・・呪文を解除する呪文。そういう呪文は、お母さまの本には、書かれていなかった」
呟きます。
「でも、私は知っている」
お嬢さまは杖を握り、すっくと立ちました。
「お母さまの本を開くのに、そういう魔術が、要求されたから」
「『循環せよ』の呪文よ、変容せよ!」
テニスお嬢さまは、唱えました。
まずは、フターリアにかかっている呪文を指して。
「閉じた扉を開け放ち、私を主人と受け入れて――それで最後に、な~れっ!」
次に、干からびたフターリア本人を指して。
「変容せよ、フターリア! 猫の力をその身に宿し、若く幼く、ハイエルフよりも長命に! ──ぴちぴちニャンコに、なれっ!!!」
すると。
うずくまっていた、枯れ木のフターリアが・・・
鼻息も荒く、立ち上がって。
黒い目を、カッと見開いたかと思うと。
「こニョ服ニ゛ャ魔ニャッ!」
ダブついたエプロンをかなぐり捨て。
ズリ落ちるメイド服からスポーンとジャンプで飛び出して!
小っちゃいボディを、お嬢さまの前に現しました!
フターリア、復活です!
◆♀◆ 10、ぴちぴちニャンコ、奮戦す! ◆♀◆
「ニュリっ!」
はい、フターリアです。
元に戻りました!
・・・元に? いや、なんかちがう気もしますが。とにかく元気です!
ユリを助けます!
エプロンを捨てて、濃紺のメイド服を捨てて、白いシャツとタイツだけの姿となって。
ユリの足元をスルリと抜けて、列柱の隙間を駆け抜けて。
髑髏浪人どもの後ろに回って――
「フニ゛ャッ!」
後ろから、そいつの膝を、蹴り抜きました!
後ろ蹴り膝カックンじゃ!
ガラッシャアアアン・・・!! 派手に鎧を鳴らして、そいつは仰向けに転びました。
「よし・・・っ!」
ユリが剣を突き立てます。
切っ先はチェインメイルを貫いて、そいつの背骨を見事に砕き、ふたたび永眠させました。
もう一体が私に気付いて、半身になります。
剣でユリを、盾で私を相手しようとします。
そんな簡単に行くかい!
私は、盾に抱きつきました。先日、ユリがやったヤツです。盾に抱きついて、相手のバランスを崩す!
ついでに、後ろ足を伸ばして、兜を蹴ってやりました。
兜がズレました。髑髏の眼窩が隠れました。そいつが『うおっ!?』みたいな動きをしました。
「離れろ!」
「ホイ」
私がパッと手を離して地面に転がった瞬間、ユリが剣を閃かせました。
兜が、宙を飛んで、落ちました。
ガラン、ゴロン・・・! 転がる兜の中に、そいつの頭蓋骨も、入っていました。
髑髏浪人2体、討伐です!
「ハァハァ・・・!」
「ニャい丈夫?」
「オマエこそ、ハァハァ、大丈夫かッ・・・!?」
ユリが私に抱き着――覆い被さってきました。
「リアっ・・・」
「重いっニェ!」
「こんな小さくなって! ニーズ、大丈夫なのコイツ!?」
「たぶん大丈夫ですわ」
と、お嬢さま。涙を拭いながら。
「老衰の呪いを無限循環させる、という術でした。厄介な相手で、少々焦りましたが」
「よく解けたね・・・」
「大したことは。母の本の封印のほうが手強かったですわ」
「お嬢さミャ」
私は、お嬢さまのところに行きました。
前足を伸ばして、お嬢さまの腰にしがみつきました。
「ふふふw ファリア。ちょっと若返らせ過ぎたわね」
お嬢さまは私を抱き上げて、ギューッとしました。
ユリが剣を収めて、近付いてきます。
「リア、服はいいの?」
「スカートがニャ魔ニャんニャよ」
「何言ってるかわかんないなw」
ユリが、私が脱ぎ捨てた服を拾います。
「さ! もう一踏ん張りだ」
歩き始めました。
「裏切り者の寵妾を追い詰めるぞ!」
「・・・最初から、このつもりだったのですか?」
お嬢さまが問いかけると、
「うむ」
ユリは、少し苦い表情をしました。
「ダーリンがうるさくてね。『絶対アヤツリアだから、罠を仕掛けてください』って」
「ニ゛ャーリン姉ちゃんが」
「珍しいですわね? あの人が、強く出るのは」
「うん。・・・私はさ。気が合うほうだったんだ。アヤツリアは」
ユリは肩をすくめました。
そして、少し言いよどんでから、呟きました。
「ダメだな。私も。人を見る目には、自信があったんだけど」
「・・・誰にでも、見落としはありますわ」
「あいつも見落としてるニ゛ェ。おミャえの釣りに、ミャんミャと引っ掛かって」
「だなw」
私たちは、太い通路の終わりに達しました。
通路は、部屋に繋がって・・・
目の前が、一気に、大きく開けました。
◆♀◆ 11、大玄室 ◆♀◆
そこは、一大玄室でした。
私たちが出たのは、壁際の回廊――というか、岩棚の通路でした。
霊廟を見下ろす形の回廊でした。ただし、墓は私たちより高い位置にあります。
いったん階段を降りて霊廟の前に行き、ふたたび階段を上がって墓にたどり着く、という構造です。
墓は、大きな墓碑と花壇からなっていました。
墓碑。
大きな石のベッドのようです。
表面に、大きな文字。こう刻んでありました。
『かつての王、いまは王国の守護者、シーツァーオー』
その名の下に、私には読めない文字がズラズラと。
最後に、円形の魔方陣が刻まれていました。
「封印を、こんなところに描くとはのう・・・」
墓碑の前に立つ女が、私たちに言いました。
アヤツリア。
国王の寵妾にして、魔王の重臣・死霊使い。
こちらより高い墓地からユリを見下ろして、笑いました。
「いくら頼んでも、墓参させてくれぬワケじゃ。フフフ・・・バーシーの努力も、これでムダになったのう」
「やめろ」ユリが言いました。「その封印を解くな。恐ろしいことになるぞ」
「そうじゃろうとも」
アヤツリアは笑いました。
「じゃが、もう遅い。わらわは、すでに呪文を読み解いた。あとは合言葉を唱えるだけ」
墓碑を見下ろして、
「合言葉!」
両手を広げて、また笑いました。
「なんと迂闊な仕掛けよ。合言葉ひとつで解けてしまう封印とは」
「・・・ティニーモノーシャさまの得意の術なんだ」とユリ。
「馬鹿なエルフじゃ」
「お嬢ニャまの母上を侮辱するニャ!」私は噛みつきました。
「ウソつきメイドは黙っておれ。・・・『循環』を解くとは、やるのう? エルフの娘よ」
「・・・。」お嬢さまは黙って会釈しました。
「さて、」
アヤツリアは、墓碑に手をかざしました。
「もはや、そちらにできることはない。黙って見ておれ」
「・・・なぜだ? アヤツリア」
ユリが静かに訊きました。
「なぜ、バーシー王の愛情を裏切った」
「愛情じゃと?」
アヤツリアは、本気でくだらなさそうに、横を向きました。
「フン。そんなモノ。まやかしに過ぎぬわ」
「まやかし?」ユリは一歩前に出ました。
「動くでない! 動くなら、こちらは即座に封印を解くぞ」
「チッ・・・」
「そうじゃ、おとなしくしておれ。――愛など、まやかしじゃ。生命とは、仮初めのモノなれば」
「馬鹿なことを」
「馬鹿はそちらじゃ」
「ハジンドータの民を殺されて、おかしくなったのか? それなら、同情するが・・・」
「いいや? わらわは、生まれた時から、こういう人間じゃ」
アヤツリアは私たちを見ました。
美しい碧瞳が、いまは、曇った翡翠のようです。
「死体を見ると喜ぶというので、気味悪がられてな。幼い頃から、離れに隔離されておった」
「・・・。」
「バーシーに聞いたか? 別に構わんぞ。隠しておるワケでもなし――いや、隠すフリはしてきたが」
くっくっく。
アヤツリアは、楽しそうに笑いました。
「バーシーもトリートラレッカも、わらわを憐れみおって。馬鹿め。ククク」
「・・・トにぃトにゃにぇッカって、」私は囁きました。
「・・・王妃さまよ!」お嬢さまが囁いてくれました。
「愛はまやかしだから。バーシーが、王妃殿下が馬鹿だから・・・裏切ったのか?」
「いいや?」
アヤツリアは素直に答えました。
「陛下に忠誠を誓った身だからじゃ」
◆♀◆ 12、アヤツリア、語る ◆♀◆
アヤツリアの話は、こうでした。
「ハジンドータ伯爵領が、ドラゴンに襲われたとき。
わらわは、いつも通り、離れに隔離されておってな。
連れ出されたのは、事の終わった後じゃった。
父母と共に、死体の中を歩いた。
喰い殺され、焼き殺された領民どもの中をな。
美しかった・・・。
死に絶えた人間どもの残骸は、真実の美しさに包まれておった・・・。
そこに、ドラゴンが戻ってきた。
父は母を、母はわらわをかばった。
わらわは2人を突き飛ばして、死にゆく2人を見守った。
そして確信した。
やはり、この世はまやかしじゃと。
生命だの、愛情だの、親子の絆だの・・・
そんなものは、『死』には勝てぬ。
最後に勝つのは『死』じゃ。
『死』こそ、我らの本来の姿じゃ――とな。
わらわは、生き延びるつもりはなかった。
そこで物体に戻るつもりじゃったが・・・
そこに、陛下が現れてな。わらわに、現世での仕事をお命じなさったのじゃ」
「陛下・・・というのは、バーシーではなく?」
「当然じゃ。わらわが『陛下』と仰ぐは、たった御一柱・・・」
アヤツリアは、両手を広げ、墓碑に差し伸べました。
「ノロ・ノロ・マータ! 呪いの神霊なる、あの御方をおいておらぬ!」
「魔王陛下か・・・!」ユリが歯軋りしました。
「いかにも」
アヤツリアは微笑みました。
「陛下は焼け野原に降臨なさり、ドラゴンを追い払い、わらわに本を授けて下さった」
「死霊術の?」
「そう。この世に死をばらまけ。仮初めの生命にすがる人間に、真実を見せてやれ・・・とな」
「なるほど」
ユリはうなずきました。
「ノロ・ノロ・マータさまの信徒だったのか。バーシー陛下に拾われる前から」
「そうじゃ。バーシーに取り入ったのは、人を殺すのに都合が良かったからに過ぎぬ」
「モターズ伯を殺したのも?」
「うむ。あやつめ。わらわを口説いておいて・・・」
アヤツリアは、私を見ました。
「・・・ダンゼイズの姫を娶りたい、口添えを頼む。などと抜かしおってのう」
「あきれたヤツだな!」
「じゃろ?」
「だから殺したのか」
「いや。いずれにせよ、殺すつもりじゃった。ま、少々苦しめてやったがな。『虚ろな食料』で」
虚ろな食料。
ガイコツどもが『食べた』あとの食事のこと。
味はするけど、カロリーはゼロ。・・・というような物らしい。
いくら食べても栄養が取れず、やがて栄養失調で死ぬハメになる。
しかし、どうやって城の食料庫に入り込んだのか・・・?
「・・・ネズミニャ!」
私は飛び上がりました。
「ほニェ(骨)のネズミで、食料を虚ろにしたニャ!?」
「よくぞ気付いた。ダンゼイズの姫、フターリアよ」
アヤツリアは、私の本名を言い当てました。
そうして、ニッコリと、笑いました。
まことに悔しい話ですが・・・その笑みは、魅力的でした。
思わず味方をしてやりたくなるほどに。
まさに妖姫。
しかし、続く言葉は凶々しいものでした。
「――死んで物体に戻ったら、わらわのしもべにしてやろう」
「死んだ後に、しもべもニャいだろ」
「ふむ?」アヤツリアは、また笑いました。「そうかも知れぬな」
「魔王陛下には、何を約束されたのだ?」とユリ。
「約束?」首をひねるアヤツリア。
「褒美だよ。死後に悪霊にしてやろう・・・とか?」
「いいや? なにも」
「見返りもナシに?」
「そなたは、何を約束されたのじゃ」
「私?」
「勇者になる前に、何かを約束されたのか」
「いや、別に」
ユリは肩をすくめました。
「私は、陛下に拾われた。だから、お役に立ちたい――そう思っただけだ」
「わらわも、そうじゃ」
「ああ・・・!」ユリは嘆息しました。「それでか。御身と、気が合ったのは!」
「そのようじゃな」
アヤツリアは、私たちに背中を向けました。
「では、さらばじゃ」
「やめろ!」
ユリは腰から短刀を抜いて、投げました。
短刀は、ゆっくり回転しながら飛んで・・・
アヤツリアに命中する、その直前!
襟元から飛び出したガイコツネズミに、遮られました。
短刀は、小さな頭蓋骨に命中。突き刺さり、一緒に地面に落ちてしまいました。
「ダメか! リア、行くぞ」
「ニャ!」
私たちは回廊を駆け抜け、階段を飛ぶように降りました。
しかし、アヤツリアの合言葉のほうが先でした。
「世を忍ぶ仮の墓碑よ、解けよ。
日の目を見れぬそなたを縛る眠りの封印も。
魔術の王よ! 自由になって、現れたまえ!」
「唱えたか・・・!」
「あの世でエルフに言うてやれ。『合言葉なんぞに頼るな』とな」
アヤツリアは哄笑しました。
その背後で。
墓碑が、ひとりでに、動きました。
ズズズ・・・と、ズレて。真っ黒な口を、地面に開きました。
その下から。
この世ならぬものが、姿を現しました。
きらびやかな鎧を纏い、長剣を抱いた、高貴なる戦士。
ガイコツの王が、墓の中から立ち上がったのです。
◆♀◆ 13、ガイコツの王 ◆♀◆
<・・・お呼びかな?>
ガイコツの王は、どこからともなく響く声で、言いました。
「・・・そちは、誰じゃ?」
アヤツリアは、首をひねりました。
「陛下では・・・ないな」
<うむ。そなたが『陛下』と呼ぶ御方ではないな>
「なんじゃと。では一体、誰なのじゃ?」
「ハハハハハハ!」
ユリが、哄笑しました。
今度はこちらが笑う番だ、とばかりに、玄室じゅうに響き渡る声で。
「言ったろう、アヤツリア! 恐ろしいコトになるぞ、とな」
「ユリ・・・貴様ッ、騙したな・・・!」
アヤツリアは、美貌をグニャッと歪めました。
「いったい、何の封印じゃ!? これは!」
「何って・・・書いてあるじゃないか」
ユリは、手のひらで墓碑を指しました。
『かつての王、いまは王国の守護者、シーツァーオー』
「3代前の、国王陛下さ」
「ばかな・・・!」
「――終わりだ、アヤツリア」
ユリは剣を抜きました。
切っ先は、まっすぐアヤツリアの碧瞳を指しました。
「降参しろ。自決を選べるよう、掛け合ってやる」
ユリとしては、最大限の譲歩だったのでしょう。
しかしアヤツリアは応じませんでした。
「・・・わらわが、死を恐れるとでも?」
と、笑ったかと思うと。
剣を恐れる様子もなく、呪文を唱えたのです。
「事物の連鎖よ、変容せよ。恨みつらみが牙となり、殺した者が殺されるように」
「アヤツリアッ!」
ユリは剣を振りました。死霊使いの首めがけて。
「ダメっ!」お嬢さまが叫びました。
<ならん!>
ガイコツ王・シーツァーオー陛下も叫んで、剣を振り上げました。
ガキィン・・・! 玄室に、火花が輝きました。
「なにをなさる!」ユリがキレました。
<『復讐の鎖』じゃ>
と、ガイコツ王。
その剣はユリの剣と噛み合い、アヤツリアを守っていました。
<こやつを殺せば、そなたも死ぬぞ>
「は?!」
「一種の呪殺ですわ」と、お嬢さま。
「そんなもの、『妨害』で」
<できん>
「変容するのは現実です。あなたではなく」
「面倒な!」
ユリは、エプロンを取り出しました。私のエプロンですね。さっきまで着てたヤツ。
それでアヤツリアを縛ろうとしたようですが。
「我は変容す。空気に浮かぶ舟となる・・・!」
アヤツリアはそう唱え、ぽんと地面を蹴って、空中に逃げました。
ふわ~ん・・・と、漂って。
玄室の天井まで舞い上がったかと思うと。
天井を手で叩いて、移動。回廊に着地しました。
「ニャに逃がしてんニョ!」
「シーツが邪魔するからだ!」
<邪魔せなんだら、そなたが死んだっちゅうのにから>
私とユリは、妖姫を追いました。
妖姫はこちらを振り向いて・・・
ユリを見、私を見、お嬢さまを見て・・・
最後にガイコツ王に目をやって、
「シーツァーオーよ」
<なんじゃ。ハジンドータ伯爵家の名を穢した女よ>
「すっかり引っ掛けられたお返しに、おまえを支配して、手駒にしてくれよう!」
<ほう?>
「心よ変容せよ。己れを失い、我が言葉にのみ従うように。完遂の時まで、呪文よ、『循環せよ』!」
アヤツリアが唱えました。
<呪文よ変容せよ。自分にかかれ>
シーツァーオーが同時に唱えました。
◆♀◆ 14、死霊使いの最期 ◆♀◆
「な・・・ッ!?」
アヤツリアは、輝く碧玉のような瞳を見開きました。
のけぞり、後じさります。通路の壁にぶつかりました。が、それに気付きもしない様子です。
「そんな呪文・・・陛下の魔術書には、なかった・・・!」
<あってたまるか。秘伝の術じゃぞ>
ガイコツ陛下は笑いました。
<我が姉弟子、ティニーモノーシャの得意技じゃ>
「お・・・おおお!」
アヤツリアは、壁にすがりつき、よろめいて・・・転倒しました。
階段に落ちて、ゴロゴロゴロゴロと、転がり落ちてきました。
私たちの足元に倒れます。
ひどい打ち身をしたハズです。しかし、痛がる様子はありません。
「わ、私の心が! 変容する! おお。私の心が、消えてしまう!!」
そう叫び、血眼になったアヤツリアは。
最期に。
ギロリと、私を見上げて。
「わ・・・わらわは、命じる」
と、呻きました。
「殺せ。黒髪の女を殺せ・・・!!!」
そして。
死霊使いアヤツリアは、それっきり、言葉を失いました。
一言も発することなく立ち上がり、両手を伸ばして、私に掴みかかってきます。
私はかわしました。
ぴちぴちニャンコの私に、アヤツリアさんの突進は遅過ぎました。当たるハズもない。
ただ、薄気味悪すぎて、反撃はできませんでした。ユリの背後に隠れます。
ユリが、事もなげにアヤツリアをネジ伏せます。
うつ伏せに押さえ、もがく彼女の手を、エプロンで後ろ手に縛り上げました。
「いっちょ上がり」
「ニャんで俺?」
「・・・!」
アヤツリアは私を睨んでいます。その瞳は、虚ろでした。
「あとは、引っ立てるだけだな」
<『復讐の鎖』を解くまでは、殺すんじゃないぞ>
「最期まで面倒なヤツだ」
ユリたちは、もう終わったこととして、平然としゃべっています。
私は・・・
「・・・。」
アヤツリアだったものを、見下ろしました。
そいつの目は、まだ私を睨んでいます。
「・・・ニャんで、俺?」
<そなた、トリートラレッカに似とるからのう>
ガイコツ王は、ため息をついたようでした。
<嫉妬しとったんじゃろ。この女も。人並みにな・・・>
これが、アヤツリアの最期でした。
◆♀◆ ※このページの修正記録 ◆♀◆
2026/02/27
「13、ガイコツの王」
アヤツリアの呪文の末尾が間違ってたので修正。
× 「心よ変容せよ。己れを失い、我が言葉にのみ従うように。完遂の時まで、呪文よ続け!」
○ 「心よ変容せよ。己れを失い、我が言葉にのみ従うように。完遂の時まで、呪文よ、『循環せよ』!」
「11、大玄室」
王妃(トリートラレッカ)の名が初出なのを忘れてたので2行追加。
これです↓
追) 「・・・トにぃトにゃにぇッカって、」私は囁きました。
追) 「・・・王妃さまよ!」お嬢さまが囁いてくれました。
「8、寵妾アヤツリア」
お嬢さまの驚き方が不自然だったのを修正。
× 「・・・アヤツリアですって!?」お嬢さまもビックリしてます。
○ 「・・・アヤツリアさま。では、やはり」お嬢さまもビックリしてます。