TSゆりフタ令嬢侍女メイド! 作:min(みならい)R18
魔王陛下と、御対面
◆♀◆ 1、出港まで ◆♀◆
魔王の封印が解けつつある。
──正確には、封印の持続時間が切れかけている。
「私は対処しなければならない」
女勇者ユリが、私たちに向かって宣言しました。
そして、コノマーズ女侯爵・ツクノーさまに向き直って、
「侯爵。船の手配と、王都への知らせですが・・・」
「・・・いやな話を急ぐものじゃ」
ツクノーさまは、唸りました。
「王都には私が行くしかあるまい」
「そうですな」
「船は大丈夫じゃ。ヨトンマリ伯が、そなたらへの恩返しの機会を求めておる」
「心強い」
「では動くとしようか」
「はい。王都では、侯爵・・・」
ユリは立ち上がって、こう結びました。
「・・・第二次封印隊の準備を。私も、しくじらぬとは言えませんので」
翌朝、侯爵の乗る船が、王都に向けて出発しました。
出発の間際。
「フターリア」
「はい」
侯爵に呼ばれた私は、彼女の前に立ちました。
甲板の上。野次馬たちから見える位置です。
野次馬は静かでした。客人を残して王都に向かう侯爵の姿に、戸惑っていたのでしょう。
彼らが見上げるガレー艦の甲板で・・・
美しい女侯爵は、手を伸ばし、私の両頬を撫でました。
「・・・。」
しばし言い淀んでから、
「そなたは成功する! ──よって、私はムダ足というコトになるじゃろう」
「ああ。そうしてやるさ」
私たちは抱き合いました。
侯爵の温かい女体が、私と密着し・・・離れてゆきました。
彼女は、私から視線を外して、司令官に変わりました。
船尾、一段高いところにある指揮官の台座に上がって。
すでにそこにいた艦長に命じました。
「出港用意」
「出港用意!」艦長が復唱。
私たちはタラップを降りて、滑り出てゆく艦を見送りました。
「勇者よ。まことに申し訳ないが、我らの方は、明朝でよろしいか」
50代のがっしりした男がやってきて、ユリに許しを求めました。
ヨトンマリ伯爵・キズクートさま。
ツクノーさまの信頼厚い海軍伯爵です。
ユリのためにガレー艦を出してくれることになっているのですが・・・
「明朝と仰ったか?」とユリ。
「うむ。内海の中央に漕ぎ出すとあらば、どうしても時間がかかるのじゃ」
「そうですか」とユリ。「一刻も惜しいというのが、偽りのないところですが」
「すまぬ。夜明けには出れるようにする」
その日は、荷造りと書き物をして過ごしました。
書き物。
ま、遺書ですね。
万が一、ユリがしくじって、私たちが帰れなくなっても。
アスカリア領が悪いワケじゃないから、攻めて来んなよ! とか、そういうね。
「・・・書いても、攻めて来そうな気はするけどね」と、お嬢さま。
「・・・御実家が?」
「どっちもよ」
「うちの父はどうかなぁ」
「来るわよ。あなたの場合、お母さまが黙ってないでしょ」
「あー・・・」
そんな会話をして。
私とモリーヌは、部屋を掃除しました。
「楽しい夏休みだった」
「そうですね」
テニスお嬢さまは、引き継ぎのための文書を、司厨長に宛てて書いていました。
が、ふと顔を上げて、
「・・・あっちの2人は大丈夫だったのかしら」と呟きました。
「なにがです?」
「呪いよ。あなたがかかった、魔王の呪いの夢」
羽ペンをふわふわさせながら、お嬢さまは考える様子です。
「あなたがターゲットになるんなら、第一・第二夫人も、狙われるんじゃないかしら」
「・・・ああ。懸念はしてる」
ユリに伝えに行ったら、そういう返事が返ってきました。
書き物の手を止めて、俯いて。
「戦時なら、マリは防衛呪文を張ってるんだが・・・司厨長の仕事だけで、パンパンだからな」
「あー。呪文唱えると、寝ちゃうから?」
「そう」
「そうか」私はお茶を淹れました。「心配だな・・・」
「うん・・・」
夜は、4人で固まって寝ました。
ユリが私たち3人を守るため、同室になってくれたのです。
「この部屋に、外から呪文が入って来たら。その呪文よ、変容せよ。うやむやに、な~れ」
「・・・お嬢さまの呪文っぽいね?」
「ティニーモノーシャさまの呪文だからな」ユリは笑いました。
「習ったんだ?」
「我らが国王、バーシー陛下を経由してな」
「・・・。」お嬢さまがちょっとスネた感じで呪文書に手を置きました。
ユリはそれを見て、
「バーシーが頼んだそうだ。『部屋を守れる呪文が欲しい』ってな」
「へぇ」
「個人を守る呪文は、一般によく知られていますものね」とモリーヌ。
「そう。そっちは精密だが1人しか守れない。こっちは大雑把だが、部屋ごと守れる」
「部屋ごと守れるってすごいな」
「防御力は弱いがな。ま、今回はこれで行けるハズだ」
ユリは寝転びました。
「おやすみ。Zzz...」
「早ェ」
あっという間に寝付いたユリでしたが。
夜中、気付くと、私に抱き付いてました。
いつの間に・・・
ま、おかげで私も安心して眠れたんですがね!
◆♀◆ 2、出港 ◆♀◆
翌未明(私が夢を見た夜から数えると、3日目ですな)。
私たちは静かに起きて部屋を引き払い、港に向かいました。
ユリ、お嬢さま、私、モリーヌ。
アスカリア兵から選抜された3人。
そして、私の指揮下の戦士長と戦士5人。総勢13人です。
ヨトンマリ伯爵とガレー艦の乗組員は、すでに出港作業をしていました。
今回は、野次馬ナシです。私たちは見送りもなく出発しました。
「行き先は内海中央、『大渦の島』と聞いておるが」と、ヨトンマリ伯。
「ええ。南方砂漠から突き出した半島の先の」と、ユリ。
「間違いないようですな。では、後はお任せを。船室を空けておきましたので、お使い下され」
「かたじけない」
私たちは船体後部にある、小屋みたいな船室に荷物を入れました。
で、その小屋の屋根にあたる後部甲板に上がります。
・・・ぶっちゃけ、空気悪いんですわ。船室。腐りかけの木材とタールの匂いがしてね。
天気がいいんであれば、甲板にいるほうがラクです。
「今回はいませんな。イルカ」
「そうね」
私とお嬢さまは、ボソボソとしゃべり、持ってきたクッキーをかじって過ごしました。
ユリとモリーヌは、自分の剣を研いでいました。
船はどんどん沖へ出ます。
コノマーズ高原の山脈も見えなくなり、見える景色は空と海のみになってしまいました。
水夫たちはオールをしまいました。帆走に切り替えたのです。
船足はコノマーズに来た時よりもさらに速く、揺れも厳しい。
風を受けて最速で進むためか、ずっと一方向に傾いたままなのも地味にキツかった。
「地面に降りても立てない気がしますわ」
「ずっと海が見えてるのが落ち着かないわね。吸い込まれそうで」
「実際転がり落ちたりするんだ。ダメそうなら、私に言えよ」ユリが注意してくれました。
朝。昼。夕方と。そうやって航海を続けて・・・
夜。
ガレー艦は、黒々とした岩礁に、たどり着きました。
そして。
そこには、先客がいたのです。
◆♀◆ 3、あれ? 祖父ちゃん ◆♀◆
1隻の帆船が。
夜の岩礁の近くに、錨を下ろして浮かんでおりました。
「バカな。この海域は無人のハズだ」とユリ。
「うむ。海賊すら、こんなところには寄り付かんハズじゃ」
ヨトンマリ伯爵が船首に立って、呼びかけました。
「当方はブレロッケ王国・コノマーズ侯爵の軍艦なり! そこの船、身元を明らかにせよ!」
すると。
「撃つんじゃない! こちらもブレロッケの船じゃ!」
相手は、こう叫び返してきたのです。
「船主はこのワシ、ショーシナー伯爵! 雇い主は、アスカリア伯爵じゃ!」
「・・・あれ? 祖父ちゃん?」
夜の海。
ゴウゴウと渦巻く、底知れぬ黒い水。
ところどころに顔を覗かせ、波を泡立たせる岩礁に・・・
海のない領地・ショーシナー伯爵領の、御当主が?
「お化け・・・?」私はお嬢さまにすがり付きました。
「しっかりしなさいよ。お祖父さまだったら、鑑別はあなたの仕事でしょ」
「そ、それはそうですが・・・」
私はお嬢さまの影から相手の顔を確認しました。
「うーむ・・・」
白いヒゲといい・・・
ツヤツヤしたおでこといい・・・
どう見ても商人。という雰囲気といい・・・
「・・・祖父ちゃんだよね?」
「見た目は、ハイ」とモリーヌ。
「『変容』の可能性は?」とユリ。
「呪文はわかんねーけど。カマかけてみる?」
「やれ」
「へい」
私はヨトンマリ伯爵の後ろに出ました。
「お祖父さま! マフラー、ありがとうございました!」
「マフラー?」老人は首をひねりました。「トーガじゃろ! 例の、ほれ、ネコちゃんの『変容』用の」
「ネコ?」私は首をひねりました。「フタゴンでしょ! お祖父さまの館で開発した」
「そうじゃな。もうええか?」
「はい! ショーシナー伯爵、無礼をお許しください」
「もちろん許す、孫娘よ」
私は頭を下げてユリのところに戻りました。「──祖父ちゃんですわ」
「よし」
ユリが前に出ました。
「ショーシナー伯よ! 私は、あなたを雇った覚えがないのだが?」
「伯爵代行のマリエレジーナさまじゃ! どうしてもここへ来ねばならんとて、急ぎ頼まれてのう!」
「・・・マリが?」
「そうじゃ! まるで何かに取り憑かれたような様子でな、」
ショーシナー伯爵(祖父ちゃん)は、夜の海に浮かぶ、黒い岩山を差しました。
「あそこへ降り立って、どこかへ姿を隠してしもうた。夕方、引潮が始まった頃じゃ!」
「・・・。」
ユリの顔色が変わりました。
「ヨトンマリ伯。舟を出してくれ。いますぐ上陸せねばならん」
「夜に!? とんでもない、そんな危険なことは!」
「そう。危険だ。マリエレジーナが、単独で突入するハズがないのだ──正気ならな」
◆♀◆ 4、魚タゴン、役に立つ ◆♀◆
私たちは急ぎ上陸の準備を整えました。
「全員で上陸する。リアは魚タゴンになっておけ」
「はい」
「者共、槍は使えんぞ。置いていけ。道が狭いからな」
「へい」アスカリア兵が、持っていた槍を置きました。
「ついでに真っ暗だ。ランタンを用意しろ。油がいちばん長持ちするヤツだ」
「へい。槍ナシ、長持ちするランタン、了解」
上陸用の舟が下ろされ、縄梯子が渡されました。
ユリは簡単に移乗しましたが。
アスカリア兵3人は苦労しております。ま、船に慣れてませんからね。
「変容せよ、フターリア。ドラゴンの、イルカの力を手に入れて。いかなる難所も泳ぎ渡れ。──魚タゴンに、な~れ!」
「ぎゃおー」
どぼーん!
私は、夜の海に落ちました。
縄梯子とか、無理。ドラゴンの手に足ヒレだもん。
ざっぶん、どっぶん・・・!
荒波を泳いで、舟に掴まります。私はこれでOK。
続いて、お嬢さまが降りてきました。
ユリが手を伸ばし、私が海中からお尻を支えます。
お嬢さまは、こう見えて身軽なので、補助はいらなかったかも知れません。
モリーヌも同様に、私が尻を支えてやりました。相変わらずむっちりしてんなー。
ウチの戦士長と戦士たちは、特に問題なく移乗しました。ちょっと優越感。
「全員乗ったか?」とユリ。
「へい」
「よし。リア、乗れ」
「魚意」
ドルフィンキック一発。舟に跳び上がりました。ビチビチ。のたうちます。
ヨトンマリ海兵が舟を漕いで、岩山に近付きます。
黒い岩礁を抜けて。
ユリが水先案内をしてますが・・・難しい顔をしてます。
なんせ夜の岩礁ですからね。岩も黒いし。回避は至難の業なのでしょう。
「・・・。」
「どうしたの? ビチビチして」
「え? ああ」
お嬢さまに言われて、私は足ヒレ動かしていたことに気づきました。
「いや、なんか、ムズムズして」
「鼻が?」
「こめかみのへんですかね・・・ん~・・・ン~♪」
「あいた」お嬢さまが、エルフ耳を押さえました。「なに、いまの声」
「んん?」
「いますごく高い声出したでしょ」
「出したかな」
「出したわ」
「ン~♪」
「それ!」
「ン~ン~ン~♪」
「耳が痛いってば!」
「?」モリーヌは首をひねっています。「何も聞こえませんが・・・?」
「なんだ。また新しい能力か?」とユリ。
「能力・・・」
私は、揺れる舟の上で最大限集中して、「ン~・・・♪」ともう一度やってみました。
カコーン、ザザザ・・・キコーン!
音が聞こえました。金を叩いたような音と、ノイズのような音が・・・
・・・いや、音というより、感触かな? 髪の毛になんか触れたような感じ。
「ン~♪」
舟が少し進んだあとに、もう一回。
ガコーン、ザザザザ・・・キーン・・・。
感触が変化しました。
感1は近く。ノイズは少し長く。感2は遠くなった。
1は、わりと近く、斜め下前方から聞こえた気がします。
「ン~♪」
ゴォーン! ザザザザザ・・・キィン・・・。
さらに変化しました。感1は、もう私の足ヒレが届くぐらいの距離・・・
「岩がある! 目の前、海の下!」
「なんと!?」
海兵がオールを突っ込みました。
ガゴン! 重い音がしました。オールが、海面に隠れていた岩を突いたようです。
舟がつんのめるように止まり、押し戻されます。
「きゃあ」お嬢さまがコケました。モリーヌが抱き止めます。
「失礼! まったく見えませんで」と海兵。
「リア。暗礁がわかるのか?」とユリ。
「みたいだね」
ユリの脇から首を突き出して、「ン~♪」と、海中に向けて絞り出してみると・・・
ゴォーン・・・ォォン・・・。
音というか触感というか。『音像』と言おうか?
暗礁の形が、私の脳内に浮かび上がりました。
うん。間違いない。
エコー・ロケーションだこれ!!!
魚タゴン、ソナーついてましたわ!
「代われ! 進行方向の暗礁をチェックしろ!」
「前方だけでいい?」
「前方、60度ほど、頼めますか?」ヨトンマリ海兵が、両腕をコンパスのように広げました。
「了解」
渦巻く暗黒の海の中を。
ユリの案内と、私のソナーで、舟は無事に抜けることができました。
黒々と濡れた岩山に、上陸です。
お役に立ったぜ。
「少し歩くぞ」
海兵と舟を後ろに残し、ユリを先頭に、岩山を歩きます。
海草のへばりついた巨岩のあいだ、谷間のようなところを抜けて。
足元は、メッチャ滑ります。
そして、岩と岩の隙間に、黒い海が口を開けてます。
手で掴もうにも、岩がギザギザで、簡単に手の平が破れてしまいます。
ものすごい場所ですわ・・・。
これ前世なら『立入禁止!』ですわ。絶対。
そんな地形を。
ユリは、するすると歩いてゆきます。
お嬢さまとモリーヌも、戦士長らと連携して、確実に踏破してゆきます。
私? 爪でガキッ! ですわ。
猿が木から木へ飛び渡るようなダイナミック移動ですな。
ただ、こんな移動なもんで、お嬢さまの補助はできませんでしたが。
歩くこと数分。
私たちは、黒い岩が上下左右に重なった場所にたどり着きました。
足元も黒い岩。頭上も黒い岩。右も左も黒い岩。正面だけ空洞です。
──つまり、洞窟でした。
「ここだ」
と、ユリが言いました。
「入るぞ」
◆♀◆ 5、戦友 ◆♀◆
洞窟は、初めは上り坂でした。
登り切ると、床は、皿を伏せたような、ふくらんだ地形に変わりました。
この、伏せ皿の洞窟で──
「敵襲! 前3、左5」
私のソナーに、暗闇に潜む敵が引っかかりました。
やや硬めの、軽い反響音です。岩より軽く、人体ほどの大きさの──
「ひぃぃ、ガイコツ!」
──動く白骨。髑髏魔人どもでした。
ガチャ、ガチャ、ガチャ。
錆びた鎧を鳴らしながら、近付いてきます。
「リア、敵の来てないほうを警戒! 戦士長、テニスを守りつつ遊撃。者共、ついてこい!」
左の5体。ユリが手下3人を率いて迎え撃ちます。
敵は、チェインメイル装備です。
ボロボロになったマントに、ブレロッケ王家の紋章がかすかに見えました。
ユリが斬り込んで3人を相手にします。が、1対3で有効打が取れる相手ではありませんでした。膠着します。
アスカリア兵3人は、ユリが残した2人を相手にします。が、こちらも攻撃が通りません。選抜された3人だけあって、そこそこ当ててはいるのですが・・・チェインメイルの下は、肉が腐り落ちた死体。痛覚もなく、疲労もなく、急所というものもない。体幹の骨を砕かない限り、決定打にならないのです。
そこで、戦士長が2人を増援に出しました。
ダンゼイズの山男たち。王国戦士(の遺体)の剣を、ガキン! と喰い止め、鍔迫り合いに持ち込みます。
「いまじゃ! 撃て!」
「へい!」
アスカリア兵が敵の腰をメッタ打ちにしました。
ついに腰が砕け、遺体はふたたび横たわりました。
膠着状態から1体が崩れた。これは、堤防が破れたようなものです。
そこからは一気に決着となりました。
正面の3体の方は、ダンゼイズ戦士5人が相手をしました。
こちらは早い段階で1体を叩き潰して優勢となり、そのまま完勝でした。
戦士長が2人を増援に出せたのも、勝利が早かったから。
戦士長とモリーヌは、テニスお嬢さまをサンドイッチで守っていたのですが。
2人の出番はありませんでした。
で、私ですが。
アスカリアの連中、苦戦してんな・・・
いや、戦士長が何とかしてくれるだろ・・・
などと思いつつも、命令通り、右と後ろにソナーを打っておりましたところ。
ポフーン・・・!
布のような感触を、キャッチしました!
「後ろに1! 魔術師の可能性!」
「ブレス!」とユリ。
「え?! マリ姉さんだったら」
「マリじゃない! やれッ!」
「・・・ギューーーッ!」
私は、口をすぼめてブレスを吐きました。
ブシャーーー!!!
白い飛沫が飛び出して。
暗闇の敵を、吹っ飛ばしました。
敵は岩にぶつかり、頭部が外れてカツンコツンと転がってゆきました。
「・・・なんじゃこのブレス」
火が出ると思って吹いたのに。
噴き出したのは、水だった。
「潮噴きかよ」
どうやら、魚タゴン。ブレスが、クジラの潮吹きみたいなものになるようです。
戦闘終了。アスカリア封印隊の勝利です!
確認したところ、敵はすべて骸骨でした。
王国戦士団の鎧に、剣。
私が潮噴きでしとめた人は、国王に仕える魔術師のローブを着ていました。
「・・・かつて、私と一緒にここへ入って、戦った方々だ」
ユリが言いました。
「途中で魔物に阻まれ、遺体は潮に流されて、回収ができなかった。もう見つからないと思っていたが」
「今回は回収してあげなきゃな!」私はユリの背中を支えました。
「うん。・・・リア」
「なに?」
「爪、痛いw」
「あ、ごめw」
ユリは歩き出しました。
私は、ちょっと場を和ませようとしました。「ところでさぁ」
「なんだ?」
「なんでさっき、『マリ姉じゃない』ってわかったの?」
「マリなら、お前の前に出るようなヘマはしない」
「どういう意味だよ?」
「フタゴンの前に立ったら、ブレスで弾き飛ばされるじゃんか」
「いや、俺そんなコトしねぇけど・・・」
「マリはさ。アイツなら、『魔の爆火』抱えて私に突っ込んでくると思う」
「え。特攻?」
「そう。相討ち狙い」
ユリはため息をつきました。
「マリは、自分を捨て駒にできる女なのさ」
場は、あんまり和みませんでした・・・。
◆♀◆ 6、魔王陛下と、御対面 ◆♀◆
伏せたお皿地帯を抜けると、道は下り坂になりました。
潮水に濡れた、ツルツルの岩です。
「こんなところを下るのか。正気の沙汰ではないが」戦士長ですら、警告を口にするほどでした。
「ごもっとも。だが、封印はもっと奥にある」
ユリは帯を締め直しました。
「リア。行けそうか? ちょっと進んでみろ」
「ん」
私は、アシカ姿勢になりました。
うつ伏せになって、フタゴンの前足を完全に地面に着ける姿勢です。
かなり前につんのめる形にはなりますが・・・
「楽勝だね」
安定性は高いし、足ヒレが意外と役に立つ(滑り止めになるんですな)。
余裕で進めそうです。
「テニスを背負っても行けるか?」
「行けるね」
「じゃあテニス、リアの背にしがみついていけ」
「はい」
お嬢さまはスカートをめくって(大丈夫、下はタイツです)、私におぶさりました。
2人して暗闇にダイブするような姿勢です。
「・・・恐いわね」
「・・・大丈夫。俺に任せて」
「よろしくね」
「おう!」
恐ろしい下り坂を、我々は降りてゆきました。
アスカリア兵が2回、スッ転びました。
1人は戦士長が首根っこ掴んで助け、2人目は私にぶつかってきたので足ヒレで叩いて押さえました。
「痛ッてぇ・・・ありがとよ、ドラゴンさま」
「いいってコトよ」
しばらくゆくと。
もう一段階、恐ろしい光景が、目の前に開けました。
「うへぇ」
「どうしたの?」
「一本橋・・・」
私のソナーに遅れて、ランタンが前方の地形を照らし出すと。
「うへぇ」お嬢さまも言いました。
道は、大きな縦穴に通じていて・・・
その縦穴を、下りの一本橋が渡っているのです。
狭い橋です。すれ違うこともできないレベル。傾斜もキツい!
そして、下には・・・
ド、ド、ド・・・ゴォォォ・・・!
遠雷のごとき轟きを立てて、黒い潮が渦巻いております。
「これ、落ちたら・・・」
「うん。二度と上がって来れないぞ。気を付けろよ」
ユリは爽やかに言いました。
「自信がない者は、ここに残れ。退路を守ってもらう」
「・・・。」誰も応じませんでした。
「責めはせん。死なれるより、見張りが増えるほうがずっとマシだからな」
「・・・。」
「ふw では、アスカリアの諸君。おまえたち3人で、ここを死守しろ」
「へい」
「あ、リア。ソナー、だったか? それは、ここではナシな」
「え?」
「静かにしろ。住人を刺激せんように」
「住人・・・?」
私たちが一本橋に取りかかってすぐ、その住人が姿を現わしました。
左手、上方。縦穴の壁に口を開けた別な洞窟からです。
「・・・。」
ズブ濡れの黒髪をした女らしき頭が、ニュッと出てきて。
ずるり、ずるり、ずるり、ずるり。
男の太腿ぐらいある、タコの腕のようなものが、その足元から出てきました。
ずるり、ずるり、ずるり、ずるり。
全部で8本。
「ゆ・・・ゆり・・・?」
「心配いらん。おとなしい子だ。だが刺激はするな。喰われるぞ」
「・・・それ、おとなしいのか?」
ジトーッとこちらを見つめる、女らしきもの。
その視線は、どうも私とお嬢さまを捉えているようです。
特に、その・・・
「お・・・俺の足ヒレを、ジーッと見てるっぽいんだけど・・・」
「美味そうに見えるのかな」
という会話をした、その直後でした。
ずるりっ!
極太のタコの足らしきものが、私目掛けて伸びてきたのは!
「ゆりぃぃぃ!!!」
「我は変容す! 雷切り裂く剣聖の太刀!」
すぱーん。ユリがその足を切り落としました。
切り落とされた先端は、暗黒の海に呑み込まれました。
女らしきものは、引っ込みました。驚くほどの速さで頭が引っ込み、ずるずるずずずずるり! と触腕も逃げます。
「おとなしくないじゃねぇかぁ・・・!」
「すまん。後でお詫びするから、ツケといてくれw」
一本橋は、ほとんど渦の水面ギリギリまで下ったところで、やっと向こう岸になりました。
「これが最後の洞窟だ」
穴に入りながら、ユリが言いました。
「潮が満ちると、このあたりは水没する。水が渦巻くから、魚タゴンでも脱出は難しいだろう」
「時間が勝負っちゅうコトじゃな」と戦士長。
「その通り。しかも仕事が増えた。マリを助け出さねばならん。というワケで、」
ユリはくるりと前を向きました。
「私についてこい!」
進みます。
敵は出て来ませんでした。
しかし、足元はまだ危険。平らではない。
穴もあって、滑落すれば水に引き込まれて GAME OVER です。
なので、お嬢さまは、まだ私が背負っております。
「ねえ、ファリア」
「なんです?」
「さっきの、面白い形してたと思わない?」
「アレはちょっと、キモいかな」
「そうかしら・・・」
「私はキモいと思います」
「そうかしら・・・」
「・・・。」
抜けた洞窟の先には。
ピンクに輝く、縦に細長い空間があって。
その奥に、ゆらゆらと揺らめく、女の影のようなものが浮かんでいて。
その影の膝下に、2人の女が立っておりました。
「・・・ダーリン。オマエも喰らったのか」
ユリが低い声で言いました。
「・・・。」ダーリン姉ちゃんの姿をした女が振り向きました。
「・・・。」マリ姉さんの姿をした女も振り向きました。
2人とも口は開きませんでした。
マリ姉さんは、片目を細めてユリを見定めるような仕草をしましたが・・・それだけです。
そして。
ガチャ、ガチャ、ガチャ。
2人の左右に、6人ずつ、髑髏戦士が現われました。
マリ姉、ダーリン姉ちゃんを守るように、ガイコツが展開したのです。
「勇者よ。よく来たな」影のような女が、口を開きました。
「魔王陛下。抜き身で失礼」ユリは、そう応じました。
女王のように横座りになって・・・
頭に、冠のようなものを頂いた・・・
影のごとき女。
魔王ノロ・ノロ・マータと、私たちは、対面したのでした。