※この作品はR-18です。

TSゆりフタ令嬢侍女メイド!   作:min(みならい)R18

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アイメンカ侯爵との戦い

◆♀◆ 10、樹にゃーリア発進 ◆♀◆

 

「リア、テニス。樹にゃーリアを出してくれ。回り込む」

 雷の音が通りすぎるとすぐ、ユリは命令を始めました。

 

 お嬢さまは魔術師の杖を出し、私は馬を降ります。

 革の胸当て・篭手・脛当てを着ける。あと、メイドの髪飾りを外して、青銅の兜も。

 兜を実戦で着けるのは初めてですわ・・・。

 あっそうだ、フにゃーリアになるんならパンティもずらしとかないと!

 

「ダーリン」

 「はい」」

「これは騎兵か?」

 「ですねぇ。深さ的に」

 ユリとダーリン姉ちゃんは道についた蹄の痕をチェック。

 2班12騎ほどの騎兵がいると推定しました。

「一本松で『雷』で止めたか・・・よし、指揮を代われ。『鍛冶屋川』を盾にして陽動」

 「はい」

「『全力で進め』の鐘が鳴ったら、川沿いに突入して鍛冶屋通りの屯所に入れ」

 「了解です~。全員集合! 川渡んでぇ!」

 ダーリン姉ちゃんがアスカリア兵をまとめ、すぐに動き始めます。

 

 みんなシリアスやな。私はパンティずらしてんのに・・・。

 

「わしらはどうしますかな?」戦士長が訊いてきました。

「ええと、アイメンカに剣向けるワケにいかんしな・・・」

 「ほな、ウチと一緒に動きますか? 『捕虜』っちゅう建前で」

「そうだね。そうしてくれるか」

「かしこまりました。姫」

「──あ、」私は付け加えました。「略奪してるヤツがいたら、そいつは取り押さえろ」

「武器は」

「抜いていい。この村は、私が世話になってる村だ。略奪するヤツは強盗だ。叩け」

「お任せあれい!」戦士長はニヤリとしました。

「うむ!」

 スカートもそもそやってる私と真剣な会話をしてくれる戦士長であった・・・。

 

「樹にゃリア、いいか?」ユリが急かしてきました。

「はい。いま」お嬢さまが呪文を唱えます。

 

 「変容せよ、フターリア。

  その肌は堅く、爪は鋭利なトゲとなり、罪ある者を引っ掻いてやれ。

  そなたは樹木に棲むニャンコ、罪なき者を守り育み和ませる。

  ──樹霊なるメイドのニャンコに、な~れ!」

 

「にゃぁ~ん・・・」

 私は樹木になりました。

 夏の日差しが毛に暑い。いや葉っぱか。

 そこから、「もぉ~とひぃ~かるぅ~」と、長~い合言葉を唱えて・・・

 

 「本光る太き幹の中のハニャ。

  異国の樹霊ニャるメイド。

  羽織る木皮を脱ぎ捨てて、

  羽ばたき変わるぜ、樹にゃーリア!」

 

 ・・・ウロを開き、『樹木の乙女』となって外に出ます。

 尻尾とネコミミの生えた樹木の「あいててて!」

「え、どうしたの?」

「耳っ」私は兜を引っ掻きました。「取れニャ! 取って。兜取ってぇ」

 

 兜の中でネコミミが折れて、痛い。

 しかも、手がネコっぽくなってて、兜の紐が解けん。

 お嬢さまに解いてもらいました。

 

「いってぇ~・・・」

「なんで兜かぶったの?」お嬢さま、兜をウロに放り込む。

「樹ターリアだから、装備は溶け込むと思って」

「ああ」

「髪飾り、お願いできます?」

 お嬢さまがサッと私の荷物に手ェ突っ込んでメイドの髪飾りを取ってくれました。

「いるの?」

「髪が崩れにくいし、落ち着く」

「あ、そう」

「出るぞ」

 ユリがお嬢さまを助けて、ウロに入らせます。続いて本人も飛び込む。

「よし出せ」

「ニャじゃ(ラジャ)」

 

 樹にゃーリア発進。

 ダーリン姉ちゃんが左手の川を渡っているので、私は右かな?

 ニョロリとそっちに動き始めてみます。

 

「そうだ。滝に向かって進め。追って指示する。あと、おまえも入っとけ」

「はい」

 私はツルを引き戻して母樹のウロに入ります。

「ウロは閉めとけ」

「はいな」

 入り口を絞って、細い窓のようにしておきます。

「『駿馬』いくぞ」ユリが私の肩を握って、呪文を唱えました。

 

「我らがニャンコ、樹にゃーリアよ変容せよ。駿馬のごとく、森をゆけ!」

 

 加速。

 凸凹のあるとこではちょっと宙に浮くぐらいのスピードになった。

 ・・・これ、地味に神経使うんだよね。樹ターリアは重いし、重心も高いから。

 けど、いまは、わりと余裕あるかな?

 いつもより時間がゆっくり進んでる気がする。

 フにゃーリアの、ネコの反射神経とバランスのおかげですかね。

 

「お館様」

「なんだリア」

「外にいる方が、音はよく聞こえるんですが、いいの?」

「弓が恐い。敵がアイメンカだとすると、一応、弓も警戒しないとな」

 「・・・。」お嬢さまがうつむきました。

「おまえを差し出すつもりはないよ、テニス」

 ユリはニッコリ笑って、テニスの頭を撫でました。

「お父君と引き裂くつもりもない。向こうがその気でない限りはな」

 「ありがとうございます」

 お嬢さまはちょっとうつむいて恥ずかしそうにしました。

 

 はぐっ。私はユリの手に噛みつきました。

 

「なにすんだよ」

「・・・わからん。フにゃーリアが勝手にやった」

 

 反射的に噛んじゃった。

 まあ牙は入れてませんがね。咥えただけで。

 

「なに。嫉妬?」

「わからん。ごめんニャさい」

「まあいいけどさ」

「いいの」

「戦士はな。反射的に動いていい。その方が速い。速さはすべてに優る」

 ユリは、ウロにもたれかかりました。

 

 戦士な。

 一応、生まれも育ちも伯爵令嬢なんだけどな。

 いや、生まれは日本人男子か。

 

 ぺろぺろ。私は噛んじゃったユリの手を舐めました。

 

「なにしてんだよ」

「わからん」ぺろり。「たぶん、『ごめんね』の意味」

「たぶんってw」

 ユリはちょっと笑って、目を閉じました。

 母樹は森に到達しました。

「森に入りました。登坂中は揺れますので御注意ください」

 と、私がバスの案内みたいにしゃべると、ユリが応じて

「峠道の入り口まで、敵に見つからんように進め。ダーリンと挟む形で村に入る」

「ニャじゃ」

 

 森の中の、小さな尾根を越え・・・

 沢を根っこで踏み渡り・・・

 『冒険者の村』の、西側を通過します。

 木々が濃くて、視界はまったく利きませんが・・・

 私には、根っこネットワークがある。

 

 『うおお~ 速ェ~』『樹ターリアさまぁ~』『なんか来てまっせ~』

 根っこを通じて、会話が飛んできます。

『うん知ってる』私も応じました。『近くに人間いる?』

 『居りませんで~』

『村の様子はわかる?』

 『いやぁ~、わかりませんわ~』『遠いんでねぇ』『一本松に落雷したみたいでっせ~』

『ありがと』

 このへんの古樹はダークエルフっぽい言葉でしゃべります。

 古樹いわく、昔はこの山にダークエルフが住んでたそうな。

 情報を得ながら這進。

 木々が、後押ししてくれます。根っこで引っ張って、押し出してくれるんですわ。

『悪い根ぇ』

 『いや~、わしらも根ぇ』『樹霊さまをお助けするやなんて、そうそうありませんから根ぇ~』

 協力的。

 休みの日にお嬢さまと山を散策して、『巡り』を良くしてやったからニャ・・・何事も根回しです根ぇ~。

 

 村の南口──峠道の入り口に到着しました。

 ユリが、私を森のフチで止めます。そして、ウロを出ました。

 

「私が調べてくる。2人はここで待機な」

「かしこまりました」

 

 そのすぐ後のことでした。

 

 『樹ターリアさま!』『大変ですぜ!』

 若木の緊迫した声が飛んできたのは。

 

『どうした?』

 『クソガキちゃんが乱暴されてんスわ!』

 

◆♀◆ 11、クリッカの危機 ◆♀◆

 

「うわー」「敵じゃ、敵じゃ!」「アイメンカだァ!」「アイメンカが攻めてきやがったぞァ!」

 

 騒ぎが起こったとき、クリッカは果物屋を出たところだった。

 孤児院の少女・クリッカ。栗毛の少女。つい最近、11歳になったばかり。

 お使いでリンゴを買いに下りて来て、両手に抱えるほどの量を買って、帰るところ。

 『ドラゴン退治の広場』と呼ばれる中央広場に出たところであった。

 

 クリッカは周囲を見回した。みんな素早く扉を閉めている。閂を掛ける音があちこちから聞こえた。

 とりあえず、広場はまずい。クリッカは路地に逃げ込んだ。

 荷物が重い。だが手放す気はなかった。

 リンゴのお使いは、お菓子の前触れなので。

 アップルパイとか・・・リンゴ飴とか・・・リンゴジュースとか。

 なので。

 クリッカは、でっかい袋を抱えたまま、えっちらおっちら走っていたのだ。

 そのせいで・・・

 

「ガキ! 来い!」

「あっ!?」

 

 ・・・突入してきたアイメンカの戦士に、捕まってしまった。

 

「あ、あっ、リンゴ」

 袋は、地面に落ちた。

 リンゴは、土にまみれてしまった。

「ちくしょう! 離しやがれ」

「なんだ、オマエ、女か」

 兜をかぶった戦士は、イヤな笑いを浮かべた。

「ガキだが、まあいい。もらっていくか」

「え・・・」

 戦士は、クリッカを軽々と担ぎ上げた。

 手近な民家のドアを蹴り破る。

「ひぇぇ!」

 家の中には、爺さんがいた。ハゲ頭の小さな爺さんである。

 ハゲ爺さんは、悲鳴を上げた。

「何をするんじゃ!? それでも侯爵家の戦士か」

「うるせぇジジイ。ビビワメッツの山賊めが!」

 戦士は、剣を振りかざした。

「侯爵夫人に仕える私を侮辱したな? 死んで詫びろ!」

「ウワァー! 殺される! ヒィー!」

 爺さんは、へたり込んだ。

 四つん這いになって、ガタガタ震えて、部屋の隅っこに積んだ木箱に取りすがる。

「おとなしくせい!」

「イヤじゃあ。死にたくない。助けてくだされぇ~! 屯所の兵隊さ~ん!」

「バカめ。こんな盗賊村のチャチな屯所など、みな制圧済みじゃ! さあ、死ね」

 戦士が剣を振り上げた、その時であった。

 

 クリッカは、戦士の肩越しに後ろを見ていた。

 空飛んでくる姉ちゃんを見ていた。

 ネコミミに・・・

 メイドの髪飾りを着けた・・・

 空飛ぶ姉ちゃんである。

 手にも足にも、ツタが絡みついており・・・

 そのツタで、宙をスッ飛んでくる・・・

 

 顔見知りの、変態姉ちゃんであった。

 

 クリッカは口をぽかーんと開けた。しかし、声は出さなかった。

 変態姉ちゃんが、唇に『しー』と指を当てていたからである。

 

 姉ちゃんが、手を振った。

 トゲの生えたツタを、ムチとして振るった。

 

 ズバシィン!!!

 

 空気を炸裂させて、トゲツタのムチが、戦士の手を撃った。

 

「ギャッ」

 戦士が剣を取り落とす。

 ツタは手首に絡みついた。

 足首にも。

 戦士が前に倒れそうになる。クリッカを抱いたまま。

 空飛ぶ姉ちゃんが、戦士のマントを掴んで、引っ張った。

 戦士はのけ反った。だがまだクリッカを離さない。振り向いて対処しようとする。

 ハゲ爺さんが立ち上がった。

 爺さんの手には、ナイフがあった。木箱の裏に隠してあったナイフを、さっきすがりついたとき、こっそり掴んでいたのだ。

 爺さんは。突如、怪鳥となった。

「キェァー!」

 鋭い声を抜けた歯の間から放ち、飛び、戦士の左手に組み付く。

 肘にナイフを突き立てる!

 鎧に守られた外側ではなく、内側の布地の部分を、貫いた。

 クリッカに当たらんよう、自分の左手をねじ込む配慮までして。

「ウギャア」

 戦士が、今度はクリッカを取り落とした。

 クリッカは四つん這いで着地。立ち上がらずに、家の奥へ跳ぶ。ネコみたいなジャンプ。

「フタゴン、オレ隠れた!」

「よっしゃ隠れてろッ!」

 空飛ぶ姉ちゃんが、戦士を引きずり倒した。

「こッ・・・この山賊どもめが! アイメンカの戦士に手を出した罪、首をくくるぐらいでは済まさんぞ!」

 わめく戦士。

 その身体を、ツタが締め上げ、通りに引きずり出した。

 街中にドデーンと立っている大きな樹木のウロの前へ運んで・・・

「お嬢さま! 『アイメンカの戦士』と名乗る狼藉者を捕らえました」

 

 ・・・ウロの中にいた、ハーフエルフの令嬢に引き合わせた。

 

「あ・・・あ、あなたは・・・」

「このテニッサメイズが、一部始終を見届けました」

 ハーフエルフの令嬢は言った。

「私はあなたの名前を知っている。一族のことも。そして、あなたの狼藉を誰に報告すべきかも」

「妾の姫!」

 戦士は、急におとなしい声を出した。

「これは・・・間違いです。そう。間違い。私は山賊を捕らえようとしただけで、」

「一部始終を見たと言いました。生命乞いは、この地の領主さまになさい」

 

 そこに、赤毛の女剣士がやってきた。

 アスカリアの歩兵を2人、引き連れて。

 剣士の背には家紋入りのマント──剣杖星樹、アスカリア伯爵家の紋章。

 

「──そいつは何者だ?」

「アイメンカ侯爵家の狼藉者ですわ」とハーフエルフの令嬢。「クリッカに暴行しようとしておりました」

「捕縛しろ」

 「はっ!」

「クリッカは無事か」

「ユリ姉!」クリッカが、家の中から返事した。「オレは。でもリンゴが」

「ああ」

 赤毛のアスカリア女伯爵・ユリは、地面に散らばったリンゴを見た。

「よかった。リンゴのことは後で考えよう。落ち着くまで、爺さんと家にいろ。外には出るな!」

「はい!」

 

 兵士どもが狼藉戦士を引っ立ててゆく。

 赤毛の剣士は、ドデーンと生えている樹のウロに飛び込んだ。

 ズズズ・・・

 樹が、動き始めた。

 空飛ぶニャンコ姉ちゃんが、樹に引っ張られる形で、遠ざかってゆく。

 

「クリッカ、また後でな!」

「うん。フタゴンがんばって」

「おう」

「中に入るんじゃ」

「へーい」

 爺さんがドアを閉めてくれた。クリッカは、危機を生き延びたのであった。

 

◆♀◆ 12、一本松を目指せ ◆♀◆

 

「すみません。飛び出してしまいました」

 

 フターリアです。いまは樹にゃーリアですが。

 移動を再開したあと、私はユリに謝りました。

 

「クリッカがヤバいって聞いて、反射的に飛び出しちまった」

「それでいいって言ったろ?」ユリは寝転びました。

「え? けど、兵が指揮官に逆らっちゃダメじゃね?」

「おまえは兵じゃない。領主直属の侍だ。だからいいって言ってんだ」

「そっか」

「ダメな時は言う。その時は従え」

「はい」

「敵は30人だ。精鋭の騎兵と重装戦士らしい」

 ユリは寝転んでリラックスしつつ状況を話してくれました。

 

 「馬に乗った30人が突っ込んできて、あっという間に屯所を占拠された。

  弩は効かなかったそうだ。おそらく『鉄身』だな。

  ──指揮官は、侯爵閣下、御本人だとさ」

 

「お父君が・・・」

 私はショックを受けました。

 アイメンカ侯爵。すなわち、お嬢さまの実の父上です。

「・・・いったい、どういう口実で?」

「『娘を出せ』『出さんのなら、押し通る』だとさ」

「またそれか!」

 「・・・あの、私なら、いつでも」とお嬢さま。

「ダメだ」とユリ。「お父君は私の領地を踏みにじった。言いなりにはなれん」

 「・・・。」

「アイメンカと戦うのか」

 私が訊くと、ユリはちょっとキレました。

「当たり前だろ! 他にどうしろってんだ」

「いや・・・話し合うとか」

「ハァ?」

 ユリは・・・

 右手を剣の形にして、私の喉に当てました。

 左手で、お嬢さまを抱き寄せました。

「テニスはもらっていく。これは『話し合い』だ。逆らえば殺す。──はい、返答どうぞ」

「ブッ殺す」

「私より過激じゃないかw」

「・・・そうだね」

「ま、不幸中の幸いだったのは、ウチが弱すぎて、誰も殺されなかったことだ」

「え?」

「屯所のヤツら、すぐ降参したんだとさ」

「えー・・・」

「それで、アイメンカはウチの兵を屯所に閉じ込めて、山を登ってったと」

「なるほど」

「マリがうまくやってれば、一本松で足止めできてるハズだ」

「『雷』で?」

「そう。松を倒してな」

「そっか・・・けど、さっきのヤツは、なんで村をウロついてたんだ?」

「1班6人で屯所の見張りを命じられたのに、勝手に略奪に出たらしい」

「クソが・・・」

 

 私は胸が悪くなりました。

 お嬢さまは、顔が白くなってます。

 ぺろぺろ。私は、お嬢さまの頬を舐めました。

 

 「・・・ありがと」

「心配するな」

 ユリは、お嬢さまの顎をコチョコチョと指先でくすぐりました。

「すべて丸く収めてみせるさ」

「ユリさま・・・♥」

「はぐっ!」私はユリの手を、ちょっと強めに噛みました。

 

「ともかくだ、」

 ユリは私に噛まれた手首を眺めながら、話を続けました(傷はないですよ。歯型はついてるけど)。

「敵は精鋭。ウチの兵はアテにならん。よってオマエを酷使する、リア」

「俺?」

「オマエ」

「どう酷使すんの?」

「一本松を見下ろす崖に登れ。そこから攻撃を仕掛ける」

 

◆♀◆ 13、泥スリング ◆♀◆

 

 一本松に着きました。

 根っこネットワークから情報。

 『松に落雷』『燃えてる!』『人がたくさんいる』

『オーケイ。狼藉者は、我らがユリちゃんが叩き出す』

 『すげぇ』『カッコいい』『ユリチャンって誰?』

 

 私は、一本松を見下ろす崖に這い上がりました。

 

「現着」

「よし」ユリが再起動しました。「ウロ1寸だけ開け。2人は私の左側にいろ」

「はい」「かしこまりました」

 お嬢さまを左端に詰め、私がその右側にかぶさります。

 1寸だけ開いた隙間から、ユリが外を見ました。

「もう少し前進。・・・よし停止」

 

 ズズッ・・・。樹にゃーリア停止しました。

 

 見下ろす峠道は、煙を上げていました。

 『雷』で撃たれて倒れた一本松が、火を吹いて燃えているのです。

 休憩所になってる、ちょっと広くなった峠道の曲がり角は、燃える松で完全に塞がれておりました。

 アイメンカの騎兵24騎と、侯爵のヨーセイさまが、その松のそばにいます。

 2班12騎が下馬して、土を掘って、火に投げ込んでました。

 消火して先に進もうとしてるんですな。

 険しい地形なので、迂回は不可能です。伯爵邸に近付くには、火を消すしかないのです。

 

「よし。樹リア。石を集めろ」

「・・・石?」

「間もなく鐘が鳴る。そしたら、ここから投石する」

「ああ、なるほど。ウロから出ていいの?」

「いいけど、母樹を盾にしろよ」

「ニャじゃ」

 

 私はウロを反対に向けて、母樹の影に隠れるようにして外に出ました。

 このあたりでアイメンカの騎兵が私に気付き、こちらを指差しました。

 下馬騎兵の数人が大弓を構えて待機。ただし、侯爵が止めて、撃ってはきません。

 

「心配いらん。当たっても樹皮は通らんハズだ」

 ユリはそう言ったのですが・・・

 

 侯爵が一言命令して、火矢の準備を始めさせました。

 

「火ニャー!」

「そう来たかw 樹リアの弱点もお見通しってワケか」

 「私ではありませんわ」

「いや。母上から伝わってるんだろ──おいこら樹リア。逃げるな」

「火ニャ・・・」

 

 私はガクガク震えながら、一応、石集めは継続しました。

 あ、ちょっと上に良さそうな石がある・・・

 あ、もうちょっと上にもう一つ・・・

 

「逃げるなってのに」

「いいい石を集めてるだけニェすから」

「しょうがないヤツだな」

 

 火矢をいつでも撃てる体勢のアイメンカ下馬騎兵。

 逃げたくてたまらない樹にゃーリア。

 周囲を見回して・・・

 私は、いいものを発見しました。

 

「ユリ。泥投げちゃダメかな?」

「泥?」

「あそこに湧水があって、」

 

 崖の途中から、地下水が垂れてるのですが。

 その周辺、土がグズグズになってるんですわ。泥が取れそう。

 

「うまく行きゃ、火矢潰せるかなって」

「いいけど、土砂崩れ起こすかも知れんぞ」

「うん。調べながら行く。距離も保つ」

「・・・わかった。やってみろ」

「ニャ」

 

 私はツタを可能な限り長く伸ばし、湧水から距離を取って、泥の回収を試みました。

 すぐに戻りました。

 

「ダメニャ」

「なんで」

「ツタで泥すくえニャい・・・」

 

 ネコの手もあんまり・・・。

 人間の手なら皿代わりになるのになぁ。

 

「コレ使えば?」

 お嬢さまが、兜を手渡してきました。

 ネコミミの邪魔になったんで脱いだヤツだわ。

「あの、これ、私の兜なんですけど」

「洗えばいいでしょ」

「スリングにしたらどうだ?」ユリも言い出しました。「この紐をツタにくくりつけて・・・」

 

 泥スリングってか。

 高いんだけどな、青銅の兜・・・

 

 私たちが準備をしてると、鐘が鳴るのが聞こえて来ました。

 特徴的なリズムの繰り返し。『全力で進め』の鐘です。

 

◆♀◆ 14、全力で進め ◆♀◆

 

 麓のほうで、ダーリン姉ちゃんが動くのが見えました。

 部隊を渡河させ、屯所に突撃します。

 屯所からアイメンカの騎兵3騎が逃げ出しました。

 さすがに30人は相手できないという判断か。

 あるいは、ダーリン姉ちゃんの部下の情報も持っていたのかも知れません。

 しかし、ちょっと遅かった。

 

「沼魔術(ヌーマジュッツ)ぅ~。沼れぇ、沼れぇ、地面よグチャグチャの泥になれ~!」

 ・・・という詠唱が、私たちに聞こえたワケではないのですが。

 

 ダーリンの脇にいたダークエルフの沼魔術師・ヌーミリバーが、呪文を唱えて。

 逃げる騎兵たちの足元を、泥沼に変えたのです。

 

 馬は突然足を取られてつんのめり、倒れてしまいました。

 かわいそうに。あの倒れ方だと、骨折→安楽死コースだな・・・

 騎兵も泥に投げ出され、そこに漁で使う重たい網を投げ付けられて捕縛されました。

 

 別な屯所からは、2人の騎兵が逃げ出しました。

 こちらは村人に石だの鍋だのを投げ付けられ、道にはロープを張られて移動を妨害され、下馬したところに物陰から飛び出してきた6人の重装戦士に体当たりされ、転倒。寄ってたかってボコボコにされ、取り押さえられました。

 えっと・・・戦士長。そいつら略奪はしてないんだが・・・

 『走っとったら運悪くぶつかったんじゃ』って建前か?

 たぶんそうだな。

 騎兵に向かって『すんません』みたいなジェスチャーしてるしw

 

「泥スリング発射ァ!」

 もちろん私も、攻撃を開始しました。

 

 兜の緒の片方をツタにくくりつけ、もう片方をツタで握る。

 泥を入れる。

 ブンブン振り回す。握ってる方の緒を離す。

 

 バシューン・・・! 泥が飛んでいきました。

 休憩所を遥かに越えて、崖の下に消えてった。ハズレ。

 

「3割弱くしろ」とユリ。

「ニャじゃ」

 

 どばちゃあ! 2発目は、見事に騎兵に命中しました。

 泥の重さに吹っ飛ぶ騎兵。隣の馬にぶつかったあと、地面に落ちる。

 

「大丈夫かな」

「大丈夫だろ。兜も胸甲も着けてるし。ってか、攻めてきたヤツが悪い」

 

 侯爵は顔を歪め、火矢は取りやめさせ、普通の矢を放たせました。

 私はあわてて母樹に隠れましたが・・・

 矢は、樹ターリアの樹冠部分で葉だか枝だかに勢いを削がれ、ウロには来ませんでした。

 

「よし。大丈夫だな。攻撃継続」

「モリーヌがいれば『鉄身』でもっと余裕あったんですが根ぇ・・・?」

「うるさい。攻撃継続」

 

 3発目。侯爵付近に飛び、騎兵が盾をかざして守る。

 その騎兵は泥を受けた衝撃で肩を痛めたようで、仲間に保護されて後退しました。

 侯爵は新たな命令を出しました。

 弓を持った下馬騎兵が3人、森に入り、崖に接近してきます。

 さらに、侯爵自身が呪文を唱えました。

 

 「我が友よ。協力を要請する。

  樹霊のネコ娘を悩ますように。その仕事が進まぬようにしてもらいたい。

  お礼に、山ほどの脂とキラキラ光る石を用意しよう」

 

 グワァ、グワァ、グワァ。

 ガラガラ声が聞こえてきました。

 頭上にイヤな気配!

 仰ぎ見れば、カラスが3羽。足になんか握って──

 

「ギャー! ウンコ!」

 

 なんと最悪なことに。

 大きなワタリガラスが、足に獣のウンコ握って飛んできたのでした。

 私目掛けて急降下しながら、これをポイと離してくるのです。

 

「きたない! きたなすぎる!」

 「母の呪文ね・・・」お嬢さまは ─(・_・)─ こんな顔。

「リア、攻撃取りやめ。弓も来てる。移動するぞ」

「ひぃぃ」

 私はウロに飛び込み、急いで口を閉じました。

 べちゃ。ウンコが母樹に命中した感触。樹冠の、さっき矢を止めてくれたあたりです。

 樹ターリアの枝葉って、元に戻ったら髪の毛になるんだよなぁ・・・。

「ぎゃー! 頭に当たった!」

「最悪な攻撃だな・・・」

 「元に戻ったときが大変ですわね・・・」

「おのれヨーセイ!!!」

 私は激怒しました。

「俺の可愛いフターリアの髪に! ウンコ! ブチのめす!!!」

「その意気だ。全力で進め、樹にゃーリア」

 「えー!?」

 

◆♀◆ 15、火を挟んで ◆♀◆

 

 怒り狂った私は崖を駆け下り森に突入。

 こちらに向かっていた3人を、弓を撃つ間も与えず母樹でハネ飛ばし、燃える一本松の先に出ました。

 侯爵は、燃える松を挟んで反対側です。

 ユリが出撃しました。

 燃える松のそばまで走って・・・

 

「大気よ変容せよ。天然の火を渦巻かせ、馬の鼻面を焼かしめよ!」

 呪文を唱えて、火をアイメンカのほうへ揺り動かしました。

 

 しかし。

 

「渾火の霊気よ変容せよ。ねじ曲がれ。敵に舞い戻れ!」

 アイメンカ騎兵がそう唱えてユリを指差し、炎を送り返してきました!

 

 火は太い槍となって、ユリを突き刺しました。

 ユリはこれを『妨害』。涼しい顔で振り払います。

 

「リア」お嬢さまが私の袖を掴みました。「ユリさまが不利よ」

「え」

「呪文の撃ち合いじゃ、20人に押し切られて負けるわ」

「そうか。じゃあ俺が・・・」

 私はすぐさま・・・

 すぐさま・・・

「火ィ・・・!」

「出て。樹タゴンに切り替えるわ」

「・・・わかった!」

 

 私は革の防具を急いで外し、メイド服を剥き下ろしてもらいました。

 上半身ブラジャーだけの姿になります。袖を腰で結んでもらって、下半身だけは隠しました。

 そして、外へ。

 

「変容せよ、樹にゃーリア。森に潜むドラゴンに。勇者を助ける騎竜となれ!」

「がぉーう!」

 

 ツタの先の『乙女』部分が、ドラゴン娘に変化しました。

 

 あ。ブラジャー弾け飛んだ。

 

 左腕でデカパイを抱いて、ツタを伸ばしてユリの背後に。

「ブレス!」

「行け」ユリがしゃがみました。

「ンガアアアアア!!!」

 

 ボガーン!

 燃える松が吹っ飛ぶほどのドラゴンブレスが、アイメンカ軍に襲いかかりました。

 当然のように『妨害』する騎兵たち。

 けど、こっちは、前回の戦士長との八百長で感覚掴んでるからね。

 

「ガアアアアアー!」

 『妨害』をチョイ上回るぐらい、吐き続けてやりました。

 

 先頭の騎兵が落馬。馬が竿立ちになり、たてがみから煙を吹きながら逃げていきます。

 2列目の騎兵も2人落馬しました。

 後ろのほうの騎兵も混乱します。暴れる馬も、乗り手も、顔を火傷していました。

 マントに火が付いてしまい、あわてて飛び降りて地面を転がっている者もいます。

 

「ぜぇはぁ」

「よくやった。下がれ!」

 ユリに強めに叩かれました。

 見れば、火傷をこらえて弓を構えている下馬騎兵がいました。

 私は急いでツタを巻き戻しつつ、腕と足で身体をガードします。

 ウロコの生えてる部分を外に向けた。それがよかった。

 

 ガキン! 矢が右の肘に当たって、右に弾けました。

 

 この一発だけで、私はウロに飛び込むことができました。

 森に逃げ込み、移動します。

「当てられた」

「どこ?!」

「右の肘」

「・・・大丈夫、ウロコにカスリ傷がついてるだけよ」

「そっか。ハァ、ハァ」

 私はウロの中で膝立ちになりました。

「『変容からの帰還』、用意してくれる?」

「まだ出るつもりなの?」

「ユリ1人にはできん。俺も怒ってる。侯爵にウンコ付け返さんと納得できん」

「・・・わかったわ」

「問題は服だな」

「ああ、それなら、私にいい考えがあるわ」

 そう言って、お嬢さまは呪文を唱えました・・・

 

「樹にゃーリアよ、も~どれ!

 そして変容せよ、私の想い人。

 あなたにない性器も手に入れて、この世で一番カッコいい彼氏にな~れ!

 あと、あなたに呪いがかかったら、変容から帰還せよ。素ターリアに、も~どれ!」

 

「えっ?」

 樹ターリアから人間に戻りながら、私はお嬢さまを抱き止めました。

「ちょ、ニーズ、いまの呪文は」

「Zzz・・・」

 

 お嬢さま、限界! ここで寝落ちしちゃいました!

 

◆♀◆ 16、決着 ◆♀◆

 

「風よ変容せよ。渦巻け。私を巻き上げろ。――『つむじ風』!」

 アスカリア女伯爵・ユリは、呪文を唱えて、火の松を飛び越した。

 

 混乱する騎兵の群れに飛び込み、鋭い剣で手綱を断ち切り、馬の尻を蹴る。

 驚いた馬に揺られ、切れた手綱を掴んだまま、騎兵は落馬。

 その馬の轡を掴んで引きずり回し、隣の馬に当ててそっちも落馬させる。

 落ちた2人を飛び越えて、ユリは侯爵の騎馬に迫った。

「ヨーセイ! 負けを認めて兵を引け! さもなくば殺す!」

「やってみるがよい! できるものならば!」

 2人は呪文を唱えてぶつかり合った。

 

「我は変容す! 雷切り裂く剣聖の、剣の妙技よ我にあれ!」

「大地よ変容せよ。無敵の壁となれ!」

 

 ユリが『聖剣』でヨーセイの左足を斬りにいった。

 そこに、土の壁が出現。鋼鉄のように固いその土壁を、聖剣が斬り砕いた。

 ユリは舌打ち。『聖剣』の効果は、一度何かを斬れば、そこで終わるのだ。

 頭上からヨーセイの剣が降ってくる。

 ユリは受け流し、一歩後退。

「く・・・!」

「体重が足らんな」

 ヨーセイの剣は右手にある。馬の左サイドに打ち下ろすのは困難なのだが・・・ユリを後退させるほど、その一撃は重たかった。

「一戦一戦、全力投入か? それで領主が務まるのか」

「いまは苦しい。だが、明日はラクになる──私がそうする!」

 

「──雷切り裂く剣聖の、剣の妙技よ我にあれ!」

「──無敵の壁となれ!」

 

 ユリは再度『聖剣』で斬る。

 が、またしても『無敵の壁』がこれを阻む。

 ヨーセイの単純な打ち下ろし。ユリが受け流し、よろめく。続いて突き。ユリがかわす。戦馬が体当たり。これは喰らって、ユリは後ろに転がった。横転してすぐ立つが、一瞬視界が定まらず、反撃が遅れる。

 

「大地よ変容せよ。凹め」

 ヨーセイの呪文が、ユリの足元に穴を作った。

 

「うっ!?」

 ちょうど踏み込もうとしていた左足。体重の乗ったところで地面が凹み、ユリはつんのめる。ヨーセイの前に頭を晒す形になってしまった!

 

 ──俺が飛び込んだのは、このタイミングでした。

 

「閣下ぁぁぁ!」

 乗り手が落っこちたアイメンカ戦馬を、侯爵閣下の馬に突っ込ませて・・・

 鞍から、ジャンプ!

「よくもウンコつけやがったなあああ!!!」

 ヨーセイ・アイメンカ侯爵に、空中で体当たり。

 ウンコついた髪(やっぱり髪でした・・・)で、ガコンと頭突き。

 兜にウンコこすりつけてやりました。

「ぐぬぅ!?」

「俺のユリ殺したら侯爵でも殺す!!!」

 侯爵の右腕にしがみつき、なんとかねじり上げようとします。

 しかし、この侯爵・・・

 強い。

 もう四十代半ばで、決して若くはないのですが・・・

 体躯は、クマのごとし。

 腕は、古樹の主枝のごとし。

 両手で取ってんのに、関節を取るどころか・・・

 片腕で対抗されて、俺のほうが投げ落とされてしまいました!

「クソ!」

 俺は、投げ抜け。

 ユリとの特訓が利いた。侯爵も、俺を殺そうとはしてなかった。

 トンボ返りして、足から地面に落ちることができました。

 頭や背中を打ったりはせず、転がって立ち上がれた。

「貴様・・・は・・・、ダンゼイズのフターリアか?」

「他の誰だってんだ!」

「ふむ? そうか、テニスの呪文か」

 侯爵はうなずき、俺を指差しました。

 

「フターリアよ変容せよ。その場から一歩も動けぬようになれ!」

 

 俺は呪文を喰らいました。

 『妨害』で防ごうと、意識はしてみたのですが・・・

 たぶん半分ぐらいは防げたと思うのですが、身体が動かなくなります。

 それで、『変容からの帰還』が発動してしまいました。

 俺は、いつもの素ターリアに戻ります。

 硬くて軽くて飛ぶように動けた肉体は、プニプニして重たくてデカパイに振り回される柔肌に。

 股間にぶら下がってたモノは、割れ目に引っ込んでしまいました。

 そして、ふたたび動けるようになりました。

「ユリ!」叫んで、侯爵の馬の腹帯を掴もうとします。

「ブルルァ!」

 馬は怒って、ステップ。私を威嚇してきました。

 馬は側面見えてますからね。回避されるのは予想してました。

 その程度で十分だったんですわ。

「む!?」予想してなかった侯爵が、少し体勢を崩したスキに・・・

 

「雷切り裂く剣聖の、奥義、活殺の剣、ここにあれ!」

 ・・・ユリの一撃が、侯爵の胴体に決まったんでね。

 

「・・・お見事」

「・・・わかって頂けたようで、剣士としては嬉しい限り」

 

 ヨーセイ・アイメンカ侯爵は、馬を降りました。

 真っ二つにされた剣帯が、ダラリと垂れ下がります。

 騎兵たちに、「武器を収めよ」と命令しました。

 

「アスカリア伯爵の勝ちじゃ! これよりは、戦後の相談に移りたいのじゃが」

「そうですな。私も、部下の髪を洗ってやらねばなりませんし」

 ユリは私のそばに来ました。

 で、小声で、

「乳隠せ。乳」

「え? あ」

 

 白い乳が、丸出しになっておる。

 顔を上げると、アイメンカ騎兵があわてて目を逸らしました。

 

「いや~ん♥」

 乳首を隠してクネる私を、ユリがマントで包んでくれました・・・。

 

◆♀◆ 17、あれこれの賠償 ◆♀◆

 

「まず、娘たちと話したい」

 侯爵は賠償の前にそう要求しました。

「どうぞ。しかし、今日のところは手短に願います」

「テニス」

 「・・・はい、侯爵閣下」

 お嬢さまが、ユリの背後から隣に出ました。だいぶ眠そうです。

「短い間に、ずいぶん呪文を覚えたのう。驚いたぞ」

 「ありがとうございます」

「力を発揮する場も手に入れて」

 「はい」

「おとなしいように見えて、欲しいものは必ず手に入れる。まこと、私とニーシャの娘じゃ」

 「・・・お父さま」

「この領主がゴチャゴチャうるさいので、今日はこれだけにするが。達者でな」

 「はい」

「・・・。」

 侯爵は私を見ました。

「なんでしょう?」

 メイド服に着替えた私。

 髪のウンコも取りあえず落として・・・(まだ臭いけど)

 見た目だけは、いつも通り。黒髪クール美少女メイドです。

「フターリア姫」

「はい、ヨーセイさま」

「そなた、呪文で変わり身して、強くなったつもりではあるまいな」

「色々と学ぶところはございました。ユリさまの侍としては、まだまだですが」

「育つまでは侯爵家に甘え、元服しては好みの女に走ると申すか」

「とんでもない。御恩は忘れておりませんとも。──ただ、私は養子ではありませんので」

「ほう」

 「・・・。」

 侯爵もアイメンカの戦士も、苛立ちを見せました。

 

 引かねえよ?

 俺はアンタの家臣じゃねぇかんな。

 

「私は、お嬢さまにお仕えしてきた。お嬢さまの侍女でございます」

「主人を2人、女を5人取るつもりか。できるハズがないわ。バカめ」

「人は竜になれるハズがなく、火を吹けるハズもございませんな」

「フン。・・・娘を裏切ったら承知せんぞ」

「天の女神さまにかけて、お嬢さまを裏切ることはしません」

「そうか」

 侯爵は、最後にユリを見ました。

「アスカリア伯」

「なんですかな?」

「ここの守りはなんだ。これでも領都か。そなた自ら駆けずり回って。それでも領主か」

「ええ、ええ。ダンゼイズがずいぶんと戦力を連れて来たのでね。まんまと引っ掛けられましたよ」

「兵士が素人すぎる。フターリアもじゃ。前に出すなら、訓練せんか」

「言い聞かせておきましょう」

「・・・。」

「・・・。」

 2人は睨み合いました。

「ではな」

 侯爵はマントを翻し、馬に向かいます。

 ガシ! その肩にユリの手が乗りました。

「何か用かな?」

「ご冗談をw テニス」

 「はっ! ここに」

 

 ユリの一声で、お嬢さまが羊皮紙を出しました。

 侯爵に渡します。

 

 賠償金支払いの書類でした。

 

「テニス! そなた、どっちの味方じゃ!」

 「・・・。」お嬢さまはユリの背中に隠れました。

 

 侯爵は苦虫を噛み潰したような顔をしながら、羊皮紙に金額と署名を入れました。

 チラッと目に入ったんですが・・・

 ウチの父ちゃんが3枚書かされた金額より、桁が大きかったですね、ハイ・・・

 

「やれやれ」侯爵は、去り際にもう一度私を見ました。

「なにか?」

「・・・カラスのことは悪かった。髪の代償に、何か欲しいものはあるか」

「・・・はい。とても貴重なものですが」

「言うてみるがよい」

 

「お嬢さまを、俺に下さい!」

「調子に乗るな馬鹿者!!!」

 

 即座に否定されましたわ。ものすごい剣幕でしたわ。

 

「わしがそなたの歳であったら、剣を抜いとるところじゃ」

 侯爵は右手の指から指輪を外し、こちらに出してきました。

「『空蝉』の呪文の入った指輪じゃ」

「うつせみ・・・!」

 

 それ、もしかして、忍者的な?

 当てたと思ったら、ドロン! 残念、身代わりでした~。

 みたいなヤツ!?

 

「ほう、知っておったか」

「いえ、詳しくは」

「テニスに聞け。テニスの母の呪文じゃ。指輪の細工もな」

「そんな貴重なものを、私に・・・」

「1日に1度しか使えぬがな」

 

「さらばじゃ、小娘ども!」

 今渡こそ、侯爵は馬上の人となりました。

 ダーリン姉ちゃんの部隊が睨み付ける中を、まるで自分の領地をゆくがごとく、悠然と騎行してゆくのでした。

 

◆♀◆ 18、戦いすんで ◆♀◆

 

「今回はダメかなと思ったわ」

 

 伯爵邸に戻ると、マレーナ姉さんがそう言いました。

 やつれた感じです。ちょっと色っぽい。

 そんな彼女をユリが抱き締め、「よくやってくれた」と褒めながら主人の部屋に引っ込みました。

 

「・・・まあねぇ。ウチらは王都で楽しんだもんねぇ」

 ブツブツ言うダーリン姉ちゃん。

「そやねぇ」

 私は、背中をさすってなぐさめました。

 この人、すぐに『希望の港』に戻らないといかんのだよね・・・

 ユリと過ごせるチャンス、あんまりないんですわ。それをマレーナさんに取られちゃったと。

「俺が譲れるんなら、譲ったんだけどねぇ」

「ありがと~! ほんなら、明日の夜は譲ってもらおうかな~」

「はい?」

「いやね、ホラ、ユリさまの前でオトコになったんやろ?」

「・・・あ、うん」

 

 お嬢さまが唱えた呪文。

 あれ、研究中の『男にする』呪文だったらしいですわ。

 どんな姿になってたのか、俺にはわかんなかったけど・・・

 

「カッコ良かったって言うとったでぇ~?」

「そ、そう? へへへ」

 髪の毛にはウンコついてたけどな。

「ほんでねぇ、『明日にでも食ってやる』って、ユリさま言うとったんよ」

「ああ、なるほど。それで明日譲ってって?」

「そうなんよ。ごめんやけど・・・明日、譲って!」

「わかった。いいよ」

「ホンマに!?」

「ホンマに。一日ぐらいユリと過ごしていきなよ」

「優しいわぁ。好き!」

「俺も。けど、代わりに、なんかちょうだい。代官閣下」

「ええよ~。なにがええ?」

「食べるモンがいいですな。お嬢さまと一緒に食えるようなヤツ」

「わかった。港戻ったら見つけて送るわ」

「ありがと」

「こっちこそ~♥」

 ダーリン姉ちゃんは、御機嫌で部屋に戻りました。

 

 さて。

 

 もういっぺん髪洗ってくるか・・・

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