※この作品はR-18です。

TSゆりフタ令嬢侍女メイド!   作:min(みならい)R18

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フタゴン出撃す ◇ ダークエルフの女武将

◆♀◆ 18、つづく襲撃 ◆♀◆

 

 ドロゴンを撃退した、ロンバキーズ城の守備軍。

 しかし、勝利の喜びは、降りつづく雨ほどには続きませんでした。

 3日後の夜。

 

 ガガン、ガガン、ガガン・・・!!

 『敵襲』の鐘が、ふたたび、鳴り響いたのです。

 

 ユリが飛び起きました。マレーナ姉さんも。

「リア。起きて。リア」

「うニャ・・・」

 私は、揺すられて、やっと目を覚ましました。

 あくびします。伸びをします。見ます。

 ユリは部屋を出ようとしてました。

 ヤッベ!

 転がるようにベッドから出て、四つん這いでダッシュ。ご主人様の足元に追いつきました。

「部屋の外では二本足で歩けよ? クロw」

「ンガ」

 

 フにゃーリアです。クロじゃねぇよ。

 尻尾をビシバシ左右に振って、ユリに当てて。

 前足を宙に浮かせて。大あくびしつつ、防衛用ベランダに出ます。

 

「閣下!」城の大将は、すでにそこにいました。

「よい。指揮を続けよ」

 ユリはそう言って、胸壁から湖を見下ろしました。

 

 高原の堅城、ロンバキーズ(モターズ城)。

 いまは、夜に浮かぶ船のようです。暗黒の海をゆく巨大戦艦のよう・・・。

 雨がバラバラと私たちの頭に当たります。

 月も星もなし。空にあるのは雨雲だけ。ネコの目にも暗い夜です。

 

 ざぶーん・・・どっぱぁん・・・

 波の音が、闇の底から響いてきます。

 ど、ざ、ざ、ざ、ざああん・・・!! 水から、何かが現れる音が。

 

「ドロゴン上陸っ!」「上がってくるぞ!」「泥に気をつけろ! 泥を吐くぞ!」

 守備兵たちの叫び声が聞こえます。

 ユリは、どうするつもりでしょう?

 チラッと振り向くと、彼女は胸壁に半身で立っていて、私の視線に気付いて『なに?』って顔をしてきました。私は『行くの?』と眉を上げました。ユリは笑いました。

 行くか。

 私は、そんなユリに背を向けました。

 

 護衛だからね・・・

 警護対象と同じ方を向いて立つバカがいますか?

 ・・・って、モリーヌに言われましてねぇ。以来、背中合わせで立つようにしてます。

 ユリが外を見てるから、私は城内を見る。っちゅうワケですな。

 

 1人、廊下を歩いていく。私と目が合うと、サッと顔を逸らした。

 あやしい・・・。

 次は3人連れ。弓を持ってる! 私と目が合うと、顔を逸らした。

 あやしい!

 次は、女が1人。こっちに来る!!

「どうしたの? 恐い顔して」マレーナ姉さんでした。

「護衛ですからニェ」

「頼もしいわね」

 姉さん、私の背後(=ユリの隣)に立って、弾弓をセット。

 ユリが「行ってくる」と言いました。振り向くと、ばさり。マントの端っこだけ見えた。

 行っちゃった。

 警護対象をマレーナ姉さんにスイッチ。

 彼女の左脇に立ちます。姉さんは剣士じゃないからね。剣を振るスペースは必要ない。

 ネコ耳を上下左右に動かして、あらゆる情報を捉えつづけます。

 ワッ・・・! と、城壁で歓声が上がった。ユリがドロゴンを斬ったようです。

 私は、そっちは見ません。不意打ちだけを警戒します。

「此は烈火、」姉さんが詠唱。

 廊下から、1人、静かに顔を出した。

 ヒゲ面の男です。30半ばぐらいか?

 そいつは、私を見て・・・わずかに顔を歪めて、回れ右しました。

「焼き討て!」

 爆音。

 その直前、フにゃーリアの耳は、その守備兵が舌打ちするのを聞きました。

 

「そのヒゲ面は、ビビワメッツの残党だそうです」

 翌朝。

 舌打ちした守備兵の身元を、モリーヌが調べてきてくれました。

「よその戦士を、城の守備兵にしてんの?」

「ええ。この城の守備兵は、大半が死にましたからね。モターズ伯と一緒に」

「あー・・・」

「アイメンカやダンゼイズの兵を入れるわけにはいきませんし」

「そりゃね」

 

 アイメンカやダンゼイズは、隣国ですからね。

 うかつに雇うワケにはいかん。城に入れる? アホかとw

 

 それを言うと、私たちも『隣国』ダンゼイズの女なんですよね。

 特別に認められてるけど、やっぱ、越えちゃダメな一線ってのはある。

 たとえば私が、

 『ダンゼイズの兵を採用してくださいな。あなた♥』

 なーんて、ユリに言ったら・・・

 最悪、婚約破棄ですね!

 マジで。

 いやホント。冗談じゃねえ。この人生では、絶対結婚するんだ。俺は。女とだぞ!

 

「守備兵の中でも態度がよくないので知られ、『ビビワメッツ組』などと呼ばれているそうで」

「・・・ああ、えーと、ヒゲ面ね?」

「他に誰の話をしてますか」

「いやすまん。守備兵の補充について、ちょっと考えちゃってさ」

「ああ」

「ヒゲ面ね。はいはい。態度が悪いってのは?」

「命令に従わなかったり、隊長に口答えしたり、酒や女でトラブルを起こしたり」

「クビにすりゃいいのに」

「御冗談を。戦士の家長ですよ?」

 

 ブレロッケの『戦士』は、まあ、豪族って感じかな?

 爵位はないけど武力と権力は持ってる。防衛のためなら、人を斬っても許される。

 そんなヤツに「おまえクビな」とか言おうモンなら・・・

 

「それこそ、ユリさまが狙われますわ」

「めんどくせぇ・・・」

「いま、『戦士は面倒だ』と仰いました?」

「まさか!」

 私は、彼女を抱き寄せました。お尻をポンポンと叩きます。

「モリーヌっていう美人戦士のおかげで、俺はこうして大人になれたんだから」

「あン・・・♥ 淫魔に育てた覚えは、ないんですけどねっ♥」

「おまえなw」

 

 情報収集を終えて、指揮室に向かいます。

 ユリとマレーナ姉さんが、会議を終えて出てくるまで待つ。

 で、一緒にベッドに向かいます。

 朝からベッドインですわ!

 

 もちろん、髭面の話もしました。

 

「ビビワメッツ残党か。正直、予想はしてたさ」

 ユリがベッドに座りながら言いました。

「ヤツらからすりゃ、私は、領地ドロボウだからな」

「なに言ってんだ!」

 私は、ユリを励ましました。

「アスカリアさまも言ってたぜ。オマエじゃなきゃ、認めないって」

「シノ母さんが?」

「おう。みんなが困ってるときに戦ったのは、ユリだ。ユリ以外の領主なんて認めない。ってね」

「そっかw」

 ユリは胸元をゆるめました。ホッと息をついて、ベッドに横に・・・

 

 カカカン、カカカン、カカカン・・・!!

 また、鐘の音です。

 

「下町の警鐘だ」ユリは立ち上がりました。「ヤツらめ! 町を襲うつもりだな!?」

 

◆♀◆ 19、4、5 ◆♀◆

 

「またドロゴンだ!」「今度は2匹っ・・・!」

 

 守備兵たちの叫び声。

「え? 2匹!?」私は動揺しました。

「ドロゴン4、5な」ユリは平然としてます。

「は?」

「4匹目、5匹目だろ? ドロゴン4、ドロゴン5と呼ぼう」

「は、はぁ・・・」

 

 マイペースだな、コイツ。

 そう思ってから、私は気付きました。

 ああ、そっか。『自分勝手に動け』ってコトね。

 

「何匹狩れるかニャ」私は牙を剥きました。

「来ただけ全部さ!」ユリもです。

 

 湖は朝焼け。城と双子の岩山の影が、湖面を黒く透き通らせています。おかげで発見が早かった。

 ドロゴン4。湖の中央にとどまっている。

 ドロゴン5。町に向かって泳いでいる。

 

「4は何してるんだ?」

 「あなた待ちでしょ」と、マレーナ姉さん。「あなたが町に降りたら、城を襲うのよ」

 「王手飛車取りかぁ」私は鼻にシワを寄せました。

「テニス! テニース!」

 「はい! ここに」

 我が主人・テニッサメイズお嬢さまが走って来ました。

 モリーヌと、ナータちゃん殿下も一緒です。

「テニス、フタゴンを出してくれ。モリーヌ、フタゴンに『鉄身』。全力で!」

 「はい」「はっ!」

「リア」

 「はいっ!」私は飛び上がりました。

「ドロゴン5は、オマエに任す」

 「は・・・ひっ?」

「私がドロゴン4を倒すあいだ、町を守れ。時間を稼いでくれ」

 ユリはウィンクしてきました。

「頼んだぜ。私のドラゴン♥」

 「お、おう! かしこまってござる!」

 

 ユリの護衛をアスカリア兵と交代。

 走って部屋に戻った私は、侍女の服を脱ぎ、タイツを脱ぎ、パンティも脱いで、ブラジャーだけの姿になりました。

 鏡に、白いヌードが写ってます。でっかいブラジャー。黒い髪。ぷりっとしたお尻。

 うーむ。可愛い・・・。

 可愛いヘンタイや・・・。

 しょうがねぇんだよ。フタゴン、デカくなるし。

 変態ヌードのフターリアちゃんに、モリーヌが白いトーガを巻きつけてくれました。トーガはショーシナー伯爵(祖父ちゃん)の、腰を締める帯はモリーヌのプレゼントです。

 

「幻のドラゴンの力よここに。炎よ渦巻け、ロンバキーズの守りとなれ! ──フタゴンに、な~れ!」

 テニスお嬢さまが呪文を唱えました。

 

「フタゴンよ変容せよ。御身のウロコは鋼鉄の、泥土を弾く無双の防具!」

 モリーヌも、ドラゴンの翼に手を当てて、Buff呪文を唱えます。

 

 そして。

 

「フタゴンよ、変容せい! そなたの知覚はまるくなり、あらゆる危難を知るじゃろう!」

 ナータちゃんも。

 

「ファリアさまが、ユリさまを守るなら。私たちは、ファリアさまを守りますわ!」

「ナータ・・・!」

 私とナータちゃんが、見つめあっていると。

 

 危難アリ。お尻!

 

「なんやねん」お尻をサッと横にくねらせて、回避しました。

「いい感じね」空振りしたお嬢さま。カッコつけて、うなずく。「さ、行きなさい!」

 尻尾でブッ叩くぞこの野郎。

 ・・・いやいや。アカンて。可愛い乳姉妹がケガするって。ちょっと脅すだけにしとこ。

「がおーぅ」

「きゃっ♥」

 可愛い声上げられて、もっといじめたいなってなった。

 フタゴンは暴力的でいかん。とっとと出撃しよう。

 

◆♀◆ 20、フタゴン出撃す ◆♀◆

 

 シュルシュル! フタゴンです。

 狭い廊下を、トカゲ走りでシュルシュルシュルシュルと走り抜けます。

 四つん這いで。

 守備兵が「えっ・・・!?」と、目ン玉剥いてビビってます。

 すまんな。

 立って走ると、ぶつかるんだわ。天井に。翼が。

「ホントにトカゲみたいね」と、お嬢さま。後ろから。

「うるせぇwww」

「尻尾を下げてください。見えます」とモリーヌ。

「ぐるるぅ」

「御武運をお祈りしておりますわ」とナータちゃん。

「おう!」

 

 ベランダへ。ユリの隣で立ち上がり、目で確認を取ります。

「行け!」

 ユリが手を大きく振って、ドロゴン5を示しました。

 まるで映画みてぇだ。空母から出撃するシーンみたい。

 胸壁を蹴って、落ちます。

 

 流れ星のごとく、一直線に──黒い湖面へ、落ちてゆく!

 

 ドロゴン5。すでに、岸辺に到達。桟橋を踏み潰そうとしてる。

 漁師どもが遠巻きにしてます。モリや網を持ってますが・・・そんなモン、効きゃしねぇって!

「どけぇっ!! 下がってろっ!!」

 私は叫びますが、漁師は動かない。むしろ、突っ込んでくる私を見て混乱した様子。

 クソ。

 こりゃ、『時間稼ぎ』とは行かねぇな。

 ノロノロしてたら、漁師が踏み潰されちまう。

 作戦変更。

 俺がやる!

 垂直降下に切り替えた。

 ドロゴン5の背中に、突き刺さるように、落ちる。

 ゾクゾクする。もうだいぶ慣れたけど、内臓が浮かぶこの感じは、やっぱ恐ェ。

 衝突直前で、翼を開く!

 痛い!

 翼の付け根が! 折れそう!

 とっさに、手で翼を握って、支える。

 ギャリッ! 『鉄身』のおかげで、すごい音がした。

 呪文かかってなかったら、鉤爪で穴が開いたかも知れん。ありがとモリーヌ!

 

 一気に竜首を起こして、ドロゴン5の背筋を舐めるように、超高速で通過。

「容赦はしねぇぞっ、ドロゴン!」

 マジで容赦はしねえ。

 俺、半端にグズグズ悩んで味方に犠牲出すの、嫌いだかんな!

 

「ンガァァァ!!!」

 ──全力で、ブレスを浴びせました。

 

 ドゴガァ!!!

 爆音。まばゆい光。

 ドロゴンの背中が、弾け飛ぶ。

 

 ・・・ブレスの威力が強いな?

 そう言や、お嬢さまが呪文アレンジしてたっけ。

 

 背筋に沿って、うなじまで、炎を叩き込んでやった。

 

 弾け飛ぶ泥! 噴き出す蒸気! 叫ぶカエル人! 砕ける白骨!

 そん中を突っ切って、飛び抜ける!

 ドロゴン5の前方へ。

 危険な空域!

 泥の散弾の、攻撃範囲だ!

 発砲を警戒して後ろを振り向く──必要は、なかった。

 

 危難、ナシ。

 ナータちゃんの『まるく危難を知る』が、そう教えてくれたのです。

 

 これは助かる。

 高速飛行時は、ホント、後ろ向くだけで速度落ちるから。

 首ちょっとひねるだけで、空気抵抗がね。すごくて。

 ホント助かる!

 9時方向にブレイク。

 湖の上空に、限界を越えたターン!

 きしむ翼を、手で支えて。3時方向まで、一気に275度。

 上昇はしない。

 時間がないんだ。上陸を阻止しなきゃ。女子供に、被害が出ちまう!

 

 ・・・と、必死になってドロゴン5に再突撃した私でしたが。

 ターンした視界に、見えてきたものは。

 

 ドロゴン5が、崩れてゆく姿でした。

 

 あれ?

 死んでる。

 

 ・・・あ、そう言えば、さっき、うなじのあたりで白骨が吹っ飛んでたっけ。

 あれ『正体』だったのか。

 

 ブレス一発でドロゴン倒しちゃった。

 フタゴンすげぇ・・・。

 

 けれども。

 まだ、勝利ではありません。

 バラバラになったドロゴン5から、何十というカエル人が出てきて・・・

 町に向かって泳ぎ始めたのです。

 

「引けっ、カエル人!!!」

 私は怒鳴りました。

「引かんのなら皆殺しだぞ!? ワァァァン!!!」

 泣きながら。

 

 いや・・・

 ついさっき、容赦はしねぇ! とか言ったけどさ。

 さすがに、人の形した生き物に火を吐くのは・・・!

 これはつれぇわ・・・!

 

 一瞬、メッチャ、グズグズ悩む私でしたが。

 もうカエル人は目の前だ。

 いま吐かないと、吐くチャンスがなくなる。カエル人と漁師が近接戦に入っちゃう。

 

「クソぉぉぉ! 恨むなら恨めっ! 俺の名はっ、フタゴンだァァァ!!!」

 

 自分でもよくわからんことを叫びながら。

 災いの炎を、炸裂させました。

 

 カエル人は、死にました。

 たくさん。

 

 右にブレイク。

 水上を飛んで、カエル軍団の背後を取りに行こうとします。

 ──が、そこで。

 

「沼魔術(ヌーマジュッツ)ぅ~」

 のんびりした声が、岸のほうから聞こえてきました。

「お水よ、あっち行けぇ~。干上がって、土になってまえ~!」

 

「誰じゃ!?」

 見れば。

 岸辺に、灰緑色のローブを着た、ダークエルフの小娘。

 細い杖(ヤナギの杖?)を、掲げてる。

 魔術師?

 危難──ナシ。敵ではない。友軍か?

 

「フタゴぉ~~~ン!」

 また、女の声。

 今度は低い声でした。見れば、ダークエルフの女武将。

 人間とダークエルフの兵を10人ほど従えて、魔術師の背後に姿を現した。

「こっち来てぇ~!」

 

 私は、彼女に従いました。

 知ってる人だったんで。

 

 魔術師を飛び越して、舞い降りる──ついでにドラゴンラリアットでカエルを3人、なぎ倒して。

 

「ダーリン姉ちゃん!」

「お久しぶりぃ~」

 

 女武将──メイダーリン姉ちゃんと、合流したのでした。

 

◆♀◆ 21、ダークエルフの女武将 ◆♀◆

 

 スラッと背の高い、ダークエルフの美女。

 茶色の肌に、長い耳。曇り空の色した髪は、だいぶ伸びてる。

 腰に長剣。

 肩にはマント。剣杖星樹、アスカリアの紋章の。

 指揮官の地位を表わす飾り帯を、宝石入りのベルトで締めて。

 タイツはユリと同じ色。

 ブーツだけが、奴隷だった頃と同じヤツ。雨と泥で汚れてる。

 ダークエルフと人間の、歩兵の列を従えて。

 

 メイダーリン代官。

 ユリの奴隷だったのは、昔のこと。いまは、私よりも上の身分。

 アスカリア南方の『希望の港』の代官にして、ユリの婚約者(第二婦人)です!

 

「ダーリン姉ちゃん! 助かりました!」

「うん。──者共、弓、用ォー意!」

 「おう!」「おう!」「おう!」

 命令を飛ばす声に、迫力がある。

「こっから撃つからねぇ、同士討ち避けたかったんよ」

 私に向ける声は、以前と同じでしたが・・・

 ここは、上下ハッキリさせなきゃな! 戦闘中だし!

 私は、地面に膝を付きました。ツノのついたフタゴンヘッドを、うやうやしく下げます。

「かしこまってござる。代官閣下!」

「んぷっw ・・・よっしゃ、ほな、撃てっ!」

 「発射っ!」

 

 笑うなw 戦闘中やぞ。

 

 ダークエルフの歩兵が6人。クロスボウを、撃ちました。

 バシン! という、ちょっと銃に似た音を立てて、クォレル(太矢)がブッ飛び・・・

 カエル人を、ブチ抜きました。

「突撃ぃ!」

 「アスカリア兵、突げぇーーーき!」

  「うおおおおお!」「おらぁぁぁ!」「ブッ殺ッそオラァ!」

 人間の歩兵が6人。盾かざし、槍かざし、あるいは両手剣で、突っ込みました。

 叫び声がチンピラすぎる。まあ、アスカリア兵だからな。

 激突。

 数は、カエル人が3倍以上。

 体格は、アスカリア兵が2~3倍。身長で2倍。体重ではおそらく3倍以上です。

 アスカリア兵が勝った。敵前例をハネ飛ばし、2列目、3列目まで崩しました。

 カエル人、士気崩壊! 湖へ飛び込んで、逃げようとする。しかし・・・

 

 ドチャ! グチャ! ズボッ!

「ゲロゲロ」「グポゴポッ」「ドロッ! ドロッ!?」

 

 ・・・そこに、水はなかった!

 

 高原の湖は、いつの間にやら、一面の泥土に『変容』していたのです!

 

 飛び込んだカエル人ども。

 ツノの生えた頭を泥に突き刺す形となって、スタック。

 あたふたするうちにアスカリア兵に追いつかれ、尻からぶった斬られてゆきます。

 ひどい光景だ・・・

 

「半刻しかもちませんからねぇ~! 半刻ですよぉ~!!!」

 ダークエルフの魔術師が、そんなことを叫びつつ、こっちにやって来ました。

「あなたの魔術?」と私。

「そうですよ~、ドラゴンさまぁ」

 小さくて可愛らしい女の子です。

 ダーリン姉ちゃんの横に来て。

 私の反対側に、ウンコ座りしました。

 こいつもチンピラや・・・。

「メイさま、ウチ、魔力切れましたわ~」

「ええよ。伯爵勝ったみたいやしねぇ」

 

 ダーリン姉ちゃんの視線を、追ってみれば。

 一面の泥土を、赤毛の女剣士が、飛び跳ねてくるところでした。

 

 ・・・いやホントに飛び跳ねて来るんスよ。

 チョーン、チョーン、チョーンって。

 

「『アメンボ足』の呪文やねぇ」と、ダーリン姉ちゃん。

「わかりやすい名前やね」

「そやねぇw ユリさまは、シンプルな命名がお好きやからねぇ」

 

 行く手を阻もうとしたカエル人(無謀な・・・)を3人斬って。

 ユリさまは、こちらの岸に到達。

 最後にチョーンと跳んで、私たちの前に立ちました。

 

「ダーリン。よく来てくれた。フタゴンも、よかったぞ」

 「遅くなりました」「光栄にござる」

「間に合ったさ! 余裕あんなリアw ──さ、片を付けようぜ!」

 

 ユリと私たちは、並んで泥の中に踏み込みました。

 カエル人は、全軍敗走状態。泥の中で右往左往してます。

 アスカリア歩兵が追い回し、トドメを差す。

 漁師が応援し、魚を拾う。・・・そっちが目当てかい。

 たまに、はぐれた漁師をカエルが狙うんで、私が飛んでってカバーしました。

「す、すまねぇ。ドラゴンさま」

「なーに。侍の務めでござる。大漁だな?」

「お・・・おうよ!」

 

 逃げようとするカエル人を、さんざんに叩きのめしてやりました。

 

「うおおお」「ユリっぺー!」「アスカリア伯爵ばんざい」「大漁じゃあー!」

 喜ぶ男ども。その中心にいるのは、我らがアスカリア女伯爵でした。

 

 アスカリア伯爵領・ロンバキーズ守備軍、防衛に成功。

 戦闘終了です!

 

◆♀◆ 22、カエル将軍、捕まるの巻 ◆♀◆

 

「ゴポッ、ゴポッ・・・」「おのれ、ビビワメッツの悪霊め・・・」

 

 敗走した、カエル人は。

 ヨタヨタと、雨の中を、逃走しておりました。

 厳しい追撃に、散り散りバラバラとなり・・・

 岩山を走る疲労で、1人倒れ、2人倒れ・・・

 (カエル人は、岩山が苦手でした・・・)

 

 いまはもう、カエル軍団の将軍と取り巻きの、たった3人が歩いているだけでした。

 そのカエル将軍も、足は萎え、手はふるえ、ガマ口からはヨダレを流しておりました。

 彼らの故郷、東の大湿地帯に生きて戻れる望みは、もはや、ほとんどありませんでした。

「おのれっ、おのれっ・・・!」

「武器も、くれず、メダルも、返さずっ・・・!」

「裏切るばかりの、あの代官・・・!」

 恨みを吐きながら歩く、カエル人に。

 

「カエル閣下ぁ~? そのお話、もうちょい詳しく聞かしてもらえるかなぁ~?」

 ダークエルフの女が、声をかけました。

 

「ゲヨッ!?」「追ってくる!?」

 跳び上がったカエル人ども。

 振り向いた岩の上に、立っていたのは!

 

 大樹!

 その樹のウロに腰かけた、赤い髪の美人剣士と、ダークエルフの女武将!

 そして、ツタでふわ~んと宙に浮かぶ、木の葉の髪した『樹木の乙女』でした!

 

 ──はい。

 樹ターリアでございます。

 ダーリン姉ちゃんとダークエルフ兵の先導で、カエル将軍を追ってきました。

 いま、戦闘終了から、半刻ほど経過したところです。

 太陽は、だいぶ高くなっております。雨雲で見えんが。樹ターリアにはわかる。

 カエル将軍には、だいぶ先行されてて、一時は逃げ切られるかと思いましたが。

 ダークエルフの足は速かった。偵察用に鍛えたメンツだそうですわ。

 私はユリに『駿馬』をもらって、彼らについてくだけでよかった。

 ユリなんか、寝てましたからねw ブッ倒れてイビキかいてた。

 

「カエル人よ」

 ユリ。すっかり元気を回復し、カッコつけて、カエル人に語りかけます。

「そなたたちが知っていることを話してもらいたい」

「グプッ・・・」

「私に協力し、二度と我が国を侵さぬと約束せよ。さすれば追撃をやめ、死者を弔うことも許してやる」

「ゴポ、ゴポ・・・」「ゴポ・・・」

 取り巻きは、将軍を見ました。

 

 カエル人の将軍。

 姿は取り巻きと同じです。

 全裸。頭に生えているツノ。尻に生えている尻尾。水かきのついた手足・・・

 ただ、首に革袋をぶら下げ、青銅の刃のついたモリを持ってたので、他と見分けがつきました。

 このため、ダークエルフたちに尾行された、ってワケですな。

 

「ゴポ・・・死んだカエル、帰られる・・・?」と、カエル将軍。

「ああ。遺体を取りに戻ることを認めよう」

「・・・。」将軍は悩みました。

 「将軍。また、騙される」「人間、信じる、裏切られる」取り巻きは反対しました。

「裏切ったと? 誰が、どのようにかな?」

 「知らぬ、言わせぬ!」「シラを切る、約束、破る!」

「黙れ・・・下がれ・・・控えておれ・・・ゴポゴポ・・・」

 カエル将軍は、取り巻きを下がらせました。モリも、取り巻きに預けます。

 そして。

 地面に、四つん這いになって。ユリに、頭を下げました。

「話す。渡す。ユリヲワーナ代官の、裏切りを、明かす・・・」

「そうしてくれれば、こちらも、閣下を丁重に扱おう」

「ゴポ・・・」

 カエル将軍は、首に下げた革袋から、銅の筒を出しました。

「裏切りの、証拠・・・」

 

 筒の中には、羊皮紙が。

 羊皮紙には、機密情報が。

 ユリの行動日程。ロンバキーズ城の地図。そして、弱点・・・

 ・2個所の橋が弱点。

 ・守備軍は、最盛時の5割に満たぬ。

 ・食料備蓄はさらにひどく、1割もない。長期の籠城は不可能。

 ・・・こういった情報が、書いてあったのです。

 

「わざとヘタクソな字で書いてますねぇ」と、ダーリン姉ちゃん。「明らかに、筆跡隠しやねぇ」

「ここを見ろ」ユリは指差しました。「行動日程の、ここだ」

「どれどれ?」私も、空中から覗き込んでみました。

 

 『商会長と面会。借金返済の相談』。

 

「えっ? ユリ、借金してたの!?」

「してないよ、バカ」

 ユリは肘打ちしてきました。私、肘でブロック。トゲがユリの肘に刺さった。

「いてっ!?」

「葉っ葉っ葉っw」

「くそ。・・・コノマーズの乱で金をもらったからな。あれで完済したよ」

「ニセ情報っちゅうワケですか」とダーリン姉ちゃん。「誰に掴ませたんです?」

「ユリヲワーナさ」

「ほかには?」

「一切。マリにも『借金』とは言ってない。『資金を用意してくれ』としか」

 ユリは、羊皮紙を丸めました。

 そして。

「──カエル閣下。同胞を弔うことを認めよう。城まで同行願えますかな?」

「ゴポ・・・承知・・・」

 

 アスカリア伯爵として、カエル軍の降服を認めたのでした。

 

◆♀◆ 23、沼の魔術と、トロールのこと ◆♀◆

 

 私たちは帰還しました。

 まずは、麓の街へ。ダーリンが連れてきたアスカリア兵と合流します。

 ダークエルフの小娘魔術師が、ユリに自己紹介をしました。

 

「沼魔術師のヌーミリバーと申します。メイダーリンさまに登用されました」

「お手柄だったな。褒美は必ず用意させよう」

「光栄ですぅ~」

 

 小さい、可愛らしいダークエルフでした。

 テニスお嬢さまぐらいしか背丈がないのに、猫背なので、さらに小さく見えます。

 銀色の髪の下から周囲をキョロキョロ見てて、落ち着きがない印象でした。

 

 城に上がります。

 カエル将軍は馬車に乗せられて最後尾。

 ヌーミリバーとダークエルフ偵察員は、町に残りました。

「一緒に登るんかと思いましたわ」と、私が言ったら。

 「あのオバチャンは信用できへんからねぇ~」と、ダーリン姉ちゃん。

「え? おばちゃんなの? お嬢さんかと」

 「ウチより年上よ、あの人」

「エルフの歳はわからん・・・!」

「沼魔術とは、なんだ?」とユリ。

 「トロールの魔術、らしいですわ。『希望の港』の東の」

「大湿地のトロールか!」

「トロール?」私、わからん。質問する。「どんなヤツらです? 閣下」

 「泥沼ン中に潜んどる化けモンよ。言葉もしゃべるし、宗教もあるし、呪文も使うけどね」

「泥沼の怪人・・・って感じかな」

 「そやねぇ。デ怪人やねぇ。オスもメスも2尋ぐらいあるからねぇ、身長」

「どうやって習ったんだ? トロールの魔術を」

 「あの人は、吸血鬼から逃げ出した一家の娘なんですわ・・・」

 ダーリン姉ちゃんは、軽く説明をしてくれました。

 

 「ウチらの都が、吸血鬼どもに滅ぼされたとき。

  ヌーミリバーの父親は、一方面の守備隊長やったんですけど。

  敵前逃亡しよったんですわ。仲間見捨てて、自分の家族だけ連れてね。

  ほんで、トロールに財産渡して、保護を求めたそうです。

  ──財産が尽きたら、殺されたらしいですが」

 

「うへぇ」私はげんなりしました。シリアスすぎる・・・。

「親が殺されたのに、なんでアイツは生きてるんだ?」

 「ヌーミリバーは、トロールの沼魔導師に弟子入りした、って主張してます」

「ヌーマドーシですか」

「そこで習ったのが、ヌーマジュッツか」

 「そう。そない言うてますねぇ、本人は」

「よく出してもらえたな? 父母は殺されたんだろ」

 「父は殺され、母は逃げて行方不明。本人は、トロールと吸血鬼の戦争のスキに脱走したそうです」

「それを信じたのか」

 「いいえぇ、全ぇ~ん然」

 メイダーリン代官は、ほほえみました。諜報長官のほほえみでした。恐い。

 「丸ごとウソで、トロールの諜報──っちゅう前提で相手してます」

「そうか。ならいい」

 「ただし、名前と出身はホンマですよ。ウチ、子供の頃、知り合いでしたから」

「ほう?」

 「ウチがまだ子供のころ、同じ貴婦人に仕えてましてね」

「なるほどな」

 ユリはうなずきました。

「トロールか。『汚泥の悪霊』さまの子だと聞くが?」

 「そうですねぇ。トロールの主神ですねぇ。ヌーミも入信させられたらしいです」

「汚泥の悪霊さまと言えば・・・」

 私がユリを見ると、ユリもうなずきました。

「ああ。あのメダルだな」

 

◆♀◆ 24、カエル将軍、語るの巻 ◆♀◆

 

「このメダルと短剣は、ドロゴン1の出現地点で発見された」

 

 お城に戻って。

 大将と彼の参謀、マレーナ姉さんとテニスお嬢さまを加えて。

 (ナータちゃん殿下も。シレッとした顔でメイド業務してます。)

 

 ユリは、あらためて、経緯を説明しました・・・

 

 「事の始まりはこうだ。

  『曲がり川の郷』に、よそ者がやってきて、ドロゴン1を退治すると言い出した。

  ドロゴン1は、その『よそ者』どもを殺し、村を襲い、私たちに討伐された。

  討伐後、村人が発見したのが、これだ」

 

 黄金のメダル。『汚泥の悪霊』ヒキズリコンデロスさまの御名が刻印されてる。

 短剣。ビビワメッツ伯爵家の紋章入り。

 

 カエル将軍は、少し離れた席で、白湯をチビチビ呑んでましたが・・・

 メダルが出てくると、顔色を変えました。

 凝視してます。

 そんなカエル将軍に、ユリが訊きます。

 

「将軍閣下。ドロゴン──ドログ・オロッシと、このメダルについて、知っていることを話してくれ」

「ゴポ・・・御意・・・」

 カエル将軍は、白湯のカップを置きました。

「閣下が呼ばれる・・・ドロゴンと言われる・・・我らが守られる・・・は、『泥神大蛇』」

「ドロガン・オロッチ?」

「さよう・・・」

 

 『泥神大蛇(ドロガン・オロッチ)』。

 ドロゴンのことを、カエル将軍はそう発音しました。

 

「どういう生き物なのだ?」

「生き物にあらず・・・生命をなくした、我らの同胞なり・・・」

「なに?」

 

「大泥神(オードロガーン)さまに、死後の魂を捧げた者が、『変容』・・・偉大な泥の守護大蛇となる・・・」

 

「まさか、そんな!」

 私は、思わず声を出してしまいました。

 他人事とは思えなかったからです。

「死んで『変容』するなんて、そんな、ひどい」

「自ら生命を断って、守護者となるというのか!」ユリも衝撃を受けたようです。

「ゴ・・・ポ・・・?」カエル将軍は首をひねりました。

「自殺をして、ドロガン・オロッチに、『変容』するのだろう?」

「いいえ・・・いいえ・・・ゴポゴポ・・・」

「ちがうんですか?」

「いいえ・・・ゴポ。幸せに、一生送る。泥に、眠る。その後、儀式で、泥神大蛇になる・・・」

 

 あれ? 意外とホワイトだったわ。まあ死霊術っぽいけど。ホワイト死霊術だわ。

 もしかして『汚泥』さまって、いい悪霊なんじゃ・・・

 

「ゴポ・・・泥神大蛇、泥が切れると、荒れ狂う・・・我らも、喰われる・・・」

 

 ・・・やっぱ悪霊でしたわ。そんな術、信者に授けんなよ。

 

「制御はできんのか?」

「鎮まれば、制御される・・・荒れ狂えば、制御されぬ・・・底なし沼のごとく、すべてを喰う・・・」

「私たちが気になるのはだ、将軍」

 ユリは、ちょっと厳しい顔になりました。

「ドロガン・オロッチが、これからも私たちを襲うのか? なのだが」

「襲ったのは・・・そちら・・・ゴポ・・・」

「何を申す!」城の大将が怒りました。「我らは兵など出しておらぬ! 侵略者は、そちらじゃ!」

「ユリヲワーナの・・・手の者が、襲ってきた・・・ゴポゴポッ・・・!」

「わかった。その点は、後で聞こう」

 ユリが2人を止めました。

 そして。

 カエル将軍を、睨みました。

「将軍。私は領主だ。我が国を荒らす者には、容赦せぬ。武力を以って制するまでだ」

「ゴポ・・・」

 カエル将軍は背筋を伸ばしました。

「我らも、同じ・・・侵略される、戦う、あらがう・・・泥の海、守る・・・」

 2人は睨み合いになりました。

 

「──この何十年か、私たちは、戦っておりませんでした」

 マレーナ姉さんが口を開きました。

「大魔術師ティニーモノーシャさまも、カエル人やドログ・オロッシを『不明』としておられますので、」

 テニスお嬢さまの母の名に触れつつ・・・

「おそらく、百年以上、私たちは、よい隣人であったハズです」

 ユリとカエル将軍を見ました。

「これからの百年も、同じようにできないものでしょうか?」

 

 ユリとカエル将軍は、相互不可侵条約を交わしました。

 

 ・・・この条約が、いつまでもつかは、わからんけれども。

 ひとまず、絶滅戦争──『鏖殺せよ!』なんて事態は回避できた。それを喜ぶべきなんでしょう。

 

「で、将軍」ユリが話を再開しました。「このメダルについては?」

「偉大な・・・『大泥神巫女』さまより、授かった、メダル・・・」

「オドロガン・ミコ」

「御意・・・ゴポ・・・」

「もしかして、」とダーリン姉ちゃん。「トロールの、泥神さまの巫女やないですか?」

「ゴポ・・・遥か南、暖かい海、泥の国・・・偉大なる、カエルの巫女・・・」

「ふむ。やはり、我らがトロールと呼ぶ人々のようだな」

 ユリはうなずきました。

 

 ちなみに、ユリは、トロールがいる大湿地を『制圧する!』と宣言してますね。

 ウチの祖父ちゃんに言った。私との結婚に協力してもらうときに。

 ・・・すまんな。カエル将軍。でも、俺はユリと結婚するんだ。

 

「では最後に。ユリヲワーナ代官との関わりは、いかがかな?」

「ゴポ・・・」

 カエル将軍は、このように語ってくれました・・・

 

 「稗を、収穫・・・ユリヲワーナに、届ける・・・

  お礼に、武器、もらえる・・・そういう契約・・・

  だが、武器は、ほんのわずか・・・ゴポゴポ・・・

  『約束がちがう』と言ったら、戦士ども、やってきた・・・」

 

「稗の収穫を、カエル人が手伝った?」とユリ。「そんな記録、あったか?」

「いいえ。ありませんわ」とマレーナ姉さん。

「我々も、一切知らぬところです」と城の大将。

「ゴポッ? 確かに・・・この手に・・・ユリヲワーナに・・・!」とカエル将軍。

「ヤミ取引して、着服した──っちゅうトコですかね」とダーリン姉ちゃん。

「ゴポ・・・」

 

 「戦士ども・・・

  メダルを見せて、ドロガン・オロッチを、操ろうとした・・・

  ドロガン・オロッチ、荒れ狂った・・・

  戦士を、殺した・・・我らも、喰われた・・・」

 

「メダルで操れるのか? ドロガン・オロッチは」

「いいえ・・・」

 カエル将軍は、ゴポゴポと喉を鳴らしました。

「ドロガン・オロッチ、操るには、大泥神の呪文が必要・・・カエル発音・・・よそ者には、ムリ・・・」

「戦士たちは、それを知らなかった──あるいは、騙されたワケか」

 ユリは、ため息をつきました。

 

「どうやら、ユリヲワーナを捕縛すべき時が来たようだな!」

 

 私たちは、すぐに出発の準備を整えました。

 やるハズだった仕事は、後回しになってしまいました。

 ・・・とは言え、まったくの無駄足ではありません。

 

「伯爵ぅー!」「我らの勇者さまー!」「ドラゴンさまー、また来てねー!」

 ロンバキーズの人々が、アスカリア女伯爵を、領主として認めてくれたからです。

 

 私たちは、手応えをもって、『曲がり川の郷』に向かいました。

 しかし。

 

「代官が、いない?」

 

 ユリヲワーナ代官は、姿をくらませていたのです・・・。

 

◆♀◆ 25、ユリヲワーナが、いない? ◆♀◆

 

「ユリヲワーナさまは、3日前の朝に出発なさいましたが・・・」

 

 『曲がり川の郷』の役人は、困惑した様子でした。

 

「・・・王都に向かうよう、命令が下ったと」

「そんな命令は、出しておらぬ」とユリ。

「えっ?」

「王都に向かったのは間違いないか?」

「は、はい! 馬を手配しましたので・・・ええと、乗り継ぎの駅馬ですので、間違いは、はい」

「切符買う時点で行き先が決まってないとダメなヤツだな?」

「はい」

「馬を次の駅に納めな、馬ドロボウになるヤツですねぇ」と、ダーリン姉ちゃん。

「仰る通りです!」

 

 ちなみに、馬ドロボウは死刑です。

 大きな家畜を盗むとだいたい死刑です、ハイ。

 ま、それはともかく。

 

 ユリヲワーナ代官は・・・

 1、馬を乗り継いで、王都まで行った。

 2、途中の駅で乗り継ぎをやめて、徒歩で逃げた。

 3、死刑覚悟で馬を盗んで逃げた。

 ・・・の、いずれかとなりますが。

 

「2は、ないですねぇ」と、ダーリン姉ちゃん。「降りた駅で、逃亡先が限定されますもんねぇ」

「3もないわね」と、マレーナ姉さん。「駅馬には印がある。一目で駅馬ドロボウとバレるもの」

「そうだな」

 ユリも、うなずきました。

 西の方角──王都のある方向を、見て。

「ふっふっふw ユリヲワーナめ。粘ってくれるじゃないか?」

 ちょっと恐い目をして、笑ったのでした。

 

 さあ大変だ。休む間もなく王都に出発です。

 

「マリ。この郷で証拠を調べろ。伯爵代行の権限を与える。ヤツの家を壊してもいいぞ!」

 「はい」

「モリーヌ。アスカリア兵をまとめて、マリを守ってくれ。暗殺に注意しろ」

 「はっ!」

「ダーリン。駅馬ルートの確認。いなければ王都まで上がって来い。いま証明を書く」

 「はい」

「テニス、リア。オマエたちは──」

 

 ユリが命令を飛ばしていた、その時でした。

 

「勇者よ!」「アスカリアの勇者よ!」「どうか、ビビワメッツの女どもの訴えを聞きたまえ!」

 

 役所に押し入ってきたババアどもが、ユリの命令をさえぎったのは。

 

◆♀◆ 26、愛情知らぬガチョウども ◆♀◆

 

「夫を返して!」「夫を!」「嘘つき! 嘘つき!」

 

 がなり立てる、年老いた女ども。

「どういうことだ?」ユリは確認しましたが、

「いえ、こちらでも、何の話かわからず・・・そうお伝えしたのですが」と、役人も困り顔です。

 ならば、詐欺の類であろう。

 ということで、追い返して出発しようとしたのですが・・・

 

「代官はどこ!?」「ビビワメッツのユリヲワーナは!」「仕官の口があると言って、夫を騙したのよ!」

 

 ・・・こう言われては。

 貴重な時間を割いて、話を聞くしかありませんでした。

 

「ユリヲワーナを頼ったのは、ビビワメッツ伯爵の遠戚だからです」

 「伯爵が死んで20年。夫も年老い、頼みの綱だったイマック侯爵も殺されて・・・」

  「探し歩いた末に、ユリヲワーナから、仕官の口をもらったのです」

 

 ビビワメッツの老女どもは、話し始めました。

 ・・・不平不満を織り交ぜて。

 

「おお。哀れな夫! 家宝の短剣まで持ち出して」

 「『大きな仕事が見つかった』と、本当に喜んでいたのに」

  「こんな田舎に来たのが間違いだったのよ・・・」

 

「まったく、なんという田舎かしら。給金を出し渋るなんて」

 「半年は経つのに、ビタ一文寄越しゃしない!」

  「恩知らずな平民! 成り上がりの領地ドロボウどもめ!」

 

「・・・。」

 ユリは、我慢して相手をしていましたが。

 

「いい加減にしたらどうです!」

 私がキレました。

 

「ビビワメッツ伯は負けた。──それが、なんだと言うのです!」

 「は?」「何を言うの、小娘!」「一体何者ですの? この無礼な女官は!」

「我が名はフターリア! アスカリア伯の侍女メイドですわ!」

 私は怒鳴り返し、キツい口調で言ってやりました・・・

 

 「ビビワメッツ伯は負けた。それは問題ではありませんわ。

  問題は、領民が、大勢亡くなったことです。

  ここにいらっしゃるアスカリア伯の御両親を含めて!

  ・・・だというのに、あなたがたときたら。

  ガチョウのようにガアガアと、己れの不幸を、がなるばかり。

  それでも戦士の妻ですか。恥を知りなさい!」

 

 「・・・。」「・・・。」「・・・。」

 ババアどもは、落ち窪んだ目で私を睨みました。

 私はフンと鼻を鳴らして、胸を反らしてやりました。

「フターリア。控えよ」ユリが口を開きました。

「は・・・!」

「この役所に仕官していない、というのは、間違いないか?」

「は! 間違いございません」と地元役人。「面談も契約も、一切、しておりません」

「そうか」

 ユリは、老婆たちに向き直りました。

「聞いての通り。私たちには、思い当たる節がないのだ」

 「そんな!」「嘘つき!」「領地ドロボウ!」

「だがな、奥方」

 ユリは、ニヤリと笑いました。

 すると・・・

 『領地ドロボウ』などと暴言吐いてたババアども。

 ポカーンと、ユリの顔に見惚れました。

 すっかり静かになった。

 ユリは続けます。

「──ユリヲワーナについては、取り調べにかかっておるところでな?」

 そして、老婆を見回しました。

「この中で、もっとも位の高い戦士の妻は誰だ? 答えよ」

 「そ・・・それは・・・」「こちらの・・・」「この奥様でございます」

「よろしい」

 ユリは立ち上がり、その老婆に手を差し出しました。

 

「さあ、奥方。ゆこうではないか。ユリヲワーナを、追い詰めに!」

 

 ──出発準備、再開です!(ユリの手ェさっさと離せババア!)

 

◆♀◆ 27、フターリア、覚悟を決める! ◆♀◆

 

 テニスお嬢さまと私は、荷物を減らします。

 モリーヌが作業を手伝ってくれました。

 

「ファリア!」テニスお嬢さま、手を動かしながら。

「なんです?」

「堂に入った悪役っぷりだったわね!」

「でしょ? まぁ、本音なんですけどね!」

「でしょうね!」

 

 私は、革の胸当てと、篭手・脛当てを着けました。

 お嬢さまは『樹ターリア』の準備を始めます。

 

「──ところで、サムライおんなメイドってなに?」

「は?」

「さっき婆さんたちに言ったでしょ。『サムライおんなメイド』って」

「ああ。はい。侍女メイドね。私の職業ですが?」

「・・・。」「・・・。」「・・・。」

 お嬢さま・モリーヌ・ナータちゃんが、顔を見合わせました。

「侍はわかるわ」とお嬢さま。

「女メイドとは、なんです?」とモリーヌ。

「女じゃなかったらメイドじゃないですよね?」とナータちゃん。

「そりゃあ・・・そのぅ・・・」

 私はモジモジしました。

「・・・勇者の、つっ・・・妻の覚悟を、したってコトですよ。言わせんなよぉ♥」

 

 お嬢さまにお尻を叩かれました。

 モリーヌにも叩かれました。

 ナータちゃんにも叩かれました。叩きすぎじゃ!




このページの修正記録

2026/06/28
 人物の名前の間違いを修正。
 誤 ヌイミリバー
 正 ヌーミリバー

2026/06/27
『26、愛情知らぬガチョウども』
『27、フターリア、覚悟を決める!』
 書き直しました。ビビワメッツ・ババアの発言が飛び飛びすぎて理解しづらかったので・・・
 主な変更は、
 ・ババアズの発言が増えました(短剣の話とか)。
 ・フターリアの演説が短くなりました。
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