※この作品はR-18です。

TSゆりフタ令嬢侍女メイド!   作:min(みならい)R18

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「1回でいいからな」

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絵が間に合ったのは初めてかも知れん・・・


ドロゴンを倒せ

◆♀◆ 27、女代官・ユリヲワーナ ◆♀◆

 

「ユリヲワーナさま。沼の村の長が、ドログ・オロッシの被害を訴えに参っております」

「また泥すくいの話かね?」

 

 2人の役人が、会話をしていた。

 立って報告をしている、地元の若い男。

 うんざりした顔で座っているのは、赤毛の、身なりのいい、中年の女だった。

 所は、アスカリア北領。

 『曲がり川の郷』という地方の、役所でのこと。

 役所。石造りの建物は、窓が少なく、薄暗い。事務は、2階の大きな窓のそばでないとできない。

 その2階・事務机での会話だ。

「君さぁ、」女が言った。口紅を塗りながら。「私は忙しいんだよ。わかるかね?」

「・・・。」

「伯爵がこちらにいらっしゃるのだ。お迎えの準備にね、時間がかかるんだよ」

「ドログ・オロッシですよ?」

 男は喰い下がった。

「10人以上が犠牲になり、行方もわからない。次はどこが教われるか・・・」

「くどい」

 女は背中を向けた。

「時間がないんだ。証拠のない話に付き合ってはおれん」

「しかし・・・!」

 と、ここに、別な男が駆け込んできた。

「アスカリア伯爵・ユリさまが、お見えになられました!」

 

「これはこれは、伯爵閣下! ようこそ、『曲がり川の郷』へ・・・!」

「出迎え御苦労」

 女勇者にしてアスカリア伯爵、赤毛の美人剣士・ユリは、馬の上から訊ねた。

「この役場の主は君か?」

「はっ! ありがたくも『曲がり川の郷』の代官を拝命した、ユリヲワーナでございます」

「王都で、イマック侯に仕えていたそうだな。よく転属に応じてくれた。感謝しているぞ」

「もったいない御言葉・・・」

 赤毛の女代官は、深々と頭を下げた。

 ──だが、その顔は歪んでいた。恨みとか、憎しみの表情である。

 そんな代官を、同じ赤毛の女勇者は、美しく澄ました顔で見下ろしている。ちなみに、彼女の後ろには司厨長マリエレジーナがタンデムしており、こちらも無表情に女代官を観察していた。

「ゆっくり話したいところだが。急ぎ、確認せねばならんことがある」

「何でございましょう?」

「沼の怪物。その被害についてだ。──真っ先に報告があってしかるべきと思うが?」

「仰る通り! まさに、私どもも相談をしておったところでございまして、」

 女代官は、先ほどの若い男役人を呼び付けた。

「さあ! ドログ・オロッシについて、伯爵に御報告申し上げよ!」

 

◆♀◆ 28、他を当たる ◆♀◆

 

「ダメだな。あの女は信用できん」

 役所を離れるや否や、ユリが言いました。

「他を当たろう」

 

 ぽっく、ぽっく、ぽっこ。

 フターリアです。畦道を馬で移動中です。

 馬はベロ~ン君。騎手は私。タンデムしてるのは、見習い侍女のナータちゃんです。

 ナータちゃんの正体は、もはや言うまでもありませんね? そう、ネムリタロッカ王女殿下です。

 テニスお嬢さまは、王女殿下の予備の馬に、御一人。楽しそうなのがイラッときます。

 周囲は、湿田です。

 いわゆる日本の水田みたいな。そこまで綺麗じゃないですが。

 生えてるのは、葦みたいな丈の高い草です。いや、草じゃなくて作物だろうけど。なんだろね?

 

「稗じゃないかしら」とお嬢さま。

「正解」と、ユリの後ろのマレーナ姉さん(魔術師にして司厨長にして栽培マニア)。

「ヒエか」

 

 たしか、五穀の一つだったよね? ってことは、収量もあるのかな。

 

「上がってくる数値は、大したことなかったけど・・・」とお嬢さま。

「そうね・・・」

 司厨長のマレーナ姉さんも、広々とした湿田に、疑惑の目です。

 しかし、それ以上は言いませんでした。証拠が先、断罪は後。アスカリア伯爵領のモットーです。

 マレーナ姉さん、話題を変えます。

「あの代官は、王都から引っ張ってきた人材でね」

「ユリヲワーナさん?」

「ええ」

 

 ユリをワナ・・・これまた、覚えやすい名前ですなぁ。

 

「出身は、ユリと同じ土地らしいわ」

「『冒険者の村』の人なの?」

「昔のね。当時あそこを治めていた伯爵家が潰れて、あちこち転任する羽目になって」

「苦労人か」

「モターズ城でも働いたことがあるそうよ」

「ココの土地勘はあるわけだ」

「そうよ。だから採用したの」

「にしては、浮いてる感じでしたがねぇ・・・」

 

 おばちゃん代官、1人だけ派手だったんですわ。王都の文官みたいな服だった。

 他の役人は地元の農夫と変わらん姿なのに。

 

「・・・ま、身なりだけで判断しちゃいけませんか」

「そうね」

「変人度でいったら、あなたのほうが上だものね」お嬢さまが茶々入れてきました。

「私のどこが?」

「メイド服よ」

「メイドのどこが?!」

「テニスさま。ファリアさまはまともですわ。いまは」ナータちゃんも反論してくれました。

「ありがとうナータ。まあ、確かに・・・、」

 私は自分の服を見下ろしました。侍女のドレスです。

 この旅のあいだは、メイド服は封印状態なので。

「メイド服ほどは、馴染めてないかも知れませんね」

「・・・。」「・・・。」2人は黙ってしまいました。

 

 そんな私たちのところに。

 

「勇者さま! あんたが我らの領主、女勇者の、ユリさまか!」

 年老いた男が、駆け寄って来ました。

 

「無礼者。下がれ!」

 モリーヌが、青鹿毛(真っ黒ツヤツヤのボディした軍馬です)でブロックします。

 剣にも手を掛け、かなり本気の『下がれ』です。

 アスカリア歩兵も殺気立ちました。取り囲んで、乱暴に押さえ付けようとします。

「どうして、もっと早く来てくれなんだ!」老人は叫びました。「息子が。息子どもが!!」

「待て」

 ユリが、双方を落ち着かせました。

「聞こう。何の話か、言うてみよ」

「ドログ・オロッシじゃ! 沼の怪物のことに決まっておる!」

 

◆♀◆ 29、村の惨状 ◆♀◆

 

 老人は、アスカリア北領に広がる沼地のほとりの住人でした。

 昔から湿地で漁をし、細々と水田耕作もして、暮らして来たとのこと。

 ところが・・・

 

 その村は、破壊されていました。

 

 水田はメチャクチャに踏み潰され・・・

 木造の家や倉庫は粉砕され・・・

 そこらじゅうに、乾いた泥が小山のようにこびりつき・・・

 トドメに、村の中央に、大きな溝ができてしまっているのです。

 沼の水が流れ込んで、泥水の川となった、大きな溝が。

 

「ヤツが通った跡じゃ」

 村から少し離れた山の上で、老人が言いました。

 

 「1週間前のことじゃ。

  よそ者どもがやって来て、ヤツを狩るなどと言い出した。

  ワシらが止めるのも聞かず、銅鑼などを叩いて騒ぎ立て、怪物を呼び起こしたのじゃ。

  その後はもう・・・

  村の若い衆が、怪物を村の外に誘導しようとしたが、ダメじゃった。

  みんな踏み潰され、呑み込まれてしもうた・・・」

 

「怪物はどこに向かった?」とユリ。

「その時は、深緑川を下ってゆきました。じゃが、そのうち戻ってくるじゃろう」

「なぜ?」

「ここがヤツの棲家だからじゃ。この『曲がり川の原』の、ずうっと奥が」

 

 曲がり川の原──大湿原です。

 真っ平らな土地に、曲がりくねった川が通ってる。

 川は何本も枝分かれして、途中で消えたり、また生まれたりしてる。

 その左右、いたるところに水たまり。池、沼、湖が、いたるところに。

 溢れんばかりの水。ってか溢れまくってる。

 これが深緑川の水源ですね。つまり、この湿原が、ブレロッケ王国の水瓶というわけだ。

 

「それは確かか?」とユリ。

「もう何代もずっと、わしらはヤツを見とる。湿原の向こうの方で暮らしとるのをな」

「よそ者はどこに?」

「知らん。死んだか、逃げたか」

「そいつらの身元はわかるか?」

「1人はビビワメッツ伯爵の親戚じゃと言うておった。代官とも親しいと」

「そうか」

 ユリは、私たちの方を見ました。

 テニスお嬢さま・私・ナータちゃんは、速記中でした。3人で分担して会話を記録するのです。

 速記が追いつき、お嬢さまがうなずきました。

「ではな。村長。また来る」

「・・・どうなさるおつもりじゃ」

「退治する」ユリは断言しました。「そなたらは、我が領民だ。仇は必ず取ってやる」

 

◆♀◆ 30、ドロゴンを倒せ ◆♀◆

 

「来た! 来ました、ドロゴンです! 川の中!」

 

 アスカリア歩兵が駆け戻ってきました。

 ドロゴンというのは、ドログ・オロッシのことです。

「長ったらしいから縮めよう」とユリが言い出して、ドロゴンと決まりました。

 

 ・・・不快なんですが。フタゴンに似てて。

 反対はしたんですがね。却下されました。クソ。

 

「よし。作戦通り、おまえたちは待機」

 ユリがそう言って、鉄鍋を持って、河原に降りてゆきました。

 河原。平らで、石の少ない、歩きやすい河原です。あらかじめ石を除去して、さらに歩きやすくしてあります。

 そこで、ユリがたった1人、怪物を待ち受けます。

 

「マリ姉さん」

「なに、リア」

「・・・『私が1人でやるから見てろ』って、作戦じゃないですよね?」

「・・・まあ、あの人は勇者だから」

 

 川面にツノが見えました。

 人間ほどもある巨大なツノ。2本。

 川の水を切って、遡ってきます。

 

 ガンガンガンガン!!! ユリが鉄鍋を叩きました。 

 ツノの動きが止まりました。

 

 ざばーーー・・・・・・

 巨大な影が、水面下から、首をもたげました。

 

「で、で、で、デケぇ」私はビビりました。「やっぱ1町ある!」

「静かにしなさいよ。こっちに来たらどうするの」お嬢さまに怒られました。

「な、なにか、役に立つことないですか?」

「なにかって何よ」

「新しい呪文とか。母上の本になんか書いてあったとか」

「母上のメモは『北方にドログ・オロッシの伝説。正体不明』だったわ」

 

 現れた怪物の姿は、泥、でした。

 泥のかたまり。

 顔も身体も泥に被われ、体色すらわかりません。

 小さな目が左右にあり、デカい口が愚かしく半開きになっています。

 ズシン・・・と陸地を踏みしめる前足2本も、びっしりと泥に覆われております。

 足の付き方はワニっぽい。ツノや頭部の形は牛に似てる。

 それ以外、なんもわからん。泥だらけすぎる。

 なるほど正体不明と言わざるを得ない。

 

 ガンガンガンガン!!! ユリは鉄鍋叩いてます。

 ガーン・・・! 最後は投げつけました。

 鍋はツノに当たって、そいつの顔面に当たって、落ちました。

「おらっ、ドロゴン! このユリと勝負しろ!!!」

「・・・。」

 怪物は無言でユリに顔を向け、丸太ほどもある足を、ズシーン! と踏み出しました。

 ユリは呪文を唱えます。

 

 「我は変容する。

  我が足は、駿馬のごとく駆け抜ける!

  我が手に宿るは剣聖の、雷切り裂く神剣技!」

 

「ゆくぞドロゴン!!! 私は、オマエには負けん!」

 ユリは突っ込みました。

 ドロゴンの足元に一瞬で肉迫して、

「ウチの領地を、バカにしやがってっ・・・!!!」

 河原の砂にめり込んでいる足の指を、ぶった斬りました。

 見事に精密な一撃。

 『剣聖』の呪文のかかった剣は、あっさりと、怪物の足指を断ちました。

 

 ・・・が。

 

 一撃離脱したユリが、安全圏で立ち止まり、振り向いた時には。

 間違いなく断ち切ったはずの足の指が、元通りにくっついていたではありませんか!

 キズは跡形もなく。

 その足で一歩踏み出す動きにも、何の支障もなく。

 ユリは、それを見て。

「退却ぅ!」

 一目散に、逃げ出しました。

 

「『聖剣』が効かん。全員退却、たいきゃァーーーく!!!」

 

◆♀◆ 31、怪物を見下ろして ◆♀◆

 

 私たちは、河原から逃げて、山に登りました。

 そこでキャンプを張って、深緑川を見下ろします。

 

 ドロゴンは、しばらく河原をウロウロしていましたが、やがて川に戻りました。

 山に登ってくる様子はなし。というか、我々を見失った模様。

 泳ぎ去る様子もなし。

 

 私は、ナータちゃん(というか王女殿下)のために、樹ターリアに『変容』。

 春とはいえ、冷え込みの厳しい北領の夜を、ウロで乗り切ってもらうことにしました。

 お嬢さまとマレーナ姉さんも、中で休めることになりました。

 樹木の乙女(私)とユリは、木の根元で、毛布にくるまって寝ます。

 

「・・・あのさ。ユリ」

「なに?」

「オマエ、もしかしてその、まだ怒ってる? 俺が『冒険者の村』を汚いって言ったの」

「・・・。」

 ユリは毛布にくるまったままこっちを見ました。

 ニヤーッと笑います。

「本音を言うとだな、」

「うん」

「斬れたらスッキリするだろうになぁ、とは思った」

「え。嘘。恐」

「苦手なんだよ。ガマンするの」

 ユリは真顔に戻って、私にもたれかかってきました。

「殺し合いはさぁ。先に手ェ出したヤツが勝つじゃん」

「・・・うん?」

「ニコニコしながら近付いて、突然斬れば、勝つじゃん」

「ああ。不意討ちね? そりゃ有利だよな」

「そう。でも、それをやっちゃあダメなワケだよ」

「通り魔だもんな」

「そう。通り魔。暗殺。クズのやることさ。だから、ガマンして、話し合いをしなくちゃいけない」

「そうだね」

「それが苦手なんだよ。私はクズだから」

「・・・オマエはクズじゃねーよ」

 私はユリを抱き締めました。

「硬い腕だなー」

「文句言うなクズw」

 

 翌朝。夜明けよりだいぶ早く、私たちは起き出しました。

 ドロゴンは動いていないようです。

 

「さて、どうやって倒すかだが」とユリ。

「姉さんの落雷は?」

 私は訊きました。

 怪物を倒すとなったら、まず思い浮かぶのは、威力のバカ高い『雷』の呪文でしょう。

 しかし、マレーナ姉さんは首を振りました。

「谷ではダメよ」

「ダメですか」

「こちらの岸に森があるから、こちらに落ちる。ヘタをすれば味方に被害が出るわ」

「そういう呪文なのか・・・」

「秘密よ? 相手が木より高く頭を上げて、止まっててくれればいいけどね」

「無理だな。フタゴンは短足だぜ」とユリ。

「・・・ドロゴンだよね?」と私。

「はい!」ナータちゃんが手を上げました。「ファリアさまの、ドラゴンの息はどうでしょうか!」

「え」

「湿地を好むドロゴンです。火が、効くのではと思います」

 

 おい。

 私は勇者じゃないんだぞ、ナータちゃん!?

 

「無理しなくていいぞ、リア」

「そうね。私の『焼き討ち』で試してもいいし」

 ユリ・マリ夫妻(予定)が気遣ってくれました。

 恐怖が顔に出てしまったようですな。

 お嬢さまも『困ったな・・・』という表情。ナータちゃんも「あ・・・」とか言い出しました。

 気付いてくれた? ちょっと遅かったね! 俺、ただの日本の男子高校生なんだ!

 っつーコトで、ここはユリの言葉に甘えて辞退──

 

 いや待て。

 待てよ。

 

「ややや・・・やりましゅる、よ?」

「無理すんなって」

「ししし、してねぇよ」

 私はガタガタ震えながらユリを見ました。

 

「わわわ私はっ、ゆゆゆユリさまの、侍ですししし」

 

「・・・そうか」ユリはうなずきました。「ではフタゴンと私でやってみよう。他に案は?」

「兵器の類は調達できませんでしょうか?」とモリーヌ。「バリスタとか」

「モターズ城にはいくらか」とマレーナ姉さん。

「却下」とユリ。「時間がかかりすぎるし、『聖剣』の効かん相手に効くとも思えん」

「・・・。」

 モリーヌは私を見ましたが、『おやめください』とは言いませんでした。

「では解散」ユリが宣言しました。「リア、来い。ちょっと訓練しよう」

「え? は、はい」

 私はユリに連れられてその場を離れました。なので、

「・・・マレーナさま。相談したいことが」

 お嬢さまがマレーナ姉さんと相談してましたが、その内容はわかりませんでした。

 

◆♀◆ 32、勇者の教え ◆♀◆

 

「強敵とやるコツを教えてやる」

「お、おう」

 

 ユリは、私をキャンプ地の端っこに連れ出しました。

 

「強敵とやるときは、冷静に戦場を見渡して、敵の長所短所を分析し、」

「メモメモ」

 私は木炭を取り出しました。

 木切れに、勇者さまの教えを書き付けます。

「最適な戦術を選び、味方と息を合わせて攻撃をすれば──」

 

 ここでユリは振り向いて、私の木切れを取り上げました。

 

「──などと、考えるな!!!」

「あっ」

 ポイ。ユリは私のメモを投げ捨てました。

 で。

 ぺちーんと、私の頬っぺたを手でサンドイッチして、

 

 「いいか! オマエはド素人だ!

  『冷静になる』なんて、できるハズがない。

  相手の動きなんぞ、見るな! 見たって、呑まれるだけだ」

 

「呑まれる」

「そうだ。呑まれたら負けだ。だから見るな! 自分勝手にやれ!」

 

 ユリは私から一歩離れて、腰を落とし、剣に手をやりました。

 左手を鯉口に、右手は柄の上に浮かせた──抜き撃ちの構えです。

 

「では、やってみよう。私に触れてみろ。──ただし、一歩も動くな」

「え?」

「動いたら、斬る」

「えええ!!?」

 

 私はのけ反りました。一歩後ろに下がりそうになる。

 ユリの目がギラリと光りました。私は凍り付き、動けなくなりました。

 ハァハァ・・・呼吸を乱してその場に立ち尽くします。時間がどんどん過ぎてゆきました。

 グワラ、グワラ・・・ワタリガラスの不吉な声が響きました。日の出が近いようです。

 

 まさか・・・

 まさか、本当に斬るってんじゃ・・・?

 なに考えてんの?

 わからん。

 ユリの意図がわからん。

 コイツ本気になると完全に無表情になるから。全然わからん!

 一体どういうつもりで・・・

 

 ずいぶん長いこと、グルグルと考えを巡らせていた俺でしたが。

 ふと。

 

 ・・・あれ? 俺、呑まれてる?

 

 そう気付いた途端に、身体の力が抜けました。

 

 呑まれるって、こういうコトか。

 

 力が抜けてから、改めて見てみれば。

 ユリは、静かに立ってる綺麗な女に過ぎませんでした。

 ってか、意外と近いな? 手ェ届くわw

 

 ナデナデ。

 私は手を伸ばして──一歩も動く必要はありませんでした──ユリの頬っぺたを撫でました。

 

「よし!」ユリは笑顔になりました。「ダーリンより早かったなw」

「え、そう? やったー」

「ご褒美をやる」

「おお!」

「ん!」ユリは頬を出してきました。

 

 ご褒美ってそれかよ。

 私はユリの頬を撫で撫でしました。

 

◆♀◆ 33、フタゴン、行ってくる ◆♀◆

 

 我らアスカリア軍は、ふたたび怪物に挑みました。

 前日とは場所を変えて、崖の上からのアタックです。

 眼下は、崖際まで、川です。岸辺はありません。

 葦が群生していて水面は見えませんが、チャプチャプ音がするのでわかります。

 ドロゴンはこちらに気付いてません。尻(尻尾?)をこっちに向けたままです。

 

「目が悪いってのはホントのようだな」

 徒歩のユリが言いました。

 東の空を見ます。太陽が山影から昇ってくるところ。

「お日さまが完全に昇ったらやるぞ」

「了解」

 ということで、少し時間が空きました。

 昨日の俺だったら、ガチガチに緊張して震えてたと思うが・・・今は大丈夫。

「ユリって、馬で戦わないよね?」どうでもいい質問をする余裕もあった。

「乗馬苦手だからな」とユリ。

「そうなの?」

「馬の首が邪魔になって、剣が振りづらい。覚えた呪文も歩兵用のばっかだし」

「ああ」

「あと、臆病じゃん? 馬は」

「うむ・・・」

 

 私たちは、ベロ~ン君を見ました。

 お嬢さまとナータちゃんが乗ってるのですが・・・もうすでに、腰が引けてます。

 

「斬り込みに連れてくには、もっと信頼できるヤツでないとな」

「そっか」

 ユリにそう言われて、さらに余裕ができました。

 

 日の出がやってきたようです。

 

「変容せよ、フターリア。幻のドラゴンの力よここに。空飛び火を吐き泥を焼け! ──フタゴンに、な~れ!」

「フタゴンよ変容せよ。御身のウロコは鉄の盾、肌は鉄の鎧となり、あらゆる打撃をはね返す」

「がおーう!」

 

 お嬢さまとモリーヌに呪文をもらって、地面を蹴ります。

 崖から飛び降りて、風をキャッチ。上空へ。

 

「1回でいいからな」

「1回。了解」

「よし。行ってこい!」

 

 ユリに最終指示を受けて、川面に向かってダイブ。

 冷たい風を切って、かなりのスピードで怪物のツノに接近します。

 よし。速度は十分!

 ・・・速度が足りないと、急上昇で失速しちゃうからね。上空へ逃げるためには、高速で突っ込まないとダメなんですわ。

 

 ガンガンガンガン!! 河原のほうで音がしました。

 アスカリア歩兵が、鍋を叩いて怪物を呼び起こしているのです。

 狙い通り、ドロゴンは水面に頭を起こしました。

 その首の後ろに、私は突っ込みます。巨大な首を飛び越しざま・・・

 

「干からびろっ、ガアー!」

 ドラゴンブレスです。

 

 火の息は、高速で飛んでるせいで、思ったように広がらなかった。ってか私の顔にかかった。熱っつ!

 けどまぁヒットはしました。

 ドロゴンの後頭部がジュッと音を立てて、一瞬で乾きます。

 泥が、砂に変わって、ボロボロと剥がれます。

 私は頭を起こして急上昇。さらに、鍋叩いた歩兵とは逆(向こう岸)にブレイク、Uターン。そこで初めて羽ばたいて、上空から成果を確かめます。

 ドロゴンは・・・まったくダメージを受けていないようでした。

 何が起きたのかもわからないようで、首を左右に回してる。

 後頭部の泥は、割れて、剥がれてます。その中には・・・

 

 頭蓋骨?

 

 白くてなめらかな骨みたいなのが見えたぞ。

 どういうこっちゃ?

 血は一滴も流れてない。苦しむ様子もない。

 なのに、頭蓋骨だと?

 

 もう1発撃ってみよっと。

 

 高度を稼いで、再突入します。

 河原に上がろうとするドロゴンを、尻尾のほうから追いかける。

 クソ長い胴体を飛び越して・・・ドラゴンブレス! 後頭部に再命中。

 手応えあった! まともに当たったぞ!

 私は上昇ではなくブレイクを優先しました。当てた直後の様子を逃さず見たかったからです。

 ほぼ同じ高度でターンし、さらに円を描く感じで見届ける。

 泥の剥がれ落ちた怪物の後頭部は、間違いなく、白い骨が覗いていました。

 が・・・

「ゴポゴポゴポ」

 怪物が不明瞭な声で何かを唱えたかと思うと・・・

 背中にこびりついている泥が、ふわ~んと浮かんで・・・

 後頭部にくっついた!

 そして、穴を埋めてしまったではないですか!

 まるで乾きかけのセメントを塗るがごとくして、頭の穴が、補修された!

「いまのは・・・呪文か!?」

 情報を掴んだ私は、今度こそ逃げようとします。

 が、怪物の方も、今回は私に気付いていました。

「ゴポゴポゴポ」

 またも不明瞭な声を出したかと思うと・・・

 

 ブバッ!!! 泥の散弾!

 口内に溜まっている泥を、広範囲に吹き出してきました。

 

「ほげっ!?」

 しっかり見てたせいで、まともに喰らってしまった。

 顔面に。

「ぶほっ。目が」

 衝撃でグラッと来た。ついでに泥が目に入った。何も見えねえ。

 ヤバい。落ちる。

「リア!」

 ユリの声が聞こえました。さすが、よく通る声してる。おかげで方向がわかった。翼をはたいてそっちに飛びます。

 もう1発散弾が来たらしい。尻尾に衝撃。ま、これはノーダメ。フタゴンの尻尾、プレートメイルみたいになってっから。さらに『鉄身』も入ってりゃ、泥玉なんざ恐くありませんよ。

 無事帰還。

「1発って言ったろ!」ユリに怒られました。

「すんません。──でさ、アイツ、なんかおかしいぜ。呪文で自分を直してるっぽい」

「うむ。ふつうの生物ではないようだな」

 ユリはうなずきました。

「第二段階行くぞ。マリ、テニス、河原へ移動しろ。次はこちらに引きつける」

「はい」

 お嬢さまがベロ~ンの手綱を引いて移動を始めました。

 徒歩のマレーナ姉さんがそれについていきます。

「え? 何させんの?」

「実験するんだとさ」

「実験?」

 

◆♀◆ 34、誤算! ◆♀◆

 

 怪物は、私の攻撃でかなり苛立ったようです。

 河原に上がって、メチャクチャに暴れ回りました。4本の足で、大穴が開くほど砂浜を踏みつけ、尻尾をブン回して森の木々を薙ぎ倒しました。そのたびに足や尻尾から泥が剥がれ落ちるのですが、

「ゴポゴポゴポ」

 ・・・と唱えて、補修してしまいます。

 そんな大暴れの怪物の近くに、ベロ~ン君の黄色いボディがチラッと見えました。

 ベロ~ン君が逃げようとするのを、ナータちゃんが抑え込んでる。

 テニスお嬢さまは下馬して、マレーナ姉さんと並んでました。

 

「俺たちはどうすんの?」

「ドロゴンをここに引き付ける。あっちが呪文を入れれるようにな」

「ん、了解。俺は何したらいい?」

「これ」ユリがロープを渡してきました。「持ってて」

「はい」

「んじゃ行ってくる」

 ユリはロープの反対の端を握って、崖からヒョイと飛び降りました。

「おいマジかよ」

 フタゴン、もの掴むの苦手なんだぞ!? 命綱なんて握らせんじゃねーよ!

 慌ててロープを腕に巻きつけ、滑り落ちないようにします。

 ・・・いまのところ、力は掛かってません。

 ユリはロープに頼らず自分の足で降りてるようです。

 

 ガンガンガンガン!!! ユリが鍋叩く音が聞こえてきました。

「おらおら! ドロゴン。どっち見てんだ、私はこっちだぞ!」

 

 長さ1町の巨体が、ギロリとこちらを睨みました。

 まずは前足から方向転換。

 続いて後ろ足が向きをこちらに揃える。

 揃ったら、突進!

 方向転換のノロさからは想像もできない、猛烈な速度で迫ってきます。

 

「ひぃぃ」私はビビりました。

「ロープ使うぞ!」ユリの声。

「お、おう!」

 突然、ロープに力が掛かりました。

 思ってたより重い! フタゴンのウロコでこすれたロープがギシギシ言ってる。

 ユリが飛び上がってきました。腕を伸ばしてユリを抱き上げます。

 

 そこに、怪物が頭突きを噛ましてきました。

 崖にです。

 

 足元がハネ上がり、爆発音が轟いたかと思うと、私たちの立っていた崖が崩れました。

「うっほぁ!?」

「くそっ、誤算!」

 私とユリは足をすくわれ、土石とともに流れ落ちました。

 翼を広げて、グシャグシャになった足元を蹴ります。

 なんとか空中に逃げようと・・・腕にユリを抱いたままで。

 ダメだ。

 重すぎる。身体を横にできないから、バランスも取れない。

 落ちる。

「離せ!」ユリが叫びました。「ロープだけ持ってろ、いいな!」

「お、おう!」

 私はユリを離し、ロープを両手で握って、飛行体勢に(つまりうつ伏せに寝るような体勢です)。

 全力で羽ばたいて、なんとか上昇に転じました。

 どぼーん! ユリはそのまま葦だらけの水面に没します。

 ──怪物のすぐ隣の水中に、です。

「くそ。ユリ」

 引き上げてやりたいが・・・下手に引っ張って、ユリが手を滑らせてもまずい。

 私は、凧のようにグルグル飛びました。強風に煽られた凧が、凧糸の許す限りの範囲でグルグル回るように。

「早く上がって来いよ。早く!」

 

 残念ながら。

 怪物の方が先に復帰しました。

 こいつも崖崩れに巻き込まれていたのですが・・・

 平気らしい。ってか、さっきより太くなってる。

 もしかして・・・補修だけじゃなくて、身体を大きくすることもできる?

 

「ゴポゴポゴポ」

 ドバッ! 散弾が飛んできました。

 腕でガード! ・・・よし、大丈夫。大きい泥が1発、破片が数発当たったけど、『鉄身』は解けてない。

 テニスお嬢さまとマレーナ姉さんが走り出してきました。河原を横切って、ドロゴンの尻尾に近付く。

 危ねえ・・・あの尻尾、丸太をヘシ折るパワーがあるのに・・・

 ユリはまだ上がってこない。

 俺がやるしか。

 せめて、敵の意識だけはこっちに引き付けとかないと。

「ドロゴン! その程度か。効いてないぞ、ぜーんぜん!」

 私は挑発しました。

 狙い通り、怪物の頭はこっちを向いた。

 ──ただ、近距離で声を出したのは、まずかったかも知れん。

 

 がぷっ!!! 怪物に噛みつかれてしまいました。

 

「うっほあ!?」

 上半身丸ごと、がっぷり噛みつかれてしもうた。

 これはまずい! 久しぶりの呑み込まれピンチ!

 ・・・けどな。

 俺もいつまでもフにゃーリアじゃねえから!

 

「喰われてたまるか。ンガーーー!!!」

 炎を吐いてやりました。

 

 ボフン! 泥が、爆裂。

 

 内側から急激に加熱したため、蒸気が口内に籠もって、爆発したようです。

 私も吹っ飛んだけれども。

 ドロゴンは、頭が完全に粉々になりました。

 残ったのは、ツノのついた白い頭蓋骨だけです。

 どぼーん。フタゴン、川に落下しました。冷てぇ! 水が冷たい!

「ゴポゴポゴポ」

 ドロゴンは呪文(たぶん)を唱えて自分を修復。

 そして、足を持ち上げて、私を踏もうとします。

 これまたまずいですね! 踏まれて水中に沈められたら溺死です!

 私は、対抗してブレスを吐こうとしましたが──

 

「おまえに呪いがかかったら、変容から帰還せよ。ドロゴン、生まれた姿に、も~どれ!」

 お嬢さまの呪文の方が、先でした。

 

 いまの呪文は・・・

 『変容からの帰還』?

 ツクノーさまがプレゼントしてくれたやつ?

 

「ドロゴンよ変容せよ。肌身も骨も、石となれ」

 続けて、マレーナ姉さんの呪文が飛びます。

 

 ドロゴンの足が、石になりました。

 全身がバキバキと音を立てて、石化してゆきます。

 石化。

 危険な『変容』呪文です──『変容からの帰還』の発動条件が、満たされました。

 

 『変容からの帰還』が自動発動。

 

 石化は、見る見るうちに、巻き戻ってゆきました。

 石になっていた足が、元の泥に・・・

 固まりかけていた全身が、本来の姿に・・・

 

 ドロゴンを包んでいた泥が、すべて、落下しました!

 

 どんばっしゃあーーーん・・・!!!

 もんのすごい波が起こって、私は押し流されました。

 葦原を乗り越える感じで、崖に叩きつけられた。OK。『鉄身』でノーダメージ。

 ドロゴンの姿は・・・

 見えん。

 どこだ?

 

 あの巨体が、どこにもない。

 

 潜ったのか?

 波がすごくて、水中の様子がわからん。

 まずい。

 とにかく、ロープをたぐります。ユリが手を放してないことを願って。

 ・・・いた! 手が出てきた! 私はその手を引っ掴んで、一本釣りに引き揚げました。

 ユリが出てきた!

 

「ゲッホ! ありがとリア」

「おう・・・」

 びしょ濡れのユリ。なんと、ロープを右手で掴みつつ、左手は剣が抜けないように押さえてました。

 その剣を抜き放って・・・

 

「雷切り裂く剣聖の、剣の妙技よ、我にあれっ!」

 呪文を唱えて・・・

 

 水面を、叩き割りました。

 

「何を?」

「コイツだろ。ドロゴンの正体」

 

 ユリが指差したものは。

 人間の半分ほどしかない、小さな怪物の、ガイコツでした。

 

 怪物は、『変容』によって作られたボディだったようです。

 『変容からの帰還』によって、ドロゴンにかかっていた『変容』呪文は、すべて解除。元の自分に戻ってしまった。

 

 つまり、この小さなガイコツが、ドロゴンの正体というワケです。

 小さな頭蓋骨。2本のツノ。牛っぽい。

 身体は人間っぽい。けど、手足の長さが同じです。それに、かなりのガニマタです。ワニっぽい。

 

「ミノタウロス・・・?」

「さあ。なんだろね」

 ユリは、私にしがみつきながら言いました・・・

 

「倒しはしたが、正体は不明のまんまだな」

 

◆♀◆ 35、悪霊と滅びた伯爵家 ◆♀◆

 

「なッ・・・なんと!? 生きて戻って・・・!」

 

 数日後。

 『曲がり川の郷』の役所にて。

 ユリヲワーナ代官は、腰を抜かすことになりました。

 怪物を退治しに行ったまま音沙汰のなかったアスカリア伯爵一行が、突然戻ってきたからです。

 

「生きて戻って、何か困るコトでも?」ユリがほほえみました。

「い、いえ、滅相もない!」

「もう心配はいらぬ。怪物は退治した」

「なんと! さ、さすが、勇者さま。お見事でございます。さぞお疲れでしょう。すぐにお休みの御用意を」

「ああ。よろしく頼む」

 

 どうにも信用のできない女代官でしたが。

 宿と食事の手配については、抜かりのない仕事をしてくれました。

 

「やあ。ありがとう。人心地がついたよ」と、ユリが褒めますと。

「王都で修行を積んだ甲斐がございました」と、ユリヲワーナも笑みを浮かべました。

 

 まずは疲れを癒やすということで、1泊した私たち。

 宿は、小さいながらも貴人用のもので、岩風呂もついておりました。

 他に宿泊客もなかったので、独占する形で入浴です。

 

「ふぅ・・・」

 私が、フターリアのデカパイをお湯にうかべてくつろぎますと。

 光の妖精が隣にやってきました。

 髪を軽く結い上げたテニスお嬢さまです。白い肌が、湯気の効果もあって、キラキラ輝いて見えます。

「2人でお風呂に入るのは久しぶりね」

「そうですね。セックスします?」

「ブン殴るわよ」

「言い間違えました。少しゆっくりします?」

「ゆっくり何するのよ」

「セックス」

 ぺち。お嬢さまはフターリアの乳首を叩いてきました。

「いてぇwww いくらなんでもそこ叩くか普通」

 などと、ふざけておりますと。

 

「テニスさま、ファリアさま、お邪魔いたしますー!」

 王女殿下が飛び込んできました。

 

 素っ裸のネムリタ王女。黒い髪に、柔らかい白い肌がよく映えます。

 白さではフターリアもいい勝負なのですが・・・もちもち感がちがう。

 フターリアは、もう大人のオンナになりかけの、色気のある肌してるのですが・・・

 (自分で言うなって? いやでも一番フターリアの裸を熱心に観察してきたの、俺だからね!)

 ネムリタ王女は、初々しいんですわ。わずかに子供っぽいというか。

 ホントに柔らかい感じで・・・

 まあその、ぶっちゃけると『処女』って感じですわ。

 うむ・・・見てるとドキドキする裸ですな。

 ま、愛しのニーズがジトッとした目で睨んでる雰囲気を感じるのでこのへんにしときましょう。

 ってか脇腹ツネられてるし。痛い痛い!

 

「テニスさま、よく思いつかれましたね。あんな一手を」

 王女殿下がそうおっしゃいました。

 侍女のフリ続けるんか。

 まあ半端に戻して使用人にでも聞かれたらまずいか。付き合っとこ。

「ナータの言う通りですわ。どうやって思いついたのです?」

「実は、それほど褒められたことでもないのです」

 テニスお嬢さまは肩をすくめました。小さな乳首が水面に出ました。可愛い。

「どこかで実験したいと、ずっと思っていて。それで思いついただけなのです」

「実験か・・・新しい呪文は必ず実験してからと、言ってましたね」

「そういうこと」

「そうですか・・・課題が実益に結びついた形ですか」

 侍女ナータちゃん殿下。難しいことを言って、うなずきました。お乳がぷるぷるしてます。可愛い。

「ユリさまの剣が通じなかった時は、どうなることかと思いましたけど・・・」

「そうね。まったく」

「武力では倒せない。けれど、その正体は意外と小さなもの。まるで、この世を見ているようでしたわ」

 

 やけに高級な会話を交わした後、3人でお風呂を上がって・・・

 まあ私は2人の裸体を交互に愛でていただけでしたが・・・

 お嬢さまにもナータちゃんにもバレてて、部屋でお尻を一発ずつ叩かれましたが・・・

 

「いや叩くなよ」

「私が許可した」ユリが現れました。「リアがやらしい顔したら叩いていいって」

「勝手に許可すんな。俺の尻だぞ」

「そんなことより大事な話がある」

「そんなコトて!」

 

 呼ばれてユリの部屋に行くと、マレーナさんが久しぶりの呪文を使いました。

 

「大気よ変容せよ。光と音を跳ね返し、表には裏が見えず、聞こえぬように──大気の鏡」

 

 光と音を反射する鏡の呪文です。

 今回は、私たちをグルッと囲むようにかけました。

 

「・・・静かに話してね。反射するからカラカラ・・・」

 と、マレーナ姉さん。四方八方から声が反射して打ち寄せてきます。

 外には一切声が洩れず、全部反射してくるというワケですな。

「それで、話はこれよレヨレヨ・・・」

 

 姉さんが出したのは、黄金のメダルでした。

 神の印と御名が刻まれた、信者のメダルです。

 刻まれた名は・・・

 

「ヒキズリコンデロス。『汚泥の悪霊』さまの御名よ」

「悪霊の信者がいたってこと?」

「そこまでは、まだわからん」とユリ。

「怪物を退治したので、村人が沼をさらったのよ。犠牲者の亡骸を探して」

「そしたらコレが出てきたと?」

「ええ。ビビワメッツ家の紋章入りの短剣と一緒にね」

 マレーナ姉さんは、その短剣も見せてくれました。

「ビビワメッツ伯爵家は、20年前に滅びましたわ」とナータちゃん。

「その通り」とユリ。

「20年前ってと、ユリが生まれた頃か」私が訊くと、

「そうだよ」

 ユリは穏やかにうなずきました。

「ビビワメッツ伯爵が吸血鬼に負けて、逃げ出して──父や母が、犠牲になったのさ」

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