TSゆりフタ令嬢侍女メイド! 作:min(みならい)R18
◆♀◆ 32、コシモン村の危機 ◆♀◆
ガンガンガンガンガン・・・早鐘の音。
「ドンマロウだー!」「襲撃だ、敵襲、敵襲!」叫び声。
朝のコシモン村は、にわかに騒がしくなりました。
「お二人とも、いらっしゃいますね?」
護衛の女剣士・モリーヌが現れました。
我が護衛。美人剣士。27歳独身。
私とお嬢さまを確認して、うなずきました。
「では、このままお待ちください。状況を聞いて参りますので」
「わかったわ。荷物をまとめておきます」
「よいお考えです」
お嬢さまの答えに、モリーヌはホッとしたようです。
階下へ去りながら、
「くれぐれも、御自分で戦おうなどとなさらないように! いいですね、ファリアさま!」
「・・・そんな心配せんでも」
「いきなり飛び出したりしないでよ?」
お嬢さまにまで言われてしまいました。
フターリアです。
コシモン村が、敵の襲撃に見舞われました。
敵の規模はまだわかりません。が、外は大騒ぎになってますので、危険な状況なのでしょう。
「ここ、重要な村ですよね?」と私。「三叉路ですし、宿場村ですし」
「そうね」
「負ければ大ダメージですか」
「当然そうなるわね」
「呑馬狼(ドンマロウ)だけなら、勇者さまがやっつけてくれそうですが」
私は、ドアを開けて首を出しました。
おっと? 奥から人が走って来ましたよ。
3名様。
勇者さま御一行ですね。
赤毛の女勇者、ユリ。「ダメだよ、姫! 部屋の中にいて!」駆け抜ける。
色っぽいダークエルフの姉ちゃん、ダーリン。黙礼して、駆け抜ける。
ローブ着てクロスボウ持った、マレーナさん。──彼女だけ、立ち止まりました。
「テニスお嬢さまに申し上げます」
「なんでしょう? マレーナさん」
「アスカリアの勇者ユリの判断で、我ら3名、助太刀をいたします。御報告まで」
「心強いことですわ! 天の女神の嘉し賜わんことを」
「ありがとうございます」
マレーナさんも、走り去りました。クロスボウを脇に抱えて。
クロスボウ?
魔術師って言ってたよな?
よく見ると、弦に受け皿がついてますわ。スリングみたいな感じ・・・
「入りなさいってば」
後ろ襟を引っ張られました。
「ぐえっ! 乱暴な」
「自分の身分、思い出して?」
伯爵令嬢のフターリアです。
唇を尖らせながら、荷物のまとめ作業に入りました。
「お嬢さまは、お荷物は?」
「モリーヌが戻ってからにするわ」
コンコン。「モリーヌです」
「噂をすればだ」私、ドア開ける。
モリーヌと、私たちの乳母のリチャータがいた。
あれ?
モリーヌ、顔が白くなってる。
「ドクロマジンが現れました。──死霊使いに、目を付けられたようです」
◆♀◆ 33、呑馬狼と、髑髏魔人 ◆♀◆
「ひぃぃ! ど、髑髏魔人(ドクロマジン)!」
コシモン村、東門。
槍を手にした衛兵どもが、悲鳴を上げる。
石造りの塀の向こうから迫ってくる敵。
まず、呑馬狼が4頭。2頭ずつ列になって。
馬車が悠々とすれ違える一級街道を、たった2頭でいっぱいにして!
さらに。
その呑馬狼よりも、大きな魔物が続く。
ガイコツの巨人。手には、丸太のような棍棒を握って。
「髑髏大鬼(ドクロウキ)・・・っ!」
衛兵は、ガイコツ巨人の名を叫んだ。
その声は恐怖にかすれ、誰にも届かない。
「か、勝てっこ、ねえっ・・・!」
東門。
『門』とは言うが、ただの塀の切れ目である。
村をグルッと囲っている石の塀が、街道の幅の分だけ途切れているだけ。
一応、木製の格子戸はある。だが、そんなものを閉めたところで・・・
呑馬狼が、走り出した。
跳ぶ。
石の塀を軽々と飛び越して、衛兵どもの頭上も越えて。
「うわあ」
衛兵は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
呑馬狼は、そんな衛兵には見向きもせず、村の中心部に突進した。
「た、助かっ・・・た・・・?」
と、震える衛兵の頭上から。
丸太が落ちてきた。
髑髏大鬼の棍棒アタックである!
石の塀が、粉砕された。
石が、降ってくる。
衛兵2人は生き埋めにされ、髑髏大鬼の足骨に踏みつぶされて、死んだ。
そのせいで、報告ができなかった。
東門を飛び越えた呑馬狼が、2頭しかいなかった、という報告が。
残る2頭が、どこに行ったかわからない──という報告が、できなかったのである。
◆♀◆ 34、東門の戦い ◆♀◆
「呑馬狼め!」
村に入った2頭の狼は、別荘からも見えていた。
表玄関に集まった戦士たちは、この2頭への対処を急いだ。
「下馬騎兵殿! 応戦を頼みます」
コシモン村の代官が、大声で指示を下す。
代官。全身を金属鎧で固めていた。
バケツみたいな兜をかぶっており、表情すらわからぬ。だが、その声はよく響いた。
この代官の指示に、4人が応えた。
下馬騎兵。装備はチェインメイルに片手槍、馬上で使う長盾。
テニスお嬢さまの馬車を護衛してきた騎兵であったが、馬を失って、いまは歩兵である。
武士は、3人がバラバラな装備。
1人目は、剣と盾。青銅の兜に、革の胸当て、手袋。
2人目は、鎚鉾と盾。革の胸当て。
3人目は、殻竿。脱穀に使う黒い鉄の連接棍棒である。防具は、青銅の胸当てである。
この4人。
侯爵家の下馬騎兵と、村の武士3人が、呑馬狼に挑むのであった。
ここで、勇者一行が外に出てきた。
呑馬狼とぶつからんとする4人を見て・・・
「足らんな」赤毛の女勇者は、判断した。「ダーリン、行くぞ」
「はい、ユリさま」
「代官閣下! 私と奴隷で、彼らを支援します。マレーナを、お使いください」
「承知した!」
代官の返事を確認して。
ユリは、走り始める。呪文を唱えながら。
「我は変容する。駿馬のごとく、駆け抜ける!」
加速する。
人間の限界を超えて。
ダークエルフの奴隷、ダーリンを置き去りにして。
見る見るうちに、下馬騎兵に追い付く。
「助太刀する!」
「おお、勇者どの」と下馬騎兵。「狼は、我らが」
「わかった。髑髏魔人は、こちらがやる!」
勇者は叫んで、跳んだ。
街道脇へ大きく逸れて、草むらに着地。家々の間を駆け抜ける。
呑馬狼を避けて、その後ろから来る髑髏大鬼を目指すのだ。
下馬騎兵と武士3人はそのまま駆け続け、呑馬狼とぶつかるのであった。
◆♀◆ 35、下馬騎兵と武士 ◆♀◆
「我は変容する! この腕は、呑馬狼をもよく貫く!」と、下馬騎兵が唱える。
「俺も変容だ! 無限叩きの殻竿の神のごとく!」と、殻竿の武士が唱える。
魔術で、自分を強化したのだ。
この2人が呑馬狼の正面に立つ。残る2人は側面に回り込んだ。
下馬騎兵は、見事に狼を刺し貫いた。
噛み付きに来たところを突き返した槍が、喉に入ったのだ。
だが・・・上顎に突き刺さった槍は、抜けなくなってしまった! 頭蓋骨に刺さってしまったのだ。
狼が倒れる。
槍は抜けぬ。
地面につっかえ、狼の体重のかかった槍は、簡単にヘシ折れた。
「む!」
下馬騎兵は顔をしかめ、腰のショートソードを抜いたが。
そこに、殻竿の武士が飛んできた──
殻竿の武士は、奮戦むなしく、生命を落としたのだ。
渾身の力で鼻面を叩きにいったのだが。
狼が頭を低く下げたので、かすり傷に終わってしまった。
呪文で、攻撃を強化したのに。
『発動』の才能が足りず、弱い奇跡しか起こせなかったのか?
『変容』の才能が足りず、奇跡を受け入れることができなかったのか?
仕留めることはできなかった。
殻竿を引き戻すよりも速く、胴体をガップリと咥えられて、殻竿を手放してしまった。
万事休す。金属の胸当てもろとも、バキバキと噛み砕かれる。
「ぐぶっ」
「おのれぃ!」
鎚鉾の武士が、呑馬狼の目を叩いた。
狼は、頬で受けた。毛皮と筋肉で、トゲつき鉄球を食い止めたのだ。
で、首を振る。咥えた武士を、ブウン! ムチのごとく振り回す。この足が、鎚鉾の武士の顔面に当たった。武士は卒倒して、死んだ。
2人を始末した呑馬狼は、殻竿の武士の遺体を、放り投げた。
──この遺体が、下馬騎兵に当たったのだ。
「ぐむっ!」
人間の身体を叩きつけられてはたまらぬ。
下馬騎兵は、もんどりうって、街道から落ちた。
倒れたところに、巨狼が跳ぶ。全体重でもって、下馬騎兵を踏みつぶす──
「ケダモノめが!」
──直前に、腹に剣を突き刺された。
剣と盾の武士であった。
彼は、飛んできた仲間の遺体を、とっさに回避したのだ。
しゃがんだ姿勢から、これまたとっさに剣を突き上げた。
それが、首尾よく狼の腹に刺さった。そして、狼自身の勢いによって、傷口が長々と伸びたのだ。
クリティカルヒットである!
下馬騎兵は、狼に踏み殺された。
だが、狼もまた、呑み込んだ下馬騎兵の体重によって腹が破れ、死ぬ運命であった。
呑馬狼2頭、討伐。
下馬騎兵、殻竿の武士、鎚鉾の武士、3名戦死である。
◆♀◆ 36、力になりたい ◆♀◆
フターリアです。
ええと・・・フターリアです。はい。
「落ち着きなさいよ」
「落ち着いてます私は十分に。ちょっと外が気になるだけで」
「勇者さまのことが好きなのはわかったから」
「好きとかそういうんじゃなくてですね? お嬢さま。ユリさまは・・・」
私は、一緒にベッドに腰掛けているお嬢さまの腕に触れた。
お嬢さまが ─(・_・)─ この耳になる。なんで耳下げたの?
「・・・つまりそのー、力になりたいというか、申し訳ないというか」
「行っても邪魔になるだけでしょ」
「そうです。私1人ならば。ですが、『鉄身』と『ネコ娘』を頂ければ、囮ぐらいにはなれると・・・」
私はモリーヌを見た。モリーヌは目を逸らした。
お嬢さまを見た。お嬢さまは '(・_・)’ 耳が後ろ行ってる!
「・・・そんなー」
「そんなことをしてみなさいな」
お嬢さまは、子供に言い聞かせる口調になりました。
「伯爵令嬢をエサにして敵を釣った──と、噂されるのよ、代官閣下は」
「うっ」
「もちろん私もよ。侍女をエサにして勇者を活躍させた──と、一生言われるのよ」
「ううっ」
私はくじけました。ベッドに倒れ伏す。
「ヨヨヨ! 勇者さまは、私たちのために、身体を張っていらっしゃるのに」
半分泣き真似ですが、乳母のリチャータは頭を撫でてくれました。さすが乳母・・・。
「あなただって、身体を張ったでしょ」
「え? いつの話です」
「昨晩。朝まで」
「・・・。」
私はお嬢さまを見た。あ、はい。まだ怒ってるんですね。
モリーヌを見た。モリーヌは真っ赤な顔をしてました。
◆♀◆ 37、ユリとダーリン ◆♀◆
赤毛の勇者ユリは、髑髏魔人に接敵した。
その数、8体!
髑髏大鬼(ドクロウキ)。見上げるほどのガイコツ巨人。2人。
髑髏狼人(ドックロウジン)。狼の上半身と人間の下半身を繋ぎ合わせた、合成ガイコツ。5体。
髑髏老魔(ドクロウマ)。ガイコツの魔術師。1人。
陣形は、先頭に大鬼1人。その足元に狼人、そして老魔、最後尾に大鬼1人──である。
「多いな!」
ユリは笑う。
「だが、私は死なん。やりたいことがある。・・・フにゃーリアと、セックスとか!」
先頭の大鬼が棍棒を振り下ろしてきた。
ユリは走った。駆け抜ける。『駿馬』の速度で。
棍棒は空振り。樫の丸太のごとき質量が、大地を叩いた。
地震が発生した。
比喩ではなく、付近の家が浮き上がり、土煙を噴いた。
ユリも浮き上がった。だが転びはしない。フワッと空中を飛んで、大鬼の背後に着地。狼人を1体蹴っ飛ばして、ブレーキに利用。大鬼の膝の裏を、斬りにゆく。
「我は変容す!」唱える。「雷切り裂く剣聖の、神通力よ、我にあれ!」
横薙ぎに。
パカン。
髑髏大鬼の右膝が、切れた。
大鬼は倒れる。だがそれより、戦闘のほうが先に展開する。
髑髏老魔が杖をかざして、「変容セヨ。肌身モ骨モ、石トナレ──石化!」
石化の呪文!
だが、
「効かぬ!」
左手をかざすだけで、呪文を『妨害』。
奇跡を無効にして、効果を完全に打ち消した。
逆に唱え返す。
「髑髏魔人ども、倒錯せよ! 味方はすべて、敵となる──『反乱』!」
しかし、敵もさるもの。
「グルルルル!」
髑髏狼人、骨だけの手をかざして『妨害』。
隣の髑髏狼人も、骨の手で『妨害』。
隣のも『妨害』。
3人がかりで、ユリの呪文を打ち払った!
「だろうな」
ユリは怯まない。
彼女の狙いは呪文を通すことではなかった。
手をかざして『妨害』した狼人ども。一瞬だけ、手が止まる。それが狙いだったのだ。
右に斬る。左に斬る。
パカン! パカン!
狼人の背骨が、2本、切れた。
崩れるガイコツのあいだを抜けて、ユリは杖持つ老魔に迫る。
老魔は呪文で逃げる。
「我ハ変容ス。有ッタ所ニ我ハ無ク、無カッタ所ニ有ルヨウニ。勇者ノ手ノ届カヌ所ニ──『転移』!」
ガイコツの身体は、勇者が迫った地点には、無くなった。
2体目の──無傷の──大鬼の向こうに、有ることになった。
テレポーテーション!
これをくり返されては、いかな勇者でも仕留めようがない!
「って、知ってるんでね」
ユリは老魔から視線を外し、上を見上げた。
髑髏大鬼。
いまにも丸太の棍棒を叩きつけんとする、巨大鬼のガイコツを。
「大気よ変容せよ」
ユリはグッとしゃがみ込んだ。
そして。
「我を巻き上げ、我が剣に切り裂かしめよ──」
唱えて、跳んだ。
ヒュパァン! 肌の切れそうな音がしたかと思うと・・・
大気が、ユリの身体を巻き上げた。
振り下ろされる丸太とすれ違うように、ユリの身体が上昇。
回転する。
渦巻く大気に揉まれて。
その回転の終わりに、剣を握った両手が伸びた。
「──つるぎの竜巻!」
パカン! 大鬼の首の骨が切れた。
巨大な頭蓋骨が、竜巻に弾かれて、吹っ飛ぶ。
ガイコツに宿っていた霊、その霊を操る魔術──死人を操る死霊術は、生命を模倣する。
死んでいるが、生きているように動く、という奇跡。
その模倣は、精密なもの。
生命を模倣し──生命の終わりをも、模倣する。
この死霊術の法則に基づいて、首を打たれた髑髏大鬼は即死した。バラバラになって、地面に散らばる。
「石化セヨ!」
「効かんと言った」
『妨害』しながら着地したユリは髑髏老魔を睨む。
老魔は、また瞬間移動した。街道脇の家の陰まで、一気に移動する。
そこで攻撃に転じようというのか、ユリに杖を向ける。
何かを唱えようとした、その時。
いままで姿を消していたダークエルフの美女が、老魔の背後に現れた。
ショートソードを、振り下ろす。
老魔の首骨、叩き落とした!
死霊術の法則に基づいて、髑髏老魔はバラバラになった。
「よくやった、ダーリン」と、ユリ。
「はい、ユリさま」
「老魔を探れ。死霊使いにつながる物があるはずだ」
「かしこまりました」
髑髏魔人8体、討伐。
被害、皆無である。
◆♀◆ 38、代官・騎兵・マレーナ ◆♀◆
「閣下! 南門に、呑馬狼が!」
館の表を守る代官に、新たな報告が入った。
「回り込まれたか・・・」
驚くあいだにも、南門から巨大な狼が駆け寄ってくる。
呑馬狼1体。髑髏狼人が3体。
「騎兵殿! 呑馬狼を頼みます。マレーナさんは、数を減らしてもらいたい」
「承知!」
「かしこまりました」
騎兵が突進した。この馬は、侯爵令嬢の護衛のうち、唯一生き残った騎馬であった。
マレーナは、クロスボウのレバーに手をやった。
台座の右側面に付いている、グルッと回せるレバーである。ゼンマイのネジ巻きみたいな感じ。
これを回す。すると・・・
1)弦を引っ掛け、
2)テコの原理で引いて、
3)引き金に掛けることができる、
・・・のである。
弦が引き金に掛かった後は、レバーは自然と下に落ちる。よって、射撃の邪魔にならない。
マレーナは軽々とレバーを回して、弦をセットした。
弦には、受け皿がついている。
ベルトポーチから取り出した粘土を、クルクルと丸めて、その受け皿にセット。
準備完了。
敵の様子を見る。
騎兵は呑馬狼をやり込め、優勢に戦っていた。
長い槍、細長い盾、人馬一体の複雑な動きで、狼を制している。
だが、髑髏狼人3体まで止める余裕はなかった。そいつらが騎兵の背後に回ろうとする。
「小魚を、撃ちます!」
マレーナは騎兵に伝えて、クロスボウを構えた。
「此は烈火──」
呪文を途中まで唱えて、引き金を引く。
びよん。弱~い張力で、粘土が静かに撃ち出された。
形を保ったまま宙を飛んで・・・髑髏狼人の背中に命中。
その瞬間、マレーナは呪文の残りを唱えた。
「──焼き討て!」
爆炎。
騎兵が見えなくなるほどの火球が、髑髏狼人3体を呑み込んだ。
髑髏狼人は3体とも、恐るべき反応速度で手をかざす。
『妨害』!
だが、マレーナの呪文が勝った。
1体は完全破壊。骨が灰となって風に散る。
1体は致命傷。あちこちの関節を脱臼しながら転倒し、バラバラの骨に戻った。
最後の1体だけは、呪文を防ぎ切り、ほとんど無傷で突っ込んで来た。
「・・・討ち漏らしました」
「十分じゃ!」
代官は、マレーナをかばって前に出る。
両手剣を構えた。
髑髏狼人は、速い。代官が打つより速く飛び込んできた!
──と、見えたのは代官の手の内。敵を十分に引きつけて、懐に入ったところを打つ。
柄頭で、強撃!
白い狼の頭蓋骨、その鼻面を粉砕した。鼻から頭頂まで骨が砕け、髑髏狼人は即死した。
「呑馬狼、討ち取ったり!」
騎兵からも、勝利の報告が飛んできた・・・。
呑馬狼1体、髑髏狼人3体、討伐。
被害、なしである。
──だが、ここで。
「う、裏口に呑馬r──ギャーッ!!」
別荘から、悲鳴が聞こえて来たのであった。
◆♀◆ 39、フターリアはピンチです ◆♀◆
こちらフターリア。
勇者さま、聞こえますか?
裏口のほうで悲鳴がしました。
ドガン! ゴギャッ! バリバリバリ! と、扉が破れる音もしています。
こちらはピンチです。助けて!
──返事はありませんでした。
ま、当然ですね。
通信機器なんか持ってませんからね、私は!
さてと。
「『ネコ娘』と『鉄身』、ください!」
私は、モリーヌと一緒にベッドを倒しながら叫びました。
倒れたベッドの陰には、お嬢さまと乳母がしゃがんでいます。
荷物袋を渡しました。盾になるかと思って。お嬢さまは「賢いわね!」と喜びました。そう? 照れるぜ。
騒音が近付いて来ます。
「フターリアよ、変容・・・ネコ娘に・・・~れ!」
お嬢さまの詠唱も、かき消されるほどです。
私はタイツとパンティを半脱ぎにして、尻尾を左右にビシバシ振ります。
モリーヌが『鉄身』を私にかけて、ドアの前に1人で立ちました。
私は、彼女の肩を押しのけました。
「お嬢さ──」
「モリーヌ、呑馬狼に、噛まれたことはある?」
「いいえ!」
「私は、ある!」
「・・・。」
私とモリーヌは横に並びました。
「頑張って、ファリア!」
ベッドの陰からお嬢さまの声援が来ました。
乳母と2人して、私の荷物を掻き回しています。
何してんの? さっきまとめたとこなのに。と思ったら──
カン! カン! カン! カン!
・・・手鍋を見つけ出して、叩き始めました。
なるほど、クレバー。さすがお嬢さま。
ドガッ! バリバリバリ!
馬鹿デカい爪が、扉を蹴破りました。
バリケードにしておいた机も、ぺしゃんこにされました。
──戦闘開始です!
◆♀◆ 40、ネコパンチ。ノーダメ ◆♀◆
呑馬狼が、鼻先を突っ込んで来ました。
噛み付き! 稲妻に迫るほどのスピード!
「ニ゛ャッ!!」
私は、稲妻よりも速く、その鼻面をブッ叩きました。
バチコーン! ネコパンチ、命中です。
呑馬狼はビックリして鼻を引きました。
が。
「効いとらんな」
「こいつは、クマより、強いですから!」
モリーヌが、剣で突きます。
毛皮には当たりました。しかしノーダメ。剛毛すぎる・・・。
呑馬狼は怒り狂って、上下左右に鼻先を動かし、ガチン、ガチンと噛み付いてきます。
動きが速すぎる。
モリーヌの速度──人間の反射神経では、捉え切れない様子。
「私にも、『ネコ娘』を・・・!」
「やめたほうがいい」
「なぜです!?」
「あなた、ズボンだから」
モリーヌが半泣きでお尻を出すところを想像して、私はちょっと興奮しました。
呑馬狼の噛み付き。ネコパンチ。ノーダメ。鼻引っ込む。
モリーヌの突き。牙に弾かれてノーダメ。
噛み付き。ネコパンチ。ノーダメ。
狼は噛み付きを続行してきました。私のパンチは痛くないとバレてしまったようです・・・。
でっかい口が、視界いっぱいに!
私、上半身を大きく動かして、回避。
追い打ちの噛み付き。
私、前足を床に着いて、後ろ足で下顎を蹴り返す。
モリーヌが突く。上唇に少ダメージ。さすがに、呑馬狼はいったん引っ込みました。
──引っ込んだ隙間から、ガイコツが入って来ました。3体。
「ひっ!? お化け!」
私、ビビる。
ファンタジー世界に住んで15年になる、前世:男子高校生の私ですが・・・
いまだに、物理的に動くハズのないものが動く光景には、ゾッとします。
「髑髏狼人です! 爪に気を付けてください」
モリーヌが2体に絡まれた。剣で受けながら、私に忠告してくれる。
「刃の、ように、切れます、からっ!」
短い前蹴りで狼人の膝を粉砕。さすが私の護衛。見事なヤクザキック。
私には1体飛び掛かってきた。
ネコパンチすべきだったのですが、ビビっていた私は飛びのいてしまいました。
私の前のスペースが空く。
髑髏狼人が、そこを通過しようとする。
いかん! お嬢さまに敵が流れる!
私は、あわてて踏ん張って、追いかけネコパンチを出そうとしました。
ブチッ。左足のローファーのベルトが切れました。
「ふひゃ?」
私は、ずっこけました。
髑髏狼人の目の前で、ガツーンと、床に。
床が割れたような音がしました。・・・割れたかも。いま、硬いからね、私。
上から呑馬狼が。
ダメ。避けれん。
頭からバックリ喰われ、引きずり起こされる。
「ぐっへ!」
痛い!
腹に牙がズシーンと!
『鉄身』のおかげで、刺さることはなかったが・・・内臓が揺れました!
呑み込もうとする動き。
逆らう私。
ガブッガブッと私を噛み直し、なんとしても呑み込もうとする動き。
ぬわー! またメイド服が破れる!
私は、狼の下顎を両手で抱き締めました。
『ネコ娘』の能力を駆使して、反撃します。
・・・具体的には、ガバッと大股開いて、ネコキックです。
ネコが自分の首をカッカッカッカッと掻くじゃないですか。ああいう感じですね。
超ショートレンジの、自分の顔より上を突き飛ばすような蹴りです。
スカートめくれて、お尻丸出しになってますが。
この際しょうがない!
ネコキック連打!
左足のローファーが脱げました。
右足のローファーは──狼の目に入りました!
「ガルルルルルッ!!!」
クリティカルヒットであります!
しかし・・・
狼は、片目が潰れたぐらいで私を放してはくれませんでした。
むしろ何が何でも殺そうとしてくる。
息が・・・できん・・・!
このままでは、窒息っ・・・!
・・・する前に、壁に叩きつけられました。
なるほど、クレバー。さすがは呑馬狼。
私は気絶して、ダラリと狼の口にぶら下がりました・・・
◆♀◆ 41、決着 ◆♀◆
「お嬢さま、お嬢さま!」
「む・・・?」
目を覚ますと、モリーヌに肩を抱かれ、ガチンガチン! とビンタされていました。
「痛い痛い」
「ああ! お嬢さま」
ガキーン!
『鉄身』のかかった者同士、ロボットみたいな感触の抱擁です。
「呑馬狼は?」
「仕留めました」
なんと?
見れば、入り口に転がる巨大な狼。舌がダラリと垂れています。
その耳の穴に、剣が深々と突き刺さっていました。
「うおっ! ・・・あなたが?」
「はい」
「よくやった」
「いいえ。護衛失格です。またしても、お嬢さまをこんな御姿に」
「ん?」
自分を確認してみると。
メイド服の上半身が破れていました。
ダークブルーの麻のワンピースが破れ、シルクのシャツのボタンが飛び、ブラジャーの肩紐も外れてます。
たぶん、おっぱい丸出しだったんだろうなー・・・。
モリーヌが直してくれたんでしょうが、私が動いたせいで、またブラ丸見えになってしまいました。
終わった・・・予備のメイド服まで・・・。
ま、いいですわ。それよりお嬢さまですわ。
「お嬢さまは?」
「私は無事よ」
ベッドの陰からお嬢さま。モグラ叩きみたいに御登場です。
「リチャータも無事よ。あなたが一番ひどいわ。この部屋ではね」
呑馬狼1体、髑髏狼人3体、討伐。
被害は、侍女フターリアのメイド服だけでした。
「荷物もグチャグチャだし」
「まあ、それは──」
階段を駆け上がってくる足音がしました。
私とモリーヌはハネ起きます。
ですが、それは狼ではありませんでした。
「リア! 無事か!?」
「ユリっ!」真っ先に私を呼んでくれたので、舞い上がった私はユリに飛び付きました。「ニャーン♥」
「・・・チッ。狼め」お嬢さまが毒付きました。
代官と騎兵班長もやって来て、私たちの無事を確認しました。
コシモン村の防衛戦、これにて決着。
防衛側の辛勝といったところです。
代官と騎兵隊長、それに乳母のリチャータは、部屋を出て、下に降りました。
私はユリにくっついていました。服が破れていたということもありますし・・・
お嬢さまも文句が言えず、煩悶していたようです。
すまぬ。
・・・俺も、恐かったんだよ。
さて。
ここで、ダーリン姉ちゃんが重要アイテムを出しました。
「・・・ユリさま。これを」
灰色の巾着袋です。
勇者に手渡して、
「水晶の首飾りです。髑髏老魔が首に掛けていました」
◆♀◆ 42、重要アイテム ◆♀◆
「首飾りか」
「人の声がしたので、『遮断の袋』で持ち帰ったのですが」
「いい判断だ。出してみるか。マリ?」
「はい」
マレーナさんが呪文を唱えます。
「大気よ変容せよ。光と音を跳ね返し、表には、裏が見えず聞こえぬように──大気の鏡」
マレーナさんが呪文を唱えました。
すると。
巨大な鏡が、部屋を区切りました。
マレーナさんが見えなくなってしまいました。
代わりに、私とユリ、それにダーリンとモリーヌの姿が、浮かび上がりました。
「鏡・・・!?」
モリーヌが驚いて、手を伸ばしました。
鏡の表面に触れると、そこが波立って、穴が開きました。マレーナさんが見えました。
「私以外は、そっちに隠れてください」とユリ。
「わかりました」モリーヌは鏡を抜けて向こうに行った。
「・・・ユリは?」私はユリを見つめます。
「大丈夫だよ、リア」
ユリは私の耳元でささやき、ついでに耳にキスしてくれました。
私は満足しました。鏡の向こうに移動。お嬢さまの横に座ります。ガブリ。「痛っ!?」ネコ耳を噛まれました。
ダーリン姉ちゃんもこっちに来ました。ただし、鏡面ギリギリに立って、ショートソードを構えています。
「では、出しますね」とユリ。
「気を付けて」と私。
無視されました。
なんで!?
「こちらの声は、向こうには聞こえないのです」とマレーナ。
「あ、そうなんだ。良かっ・・・痛っ」またネコ耳を噛まれました。
「出すよ」
勇者さまがそう言って(向こうの声は聞こえます。一方通行ですね)、袋の中身を取り出しました。
銀の鎖。
銀の台座。
人間の耳ぐらいの大きな水晶が、はめ込まれています。
その水晶に。
恐ろしい顔が、浮かび上がりました。
<勇者! 貴様! またしても邪魔しおったな!>
◆♀◆ 43、死霊使い ◆♀◆
それは、目と口を備えてはいましたが、生きた人間の顔には見えませんでした。
まるで死人──それも、何十年も薬液に浸されて保存されてきた死人の顔です。
「ひっ」
私は息を呑み、お嬢さまのシャツに掴まりました。
お嬢さまは満足げに私の頭を撫で──狼のヨダレでベトベトなので、嫌そうに手を払いました。
「御機嫌よう、『死霊使い』閣下」
勇者さまはニヤニヤしながら首飾りを覗き込みました。
「チャチな下っぱ髑髏魔人で、何ができると思っておられたので?」
<死ね! 『即死の陰線』!>
水晶の人影は呪文を唱えました。
黒い線が走る。水晶の中から勇者の喉へ。
勇者はフッと息を吹きかけて、その呪文を『妨害』しました。
「いまのは観客に受けそうですね、閣下。私は引っ掛かりませんが」
<ふん>
「で、今回は、誰を人形に仕立てたのです?」
<モターズ伯爵だ・・・>
水晶の顔は、怒りに歪みました。
<オーモテ・モターズ伯。領民もろとも、殺してやったぞ。
愚かにも、私を利用しようとしたのでな!
次は貴様だ、みなしごのユリ!!
その名のついた花のごとく、白い骨にしてやろう。
二度と元に戻れぬ姿にして、永遠に飾り、辱め──>
「それでは御機嫌よう」
ギュッ。勇者が水晶を握り締めました。
<ぬわっ>
灰色の巾着袋に、ポイ。もう人の声はしなくなりました。
「もういいよ、マリ」
「大気よ、元に戻れ」
マレーナさんが『大気の鏡』を解除しました。
「いまのは・・・」と、お嬢さま。
「死霊使いですね」と、勇者さま。
「北の国境を、長年脅かしてきた、あの?」
「そうです。髑髏魔人の生みの親にして、みずからも髑髏魔人のように生ける死人となった男」
「魔王の重臣の1人ではありませんか!」
「いかにも」
勇者さまは、巾着袋をクルクル振り回しました。
「無口な髑髏魔人に取り巻かれているせいか、おしゃべり好きでね。相手をしてやると、情報をくれる」
巾着袋をマレーナさんに渡し、ため息。
「こういう形では、よく会うのですが。尻尾が掴めないんですよ」
「あの・・・、」
私は手を上げました。
「なに? リア」
「モターズ伯は・・・本当に、殺されたのですか?」
「たぶんね。死霊使いは、呪詛は吐くけど、嘘はつかないヤツだから」
「・・・。」
私は胸を押さえた。
ユリは、私の肘を支えて「大丈夫?」
「ありがとう。いえ、縁者というわけではないのですが・・・」
オーモテ・モターズ伯。
私が11歳の頃から、結婚を申し込んでくれていた伯爵です。
うちの父より少し若いだけの、かなり年上の男で、顔はネズミみたいでしたが・・・。
「・・・殺されたと聞くと、恐ろしいものですね」
「よしよし」
ユリが私の背中を撫でてくれました。
安心する・・・。
つい、ニヤニヤしてしまいました。
お嬢さまがトテトテと近付いて来て、尻尾を軽く叩いて下さいました。
「はっ! 失礼しました。言おうとしたのは、私の思い出ではなくてですね、」
モターズ伯爵領は、北の国境線を守る伯爵である。
その伯爵が殺されたということは・・・
「国境は、すでに破られた、ということに・・・」
「なるだろうね」とユリ。
「私たちの国・・・危ないのでは?」
私とお嬢さまは、顔を見合わせました。
アイメンカ侯爵領も。
ダンゼイズ伯爵領も。
王国北部の領地であり──モターズ伯爵領に接しているのです。
「ええ」ユリはうなずきました。「北部諸侯には、すぐに伝令を出したほうがいいでしょう」
「・・・伝令に回す人手があればよいのですが」と、モリーヌ。
「父には、私が手紙を書けばいいとして、」
お嬢さまは、私の肩を叩きました。
「ダンゼイズ伯爵領には、私たちが行くしかないわね!」
「え?」
「もともと、それが侯爵閣下の命令よ」
テニスお嬢さまは。
何を考えたのか、じわじわと笑みを浮かべながら、こう結論しました。
「予定通り、ダンゼイズ領へ行くわ! 敵がいるなら、蹴散らしてでも入ってみせる!」