TSゆりフタ令嬢侍女メイド! 作:min(みならい)R18
◆♀◆ 16、渾火の魔術師 ◆♀◆
同じ夜。
アヤツリア離宮、正門前にて。
「――撃て」
女の声がして、暗闇の中から矢が飛んだ。
ヘンテコな矢である。
矢筈に筒がついておる。ふつうなら矢羽根だけのところに、銀色の筒がついているのだ。
それを撃つ。
ヒョロヒョロと音を立てて飛んだ矢は、離宮を囲む城壁に当たって、落ちた。
「ヘタクソめ!」
城壁の上に立つ戦士どもが、ゲラゲラと笑った。
盾を構えた槍兵が1人。弓だけを手にしたのが4人。
大声で笑って挑発する。
「・・・。」攻撃側は、何も反応しなかった。
「撃ち返せ!」盾が命令した。
弓の4人が撃ち返す。
道路脇の草むらに、矢が飛び込んだ。
そこには、攻撃側の射手が数人、伏せている。
弓兵が3人。
ローブの魔術師っぽいのが1人。ローブの上から硬い革の胸当て・背当てを着け、革の兜をかぶっている。おそらく女。顔は隠れてわからぬ。首筋に見える髪はダークグレイであった。
その魔術師が、立ち上がる。
短い間とはいえ、敵の弓矢に身を晒して・・・
「磁力銀よ、変容せよ。見えざる炎を立ち昇らせよ。『雷乞い』」
・・・女の声で、呪文を唱えた。
「唱えさせるな、撃て、撃て!」
城壁の反応が活発になった。女の足元に、矢が突き刺さる。
「マレーナさま。危険です、下がりましょう」
「はい」
女魔術師――勇者ユリの腹心・マレーナは、頭を低くして後ろに走った。
彼女が立っていたところを矢が通り抜けた。一瞬の差であった。
弓兵たちが彼女を逃がし、1射ずつ射返してから、一緒に逃げる。
「あと1回やります」とマレーナ。
「危険です。敵が警戒しなくなっている」
「あと1回です」
「・・・かしこまりました。では、あちらの木立ちへ!」
闇の中を走った彼女ら。
道路よりも低い位置にある木立ちに、身を隠した。
また矢を射る。
やはり、銀の筒付きのヘンテコ矢である。
そしてまた、すべてが城壁に当たって、誰も傷つけることなく地面に落ちる。
「未熟者。臆病者めが! 狙う度胸も技術もないか!」
城壁の戦士が、笑った。
槍で自分の盾をガンガンと叩き、煽り立てる。
盾には家紋があった。獲物を咥えた黒い犬の紋章――旧ハジンドータ伯爵家の紋章である。
滅びた家の紋章を付ければ、当然、王に逆らったことになるが・・・
「略奪者バーシーに尻尾を振る、クズどもめ!」
・・・反逆の家紋、というワケであった。
「人の弱みに付け込む屍肉喰らいめ。見ておれ。バーシーの首を晒してやる!」
「・・・。」
マレーナは応答しない。立ち上がって、呪文を唱える。
「磁力銀よ、変容せよ。
偽の銀と侮られる、そなたの真価を見せてやれ。
雷気となって立ち昇り、破滅を導け。――『雷乞い』」
青紫の光が、地面を走り回った。
「・・・ん?」
ハジンドータの盾持つ戦士。
城壁から、足元を覗き込む。
パチッ、パチパチッ・・・!
城壁の基部。
銅筒つきの矢から、細い細い光が走っておる。
まるで、ナナフシの足のような。
カクカクと曲がりくねった、青紫の光が・・・。
「フ・・・フン! わざわざ呪文を唱えて、この程度か!」
戦士は、ふたたび盾を叩いて、哄笑した。
「戯事も大概にせよ! その可愛いツラをブチ抜かれる前に、尻尾を巻いて逃げるがよい!」
矢が飛んだ。
マレーナは身を翻して木立ちに逃げ込んで、それっきり姿をくらませた。
そして。
3町ほど離れた、ゆるやかな丘の上。
アヤツリア離宮を見下ろす陣地に、駆け戻った。
マレーナも3人の弓兵も、無傷である。
「成功しました!」とマレーナ。「準備を」
すると。
白い雪と黒い夜空のどこかから、男の声がした。
「火を灯せーーーぃ!」
夜闇に、にわかに炎が輝いた。
赤々と燃える篝火に、クロスボウが浮かび上がる。
「バリスタ準備せーーーぃ!」
指揮官の兜をかぶった巨漢が、命令した。
バリスタ――巨大クロスボウの砲台に、兵士が取り付いた。
2人がかりで、巨大な矢をセット。長槍のごとき、巨大矢である。
この『矢』にも、銀の筒がついていた。
1人がウィンチを巻き上げて、引き金を両手で握る。
「バリスタ隊、10基。準備完了!」
「よーし!」と指揮官。「城壁足元狙えーーーぃ!」
「城壁足元、照準よし!」
「よーし!」
指揮官は、大きな身体を屈めて、足元の棒を取り上げた。
長さが3尋もあろうかという、旗竿である。黒い鉄でできておる。
恐ろしく重いであろうその棒を、指揮官はズドンと地面に突き立てた。
「避雷針! 準備よーし!」
指揮官の周囲にいた戦士が、さーっと逃げる。遠巻きにした。
「始めますぞ?」と指揮官。
「はい」とマレーナ。
「バリスタ、撃てぇーーーぃ!」
ズドム! ドム! ドム!
腹に響く音がして、槍のごとき矢が撃ち出される。
ビュゴォォォ・・・・・・荒風のような音。3町など、あっという間。城門の足元に突き刺さる。
その着弾を確認して、マレーナは、詠唱した。
「磁力銀よ、変容せよ。雷気となれ。破滅よ来たれ――『雷乞い』」
バリスタが撃ち出した巨大な矢が、燃えた。
青白い火花を四方に放ち、ゆらめく無色の炎を噴いて、黒く焦げた。
「天に満ちる炎の霊気よ、変容せよ。
立ち昇って、駆け下れ。岩を撃ち据え、焼き溶かせ。
・・・『雷』」
夜空が唸る・・・
右から左にドロドロと・・・
また右に、ドロドロと・・・
天の太鼓が鳴り響く。
やがてそれらが、アヤツリア離宮の頭上に駆け寄って・・・
ぱっ。と、白い光をほとばしらせた。
目にも眩い白光が、雪の夜空から落ちてきて、真昼の光をもたらした。
一瞬、すべてが真っ白に輝いて・・・
離宮の門が、噴き飛んだ。
爆風が雪を巻き上げて、球状に白く渦を巻く。
マレーナのローブが叩かれる――耳を聾する爆音に!
噛みつく蛇のごとき白光が、四方八方に荒れ狂う。うち一本が、指揮官の立てた棒に飛んできた。
バガァァァン!!!
・・・と、空気が張り裂ける音がして、『避雷針』に雷が落ちた。
『妨害』! と、指揮官は叫ぶ。
声は雷鳴に消されたが。
避雷針もろとも稲妻に巻かれた彼は、ケロリとして、無傷であった。
いっぽうで。
白光に撃たれた離宮の門は、消えていた。
残るは、左右の門塔の土台だけ。ガラスのように溶け合って。
盾を叩いていた戦士も、弓を射ていた兵どもも。
影も形も、なくなった。
「う・・・おお・・・!」「これが、勇者の右腕、マリエレジーナ」「なんと恐ろしい・・・」
バリスタ兵どもが、ボソボソと呻く。
その声は、まだローブの揺れているマレーナにも、聞こえた。
「お見事ぉーーー!」
指揮官の声が、雑音を掻き消す。
「さすが、『渾火の魔術師』! 陛下を救う、まこと、天晴れな一撃よ!」
そして。
黒い棒を持ち上げて、背後の戦士に命じる。
「者共ォーーー。門は溶けたぞ、突撃じゃあーーー!!!」
◆♀◆ 17、イマック侯爵、シロクナー ◆♀◆
溶けた城門で。
戦士たちは、衝突した。
攻めるは、司厨長イクサーの戦士団、30人。
守るは反逆者、ハジンドータの戦士と思われる、ほぼ同数の戦士である。
攻め手、司厨長イクサーは、バーシー王の従兄であった。
武勇名高く、忠誠心も揺るぎなし。指揮もできれば、避雷針もできる。
この夜は、従弟を救わんと、自ら手勢を率いて突入した。
両手剣を振りかざし、体当たりして、叩き伏せる。
『司厨長』の名とは全然関係のない狂戦士っぷり。
付き従う戦士団も、これまた、狂戦士であった。
「ウオラアアアア!!!」
「ちぇりゃっさああああ!!」
奇声を発しながら、体当たりして、叩き伏せる。
反逆者どもの頭が割れる。肩が割れる。手足が飛んで、雪に沈む。
・・・しかし。
「むう! 死体兵ッ!」
イクサーは、叫んだ。
膝から下を切り飛ばした、敵兵が。
その膝で立ち上がり、武器を振るってきたのである。
人間では、まず考えられぬ行動。しかも、出血しておらぬ。
「死体兵じゃあーーー!」
司厨長イクサーは、警報を叫んだ。
「潰し切るまで、油断をするなぁーーー!」
「ウオオオオ!!!」
部下どもは、咆えた。
わかったんかわからんのかわからぬ。
・・・ま、ちゃんと伝わっておったのだが。
部下ども、叩き伏せた敵に、2撃目を入れるようになったのである。
そのせいで隙ができるが、そこは隣の仲間がカバーする。
この30人。まさに1個の生命のごとし。
「うむ!」
司厨長は満足した。
そして、膝立ちで戦う死体兵を、脳天から股間まで、唐竹割りにしてやった。
「哀れなり! ハジンドータの戦士ども! このイクサー、貴様らに子守歌をくれてやる!」
・・・しかし、敵は、異常な守備力で、イクサー戦士団の猛攻をハネ返したのである。
なにしろ、死体兵。
手足を斬られても動く――それだけではない。
汗もかかぬ。息も切らさぬ。何時間でも、戦い続けることができるのだ。
さらに。
玄関の左右から、ガイコツどもが現れて。
こちらは弓を持っており、左右から乱戦の中に撃ち込んでくる。
完全な乱射である。敵味方区別せずに、適当に、撃つ。
死体兵は、矢が当たっても平然としておるので――
「ぐぬう! 一方的、不利ッ!」
司厨長イクサー。
3本目の矢を右肩に受けて、ついに右腕が動かなくなった。
「閣下ぁ! お下がりあれーーーぃ!」
部下が身を呈して割り込み、イクサーの盾となった。
その兜に、胸当てに、矢が命中する。鎧の薄い関節に矢が突き立つ。
「門まで引けーーーぃ! 門までーーーぇ!」
イクサーは、左腕一本で両手剣を振り下ろして、叫んだ。
玄関まで迫っておきながら。
後退を、余儀なくされたのである。
玄関前から門の外まで、半町ほど、後退する。
すると。
死体兵ども、引き篭もった。
玄関を閉ざして、姿を消したのである。
ガイコツもシャカシャカと逃げ散って、夜闇に紛れてしもうたのであった。
「おのれ・・・」
城壁の残骸に身を隠し、矢をナイフで折りながら、イクサーは呻いた。
戦士団の治療術師がやってきて、体内に残った矢尻をほじくり、治癒をする。
傷口は見る見るふさがった。しかし、苦痛に噴き出した脂汗が氷のごとく冷え切って、イクサーの肉体を苛む。
疲労も、寒さも・・・人間にだけ、不利に作用する。
「おのれぃ・・・!」
と、このような現場に。
「苦戦しておられるようですなあ、司厨長閣下!」
きらびやかな鎧を着た、貴族の男が、現れた。
年の頃は40半ば。
ヒョロッとした身体に、鎧兜が、似合っておらぬ。
背後に率いる手勢は2人。これではタダの護衛である。
「シロクナー!」イクサーは、咆えた。「何をしに来たのじゃ!」
◆♀◆ 18、シロクナー・イマック侯爵 ◆♀◆
「おやおや。これは、ずいぶんなお言葉」
貴族の男。
シロクナー・イマック侯爵は、長いヒゲをこすって応じた。
「身内の不始末を片付けに参ったのですぞ」
「なに?」
「聞けば、ハジンドータの残党が、この反逆の主犯だとか・・・」
長髭の侯爵は、芝居のように首を振って、
「ハジンドータは、我が派閥。私がケリを付けるのは、当然のこと!」
「頼んでおらぬ!」
「なあに、頭を下げて頂く必要はない。それに、」
侯爵は笑って、どんよりした目で、背後の丘を見上げた。
バリスタと篝火の並ぶ丘。女魔術師のマレーナが、こちらを見ている。
「――始末を付けねば、まーた、領地を盗み取られそうですからなぁ!」
そして。
シロクナー。
すなわち、国王誘拐の容疑者であり・・・
寵妾アヤツリアの浮気相手とも疑われる、イマック侯爵は・・・
「ゆくぞ! イマックの猛犬ども! 我らが臆病者ではないと、見せつけてやれ!」
たった3人で、玄関に突進していった。
「何様じゃ!」「3人でだと?!」「臆病者が、気でも狂ったか」
イクサーの戦士たちは罵ったが。
「・・・。」司厨長本人は、黙っていた。
「閣下? いかがなさいました」と、治療師が訊くと。
「いやな予感がするのじゃ」と、イクサーは言った。
予感は、的中した。
「イマック侯爵ここにあり! 『道を開けよ、アヤツリアの下僕ども』!」
と、侯爵が唱えると
玄関の扉が開き・・・
死体兵どもが、武器を下ろしてイマック侯爵を迎え・・・
侯爵と3人の戦士を、離宮に迎え入れたのである!
「おのれ! やはり! 反逆者の一味であったか!」
司厨長イクサーは、ポタポタと血を垂らしながら悔しがった。
「あれほど『王宮に引き止めよ』と命じたものを!」
「閣下。傷に障ります」
治療師になだめられても、イクサーは収まらぬ。
「ツクノー! なぜ来てくれぬ? ヨーセイ! 御身が10歳若ければ!」
ここには居らぬ、2人の侯爵の名を唱えて。
血に濡れた足で、地面を踏みつける。
そして、左手一本で剣を取って、
「もはや、死も辞さぬ! 陛下のために死ねる者だけ、付いてこい!」
「ウオオオオ!!!」
と、決死の覚悟で、再突撃を決意した司厨長に・・・
「ひどいなー。私の名は挙げて下さらんのですか? 閣下ァw」
ヘラヘラと軽い口調で、女が呼びかけた。
イクサーの戦士団をかき分けて。
司厨長の元に、現れたのは・・・
「おお、ユリ! ツクノーにも並ぶ女傑よ!」
「イクサーさま。ここは私にお任せを」
赤毛の女勇者にしてアスカリア伯爵、ユリと。
「・・・そのネコは、何者じゃ?」
「フにゃーリアでニ゛ョニャいましゅ。閣下」
ぴちぴちニャンコの、フにゃーリアでした。
◆♀◆ 19、ぴちぴちニャンコ、突入す ◆♀◆
はい。
ぴちぴちニャンコです。別名フターリアです。
前回に引き続き、子供状態での参加となりました。いや仔ネコかな?
「行くぞ、仔にゃーリア!」
「仔ニャこ言うニャ!」
私とユリ。
イクサー閣下に参戦を伝えて、突撃しました。
半町ほどの距離を駆け抜けて・・・
あ、1町は、だいたい全力疾走できるぐらいの距離です。
速度を落とさず走り抜けれる程度、と思ってください。
つまり、半町なら全力疾走余裕ってコトです。仔ネコでもね。
・・・手を組んだユリに飛びつき、彼女の手を踏んでジャンプ!
2階の窓へ。
ユリが縄を投げてくる。それをキャッチ。
重たい縄をブン回して窓を叩き割る! がちゃーん!
窓枠に残ったガラスも砕いて、枠に縄を掛けます。
「ニェきニャ!」
「よし」
ユリが縄を片手で掴んで、
「風よ変容せよ。渦巻け。私を巻き上げろ。――『つむじ風』!」
と唱えて、フワッと飛び上がってきました。
真上に上昇したユリ。
そのままでは窓に手が届かないのですが、そこで縄を引っ張った。ぐいっ!
吸い寄せられるように窓に接近。スムーズに室内に飛び込みました。
コイツ、ホント運動の天才だな・・・。
たぶんオリンピックとか出れるレベルだよ。
前転して起き上がったユリ。呪文を唱え、戸口に現れた死体兵を真っ二つに。
しかし、そこで「う」と呻いて、止まりました。
「・・・ダメだ。倒れそう」
「え!?」
「まさか・・・この程度で、限界が来るとは・・・!」
「ニュ文?」
「ああ」
どうやら。呪文の唱えすぎで、眠気に襲われているらしい。
いわゆるMP切れですな。
この世界の魔術師は、呪文を使いすぎると、ブッ倒れてしまうのです。
寝てれば治るが・・・戦闘中だと、当然、殺される。
よって前進はできない、となる。
「すまん。急に・・・」
「んニャ」
・・・まあ、ユリ、吸血鬼戦で死にかけた後だからな。
俺1人でどうしろっつーの?! とは思うけど。
「ニェン関行く?」
「玄関? ダメだ。死体兵だらけのハズ・・・」ユリは、あくびをしました。
「ニャんニェこんニャに死体兵が」
「ええ?」ユリは聞き返してから、「ああ、死体兵がなんでこんなにいるのか? って?」
「んニュ」
「それはアレだ。離宮にも・・・霊廟があるから」
「ニェイ廟? 離宮にも?」
「そう。ハジンドータの忠臣をな・・・眠らせてやりたいと、アヤツリアが頼んでさ・・・」
「地元の戦士を、死体兵に?」
「そういうコトだな」
アヤツリアは。
離宮に、ハジンドータの戦士の墓を造りたい、と、陛下に頼んだらしい。
陛下はその望みを叶えた。死霊使いアヤツリアの手元に、遺体を運び込んだワケです。
加えて。
この反乱でも、新鮮な死体が手に入ったでしょうから・・・。
「ニャんちゅうコトすニュんニャ!」
「バーシーを・・・ふわぁ・・・探せ。シロクナーは、バーシーを殺すつもりだ」
「了解ニャ!」
私は姿勢を低くして、戸口から廊下へ。
四つん這いになって左右をうかがう。
右・下方、人間が歩くのを感知(足音というより、振動を察知した感じです)。
廊下を右へ。
螺旋階段。完全に足音を殺して下へ。
移動中、同じ階段を下に降りてゆく気配を察知。地下!
「陛下! お助けに参りましたぞ――この、シロクナーが!」
そんな声が、今度はハッキリと、私の耳に聞こえてきました。
◆♀◆ 20、バーシー王、危機一髪 ◆♀◆
そこは、地下の食料庫。
外から閂を掛けれる部屋です。
その奥。冷たい暗闇に座っていた男が、立ち上がりました。
白髪だらけの髪。痩せこけた頬。
まるで老人のようですが、実年齢は30代半ば。
激務と、王国を魔王に侵され続けた心労に、髪こそ白くなってはいますが・・・
鋭い容貌と、眼光は健在。
バーシー・ブレロッケ王。まさに、その御方でした。
「・・・イマック侯爵。よくここがわかったな?」
「なあに。監禁するなら閂のある部屋であろうと、目星を付けたまで」
侯爵は、ニタニタと笑いながら、バーシー王に近付きました。
抜き身の剣を右手に。
もう1刀、鞘に入ったままの剣を、左手に。
「ほう・・・?」
「さ、剣を」
疑惑の侯爵は。
剣を床に置きました。
そして、鞘に入った剣を、両手で、バーシー王に差し出しました。
「おお。使わせてもらおう」
バーシー王は、剣を鞘ごと受け取って、拝むようにして・・・
「・・・・・・・・・。」
何事か、ブツブツと唱えました。
そして。
「ふむ。よかろう」と、鞘を腰に持って、歩き始めました。「皆は無事か?」
「は? はい」
イマック侯爵は、その鞘を見ながら答えました。
その額から、汗がタラリと流れ落ちます。
「王妃殿下も王女殿下も、王宮に・・・」
「そうか。では、とっとと脱出しようではないか」
食料庫は、離宮の奥にありました。
そこから脱出するルートは2つ。
裏口にゆくか、玄関にゆくかです。
イマック侯爵は、玄関にバーシー王を誘導しました。
死体兵が満載の玄関に、です。
・・・さて、困ったぞ?
どうやらイマック侯爵は、バーシー王を罠にハメるつもりらしい。
しかし、仔にゃーリア1匹で、何ができるというのでしょう?
バーシー王は御健在。ただし、ちょっとフラフラしている。
剣を持ってはいるものの、鎧も兜も着けてません。
陛下の前を歩くのは、イマック侯爵。
鎧兜に、抜き身の剣。また、盾も装着しました。
陛下の後ろには、イマックの戦士が2人。
装備は侯爵と同じ感じ。
なお、陛下も含め、全員間違いなく人間です。死体兵とかではない。これは匂いでわかる。
で、私。仔にゃーリア。
素手。鎧ナシ。
気付かれてはいない。が、不意打ちしても、1人も倒せそうにない。
そもそも、鎧着てる男を倒すような筋力がありません。
迂闊に攻撃して、バーシー王を人質に取られても困るし・・・
一行は玄関に向かっています。
このままだと、死体兵の群れの中に陛下が誘導されることに・・・
アカン。どうしたらいいかわからん。
ただ、玄関まで行ってしまったら救出至難になることだけはわかる。
・・・しゃーない。出よ。
私は飛び出しました。
イマックの戦士の脇を駆け抜け、侯爵の前に出ます。
「なっ!? 何者」侯爵の叫び声が背後でしました。
「化けネコです!」戦士の声も。
「ふむ?」バーシー王のお声もです。
私は声を背後に、廊下を突っ走りました。
どかーん! 音を立てて突き当たりの扉を開きます。
そこは小さな部屋でした。向こう側にもうひとつ扉がある。たぶん玄関に通じる扉ですな。
室内には、死体兵が2人、あっち向いて立ってました。
「ニャッキー!」
私は、死体兵の膝を蹴り飛ばして、逃げました。
膝カックン後ろ蹴りです。通じた技は何回でも使うよ!
1体は転倒。1体が私を追いかけて来ます。
私は、侯爵と陛下のところまで駆け戻って・・・
「陛下! 危ニャいニャ!」
と陛下に警告しておいて、壁に向かってジャンプ!
前足(手ですが)で壁に着地(着壁?)、後ろ足で再度ジャンプ。三角飛び!
空中でクルッと身を翻して反対の壁に四つ足で着壁、三度ジャンプ。ダブル三角飛び!!
イマック戦士どもの頭を飛び越して、背後に着地、膝カックン蹴り!
「ぬおっ!?」
がちゃーん!
イマック戦士A転倒。
「化けネコめが!」イマック戦士Bの攻撃!
「ニ゛ャッ!」仔にゃーリアは回避した!
逃げます。
イマック戦士は私を追いかけ、ちょっと陛下から離れました。
そこに、死体兵が近付いてきました。
侯爵は・・・
「へ、陛下! 死体兵ですぞ! ええと――そう、その化けネコが連れて来たに違いありませぬ!」
「ふむ」
「これはいけません。切り抜けるしかないようですぞ!」
イマック侯爵が盾を構え、陛下のところまで戻りつつ、叫びますと・・・
「ふむ。ではシロクナー。そちの剣を貸せ」
「は?」
「気付かぬと思うたか?」
「・・・何にです?」シロクナーは、汗をタラリと垂らしました。
「この剣。柄に毒を塗ってあるな?」
バーシー王は、侯爵に渡された剣を、突き出しました。
侯爵が差し出すときに触っていた部分だけを握って。
柄には、指一本触れずに。
「な・・・なにを根拠に、そのような・・・!?」
「閣下!」
とうとう死体兵が近接しました。
イマック戦士A・Bが前に出て、防ぎます。
「へ、陛下! 敵ですぞ。どうか御身をお守り下され!」
疑惑の侯爵・シロクナーは、叫びました。
ほぼ絶叫です。声が裏返ってます。
怪しすぎだろオマエ。やるなら覚悟決めてやらんかい。
バーシー王も、ため息をつきました。
「シロクナー。わしは、かの魔術王シーツァーオーの曾孫ぞ?」
「・・・。」
「『危難の露見』で確認した。先ほど、貴様が剣を渡してきたときにな」
「な、何の事やら・・・」
「ならば、握って見せよ。頬ずりするでもよいぞ」
剣の柄を突き付けます。
「ひいいっ!」シロクナーは、後じさりました。
「誰にそそのかされた?」
「・・・。」
シロクナーは、逃げました。
戦士と死体兵のほうに走って・・・
「イマック侯爵、こッ、ここにあり! 『バーシーを殺せ、アヤツリアの下僕ども!』」
と、正体を露にしました。
「そうか」
バーシー王は、鞘を逆さまにしました。
剣が滑り出て床に落ちます。分厚い絨毯に柄が触れると、絨毯が黒く変色しました。
「アヤツリア。そなた、真人間には、なれなんだか・・・」
イマック侯爵が逃げます。戦士2人もです。
死体兵は、彼らを通過させて、陛下に襲いかかってきました。
バーシー王は、鞘で受けました。刃が食い込んで、鞘にヒビが入ります。
「ハハハ! 馬鹿め!」
シロクナーは、死体兵の向こうで高笑い。
壁の凹みからロウソクを取り外しました。
「死んでもらうぞ、バーシー! そして、王都は私が頂く!」
「・・・。」
バーシー王は死体兵の攻撃を受けます。
鞘は真っ二つになりました。もはや、受けにも攻めにも使えません。
「陛下」
私は、火掻き棒を投げました。
暖炉に置いてあるヤツね? ズッシリと重い鉄の棒です。
「にゃんこ!」陛下は棒を受け取り、攻撃を弾きました。「そなた、誰じゃ?」
「ニ゛ャンニ゛ェイニ゛ュニョ、フにゃーリアでミュ」
言いづれぇ! フターリアの故郷言いづれぇ!!!
「・・・なるほどわかった」陛下はわかってくれました。「よく来てくれた、フターリア」
「ニャ!」
「ハハハ、頑張れ、頑張れ! いずれにせよ、ここで死ぬ運命だがな!」
シロクナーが、ロウソクで絨毯を炙ります。
火が、燃え移りました。
絨毯はあっという間に燎原に変容しました。火が、私たちに迫ってきます。
「娘は私がもらってやる。妾にして、鎖で貴様の墓に繋いでやろう!」
シロクナーは笑いました。
「妃は、貴様に連れ添わせてやる。感謝しろよ!」
「・・・下がるぞ」とバーシー王。「まずは裏口から抜け出して――」
「ダメニェす」
私は陛下をお止めしました。
館の奥から、ガイコツが。
ガチャリ、ガチャリと鎧を鳴らして。
1人、2人、345、678910・・・!
到底防ぎきれぬほどの一団となって、押し寄せて来るのです!
「そうか。当然、逃げ道は塞いであるか」
「死体多すぎニャ!」
「安全な方向はわかるか?」
「階段ニャ!」
私は、足音や振動の少ない方へ、陛下を導きました。
螺旋階段に・・・
上に・・・
ひとまず、ユリを残してきた部屋に向かいます。
・・・あれ? ユリいない。
窓を見ると、縄がぶら下がったままになっていました。
どうやら、ユリは脱出したようです。
「縄で降りるか・・・」
バーシー王が窓を覗いた、その瞬間。
ボウン!!!
爆発音がして、窓の外が炎でいっぱいになりました。
「むう! こりゃいかん」
下の階の窓ガラスが割れて、火が外壁に回ったのです。
壁そのものは石なので、燃えるわけではありませんが・・・
「ダメじゃ。ロープも燃えておるし、下には髑髏弓兵が待っておるし」
「敵来ミャす!」
右から足音。螺旋階段を、死体兵と髑髏浪人が登ってくる音です。
「逃げるぞ」
「ニョこに!?」
「たしか・・・この部屋じゃ!」
今度はバーシー王が私を導きました。
何部屋か先の、暖炉の中へ。
なんと。
暖炉の煙突内に、小さな把手がついている!
「秘ミュニュのハシゴニェすニェ!」
「いや、秘密ではない。タダの煙突掃除用のハシゴじゃ」
「なんニャ」
「わしが通れるのが、この煙突ぐらいでのう」
・・・アンタこんなトコ通ったんかい。
「ま、アヤツリアと2人、酔っ払って悪ノリしてな・・・さ、ゆけ!」
「ニャ!」
私はさっさと登って、屋上に出ました。
安全確認。屋上に、敵は・・・
「・・・いミャすニャ」
「案ずるな。武器があり、火がなければ、どうとでもなる」
バーシー王。
狭い煙突に身体をぶつけながら登ってきます。
その手にあるのは、火掻き棒です。
屋上に出て。
棒を、大上段に構えて。
ジワリジワリと、螺旋階段に向かいます。
「・・・ニャい丈夫ニェすか?」
私は、ちょっと心配しました。
死体兵も髑髏浪人も、ユリが苦戦する敵なんだけど・・・
敵が登ってきました。
バーシー王は、
「ちぇすとぉぉァァア!!!」
ドガァ!!!
髑髏浪人を、受けた剣もろとも、グシャッと砕いてしまいました。
「強いニャ!?」
「当然じゃ!」
バーシー王は、敵の剣を奪いました。
「ガイコツが恐くて魔王と戦えるか! キェェェェア!!!」
髑髏浪人を1体。
死体兵を1体。そしてまた1体。
まことに見事な剣技で、バーシー王は敵の死体(元々死体ですが)を重ねてゆきます。
が。
ガチャリ・・・
ガチャリ・・・
螺旋階段からは、次から次に、髑髏浪人と死体兵が現れ・・・
メラメラ。ゴウゴウ。メラメラメラ・・・
壁からは炎が噴き上がり・・・
「ニ゛ャーーー! シャツ燃えニャ!」
私は、シャツを燃やされて、ぶかぶかのブラジャーにタイツ(しかも半ケツ)という姿になり。
「ぬう! これはたまらん」
バーシー王も、螺旋階段から噴き上げる熱気に、後退せざるを得ず。
ついに、私たちは、屋上の端っこに追い詰められました。
前にはアンデッド。
右と左には咆え猛る火。
そして背後は中空です。
地上まで、少なく見ても、5尋はある(身長の5倍ぶんね)。
仔ネコ娘の私なら、死にはしないでしょう。足を折ったら、中庭のガイコツ弓兵の餌食ですが。
バーシー王は・・・。
「フターリア。そなただけでも、逃げ延びよ」
「そんニャ」
「娘を頼む。ネムリタを・・・シロクナーから守り、魔物どもから守ってやってくれい!」
バーシー王は。
私に、愛娘のことを託して。
最期の戦いに、挑まんとしました・・・
「陛下ぁーーー!!!」
◆♀◆ 21、シロクナーの最期 ◆♀◆
その頃。離宮の玄関では。
「まずはこうじゃ。『道を開けよ、アヤツリアの下僕ども』!
そしてこうじゃ。『イクサーを殺せ、アヤツリアの下僕ども!』」
・・・呪文を唱えながら、シロクナーが姿を現したところでした。
開いた扉から、死体兵が出撃します。
司厨長イクサーが、これを迎え撃ちました。
「反逆の首謀者じゃ! 捕らえーーーぃ! 殺しても構わぬ!」
戦士たちは、ふたたび死体兵と激突しました。
しかし、厳しい。
こちらは負傷者が多く、燃える離宮からは熱風が吹きつけてきます。
庭のあちこちからガイコツが出てきて、矢を浴びせてきます。
司厨長イクサーは、またしても矢を浴び、体力を削られ、動きを制限されます。
「おのれ・・・おのれ・・・ぃ!!!」
「ハッハッハ! 『臆病侯爵』と罵られ、耐えてきた日々・・・ここに、報われたぞ!」
シロクナーは勝ち誇り、中庭を西のほうへと逃げてゆきます。
西。王家の霊廟のある方向です。
「アヤツリア!」
シロクナーは叫びました。
「我が愛しの姫君よ! ついに、御身と添い遂げる日がやってきた!」
そんな彼に・・・
「アヤツリアは死にましたよ、閣下」
暗闇から現れたユリが、そう告げました。
「・・・は?」
「 死 霊 使 い のアヤツリアは、自滅した」
ユリは、剣にもたれかかっていました。
実際、立ってるのがやっとの状態だったらしい。
よく出てきたな・・・ってか、よく離宮から脱出できたよね。
「降服しろ。シロクナー」
ユリは命じました。
「アヤツリアは終わった。彼女の企みも、人生も。二度と戻らぬ。もう、おしまいだ」
「 。」
シロクナーは、ユリの顔を見て、しばし沈黙したあと・・・
「うっ・・・うおおおおおッ!!!」
ヒョロヒョロの身体で剣を振り上げて、襲いかかりました。
「撃て」
ユリが命じました。
彼女の背後の暗闇で、弓の音。
トントントン、と、矢がシロクナーに突き刺さりました。
「おっ・・・!」
シロクナーは。
喉と腹に矢を喰らいながら、なおも数歩、ユリに迫りました。
彼を止めたのは・・・
「此は烈火、」
ユリの右隣に現れた、マレーナのクロスボウでした。
黄金の象嵌入りのクロスボウから、粘土玉を放ちます。
その玉は、シロクナーの胸に命中して・・・
「――焼き討て」
・・・火を噴き上げて、反逆の侯爵を包みました。
シロクナーは倒れ、雪を少し掻いてから、息絶えました。
ユリは、マレーナに支えられて、司厨長に合流しました。
「勇者よ! 陛下はどこじゃ!?」
「私にもわかりませぬ」とユリ。
「敵を片付けましょう」と言ったのは、マレーナです。「呪文の許可を」
「わかった。やってくれ」
苦戦に苦戦を重ねた司厨長。
マレーナ姉さんの『焼き討て』の火力で、ようやく、勝利をもぎ取りました。
最後は、御本人が、左手一本で死体兵を唐竹割りにして。
ついに・・・掃討完了です!
「陛下ぁーーー!!!」
仔にゃーリアの絶叫が聞こえてきたのは、まさに、その時でした。
「上だ!」
「陛下ぁーーーぁ!!!」
イクサーは、バカみたいな大声で叫びました。
「1階ぁーぃ、勝利いたしましたぞーーーぉ!!!」
しばらくして。
屋上に、小っちゃいニャンコの顔が覗きました。
「ニュリ!」
「リアっ! ・・・げほげほっ。こっちに来い!」
「軍旗を持てーーーぃ! 陛下を受け止めぇーーーる!!」
「お・・・おお!」
◆♀◆ 22、バーシー王とフターリア、軍旗に包まれる ◆♀◆
「陛下こっちニャ!」
はい、仔にゃーリアです。
決死の突撃をしようとした陛下に抱きつき、屋上の端っこに引っ張り中です。
「ぬおっ! 危ない。下がれ!」
「逃げるニャ! ニュリが、こっちって!」
「なんと!?」
私と陛下は、もう一度、屋上の端っこまで移動しました。
足の速い髑髏浪人が追ってきます。私が回り込んで、後ろ蹴り膝カックン。陛下が仕留めました。
しかし、汗だくになった陛下。手を滑らせて、火かき棒を取り落としてしまいました! ファンブル!
拾おうとしたところに、別の髑髏浪人。私が慌てて横蹴り。陛下飛びのく。かろうじてかわした。そこに死体兵! 私はゴロッと転がって逃げました。
「ニ゛ャー!!! 熱っついニャア!!!」
床は、まるでホットプレート。
焼け石です。
ニャンコの丸焼きになってしまいそうです。
「しっかりせよ」
陛下が抱き起こしてくれました。
ブラジャーがすっぽ抜けました。私はとっさにキャッチしました。
愛着あるブラジャーだからな!
いや、複雑なんだけどね。元高校生男子としては。
・・・そうだよ。
俺、高校生男子だよ。
なんでブラジャー握り締めて離宮の屋上でアンデッドと戦闘してんの?
帰りたい。帰して?
「ばぁーーーしぃーーー!!!」
司厨長イクサーの声がしました。
下を見ると、前庭に、旗を広げる戦士たちの姿が。
軍旗を、みんなで持って、広げてくれてるのです。
・・・そこに飛べと?
「軍旗に包まれよとは、面白い趣向じゃ!」
バーシーは私を抱き締めました。
ジャンプ。
「風よ変容せよ! 渦を巻いて、受け止めよ! ――『つむじ風』!」
ユリが叫んで。
私たちの身体は、軍旗の中央に、命中しました。
・・・正確には、バーシー王が軍旗に落ちて。
私は、バーシー王のお腹に落ちました。
「ぐぼあ!!!」
・・・あのね。
ぶっちゃけて言えば、放してくれたほうが良かったんですわ。
私、仔にゃーリアだったのでね?
着地できたと思うんですよ。『つむじ風』があれば・・・
「へ、陛下!?」
私は飛び起きました。
軍旗に包まれたまま、あわてて陛下のお顔を支え、呼びかけます。
「お気を確かに。陛下! 陛下!!」
「う・・・ぐ・・・ぐ・・・」
陛下は、悶絶。
脂汗を流し、口も利けぬ御様子。
軍旗が開かれました。
「ば・・・バーシーさまぁっ・・・!!」
ユリが、女のコみたいな悲鳴を上げて、バーシーに飛びつきました。
あれ? ユリ、おまえ、もしかして・・・?
「陛下!」「バーシーさま!?」「従弟よ、しっかいせい!」
みなに呼びかけられて・・・
「お・・・う・・・」
バーシー王は、汗まみれのまぶたを、開きました。
「よく見えぬ。ニャンコ・・・無事か・・・?」
「私は無事です。陛下のお陰で!」
「おお・・・!」
バーシー王は、手を伸ばし・・・
フターリアのデカパイを、むにゅっ! と、掴みました。
あれ?
「おおう・・・?」
「・・・。」ユリが、私を見ます。
「・・・。」私も、ユリを見ました。
それから、自分を見ました。
パンティ一丁の、デカパイ美少女ボディが、そこにありました。
あれ? 元に戻ってる。
フターリアですわこのボディ。
パンティ一枚でバーシー王のお腹にまたがってる。乳揉まれながら。
やられた。
男は絶対イヤだと思ってたのに。
よりによって、国王陛下に乳揉まれてしもーた。
「・・・おい」ユリが、男みたいな声で、私に言いました。「とっととどけや・・・」
「・・・おう」
私は、立ち上がりました。
ユリは・・・
そこで限界だったようです(MP的に)。
ぶっ倒れました。
バーシー王の股間に。
オマエな。私に言っといてな。
ユリを起こそうとした私。
ぶるぅん・・・。
「っとォ!?」
バランスを崩しました。
乳のせいです。突然デカパイに戻ったから。ブラ外れてるし。
なんとか立ち直りましたが。
たぷんたぷん・・・!
周囲の戦士たちの視線が、一斉に、白いおっぱいに集まりました。
「いや~ん♥」
乳首を隠してクネる私を、マレーナ姉さんが軍旗で包んでくれました・・・。
軍旗に仰向けに寝かされたバーシー王。
戦士たちの手で運ばれてゆきます。
王宮が見えてきました。
高貴な人々の一団が駆け寄って来ます。
「陛下!」王妃殿下が。
「お父さま!?」王女殿下が。
軍旗に横たわった陛下に駆け寄り、雪の中に膝をつきました。
「おお! あなた。まさか、まさか!?」
「パパ!? 目を開けて。いやです、目を開けて!」
「・・・。」
バーシー王は、目を開けました。
そして、こう仰いました。
「ゆするな・・・」
「え?」
「ギックリ腰じゃ。揺すらんでくれ・・・!」
◆♀◆ 23、一方、お嬢さまは ◆♀◆
なんとか危機を乗り切った私たち。
イクサー閣下の戦士、6人に護衛されて、王家の墓に舞い戻りました。
・・・あ、ユリはブッ倒れたんで置いてきました。ハイ。
長い廊下を抜けて、シーツァーオー陛下の霊廟にたどり着きます。
戦士たちが階段を駆け下り、地面に武器を置いて、跪きました。
私とマレーナ姉さんも、それに倣います。
<立つがよい、ブレロッケ王家の救い主よ。そなたの主人を、抱いておやり>
高貴なるガイコツ、シーツァーオー陛下はそう言って、自分の膝を指しました。
その膝に、乗っていたのは。
すー、すー・・・。
寝息を立てる、ハーフエルフの女の子。
テニッサメイズお嬢さまが、シーツァーオー陛下に膝枕してもらって、眠っていたのです。
お嬢さま・・・あんたホンマに豪胆やな・・・。
ってか、大腿骨やぞアンタが枕にしてんの・・・。
<途中まで起きとったんじゃがな。限界を迎えたようでのう>
「とんだ御無礼を・・・」
<やめんか。わしが嫌がっとらんのは、見ればわかるじゃろ?>
ガイコツ陛下は、肩をすくめました。
それから、
<・・・おっと、表情がわからんのじゃったな! ワッハッハ>
などと、おどけました。
「ハハハw」私は笑いました。
背後の戦士たち、マレーナ姉さんが『ひぇぇ』と息を呑んでいるのがわかりましたが。
ここは、そういう空気は読まずにいきます。陛下、しゃべりたがってるっぽいしね。
「膝枕ありがとうございます。よく寝てますね」
<うむ。骨を枕に寝るとはのうw>
「まったくですわw」
などと、会話しているあいだに。
戦士のうち3人が、アヤツリアを護送してゆきました。
一言も発さず、私に飛びかかろうとする、抜け殻のアヤツリア・・・。
私が彼女を見たのは、これが最後でした。
戦士の残り3人は、私たちの護衛ってコトで、その場に残ってくれました。
シーツァーオー陛下に言葉をかけられて、感激していました。よかったね。
お嬢さまは、アレです。MP切れ。
アヤツリアの側に置いてくなんて、とんでもない! とは思ったんですが。
シーツァーオー陛下が<わしが守ってやる>と言って下さって。
母上の話をしていたのですが、すぐに眠ってしまったとか。
<・・・豪胆なところは、ほんに、母親譲りじゃ>
「母上のこと、御存知で?」
<イヤというほどな!>
ガイコツ陛下は、ケタケタと笑いました。
<ティニーモノーシャ姫――ニーシャは、わしの姉弟子じゃ。
わしは、初めは王になる予定ではなくてな。魔術師に弟子入りしたんじゃ。
そこで出会ったのが、ニーシャの姉貴よ。
初めは、ずいぶん振り回されたもんじゃ。
このクソエルフめ、死んでしまえ! ぐらいに思っとったがな。
人生終わってみれば、最高の姉弟子じゃったわい・・・>
「そうですか・・・」
<この子をよろしくな。フターリア姫。そして、そなた自身も、幸せになりますように>
「陛下・・・!」
私は、眠っているお嬢さまを抱いて、お辞儀をしました。
「きっと、そうなってみせましょう」
<うむ>
シーツァーオー陛下は、ズズズ・・・と、穴の中に降りてゆきます。
<そろそろ時間切れじゃ。ほじゃの>
「お元気で。・・・お元気で?」
<体調は安定しとるぞ、わしゃァ。ふははは・・・>
ガイコツ陛下は、笑いながら墓に戻り。
墓碑は、ひとりでにスライドして、元の位置に収まりました。
アヤツリアが解いた封印は、ふたたび封じられて。
死者を、静かに眠らせることになったのです。