TSゆりフタ令嬢侍女メイド! 作:min(みならい)R18
◆♀◆ 5、ダンゼイズ軍、攻めてくる ◆♀◆
ダンゼイズ伯爵家が、攻めてきました。
『捕虜にしている姫君を開放せよ』とかいう頭おかしい言いがかりを付けて。
「──俺じゃないからね? 俺言ってないからね? 捕虜とかそんなコト」
「フーン」「フーン」
「いやマジで!」
「フーン」「フーン」
フターリアです。ダンゼイズ伯爵家長女です。
潔白を主張したのですが、ユリとテニスお嬢さまにフーンフーンと流されてしまいました。
さて。
攻め込まれたアスカリア伯爵家は、北東部の荒れ地で迎撃することになりました。
出陣したのは、王都から帰ったばかりだった私たち。すなわち──
女勇者にしてアスカリア伯爵 ユリ
┗アスカリア歩兵 5班(30人)
『希望の港』代官 メイダーリン
┗偵察兵 1班(6人)
司厨長補助 テニッサメイズ
侍女メイド フターリア
──です。
一方のダンゼイズ軍は──
「200の、半分ぐらいか?」とユリ。
「そうですねぇ」と、ダーリン姉ちゃん。「騎兵30、歩兵60。荷運びが100。あと、親衛隊が12」
──ということでした。
「運搬が少ないな」
「ショーシナー伯爵が食料送ってますからねぇ」
「ショーシナーめ!」
ユリ、私を睨む。
私(ショーシナー伯爵の孫娘)、縮こまる。
お嬢さま、背筋を伸ばして私をかばう。好き・・・。
「お館様」と、そのお嬢さまが手を挙げます。
「なんだ」とユリ。
「補給前提ということは、ダンゼイズは深く攻め込む気はない、というコトでしょうか」
「なぜ」
「アスカリアは貧しく、買うにも略奪するにも不自由する──ぐらいは、相手も知っているでしょうから」
「手厳しいなw」
ユリは肩をすくめ、ダーリン姉ちゃんに目を戻しました。
「親衛隊と言ったか」
「はい。伯爵一家のですねぇ・・・」
「一家」
「はい。ダンゼイズ伯爵ユージュー、伯爵夫人クロッカーカ、長男ナンカヂーノ」
「え?!」
俺は、思わず声を上げてしまいました。
またユリに睨まれます。恐・・・。
「し、失礼しました。母ちゃんが来るとは思ってなくて、つい」
「ふん」
「影武者とかやないですよ。本人ですねぇ。あの青鹿毛がそうですわ」
ダーリン姉ちゃんが指差した、黒い馬。
ゴマ粒みたいなサイズなんで顔はわかりませんが、確かに、女が乗ってるっぽい。
母ちゃん・・・なんで出て来たの・・・
っつーか、あの青鹿毛、見たことあんぞ?
「モリーヌの馬に見えるが」
「おそらくそうですねぇ」
「・・・。」ユリがまた私を睨みました。
「知らねえって!」私は慌てました。「モリーヌ置いてきたのマリ姉じゃん!」
モリーヌ。我が侍女にして護衛。にして愛人。
マレーナ姉さんが、ダンゼイズに置いてきちゃったんですわ。
『信用できない』という理由で。
「当然だろ」
「敵国の戦士と2人で歩くワケには行きませんもんねぇ・・・」
「敵国・・・!?」
私は、しおれました。
お嬢さまが、ポンポンと、お尻を叩いてくれます。
・・・いや、あのさ。尻叩くなや。せめて腰にしてくんない?
「ブヒ」
黄色い馬のベロ~ン君も、気を遣ってくれました。
私を横目(馬の目ですな)でジーッと見て、ベロ~ンと舌出してきます。
「はいはいw」撫でてやりました。
「ブヒン」
ちなみに、マレーナ姉さんは本拠地で留守番です。
例によって事務が溜まってるらしい。どよ~んとしてた。
今回だけは「ざまーみろ」と言わせてもらう。俺の侍女を引き剥がしやがって・・・。
さてと。
ダンゼイズ軍が動き始めました。
歩兵を前に立て、全軍でゆっくり前進してきます。
そして半刻。(のんびりしてんなぁ!!!)
互いに声が届く距離になりました。
「誇り高きぃー、ダンゼイズ伯爵のぉー、名においてぇー、申ぉーす!」
敵の代理人が前に出て、叫び始めました。
たぶん吟遊詩人ですな。暗記が得意で声もいいから、代理人に使われるんだよね。
「恥知らずのぉー、アスカリア伯爵よ。
テニッサメイズ姫とぉー、フターリア姫をぉー、いますぐ解放せよ・・・」
言ってくる内容は、宣戦布告と同じでした。
敵代理人が引っ込みます。こちらの番ですな。
アスカリア軍から、代理人たる私が前に出て──
「なんで俺!?」
「私の侍だろ」とユリ。
「い、いや、うん。ハイ。もちろんそうですが」
「いい感じに言い返せ」
「そんな適当な」
「失敗したらクビ」
「えーーー!?」
ええいクソ。
まあいい。俺も15年前の俺じゃねぇ。
封建社会で育って、美女5人(+ダーリン姉ちゃん)と楽しんだメイドだ。
ただの男子高校生じゃねぇってトコ、見せてやる。
「誉れ高きぃー、アスカリア伯爵の名においてぇー、もの申ぉーーーす!!!」
デッカい声で怒鳴ってやりました。
詩人みたいに綺麗な声にはならんが・・・
音量あるよ。フターリア、胸デカいし。喉もいいからね!
言い返した内容はこうです。
「私ことフターリア、そして我が主人テニッサメイズ姫は、ともに自由の身である。
いったい、なにを馬鹿げた勘違いをして、他国を侵したのか?
天よ、みそなはせ! 早トチリの無作法者、ダンゼイズ伯爵を。
我が父ながら、まことに恥ずべき男!
謝罪し、賠償を支払うがよい──
勇者にしてアスカリア伯爵・ユリさまの聖剣の切れ味を知りたいのでなければ!
──わかってんのかマジで!! ユリがキレる前に、とっととあやまれや!!!」
馬上のダンゼイズ伯爵。父ちゃん。『やれやれ』みたいな感じでため息。動揺ナシ。
後ろの伯爵夫人。母ちゃん。私を見下ろし、無表情。身体が揺れてるようですが・・・?
騎兵の先頭にいるナンカヂーノ。弟。私と父ちゃんを見比べてます。動揺ナシ。
「・・・ダメですわ」戻った私は報告しました。
「なにが」とユリ。
「父母の食い違いを期待したんですがね。ちゃんと合意して乗り込んでるっぽいですわ」
「そうか」
口上のやり取りは、何度かくり返されました。中身は似たようなモンです。
そして半刻。(のんびり!)
ダンゼイズとの戦が、始まってしまいました。
ダンゼイズ軍は、歩兵を前に、騎兵を右翼に迂回させて手堅く前進してきます。
アスカリア軍は、フタゴンを単騎特攻させました。
「なんで俺!!?」
◆♀◆ 6、守備的ドラゴン娘 ◆♀◆
「だから、オマエは私の侍なんだろ?」
「そうだけどさぁ!」
「なら私のために戦えよ」
「戦うけどさぁ・・・」
私は天幕に入って服を脱ぎながら答えました。
(ドラゴン娘に『変容』するためですよ。エロい目的じゃないよ)
「・・・ユリを守れるのは、うれしいんだけどさぁ」
「ならいいじゃん」ユリは私のハダカをジロジロ眺めてます。
「いや、ほら、フタゴンって、守備的ドラゴンだから。ね?」
「知らん。とっとと着替えて出撃しろ」
「うわ冷たっ。やる気失せるわ」
というワケで。
フタゴンです。丘の中腹に、ポツーンと立ってます。
頂上、馬防柵の内側には、残る全軍──ユリと30人の仲間が残って、腕組みして私を見てます。
マジでやる気失せるわ。懲罰人事じゃねぇか。パワハラですわ!
ダンゼイズ軍が出してきたのは、歩兵60、騎兵30です。
──全部やんけ! 親衛隊以外、全部こっち来とるわ!
太陽は天高く、私の右斜め後ろにあり。
私が、ドラゴンの翼をばさー・・・と広げると、丘に生えたペンペン草が影に包まれ。
ドラゴンの尻尾がバタンバタンすると、ペンペン草がぺちゃんこになりました。
「ぐるるる・・・」
やりたくねぇ・・・
カエル人にブレス吐くのですら、すげぇ抵抗あったんだよ。
あん時は『やらなきゃ女子供がやられる』って意識があったから、吐けたけど。
守備的ドラゴンっての、あながち冗談じゃないんだよな・・・
でもなぁ・・・
ユリの侍にしてくれって言っちゃったし・・・
ユリやツナちゃんと結婚するためにも、戦功は取りこぼせないしなぁ・・・
つれぇ・・・
などと、私が悩んでおりますと。
「姫ぇ~~~!!!」
ダンゼイズの戦士が叫んできました。
歩兵60人の先頭を歩いてる戦士です。おっさん戦士ですな。
知ってる人だ。
「ウソだろオイ」
戦士長じゃん。
コノマーズの反乱のとき、『フターリア戦士班』になってくれた御方だよ。
戦士長の左右に並んでる5人も、あん時の人たちだ。顔、覚えてるもん。
うっわ! こりゃ無理だわ! 火なんか吐けるかよ。
っつーか精鋭だし。火ィ吐いても勝てるかわからんよコレは。
「ちょ。やめ。来んな」
「姫ぇ~!」「お助けに上がりましたぞ~!」「もう大丈夫ですぞ~!」
「来んなっつってんだろ!」
「わしらの班だけは、手強いですぞ~! 『妨害』の得意なヤツだけ集めましたからの~!」
「えー!?」
「ブレスの3発は吐かにゃ~、止められはしませんぞぉ~!」
「・・・はぁ」
「いいですな~? ブレス、3発、ですぞぉ~!」
「・・・。」
戦士長と精鋭5人が突っ込んで来ました。
でっかい盾をかざし、剣を高々と上げてます。
・・・けど、足が遅いな?
私のいる丘、そんな大した斜面じゃないんだけど。
チンタラチンタラ登って来やがる。この人ら、ものすごい健脚のハズなのに。
「さぁ、吐くなら吐いてみなされ~」
戦士長がアイコンタクトしてきました。
「とっとと吐かんと、わしらが姫を連れて帰りますぞ~」
まあ、そこまで言うんなら・・・
「俺は帰らねぇぞ! ユリさまと結婚するんだ。そっちがカエレ! がぁー」
ブレス吐いてみました。
炎が広がり、6人の戦士を包み込みます。
「ぬおお~」「なんのこれしき」「『妨害』」
6人は盾で頭を守りました。
ノーダメっぽい。
盾は焦げたが、兜の房飾りはなんともない──程度です。
「全然効いてませんぞ~」
戦士長がアイコンタクトしてきました。
「さあ、祖国に帰りましょうぞ~」
コイツら・・・。
「だから帰らねぇつってんだろ。がぁー」
ブレスもう一発吐いてみました。
「ぬおお~!」「なんのまだまだ!」「『妨害』じゃ!」
6人は突っ込んできます。
まだノーダメっぽい。
兜は焦げましたが、その下の顔やヒゲはなんともない──程度です。
「わっはっは、2発じゃワシらは止まれませんぞ~」
戦士長がアイコンタクトしてきました。
「御両親とモリーヌが待ってますぞ~、姫~」
八百長やめろや・・・。
「がぁーーー!」
あ。やべ!
力入れすぎた!
『八百長やめろや』のイラッが態度に出ちゃった。フタゴンはこれだから!
「ぬぐわぁ!!?」「うわ熱っつ!!」「ぼっ、『妨害』ッ!!!」
6人は転げ回りました。
アカンわ。ダメージ入っとる。
兜は黒焦げ、その下のヒゲもチリチリ──程度です。
「うっわ、ゴメン! 大丈夫かよ!?」
フタゴン駆け寄りました。
前足の爪でガバッと土をすくって、燃えてるマントに掛けて、バシバシ叩いてやります。
「いてっ! いてっ!」
「すまん」強過ぎたか。「大丈夫? マジで」
「・・・生命に別状はありませんぞ」
戦士長はコソッとそう言ってから、
「ぐわあ~!!!」
転げ回って、バタッと大の字に倒れました。
「もう、ダメじゃ!」「火で焼かれ、爪で切り裂かれ・・・」「おまえたちだけでも、ここから逃げよ!」
「えっ?」後続の歩兵が顔を見合わせて、「ま、まあ、戦士長がそう仰るんなら・・・」
「戦士長、討ち死にぃ~!」
ダンゼイズ歩兵、54人。クルリと反転して、逃げていきました。
「死んでねえよ」
「いやいや、もはや死んだも同然」
戦士長は仰向け大の字のまま言いました。
「わしら6人、いずれも子供が大きくなり、家も安定しており」
「なんの話だよ」
「もはや死のうと捕虜になろうと、大した問題はござらん」
「ござるわ。私が恨まれるだろ。オマエたちの母ちゃんに・・・」
私は、ため息をつきました。
「まあいいわ。じゃあ・・・えーと、捕虜にすっから」
「はい」
戦士6人はパッと起き上がり、正座して、剣の鞘を外し、自分の前に置きました。
「余裕あんな?」
「いや全然!」「ぐわー、熱い!」「もう死んだも同然じゃあ~!」
「もうええっちゅうの」
私が6人を立たせ、ユリの元へゆくように指示した──
その時でした!
「ヤアヤア! 我が名はナンカヂーノ! 戦士長の仇を討たせてもらう!」
・・・弟が、戦馬に乗って、突っ込んできたのは。
「む」
見れば。
弟は騎兵1班(6騎)だけで、私に突っ込んできます。
舐めやがって。
いや・・・残りはどこ?
「姫。4班回り込んどりますぞ」「丘の裏から、頂上を狙っとる」「ユリさま狙いじゃ」
「クッソ! 八百長か本気かハッキリしろや!」
二手に分かれたダンゼイズ騎兵。
私に向かってきたのはごく一部で、主力は、丘の頂上──ユリと、お嬢さまのところへ、突っ込んでいたのです。
「まあそうするわな」「あの馬防柵じゃのう」「工作の仕方も知らんのか。アスカリア軍は」
「うるさいよ。ええと、クソ、どうすれば」
間に合わなくはない。いますぐ地面蹴って飛び上がって、騎兵の群れにブレス吐けばいい。
しかしだ。それをやると、人が死にかねん。
どうすれば。
「ハッハッハ、姉上! ビビっとるようじゃなぁ!!」
弟が迫ってきます。
時間がなくなる。
その時でした。
「キャーーー」
お嬢さまの悲鳴が聞こえてきたのは。
「ニーズ!?」
振り向くと。
舌ベロ~ンと出して走って来る黄色い馬が見えました。
「ベロ~ン!!! てめぇ、またか!」
「ブルッヒヒ!!」
ベロ~ン君。
お嬢さまを乗せたまま、丘を駆け下りて来ます。
なんで自分から陣地を飛び出すのか。馬鹿なのか。馬だったね。
・・・と、怒ったフタゴンでしたが。
よく見れば、ベロ~ン君。暴走ってほどでもない。
足取りが落ち着いてる。崩れそうなトコは避けてるし、ときどき減速もしてる。
しかも、私の近くまで来たら、舌ベロ~ン! する余裕もあった。
お嬢さまを連れてきてやったぜ! ・・・ってか? ちがうんだよなぁ!
「姉上ぇ! 卑怯ですぞ、アイメンカの姫君を人質に取られるおつもりか!」
・・・弟が突っ込んできました。
「ブッヒィィ!!」
「キャーーー!」
ベロ~ン、跳び上がって、走り始めました。
あー・・・今度はホントに暴走だわ。
飛ぶがごときスピードで、一目散に明後日の方向へ走り始めちゃった。
「アイメンカの姫をお守りせよ!」
弟がカッコつけて命じてます。
弟配下の2騎がベロ~ンを追いました。
クッソ。誰のせいだと思ってんだ。グダグダな状態にしやがって。
「戦士長。アンタらは下がってろ。逃げるなよ! 逃げたら許さんぞ」
「了解じゃ」
私は地面を蹴って、弟とは直角になる方向へ走り出しました。
「きゃあー、やられるぅー」ちょっと演技してみたりして。
「逃げるか姉上!」
「いやー。女イジメのダンゼイズ騎兵が来るわー」
「おい! クソッ、待て!」
よし釣れた。
本気の走行に切り替えます。
前傾し・・・
翼を広げて・・・
夏の風を受けて・・・
フタゴン、滑空疾走です!
「追いつけるモンなら追いついてみやがれ!」
◆♀◆ 7、フタゴン疾走 ◆♀◆
フタゴン疾走です。速いぞ!
ダンゼイズ騎兵は速かったとは思いますよ。
さすが、山育ちといったところでした。
フタゴンのが速いけどな!
自然の地面の凹凸ってね。メッチャ恐いんですわ。
走ってる最中に足が穴にハマったら、骨折・大転倒ですからね。
コブに乗り上げるのもヤバい。身体が宙に浮くんで、着地でコケる可能性が高い。
つまり。
人も馬も、自然の地形じゃ、全速力は出せないっつーコトですわ。
でも、鳥とドラゴンはちがうんだよね。
翼で浮いて、足で地面を掻くだけなら・・・凹凸も、恐くない!
「姉上! 待てと言うのに!」
「誰が待つか」
ユリに育てられた侍女メイド。追いつけるもんかよ。フッフッフ。
走るフタゴン。追いすがる騎兵。
丘を下り終えて、平地に入りました。
さっき逃げた歩兵を追い抜く。歩兵ビビる。散らばって、騎兵と接触。ドーン! ハネられた。
「ええい! 姉上のせいで、余計な被害が!」
「知らんがな」
「1人で出てきたと思えば、逃げ回って。バカにしとるのか!」
うるせぇな。文句ならユリに言えや。
こちとら好きで単騎駆けしてんじゃねぇんだよ。
・・・とは言えないので、ちょっとウソでもついてみようかと思います。
「決まっとるわ! 伯爵のタマァ取ったるんじゃ!」
「なんじゃと!? ば、ばかな!」
弟は、ちょっと本気になったようです・・・
「我が馬よ、変容せよ! おまえは駿馬、風のごとく駆け抜ける!」
「えっ!?」
私はビックリして振り向きました。
弟の馬が、加速。猛烈な速度で迫ってきます。
「あー!!! てめぇ、それ『駿馬』の呪文じゃねぇか!」
「ワハハハハ、その通りじゃ!」
クッソ! こいつ、ユリと同じ呪文持ってやがる!
「さあ姉者、覚悟召されぃ!」
弟は、鞍に付けた槍袋から、ヘンな武器を引っこ抜きました。
棹状武器です。
先端が、槍とか斧とかではなくて、U字型の金具になってます。
これアレだ。犯罪者を捕まえるヤツだ。
名前なんだっけ・・・
逃亡者捕獲器、だったかな。
U字型の部分が、一種の罠になってるヤツですわ。
バネ式の引っ掛け具がついてて、胴体や手足・首に押し付けると、ガチャッとロック掛かって締め上げるっていう。
U字金具にはナイフみたいなトゲがついてて、暴れると突き刺さります。
刺さりどころが悪いと、ふつうに死にます。配慮とかないからね、この世界。
「姉にそんなモン向けるヤツがあるか!」
「使われるのがイヤなら、降参すりゃあええんじゃ!」
「屁理屈言いやがって」
「父上のタマ取るとか抜かすからじゃ! 降参せい、酔狂女め」
「クソが!」
フタゴン、地面を蹴りました。
翼を広げて、浮きます。
「逃げるんか!?」
「おうよ。これでも喰らえ」
後ろ足を弟に向けてスイング。足指で握っといた砂を、投げつけました。
馬に当たった。馬が嫌がって急に向きを変えました。
「ぐほっ!?」
ナンカヂーノがつんのめって、捕獲器を取り落としました。
よし。これで安心。
飛び始めは加速が鈍いからね。ユリにやられたみたいに、追いつかれるとヤバいんだ。
長柄武器がなくなれば、もう大丈夫。
上空へ。
スピードに乗って、ダンゼイズ伯爵=父ちゃんのとこへ、一直線です。
「み・・・見えた・・・!」歩兵の呟きが聞こえました。「姫の・・・お尻・・・」
あ、はい。
またですか。
トーガの裾から中が見えちゃう問題ね。
太腿にも尻尾にも巻き付けてはあるんだが・・・どうしてもズレてくんだよな。
俺を飛ばせたナンカヂーノが悪い。
敵本陣へ。
親衛隊が慌ててる。槍と弓を携帯してますが、どっちを構えるか迷ってるっぽい。
のんびりしすぎなんだよ!
父の頭上を飛び越し、親衛隊の中心に舞い降りる。
ズシャア! 着地。
青鹿毛の隣に。
「ブルルッ!」
「よしよし。どうどう」
横に逃げようとした青鹿毛に声を掛け、サッと手綱を握ります。
「あっ」鞍上の母が、小さい悲鳴を上げました。
「失礼、母上。クイーンは頂きましたぞ」
「・・・ぷっ」
「はい?」
「ふひゃひゃひゃwww」
母が笑い出しました。俺のセリフがツボったらしい。この人は・・・。
「フターリア!」
父が馬首を巡らせ、親衛隊と共に、私を囲みました。
だがもう遅い。青鹿毛の手綱は私が握ってます。
コイツはやっぱりモリーヌの馬でした。近くで見たらわかる。見た目が・・・というか、相手の方が『ああ、アンタか』って態度になるんでわかる。
「脅かしてすまんな。付いてきてくれる?」
「ブルル」
よし。交渉成功。
・・・さてと。
「ダンゼイズ伯爵!」
「おお、痛々しいフターリア、醜く『変容』した我が娘よ! その馬から手を離すがよい」
「早トチリの伯爵閣下。みじめで愚かな父よ!」
次は、父との口論のターンですね。
ここは一応策があるんだ。
「父上。さっさと降参なさるがよい。さもないと・・・」
「さもないと?」
「母を捕虜にして、ショーシナー家に身代金を要求します」
「え」父は青褪めました。「いや、それは困る」
はい。名付けて『母方の実家巻き込み作戦』です。
「身代金要求なら、ダンゼイズにすべきじゃろ」
「いいや、ショーシナー家にします」
「わかった。手持ちの金貨を出す」
「ハァ? はした金で、伯爵夫人が買い戻せるとでも?」
「・・・。」
「降参しないのですか? では、御機嫌よう」
私は青鹿毛の手綱を引きました。
「『冒険者の村』に帰ろうぜ。ところで、おまえの主人は元気か?」
「ブルルィ」
「げっ・・・元気にしてますよ・・・くくくw」笑いながら母が答えました。
ザック、ザック。私と青鹿毛は、荒れ地に爪痕を残して歩み去ります。
親衛隊は手出しできない。しかし、道を空けようともしない。
フタゴン、カパッと口を開けて威嚇。
親衛隊、左右に割れる。
よろしい。
ザック、ザック。進んでゆきます。
「姉上!」ナンカヂーノが到着しました。「あー!? 母上に手を出すとは!」
「そ、そうじゃ。卑怯じゃぞフターリア。女に手を出すでない」
「どの口で言っとんじゃ!」
「わかったから、とにかく、手を離せ、な?」
「降参が先ですわ」
「よかろう、馬はくれてやる。妻は下ろしてくれ」
「舐めてんのかwww」
私は笑いました。
「あのね、父上・・・」
ユリたちのいる丘に向かって青鹿毛を引っ張りながら、父を説得します。
「・・・兵を引きなさいって。ユリさまが本気になる前に」
「本気も何も、出て来んじゃないか」
「わからん人だな!」
私はちょっと火を吐きました。母がまたツボに入ってクスクス笑いました。
「あの人はさぁ、キレたらヤバいんだって。ホントに」
「礼儀正しい常識人じゃと聞くぞ」
「そうだよ?」フタゴン、口をパカッと開けて笑います。「味方にはね」
「じゃがしかし・・・」
まだ父が何か言おうとしたとき。
丘のほうから、人馬の悲鳴が聞こえてきました。
「あー、キレちゃったかな・・・」
「なんじゃと」
◆♀◆ 8、ユリ、騎兵隊を制圧する ◆♀◆
丘で起こったことは、こういうコトでした。
待ち構えるアスカリア軍。30人余。
そこに接近する騎兵。24騎。
出来の悪い馬防柵は役に立ちませんでした。簡単にスリ抜けられ、敵騎兵が迫ってきました。
「に、逃げていいっすか?」
アスカリア歩兵が動揺します。
「勝手にしろ」ユリはジロッと睨みました。「だが二度と戻るな。逃げて戻って来たヤツは殺す」
「・・・はい」
敵騎兵が目の前まで突進してきて、剣を抜き放ちました。
「アスカリア伯爵とお見受けする!」
「いかにも」
「剣を抜かれよ。勝負!」
「勝負か。よかろう」
ユリは鞘に左手を置いて、いつでも抜ける構えを取って──
「我らに仇なす戦馬ども! おまえの背中は、おまえのものだぞ? 自由を取り戻せ──『反乱』!」
呪文を唱えました。
すると。
24騎のうち17騎が、突然、暴れ狂いました。
飛びはね、棹立ちになり、左右に尻を躍らせて、メチャクチャに暴れます。
乗り手を振り落として、自由になろうというワケです。
ダンゼイズ騎兵は、大混乱。馬がいななき、騎兵が悲鳴を上げます。
「馬の心を惑わすとは! 魔王のごとき呪文!」
「人気のない呪文ではある」ユリは鼻を鳴らして、指を立てました。「だが効きさえすれば、この通りだ」
「弓構え!」ダーリン姉ちゃんが命じました。
ガチャッ! 偵察兵6人が、クロスボウを構えます。
「降参しろ。さすれば、丁重に扱うことを約束する」とユリ。
「だっ、誰が、みなしご勇者ごときに・・・ぬわあ!」
騎兵班長は、馬が尻をハネ上げたせいで空に打ち上げられ、頭から落ちて気絶しました。
「降参せんのなら、」とユリ。「全員、この場で殺す」
「馬の尻を狙え」ダーリン姉ちゃんが命じました。
「馬を狙えだと!?」別な騎兵班長が叫びました。「恥を知れ、アスカリアの盗賊ども!」
「なんだと? ──我は変容す。雷切り裂く剣聖の剣の妙技よ我にあれ」
ユリ、居合斬り。
じゃら。先ほど倒れた騎兵班長のチェインメイルが、左右にバラけた。
その下の服も、左右にバラけた。
ユリが腰を蹴る。パンツもバラけた。股間が丸出しに。股間は無傷でした。
「もう一度言ってみろ」
「降参します。アスカリア伯爵と、誇り高き戦士諸君よ」
「よろしい」
と、こういうワケで。
私が青鹿毛引っ張って丘に戻った時には、ダンゼイズ騎兵は制圧されておりました。
戦闘終了。
ダンゼイズ側の被害:
伯爵夫人、戦士長、精鋭戦士5人が捕虜に
歩兵が馬にハネられ骨折
騎兵班長がチェインメイルを失い恥をかく
アスカリア側の被害:
フタゴンがお尻を見られた
──アスカリア軍の勝利です!
◆♀◆ 9、裏事情 ◆♀◆
「アイメンカ侯爵に問い詰められてのう。『なぜ抜け駆けを許した』と・・・」
負けを認めたダンゼイズ伯爵=父ちゃん。
丘の上でユリと向かい合って、和平交渉です。
その場で、裏の事情を明かしました。
ユリとダーリン姉ちゃんは黙ってます。
・・・無言の圧迫を受けて、私が応対する形になりました。
「おやおや、父上。アイメンカ侯爵のせいにするのですか?」
「誰のせいかと申すなら、オマエのせいじゃ、フターリア」
「なんでだよ」
「突然、『勇者さまと結婚する』とか抜かしたじゃろうが」
「だからって攻めてくるこたァねぇだろ」
「馬鹿め」
「バカはそっちだろ! アスカリアが新興だからって舐めやがって!」
「舐めとらんわ!」
「・・・フターリア」母が口を開きました。「アイメンカがね。出陣の準備を始めたのよ」
「はい?」
私は、テニスお嬢さまと顔を見合わせました。
「初耳ですわ」と、アイメンカ侯爵令嬢・テニッサメイズお嬢さま。
「姫。御父君は、『愛娘を王家に取られた』と怒っておいでなのですわ」
「私は誰にも取られておりませんが」
「侯爵はそうお考えなのですわ、姫」
「順序立てて話すとじゃな・・・」父が、少しだけ長い話をしました。
「アイメンカ侯爵は、昔から、姫が王家に取られることを、懸念しておいでじゃった。
なるべく姫を王家に近付けんようにしておられたが・・・
結局、姫はユリさまに仕官なさった。
王女とも友好関係だそうじゃな?
そこへもってきて、フターリア。そなたの婚約じゃ。
ダンゼイズめ! 王家に与したか! と、わしらも疑われたワケじゃ」
「そんな怒ってんの?」私が訊きました。
「侯爵はね・・・ティニーモノーシャさまの死のことで、バーシー王を恨んでいるのよ」
「戦死なさったのが、陛下のせいだと?」
「そこまでは言いません。でも、恨んではいるわ」
「──出陣したのは、母の意志であったと聞いております」
お嬢さまが、そう言いました。
「シーツァーオー陛下と親しくさせて頂いた義理もあります。助力は、当然であったかと」
「あなたは立派ですわ、姫」母はため息をつきました。「・・・お母様のように」
不吉なこと言うんじゃないよ。方向修正しよっと。
「しかし、父上! 万が一にも侯爵と王家が衝突したら、おおごとですよ」
「うむ! じゃから、ワシが名乗りを挙げて、こうして一戦交えたワケじゃ」
「ショーシナー家が通してくれたのも、そういう理由よ」
「侯爵のために一芝居打ったと? 都合のいい言い分ですな!」
「芝居じゃない。戦じゃ」
「伯爵夫人も同行するほどの、本気の戦よ」
「はいはい・・・」
「なるほど」
ユリが口を開きました。
「貴家の事情はわかりました」
「わかって頂けたか。ではこれにて」
父はすかさず立ち上がって帰ろうとしましたが・・・
ユリは冷たく笑ってこう言いました。
「ああ。賠償の話に移ろうではないか。ダンゼイズ伯、いくら出す?」
「・・・。」父は苦い顔をしました。「ダンゼイズは山奥の僻地で、食料にも困っておって」
「モターズ伯爵があんなことになって」母も首を振りました。
「ほう」
ユリは冷たい表情です。
「それで、とある領地からコッソリ稗を運び出し、安く買い叩いた──と?」
「な、なんのことやら」
「ダーリン」
「はい」
ダーリン姉ちゃんが、羊皮紙を出して。
まず、私に見せてきました。
「例の裏切り者──ユリヲワーナの机から出てきた受領書ですわ」
┏━━━──
┃ 稗1石、確かに受領いたしました。
┃ 金の支払いは、後日、必ず・・・
┃ ダンゼイズの商人○○
┗━━━──
「買ったの?」私は父にそれを見せました。
「・・・。」父は冷や汗をかきました。「わ、わしは関与しておらぬ。この穀物商は行方不明で、」
「不明ではないぞ?」とユリ。
「密輸商人にふさわしい末路でしたねぇ」とダーリン姉ちゃん。
商人は、ドロゴンに殺されたってユリヲワーナが言ってたっけ。
2人とも冗談キツいなーwww ・・・冗談だよね?
「・・・。」父は母を見ました。
「・・・。」母は目を逸らしました。
「こちらの文書に、金額と署名を」
父は汗をダラダラ流しながら数字を記入し、サインをしました。
「これは冗談のつもりか?」
「盗まれた稗の代金にもなってませんねぇ」
ユリ&ダーリンにイジメられて、さらに2枚、サインをさせられました。
「以上かな?」
「も、もう、これ以上は」
「この額では、戦士6人を開放することはできんが?」
「そんな馬鹿な! 話が違う」
「では筋を通そう。これは賠償金であり、捕虜の身代金ではない」
「でしたら、母の身代金はショーシナー家に請求したいのですが」私も合わせました。
「ああ、そうだな。あっちのほうが払いが良さそうだ」
「わ、わかったわかった! 戦士5人はおたくに預ける!」
「6人だ。戦士長と戦士5人だ」
「・・・。」
交渉は終わりました。
「ダンゼイズの諸君は、無事に帰れるであろう──寄り道しなければな」
ユリに言われて、父は不貞腐れました。
「こんな荒れ地で、どこに寄るというのじゃ」
「モリーヌの扱いに問題あったら、別途賠償請求するかんな」私は釘を差しました。
「そんなコトはせんわ」と父。
「あそこの家は、古参ですからね」と母。
「・・・一家揃って出陣拒否してきてのう。すごい剣幕じゃったぞ」弟がコッソリ教えてくれました。
「あ、そう」
ダンゼイズ軍は、引き返していきました。
「武器をお返ししておこう」
ユリがそう言って、捕虜6人──戦士長たちの武器を持って来させました。
「よろしいので?」と、戦士長。
「あなたを知らんわけでもない」とユリ。「責任は、姫が取ってくれるであろうし」
「はっ!」私は頭を下げました。「喜んで」
「では今後、引き渡しの日まで、諸君の扱いはフターリア姫に任す。苦情があれば私が聞こう」
「かしこまりました」
「諸君の呼称は『フターリア班』とする」
「それはまことに名誉な呼び名でござる、伯爵閣下」
戦士長たちは、こうして再び私の配下に入ってくれたのでした。
「よかったわね」と、テニスお嬢さま。
「いやはや、まったく・・・よっこらしょ!」
私は、鞍に上がりました。
お嬢さまの後ろに座ります。いつものポジションですな。
「大丈夫でした? ベロ~ンのヤツ、暴走したけど」
「ええ。もう慣れたわ」
「そっかw」
「あまり嬉しそうじゃないわね?」
「あ、いや、戦士長のことは喜んでますよ。ただ、悔しいことがあってね」
「なに?」
「弟がねぇ・・・『駿馬』使いやがったんですよ!」
私は、わざとおおげさに、しょうもない話をしました。
あんま、母上の死のこと、ほじくり返して欲しくなかったんだよね・・・。
お嬢さまもノッてきました。
「へぇ! すごいわね! 12歳でしょ?」
「そうなんだよ。俺は『発動』の才能ないのによぉ・・・!」
私は、拳を握り締めました。
「天よ笑覧あれ。魔法の世界に生まれたと知った私の、あのドキドキを!」
「なんの話?」
「いや、ファンタジーネイティブの弟に、私みたいなドキドキ感ねえだろっていう」
「なんの話???」
「日本には、魔術がなかったからさ。『俺、呪文使えるんだ!』ってドキドキしてたんだよ」
「ああ、なるほどね」お嬢さまは笑いました。可愛い。
「どっちかに才能行くんなら、俺に『発動』来ても良かったじゃん」
「勝ったんだからいいじゃない」
「ええ。私たちはダンゼイズに勝ちました。しかし、私は弟に負けたのです」
「・・・私が付いてるんだからいいじゃない」
「・・・そうだね♥」
私はお嬢さまのエルフ耳に軽くキスしました。そして・・・
「きゃっ♥」
「うふふ♥」
「リア、『村』戻ったら特訓な」
「え」
・・・ユリに睨まれてしまうのでした。
こうして、私たちも『冒険者の村』に引き返したわけですが。
到着も間近になって。
ゴロゴロゴロ・・・ビシャーーーン!!!
と、行く手の山に、落雷が。
「予感はしてた」
「マレーナさまの『雷』ですねぇ」
前方の山は、アスカリア領では珍しい森林地帯。
『冒険者の村』のある山です。
「え? 『村』が攻められてんの?」
「アイメンカだろうな」
「えー!?」
今度は、お嬢さまの家が、攻めてきたらしいのです・・・