※この作品はR-18です。

TSゆりフタ令嬢侍女メイド!   作:min(みならい)R18

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若殿がんばる ◇ 姫しっと

◆♀◆ 18、ナータがんばる ◆♀◆

 

 ぱか、ぽこ、ぱか。

 フターリアです。お嬢さまとタンデム中です。

 黄色の馬、我らがベロ~ン君の足取りは、優しく正確です。

 とても心地よく・・・

 つい、ウトウトと・・・

 

「眠ぅ・・・」

「重たいんだけど!」

 おっと。いかん。

 乳をお嬢さまに乗っけてしまった。

 ここは素直に謝っておきましょう。いまは旅行中。人の目もあることですしね。

「失礼、つい・・・昨日誰かさんのせいであまり眠れなくて」

「素直に謝れないの?」

「眠いとイライラするモンでしょう」

「子供ね」

「・・・。」私は無言で乳を押し付けました。

「つぶれる!」

 こうして2人で遊んでおりますと・・・

「代わりましょうか? テニスお嬢さま!」

 私たちの足元から、元気な声がしました。

 自分を指差しながらベロ~ン君の横腹に近付いてきたのは・・・

 

「フターリアさまの侍女として、重荷を背負うのも、仕事のうちですから!」

 

 ・・・黒髪の侍女、ナータちゃんです。

 地味な紺色のドレスを着て、せっかくの美しい髪を飾りもなく束ねて。

 でも、そのキラキラした眼は魅力でいっぱい。

 私の侍女を装っていても、高貴なオーラは隠せない。

 その正体は、誰あろう──ブレロッケ王国の王女殿下、ネムリタロッカ姫ですわ!

 

「天よ照覧あれ」私は祈るフリをしました。「気高き姫に、よき報いのあらんことを」

「おおげさですわ! テニスさま、いかがです?」

「ぐぇ・・・」テニスさまは、乳の重みで前屈状態。発言が不明瞭です。

「そうですね」私が代わりに答えました。「では、私が降りますから、ナータが」

「いえ、主人を歩かせて、私が馬に乗るなんてできませんわ!」

「おお! すべての侍女の鑑よ」

 私は祈るフリをしてから、ナータちゃんに顔を近付けて、

「・・・あの、本当にどうぞ、殿下」

「・・・ちゃい!」姫はちょっと怒りました。「お忍び中に正体を言わない!」

「へい」

 ということで、冷や汗かきつつ(王女の護衛に睨まれてる・・・)そのまま進みました。

 

 ショーシナー伯爵領を出て・・・

 麝香橋を渡って、ダンゼイズ伯爵領へ。

 坂道を登って・・・

 枝道に折れて、峠に差しかかったところで・・・

 

「ここで休憩にしよう!」

 アスカリア伯爵(ユリね)の号令がかかりました。

 すると、ナータちゃんがヨタヨタと、木の根元にしゃがみ込んでしまいました。

「あらら! 姫。大丈夫ですか?」

 急いで飛び降りて、野営用のゴザを敷いて、彼女を座らせ、ブーツを脱がせます。

「いけませんわ。主人がそんなことをしては」

「大丈夫ですって。私の主人も、脱がすの好きですからw」

「あなたは私を辱めるのが好きよね」テニスお嬢さまが、ナータの隣に座りました。

「いけませんわ! 主従揃って」ナータは赤くなりました。

「大丈夫?」

「ええ・・・」

「あー、マメができてますな。あ、どうも。よろしく」

 下女が来たので、私は場所を譲りました。

 王女に仕える、下足の下女ですな。1人がマッサージを始め、もう1人はブーツを磨き始めました。

 

 ・・・下足の下女ってのは、アレです。足に触る担当の下女。

 侍女は足の世話はしないです。ふつうはね。

 私は1人でお嬢さまの身の回り全般やってたんで、靴磨いたりもしてましたが。

 ブレロッケには高品質の石鹸がないんで、あんまよくないんですわ。

 

 王女殿下は、私のフターリア砲握ってましたけどね・・・

 

「恥ずかしいことですわ」

 王女が、うつむきました。

「・・・なにがです?」

「この足です」

 白くてほっそりした足を、私に見せてきます。

「綺麗なおみ足じゃないですか」

「いくら鍛えても、皆さんについていけないのです」

「若いから、肌が柔らかいだけですよ」

「ちがうのです・・・」

 

 王女は、マッサージが済むまでは、それ以上は言いませんでした。

 けれども、ブーツをはかせた下女が立ち去ると、私を見上げて、

 

「・・・皆さんに、追いつきたい。失ったものを、取り返したいのです」

 と、小さな声で訴えました。

「失ったもの?」

「眠りの城で。魔王との戦いが終わったことも知らずに」

 

 王女は、アスカリア伯爵を見ました。

 マントの背中。剣と杖と星と樹が──アスカリアの紋章が、穏やかな風に揺れています。

 

「?」ユリがこっちを振り向きました。

「失礼。なんでもありませんわ」

「・・・。」あっち向きました。

 視線に気付くとか、ネコみたいなヤツだな。

「私たちも、魔王との戦いのこと、なんにも知らないわよね」と、テニスお嬢さま。

「ですなー」

「そういうことではなく・・・」

「ま、大丈夫ですよ」

 私は、手を差し出しました。

「あなたは優秀ですって。コノマーズの乱でも立派でしたし、剣も使えるし、頭もいいし・・・」

「・・・。」

「たぶん、周りが優秀すぎるだけですよ。ツクノーさまとか、ユリさまとか」

「そうですね・・・」王女は私を見つめました。

「ま! 午後は無理せず、テニスさまと楽しく御騎行ください!」

 

 王女は、私の手を取って、立ち上がりました。

 手にもマメがいっぱいできてんな。かわいそうに。

 ・・・ってか、私の手より硬いな。

 あれ? 握力も結構強いぞ?

 あれれ? フターリアより力強くない? この子。

 

「ふふw」ナータは笑いました。「では、ベロ~ン君に乗せてもらいますね」

「う、うん。頼むぜ、ベロ~ン」

 ベロ~ン♥ 彼はウィンクしてくれました。

 

◆♀◆ 19、カクレミ着 ◆♀◆

 

 峠を下ります。

 道は、森の中を抜け、崖沿いに出たかと思うと、また森に突っ込みます。

 ハードな感じ。ラリーのコースみたい。

 森の中に、チラホラと、深緑川の輝きが見えました。

 大河・深緑川も、このあたりではまだ幅が狭い。

 北から流れてくる冷たい水は、私たちと同じように、森のトンネルをくぐって流れてます。

 その川に、だいぶ近付いたところで・・・

 不意に、村が現れました。

 カクレミ村です。

 

 そこは、川舟の宿場村。

 深緑川に桟橋を突き出して船を誘い、宿で休ませて、金を頂く。

 宿場から坂道を登ると、村長たちが暮らす大きめの邸宅と段々畑。

 そこから崖沿いの細道を登って来たところが、いま、私たちのいるとこです。

 

「ブヒ・・・」

 ベロ~ン君が『行きたくねぇ・・・』みたいな声を出しました。

「危ない思いをしたものね」

「心配すんな。もう骸骨はいねぇよ」

 テニスお嬢さまと私がなだめて、歩かせます。

 

 村に着きました。

 今回は、平和そのもの。

 村長さんたちが飛び出して、歓迎してくれました。

 交渉もしてないのに、宿を準備してくれ、食事や酒を出してくれ・・・

 

「すごい歓迎ぶりだね?」モリーヌに訊いてみると、

「アイメンカ侯爵から謝礼が出たようですよ」

「え?」

「髑髏魔人の侵入を防いだ、というので」

「俺はビタ一文もらっとらんのだが・・・?」

「私もだよ」

「ユリ」

 酒の入ったユリが、私の肩に手をかけてきました。

「どういうコトかな? って、それとなく手紙で匂わせといた」

「それでこの歓迎か」

「だろうな」

「なんか、やだな」私は、ため息が出ました。「見返り欲しくて助けたんじゃないのによ」

「そうなのよね・・・」

「マリ姉さん」

 酒の入ったマレーナ姉さんが、ユリの腕に掴まりに来ました。

「私たちだって、敵の動きは見えないんだから」

「ホントにな」とユリ。「なぜか遭遇するんだよ」

「そういう才能でもあるんじゃないのw」

「あってたまるか、そんな才能」

 と言っていたユリでしたが・・・

 

 日が沈む前にだいぶ呑み喰いした私は、明るいうちにと、少し散歩をしました。

 モリーヌを連れて。

 村のおばちゃんに案内してもらって。

 

「私の夫は、漁師のまとめ役をやっとりますじゃ」

「ほほう。今日も、おいしい白身魚がいっぱい出てましたね」

「あー、ありゃぁ、川ナマズですじゃ! お気に召しましたか」

「ええ」

「ほじゃ、明日もお出しせんとねぇ」

 

 その漁師たちの桟橋を見下ろす高台に連れてってくれました。

 

「右手が、ウチの宿六どもの使う桟橋じゃがね。左手の川港より狭いですじゃろう?」

「ホントね。舟が小さいから?」

「ええ。それに、慣れとりますけぇ」

「狭くても出し入れできるんじゃな?」

「そうですじゃ! 流れがありますけぇ・・・たまに、海から来たのが、ゴーンとやったりしよんじゃ」

「桟橋にね? ぶつけちゃうんだ」

「ええ、ええ」

 

 と、しゃべっておりますと・・・

 

「姫。あそこ」

 と、モリーヌが言いました。

 指差す方を見ると・・・

 

 川面に、黒い影がみえました。

 

 水面下を、流れと共に下ってくる・・・

 ヒルのような形の、黒い影・・・

 川下側の先端に、2つの白い突起が浮かんでます。

 ツノか?

 ・・・そのツノが、桟橋に立ってる男と同じぐらいのサイズだぞ!?

 

「ウソだろ。なんだありゃ。でっけぇ」

「ドロッグ・オロッシじゃ・・・!」

「ドロッグ・オロッシ」

「北の怪物じゃ」漁師のおかみさんは、低い声。「大丈夫。静かにしとりゃあ、何もして来んけぇ」

「いや・・・え? あれ、しょっちゅう流れてくんの?」

「ええ。モターズ領から──あ、失礼、アスカリア領じゃ。アスカリア領からね、春になるとね」

「毎年来てんの?」

「いえ、何年かに1回ですじゃ。毎年来られたら、漁師は廃業じゃ!」

 

 漁師が集まるのが見えました。手に銛や網を持ってますが・・・

 舟に乗ったりはせず、桟橋よりだいぶ離れたところに集まって、様子を見る構えです。

 

「旦那さん大丈夫?」

「いま私が行っても、邪魔になるだけじゃけぇ」

「・・・。」

 私は、おかみさんの背中をさすりながら、その怪物を眺めました。

 

 姿はよくわかりません。水面下だし、もう夕暮れ時だし・・・

 ただ、非常にデカいことだけは確かでした。

 髑髏大鬼(ドクロウキ)よりも全然デカい。

 

「1町近くあるんじゃないか?」

「ありますね」とモリーヌ。「幅が小舟ぐらいありますし・・・」

「西日がキツくてわからんな」

「見てきましょうか?」

「いけんいけん!」漁師のおかみさんが、あわてて止めてきました。「刺激したら暴れよるんじゃ」

「うん、やめとけ」と私。「フタゴンなら、飛んでみてもよかったけど」

「おやめください」

「それで、おかみさん。アレは、魚なの? ケモノ?」

「四つ足あるそうなが、」と、おかみさん。「なんじゃろね? わたしら、怪物とだけ伝えとりますじゃ」

「足あるのか・・・」

 超巨大ワニ?

 

「・・・もしかして、ハジンドータのドラゴンか?」

 

◆♀◆ 20、アレはなんだ? ◆♀◆

 

「ハジンドータのドラゴンは退治された。ヤツは別口だ」

 というのが、ユリの見解でした。

 

 川面の怪物。

 四半刻ほど深緑川を占有したのち、ゆっくりと回頭して、上流へ泳ぎ去りました。

 アスカリア北領へ、です。

 

 もう戻って来ないのを確認して、私とモリーヌはユリのところに戻りました。

 村長や王女、護衛たちと共に、すぐに会議です。

 

 村長によれば。

 おかみさんの情報が、ほぼすべてでした。

 付け加えるとしたら・・・

「漁師どもによれば、ヤツは目が弱いんじゃそうな」

「それで、音に反応するってワケか」

「さよう。ほじゃけ、静かにしとりゃあ、翌朝には泳ぎ去りますじゃ」

「では静かに寝るとしましょう」

 という結論で、会議は解散となりました。

 

 ええんか? そんな結論で・・・

 

「ダメだよ?」とユリ。「この村では何もしないってだけだ。さ、私たちだけで会議しよう」

「あの・・・」と王女。

「ええ、もちろん、どうぞ」

 

 ユリの部屋に王女を含めて集まり、再会議です。

 

「ドロッグ・オロッシというのは、北の沼地に棲むとされる伝説の怪物です」

 解説はマレーナ姉さんです。

「ただ、正体はよくわかりません」

「ドラゴンじゃないんだ?」と私。

「わからないわ。沼のドラゴンという人もいるし、沼のクジラだという人もいる」

「クジラ・・・」

 

 クジラが沼に棲むワケあるかよ。

 ・・・あ、でも、カワイルカってのもいたっけ?

 とか考えてたら、マレーナ姉さんの目がキラ~ンと光りました。

 

「リア、どう思う?」

「・・・。」ユリがその脇腹を突っつきました。

「え? ああ・・・」

 

 うん。いまは前世知識は披露しないよ。王女殿下がいらっしゃるし。

 そもそも、マレーナ姉さんに自慢するほどの知識、持ってないけど・・・。

 

 ま、適当に答えときます。黙ってたら王女が勘付きそうだし。

 

「そうですねぇ。フタゴンで飛ぼうかとは思いましたが」

「水の上を飛ぶのはやめたほうがいいわよ」とお嬢さま。

「だな。『変容』が切れたら、手も足も出なくなるぞ」とユリ。

「それもそうか。樹ターリアは?」

「樹ごと食べられるんじゃない?」

「『鉄身』も、限界はありますから」とモリーヌ。「呑み込まれたら窒息死ですよ」

「うむ」経験済みです。「──というワケで、閣下。私には何もできませんな」

「うむw」

「ごめんね。無理を言ったわ」

「いえ全然」

「殿下は、御意見おありですか?」

 ユリが訊ねました。

 王女殿下(侍女のコスプレ継続中)は、考え考え、答えました。

「そうですね・・・目が悪いので静かにしているのが安全、という理屈はわかるのですが・・・、」

「ええ」

「あの怪物に、育つ時間を与えてよいのか? という疑問もありますわ」

「1日も早く殺すべきだと?」

「わかりません。今夜戦うのは論外でしょう。しかし、将来は・・・」

 王女は眉を寄せました。

 

 「おとなしくしてくれる方に賭ける、というバクチは・・・

  支配者としては、したくありませんわ。

  賭け金が、他人様の生命だから。

  初めに死ぬのは、私ではないからです」

 

「同感ですな」

 ユリは、うなずきました。

 

◆♀◆ 21、ひめぇ~~~ ◆♀◆

 

 結局、私たちは無事に出発できました。

 夜に村が襲われることもなく・・・

 ま、結論を言ってしまえば。

 この村は、もうあの怪物に悩まされることはなかったのです。この村は、ね。

 

 さて。

 カクレミ村は寄り道だったワケですが、ここからもまた、寄り道です。

 北に向かわず、東に進む。

 岩山を、延々と登って・・・

 

 ずーーーーー・・・っと、登りなので

 さすがに王女が気を遣って、私も馬に乗ることになりました。

 

 ベロ~ン♥

「きゃっ!」

 

 王女とタンデムです。

 ベロ~ン君がギョロ目で振り向いて顎ずらしてベロ~ンして、王女を脅してます。

 いや、面白がらせようとしたのか? でも恐がってるし。

「ハズしたな相棒」

「・・・。」相棒は下顎をだらーんと落としました。うつむく。耳垂れる。

「まあ」王女が笑いました。「ちょっとビックリしただけですわ」

 ベロ~ン♥

「きゃっ!」

 ・・・ベロ~ン♥

「きゃっw」

 

 この2人、しばらく同じことをくり返して遊んでました。

 

 昨日は通らなかった、私とのタンデムを成し遂げた王女殿下。

 きゃっ! のたびに私のデカパイに背中押し付けてきます。

 チラッチラッとこちらを見ながら、「キャッ♥」って。

 

 いや・・・

 あのな・・・

 スキンシップを求められてるのはわかってるし、バカにしたりもしないが・・・

 

 アンタに乳乗せるんはさすがに無理やぞ・・・

 

 私はニコニコと見守り、落っこちたりしないよう、お腹に手を回すだけに留めました。

 王女は不満そうな顔をしました。護衛には睨まれました。二律背反とはこのこと。

 

 なお、テニスお嬢さまは、王女の予備の馬に乗ってます。

 侯爵のお嬢さまですからね。歩かせるわけにいかん。

 ・・・まあ、私は王女殿下を歩かせたわけだが。

 

 よし。考えるのやめよっと。接待して誤魔化そ。

 

「山ばっかりでしょ? つまらなくないですか」

「いいえ!」と王女。「それより、侍女扱いしてくださいませ」

「え」

「摂待など、してほしくありませんわ」

「うぐっ」見抜かれとる・・・。

「面倒でしょうが、どうか、お忍びに御協力くださいませ」

「はい。ナータ」

「ご主人さま♥」王女が胸の中にもたれかかってきます。

「ハ・・・ハハハ・・・」護衛の睨みが私の背中に突き刺さります。

「でも、ホントに険しい地形ですね」

「ねぇ?」

「いい点はあるぜ」

 ユリが鹿毛を寄せてきました。

 この馬は、接近してもベロ~ン君大丈夫です。あんまり恐がらない。

 ユリもタンデム中で、後ろはマレーナ姉さんです。ユリにぴたーっとくっついてる。私には何も言わないけど、これ嫉妬してんな?

「いい点?」と、私。「この山山山岩森温泉! って土地に?」

「温泉はいいだろw いやそうじゃなくて、地形にね」

「坂道ばっかりで、足腰が鍛えられそうですわ」と王女。

「いきなり正解ですな。その通り!」

 ユリは前方の峠に手をかざしました。

「上り道は、つらいが、鍛錬になる。短い時間でしっかり力がつく」

「ユリも坂道で鍛錬したの?」

「やったぜ。ダーリンと競争で、山登りをね」

「・・・負けそうになると『駿馬』を使うのよ、この人」とマレーナ姉さん。

「負けず嫌いwww」

「なんだよ! 負けるの好きなヤツはいないだろ!」

「まあねw」

 

 そんな話をしているところに。

 

「姫ぇ~~~!!!」

「お、坂道で鍛えたおっさんたちが来たぞ」

 

 戦士の一隊がやってきました。

 盾を腕につけたまま、坂道を駆け登ってきよる。おかげで王女の護衛に緊張が走った。

 私は手で合図して彼らを止め、ベロ~ンから飛び降りて、坂を駆け下りました。

「よう! うるさいおじさんたち! 坂道で鍛錬か?」

 「おじさんじゃと!」「ちがいますわい」「姫ぇ~・・・。つれないですぞ」

「はいはい。出迎え御苦労!」

 「姫・・・」戦士たち、なんか、不満そうです。

「なんだよ」

 「ダンゼイズには、もう戻らんのですか?」

「戻って来ただろ?」

 私は、手を広げてやりました。

 しかし納得しない様子。

「なに? ・・・まさか、弟がまた何か?」

 「いえいえ」「あれ以来、頑張っとられますわい」

「そっか」

 「弟君ではなく・・・」「姫ですぞ、姫」

「俺がなにしたよ」

 「俺て」「いや、ほら・・・噂じゃが・・・」「おい。人が居るんじゃ!」

「ちょ、待て。なんの噂だ?」

 「いや、姫の去就の」

「去就」

 「アスカリアの侍になられたと」

「ああ。なんだ。それか」

 ヘンな言い方しやがって。スキャンダルかと思ったわ。

「なったぞ! あちらにいらっしゃるユリさまに認めて頂いてな。テニスお嬢さまの侍女と兼任だ」

 「はぁ・・・」「それは、まことに・・・」「おめでたいことで・・・」

「なんだよ。気持ち入ってねーな」

 「いや・・・」

「はいはい! 話は後! 高貴な方々がいらっしゃるんだ。とっとと先導してくれ」

 

「・・・弟君じゃが」

 戦士長が話しかけてきました。

 コノマーズの乱でも、お供してくれたオヤジさんです。

 私の前に座っている『侍女』には目をやらず、何も気付いてない風で話します。

「実際、よく頑張っておられますぞ。失敗を反省なさって」

「ほう?」

「背も伸びて、見栄えのええ若殿になられましてのう・・・」

「ほほう」

「まず、世継ぎとして不安のない成長ぶりですじゃ」

「そりゃよかった!」

 

 と、話していた時でした。

 ユリが前方に放っていた偵察が駆け戻って来たのは。

 

「前方で戦闘! ダマルト正門が、攻撃を受けている様子!」

 

◆♀◆ 22、若殿がんばる ◆♀◆

 

 眼下に、ダマルトの都。

 岩山に城壁を張り巡らせた、山城とも言える都です。

 峡谷を利用して攻撃方向を限定しているあたりは、コノマーズの都ウタールデントに似ています。バリスタはありませんが。

 ただ、正門前の空間が広く、そこに敵が集まりやすい欠点もありました。

 

 その正門前の平地に、赤い鬼が見えました。

 人間の何倍も背丈のある、巨人です。頭にツノがある。乱れ放題の髪がそのツノに絡んでます。

 巨大な手に、丸太を握って──片手で!──正門上の戦士に叩きつけます。

 危ねえ!

 戦士、かろうじて逃げた!

 しかし正門上がガラ空きになってしまった。

 赤鬼はそこに、つまみ上げた小鬼を放り投げました。

 人間投石!

 小鬼はクルクル回って城壁の上に落ち、すぐ立ち上がって門塔に侵入しようとします。門塔を奪取して、門を開けようって寸法だな。

 

「どうします? 姫」ユリが来ました。「大鬼(オーキ)どもは、我らに気付いていない。挟み撃ちにできますよ」

「そ・・・そうだな。じゃ、フタゴンにしてもらって・・・」

 

 その時でした。

 

 眼下、左手の谷間から、騎兵が駆け出して来ました。

 数は・・・30ぐらい?

 重装の騎兵です。鎧兜に身を包み、大型の盾を装着している。

 手に持つ武器は色々です。長い刀、短めの槍、そしてメイス。

 馬は重馬です。モリーヌの青鹿毛のようなゴツゴツした体格の、足の太い馬たちです。

 黒い馬鎧(革のバーディングですな)で顔と首をしっかり覆った馬は、なんというか、黒いタツノオトシゴって感じです。トゲトゲしくて。

 突進の音がすごい。

 ズドドド、ドロロ・・・! 30騎ほどなのに、地鳴りのように響いてきます。

 先頭の武者は、柄の長いメイスを振りかざしていました。

 大鬼が気付いて振り向いても、速度をゆるめません。そのまま突っ込む!

 大メイスをブン回して、鬼の膝の側面を痛打!

 ぐおーん・・・!

 泣き声を上げた鬼に、続く3騎が立て続けに刀を撃ち込みました。

 鬼はよろめいて城門に激突。味方小鬼の群れに倒れ込みました。

 ズシーーーン! ギャー・・・鬼どもは、大きいのも小さいのも、大混乱です。

 右往左往しながら、騎兵を叩こうとしますが・・・

 騎兵は速すぎ、鬼どもは密集しすぎで・・・

 振り向いた時には、もう騎兵は駆け抜けている。

 振り下ろそうとした武器の前には、味方が飛び出してくる!

 大鬼の1人が、丸太棍棒で小鬼を叩き潰してしまいました。

 鬼どもの士気が激減したのがわかった。士気のバーが一気に縮んだのが見えた気がするw

 

「バックアタックは恐いね」私が言うと、

「ドンガラはデカくても、隊列っちゅうモンがありませんからな、鬼どもめは」戦士長が胸を張りました。

 

 城壁に弓兵が現れました。

 侵入した小鬼は倒し終えた様子。並んで、つがえて、一斉に射撃!

 円陣を組んで騎兵に対抗しようとしていた鬼を、またしても側面から、矢で襲います。

 大鬼の1人が幕を広げました。・・・いや、あれは盾か?

 たぶん、クマの皮を繋ぎ合わせた皮幕でしょう。それで矢を防いでます。

 騎兵が飛び込んで、その大鬼のアキレス腱をカット。

 倒れる大鬼。ぺちゃんこになる小鬼。

 密集していたせいで、大鬼が1人倒れただけで大混乱です。飛んでくる矢も、当たる当たる。

 

「弓相手に密集しちゃダメだよなぁ・・・」

「単騎特攻して愛しの姫を救わないとね?」

 ユリがふざけました。

 テニスお嬢さまは ─(・_・)─ こうなりました。

「・・・ですが、騎兵が相手では、密集したくなりますでしょう?」これはナータちゃん。

「仰る通りじゃ」

「先ほどの突撃の狙いが、まさにそれですな」

 ユリは楽しそうです。

「当然の対応──というモノが、罠だったりするんですよ。生き物の戦いではね」

 

 ぐおお! ぐおお! 大鬼は泣き喚いて、逃げ出しました。

 きぃきぃ! 小鬼もあわててついてゆきます。

 逃げる鬼どもを、30騎が追いました。背中から斬りつけ、次々に倒してゆきます。

 先頭の武者が叫ぶのが、遠く聞こえました。

「ナンカヂーノ、ここにあり・・・! ダマルトを恐れよ、強盗ども・・・!」

 

「・・・どうやら、私たちの出番はなさそうだ」

「被害が少なそうで、何よりですわ」

「まことに!」

 笑うユリに、戦士長が話しかけました。「閣下・・・」

「なにかな?」

「はい。ひとまず、御紹介をば」

 そしてこう言いました。

 

「あの若武者こそ、ダンゼイズの若殿、ナンカヂーノさまでございます」

 

◆♀◆ 23、姫しっと ◆♀◆

 

「やあ、お客様がた! 見苦しいところをお見せしましたな!」

 汗に濡れた黒髪すら輝いて見える美少年──いや、青年?──が、私たちにあいさつをしました。

 

「・・・誰だオマエ」

「ひどいことを仰るwww」青年は笑いました。

「・・・。」

「・・・え? ホントに忘れたんか、姉上」

「背ェ伸びすぎだろ・・・」

 

 私の隣に並んだ若殿。ナンカヂーノ。

 まだ12歳のハズなんですが・・・

 なんか、馬に乗ってこちらを見下ろしてくる体格が、すでに私を抜いてるような・・・

 いや馬もデカいから(ベロ~ンがビビっとる。もう少し離せ)・・・

 いやいや、やっぱ、体格負けてる・・・!

 ウソだろ俺女にしてはかなり背ェ高ェのに・・・!!

 

「もうすぐ13歳じゃ! もう大人じゃわい!」

「その反応で安心したわ。まだ子供だな」

「なんじゃと・・・!」

「お見事でした」ユリがあいさつに来ました。

「ホントに、勇敢な戦いぶりでしたわ」テニスお嬢さまも。

 

「おお、勇者さま。それに、テニッサメイズさま、麗しの姫よ! よくぞおいでくださいました」

 

 ・・・おい。コイツ、俺のお嬢さまを口説きやがったぞ。

 

「まあ、お世辞がお上手ですのね!」

「とんでもない。みな、噂しておりますよ。ダンゼイズの長女は、光の女神にお仕えしている──とね!」

「女神だなんて、そんな。不敬ですわ。ねぇ?」

 └(・v・)┘

 爽やかな笑顔で、お嬢さまが私を見てきました。

「いえいえ、お嬢さまは私の太陽ですとも」

「またもう!」

「山道の長旅、さぞお疲れでしょう。すぐにお部屋を。おーい、姫を御案内いたせ!」

 

 下女に命令するナンカヂーノは、実際、もう若殿の風格です。

 

「では姉上、また後ほど!」

「あ、うん。ありがとう、ナンカヂーノ」

 

 おかしい・・・こんなハズでは・・・

 

「なに戸惑ってんだよ」

「あ、ユリ」

「弟クン、頑張ってるじゃないか。認めてやれよ」

「あ、それはもう・・・うん、認める!」

 私は腕を組んでうなずきました。

 反動で乳が揺れます。ユリはしっかり観察してました。

「・・・けどさ、半年で育ちすぎだろ」

「なにが」乳を見ながらユリ。

「前回は、生意気なだけのクソガキだったのにさぁ・・・」

「そんなモンだろ。若い子ほど、育つのが速いもんだ」

「なんだよ、子供たくさん育てたみたいに・・・あ、育ててるよな、オマエは。失礼しました」

「わかればいいさ」

「子育て経験豊富なユリおばちゃんに、私ごとき小娘が意見するなど・・・」

「・・・ハ?」

 ユリがうっすらチンピラオーラを纏ったところで。

「お嬢さま。リチャータが、御挨拶にと」

 本物の子育てのプロが、私に会いにやってきました。

 

「姫。おひさしぶりでございます」

「ばあや!」

 モリーヌが連れてきた、ふっくら太ったおばちゃんを。

 私は、引っ張るように抱き締めました。

 しばらく抱き合ったのち。

「・・・そちらの御方は?」と、ばあや。

「フターリアさまの侍女、ナータですわ」

 ナータちゃんが如才なく挨拶しました。

「一時的にですが。勉強をさせて頂いております。よろしくお願いいたします」

「これはこれは・・・高貴なお生まれの御様子。どうぞ、姫をよろしく・・・」

 ばあやは、私の表情からなんか気付いたみたいですが・・・

 ナータちゃんが先手を打ちました。

「リチャータというと、姫の乳母ですね?」

「ええ」

「テニスさまの乳母でもあると」

「ええ、光栄なことに」

「でしたら、私にとっても恩人ですわ。お二人には、とてもよくして頂いておりますので」

「まあまあ・・・」

 

 と、こんな感じで、私たちが話しているあいだに。

 

「ハハハ・・・!」

「キャッキャッ♥」

 

 弟とテニスお嬢さまは、手を組んで場内を歩くほど、親密になっておりました。

 

「ナンカヂーノ・・・認めん。認めんぞ! コロス!」

「テニスのことになるとホントにダメだな、オマエは」

 

◆♀◆ 24、父母に報告 ◆♀◆

 

 ダンゼイズには数日滞在しました。

 モリーヌの両親に会いに行ったり、運んできた土産の品々を渡したりと、時間がかかったからです。

 

 なかでも時間がかかったのは、両親との会談でした。

 

「フターリアよ。大丈夫なのか? 殿下を侍女にするとは・・・」

「まあ、ユリさまが認めたことですし」

 初めは、父も私も、抑えた感じだったのが・・・

 

「全然話が違うではないか!」

「なにがです!」

「トボけるでない! アスカリア伯が王家閥に入ったこと、とっくに噂になっておるわ!」

「だから、私が仕官してパイプになっとるでしょうが!」

「相手国に移籍するのは『友好』じゃない! 裏切りじゃ!」

 だんだん、父と私の本音が洩れ始め・・・

 

「あなた。まずは、この子の報告を聞きませんか?」

 とうとう母(黒髪美人おばちゃん)が仲裁せねばならなくなりました。

「フン・・・」

「フンじゃねぇよ」

「フターリアも! 父上を挑発するなら、私も怒りますよ」

「・・・はい」

 

 で、私が伝えたのが、この話です。

 

「フ・・・確かに、ミッションは部分的に失敗しました。それは認めましょう」

「不甲斐ないヤツじゃ」

「陛下に出て来られては、ねぇ・・・?」

「・・・まあ、それはな」

「ですがその代わりに、縁談をひとつ勝ち取って参りましたので!」

「縁談じゃと?」

 父母、窓を見る。

 窓の外は、庭園です。

 ナンカヂーノとテニスお嬢さまが、笑いながら歩いる。

「ちがう!!」

「ちがうのか」「相性は良さそうだけど」

「よくない!!!」

「そう興奮するな。アイメンカとの縁談など、おまえが結べるハズないのはわかっとる」

「うるせぇ! 仰る通りですわ!」

「・・・じゃあ、誰の縁談なの?」母が怪訝そうな顔をしました。

「なにを隠そう、この、わたし!」

「は?」「は?」

 

「アスカリア伯に見初められ、夫として、婚約を持ちかけられました♥」

 

「・・・頭は大丈夫か?」「『変容』のしすぎで・・・」

「ちがう!!!」

 

 ・・・これさぁ。

 私は、人生の一大発表のつもりで打ち明けたんスよ。

 前世では、社会に出ることもできなかった俺ですから。

 もう男としての人生はないんだ・・・って、メソメソしてた俺ですからね。

 それをこの反応・・・

 正直、ガックリ。しおれてしまいました。

 

「・・・ま、次回はユリと来るから。これ、祖父ちゃんからの手紙。見てみて」

 

 ショーシナー伯爵の『結婚応援するぞ』の文書。

 読んだ父ちゃんの反応は。

 

「どうしてショーシナーの者どもはこう・・・!」

「いまなんつった?」母の言葉が崩れました。

「・・・あのさ。ちっとも喜んでもらえないの?」

「ファリア・・・」

「いや、唐突だったのはわかってる。けどさ」

 私は早口になりました。

 

 「ユリだよ?

  俺にはもったいない人だよ?

  王家にもコノマーズにも認められた女だよ?

  女勇者さまだよ? 出身は孤児だけど、もう伯爵だ。

  領地もガタガタだけど、上向いてる。成長するよ。

  落胆する話じゃないでしょ!?」

 

「あのね、フターリア」

「はい」

「ユリさまにはね、あっちこっちから縁談が行ってるの。聞いてない?」

「・・・聞いてねぇ」

「アイメンカの次男も蹴られてね。御長男が持ちかけるか、検討中だそうよ」

「聞いてねぇ・・・!」

「抜け駆けと取られる」父は呻いてます。「なんちゅうコトをしてくれた・・・」

 

 ・・・これ、ツクノーさまを嫁にするぜ! っつったらどうなるんだろうね?

 

「そっか。じゃ、今日はいったん戻るわ。あ、ツクノーさまとも結婚する予定なんで、よろしく」

「は?」母はフリーズ。

「・・・?」父は自分の耳が信じられない様子でした。

 

 結局、父母の判断はどうなるのかハッキリしないまま、出発することになってしまいました。

 

◆♀◆ 25、アスカリア北領へ ◆♀◆

 

「父は優柔不断で困りますわ」

「あなたがメチャクチャなのよ」

「えー?」

「持ってき方を考えなさいよ。なんであなた、自分の事になると雑になるの?」

 

 西北西に旅した私たちは、ふたたび深緑川の岸辺にやってきました。

 国境です。

 目の前にかかる橋を渡れば、もうそこはアスカリア北領です!

 

「だって・・・」

「だって何よ」

「お嬢さまが弟とばっかりイチャイチャして、相談させてくれねーんだもん・・・」

「私を、アンタとユリさまの結婚の相談役にしてみなさい? 破談にしてあげるわよ」

「ひどいwww」

「・・・なんで元気になるの?」

「いや、嫉妬してくれてたんだーと思って」

「ああ」お嬢さまはニヤリとして、弟のほうを見ました。「嫉妬してもらえるのって、気持ちいいわよね」

「・・・。」

 私は、弟から見えない位置でお嬢さまの服をつまんで引っ張りました。

 

 弟ね。手勢を連れて、ずーっとここまで護衛してくれてたんですわ。

 

「それでは皆さま、私めはここで!」

 サラサラ黒髪ヘアーの美少年。眩しい笑みで、言いました。

 魅力なら負けてない赤毛の女勇者。やはり眩しい笑みで、礼をします。

「長いお見送り、まことにありがたいこと。ぜひまたお会いしたいもの」

「それはまさに私の望みでございます、勇者さま!」

 

 アスカリア一行は、橋へと下ります。

 私は、1人残って弟と挨拶です。

 

「・・・。」

「姉上、お気を付けて」

「あんがと。んー・・・」

「なんです?」

「なんだろ・・・ユリさまとは、仲良くやれそう?」

「あちらが大人でいらっしゃいますからな」

「そっか」私はノッシノッシと歩み去りました。「んじゃーな!」

「・・・まったく、男みたいな姉上だ」弟が呟くのが聞こえました。

 

 あ、忘れてた。

 

 私は引き返しました。

「な、なんです?」

 ちょっと肌荒れしてる(小さなニキビっぽい)弟の鼻っ面に、指を突き付けて・・・

 

「テニスはやらんぞ!!!」

 

 ・・・これでよし。

 

「お嬢さまぁ~! 待ってぇ~~~!」

「ンだよ姉上のオトコ女!」

 

 橋を渡って国境の城までは、ほんのちょびっとの距離。

 ですが、私はお嬢さまに追いついて、鞍の後ろに飛び乗ります。

 これは当然のこと。なんでといって・・・・・・・・・えー、そりゃ、当然だからです。

 

 ぺしっ。お嬢さまのハーフエルフ耳が、私の鼻っ面に当たりました。

「いてっ」耳ビンタ!?

「なに考えてるの?」

「いや・・・」

 私は振り向きました。

 

 ナンカヂーノは、まだ馬上でこちらを見てます。黒い髪が川風になびいてる。

 ・・・カッコいいと言わざるを得ない!

 

「あっちが俺だったら・・・、ってね」

「・・・。」お嬢さまは唇を尖らせて私を見てから、前を向きました。「私に会えなかったわよ?」

 

 私はお嬢さまを抱き締めました。ギュ・・・。

 

◆♀◆ 26、怪物について ◆♀◆

 

 川を渡りました。

 いよいよ、アスカリア北領です!

 

 モターズ伯爵が建てた、古い城に近付きます。

 川を見下ろす城ですね。橋からダンゼイズ軍が越境してきたら、ここでコロス! という城です。

 まあ、魔王との戦いでは、手を取り合って川を下る魔物と戦ったそうですが・・・。

 

 モターズ伯は、一族もろとも、死霊使いアヤツリアに殺されて。

 いまはこの城も、ユリのもの。

 

 私たちが近付くと、門番が敬礼し、門を開けてくれました。

 丸太格子が頭上にぶら下がっている正門をくぐって、中庭に入ります。

 ちなみに、格子が落ちてきたら馬でも一発で死にます。ヒヤリ・ハット建築すぎる。

 

 城壁の内側は、・・・なんか、閑散としてました。

 

「・・・人少なくありません?」

「・・・足りないのよ」

「兵士が?」

「金が。人も。食料も」

 

 ここで初めて、連れてきたアスカリア歩兵に仕事らしい仕事ができました。

 モリーヌの指示で、城の見張りの補助をするのです。

「抜かるなよ。殿下に万が一があったら、私を含め、全員首が飛ぶぞ」

 「へい」「へい」「へい」「すげぇ・・・城の見張りなんて初めてだ」

「抜かるなよ!!!」

 「へい!」

 

「お待ちしておりました。我らが主よ!」

 城の主将が、玄関前に番兵を並べて、ユリを出迎えました。

 ユリはうなずき、鹿毛に乗ったまま、武器を高く掲げる番兵の前を通り抜け、玄関に上がります。

 剣杖星樹の紋章マントを翻しながら。

 いまは、私たちの背にも同じマントがあります。城の旗棹にも。・・・よく間に合ったな?

 

 ブレロッケ式、馬で上がれる玄関ホール。

 ここは、玄関扉の前に斜路がありまして、登るのがちょっと楽しかったです。

 かぱかぱかぱッ! ベロ~ン君は軽快に登って見せました。

 お嬢さまは(乗馬でミスが多い印象があるかも知れませんが)、身軽な乗り手。ベロ~ンも走るのは上手い馬ですから、何も問題「あっぐ!?」

「大丈夫?」

「ケツ打った・・・」

「あなた体重重いものね」

「うるせぇ・・・」

 

 玄関ホールは、やはり、閑散としていました。

 さすがに暖炉には火が入っていましたが・・・その火の番をする人間がいねぇ。

 あと、馬のウンコ拾う係も居らん。

 ってか誰もいねぇ・・・。

 馬を降りるユリ。

 ユリの2倍は歳のいった主将が、うやうやしく手を出しました。

 ユリは軽く手を乗せてねぎらい、報告を求めました。

「はっ! 当方面は、大過ございません。御命令どおり、ダンゼイズとの衝突も避けております」

「うむ」

 ・・・あ、これは、私に聞かせるための一文だね。

 ユリがあらかじめ命令したか? いや、主将が気の利く人なのかな。

「ただ・・・」

「どうした?」ユリが、私たちを見やって、付け加えました。「構わん。私が信頼する方々だ」

「では、報告申し上げます」

 城主は・・・

 

 「沼の怪物が。

  ドロッグ・オロッシが、北の沼地の村に襲来。

  大きな被害が出たとの伝令が、つい先ほど、この城に届きました」

 

 ・・・と、こんな報告をして、私たちを驚かせたのでした。

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