※この作品はR-18です。

マジカルチンポでスバルがヒロインたちを性的に攻略するだけの異世界性活   作:萎える伸える

5 / 7
アンケートに答えていただいた皆様、ありがとうございました。


第一章『TSラインハルト①(盗品蔵 授乳手コキ)』

 

 

 ――おろろろろろろろろろろ。

 

 

 吐いていた。

 ナツキ・スバルは、絶賛嘔吐の真っ最中だった。

 盗品蔵の片隅に膝をつき、床へ向かって胃の中身をぶちまける。その背中を、エミリアが心配そうにさすっていた。

 

 

「いいのよ、全部出し切っちゃって」

 

 

 情けない。

 あまりにも情けない限りである。

 普段のスバルならば、エミリアたんのどこか危うく聞こえる台詞に茶々のひとつでも入れていたところだ。だが今の彼に、そんな余裕は欠片もなかった。

 そもそも、スバルは酒に強いわけではない。

 にもかかわらず本人がそれを自覚していないのは、酔っている間の記憶が都合よく抜け落ちる性分だからだ。加えて、スバルにとって酔うとはすなわち自分に酔うことでもあり、それはほとんど平常運転に等しかった。

 ならば、なぜ今さら吐きに吐いているのか。

 

 ――理由は、一人の男にある。

 

 

「『腸狩り』エルザ・グランヒルテ」

 

「『剣聖の家系』ラインハルト・ヴァン・アストレア」

 

 

 盗品蔵の中央で、二人の名乗りが交わされる。

 片や、黒衣の殺人鬼。

 片や、燃えるような赤髪の騎士。

 向かい合うだけで大気が軋むような、尋常ならざる剣気が室内を満たしていた。

 

 ――平常時のスバルであれば、まだ耐えられたかもしれない。

 

 しかし今は酒が回り、平衡感覚も怪しい状態だ。そこへ、ラインハルトが放つ膨大なマナの圧がまともに叩きつけられる。地球育ちでマナ慣れしていないスバルにとって、それはいささか毒だった。

 ゆえに、英雄譚の一節のような戦いが始まろうとしているその脇で、スバルは物語に一文添えられるモブのように、情けなく胃の中身をぶちまけているのであった。

 

 視界が歪むほど濃密なマナが、ラインハルトの周囲に集まっていく。

 それはやがて彼の手元へ収束し、一振りの剣へと意味を変えた。

 対するエルザもまた、刃先の曲がったククリナイフを構える。先ほどまで場を支配していた黒衣の女。そのはずなのに、『剣聖』を前にした今、その姿はどこか、ひとりの女の子のようにさえ見えた。

 小さく、されど獰猛に笑う女。

 静かに、されど世界を従えるように剣を構える騎士。

 次の瞬間――。

 

 ――極光。

 

 眩い光が盗品蔵を白く塗り潰した。

 衝撃が遅れて室内を荒れ狂い、木片と埃と盗品の残骸が暴風に巻かれて飛び散る。エミリアがスバルを庇うように身をかがめ、スバルは吐き気と眩暈と衝撃波の三重苦に、もう何が何だかわからない。

 やがて光が収まったとき。

 黒衣の女の姿は、もうどこにもなかった。

 

 

◆◇◆

 

 

「ご無事ですか?」

 

「う、うぅ……」

 

「うーん……すこーし無事じゃないかも」

 

 

 塵と化した剣の柄を手放し、ラインハルトがこちらを振り返る。

 その視線の先で、スバルは盗品蔵の床にぐったりと身を横たえていた。先ほどまで胃の中身を盛大に吐き出していたせいで、顔色はひどい。そんな彼の頭を膝に乗せ、エミリアが心配そうに黒髪を撫でている。

 

 

「助けに来てくれてありがとう、ラインハルト」

 

「いいえ。この国の騎士として当然のことです、エミリア様。……彼は?」

 

「スバルは……えっと、その……私の従者よ?」

 

 

 言ってから、エミリア自身もその響きに少しだけ首を傾げる。

 従者。たしかに、前世での関係を抜きにして今のエミリアとスバルの関係を説明するならば、主従と答えるのが正しいだろう。

 しかし、その言葉でまとめるには、膝の上の少年はエミリアにとってあまりにも特別で、あまりにも手がかかりすぎた。

 

 

「そうですか。しかし、ここで何があったのですか?」

 

「それが、その……かくかくしかじかで」

 

 

 エミリアの説明は、要約するにも混沌としていた。

 徽章を盗まれ、スバルと出逢い、フェルトを追い、盗品蔵で黒衣の殺人者と対峙し、スバルがなぜか外套を奪い、途中からいろいろと説明しづらい内容を省いたために、話した内容はおそらくほとんどの人が要領を得なかっただろう。

 だが、そのすべてを聞き終えたラインハルトは、すぐさま状況を理解し、ほんのわずかに目を伏せた。

 

 

「そのようなことが……改めて、助けが遅れてしまったことを謝罪させてください」

 

「もう。あなたたちのそういうところ、すごーくよくないと思う。でも、いいわ。その謝罪は受け取ります。だから、この話はこれでおしまい。ね?」

 

「寛大なお言葉、ありがとうございます。エミリア様……少し、変わられましたか?」

 

「ふふ。ええ、そうかもしれないわね」

 

 

 エミリアはそう言って、膝の上のスバルへ視線を落とす。

 情けなく呻いている少年の黒髪を、彼女はどこか幸福そうに撫でた。

 

 

「なるほど。どうやら、良いご縁に恵まれたようですね。僕も少し、彼に興味が湧いてきました」

 

「え?」

 

「――姉ちゃん! 悪いけど、ロム爺を見てもらえねーか?」

 

 

 そこへ、フェルトが慌てた様子で駆け寄ってくる。

 視線を向ければ、盗品蔵の片隅でロム爺が横たわっていた。命に別状はなさそうだが、首筋の傷と衝撃の影響で意識は戻っていない。

 この場で治癒魔法を使えるのはエミリアだけだ。

 だが、彼女はスバルを膝に乗せている。しかもこんな状態とはいえ、スバルは目を離したら何をしでかすかわからない。

 エミリアが困ったように視線を揺らした、そのときだった。

 

 

「エミリア様。彼のことは、僕に任せてもらえませんか?」

 

「ラインハルト、でも……」

 

「問題ありません。今、授かりましたから」

 

 

 ――『転性の加護』。

 

 その言葉と同時、彼の体が淡い光を帯びた。

 赤い髪がさらりと伸び、鍛えられた体つきはしなやかさを帯びていく。鍛えられた胸は豊かに、尻は安産型に、凛々しかった顔立ちはその面影を残したまま柔らかく整い、燃えるような赤髪の、どこか童顔めいた美少女へと変化していった。 

 何より、変化した肢体に合わせて服までもが姿を変えている事実が、彼の持つ能力の底知れなさを感じさせた。

 

 ――畢竟、ラインハルト・ヴァン・アストレアは女体化していた。

 

 

「え? え?」

 

「不慣れな身ではありますが、微力を尽くしましょう」

 

 

 戸惑うエミリアに対し、女体化したラインハルトは変わらぬ騎士然とした所作で一礼する。

 見た目は変わった。声も少し高くなった。だが、その態度に揺らぎはない。

 

 

「えっと……じゃあ、スバルのこと、お願いね?」

 

「はい、承りました」

 

 

 そうして、彼――否、彼女はエミリアからスバルの介抱を引き継いだ。

 エミリアが立ち上がり、代わりにラインハルトが膝をつく。スバルの頭は、ごく自然な流れで赤髪の少女の膝へと移された。

 

 

「うぅ、エミリアたん……」

 

「すまない。僕は君の求める人ではない」

 

 

 ラインハルトは穏やかに言って、スバルの前髪をそっと払う。

 

 

「だけど、僕にできることがあれば、なんでもしよう」

 

「……今、なんでもって言った?」

 

「ああ」

 

 

 元男ゆえの無防備な発言を、今の不調なスバルであっても聞き逃さなかった。

 朦朧としていた三白眼に、急速に生気が戻っていく。吐き気で死にかけていたはずの脳が、最低最悪の方向にだけ驚くほど正確に働き始める。

 スバルは現状を理解した。

 まず、自分は膝枕されている。

 次に、相手はエミリアではない。

 そして、目の前には燃えるような赤髪の美少女がいて、こちらを真摯な眼差しで見下ろしている。

 

 ――この状況で、勃たない男がいるだろうか。

 

 いや、いない(断言)。

 ゆえに、本日何度目かわからない起立を、彼のチンポは果たしたのだ。

 

 突然生えてきた太く長いキノコに、彼女は当惑したように瞬きをする。

 だが、逃げるでも目を逸らすでもなく、白い指先がそっと触れた。熱を確かめるように、形をなぞるように、ゆっくりと掌が添えられる。

 

 

「すまない。なんでもすると言った以上、君の力になりたい。けれど、僕にはこの手の作法がわからないんだ。……こうして、手を添えればいいのかな?」

 

「う、ぐ……」

 

 

 あまりにも真摯で、あまりにも危うい言葉だった。

 仮にスバルが、同人誌に出てくるような不埒なおじさんであったなら、迷いなく最低な指示を飛ばしていただろう。だが、放蕩無頼を地でいくスバルをしてなお、これほど真っ直ぐな眼差しでこちらを慮る彼女に、それ以上の願いを口にするのはあまりにも無礼に思えた。

 

 ――初対面の赤髪美少女に膝枕してもらうだけでは飽き足らず、恥知らずにもチンポをおっ勃て、あまつさえその豊かな胸に甘えながら優しく慰めてもらおうだなんて。

 

 だが、胸の奥へ押し込めたはずの不埒な思考を、彼女はどういうわけか、あっさりと暴いてみせた。

 

 

「――なるほど。それが君の望みなんだね。なら、僕はそれに応えよう」

 

「うぶっ、んんむ!?」

 

 

 スバルが懺悔するように目を閉じ、眉を寄せていると、ふと唇に柔らかな感触が触れた。

 目を開ければ、すぐそこに彼女の胸元があった。まだ誰にも触れられたことのないような清らかさに、スバルの視線は自然と吸い寄せられる。

 

 ――そして、気づけば唇を寄せていた。

 

 まるで飢えた赤子が母を求めるように、スバルは彼女の胸へ縋りつく。与えられるはずのない甘さを求めるように、ただ無心に、許されるままに甘えた。

 味ではなく、柔らかさだけでもない。その行為そのものが、スバルの奥底に眠っていた穏やかな記憶を呼び覚ましていく。単なる快楽とは違う、もっと原始的で、もっと抗いがたい安堵。

 彼女の温もりに包まれながら、スバルは束の間、異世界で味わった恐怖も痛みも忘れていた。

 

 

「これでいいのかな、苦しくはないかい?」

 

「ん、ぐッ、んんーっ!」

 

 

 まずい。

 何がまずいのかと問われれば、あれがそれであれだからまずいのだ。

 

 ――このままでは、あっけなく抜かれそうだった。

 

 赤髪の少女の白い指が、スバルの昂った肉棒を包み込んでいた。最初こそ戸惑いを含んでいた手つきは、しかしすぐに彼の反応を学び、探るように、確かめるように、ゆっくりと動きを重ねていく。

 そのたびに、堪えきれないカウパーが滲み、彼女の手指を穢した。

 されど、彼女は躊躇うことなく続けた。

 どこで覚えたのか、人差し指と親指で輪を作り、昂った亀頭を逃がさぬように丁寧に責めていく。その手つきはもはや不慣れな少女のものとは思えないほど的確で、熟練の風俗嬢もかくやと思わせるほどであった。

 

 ――暫く、無言の時間が続いた。

 

 聞こえるのは、浅く乱れる呼吸と、ヌチュヌチュと粘液が擦れる音、そして唇が胸元に縋るかすかな音だけ。

 だが、その穏やかで淫猥な時間も長くは続かない。

 彼女の手つきは、少しずつ精度を増していく。優しく、丁寧に、逃げ場を塞ぐように。無自覚なまま核心へ近づいてくるその扱きに、スバルの体は否応なく追い詰められていった。

 

 ――出すか、出さざるか。

 

 だが、その迷いが言葉になるより早く、彼女の空いた手が、そっとスバルの頭を撫でる。

 優しく、労わるように。まるで、何も恥じることはないのだと赦すように。

 その瞬間、スバルの中で最後に残っていた抵抗が、音もなく折れた。

 

 ――どびゅるるるるるるるるるっっ♥♥

 

 堰を切ったような白濁が、彼女の手を、胸元を、顔も、頬のあたりまでも淡く汚していった。

 我慢汁を浴び続けた彼女の手は、すでに艶めいたぬめりを帯び、そこからはおどろおどろしい淫臭が漂っていた。だが、彼女はそれに嫌悪を示すどころか、どこか満足げに頬を赤らめた。

 そして、確かめるように濡れた指先を唇へ寄せ、ちろりと舌先で舐めとった。

 

 

「よかった。どうやら、僕にも君の望みに応えることができたようだ」

 

「……あぁ、マジにソープ嬢の才能あるぜ。ありがとな、名も知らないお嬢さん」

 

「お嬢さんと呼ばれるのは、僕としても少し面映ゆいね」

 

 

 照れたように髪をかき上げる彼女の姿は、いやに絵画じみていた。

 清廉な面差しとは裏腹に、無防備に露わになった胸元が目を奪う。その背徳的な取り合わせは、どこか宗教画に描かれる聖母のようだった。

 

 

◆◇◆

 

 

 聖母のごとき少女を味わう機会を逃してなるものかと、またぞろ不埒な方向へ奮い立とうとするマイサンを、スバルは呆れたように見下ろした。

 ようやく酔いが抜け、正気を取り戻しつつある頭で、はて自分は何をしていたのだったかと、スバルは周囲へ視線を巡らせる。

 

 

「スバル……」

 

「兄ちゃんさ……」

 

「……申し訳ありませんでしたぁ!」

 

 

 そこには、呆れ果てた顔でスバルを見下ろす二人の美少女がいた。

 片や、銀髪の天使ことエミリアたん。

 片や、八重歯がキュートな金髪少女、フェルト。

 二人の視線を一身に浴びたスバルは、恥も外聞もなくその場に土下座した。

 このエミリアたんの呆れ具合には覚えがある。もうセフレは増やさない(浮気はしない)と誓った翌日に、しれっと新しい女の子を増やしたときと同じ目だ。

 

 ――だが、スバルは勘違いしていた。

 

 エミリアが呆れているのは、スバルの節操のなさに対してではない。そんなものは、とっくの昔に知っている。なんなら、あの『絵流咲先生』とも何かしらあったのだろうと、薄々察してすらいた。

 問題は、そこではない。

 エミリアが呆れていたのは、スバルの欲望と興奮の矛先が、よりにもよって元男である『剣聖』にまで向いたことだった。

 

 

「……は?」

 

 

 ナツキ・スバル、渾身の困惑顔であった。

 目が点になるとは、まさにこのことか。彼は真実を告げたエミリアたんの顔と、当の赤髪美少女の顔を交互に見比べる。

 そして、たっぷり数秒の沈黙を挟んだ末に、叫んだ。

 

 

「え、えぇぇぇぇぇぇぇっ!? 男!? この子が!? んな馬鹿な!?」

 

「嘘なんてつかないわよ……それに、彼が助けに来てくれたのはスバルも見てたでしょう?」

 

「見てたけど! 俺が見てたのは爽やかイケメンであって、こんな美少女じゃねぇ! 何をどうしたらイケメンが美少女にジョブチェンジすんの!?」

 

「それは……私にもわからないけど」

 

 

 エミリアも困ったように眉を寄せる。

 彼女にしても、ラインハルトが唐突に少女の姿へ変わった理由を完璧に理解しているわけではない。ただ、それが彼にとっては可能なことなのだと、半ば強引に納得しているだけだった。

 

 

「混乱させてしまったみたいだね。でも、安心してほしい」

 

 

 対する当人は、どこまでも穏やかだった。

 赤髪の美少女――否、ラインハルトは、己の変化した体を軽く見下ろし、それから真っ直ぐにスバルを見つめる。

 

 

「この体であるときは、心までしっかり女性であると、僕はそう思っているよ」

 

「そういう問題じゃねぇんだわ! いや、心まで女の子なら俺は男の娘だろうと受け入れるけど! 受け入れるけど! これはなんか違くね!?」

 

「そうか。スバルは女装した子でもいいんだね。なら、次はその形を取るべきかな?」

 

「リクエストしたわけじゃねーよ!? お前さてはエミリアたんに負けず劣らずのド天然だな!? あとしれっと名前呼びしてるし!」

 

 

 混乱のあまり、スバルのツッコミは全方位へ飛び散っていた。

 しかし、そんな彼の狼狽を前にして、ラインハルトはほんの少しだけ眉を下げる。先ほどまでの凛とした佇まいとは違う、年相応の少女じみた不安が、その表情に差した。

 

 

「……スバルは、僕のことが嫌かい?」

 

 

 その一言に、スバルの口が止まる。

 空色の瞳が、真っ直ぐにこちらを見ていた。ただ答えを待っている。そんな目を向けられてしまえば、スバルの中にあった混乱も、羞恥も、妙な意地も、まとめて勢いを失うしかなかった。

 

 

「……お前そりゃ、ずりーだろ」

 

 

 がしがしと頭を掻き、スバルは大きく息を吐く。

 

 

「あーもう、男だろうが女だろうが嫌いになんてなるかよ。誰が何と言おうと、俺らはもうダチだ! それで文句ねぇな!」

 

「ああ、嬉しいよ。スバル」

 

 

 ラインハルトは、心から安堵したように微笑んだ。

 その笑顔があまりにも綺麗で、あまりにも真っ直ぐで、スバルは思わず視線を逸らす。

 

 

「くそっ、美少女にもなれるイケメンとか誰得だってんだよ……」

 

「でも、スバルもたまに女の子の恰好してるわよね?」

 

 

 ぽつりと、エミリアが言った。

 場の空気が、妙な方向へ傾く。

 

 

「私、そのときのスバル、すごーく可愛くて、すごーく好きよ」

 

「エミリアたん、今その話いいから!」

 

 

 悪気のない顔で、どこか誇らしげに告げるエミリア。

 それに対するスバルの悲鳴じみたツッコミを聞いて、フェルトが呆れたように肩をすくめた。

 半壊した盗品蔵には、まだ血と氷と殺意の名残が残っている。にもかかわらず、その場に流れる空気は、どうしようもなく間抜けで、妙に温かかった。

 

 ――だからだろう。

 

 瓦礫の陰で、ひとり息を潜めていた殺人鬼が、最後の機会を窺っていたことに――この場の誰も、気付けなかった。

 爆ぜるように瓦礫が吹き飛ぶ。

 その中から飛び出した黒衣の影が、一直線に戦場を駆け抜けた。

 

 ――エルザ・グランヒルテ。

 

 極光に呑まれたはずの腸狩りが、なおも生きていた。

 狙いはエミリア――ではない。

 少女の姿となり、わずかに油断していたラインハルトだった。

 

 ――きっと、守る必要などなかった。

 

 たとえ姿が変わろうと、彼女の実力は疑う余地もない。『剣聖』の家系。その名に恥じぬ力は、少女の肢体に変わってなお失われていないはずだった。

 

 ――だが、本能が。

 ――男としての意地が。

 

 スバルの体を、赤髪の少女の前へと突き動かした。

 

 

「――狙いはッ!」

 

「ふふっ」

 

 

 言い切るより早く、黒い刃が閃いた。

 白い喉元でも、無防備な胸元でもない。エルザの凶刃は、彼女の思惑通り、スバルの腹部へと吸い込まれていく。

 

 ――殺った。

 

 そうエルザが確信した、その瞬間だった。

 

 ――ぱきん、と。

 

 いやに軽い音が、盗品蔵に響いた。

 何の音か。考えるまでもない。金属が欠けた音だ。

 一拍遅れて、エルザは気付く。己の銀閃が、負けたのだ。

 スバルの腹部を守るように立ちはだかった、あまりにも場違いで、あまりにも規格外なそれに。

 ありえない。そんなことが起こるはずがない。だが、事実として、彼女の刃は届かなかった。

 

 ――ナツキ・スバルのマジカルチンポは宣言通り、凶刃すら弾く域へ到達していたのである。

 

 

「本当に、最後まで思い通りにさせてくれないのね。――素敵」

 

 

 耳元で、女の艶やかな声が囁く。

 驚愕よりも、安堵よりも先に、その声だけが妙にはっきりと届いた。

 吐息のような賞賛を残し、エルザは唇を愉悦に歪める。

 

 

「いいわ、次に会うときまでその腸、大事に可愛がっておいて――()()()()()

 

 

 そう言い残して、黒衣の殺人鬼は瓦礫と埃の向こうへ身を翻す。

 残されたのは、恐怖のあまり勃ったまま気絶したスバルと、

 

 

「やっぱり兄ちゃんの方がバケモンじゃねーか!」

 

 

 遅れて響いたフェルトの悲鳴じみたツッコミだけだった。

 

 

◆◇◆

 

 

 気付けば、スバルは本日二度目の膝枕されていた。

 視界いっぱいにおっぱいが広がり、端では赤髪が揺れている。

 体感で言えば、気を失っていたのは数分ほどだろう。

 今日は異世界に転移して、エミリアたんとセックスして、フェルトともセックスして、エルザ先生ともなんだかんだセックスして……って。

 

 

「俺、異世界来てからセックスしかしてなくね!?」

 

「起きたのかい? ――よかった。無事に目覚めてくれて」

 

 

 心底から安堵したように、赤髪の美少女――ラインハルトが小さく息を吐く。

 その反応に、スバルは不思議そうに眉をひそめた。

 気を失った自分が言うのもなんだが、エルザの凶刃は確かにスバルのマジカルチンポによって防がれたはずだ。少なくとも、腹を裂かれて血を撒き散らすような事態にはなっていない。

 にもかかわらず、ラインハルトの顔には、隠しきれないほどの不安と悔恨が滲んでいた。

 

 

「俺が言うのもなんだけど、そんな心配しなくても大丈夫だぜ? いや、美少女に介抱されるのは嬉しいんだけど、そんな顔されると俺の罪悪感が天元突破しちまうからさ」

 

「いいや。君がこうして危険を負ってしまったのは、僕の不徳だ。僕は、守らなければならなかったはずの君に守られてしまった。騎士として、恥ずべきことだ」

 

「……騎士ってのは、そんなにずっと守る側じゃなきゃダメなのか?」

 

「それが僕の役目だから」

 

 

 迷いのない言葉だった。

 けれど、その迷いのなさが、スバルには少しだけ寂しく聞こえた。

 スバルは困ったように頬を掻く。

 

 

「役目、か。そりゃ、お前は強いんだろうよ。俺なんかじゃ想像もつかないくらい強くて、たぶん、誰よりも人を守れる奴なんだと思う。でも、だからってお前が誰かに守られちゃいけない理由にはなんねーだろ?」

 

「――!」

 

「誰もお前を守らないなら――俺が守るよ。たとえ、お前が誰に守られる必要もなくたってな」

 

「君が、僕を……?」

 

「おう。似合わねーってのはわかってる。多分、お前との力の差を考えたら身の程知らずもいいところだ。でも」

 

 

 そこでスバルは言葉を区切り、にっと笑った。

 

 

「――俺は、こんな俺でも、大切だと思える子たちのことは必ず守るって、そう決めてんだよ」

 

 

 その言葉に、ラインハルトは目を見開いた。

 

 

「僕を、守ってくれるのかい?」

 

「頼りないかもしんねぇけどな。お前に助けが必要なら俺が守る。いや、守らせてくれ。役に立つ保証できねぇし、守れる保証もねぇけど、それでも、逃げることだけはしねぇからさ」

 

 

 ラインハルトは、茫然とスバルを見つめた。

 初めてだった。

 守る側ではなく、守られる側に置かれることが。誰かが自分を守ろうとしてくれることが。

 

 ――いいや、違う。

 

 もっと昔、まだ小さかった頃には、確かに守られていたのだ。

 ラインハルトにとって何より大切で、そして自分が壊してしまったものに。

 その記憶が、少女の姿をした騎士の表情に薄い影を落とす。

 スバルはその翳りを、自分に守られたことをまだ許せずにいるせいだと勘違いして、さらに言葉を重ねた。

 

 

「そんなに自分が許せないってんならさ。一つ、お願いを聞いてくれないか?」

 

「ああ。僕にできることなら、なんでもしよう」

 

「なんでもするって今日日聞かねぇな。じゃなくて……なら、俺のお願いは一つだ」

 

 

 スバルは笑う。

 いつも通り軽薄で、けれど不思議と真っ直ぐな笑みだった。

 

 

「お前の名前を教えてくれ。まだ、お前の口から聞いてなかったからさ」

 

 

 ラインハルトの瞼が、かすかに震えた。

 

 

「僕は……ラインハルト。ラインハルト・ヴァン・アストレア」

 

「俺は放蕩無頼を地で行く男、ナツキ・スバルだ!」

 

 

 どこか得意げに名乗るスバルに、ラインハルトは小さく笑った。

 

 

「これからよろしくな、ラインハルト」

 

「ああ。不束者だけれど、よろしく、スバル」

 

 

 これが、空を映したような瞳と、燃えるような赤髪を持つ少女――ラインハルトと、ナツキ・スバルの出会いだった。

 

 

「おぉ、ほんとに男かって疑うくらい美少女ぶりが板についてんな。危うく惚れそうになるぜ」

 

「それは、喜んでいいのかな?」

 

 

 そんなやり取りに、ほんの少しだけ場の空気が緩む。

 半壊した盗品蔵には、まだ戦いの名残が残っていた。それでも、声が戻り始めたことで、ようやくこの場に終わりの気配が漂い始める。

 

 

「おーい、姉ちゃん!」

 

 

 瓦礫の向こうから、フェルトの声が響く。

 振り向けば、金髪の少女が埃にまみれた姿で駆け寄ってきていた。その手には、赤い宝玉を抱いた竜の徽章が握られている。

 

 

「フェルト……それ」

 

「勘違いすんなよ。ちょっと先に返すだけだかんな! 兄ちゃんにはロム爺の目が覚めたら、ミーティアの鑑定してもらうから、ちゃんと待ってろよ!」

 

「へいへい、わかってるよ。ったく、あんだけのことがあったのに、本当に商魂たくましいったらねぇな」

 

 

 フェルトはスバルにくぎを刺しつつ、ぷいと顔を逸らす。それにスバルがぶつくさ言いながら応じる。

 フェルトのその手はまっすぐにエミリアへと差し出されていた。

 エミリアが徽章を受け取ろうと手を伸ばす。

 その時、フェルトの指先に触れていた赤い宝玉が、淡く光を帯びた。

 

 

「あ? んだこれ」

 

「……え?」

 

「……これは」

 

 

 エミリアの声が揺れる。

 フェルトもまた、自分の手元で起きた異変に眉をひそめていた。

 ラインハルトの声が、静かに空気を変えた。先ほどまで少女の姿で穏やかに微笑んでいた彼女の表情から、柔らかさが消える。そこにあるのは、王都に仕える騎士としての厳粛な眼差しだった。

 

 

「君、名前は? 年はいくつだい?」

 

「な、なんだよ突然……さっきっから聞いてるだろフェルトだよ。年は……15くらいじゃねーか? 孤児だから、細かいとこはわかんねーけど」

 

 

 フェルトの答えに、ラインハルトはわずかに息を呑んだ。

 そして、次の瞬間には片膝をつき、フェルトへ向かって深く頭を垂れていた。

 

 

「フェルト様」

 

「は、はぁ?」

 

「失礼を承知で申し上げます。あなたには、私と共に来ていただきます」

 

「ちょ、待て待て待て! なんだよ急に!」

 

 

 フェルトが慌てて後ずさろうとする。

 だが、彼女の手を掴んだラインハルトがそれをさせない。

 

 

「その徽章は、次代の王候補を示す竜の宝珠。それが反応したということは――あなたにも資格があるということです」

 

「し、資格? なに言ってんだよ、アタシはただの孤児だぞ!」

 

「いいえ。少なくとも、竜珠はそう判断しなかった」

 

 

 ラインハルトは静かに首を横に振る。

 その言葉に、盗品蔵の空気が凍りついた。

 エミリアは驚きに目を見開き、スバルも何が何だかわからない。

 

 

「冗談じゃねーぞ。アタシはそんな面倒事、死んでも関わるもんか!」

 

「申し訳ありません。ですが、これは王国にとって重大な事態です。見過ごすことはできません」

 

 

 逃げ出そうとするフェルトの前に、ラインハルトが静かに立ちはだかる。

 そうして、彼女の前へ手をかざすだけで彼女の意識を奪ってみせた。

 先ほどまでの優しさと慈悲に満ちた姿とは違う、彼らしくないやり方だった。

 だが、事態はすでに、個人の善悪や感情を離れて、ルグニカ王国という国そのものへ移っていたのだ。

 

 

「お、おい、ラインハルト」

 

「すまない、スバル。僕には、やるべきことができた。名残惜しいが、ここでお別れだ」

 

「……わかった。いや、正直、何が何だか詳しくはわかってねぇけど、お前ならフェルトを悪いようにはしねぇだろ。だけど、フェルトを連れてくならそっちの爺さんも一緒にしてくれねぇか? その二人は多分、離しちゃダメだ」

 

 

 思い出すのは漫才のように仲良さげに話していた二人の姿だ。

 先ほどのフェルトの孤児発言を合わせて考えても、二人を離れ離れにするのはあまりしたくなかった。

 

 

「……すまない、僕も少し気が急いていたみたいだ。君の言うとおり、お爺さんの身柄もこちらで預かろう。……じゃあ、スバル、またいずれ」

 

「おう、またな。フェルトたちのこと、頼んだぜ」

 

「ああ」

 

 

 そう言って、ラインハルトは眠るフェルトとロム爺を連れ、半壊した盗品蔵を後にした。

 

 

◆◇◆

 

 

 ラインハルトとフェルトたちが去った盗品蔵は、嘘のように静まり返っていた。

 夜はすっかり更け、半壊した天井から月の光が差し込んでいる。青白い月光に照らされながら、スバルとエミリアはおのずと視線を交わした。

 断じて、不埒な目的ではない。

 ただ、互いがそこにいることを見つめ合い、確かめ合い、言葉にできないものを分かち合うための沈黙だった。

 一歩、距離を詰めたのはエミリアの方だった。

 会話はない。けれど、今はそれでよかった。自然と近づいた二人の影が重なり、月明かりの下で、その唇が触れ合おうとした――そのとき。

 

 

「――エミリア様!」

 

 

 望外の客が、盗品蔵に現れた。

 声は、ちょうどスバルの背後から響いていた。エミリアの正面。そこに立っていたのは、ゴスロリ風のメイド服を可憐にまとった、桃髪の少女だった。

 だが、姿を見ずとも、スバルがその声を聞き間違えるはずがない。

 

 

「ラム……?」

 

「その汚らわしい手を離しなさい、下郎!」

 

「――あぽくりんがんせん!?」

 

 

 可憐な容姿と華奢な肢体に反して、その蹴撃は鋭く、そして容赦がなかった。

 桃髪のメイドが放った一撃は、正確にスバルの首筋を撃ち抜く。

 それは、今日一日を散々に振り回され、心身ともに疲れ切っていたスバルの意識を奪うには、あまりにも十分すぎる一撃だった。




美少女剣聖ラインハルトちゃんでした。前の世界にラインハルトはいなかったので、おニューな恋人(セフレ)候補です。
えっち短くてごめんね。

これにて第一章完結です。
良ければ評価してくんろ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。