TSゆりフタ令嬢侍女メイド! 作:min(みならい)R18
◆♀◆ 8、私は勇者 ◆♀◆
「──ってのが、ワタリガラスの歌の内容だ」
フターリアです。
ワタリガラスの警告(?)からすぐ、ユリを追いかけました。
ユリの部屋にみんなが集まる。
歌の中身を伝えました(ナータちゃんが)。
伯爵閣下の反応は。
「で?」耳ほじくりながらユリ。
「反応それかよ」
「フ」ユリは耳垢を吹き飛ばしました。「リア。私は、勇者なんだよ」
「知ってるけど」
「魔王の軍勢を斬ってきた」
「うん」
「当然、残党にはずーっと生命を狙われてる」
「・・・うん」
「で?」
「いや、俺に訊かれても困るけど」
「www」ユリは笑いました。「それが私の言いたいことだよ」
「・・・。」
「そんなあやふやな歌、どうもこうもない」ユリは立ち上がりました。「放っとけ。解散」
「いやちょっと待てよ。そんな軽々しく。せめて警戒を強めるとかさぁ」
「いらんいらん。解散解散」
「待てって!」
私がユリの腕にすがると、ユリは大きなため息をつきました。
「リア。私の師匠の言葉を教えてやろう」
「・・・なんだよ」
「『死の予告におびえるな』だ」
「私も似たようなことを言われましたわ!」とナータちゃん。
「でしょうな」ユリ、うなずく。「よい師匠にして、よい父上であらせられる」
「・・・だらしないところもありますが」ナータちゃんは私を横目で見ました。
「・・・。」
「ま、そういうワケだ。ハイ解散。みんな忙しいんだからさ」
マレーナさんが、そしてテニスお嬢さまとモリーヌが、軽くお辞儀して退出しました。
私は立ち尽くしました。
「リア」
「ファリアさま?」
ユリとナータに促されましたが。
「だ・・・だってよォ・・・」
私は。こんなことを、口走ってしまいました。
「オマエに万が一があったら、どうすりゃいいんだよ・・・!」
するとユリは。
「はは~んw へぇぇ~w」
「・・・ンだよ」
「可愛いコト言うようになったなぁ?」
「うるせぇ」私はそっぽ向きました。身体が熱い。「婚約者心配して、何が悪いんだよ」
「ふふ♥」
ユリは私の顎をくすぐってから、
「聞けよ。フターリアくん」少しだけ、長い話をしてくれました。
「私は勇者だ。けど、無敵じゃない。
斬られりゃ死ぬ。刺されりゃ死ぬ。
毒で死ぬし、飢えでも死ぬ。
いつかそんな日も来るだろう。
で?
いつか死ぬから、勇者をやめろって?
一緒に『冒険者の村』を守ってきたヤツらを失望させろって?
イヤだね!
私はやめない。下がりもしない。ビビりもしないぞ!」
「・・・。」私は俯きました。「わかったよ。好きにしろよ」
「は?」
「ついて行くよ。オマエによ。侍になるって誓った以上はよ」
「リア」
「じゃーな」私は回れ右しました。
「わぁ・・・♥」ナータちゃんが両手で口押さえてこっち見てました。
「・・・えっと」
「テっ、テニスに言ってきまアダッ!!!」
ナータちゃん、部屋を飛び出そうとしてスカートを長櫃に引っ掛けてつんのめりました。
「大丈夫かよ」
「大丈夫です!」
走り去りました。元気やな。
「・・・失礼します」
「ん」
◆♀◆ 9、ナータちゃん、居合わせる ◆♀◆
「ナータ? 来てないわよ」
「え?」
部屋に戻ったら、テニスお嬢さましかいませんでした。
なんでじゃ。どこ行ったんじゃ殿下。
「ナータさまでしたら、バケツを持って井戸のほうへゆかれましたが」
「井戸か。行くぞモリーヌ」
モリーヌが見かけてた。一緒に追いかけます。
1人でウロチョロすんのはやめてくれんかな・・・
メイドに変装中っつっても、王女なんだからさ。
『落ち着け』ってのも、酷だけどね。
身体は13歳、心は11歳だもんな・・・
──さて。この時、ナータが何をしていたかというと。
「ゴポゴポ・・・貴様の裏切り、許されぬ。ゴポゴポ・・・」
「カエル人め。つけ上がるでない。知らぬと申しておろうが」
「・・・!?」
とんでもない場面を、目の当たりにしていたのです。
赤毛のユリヲワーナ代官と、小さな怪物の、密談の現場!
小さな怪物──『カエル人』と、代官が呼んだ相手──は、ツノのある小人でした。
全身、泥まみれ。
ツノ以外は特徴が掴みづらい。
背は人間の半分ほど。
目は垂れ落ちる泥に埋もれてます。
服は・・・着ているのでしょうか? 泥と見分けがつきません。
手足は左右に広がり、ガニ股で、水かきがあります。
尻に、フタゴンみたいな、太いシッポがある。
このような、怪しげなる小人。
雑草生い茂る排水口のフチに、立っておる。
ユリヲワーナ代官が、そいつと向かい合っているのです。
ナータは、井戸の場所を間違えて、たまたま近付いてしまいましたが。
そうでなければ、こんな納屋の裏側の暗い路地、夕方に歩く者は、居りますまい。
「突然の、襲撃。裏切り。許されぬ・・・」
カエル人は、怒っていました。
「オマエにもらったメダルと言った・・・」
「知らぬ」
「勇者まで、連れてきた・・・許されぬ。ゴポゴポ・・・この村、葬り去る。ゴポッ・・・!」
「早まるでない。あの女はな、私の思い通りにはならんのだ」
「ゴポゴポ・・・」
カエル人とユリヲワーナ代官の話は続きます。
「ヤツの予定を教えてやる。それで手を打て」
「メダル・・・オドロガミのメダルは、返される・・・」
「私の手元にはないのじゃ。じゃが、見つかったら返してやろう。約束する」
「ゴボ・・・ゴポゥ・・・」
「さ、ヤツの予定じゃ。貴様は、字が読めたな?」
「ゴボ・・・」
代官は、銅の筒を手渡しました。
筒には・・・手紙が入っているのでしょうか?
「後は好きにせよ。じゃが、この村を襲うのはナシじゃ。よいな?」
「ゴポ・・・」
「ではな」
ユリヲワーナ代官は、クルリと向きを変えました。
ナータの方へ歩いて来ます。
「!!」
ナータちゃんは速やかに、忍びやかに、その場から逃げ出そうとしました。
そして、
「アダッ!」納屋の支柱に蹴つまずきました。
「誰じゃ!」
ユリヲワーナ代官はそう叫んで、声のしたところへ駆け寄ります。
納屋の角を曲がって、
「うおっ!?」
長身の娘とぶつかって、彼女のデカパイに弾き飛ばされました。
「ぐえー!」地面に転がるおばさん代官。
「代官閣下。おお。これはいけない。おケガはございませんか」
長身の娘が言います。棒読みでした。
鎧を着た戦士が駆け寄って来ます。
助け起こされたユリヲワーナ代官は、ダラダラと汗をかきながら、
「だ、大丈夫ですぞ。そちらこそ──フターリア姫?」
長身デカパイ娘を、見上げました。
「ええ」娘はクールな美貌で見下ろしてきました。「私はまったく」
フターリア姫。
正直・・・怪しい姫君です。
胸元を突き上げる乳のボリュームは、まことに見事なもの。
冷静な美貌も、王都で人気のある真っ黒な髪も、素晴らしい。
しかも、勇者の側仕え。15歳の小娘が、ずいぶんと恵まれたものです!
・・・ではなくて。
護衛です。常に彼女の側をウロついている、護衛の連中。
異質。
練度が高すぎる。
しかも、王都言葉でしゃべっておる。
フターリア姫は、ダンゼイズ出身のアイメンカ育ち。
その彼女に、なぜ、王都の護衛が?
──フターリア姫は、王家の誰かの、お気に入りだから。
そう考えるのが、自然でしょう。
となれば、『先ほどの娘を出せ!』などと迫るのは、危険。
どこまで聞かれたかは気になるが・・・ここは、穏便な追及に留めるが吉。
このように計算して、ユリヲワーナ代官は話を再開しました。
「姫におケガがなくて、まことに幸いでした」
「ありがとうございます」
「いえいえ。ところで、先ほど、大きな声がしたようですが?」
「ああ、それでしたら、私の・・・・・・・・・侍女が」
「侍女さまが」
「井戸で水を汲んでいたところ、バケツを落っことして。足に」
「おや、まあ! おケガは」
「大丈夫ですわ。それで、代官閣下は、なぜここに?」
「それが・・・、先ほど、カエル人の姿が見えましてな」
「カエル人?」
「ええ。沼地に棲む、いやらしい小人です」
「ほう?」
「それが、村の中まで入り込んでおりましてな。追っ払っておったところ」
「ほほう?」
「そこに大きな声がしたので、あわてて見に来たと、こういう次第で」
「そうでしたか」
「で・・・、その侍女さまは、御無事で?」
「ご心配には及びませんわ」
フターリア姫は、クールな目付きはそのまま、唇だけで笑いました。
しっかりを背を伸ばして・・・(突き出した乳のふくらみが、代官を弾き飛ばさんばかりでした)
「ナータは、私どもが ち ゃ ん と 見 て お り ま す ので」
「・・・そうですか」
「では、失礼」
◆♀◆ 10、勇者の進路に変更ナシ ◆♀◆
「──ってコトがあってさぁ!」
「うるさいな! 声がデカいよ!」
フターリアです。
代官とやり合った私は、すぐにユリのところに戻って、事の始終を伝えました。
「ユリ。オマエ絶ッ対狙われてっから。予定変更しようって!」
「却下」
「えー!?」
「うるさい」
「せめて進路変更」
「しない。こっちが警戒してるってバレたら、向こうが作戦変えちゃうだろ」
「・・・あ、警戒はしてんの?」
「当たり前だろっ」
「あてっ」頭はたかれました。
「私を信じろ。やられはせんよ」
「いや、信じてるけどさぁ・・・アイツ、クビにできないの?」
「できない」ユリは肩をすくめました。「イクサーさまの紹介でな」
「イクサーさま」
「国王陛下の従兄で、司厨長ですわ」と、国王通のナータちゃん。「『妨害』と剣術の達人です」
「あー! アヤツリアの乱のとき、奮戦した御方?」
「そう」とユリ。「王家派のまとめ役だ。いわば私の上司さ」
「あー・・・」
「だから冷遇はできん。吊るすのは、証拠が揃ってからだ」
「あの、」ナータちゃんが手を上げました。「ユリさまは、『カエル人』を御存知で?」
「いえ全然。初耳ですな。そうだな。リア、マリとテニスに訊いといてくれ」
「はい」
「予定は変更しないからな」
「・・・。」
テニスお嬢さまに訊いてみた。
「母上の本によれば、『北方にカエル人あり。泥に潜む。詳細不明』ですって」
「母上も知らない種族なのか・・・」
「母は一介の魔術師よ? 知らないコトだってあるでしょ」
マレーナ姉さんに訊いてみた。
「知らないわ」
「姉さんもですか」
「ユリの下に入るまでは、王都で勉強漬けだったから、私」
「へぇ」
「ユリもティニーモノーシャさまも知らないことなら、私も知らないわ」
「木の育て方とか?」
「あれは趣味よ」
マレーナさん、羽ペン取って、サラサラと何か書き始めました。
「・・・。」
私が口ごもっていると、姉さんは言いました。
「あの人は、言っても聞かないから」
「ですよね」
「だから、頼れる人に手紙を出しておくわ」
「誰です? 訊いてよければですが」
「秘密」
「えー」
こんな感じで。
疑いを強めつつ、私たちは『曲がり川の郷」を後にしたのでした。
◆♀◆ 11、雨中の行軍 ◆♀◆
どざーーー・・・バラバラバラ・・・ざーー・・・・・・
雨がアスカリア北領の大地を打ちます。
地面もびしょ濡れ。あっちにもこっちにも小さな川ができ、泥水が流れております。
ビチャ、ビチャ、ビチャ。
馬の蹄が泥土に潜り、歩兵のブーツが重たくなります。
バラバラバラッ! ・・・ザァァァ。
雨が私の枝葉を打ちます。
流れ落ちた水で幹はズブ濡れ。ウロの上からボタボタと、滝のように滴ります。
「寒くありませんか? ファリアさま」
ナータちゃん殿下が気づかってくれました。
私はツタを巻き戻し、ウロのそばへ戻って、ガッツポーズしてあげました。
「大丈夫です。樹のときはね!」
樹ターリアです。
モターズ城に向けて、ニョロニョロと、行軍中です。
ウロの中には、ナータちゃんと・・・
「樹ターリアは、水と冷気には強いのよ」テニスお嬢さま。
「根が腐ったりはしないのかしら」マレーナ姉さん。
・・・この3人が入ってます。
ユリとモリーヌは、いずれも馬上。
クロークにすっぽりくるまって、歩兵どもの先頭を騎行中です。
オマエも入ったら? と、言ってはみたのですが。
バカ言え。私は指揮官だぞ。と、一蹴されました。
「水が入ってきたわ」とお嬢さま。
「あらら」
私は、空中を移動。ウロをふさぐように停止しました。
ユーラユラ。ユラユラ。ツタが、私を空中に保持してくれます。揺れるけど。
「ファリアさま」
「なんですナータちゃん殿下」
「殿下はやめてください私はメイドです!」
ナータちゃんはメイドの白い髪留めを直しました。
「侍女ね?」
「いまはメイドです!」
「はいはい」
「話を戻しますが、」
「はい」
「ファリアさまの、この、ツタ。力があるんですね。細いのに」
「ああ。はい、そうなんですよ」
現在、私は『樹木の乙女』状態。
母樹からツタで押し出され、空中に浮かんでいる状態です。
ツタは足につながってます。グルグル絡みついて、太腿から背中に回って、腕をグルグル回って、手の先へと伸びております。
細いんですが、私を空中に保持するぐらい、力はあるんですわ。
「このツタ、なかなかいいですよ。力だけじゃなくて、自由に動かせましてね」
手から伸びるツタを、ウロの上端に這わせました。
アーチみたいにします。
ボタボタ滴っていた水が、ツタを伝わって左右に流れ落ちるようになりました。
もうウロの中に滴ることはありません。
「ざっとこんなモンですわ」
「へぇ~」
ナータちゃんはツタをシコシコとこすりました。変な手の使い方すんな。
テニスお嬢さまがニヤニヤしながらマネしました。オマエわかっててやってるだろ。
マレーナ姉さんは、つまんで引っ張ってきました。「ロープにできないかしら・・・」
「切ったりしないでよ!?」私はビビりました。「私の一部ですからね、コレ」
「切らないわよ。私をなんだと思ってるの」
「園芸マニア」
「まったくもう」
「ははは」
笑って誤魔化しつつ。
列の先頭を見ます。
ザアザア降りの雨の中、ユリの背中は、かすんでます。
「はぁ・・・」
ため息をつくと。
マレーナ姉さんは肩をすくめてこう言いました。
「しょうがないわよ。戦士と付き合うって、こういうことだから」
「はい・・・」
◆♀◆ 12、うつろならぬ村 ◆♀◆
夜。雨中の行軍で冷えきったアスカリア軍は、大きな村にたどり着きました。
丘の上に広がる、大きな村です。
夕暮れの空を背景に、家々には明かりが灯り、煮炊きの煙が上がっていました。
「ナータちゃん。ここですよ」
私は紹介しました。
「『虚ろな食料』で、あやうく死にかけてた村ですわ」
「食べても栄養にならないという、アヤツリアの術ですね?」
「ガイコツの能力じゃなかったっけ?」
「リアが正解」とマレーナ姉さん。「髑髏魔人が『食べた』ものが、『虚ろな食料』になります」
「負けたー」ナータちゃんが悔しがりました。
「ま、戦術って意味では、アヤツリアの策ですわね」
「そうね」
「入る時もさぁ、すごかったんだぜ。ユリがガイコツを釣ってさ、ウジャウジャ出てきて」
「まあ!」
「それを姉さんがドゴーンってブッ飛ばしてさぁ」
「あなたもブレス吐いてたでしょ」
「勇者さま! 我らが領主よ! ようこそ、お出で下さいました!」
ツヤッツヤの顔した村長たちが、私たちを出迎えてくれました。
「元気そうだな!」ユリも笑顔です。
「おかげさまで。雨もよく降り、稗の出来もよろしく、もう安心ですじゃ!」
「そうかそうか」
「さあさあ、どうぞどうぞ!」
元気になった村人を見ながら、私たちは気持ちよく一夜を過ごしました。
ただ、気になったのは。
「カエル人どもが、縄張りを広げておりましてのう」
「ここでもカエルか・・・」
またしても、カエル人の情報が出てきたことでした。
「私は詳しくないのだが、」とユリ。「知ってることを教えてくれないか」
「御存知ないか。無理もない。魔王の勢い盛んなる頃は、息を潜めておりましたからのう」
「魔王が倒れたので、進出して来たと?」
「はい。そもそも、春の雨を好むヤツらだそうで」
「ふむ・・・」
「そのカエル人とは、こんな姿ですか?」
ナータちゃんが木片を取り出し、木炭で絵を描きました。
┗───┛
│・・│
┏───┓_
┏───┓──
「・・・。」村長は難しい顔をして、「・・・いや、どうじゃろ?」
「貸して」
お嬢さまが木片を取って、裏返し、新たに絵を描きました。
ドロゴン──ドログ・オロッシの絵です。
「おお! そうですな。こんなに細長くはありませんが。こういう感じじゃった」
「・・・伯爵」
「・・・うむ」
ドロゴンの正体。
どうも、カエル人とつながりがありそうな気配ですわ。
◆♀◆ 13、山登り ◆♀◆
『眠りの城』に行くときに通った道を、私たちは北上しました。
それから、西に折れます。
ちょっと残念だった。
そろそろ地平線に『日差さぬ森』が見えるかな・・・というあたりだったんでね。
見えたらお祈りしようと思ってたんだけど。まあしょうがない。
大きな街道に出ました。
道なりに北西へ進みます。
前方に、険しい山がそびえています。
「山登りだ」
昼休みに、ユリが説明しました。
「モターズ城は、あの山のてっぺんにあるんだ」
「うへぇ・・・」アスカリア歩兵どもが不平を垂れました。
街道は山に突っ込み、曲がったり折れ戻ったりしながら、湿気の多い森の中を抜けてゆきます。
きちんと整備された石畳の街道。
・・・なのですが、歩くのは大変です。
なんせ、ずっと登り坂なので。傾斜もかなりキツいし。
樹ターリア的にも、雨でびしょ濡れの石畳はキツい。根がすべって速度が落ちまくる。
「ショートカットしていい?」
「ダメだ!」
森の中に突っ込んで真っ直ぐ登ろうと思ってユリに訊いたら、強く禁止されました。
あれ? 警戒してんじゃん。・・・と思ったら、
午後、私たちの前方で、土砂崩れが起きました。
なるほど。崩れるから山に踏み込むなって言ってたのね・・・。
私たちは、土砂崩れの上を、恐る恐る越えてゆきました。
我が前世・男子高校生だったら、断固拒否したと思うが・・・
いまは、アスカリアのメイド侍だからね。
行くしかない。
さすがに、ユリとモリーヌは私が捕まえました。ウロに押し込んで渡してやった。
ベロ~ン君がめっちゃビビって『断固拒否!』みたいに足を突っ張るんで、苦労しました。
まったく、ビビり屋っつーか、常識人っつーか。誰に似たんだか。
登るに従って、山肌は岩へ、森は背の低い高原へ、変わってゆきました。
夕暮れを前に、雨が上がりました。
濃い霧が視界を遮ります。
その霧の色が、鮮やかなオレンジに変わったかと思うと・・・
私たちの頭上に、岩山の頂きと、モターズ城が現れました。
◆♀◆ 14、モターズ城 ◆♀◆
岩山がそびえ立ち、その頂上に、城壁と塔がありました。
塔には旗がひるがえっています。剣杖星樹紋章の旗──我らがアスカリアの旗です。
その城は、完全に周囲から隔絶されており・・・
唯一、石造りの橋によって、隣の山頂とつながっていました。
並び立つ双子の山頂を、一本の石橋が結んでいるのです!
・・・これ、地震来たら一発で落ちるんじゃね? と、前世・日本人男子は思いましたが。
ブレロッケ王国って、あんま地震ないんですわ。そういえばね。
この双子の岩山の麓は、まことに対照的なことになっておりました。
向こう側の岩山は、ホントにただの岩山なのですが。
こちら側──お城の建っている岩山は、足元が、湖なのです。
高原の湖。
湖中にそびえ立つ岩山。
その頂上に城。
そこへゆくには、隣の山の頂上から橋を渡るしかない・・・
「なるほど堅城ね」と、テニスお嬢さま。
「ええ。アヤツリアの『虚ろな食料』がなければ、落ちることはなかったでしょう」
マレーナ姉さんが静かに言いました。
「モターズ城──正式には、ロンバキーズ城。王国一の堅城よ」
高原の湖には、人家が群がっておりました。
文字通りの『城下町』ですな。城の足元に広がる都です。
湖岸には舟も泊まっておりました。漁師の舟かな。
カエル人の気配は、ありません。町は、静かに夕暮れを迎えています。
ロンバキーズ城は、騎兵隊を差し向けてきました。
ユリが名乗り、案内を命じます。
騎兵たちは私たちを先導して、向こう側の山へ渡りました。
山の麓に、吊り橋があるんですわ。頂上の石橋とはまた別の、木の吊り橋ね。
これで向こう側の山に渡る。
んで、山を登ってから、今度は石橋を渡って、やっとロンバキーズ城・・・というワケです。
つづら折れの道を登ること、およそ半刻。
岩山の頂上に出た私たちの前に、防衛門が立ちはだかりました。
防衛門、でっけぇ・・・
バリスタを備えた巨大な石塔は、こちらを押しつぶさんばかり。
門の厚みも、ものすごい。完全にトンネルです。
石橋に出ました。
右は虚空、左も虚空です。
幅は十分にある。けど、馬が暴走したら The END です。
騎兵たちは平気な顔で進んでゆきます。
ユリ・モリーヌも、降りるワケにはいかなくなったのでしょう、乗ったまま進みました。
テニスお嬢さまはベロ~ン君から降りました。私と一緒に歩きます。
あ、ちなみに私は、素ターリアに戻っております。
初対面で樹ターリアは、あんまりだしね。
『変容』能力は隠しておけ、という、ユリの命令でもあります。
・・・モターズ城が我々を裏切る可能性を考えて、かな。
冷たく湿った強風の中、虚空の橋を歩きます。
「恐ェ・・・」
「ブヒィ・・・」
「口に出さないでよ。伝染するでしょ」
お嬢さまに叱られつつ、私とベロ~ン君は泣く泣く恐怖の橋を渡ったのでした。
◆♀◆ 15、ロンバキーズの住み心地 ◆♀◆
天下の堅城、ロンバキーズ(モターズ城)。
ガッチガチに固められたこの石造りの城──というか要塞。
住み心地は、ダメでした。
圧迫感が・・・。
石材をこれでもかとばかりに分厚く組み上げて、セメントで固めた城ですが。
・・・はい。セメントです。ありますよ? 石灰を使うらしいですが。
とにかく、壁が分厚い!
そのせいで、中の空間が狭い!
まるで板金鎧を着た時のような圧迫感!
・・・むかし、アイメンカ侯爵家で、兜だけはかぶったことあるんですわ。
ものすごい圧迫感でした。息苦しいし、前しか見えないし、音も聞こえないし。
あれが24時間続く。そんな感じの苦しさです。
ユリの顔色がちょっと悪くなったのがわかりました。
城の大将に歓待されて、鷹揚にうなずいてはいるのですが・・・
「リアも、ちょっと気をつけてあげてね」マレーナ姉さんに言われました。
「ダメなんですか? こういうトコ」
「ええ。洞窟とか、こういうのはね」
マレーナさんは天井をチラッと見て、
「・・・あの人、床下に埋まった状態で発見されたから。たぶん、そのせいで」
「ああ・・・」
ユリは、大火災で両親を失って孤児になってます。
近所が全滅した中で、彼女だけ、聖女アスカリアさまに救い出されたのですが。
火に巻かれた両親が、赤ん坊だけ床下に逃がした・・・ってことでしょうか。
「妙に声が大きかったり、演技臭かったりしたら、無理してる証拠だから」
「・・・わかりました」
私は、うなずきました。
「姉さんと俺で、ユリを守りましょう」
「ええ」
うなずく私たちの耳に、ユリの笑い声が聞こえました。
夜。
馬や荷物を落ち着けた私たちは、ひとまずの休みに入りました。
今夜と明日1日は、重い仕事はしない予定。
と言っても、ユリは地元有力者との会談が入ってますが。
「私が伯爵でなくてよかったですわ」
「なによいきなり」
部屋で呟くと、即座にお嬢さまが反応しました。
「いや私ね? 求婚されてましたからね? モターズ伯に」
「知ってますわ! その噂」
と、ナータちゃん。彼女も同室です。
「あれ。ナータちゃん殿下もご存知で」
「ナータ!」
「はいはい」
「ずいぶん小さな頃から、熱烈に求められていたそうですね!」
「熱烈かどうか、私はよくは知らんのですがね。父母がお断りしてたようで」
「モターズ伯爵は、見る目はあったのですね」
ナータちゃんはしみじみと言いました。
「だって、ファリアさまは、勇者の側近になるほどの人なのですから」
「いやどうでしょうな?」
アヤツリアが、『私を利用しようとしたから殺してやった』って言ってたし。
見る目はなかったんじゃねーかな・・・。
「ファリアはクセの強い女だものね」とお嬢さま。
「アンタもな」
「アンタがよ」
「あはは」
くつろいでいると、マレーナ姉さんがやってきました。
「リアとテニスに頼みがあるんだけど」
「なんでしょう? 先輩」
「この城にいるあいだ、フにゃーリア、お願いできないかしら」
「構いませんが、なぜです?」
「ユリに張り付いてもらいたいの」
「ふむ?」
テニスお嬢さまは、私とナータちゃんを見ました。
ユリに、聴覚・嗅覚に優れるネコ娘・フにゃーリアを付けておきたい。
アラーム役をしてくれってコトですな。これは私も望むところです。
・・・しかし、ナータちゃんはどうする? という視線ですね。
「あ、お気遣いなく。1人になるようなら、護衛のところに戻りますので!」
ナータちゃんは健気なことを言いました。
『侍女』になってから、じつに生き生きと、楽しそうにしてたナータですが。
「お楽しみは、いつか終わるものですわ。憧れのユリさまに、迷惑はかけれません」
「ナータちゃん・・・」
私は彼女の隣に座り、肩を抱きました。
「そうですね」とマレーナさん。「心苦しいですが、そのようにお願いできますか」
「はい」
ナータはメイドの髪留めを外し、ワンピースの襟元をゆるめ始めました。
私は立ち上がって、
「変容せよ、フターリア。猫の力をその身に宿し、隠れたネズミを見つけ出せ。──ネコ娘に、な~れ!」
「ギニャー!! しっぽぉぉぉ!!!」
飛び上がって叫ぶハメになりました。
ニーズぅ! またノータイムで呪文かけやがって!
「パンティ下ろすまで待てって言ってるニャろ!」
ネコ娘、シッポが生えてきますんでね。
パンティ下ろしてないと、グキグキってなるんですわ。
「一刻も早くユリさまに甘えたいあなたの気持ちを汲んだのよ」
「んニャこと言ってニャ!」
「あはははは」
さてそういうワケで、私は(驚きの目で守備兵に見られつつ)、ユリの部屋に行ったのですが。
「ユリっぺ? さっき出てったぜ」
ドアの番をしてるアスカリア歩兵に、そう言われました。
「え? 夜だぜ?」
「夜だけどよ」
「どこ行ったんだよ?」
「空気吸ってくるっつってたから、ベランダじゃないッスかね」
「ああ・・・」
私はベランダを探しました。
わからん・・・
まるで迷路です。
窓がないんで、自分の位置や向きが全然わからん。外の風景が見えないんでね。
最終的に、鼻が、ユリをキャッチしてくれました。
「ここかぁ」
「・・・ん? リアか」
ベランダ。
というか、これは、弓兵のための張り出し城壁ですな。
その胸壁に、ユリはグニャッともたれかかってました。
私の声を聞くとシャキッとして振り向いてきましたが。
「フにゃーリアじゃんか!」
「イエス」
「『変容』見せんなって言ったろ!? もう! しょうがねぇヤツだなぁ!」
「第一夫人の御命令ニ゛ャからニャ」
「マリの?」
「イエス」
「そっか」
私はユリの隣に行きました。
頬っぺたに鼻を近づけて、ふんふん匂いを嗅ぐ。
「何してんだよ!」
「本能的ニャ動作ですわ」
人間ってね。自分で思ってるより細かい情報を出してるんですわ。匂いで。
調子がいいとか、悪いとか、嬉しいとか、恐いとか。
ネコになってみるとわかりますよ。
いまのユリは・・・
私は、ユリと同じ向きで、胸壁にもたれました。
目の前は、空です。
下には、もう一段下の防衛ベランダと、その下の城壁。
その先はもうない。絶壁は城壁に邪魔されて見えず、遥か下の湖水が見えるのみです。
「・・・ここさぁ、悲劇の伝説があるんだぜ」ユリが言い出しました。
「なんニャそれ」
「むかし、美しい姫がいて、望まぬ結婚を強いられた。姫は意中の恋人の守るこの城に逃げ込む」
「ニャ」
「だが敵に囲まれ、逃げ場が消えた。恋人は出撃するも、討ち死に」
「うニャ」
「得意顔で乗り込んできた敵の目の前で、姫は湖に身を投げた」
「救いのねー話だニャ・・・」
「ここから落ちたら、死ぬよなぁ」
「そりゃニャ」
と、私たちが湖を見下ろしていた時でした。
フにゃーリアの鼻が、泥の匂いを捉えたのは。
「ニャんかいるぞ」
「なに?」
「沼の匂いがする。下。・・・あそこ!」
夜の湖面を静かに泳ぎ来たる、巨大な影・・・
そいつが起こす波。その波が反射する月明かり。
私たちは、その巨大さに、見覚えがありました。
「ドロゴン!!!」
◆♀◆ 16、ドロゴンふたたび ◆♀◆
ガガン、ガガン、ガガン、ガガン・・・!!!
『敵襲』の鐘が打ち鳴らされました。
その音は城内全域に──それどころか、城下町にも響き渡ります。
石の城、ダンジョンのような通路に守備兵が現れました。槍と盾、あるいは弓を持ち、湖を見下ろす防衛ベランダに駆けつけます。
確かに、ドロゴンでした。
倒したハズなのに・・・
「いや、別の個体じゃないか? 動きが違うぞ」
ユリが言いました。
たしかに。
今回のドロゴンは、動きに無駄がない。
湖に姿を隠して泳ぎ渡ってきたかと思うと、迷うことなく崖を登り始めた。
私たちのところへ、登って来るのです!
体長が1町はあろうかというドロゴン。
泥の巨大怪獣が、確実に、迫ってきます!
私たちは、手の出しようがありません。
下手に高い位置にいるせいで、斬りに行くことができん。呪文も届かん。
マレーナ姉さんの『雷』も、こちらが高いのでダメ。
弓を撃つも効果なし。「矢の無駄だ」と、ユリがやめさせました。
そして。
ついに城壁に手を掛けたドロゴンは。
そのバカでかい口を開いて・・・
口の中から、カエル人を吐き出したのです!
「カエル母艦!」
私は叫びました。
「クソ。樹ターリアみたいなマネしやがって」
「これまでに、こういう事態は?」ユリが訊きました。
「ありませぬ」
駆けつけた城の大将が答えました。
「この城にあれらが近付いたことはなく、戦ったこともございませぬ」
やりとりする間にも、一番下の城壁では、戦闘が始まっておりました。
ドロゴンから吐き出され、城壁に飛び込んでくるカエル人ども。両手に石を握っています。その石で守備兵に打ちかかり、あるいは投げつけて倒そうとします。
守備兵のほうは、盾でこれを防ぎ、槍で突き刺して仕留めてゆきます。
これだけなら。
守備兵は圧倒的に優勢、勝ちは見えておりました。
しかし。
「ゴポゴポゴポ」
ドロゴンが唱えて、口をカパッと。
「飛び道具が来るぞ!!!」ユリが怒鳴りました。「盾かざせ! しゃがめ、しゃがめ!!!」
どぱん!!!
大砲みたいな音をさせて、泥の散弾がブッ放されました。
城壁にいた兵に、あるいはカエル人も巻き込んで、泥の塊が命中。
その重量と速度は、鎧を着た男を軽々と吹っ飛ばすほど。
カエル人も守備兵も、まとめて薙ぎ払われてしまいました。
「アイツをやらんと、どうしようもないな」
ユリが胸壁にヒョイと飛び乗りました。
「閣下!? なにを」「ニャにするつもりニャ!?」
私たちはあわてました。
「ヤツを斬りに行く」
「ムチャすんニャ!」
「・・・ユリ」
マレーナ姉さんも出て来ました。クロスボウ型の弾弓(粘土弾撃つヤツね)を抱えてます。
「どうする気?」
「アイツを斬る」
「そう」姉さんは、弾弓の装填を開始しました。「行ってらっしゃい」
「うん。行ってくる」
ユリは飛び降りました。
◆♀◆ 17、勇者、飛ぶ ◆♀◆
剣杖星樹紋章のマントを翻して落下するユリ。
ドロゴンは、彼女の姿を捉えました。
・・・いや、ちがうな!?
ドロゴンの頭ンとこに1匹いるわ! カエル人が!
へばりついてるその1匹が、盛んに指示飛ばしてる。
「アイツが目をやってる!」
「・・・!」
私の声を聞いた大将が、弓を取りました。矢をつがえ、いつでも引ける体勢となる。
──しかし、さすがにいま撃つことはできん。ユリに当たる。
ドロゴンのほうは。
ガマ口を開いて・・・
ビュゴッ!!! 舌を、ユリめがけて撃ち出しました。
人間の胴体と同じぐらい太い、巨大な舌です。
それがユリに迫って・・・
ずぱん。斬り落とされました。
『聖剣』か。ユリの必殺の呪文剣。落下しながら唱えてたようです。
さらに次の呪文。
「風よ変容せよ! 渦を巻いて、受け止めよ! ――『つむじ風』!」
これで自分の落下を減速させ、方向をコントロール。
ドロゴンの右のツノに、着地しました。
人間の身体と同じぐらいの大きさのツノに・・・それも、動いているツノに、着地です。
マンガみてぇなコトしやがる・・・。
ドロゴンの頭のてっぺんにいたカエル人が立ち上がって、何か唱えようとしました。
その顔面に、矢が生えた。大将の放った矢です。お見事!
ユリはふたたび『聖剣』を詠唱。
「我は変容す! 雷切り裂く剣聖の神通力よ我にあれ。泥の守りを割らしめたまえ!」
そして、再度ジャンプ。
ドロゴンの頭を飛び越しまして、闇の湖へ落下してゆきます。
「前回、ドロゴンを倒した時ね」と、マレーナ姉さん。
「はい?」
「『正体』は、うなじのあたりに埋もれていたのよ」
頭を飛び越したユリは、第四の詠唱。
「大気よ変容せよ。我を巻き、我が剣に裂かしめよ。──つるぎの竜巻っ!!」
グリッとねじれて鋭く回転。
野球のバッターのようなフォームで、『聖剣』をブン回し・・・
ドロゴンのうなじを、かぱっと、切り開きました。
真っ二つになる泥の塊。その中に、真っ二つになった白骨が見えました。『正体』です!
「やった! けど・・・!」
「大丈夫。あの人は大丈夫」
ユリがチラッとこっちを見る動作をしました。
落下中、体勢も崩れていたので、焦点はこっちに合ってませんでしたが。
マレーナ姉さんにはそれで十分だったようです。
「此は烈火、」
姉さんは、弾弓を放ちました。
ばよん。・・・というようなマヌケな音を立てて、粘土玉が飛んでゆきます。
玉は、遥か下の湖面まで、フラフラと風に煽られながら飛んで・・・
「焼き討て!」
姉さんの一言で、炸裂しました。
火の玉。
湖面に赤々と。
ユリとマントが黒い影となりました。
火と水の噴き上がる爆心地に、ユリは着地。
無事です。爆風と『つむじ風』をブレーキにしたのか?
右往左往するカエル人どもを、次から次へと斬って捨てました。
ざあああ・・・『焼き討て』で噴き上がっていた水が、その背中を濡らします。
ユリは平気でした。左を斬って右を蹴り、右を斬って左に体当たり。
いくらか泥をかぶりつつも、まったくの無傷で片付けてゆきます。
「ユリって・・・苦戦することあんの・・・?」
「あんまりないわね」
最後に、ユリは崖をよじ登って、城まで上がってきました。
ほとんど垂直な崖なんですけど・・・
守備兵たちは、歓呼の声で、この新しい領主を迎えたのでした。