ヤバすぎる悪魔の実を食べたのは、現代日本から転生して天竜人になった男。 作:レルクス
俺の剣術と、カーミラの蹴り。
俺の峰打ちはフロアを次々と破壊し、カーミラの蹴りは俺の武装色を超えられない。
千日手。といったところか。
「随分荒々しいダンスね。終わった後、あなたのお金ですべて修復してもらうわ」
「一切俺に攻撃が通用しないくせによく言う」
カーミラも余裕そうだ。
とはいえ、『阿修羅真打』と関係のない戦術を使うと、今の俺にとっては少々めんどくさい。
おそらく何らかの能力だろう。
異常なほどに
「うーん……ん?」
俺の子電伝虫が鳴った。
「……オランピアか。どうした?」
『ムーゲ様。そろそろ船が持ちません。破壊は止めてください』
「あれ、そんなに壊してたっけ?」
『宝物庫に何が起こるかわかりません。アリュール海賊団はいくつか、悪魔の実を保管している可能性があるとのこと。船の底に穴が開いて海に落ちたら、能力者の私も回収できません』
「ああ、そういう話か」
船などいくらでもスクラップにしようとかまわないが、わざわざ悪魔の実を逃す手はない。
「わかったわかった。壊すのはやめとくよ」
通話終了。
「……さて、壊すなって言われたし、俺の体も温まってきたところだ」
峰打ちだったが、柄を持ち換えて、刃を前に向ける。
「あら。私も武装色をかなり防御に回した方がよさそうね」
「そうかな?」
俺は刀を、床にたたきつける。
すさまじい音が鳴り響いたが……そこに傷はついていない。
「今の刀は、こういう武器だ。すごく痛いだろうが、まぁ怪我はしない」
「傷がつかない……そういえば、甲板で、あなたの腕が伸びたそうね。ゴムかしら? それが覚醒すれば、無機物にも影響を与える。『傷を与えない特殊ゴム』の性質を与えたのかしら」
「なるほど、頭は回るらしい……いや回りすぎか?」
俺がこの船でやったことをすべて合わせて考えるなら、その結論になるのも納得だ。
納得だが、たどり着くのが早すぎる。
「フフッ、こう見えて、昔は一国の王女だったのよ? それくらいの英才教育は受けてるわ」
「……」
パイプジョイン王国の英才教育って、セックスじゃねえのか?
まぁ、『性交渉』とは、そこで得られる会話が全てで、聞き逃す、考えが及ばない、という事態は可能な限り防ぐために、博識なのはわかるが……。
「……まぁいい。ちょっと変わったことも混ぜていくか」
というわけで、刀を構えて突撃。
上から刀を振り下ろした。
カーミラは後ろに下がって刃を避けたが……これは飛ぶ斬撃を放つものだ。
後ろに下がっただけでは、飛んだ斬撃が当たるだけ。
「くっ……」
その斬撃を見て驚いたようだが、驚きながらも、体をスピンさせて回避する。
だが、飛ぶ斬撃に対処するということは、その間、俺は自由に動ける。
真横に、刀を薙いだ。
体勢が著しく悪い、その細い腰に、刀身が直撃する。
「づっ……」
武装色で防御しているが、その程度では抑え込めない。
そのまま、後ろに斬り飛ばした。
カーミラの体が、壁に激突して大きくへこんだ。
「チッ……やってくれるわね」
それに対する反応は、怒りだった。
「……痛みはどうした? その様子だと感じてないな」
「さあ、どうかしら。やせ我慢が強いだけかもしれないけど?」
「ほざけ」
さーて、どういうことなのか。
「あ、あの天竜人、カーミラ様に一撃入れたぞ」
「い、今まで、どんな攻撃も避けてたのに……初めて見た」
周囲の男たちだが、相当おどろいているようだ。
「さっきから見せる超反応、精密すぎる蹴り、確かな思考の速さ、痛みを感じない」
……ふむ。
「何か考えているようだけど、こちらからも攻めるわよ?」
カーミラが突っ込んできて、鋭い蹴りを放ってくる。
それを腕で防御した。
可能な限り、予備動作を消しつつ刀を振り上げるが、やはり、普通の攻撃は回避される。
刀身を見て判断しているようだ。
ただそれにしては、反応するのが早すぎる。
「なるほど」
「何がなるほどなのかしら」
「いや、お前の能力のことだ」
「……へぇ、何かわかったのかしら。外してたら盛大に笑ってあげるけど?」
笑みを浮かべるカーミラだが……。
「超人系『ナヴナヴの実』……『神経人間』ってところか」
「!?」
俺の指摘に、その顔が強張った。
「な、ナブ?」
「神経人間? だとして、え、それって何ができるんだ?」
周囲の男たちだが、『神経人間』と言われてもよくわからないようだ。
「反射神経の向上、精密な動きの再現、痛覚遮断。これに加えて思考速度の加速までやってるわけか。そりゃ強い上に、普通の人からすりゃ分かりにくいわけだ」
「……どうしてわかったのかしら?」
神経について軽く調べたことがある現代日本人なら、『全身に張り巡らされている伝達系のシステム』みたいな緩い感じであっても理解しているだろう。
ただ、ここはワンピ世界。
スマホなんてないし、医学の本を開かなければ、神経に関する詳しいことなど書かれていない。
「神経についてそこそこの知識があれば、そりゃわかるもんさ。俺自身、能力の影響で察しが良いからな」
「ゴム人間に察しが良いなんて表現、適してるかしら?」
「知らんな」
とりあえず、能力はわかった。
「……それで、どうするのかしら? 私の能力がどんなものかわかるのなら、私に勝てないのもわかるはずよ」
自信満々なカーミラ。
反射神経が高すぎるし、動きは超精密。痛みは感じないし、思考まで加速……端的に言えば『ゾーン』に入れるだろう。
それに対して、俺は『剣術』でどうにかする必要がある。
正直に言って、『覇王色』が使えるなら、この程度の女、制圧するのは朝飯前だ。
今、カーミラが立っているのは、彼女の実力ではなく、『阿修羅真打』の都合でしかない。
「しゃーない。クソジジイや鷹の目がちょっと……いや、微妙に驚いた剣を見せてやるよ」
あの二人が相手だと、俺程度が剣技で何をしようと、『ちょっと』ですら見栄だろう。
俺は刀を鞘に納めて、態勢を低くする。
「……何のつもりかしら?」
「さあ? ボーっと突っ立ってない方がいい。とだけは言っておく」
刀の鍔を、左の親指で少し押し上げる。
「『
次の瞬間……俺は、斬り終わっていた。
「ガフッ……」
カーミラは超速の斬撃に襲われて、斬り飛ばされる。
視認さえすれば反応できるというのなら、超速の抜刀術で斬ればいい。
……ちなみに、クソジジイも鷹の目も、初見で見切ってたがな!
ただ、15億とはいえ……『一介の海賊』を制圧するなら。これくらいで十分だ。
なんせ……俺は、強い。
五老星が直々に用意した、天竜人の中でも特別な立場である『聖界卿』
その立場の重さに見合った『基礎スペック』がある。
剣士ではないが、剣術だけでも、それ相応の強さがある。
俺は地面に倒れたカーミラの腹に、俺は刀を納めたままの鞘尻を押し当てた。
「なっ、あ……力が……」
「ふぅ、こいつの鞘尻には、高純度の海楼石が仕込んである。こうして押し当てるだけで、能力者は力が出ないのさ」
「……ば、バカな。私が……」
「というわけで、俺の勝ちだな。まぁ、こうなるのは当然だ。俺は聖界卿だぞ」
「ぐっ……だ、だけど、こんな敵だらけの場所で、私の体に鞘を押し当てたまま、勝てるかしら? ここには、5億や6億の賞金首も……」
「ああ……それなんだがな」
さっきから、『阿修羅真打』が大人しい。
「もう、そういうのはどうでもよくなったんだよ」
「いったいどうい――ヒッ!?」
俺は、『覇王色の覇気』を解放する。
「ぐぎっ!?」
「あ、あ、あああっ……」
「ぐ、ご、ヒュー……ヒュー……」
周囲を威圧する力であり、力量差があると気絶させることも可能な力。
もちろん、気絶させることも可能だが……俺の覇王色は、俺の気質が関わるのか、少し異なるのだ。
威圧ではあるが、『上から押しつぶすような』……『極寒の大地に連れて行かれて、誰も助けは来ないと確信させられるような』……そういう、『絶対的な無力を痛感させる力』ともいえる。
「あ、あぁ。ひっ……」
カーミラの顔も真っ青になり、歯がガチガチなっている。
「もう、この刀が満足したんだよ。覇王色の覇気を使えばお前らなんざ秒もいらないんだが、なんか機嫌が悪くてな。さっきから剣術だけで戦ってたんだ」
「あ、あが……はぁ、はぁ」
「つーわけで、全員……そろそろ、堕ちろ!」
さらに覇王色を解放する。
このフロアだけではない。
この船に乗っていた全てのクルーの意識を吹き飛ばし、気絶させる。
一度で、もはや、誰も起き上がる者がいなくなった。
カーミラも、泡を吹いて気絶している。
「……船長の首が15億とはいえ、まぁ、俺の強さを考えればこんなもんか」
とりあえず、オランピアを呼ぼう。
「えーと、子電伝虫……あ、気絶してやがる」
電波塔が要らない画期的な通信手段ではあるが、生物なので、威圧に巻き込まれると気絶してしまう。
「……まぁ、ジルの上に予備がいるはずだ。そっちを使うか。気絶してないと良いなぁ」
「もう来ました」
「ん? 早いな」
オランピアがすぐそばに来ていた。
「船の中で誰の声も聞こえなくなったので、おそらく覇王色で潰したと判断しました」
「まぁ、それはそうなんだがな。とりあえず、『搬入口』に突っ込んで管理しとけ」
「畏まりました」
オランピアは頷くと、持ってきていた海楼石の手錠をカーミラに着けている。
「で、これが、紅巣のカーミラですか」
「だな。どう思う?」
「そうですね……まぁ、まずは徹底した調教が必要です」
「だな。んじゃ、後始末は任せる」
「畏まりました」
つーわけで、とりあえず、クソジジイどもからの指令は終わりだ。
この海賊団が『消息不明の方がいい』と何故判断したのかはともかく、ニライカナイから外に出さないのは確定している。
……まぁ、『恨みを持つ者が多すぎて、インペルダウンへの収監では納得できないやつが多い』とか、そんな感じだとは思うが。俺には関係のない話だ。