※この作品はR-18です。

TSゆりフタ令嬢侍女メイド!   作:min(みならい)R18

38 / 52
私は勇者

◆♀◆ 8、私は勇者 ◆♀◆

 

「──ってのが、ワタリガラスの歌の内容だ」

 

 フターリアです。

 ワタリガラスの警告(?)からすぐ、ユリを追いかけました。

 ユリの部屋にみんなが集まる。

 歌の中身を伝えました(ナータちゃんが)。

 

 伯爵閣下の反応は。

 

「で?」耳ほじくりながらユリ。

「反応それかよ」

「フ」ユリは耳垢を吹き飛ばしました。「リア。私は、勇者なんだよ」

「知ってるけど」

「魔王の軍勢を斬ってきた」

「うん」

「当然、残党にはずーっと生命を狙われてる」

「・・・うん」

「で?」

「いや、俺に訊かれても困るけど」

「www」ユリは笑いました。「それが私の言いたいことだよ」

「・・・。」

「そんなあやふやな歌、どうもこうもない」ユリは立ち上がりました。「放っとけ。解散」

「いやちょっと待てよ。そんな軽々しく。せめて警戒を強めるとかさぁ」

「いらんいらん。解散解散」

「待てって!」

 私がユリの腕にすがると、ユリは大きなため息をつきました。

「リア。私の師匠の言葉を教えてやろう」

「・・・なんだよ」

「『死の予告におびえるな』だ」

「私も似たようなことを言われましたわ!」とナータちゃん。

「でしょうな」ユリ、うなずく。「よい師匠にして、よい父上であらせられる」

「・・・だらしないところもありますが」ナータちゃんは私を横目で見ました。

「・・・。」

「ま、そういうワケだ。ハイ解散。みんな忙しいんだからさ」

 

 マレーナさんが、そしてテニスお嬢さまとモリーヌが、軽くお辞儀して退出しました。

 私は立ち尽くしました。

 

「リア」

「ファリアさま?」

 ユリとナータに促されましたが。

「だ・・・だってよォ・・・」

 

 私は。こんなことを、口走ってしまいました。

 

「オマエに万が一があったら、どうすりゃいいんだよ・・・!」

 

 するとユリは。

「はは~んw へぇぇ~w」

「・・・ンだよ」

「可愛いコト言うようになったなぁ?」

「うるせぇ」私はそっぽ向きました。身体が熱い。「婚約者心配して、何が悪いんだよ」

「ふふ♥」

 ユリは私の顎をくすぐってから、

「聞けよ。フターリアくん」少しだけ、長い話をしてくれました。

 

 「私は勇者だ。けど、無敵じゃない。

  斬られりゃ死ぬ。刺されりゃ死ぬ。

  毒で死ぬし、飢えでも死ぬ。

  いつかそんな日も来るだろう。

  で?

  いつか死ぬから、勇者をやめろって?

  一緒に『冒険者の村』を守ってきたヤツらを失望させろって?

  イヤだね!

  私はやめない。下がりもしない。ビビりもしないぞ!」

 

「・・・。」私は俯きました。「わかったよ。好きにしろよ」

「は?」

「ついて行くよ。オマエによ。侍になるって誓った以上はよ」

「リア」

「じゃーな」私は回れ右しました。

「わぁ・・・♥」ナータちゃんが両手で口押さえてこっち見てました。

「・・・えっと」

「テっ、テニスに言ってきまアダッ!!!」

 ナータちゃん、部屋を飛び出そうとしてスカートを長櫃に引っ掛けてつんのめりました。

「大丈夫かよ」

「大丈夫です!」

 走り去りました。元気やな。

「・・・失礼します」

「ん」

 

◆♀◆ 9、ナータちゃん、居合わせる ◆♀◆

 

「ナータ? 来てないわよ」

「え?」

 

 部屋に戻ったら、テニスお嬢さましかいませんでした。

 なんでじゃ。どこ行ったんじゃ殿下。

 

「ナータさまでしたら、バケツを持って井戸のほうへゆかれましたが」

「井戸か。行くぞモリーヌ」

 モリーヌが見かけてた。一緒に追いかけます。

 

 1人でウロチョロすんのはやめてくれんかな・・・

 メイドに変装中っつっても、王女なんだからさ。

 『落ち着け』ってのも、酷だけどね。

 身体は13歳、心は11歳だもんな・・・

 

 ──さて。この時、ナータが何をしていたかというと。

 

「ゴポゴポ・・・貴様の裏切り、許されぬ。ゴポゴポ・・・」

「カエル人め。つけ上がるでない。知らぬと申しておろうが」

「・・・!?」

 

 とんでもない場面を、目の当たりにしていたのです。

 

 赤毛のユリヲワーナ代官と、小さな怪物の、密談の現場!

 

 小さな怪物──『カエル人』と、代官が呼んだ相手──は、ツノのある小人でした。

 全身、泥まみれ。

 ツノ以外は特徴が掴みづらい。

 背は人間の半分ほど。

 目は垂れ落ちる泥に埋もれてます。

 服は・・・着ているのでしょうか? 泥と見分けがつきません。

 手足は左右に広がり、ガニ股で、水かきがあります。

 尻に、フタゴンみたいな、太いシッポがある。

 

 このような、怪しげなる小人。

 雑草生い茂る排水口のフチに、立っておる。

 ユリヲワーナ代官が、そいつと向かい合っているのです。

 

 ナータは、井戸の場所を間違えて、たまたま近付いてしまいましたが。

 そうでなければ、こんな納屋の裏側の暗い路地、夕方に歩く者は、居りますまい。

 

「突然の、襲撃。裏切り。許されぬ・・・」

 カエル人は、怒っていました。

「オマエにもらったメダルと言った・・・」

「知らぬ」

「勇者まで、連れてきた・・・許されぬ。ゴポゴポ・・・この村、葬り去る。ゴポッ・・・!」

「早まるでない。あの女はな、私の思い通りにはならんのだ」

「ゴポゴポ・・・」

 カエル人とユリヲワーナ代官の話は続きます。

「ヤツの予定を教えてやる。それで手を打て」

「メダル・・・オドロガミのメダルは、返される・・・」

「私の手元にはないのじゃ。じゃが、見つかったら返してやろう。約束する」

「ゴボ・・・ゴポゥ・・・」

「さ、ヤツの予定じゃ。貴様は、字が読めたな?」

「ゴボ・・・」

 代官は、銅の筒を手渡しました。

 筒には・・・手紙が入っているのでしょうか?

「後は好きにせよ。じゃが、この村を襲うのはナシじゃ。よいな?」

「ゴポ・・・」

「ではな」

 ユリヲワーナ代官は、クルリと向きを変えました。

 

 ナータの方へ歩いて来ます。

 

「!!」

 ナータちゃんは速やかに、忍びやかに、その場から逃げ出そうとしました。

 そして、

「アダッ!」納屋の支柱に蹴つまずきました。

「誰じゃ!」

 ユリヲワーナ代官はそう叫んで、声のしたところへ駆け寄ります。

 納屋の角を曲がって、

「うおっ!?」

 

 長身の娘とぶつかって、彼女のデカパイに弾き飛ばされました。

 

「ぐえー!」地面に転がるおばさん代官。

「代官閣下。おお。これはいけない。おケガはございませんか」

 長身の娘が言います。棒読みでした。

 鎧を着た戦士が駆け寄って来ます。

 助け起こされたユリヲワーナ代官は、ダラダラと汗をかきながら、

「だ、大丈夫ですぞ。そちらこそ──フターリア姫?」

 長身デカパイ娘を、見上げました。

「ええ」娘はクールな美貌で見下ろしてきました。「私はまったく」

 

 フターリア姫。

 正直・・・怪しい姫君です。

 

 胸元を突き上げる乳のボリュームは、まことに見事なもの。

 冷静な美貌も、王都で人気のある真っ黒な髪も、素晴らしい。

 しかも、勇者の側仕え。15歳の小娘が、ずいぶんと恵まれたものです!

 

 ・・・ではなくて。

 

 護衛です。常に彼女の側をウロついている、護衛の連中。

 異質。

 練度が高すぎる。

 しかも、王都言葉でしゃべっておる。

 フターリア姫は、ダンゼイズ出身のアイメンカ育ち。

 その彼女に、なぜ、王都の護衛が?

 

 ──フターリア姫は、王家の誰かの、お気に入りだから。

 

 そう考えるのが、自然でしょう。

 となれば、『先ほどの娘を出せ!』などと迫るのは、危険。

 どこまで聞かれたかは気になるが・・・ここは、穏便な追及に留めるが吉。

 

 このように計算して、ユリヲワーナ代官は話を再開しました。

 

「姫におケガがなくて、まことに幸いでした」

「ありがとうございます」

「いえいえ。ところで、先ほど、大きな声がしたようですが?」

「ああ、それでしたら、私の・・・・・・・・・侍女が」

「侍女さまが」

「井戸で水を汲んでいたところ、バケツを落っことして。足に」

「おや、まあ! おケガは」

「大丈夫ですわ。それで、代官閣下は、なぜここに?」

「それが・・・、先ほど、カエル人の姿が見えましてな」

「カエル人?」

「ええ。沼地に棲む、いやらしい小人です」

「ほう?」

「それが、村の中まで入り込んでおりましてな。追っ払っておったところ」

「ほほう?」

「そこに大きな声がしたので、あわてて見に来たと、こういう次第で」

「そうでしたか」

「で・・・、その侍女さまは、御無事で?」

「ご心配には及びませんわ」

 フターリア姫は、クールな目付きはそのまま、唇だけで笑いました。

 しっかりを背を伸ばして・・・(突き出した乳のふくらみが、代官を弾き飛ばさんばかりでした)

「ナータは、私どもが ち ゃ ん と 見 て お り ま す ので」

「・・・そうですか」

「では、失礼」

 

◆♀◆ 10、勇者の進路に変更ナシ ◆♀◆

 

「──ってコトがあってさぁ!」

「うるさいな! 声がデカいよ!」

 

 フターリアです。

 代官とやり合った私は、すぐにユリのところに戻って、事の始終を伝えました。

 

「ユリ。オマエ絶ッ対狙われてっから。予定変更しようって!」

「却下」

「えー!?」

「うるさい」

「せめて進路変更」

「しない。こっちが警戒してるってバレたら、向こうが作戦変えちゃうだろ」

「・・・あ、警戒はしてんの?」

「当たり前だろっ」

「あてっ」頭はたかれました。

「私を信じろ。やられはせんよ」

「いや、信じてるけどさぁ・・・アイツ、クビにできないの?」

「できない」ユリは肩をすくめました。「イクサーさまの紹介でな」

「イクサーさま」

「国王陛下の従兄で、司厨長ですわ」と、国王通のナータちゃん。「『妨害』と剣術の達人です」

「あー! アヤツリアの乱のとき、奮戦した御方?」

「そう」とユリ。「王家派のまとめ役だ。いわば私の上司さ」

「あー・・・」

「だから冷遇はできん。吊るすのは、証拠が揃ってからだ」

「あの、」ナータちゃんが手を上げました。「ユリさまは、『カエル人』を御存知で?」

「いえ全然。初耳ですな。そうだな。リア、マリとテニスに訊いといてくれ」

「はい」

「予定は変更しないからな」

「・・・。」

 

 テニスお嬢さまに訊いてみた。

「母上の本によれば、『北方にカエル人あり。泥に潜む。詳細不明』ですって」

「母上も知らない種族なのか・・・」

「母は一介の魔術師よ? 知らないコトだってあるでしょ」

 

 マレーナ姉さんに訊いてみた。

「知らないわ」

「姉さんもですか」

「ユリの下に入るまでは、王都で勉強漬けだったから、私」

「へぇ」

「ユリもティニーモノーシャさまも知らないことなら、私も知らないわ」

「木の育て方とか?」

「あれは趣味よ」

 マレーナさん、羽ペン取って、サラサラと何か書き始めました。

「・・・。」

 私が口ごもっていると、姉さんは言いました。

「あの人は、言っても聞かないから」

「ですよね」

「だから、頼れる人に手紙を出しておくわ」

「誰です? 訊いてよければですが」

「秘密」

「えー」

 

 こんな感じで。

 疑いを強めつつ、私たちは『曲がり川の郷」を後にしたのでした。

 

◆♀◆ 11、雨中の行軍 ◆♀◆

 

 どざーーー・・・バラバラバラ・・・ざーー・・・・・・

 雨がアスカリア北領の大地を打ちます。

 地面もびしょ濡れ。あっちにもこっちにも小さな川ができ、泥水が流れております。

 ビチャ、ビチャ、ビチャ。

 馬の蹄が泥土に潜り、歩兵のブーツが重たくなります。

 バラバラバラッ! ・・・ザァァァ。

 雨が私の枝葉を打ちます。

 流れ落ちた水で幹はズブ濡れ。ウロの上からボタボタと、滝のように滴ります。

 

「寒くありませんか? ファリアさま」

 ナータちゃん殿下が気づかってくれました。

 私はツタを巻き戻し、ウロのそばへ戻って、ガッツポーズしてあげました。

「大丈夫です。樹のときはね!」

 

 樹ターリアです。

 モターズ城に向けて、ニョロニョロと、行軍中です。

 ウロの中には、ナータちゃんと・・・

「樹ターリアは、水と冷気には強いのよ」テニスお嬢さま。

「根が腐ったりはしないのかしら」マレーナ姉さん。

 ・・・この3人が入ってます。

 

 ユリとモリーヌは、いずれも馬上。

 クロークにすっぽりくるまって、歩兵どもの先頭を騎行中です。

 オマエも入ったら? と、言ってはみたのですが。

 バカ言え。私は指揮官だぞ。と、一蹴されました。

 

「水が入ってきたわ」とお嬢さま。

「あらら」

 私は、空中を移動。ウロをふさぐように停止しました。

 ユーラユラ。ユラユラ。ツタが、私を空中に保持してくれます。揺れるけど。

「ファリアさま」

「なんですナータちゃん殿下」

「殿下はやめてください私はメイドです!」

 ナータちゃんはメイドの白い髪留めを直しました。

「侍女ね?」

「いまはメイドです!」

「はいはい」

「話を戻しますが、」

「はい」

「ファリアさまの、この、ツタ。力があるんですね。細いのに」

「ああ。はい、そうなんですよ」

 

 現在、私は『樹木の乙女』状態。

 母樹からツタで押し出され、空中に浮かんでいる状態です。

 ツタは足につながってます。グルグル絡みついて、太腿から背中に回って、腕をグルグル回って、手の先へと伸びております。

 細いんですが、私を空中に保持するぐらい、力はあるんですわ。

 

「このツタ、なかなかいいですよ。力だけじゃなくて、自由に動かせましてね」

 

 手から伸びるツタを、ウロの上端に這わせました。

 アーチみたいにします。

 ボタボタ滴っていた水が、ツタを伝わって左右に流れ落ちるようになりました。

 もうウロの中に滴ることはありません。

 

「ざっとこんなモンですわ」

「へぇ~」

 ナータちゃんはツタをシコシコとこすりました。変な手の使い方すんな。

 テニスお嬢さまがニヤニヤしながらマネしました。オマエわかっててやってるだろ。

 マレーナ姉さんは、つまんで引っ張ってきました。「ロープにできないかしら・・・」

「切ったりしないでよ!?」私はビビりました。「私の一部ですからね、コレ」

「切らないわよ。私をなんだと思ってるの」

「園芸マニア」

「まったくもう」

「ははは」

 笑って誤魔化しつつ。

 列の先頭を見ます。

 ザアザア降りの雨の中、ユリの背中は、かすんでます。

「はぁ・・・」

 ため息をつくと。

 マレーナ姉さんは肩をすくめてこう言いました。

「しょうがないわよ。戦士と付き合うって、こういうことだから」

「はい・・・」

 

◆♀◆ 12、うつろならぬ村 ◆♀◆

 

 夜。雨中の行軍で冷えきったアスカリア軍は、大きな村にたどり着きました。

 丘の上に広がる、大きな村です。

 夕暮れの空を背景に、家々には明かりが灯り、煮炊きの煙が上がっていました。

 

「ナータちゃん。ここですよ」

 私は紹介しました。

「『虚ろな食料』で、あやうく死にかけてた村ですわ」

「食べても栄養にならないという、アヤツリアの術ですね?」

「ガイコツの能力じゃなかったっけ?」

「リアが正解」とマレーナ姉さん。「髑髏魔人が『食べた』ものが、『虚ろな食料』になります」

「負けたー」ナータちゃんが悔しがりました。

「ま、戦術って意味では、アヤツリアの策ですわね」

「そうね」

「入る時もさぁ、すごかったんだぜ。ユリがガイコツを釣ってさ、ウジャウジャ出てきて」

「まあ!」

「それを姉さんがドゴーンってブッ飛ばしてさぁ」

「あなたもブレス吐いてたでしょ」

 

「勇者さま! 我らが領主よ! ようこそ、お出で下さいました!」

 ツヤッツヤの顔した村長たちが、私たちを出迎えてくれました。

 

「元気そうだな!」ユリも笑顔です。

「おかげさまで。雨もよく降り、稗の出来もよろしく、もう安心ですじゃ!」

「そうかそうか」

「さあさあ、どうぞどうぞ!」

 

 元気になった村人を見ながら、私たちは気持ちよく一夜を過ごしました。

 ただ、気になったのは。

 

「カエル人どもが、縄張りを広げておりましてのう」

「ここでもカエルか・・・」

 

 またしても、カエル人の情報が出てきたことでした。

 

「私は詳しくないのだが、」とユリ。「知ってることを教えてくれないか」

「御存知ないか。無理もない。魔王の勢い盛んなる頃は、息を潜めておりましたからのう」

「魔王が倒れたので、進出して来たと?」

「はい。そもそも、春の雨を好むヤツらだそうで」

「ふむ・・・」

「そのカエル人とは、こんな姿ですか?」

 ナータちゃんが木片を取り出し、木炭で絵を描きました。

 

 ┗───┛

 │・・│

 ┏───┓_

 ┏───┓──

 

「・・・。」村長は難しい顔をして、「・・・いや、どうじゃろ?」

「貸して」

 お嬢さまが木片を取って、裏返し、新たに絵を描きました。

 

 ドロゴン──ドログ・オロッシの絵です。

 

「おお! そうですな。こんなに細長くはありませんが。こういう感じじゃった」

 

「・・・伯爵」

「・・・うむ」

 

 ドロゴンの正体。

 どうも、カエル人とつながりがありそうな気配ですわ。

 

◆♀◆ 13、山登り ◆♀◆

 

 『眠りの城』に行くときに通った道を、私たちは北上しました。

 それから、西に折れます。

 ちょっと残念だった。

 そろそろ地平線に『日差さぬ森』が見えるかな・・・というあたりだったんでね。

 見えたらお祈りしようと思ってたんだけど。まあしょうがない。

 大きな街道に出ました。

 道なりに北西へ進みます。

 前方に、険しい山がそびえています。

「山登りだ」

 昼休みに、ユリが説明しました。

「モターズ城は、あの山のてっぺんにあるんだ」

 「うへぇ・・・」アスカリア歩兵どもが不平を垂れました。

 

 街道は山に突っ込み、曲がったり折れ戻ったりしながら、湿気の多い森の中を抜けてゆきます。

 きちんと整備された石畳の街道。

 ・・・なのですが、歩くのは大変です。

 なんせ、ずっと登り坂なので。傾斜もかなりキツいし。

 樹ターリア的にも、雨でびしょ濡れの石畳はキツい。根がすべって速度が落ちまくる。

「ショートカットしていい?」

「ダメだ!」

 森の中に突っ込んで真っ直ぐ登ろうと思ってユリに訊いたら、強く禁止されました。

 あれ? 警戒してんじゃん。・・・と思ったら、

 

 午後、私たちの前方で、土砂崩れが起きました。

 

 なるほど。崩れるから山に踏み込むなって言ってたのね・・・。

 

 私たちは、土砂崩れの上を、恐る恐る越えてゆきました。

 我が前世・男子高校生だったら、断固拒否したと思うが・・・

 いまは、アスカリアのメイド侍だからね。

 行くしかない。

 さすがに、ユリとモリーヌは私が捕まえました。ウロに押し込んで渡してやった。

 ベロ~ン君がめっちゃビビって『断固拒否!』みたいに足を突っ張るんで、苦労しました。

 まったく、ビビり屋っつーか、常識人っつーか。誰に似たんだか。

 

 登るに従って、山肌は岩へ、森は背の低い高原へ、変わってゆきました。

 夕暮れを前に、雨が上がりました。

 濃い霧が視界を遮ります。

 その霧の色が、鮮やかなオレンジに変わったかと思うと・・・

 

 私たちの頭上に、岩山の頂きと、モターズ城が現れました。

 

◆♀◆ 14、モターズ城 ◆♀◆

 

 岩山がそびえ立ち、その頂上に、城壁と塔がありました。

 塔には旗がひるがえっています。剣杖星樹紋章の旗──我らがアスカリアの旗です。

 その城は、完全に周囲から隔絶されており・・・

 唯一、石造りの橋によって、隣の山頂とつながっていました。

 

 並び立つ双子の山頂を、一本の石橋が結んでいるのです!

 

 ・・・これ、地震来たら一発で落ちるんじゃね? と、前世・日本人男子は思いましたが。

 ブレロッケ王国って、あんま地震ないんですわ。そういえばね。

 

 この双子の岩山の麓は、まことに対照的なことになっておりました。

 向こう側の岩山は、ホントにただの岩山なのですが。

 こちら側──お城の建っている岩山は、足元が、湖なのです。

 高原の湖。

 湖中にそびえ立つ岩山。

 その頂上に城。

 そこへゆくには、隣の山の頂上から橋を渡るしかない・・・

 

「なるほど堅城ね」と、テニスお嬢さま。

「ええ。アヤツリアの『虚ろな食料』がなければ、落ちることはなかったでしょう」

 マレーナ姉さんが静かに言いました。

「モターズ城──正式には、ロンバキーズ城。王国一の堅城よ」

 

 高原の湖には、人家が群がっておりました。

 文字通りの『城下町』ですな。城の足元に広がる都です。

 湖岸には舟も泊まっておりました。漁師の舟かな。

 カエル人の気配は、ありません。町は、静かに夕暮れを迎えています。

 

 ロンバキーズ城は、騎兵隊を差し向けてきました。

 ユリが名乗り、案内を命じます。

 騎兵たちは私たちを先導して、向こう側の山へ渡りました。

 山の麓に、吊り橋があるんですわ。頂上の石橋とはまた別の、木の吊り橋ね。

 これで向こう側の山に渡る。

 んで、山を登ってから、今度は石橋を渡って、やっとロンバキーズ城・・・というワケです。

 

 つづら折れの道を登ること、およそ半刻。

 岩山の頂上に出た私たちの前に、防衛門が立ちはだかりました。

 

 防衛門、でっけぇ・・・

 

 バリスタを備えた巨大な石塔は、こちらを押しつぶさんばかり。

 門の厚みも、ものすごい。完全にトンネルです。

 

 石橋に出ました。

 右は虚空、左も虚空です。

 幅は十分にある。けど、馬が暴走したら The END です。

 騎兵たちは平気な顔で進んでゆきます。

 ユリ・モリーヌも、降りるワケにはいかなくなったのでしょう、乗ったまま進みました。

 テニスお嬢さまはベロ~ン君から降りました。私と一緒に歩きます。

 

 あ、ちなみに私は、素ターリアに戻っております。

 初対面で樹ターリアは、あんまりだしね。

 『変容』能力は隠しておけ、という、ユリの命令でもあります。

 ・・・モターズ城が我々を裏切る可能性を考えて、かな。

 

 冷たく湿った強風の中、虚空の橋を歩きます。

 

「恐ェ・・・」

「ブヒィ・・・」

「口に出さないでよ。伝染するでしょ」

 お嬢さまに叱られつつ、私とベロ~ン君は泣く泣く恐怖の橋を渡ったのでした。

 

◆♀◆ 15、ロンバキーズの住み心地 ◆♀◆

 

 天下の堅城、ロンバキーズ(モターズ城)。

 ガッチガチに固められたこの石造りの城──というか要塞。

 住み心地は、ダメでした。

 

 圧迫感が・・・。

 

 石材をこれでもかとばかりに分厚く組み上げて、セメントで固めた城ですが。

 ・・・はい。セメントです。ありますよ? 石灰を使うらしいですが。

 とにかく、壁が分厚い!

 そのせいで、中の空間が狭い!

 まるで板金鎧を着た時のような圧迫感!

 

 ・・・むかし、アイメンカ侯爵家で、兜だけはかぶったことあるんですわ。

 ものすごい圧迫感でした。息苦しいし、前しか見えないし、音も聞こえないし。

 あれが24時間続く。そんな感じの苦しさです。

 

 ユリの顔色がちょっと悪くなったのがわかりました。

 城の大将に歓待されて、鷹揚にうなずいてはいるのですが・・・

 

「リアも、ちょっと気をつけてあげてね」マレーナ姉さんに言われました。

「ダメなんですか? こういうトコ」

「ええ。洞窟とか、こういうのはね」

 マレーナさんは天井をチラッと見て、

「・・・あの人、床下に埋まった状態で発見されたから。たぶん、そのせいで」

「ああ・・・」

 

 ユリは、大火災で両親を失って孤児になってます。

 近所が全滅した中で、彼女だけ、聖女アスカリアさまに救い出されたのですが。

 

 火に巻かれた両親が、赤ん坊だけ床下に逃がした・・・ってことでしょうか。

 

「妙に声が大きかったり、演技臭かったりしたら、無理してる証拠だから」

「・・・わかりました」

 私は、うなずきました。

「姉さんと俺で、ユリを守りましょう」

「ええ」

 うなずく私たちの耳に、ユリの笑い声が聞こえました。

 

 夜。

 馬や荷物を落ち着けた私たちは、ひとまずの休みに入りました。

 今夜と明日1日は、重い仕事はしない予定。

 と言っても、ユリは地元有力者との会談が入ってますが。

 

「私が伯爵でなくてよかったですわ」

「なによいきなり」

 部屋で呟くと、即座にお嬢さまが反応しました。

「いや私ね? 求婚されてましたからね? モターズ伯に」

「知ってますわ! その噂」

 と、ナータちゃん。彼女も同室です。

「あれ。ナータちゃん殿下もご存知で」

「ナータ!」

「はいはい」

「ずいぶん小さな頃から、熱烈に求められていたそうですね!」

「熱烈かどうか、私はよくは知らんのですがね。父母がお断りしてたようで」

「モターズ伯爵は、見る目はあったのですね」

 ナータちゃんはしみじみと言いました。

「だって、ファリアさまは、勇者の側近になるほどの人なのですから」

「いやどうでしょうな?」

 

 アヤツリアが、『私を利用しようとしたから殺してやった』って言ってたし。

 見る目はなかったんじゃねーかな・・・。

 

「ファリアはクセの強い女だものね」とお嬢さま。

「アンタもな」

「アンタがよ」

「あはは」

 

 くつろいでいると、マレーナ姉さんがやってきました。

 

「リアとテニスに頼みがあるんだけど」

「なんでしょう? 先輩」

「この城にいるあいだ、フにゃーリア、お願いできないかしら」

「構いませんが、なぜです?」

「ユリに張り付いてもらいたいの」

「ふむ?」

 テニスお嬢さまは、私とナータちゃんを見ました。

 

 ユリに、聴覚・嗅覚に優れるネコ娘・フにゃーリアを付けておきたい。

 アラーム役をしてくれってコトですな。これは私も望むところです。

 ・・・しかし、ナータちゃんはどうする? という視線ですね。

 

「あ、お気遣いなく。1人になるようなら、護衛のところに戻りますので!」

 ナータちゃんは健気なことを言いました。

 『侍女』になってから、じつに生き生きと、楽しそうにしてたナータですが。

「お楽しみは、いつか終わるものですわ。憧れのユリさまに、迷惑はかけれません」

「ナータちゃん・・・」

 私は彼女の隣に座り、肩を抱きました。

「そうですね」とマレーナさん。「心苦しいですが、そのようにお願いできますか」

「はい」

 ナータはメイドの髪留めを外し、ワンピースの襟元をゆるめ始めました。

 私は立ち上がって、

 

「変容せよ、フターリア。猫の力をその身に宿し、隠れたネズミを見つけ出せ。──ネコ娘に、な~れ!」

「ギニャー!! しっぽぉぉぉ!!!」

 

 飛び上がって叫ぶハメになりました。

 ニーズぅ! またノータイムで呪文かけやがって!

 

「パンティ下ろすまで待てって言ってるニャろ!」

 ネコ娘、シッポが生えてきますんでね。

 パンティ下ろしてないと、グキグキってなるんですわ。

 

「一刻も早くユリさまに甘えたいあなたの気持ちを汲んだのよ」

「んニャこと言ってニャ!」

「あはははは」

 

 さてそういうワケで、私は(驚きの目で守備兵に見られつつ)、ユリの部屋に行ったのですが。

 

「ユリっぺ? さっき出てったぜ」

 ドアの番をしてるアスカリア歩兵に、そう言われました。

「え? 夜だぜ?」

「夜だけどよ」

「どこ行ったんだよ?」

「空気吸ってくるっつってたから、ベランダじゃないッスかね」

「ああ・・・」

 

 私はベランダを探しました。

 わからん・・・

 まるで迷路です。

 窓がないんで、自分の位置や向きが全然わからん。外の風景が見えないんでね。

 

 最終的に、鼻が、ユリをキャッチしてくれました。

 

「ここかぁ」

「・・・ん? リアか」

 ベランダ。

 というか、これは、弓兵のための張り出し城壁ですな。

 その胸壁に、ユリはグニャッともたれかかってました。

 私の声を聞くとシャキッとして振り向いてきましたが。

「フにゃーリアじゃんか!」

「イエス」

「『変容』見せんなって言ったろ!? もう! しょうがねぇヤツだなぁ!」

「第一夫人の御命令ニ゛ャからニャ」

「マリの?」

「イエス」

「そっか」

 

 私はユリの隣に行きました。

 頬っぺたに鼻を近づけて、ふんふん匂いを嗅ぐ。

 

「何してんだよ!」

「本能的ニャ動作ですわ」

 

 人間ってね。自分で思ってるより細かい情報を出してるんですわ。匂いで。

 調子がいいとか、悪いとか、嬉しいとか、恐いとか。

 ネコになってみるとわかりますよ。

 

 いまのユリは・・・

 

 私は、ユリと同じ向きで、胸壁にもたれました。

 目の前は、空です。

 下には、もう一段下の防衛ベランダと、その下の城壁。

 その先はもうない。絶壁は城壁に邪魔されて見えず、遥か下の湖水が見えるのみです。

 

「・・・ここさぁ、悲劇の伝説があるんだぜ」ユリが言い出しました。

「なんニャそれ」

「むかし、美しい姫がいて、望まぬ結婚を強いられた。姫は意中の恋人の守るこの城に逃げ込む」

「ニャ」

「だが敵に囲まれ、逃げ場が消えた。恋人は出撃するも、討ち死に」

「うニャ」

「得意顔で乗り込んできた敵の目の前で、姫は湖に身を投げた」

「救いのねー話だニャ・・・」

「ここから落ちたら、死ぬよなぁ」

「そりゃニャ」

 

 と、私たちが湖を見下ろしていた時でした。

 フにゃーリアの鼻が、泥の匂いを捉えたのは。

 

「ニャんかいるぞ」

「なに?」

「沼の匂いがする。下。・・・あそこ!」

 

 夜の湖面を静かに泳ぎ来たる、巨大な影・・・

 そいつが起こす波。その波が反射する月明かり。

 私たちは、その巨大さに、見覚えがありました。

 

「ドロゴン!!!」

 

◆♀◆ 16、ドロゴンふたたび ◆♀◆

 

 ガガン、ガガン、ガガン、ガガン・・・!!!

 『敵襲』の鐘が打ち鳴らされました。

 その音は城内全域に──それどころか、城下町にも響き渡ります。

 石の城、ダンジョンのような通路に守備兵が現れました。槍と盾、あるいは弓を持ち、湖を見下ろす防衛ベランダに駆けつけます。

 

 確かに、ドロゴンでした。

 倒したハズなのに・・・

 

「いや、別の個体じゃないか? 動きが違うぞ」

 ユリが言いました。

 

 たしかに。

 今回のドロゴンは、動きに無駄がない。

 湖に姿を隠して泳ぎ渡ってきたかと思うと、迷うことなく崖を登り始めた。

 

 私たちのところへ、登って来るのです!

 

 体長が1町はあろうかというドロゴン。

 泥の巨大怪獣が、確実に、迫ってきます!

 

 私たちは、手の出しようがありません。

 下手に高い位置にいるせいで、斬りに行くことができん。呪文も届かん。

 マレーナ姉さんの『雷』も、こちらが高いのでダメ。

 弓を撃つも効果なし。「矢の無駄だ」と、ユリがやめさせました。

 

 そして。

 ついに城壁に手を掛けたドロゴンは。

 そのバカでかい口を開いて・・・

 

 口の中から、カエル人を吐き出したのです!

 

「カエル母艦!」

 私は叫びました。

「クソ。樹ターリアみたいなマネしやがって」

「これまでに、こういう事態は?」ユリが訊きました。

「ありませぬ」

 駆けつけた城の大将が答えました。

「この城にあれらが近付いたことはなく、戦ったこともございませぬ」

 

 やりとりする間にも、一番下の城壁では、戦闘が始まっておりました。

 ドロゴンから吐き出され、城壁に飛び込んでくるカエル人ども。両手に石を握っています。その石で守備兵に打ちかかり、あるいは投げつけて倒そうとします。

 守備兵のほうは、盾でこれを防ぎ、槍で突き刺して仕留めてゆきます。

 これだけなら。

 守備兵は圧倒的に優勢、勝ちは見えておりました。

 しかし。

 

「ゴポゴポゴポ」

 ドロゴンが唱えて、口をカパッと。

 

「飛び道具が来るぞ!!!」ユリが怒鳴りました。「盾かざせ! しゃがめ、しゃがめ!!!」

 

 どぱん!!!

 大砲みたいな音をさせて、泥の散弾がブッ放されました。

 

 城壁にいた兵に、あるいはカエル人も巻き込んで、泥の塊が命中。

 その重量と速度は、鎧を着た男を軽々と吹っ飛ばすほど。

 カエル人も守備兵も、まとめて薙ぎ払われてしまいました。

 

「アイツをやらんと、どうしようもないな」

 ユリが胸壁にヒョイと飛び乗りました。

「閣下!? なにを」「ニャにするつもりニャ!?」

 私たちはあわてました。

「ヤツを斬りに行く」

「ムチャすんニャ!」

「・・・ユリ」

 マレーナ姉さんも出て来ました。クロスボウ型の弾弓(粘土弾撃つヤツね)を抱えてます。

「どうする気?」

「アイツを斬る」

「そう」姉さんは、弾弓の装填を開始しました。「行ってらっしゃい」

「うん。行ってくる」

 

 ユリは飛び降りました。

 

◆♀◆ 17、勇者、飛ぶ ◆♀◆

 

 剣杖星樹紋章のマントを翻して落下するユリ。

 ドロゴンは、彼女の姿を捉えました。

 

 ・・・いや、ちがうな!?

 ドロゴンの頭ンとこに1匹いるわ! カエル人が!

 へばりついてるその1匹が、盛んに指示飛ばしてる。

 

「アイツが目をやってる!」

「・・・!」

 私の声を聞いた大将が、弓を取りました。矢をつがえ、いつでも引ける体勢となる。

 ──しかし、さすがにいま撃つことはできん。ユリに当たる。

 ドロゴンのほうは。

 ガマ口を開いて・・・

 

 ビュゴッ!!! 舌を、ユリめがけて撃ち出しました。

 

 人間の胴体と同じぐらい太い、巨大な舌です。

 それがユリに迫って・・・

 

 ずぱん。斬り落とされました。

 『聖剣』か。ユリの必殺の呪文剣。落下しながら唱えてたようです。

 さらに次の呪文。

 

「風よ変容せよ! 渦を巻いて、受け止めよ! ――『つむじ風』!」

 

 これで自分の落下を減速させ、方向をコントロール。

 ドロゴンの右のツノに、着地しました。

 人間の身体と同じぐらいの大きさのツノに・・・それも、動いているツノに、着地です。

 マンガみてぇなコトしやがる・・・。

 

 ドロゴンの頭のてっぺんにいたカエル人が立ち上がって、何か唱えようとしました。

 その顔面に、矢が生えた。大将の放った矢です。お見事!

 ユリはふたたび『聖剣』を詠唱。

 

「我は変容す! 雷切り裂く剣聖の神通力よ我にあれ。泥の守りを割らしめたまえ!」

 

 そして、再度ジャンプ。

 ドロゴンの頭を飛び越しまして、闇の湖へ落下してゆきます。

 

「前回、ドロゴンを倒した時ね」と、マレーナ姉さん。

「はい?」

「『正体』は、うなじのあたりに埋もれていたのよ」

 

 頭を飛び越したユリは、第四の詠唱。

 

「大気よ変容せよ。我を巻き、我が剣に裂かしめよ。──つるぎの竜巻っ!!」

 

 グリッとねじれて鋭く回転。

 野球のバッターのようなフォームで、『聖剣』をブン回し・・・

 

 ドロゴンのうなじを、かぱっと、切り開きました。

 

 真っ二つになる泥の塊。その中に、真っ二つになった白骨が見えました。『正体』です!

 

「やった! けど・・・!」

「大丈夫。あの人は大丈夫」

 ユリがチラッとこっちを見る動作をしました。

 落下中、体勢も崩れていたので、焦点はこっちに合ってませんでしたが。

 マレーナ姉さんにはそれで十分だったようです。

 

「此は烈火、」

 姉さんは、弾弓を放ちました。

 ばよん。・・・というようなマヌケな音を立てて、粘土玉が飛んでゆきます。

 玉は、遥か下の湖面まで、フラフラと風に煽られながら飛んで・・・

「焼き討て!」

 姉さんの一言で、炸裂しました。

 

 火の玉。

 湖面に赤々と。

 ユリとマントが黒い影となりました。

 

 火と水の噴き上がる爆心地に、ユリは着地。

 無事です。爆風と『つむじ風』をブレーキにしたのか?

 右往左往するカエル人どもを、次から次へと斬って捨てました。

 ざあああ・・・『焼き討て』で噴き上がっていた水が、その背中を濡らします。

 ユリは平気でした。左を斬って右を蹴り、右を斬って左に体当たり。

 いくらか泥をかぶりつつも、まったくの無傷で片付けてゆきます。

 

「ユリって・・・苦戦することあんの・・・?」

「あんまりないわね」

 

 最後に、ユリは崖をよじ登って、城まで上がってきました。

 ほとんど垂直な崖なんですけど・・・

 

 守備兵たちは、歓呼の声で、この新しい領主を迎えたのでした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。