※この作品はR-18です。

夢叶って画家になれた転生主は、ともかくブルアカ本編に関わりたくない_IF_R18   作:木暮鬼一

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久しぶりにR18ものを書きました。

ちなみにこちらの話は、『もしも、エスミがナギサと付き合ったら?』をテーマにして書いています。
この世界線のエスミは情報屋になることもありませんし、触覚過敏を患うこともありません。なので、普通に3年生で卒業して物語から無事にフェードアウトできます。

しかし、本編のナギサは少々ヘタレなので、こうなる未来はまず無いです。




桐藤ナギサ 『ファーストネーム』

 

 エスミさんは昔から、相手を〝ファーストネーム〟で呼ぶことは滅多にありません。

 

 そこに例外はなく、どんな時でも常に〝苗字〟呼びです。

 例えば、私であれば『ナギサ』ではなく『桐藤』と。ミカさんであれば『ミカ』ではなく『聖園』といった具合に、ともかく相手を苗字で呼ぶことに固執される方になります。果たしてそれにどんな意味を込めているのか。ただの癖なのでしょうか、それともエスミさんなりに何か深い事情でもあるのか。

 正直、私はそれを今まで一度も気にしたことはありません。

 何故なら例えエスミさんが苗字呼びに固執されているとしても、彼女が私の名前を口にしたという事実は変わりません。故に私は現状の苗字呼びにただただ満足していました。

 ですが私の幼馴染であるミカさんはと言うと、私とは違ってエスミさんがファーストネームで自身の名を呼んでくれない事にかなり強い不満を抱いていました。実際、過去に何度かエスミさんに対してミカさんは、私達のことを苗字では無くファーストネームで呼ぶよう真剣にお願いをしたことがあります。

 しかしながら苗字呼びに固執されているエスミさんが首を縦に振ることは無く、その度にミカさんは『エスミちゃんのいじわる!!』と声を大にして叫んでは私に泣きついてくるのでした。

 今となっては懐かしい記憶として思い出せますが、当時酷くむくれたミカさんの機嫌を直すのはともかく大変でした……。

 

 さて、少しだけ話を戻しましょう。

 

 先ほど私は〝エスミさんは人をファーストネームで呼ぶことは滅多に無い〟とお話したばかりですが、実は私に対してだけ時々エスミさんはファーストネームで呼んでくれる事があるのです。

 恐らくエスミさんなりに苗字呼びとファーストネーム呼びを使い分ける明確な基準があるのでしょう。事実、私のこと『桐藤』ではなく『ナギサ』と彼女が呼ぶ時、表沙汰に出来ない相談事か、または重要な何かを報告するか、決まってこの2つに内容が絞られます。

 なので、彼女から『ナギサ』と普段の苗字呼びではなくファーストネームで呼ばれる度に私は必ず背筋が真っすぐと伸び、かなり緊張した様子でエスミさんの言葉を待つことになります。

 

 そして、それはあの日もそうでした。

 

 その日、トリニティ自治区の天気は晴れ寄りの曇りという微妙な一日を迎えていました。

 とはいえ予報では何回か小雨が降るかどうかという具合で大したニュースは無く、また特にこれといった予定も存在しないなど、私にとっては数ある1日を過ごしている最中でした。そこへ、普段のように非常に澄んだお声で『ナギサ』と私のファーストネームを口にされたエスミさんは、いつもとは違い何やら落ち着かない様子で私の下にやって来ました。

 

 その時の私は、丁度エスミさんから勧められた小説を読んでいる所だったのですが、タイミングが悪いことに少々過激な濡れ場が描かれている場面を読んでいる最中だった為、突然エスミさんに呼ばれた私は半ば興奮状態となっている気持ちを必死に落ち着かせながら彼女の話を聞くはめとなりました。

 また幸か不幸か、それとも間が悪いと言うべきか、私が読んでいた本のジャンルは恋愛小説。それも若い女性同士の関係を描いた濃厚な同性愛物語です。

 ということは、例の濡れ場も当然その女性同士による行為です……こう言ってはあれですが、エスミさんは美術狂いの画家でありながら、その道のモデルを目指してもおかしくは無いほどに非常に綺麗で美しい顔立ちをされています。またそれだけには留まらず、胸は大きく(聞く話ではミカさんと同サイズらしいですが、エスミさんの方が柔らかいようです)腰も細くくびれているため、その美貌とスタイルの良さから〝そういった目〟を周囲から向けられてきた事は決して少なくはありません。

 かくいう同性であるはずの私も、時として熱い視線をエスミさんの身体に向けてしまうことは過去にも何度かありました。ですので、その時の私は先程まで読んでいた濡れ場の場面が常に脳裏にチラつくと共に、欲望を孕んだ自身の目が度々エスミさんの身体に注いでしまうという一種の弊害を生み出していたのです。

 

 もちろん、普段であればエスミさんを相手にそのような下心を抱くことは決してありません。悪いのは……そう、濃厚な濡れ場が描かれていた例の小説です。あれが元凶なのです。

 そもそもエスミさんから勧められた本にあのような過激な濡れ場があること自体、私は初耳だったんです。もし知っていれば人目を避けて夜中に読んでいました。もちろん事前にエスミさんからは『少し内容が大人向けだからね』と多少は説明を受けていました。

 ですが、いくら大人向けとはいえ言葉を濁しすぎです、エスミさん……あのような場面があるのなら、もっとより正確に説明をしてください!!

 

 とまぁ、少々行き場のない葛藤を抱えてしまった私でしたが、それでも『ナギサ』とファーストネームで呼ぶほど何か緊急の用事で来られたエスミさんの為、なんとか彼女の力になりたいという一心で私は無理やり己の邪念を胸の奥底へと封じ込めました。

 そして傍から見れば完璧とも言えるほどの笑みを浮かべ、私は『どうかされましたか?』とエスミさんに声をかけたのです。

 ええ、完璧です。流石は私です。

 トリニティ総合学園の生徒会ことティーパーティーの一員として周囲から鍛えられ、そして政治闘争でもみくちゃにされながらも必死に磨かれた相手に真意を探らせない文句なしの営業スマイル。また、過激な濡れ場の場面などまるで初めから読んでいなかったと言わんばかりに丁寧に本をしまい、同時に膝の上で優雅に手を重ねて堂々と胸を張る私。

 さあエスミさん。どんな用件で来られたのかは今のところ全く存じ上げませんが、私で良ければ全力で貴女の力になりますよ。

 

「ご用件をお聞かせください。どんな内容であれ、エスミさんの頼みとあれば私は絶対に断りませんので」

 

 今思えば、あの発言はあまりにも余計でした。

 逃げ道を自ら完璧に潰した、とでも言いましょうか。どちらにしろ、あの時の私は落ち着き払った表面上の態度とは対照的に正常に頭が回っていなかったのでしょう。

 

「なら……今日こそ、私を抱いて……ナギサ」

「……はい?」

 

 だからこそ、エスミさんの口から放たれた言葉を正しく認識出来ず、笑みを浮かべたまま私はその場で固まってしまったのでした。

 

 

 

≪1-2≫

 

 

 

 栢間エスミと桐藤ナギサは〝恋仲〟の関係である、というのは既に周知の事実としてトリニティ自治区内で広く知れ渡っており、特にトリニティ総合学園に在籍している生徒の大多数がその関係性を知っています。

 

 というのも芸術……強いて言えば、美術にともかく夢中で〝友人〟という関係性すら持とうとしなかったあの栢間エスミがたった1人の特別な相手、つまり〝恋人〟を持つというのは周囲にとってもかなり驚愕な出来事だったのです。

 トリニティ総合学園というのはお嬢様生徒や庶民の生徒が入り乱れている特殊な学園のため、そういった恋沙汰を含めた噂は広まるのが非常に早く、かつその当事者達が【栢間エスミ】と【桐藤ナギサ】となればむしろ学園中に知れ渡るのは当然でした。

 

 ちなみに恋仲になる前提として愛の告白をしたのは実はナギサの方からであり、聞く話によれば中等部の頃からエスミに対しかなり熱いアプローチを仕掛けていたようです。というのもエスミとナギサは1歳差であるため、どうしても年上であるエスミの方が人生においてナギサよりも一歩先を進んでしまいます。

 その事に酷く焦りを感じていたのか、ナギサは色々と手段を選ばずに積極的にエスミとの距離を縮めていきました。真意は定かではありませんが、毎度懲りもせずに彼女の下に押し掛け、愛の言葉を度々囁いていたとも言われています。もちろん幼馴染であるミカがそれに度々協力していたという噂もあるほどで、どちらにせよ栢間エスミという人物にかなりお熱をあげていたのです。

 

 結果、その諦めの悪い努力の甲斐があってか、エスミが一足先にトリニティ総合学園の生徒として入学した時にはもう、既に彼女の心はナギサの想いを半ば受け入れている状態となっており、そこから更に1年が経過してナギサもトリニティ総合学園の新入生になると、そこで晴れて2人は正式に恋仲の関係となったのでした。とはいえ2人が結ばれた事に喜んだミカがつい我慢できずに幾人かの知人にそのことを話してしまったので、学園中に2人が恋仲になったという情報が瞬く間に広まったのは正にこの時期からでした。

 

 そしてあれからまた1年が経ち、エスミは現在3年生。ナギサは2年生となりました。

 

 現在、既にもう恋仲として周囲に認知されているエスミとナギサが2人揃って学園内を出歩くと、周囲は羨望と温かい視線を彼女達に送るようになり、誰かが2人の間に割って入るような事があれば即座に彼女達の下から引き離そうとするなど、もはやトリニティ総合学園の生徒にとってエスミとナギサの今の存在は他人が手を触れることも許されない高嶺の花も同然となっていました。

 今年新たにトリニティ総合学園の新入生となった生徒達も、ある者は彼女達に尊敬の念を抱き、ある者は恋人として堂々とした2人の立ち振る舞いに惚れ、またある者は2人の関係性に尊さを見出すなど三者三葉です。非公式にですが、2人のファンクラブがあるという話もあります。

 

 ですが、周囲はまだ知りませんでした。

 既に恋人としての関係を築き、傍から見れば順調そうに見える2人に、実はとある問題があるということを。

 

 

 

 これは恋仲になったことで満足してしまったナギサに対し、先の関係にもう一歩だけ進みたいエスミが恋人として何とか頑張ろうとする、そんなありふれた青春の1ページに過ぎない物語です。

 

 

 

≪1-3≫

 

 

 

「良い湯だね……そう思わない、桐藤?」

「……そ、そうですね……たぶん。はい……丁度良い湯加減かと」

 

 頑張って現在進行形で浸かっているお風呂に関する感想を何とか口に出してみましたが、正直、本当に脳がそう感じているのかさえ怪しいです。

 何故なら今、私の身体は熱いです。それはもう烈火のごとく燃えているとっても過言ではないでしょう……いえ、別に文字通り身体が燃えている訳ではないので流石に過言でしたね。

 ですがこの身体の熱さがこの浴槽のお湯によるものか、それとも私に身体を預ける形で隣に座っているエスミさんとの距離が物理的に近い事による羞恥心のせいなのか、そうハッキリとは分かりません。

 ですがこう……今の心境を包み隠さずに言うのなら、とても幸せです。赤の他人と入っている訳ではなく、私にとっては見知った方……それも恋人です。警戒よりも安堵感や幸福感が勝っていました。

 ええ、そうです。恋人であるエスミさんと2人きりで、共に浴槽に浸かる。他でもないエスミさんの願いで実現した現状です。

 それこそ最初は『私を抱いて』などと言うので心底驚いてしまった私でしたが、あの後『一緒に風呂に入ろう』と言葉を続けてきたことで、酷く混乱していた私は半ばそれに乗っかる形でその提案を受け入れました。今思い返せば何故共に風呂に入ることを受け入れたのかと思ってしまいますが、エスミさんを〝抱く〟よりはマシな要望だとその時の私は判断したのでしょう。

 それに、いわゆるこれは〝裸の付き合い〟。

 一切下心も無く、ただ私と一緒に語り合いながら風呂に浸かるだけの時間を過ごしたい。恐らくエスミさんはそう思って提案したに違いありません。というより、そうであって欲しいです。でないと私の心臓がもちません。

 

「君と一緒にお風呂に入るのは、これが初めてだね。そもそも一緒にシャワーすら浴びたことが無いけど」

「そうだったでしょうか……いえ、そうですね。普段はこういう事を提案されたことが無かったもので」

「私は……君からの誘いならいつでも受け入れたよ」

「……ご冗談を。いくらなんでも流石に一緒にお風呂に入るのは恥ずかしいですし、特に勇気がいります。幼馴染であるミカさんとさえ一緒に入ったのは、もう数年も前なのですよ?」

「でも、今はこうして私と一緒にお風呂に入っている訳だけど……どうして入ってくれたの?」

「それは……他でもない、エスミさんの願いだからですよ」

「そう……私の願いなら、桐藤は何でも受け入れてくれるんだ」

「それは当然、私達は恋人ですから……エスミさんの願いは、出来るだけ叶えてあげたいですし」

「ふーん……なら、今はゆっくり湯舟に浸かろうかな」

「…………」

 

 チラッ、と視線を横にずらします。

 そこにいるのはエスミさん本人。そして、文字通り素っ裸のエスミさんです。タオルで身体を隠している訳でも無いので、今私の目に映っているのはエスミさんの魅力的でかつ綺麗な身体になります。

 透き通った白い肌。くびれている腰。細い手の指。そして何より首元まで浸かっていながら水面から露出しているほどに浮かぶほど大きい胸。私も何だかんだ胸は大きい方であると自覚はしていますが、エスミさんの胸は私よりも一回りは大きいです。

 まあミカさんと同じサイズらしいので当然かもしれませんが、それでもやはり同性から見てもつい目を奪われてしまいます……なるほど、ミカさんが言うにはエスミさんの胸の方がかなり柔らかいようですが、何だか直接手で触れている訳でも無いにも関わらず、確かに柔らかそうという感想が出てしまいますね……。

 

「……見過ぎだよ、桐藤」

「えっ!? あ、ああいえ、すみませんっ、そんなつもりでは!!」

 

 何て事でしょうか!!

 あれだけじっと見ていれば隣にいるエスミさんが視線に気付かないはずが無いでしょうに、私のバカ!!

 ほら見てください、エスミさんの顔を!! 恥ずかしさのあまり、元々白いはずの頬と耳を真っ赤に染めているではありませんか!! 

 何だかそのお姿が妙に扇情的で少し興奮してしまいますが、いくら恋人とはいえ胸を間近で見られるのは良い気がしないはずです。ここはやはり、頭を下げて謝るべきで――。

 

「私も……桐藤の胸、見てもいい……かな?」

「はい!?」

 

 と思ったらエスミさんの方から衝撃的な発言が来たのですが!?

 えっ、見るんですか? 私の胸をエスミさんが?

 確かにエスミさんに比べたら多少は小さいですが、これでも世間一般的には十分に〝大きい〟部類に入るほうだと私でも自覚はしています……ですが、だからといって貴女に見せるのは流石に恥ずかしいです!!

 

「エ、エスミさん……で、できれば私の胸を見るのはその……諦めて頂けると嬉しいのですが……」

「さっきまで君は私の胸をガン見していたのに……私が見るのは駄目なんだ?」

「うぐっ……それは大変失礼いたしました。決して……決してエスミさんの身体に欲情した訳では無いんです。確かにエスミさんのお胸は綺麗でサイズも大きく、ミカさんが言うように揉んだら柔らかそうですね、という感想も抱いてはいましたが、だからといってエスミさんの胸をそういう目で見ていた訳では無いんです。むしろその姿をこうして間近で見れたことに独占欲が勝って多少嬉しさがあったと言いますか、いやこれを堂々と口に出して説明している時点で今の私何だかおかしいですね!? 湯舟に浸かり過ぎて逆上せたのかもしれません!! 早くあがりましょうか!?」

 

 緊張のせいでしょうか、それとも下心があるのではとエスミさんに直視されていることで身体が沸騰してしまったのか、今となっては何が原因で私自身の耳が真っ赤なのかさえ判断が出来ないほど、頭が正常に回っていません。

 このままでは暴走してしまう、と私は慌ててその場から立ち去ろうと身体を起こした訳ですが……直後、エスミさんが私の手首を掴んできました。

 

「えっ、あの……エスミさん?」

「まだ入っていようよ……大丈夫、本当に逆上せたなら私が介護するし……だから、もう少しだけ私と一緒にいて……?」

「…………」

 

 エスミさんは綺麗な方です。ありふれた言葉を使うのなら、正に絶世の美少女です。そう強く断言します。

 また汗によるものなのか、それとも湯の水か。髪の先からポタポタと水滴を落とし、その白い肌を伝ってゆっくりと滴り落ちていく水滴。加えて熱いのでしょうか、または先ほどの私の発言のせいでしょうか、耳や頬を赤く染めながら、ぎこちない笑みを浮かべて私を見上げるその目。そして何より、普段であればまず目にすることのないエスミさんの綺麗な裸姿。

 それを間近で見ていながら私は、不覚にもこう思ってしまいました。

 

 襲いたい、と。

 

 いつもなら美しいとか、綺麗と言った感想しか抱かないにも関わらず、今私の目の前にいるエスミさんはとても……可愛らしいお姿をされていました。その可愛さが私の理性を完膚なきまでに削り始めてきたのです。いわばギャップを浴びてしまったとでも言うべきでしょうか。

 普段はともかく冷静で落ち着いている大人びたエスミさんには程遠いお姿。何であれ、只でさえ正常ではなかった私の頭がますます暴走していくのが分かりました。

 気付けば私は、エスミさんの言葉に返事を返す代わりに自ら身体を彼女の方に寄せていました。

 そしてエスミさんの身体を下にして、私がその上から覆いかぶさる姿勢になります。首元まで浸かっている彼女とは対照的に、私は上半身が完全に浴槽から出ている状態です。とはいえお湯では無いものの、代わりに周囲の熱気が私の肌を熱で包むようにして刺激してくるので全く涼しくはありません。

 このままだと本当に逆上せてしまいそうです。

 ですが私はエスミさんの肩に手を乗せた状態で、先ほどから視線を彼女の顔から離そうとしません。そしてこう尋ねました。

 

「エスミさん。今日は何だか随分と積極的ですね……まるで私を、その気にさせようとしているみたいです」

 

 エスミさんの視線が微かに揺らぎました。図星、なのでしょう。

 やはり、そうでしたか。

 初めから何だか、おかしいと思ってはいました。普段のエスミさんは決して、ああいった誘い受けをするような言動をする方ではありません。実際、私にかけてきた言葉はどれも言い慣れていない様子でしたし、ご自身の身体の魅力をアピールする事にもむしろ恥じらいを感じているようでした。

 今だってそうです。

 首元まで湯に浸かった状態であまり動こうとはせず、私にこうして見下ろされている間もずっと恥ずかしそうに視線を彷徨わせています。それに先ほどは私の胸を見たいと仰っていたのに、私自ら浴槽から上半身を露出させている今、好きなだけ間近で私の胸を見ることが出来るにも関わらず、結局エスミさんの視線がそこに注がれる事はありませんでした。

 彼女の肩に置いている手に力がこもります。

 

「教えてください、エスミさん……どうして、わざと私を煽るような言動をされていたのですか? それに一緒にお風呂に入る前に話していた『抱いて欲しい』という言葉についても説明を求めます」

「…………」

 

 彼女から返事が来ることはありませんでした。

 しかし、ここまで来ると流石の私も察してしまいます。

 

「……エスミさんは……私と、もう一歩先の関係になることが望みなのですか?」

 

 恋人の更なる先の関係。それが一体何を意味しているのか、私には分かります。

 エスミさんの熱のある視線が私に注がれました。

 

「そうだよ……私は……したい……君と、セックスがしたい」

「っ……エスミさんっ……」

 

 初めて彼女の口から聞いた『セックス』という言葉。

 彼女の一連の動きで既に察していたとはいえ、やはり美術狂いでそういった関係には無関心だったように思えるエスミさんの口からその単語がハッキリと出てくると、何と言うべきか不思議と興奮してしまいます。

 常に大人びた姿を周囲に見せて来たエスミさん。慌てることもなく、恥ずかしがることもなく。普段から堂々としていて学園の後輩達からは強い憧れの的だった彼女が、今では顔を真っ赤にしつつ私と『セックスがしたい』と緊張しながら告白する。

 それは、あまりにも毒でした。猛毒です。人の理性をドロドロに溶かし、獲物に喰われることを望む捕食者の自殺行動に他ならない姿でした。

 

 しかし、私は耐えます。かろうじて耐えました。

 どうしても彼女に尋ねておきたい事があるからです。

 

「その理由をお聞かせください……私とエスミさんは既に恋仲です。恋人と言うのは、何もセックスをしないといけない決まりがある訳ではありません……現に私は、今の関係性で満足しているのです……エスミさんは違うのですか?」

 

 エスミさんが私とセックスがしたいという欲望を聞いたことで私の胸が喜びで高鳴ったのは事実です。

 ですが、私は別にエスミさんとセックスがしたくて彼女と恋人になった訳ではありません。むしろ恋人として私の傍にエスミさんが常に居るというその事実だけで幸せであり、その先の関係を望むことは決してありませんでした。

 何故なら、エスミさんが生き生きとされているのは美術の世界だけ。その世界に私の居所はありません。

 エスミさんの魅力的な身体は、彼女が昔から愛していた美術にのみ捧げられるものであって、私なんかが手を触れて良いものでは無いからです。

 

 私は不安な気持ちで彼女に再度尋ねます。本当に、私なんかがエスミさんの身体を汚して良いのか、と。

 するとエスミさんは肩に置かれている私の手を取ると、静かに自身の頬に添えてうっとりした視線を向けてきました。エスミさんの熱がその頬を通じて、直接私の身体に流れてくるような錯覚に陥ります。

 

「うん……私はね、桐藤……君に初めて『好きです』と告白されて、去年晴れて恋人になった時からずっと……こういう機会が来ることを望んではいたんだよ?」

「……それは、本当ですか」

「本当だよ……君は凄く優しいから、正式に恋人になってからもずっと私のことを考えて、身体に触れることは絶対にしなかった……優しい。本当に優しいね、君は…………でもね、やっぱり……私は愛されてる証拠が欲しい……桐藤ナギサが、栢間エスミを愛しているという確かな証拠を……出来ることなら、直接私の身体に植え付けて欲しい」

 

 エスミさんは私の手を掴んだまま、今度は頬から胸へと移動させました。

 私はその瞬間、彼女が何をするつもりなのかを察して慌てて手を引っ込めようとしましたが、それよりも先に私の手がエスミさんの胸に触れました。直後、ふにゅん、と弾力の良い柔らかな感触が伝わってきます。ええ、そうです。私は今、エスミさんの胸を触っていました。

 

「エ、エスミさんっ……あの、これは……!?」

「桐藤……ううん……ねえ、ナギサ。どうかな。私の身体」

「ど、どうって言われても……いや、流石にこの行動は……!!」

「遠慮しなくても良いから……胸、揉んでも……良いからね?」

「あっ、ちょっと……エスミさん!?」

 

 突然のことでパニックになっている私がまともに動かそうとしないせいか、エスミさんは私の手を無理やり動かして胸を揉ませてきました。指が肌に沈み込み、その大きな胸の存在感をこれでもかと私に直接味わせてきます。

 その間、エスミさんは私から視線を外すことはしません。

 実際に手を出しているのは私のはずなのですが、むしろ攻めているのはエスミさんのような気がします。主導権が完全に向こうが握っていて、私はされるがままエスミさんの胸を堪能してしまっていました。

 

「私の身体って、これでもかなり恵まれている方だと思うんだけど……やっぱり、同性からしたら魅力的じゃないのかな? ナギサは……私の身体に興奮はしないの?」

「なっ……それは、本気で聞いているのですか……エスミさん!?」

 

 こんな魅力的な身体をしておいて、興奮しないはずが無いじゃないですか!!

 私はただ、エスミさんの迷惑にならないようにと常にそういう心を持たないようにしていただけなのです!!

 なのにこの人と来たら、人の心をかき乱すようなことを言って……!!

 そんな私の激情を知ってか知らずか、エスミさんはぐいっとその綺麗な顔を私に近づけてきました。

 

「私は本気だよ、ナギサ……君になら汚されても良い。いや……むしろ汚して。汚して欲しい。これからも、この先もずっとナギサなら好きなだけ私の身体を触っても良いから……だから……恋人として……私だけの恋人として、どうかナギサの持つ愛を全てちょうだい……君だけの、栢間エスミに作り上げてほしい」

「こ、この人は、もうっ!!……そ、そんな人の心を焚き付けるようなことを言って!! ど、どうなっても知りませんからね、エスミさん!! 本当に、本当の本当に……今から貴女のことを、滅茶苦茶にしますよ!! 今まで溜めていた欲望、全て解き放ちますからね!? 本当にそれで良いんですね、エスミさん!?」

「良いよ。お願い……来て……私、ナギサに滅茶苦茶にされたい」

「っ!!」

 

 もう我慢の限界でした。

 あのエスミさんが私を求めている。それも強く激しくして欲しい、と。

 今更止まるなんて出来ません。綺麗な身体を汚さないようにと、今まで必死に我慢してきた私に対して、エスミさんは全て開放しろと言いました

 なら、お望み通りそうしましょう。

 

「エスミさん……顔を近づけてください……これから、キスをします」

「ぁっ……うんっ……うん、分かった!!」

 

 胸から手を離し、彼女の顎に手を添えてキスがしやすいように角度を直します。その間、エスミさんは嬉しそうに目をキラキラと輝かせていました。

 ああ……可愛いですね。貴女のその瞳、美術館で芸術品を見ている時と同じ輝きを放っていますよ。

 せっかくの美人な顔が台無しですね。何だか幼児退化しているようにも見えますが、そう感じた瞬間、エスミさんはすぐに表情を切り替えたので先ほどの言動は無意識だったのでしょう。どうやら彼女について面白い一面を知れた気がします。

 

「……そういえば、お互い初めてのキスになりますね。先に尋ねておきますが、触れるだけが良いですか? それとも……舌を入れますか?」

「ナギサは……どっちが良いかな」

 

 彼女の柔らかい唇を親指でなぞりながら尋ねると、エスミさんは待ちきれないと言わんばかりに首をコテンッと傾けます。

 その姿を見た途端、私は決めました。

 入れましょう、舌を。

 そして頭でそう感じた瞬間、私は合図も無しにエスミさんの唇に触れたのでした。正に不意打ちです。

 

「あっ……ナ、ギ……んぅっ……」

 

 喋らないでください。舌、噛みますよ?

 ただし意外と堂々としている私ですが、これでもキスは初めての経験となるため、現在進行形で行き当たりばったりなのはここだけの秘密です。互いの歯が当たらないのでたぶん初めてにしては上手くいけたと思います。

 まあそれよりも、初めてのキスの感想ですが……エスミさんの唇は柔らかいですね。何だか病みつきになりそうです。舌も入れていますが、向こうも乗り気になっているためお互いの舌が交差し、もはや口内で舐め合っていました。

 

「……んっ……んぅ……」

 

 私の耳が、エスミさんの喘ぐ声を拾います。たぶん私もそれなりに声を出しているのかもしれません。彼女にも聞かれているのでしょうか。そうだとしたら、少し恥ずかしいですね。

 ただお互い初めてのキスを存分に堪能してしまっている為、この行為を止める気配すら見せません。

 そこでふと私は、自身の手を動かしてエスミさんの胸に触れました。今度は私自身の意識で動かしています。前回とは違って今度は両手を使い、エスミさんの両胸を強く揉み始めました。やっぱり、本当に大きいですね彼女の胸は。永遠に揉めてしまいます。ミカさんが柔らかいと言うだけありますね……というより、何でミカさんはこの弾力と柔さを知っているのでしょうか?

 たぶん過去に悪ふざけでエスミさんの胸を揉んだ事があるのかもしれませんが……恋人である私よりも先にミカさんに胸を触らせるなんて、少し妬けてしまいますね。せっかくなのでミカさんでも体験したことが無いような揉み方でもしてみましょうか。

 

「……んっ、あっ……ナギっ、サぁ……胸、なに、その揉みかたぁ……ひゃっ、んっ!!」

 

 最初は手のひら全体で撫でるようにして動かしていたのですが、続けて指先で撫でるように動きを変え、その指先を徐々徐々に胸の先端まで移動させます。そして、既にぷっくらと起立しているその先端を指と指で挟んだ私は、少し力をこめて捻るようにして弄り出しました。その胸の大きさには似合わない小ぶりの突起。それを私は指先で強く弾いては、あえて指で押し込んでみたり、あらぬ方向へ捻ったりなど試行錯誤を繰り返します。

 とはいえ、おや……『こりっこりっ』と感触がするほど突起が次第に固くなっていきますね。エスミさん、落ち着いた見た目の雰囲気とは裏腹に、意外と身体そのものは感じやすいようです。

 こればかりはエスミさんにとって、きっと未知の体験でしょう。味わったことのない刺激のせいで、彼女は自身の足を浴槽の中でばたつかせ、酷い荒波を立てます。

 私はそんなエスミさんの反応を楽しみつつ、未だキスを止めようともしません。おかげで今、キスをしながらエスミさんの胸を弄るという構図が出来上がっており、迫りくる快感に耐えながらエスミさんは私に強く抱き着いていました。私もそれに応えるように自身の羽を広げ、エスミさんの身体を包み込みます。

 

 そして、この体勢になって数分も経たない内にエスミさんの身体が何やら震えだしました。ああ、遂にその予兆が来たようですね。同時にエスミさんが何やら慌てだします。

 

「まって……まっ、て……へん、なんかへんだよナギサ……ちょっと休憩……きゅうけい、しゃせてっ……」

 

 その言葉を伝えようと必死になっている彼女は、慌てて私から顔を離しました。キスと舌で長いこと感じさせてしまった影響からか、エスミさんは呂律がちゃんと回っていません。その間もずっと彼女の胸に対する激しい愛撫は続けているため、エスミさんは私の身体をポカポカと力なく叩きながら『まってぇ、ねえまってよ!!』と涙を流しながら訴えてきました。

 

「……すみません、エスミさん……それは無理な相談です……!!」

 

 ですが残念、滅茶苦茶にして欲しいと願ったのは貴女ですよ?

 むしろ、キスと胸だけでイってしまいそうになるなんて……これが初体験にしては、随分とその道の才能があるみたいですね。これでもまだまだ……貴女の身体を汚す手段は数多く残っているというのに。

 本当、弄りがいが沢山あって困ります。

 

「まずは記念すべき最初の絶頂ですね……さあエスミさん、私の目を見てください……ええ、そうです……ふふっ、可愛らしいお顔ですね。美しい顔立ちをされている普段のエスミさんとは大違いです」

「バ、バカァッ……ナギサのバカァ!! 見るなぁ、見るな見るな見ないでぇ!! こんな汚い顔、見ないでお願いだから!!」

「そう言わないでください。私、今のエスミさんのお顔も好きですよ?」

「嘘つき!! そんなわけ無いでしょ!?」

「ふふっ、本当です。ほら、今からキスをするのでどうか落ち着いてください。キス、お好きですよね?」

「うっ……確かに……す、好き……だけど」

「……本当、可愛らしいお方ですね」

 

 ちゅっ、と今度は触れるだけのキスを彼女の唇に落とします。

 そして片方の胸から手を離した私は、恥ずかしさのあまり自身の手で顔を覆い隠しているエスミさんに気付かれないように……彼女の下半身にその手を忍ばせました。そして浴槽の中で手探りながら彼女の股部分を見つけた私は、そっと2本の指を立てます。

 

「……ひゃっあ!? な、なになに……こんどはなに!? し、した!? ちょっとナギサ、したっ……下に何か入ってる!!」

「落ち着いてください。それは私の指です……今、エスミさんの大事な所に指を2本、入れさせていただきました」

「ゆ、指っ!? それも2本も!? 待って早いっ。はやいよナギサ!! 私、まだちゃんとほぐしてないのに!! こういうのって普通、指を入れるにも段階があるよね⁉」

「ほぐす? 何を仰っているんですかエスミさん……既にエスミさんのあそこは十分に濡れていますよ。それにほら、私の指を根元まで飲み込んでいます」

 

 私はその言葉に続ける形で指先の腹をぎゅっと何かに押し付け、そのまま強くその個所をなぞりました。同時に激しく、より強く刺激を与え続けます。

 直後、私の指をぱっくりと飲み込んでいるそれは突然きつく絞まりだすと、それに合わせる形でエスミさんは瞼を閉じて数秒間だけ、ぷるぷると身体を震わせました。

 

「い、いやっ……いやいやっ!! なにこれっ……く、るっ……くるっ、きちゃうっ!! んっ、んんっー!!」

 

 私の背中に回っているエスミさんの手に力がこもり、そして徐々にその力が弱まっていきました。

 どうやら、エスミさんは無事にイケたようです。いくら風呂場の中とはいえ、叫ぶわけにはいかないと口を閉ざした状態の絶頂でしたが、出来ることなら今度エスミさんが絶頂する声を聞いてみたいものです。

 まあそれはそうと、私は早速エスミさんの体調を気遣う事にしました。

 

「お疲れ様です。如何でしたか、私のテクは? なにぶん初めてだったので結構緊張はしていたのですが……エスミさん的には満足して頂けたでしょうか?」

「これが……はぁ、はぁ……は、初めて?……嘘でしょ……上手すぎるんだけど……んっ……あっ、からだに力が……はいら、ないっ……」

 

 私の身体にしがみつきながら、エスミさんは必死に呼吸を整えようと頑張っています。

 確かに他人の身体に触れて絶頂させるというのは生まれて初めての経験でしたが、それでも相手は恋仲であるエスミさんです。何とか過去に得ていた知識とその場の判断であれこれと試してみた訳ですが、どうやら満足して頂けたようです。エスミさんの性格的に、不評だった場合はかなり厳しい感想を下されるので。

 

「エスミさん……エスミさん……力が抜けている所恐れ入りますが、そろそろお風呂から上がりましょう。このままでは2人揃って逆上せてしまいます」

「えっ?……ああ、そうだね……うん。そうしようか……あっ、でもその前にナギサ。1つだけお願いがあるんだけど……聞いてくれる?」

 

 お願いですか。はてさて、一体なんでしょうか。

 エスミさんの事ですから『力が抜けているから抱きかかえて欲しい』とお願いするつもりでしょうか。まあ確かに先ほどの愛撫によって力が随分と抜けているようですし、一方で体力と気力共に万全の私であればエスミさんを抱きかかえて風呂場から退出することぐらい簡単です。

 私は彼女からの答えを聞く前に、その身体を抱きかかえようと動き出しました。

 

 その時です。突然、エスミさんは自身の首元や胸元に手を当てると、何やらその部位を露骨に強調し始めました。私は当然困惑した表情を浮かべます。

 

「あの……エスミさん? 一体どうされましたか?」

「……痕……」

「はい?」

「だから……痕、付けて……ここに」

 

 恥ずかしそうに顔を背けながらも、エスミさんは大事なことだと言わんばかりに言葉を続けます。

 

「恋人って……首とか胸とかに、痕とかキスマーク?……を、付けるって聞いたから。何か、独占欲だとか愛の証だって聞いてるし……その、出来ればここに……私が、ナギサのモノだっていう証が欲しくて」

「…………」

「えっと……き、キスが駄目なら歯型でも良いよ!! 痕って歯型でも構わないって聞いたことがあるし……あっ、でもナギサって人の肌を噛むのって好きじゃない感じだったりするのかな? 出来れば、吸い上げるぐらいが限度だったり―――――きゃっ!!」

「……いい加減にしてください、エスミさん。貴女って人は、そこまで私に滅茶苦茶にされたいんですか」

 

 何ですか、何ですかこの人は。人がせっかく、体調を気遣って一旦この場をお開きにしようとしたのに。

 そんな……そんな、人の心をまた激しくかき乱すような言動をされて!!

 私はエスミさんの腰に手を伸ばすと、ぐっとお互いの距離を縮めます。エスミさんの豊満な胸が私の胸とぶつかり、ぐにゅんっとその形を大きく歪ませます。そして私の眼前にあるのは未だに驚いている様子のエスミさんの綺麗な顔。本当、何度見ても飽きることのない素敵なお顔ですね。

 私は再び、彼女の唇を奪いました。

 今度は触れるだけの些細なキスではありません。舌を絡める濃厚なキスです。

 そしてそれを一旦済ませた私は、既にとろんとした表情を見せるエスミさんに熱い視線を送ると、彼女の望み通り首元に強く噛み付きました。ガブリッ、と立派な歯型が彼女の白い肌に出来上がります。ええ、見事です。自分で付けておいて言うのもあれですが、独占欲が満たされて幸せになります。

 そこからはもう止まりません。

 エスミさんの反応に気分を良くした私は立て続けに彼女の肌に似た痕を付けていきました。首元。胸。腕。彼女が望む場所ならどこにでも。歯型、キスマーク、文字通り何でも付けました。気付けば私が彼女に付けた痕の数は10を優に超え、最初は美しく綺麗な白い肌しかなかったはずが、今ではもう私こと桐藤ナギサの証が存分に付けられた身体へと生まれ変わっていました。

 私はもう痕を付ける箇所が無いからと、今度はエスミさんの片耳に優しく噛み付きます。

 

「あっ……っ!!」

「エスミさん。誘ったのは貴女ですからね……覚悟してください」

「……うん……お願い……私、ナギサにもっと愛されたい」

 

 エスミさんの腕が私の腰に巻き付き、今度は彼女の方からキスをしてきました。

 私はそれに応えるようにして…………。

 

 

 

 と、そこからの記憶ですが、正直なところよく覚えていません。

 彼女からのキスをきっかけに再び理性が消滅してしまった私は、その後も再び彼女の胸や下を愛撫して泣かせると、お風呂が上がった後もベッドの上で第3戦、第4戦と立て続けに行為を繰り返したとのことです。

 正直、記憶が飛んでしまうほどに私はエスミさんの身体に夢中になったのでしょう。

 

 またこの日の出来事をきっかけに、私とエスミさんの間で1つだけ大きな変化がありました。

 

 それは彼女が私のことを『ナギサ』とファーストネームで呼ぶ時、それは彼女からの夜のお誘いを意味するようになった、という事です。

 

「ナギサ……今日、少しだけ時間を貰えるかな?」

 

 ほら、噂をすれば今日も来ました。

 他の方が見れば一切疑問を持つことの無いやりとり。ですが、今の私達にとっては重大な意味を持つやりとりです。

 私は笑みを浮かべます。そして物欲しげに薄く頬を赤く染めているエスミさんに対し、私は決まってこう言葉をかけるのでした。

 

「ええ、勿論です。本日はどれほどお時間を頂きたいのでしょうか……エスミさん」

 

 

 

≪??????≫

 

 

 

 これは例の日から少しばかり月日が経った頃の話。

 

「それで、無事にナギちゃんとは〝良い感じ〟になれたの?」

 

 頬をぶーぶーと膨らませながら、退屈した様子でそう言葉を漏らす聖園ミカ。

 その様子を傍目に、エスミは微笑しつつ苦味の強いコーヒーを口元に運びます。舌を刺激するこの酷い苦味が、エスミは昔から大好きでした。そんな好物のコーヒーを一口飲んだ彼女は、両手で大事そうにカップを持って小さく頷きます。

 

「うん、君のおかげでね。聖園の言った通り、桐藤にちょっと過激な本を勧めて、その後は頃合いを見てお誘いをしたから残りは全て順調に上手くいったよ。少しやり過ぎたかもしれないけど…………まあでも本当に、今まで私の相談に何度も乗ってくれてありがとう、聖園。凄く感謝してる」

「……ふーん……」

「ふふっ、どうかしたの。そんな不服そうに頬を膨らませて」

「別に~……恋人になったのにナギちゃんが全然手を出してくれないって、エスミちゃんが何度も泣きついてきたから仕方なく協力しただけだもん。あーあー、もうあの弱気なエスミちゃんは見れないんだ、残念」

「うん。別に泣いてはいないよね、私」

 

 やれやれと言った様子で肩をすくめるエスミ。しかし記憶違いを正すことはあっても不快には感じていないようです。むしろ、それを気にする必要もないほどに今の彼女はナギサと無事に結ばれて幸せなのでしょう。先ほどから幸福に満ちた笑みが止まりません。

 一方でミカは彼女に気付かれないよう面白くなさそうに顔をしかめると、顔を背け、呆れながら言葉を返しました。

 

「でも意外。エスミちゃんって、そんなにもナギちゃんの事が好きだったんだね。全然気づかなった」

「そんなにも意外かな? 私、これでも昔から桐藤には愛情表現を示していたとは思うけど……」

「いやいや。それって、ナギちゃんと一緒に過ごしたり、本を読んだり、お茶会に参加したり、ちょっと身体を寄せて休んだりしただけでしょ? 私から見たら普通のことすぎて愛情表現には思えなかったんだけど」

「……本当に? そんなに愛情表現が下手だったの、私?」

「うん、下手だったよ。あの様子だといくらナギちゃんでも気付かないのは当然だよね」

 

 エスミはコーヒーの入ったカップを眺め、面白くなさそうにふちを指でなぞり始めます。

 

「そう……そうだったんだ。それは確かに……彼女も私に手を出してくれないはずだね……」

「…………」

 

 過去の自分の行いを振り返り、深く反省しているようです。ミカはそんな彼女の姿をじっと見つめながら、そのまま背伸びをしてわざとらしく声を出します。

 

「はぁ……でもこれでエスミちゃんはこれから毎日、ナギちゃんと一緒にセックスをする仲になっちゃったんだね。えー寂しいなぁ。幼馴染の私を置いて、ナギちゃんだけ先に大人の階段を登るなんて……ズルい」

「聖園。ここは私の部屋だからいいけど、そうやって気軽にセックスって言わないの。君は仮にもティーパーティーの生徒なんだから……あと別に毎日桐藤としてる訳じゃ無いから。それだと私の身体が持たないし」

「わーお。エスミちゃんの口からセックスで言葉を聞くと、何だか少しドキドキしちゃうかも。ねぇねぇ、もう一回だけセックスって言ってみて?」

「全く……君って子はもう」

 

 呆れたように溜息を吐いて、エスミはその言葉を軽く無視しました。

 ですが彼女の言う通り、こうして室内で2人きりで話をしているから別に構わないものの、これが公衆の場でのやり取りであった場合、すぐに良くない噂が広まるところでした。

 そもそもセックスという単語をそのような公衆の場で口にするな、というだけの話ではあるのですが。

 再びカップに入っているコーヒーを口に含み、そのままエスミはおもむろに片手を差し出すと、そのままミカの額を優しくデコピンをしました。パチンッ、と少し乾いた音が鳴り響きます。

 

「いたーい!! もう、酷いよエスミちゃん!! 乙女の額を叩くなんて!!」

「これぐらいで抗議しない。本当、言葉遣いには気を付けて」

「ぶー……エスミちゃんのいじわる。それが今まで相談に乗ってあげた友達に対する態度なの?」

 

 そう問い詰めようにして言葉を返すと、流石にその件に関しては心底申し訳なさを感じていたのか、エスミの眉がひそまります。

 

「それは……君の言う通り、本当に感謝しているけど……いや、でも言葉だけじゃ足りないね。何かお礼をしないといけないだろうし。でも何が良いのかな?」

 

 その言葉を聞いて、ミカの目つきが途端に変わりました。

 

「じゃあさ……今回だけ、ご褒美が欲しいな☆」

「えっ、ご、ご褒美?」

 

 呆気に取られた様子でそう尋ね返したエスミに、ミカは満面の笑みで顔を近づけます。そしてうっとりした様子でこう言ったのでした。

 

「1回だけで良いの……エスミちゃんを、抱かせて?」

「っ!?……聖園、それって……!!」

 

 驚きでエスミの目が丸く見開きましたが、対するミカは真剣な目を一切動かしません。

 気付けば彼女の手が、未だにカップを持つエスミの手に優しく触れていました。

 

「ナギちゃんだけズルい……私だって、エスミちゃんとは付き合いも長いのに。こんなにも相談されるぐらいには仲が良いのに。なのにさ、2人だけ恋人とかいう特別な関係まで築いちゃって……ズルい。本当にズルい……ねえエスミちゃん、知ってる? 中等部の頃に、エスミちゃんに告白するかどうかでナギちゃんが凄く悩んでた時、その背中を押したのは幼馴染の私なんだよ? 実はあの時のナギちゃん、告白なんかしたらエスミちゃんの人生の迷惑になるかもしれないって凄く怖気づいてたんだよね。それを、私は応援したの。友達としてね☆ 本当、それはもう毎日毎日……ナギちゃんばっかり羨ましいって思いながら、我慢して応援してたんだよ?」

 

 ミカはそのまま身体まで寄せてくると、唖然としてしまっているエスミの身体に自身の羽を差し伸べました。

 

「ここまで言ったらエスミちゃんならもう察してるよね? そうだよ、私もエスミちゃんが好き……大好き。凄く大好き……本当はナギちゃんが告白するよりもっと前から……私はエスミちゃんに告白するつもりだったんだから」

「じゃあ、何でずっと桐藤のために応援を……?」

「そんなの決まってるでしょ。私はナギちゃんの友達……大親友だもん。私の幸せより、ナギちゃんの幸せの方が一番大事なんだから」

 

 しかしそこで一旦口を閉ざしたミカは、嫌そうに顔を歪めます。

 

「でも……やっぱり辛いよね。私だって告白したいのに……私だって、エスミちゃんから特別な感情を受け取りたいのに……ナギちゃんだけエスミちゃんと次第に仲良くなって、私を引き離していく光景を見るのは本当に辛かった……正直に話すとね。このまま辛い思いをするぐらいなら、いっそのことナギちゃんを差し置いて先にエスミちゃんに告白しちゃおうかな、なんて思ったことは何度もあったんだよ?……でも、その時にはもう……エスミちゃんの目には、ナギちゃんしか映ってなかった……」

 

 ミカの羽が、ゆっくりとエスミの身体を包み込みます。

 温かく、そして力強いです。まるでミカが今まで溜め込んでいた想いを、このままエスミに伝えようとしているかのようでした。

 

「あはは……私って、本当にバカだよね……こんな想いをするぐらいなら、初めからナギちゃんの肩なんて持たなければ良かったのに……」

「……聖園……」

「いや……いやっ。聖園なんて苗字で呼ばないで。私は、ミカ……ミカだよ。私のことを心配してくれるなら、せめて今だけは下の名前で呼んでよ、エスミちゃん」

 

 直後、コーヒーの入ったカップをエスミの手から奪い取り、それを荒々しくテーブルに叩き付けた彼女。そして未だ椅子に座っているエスミの肩に自身の手を置くと、ミカの方は立ち上がって鋭い目で彼女を見下ろしました。

 

「私、昔から何度もお願いしてたよね……苗字じゃなくて、下の名前で呼んでって……あれはね、ナギちゃんが恋人になるなら、せめて私にも特別が欲しくて頼んだことなんだよ? なのにさ、エスミちゃんはずっと嫌がってた……それどころか、ナギちゃんにだけは時々下の名前で呼んでるって話じゃん……どうして!? ねえ、なんでなの!? そんなに私が嫌いなの!?」

「ちょっ、落ち着いて、みそっ……ミ、ミカッ……!?」

「落ち着けるわけないじゃん!! 私、ずっと我慢してたんだよ!! いつこの気持ちが爆発してもおかしくなかった!! だからトリニティに入学して、2人が恋人になってからはもう自分の気持ちに蓋をしようって決めたのに……ちゃんと、2人の恋を陰から応援しようって決心したのにさ……それなのに、今度は何!? ナギちゃんから愛されてる自信が無いから、ナギちゃんをその気にさせるのに私に協力して欲しいって、今度はエスミちゃんまでも私のことを頼って来てさ!! 私の方が……エスミちゃんのことをずっと愛していたのに!! そんなの、あんまりだよ!!」

 

 その言葉は怒りのようであり、叫びでもありました。

 ミカはそれだけ、エスミに対する強い想いを抱えていたのでしょう。それを今日という日を迎えるまでエスミ自身が気付かなかったのは、ある意味で大きな罪でした。

 エスミは自身の肩に置かれているミカの手に静かに触れると、何とか彼女を落ち着かせながら言葉を投げます。

 

「ごめん……ごめんね、ミカ……私が悪いね。全て、君にそんな気持ちを抱かせた私が一番最低だ」

「そんな……最低なんて言わないで。エスミちゃんは素敵だよ。綺麗だし、美人だし、誰に対しても優しくて、それでいて頭も良いし……そんなエスミちゃんを心から好きになれたのは、私にとっては大きな自慢だもん……でも……やっぱり、辛い……エスミちゃんの特別はナギちゃんだけ。もう、私にはエスミちゃんの特別を手にする権利は無いよ……」

「…………」

 

 怒りから冷め、今度は酷く落ち込んでしまうミカ。気付けばエスミの身体を包み込んでいる彼女の羽も気持ち沈んでいるような気がします。

 エスミはそんな彼女の頭を優しく撫でながら……かなり悩んだ末に、こう言葉を絞り出すのでした。

 

「ミカは……私を……抱きたいんだよね……なら、1回だけ……1回だけなら、君に抱かれても良いよ」

「……良いの?」

 

 嬉しいのでしょう。ミカの表情に明るさが戻っていきます。しかしながら、既にナギサという恋人がいるエスミとしては、あまりにも苦渋な決断でした。何故ならそれは、ナギサに対する一種の裏切りだからです。

 しかし、ナギサと同じようにミカもまた彼女にとっては大事な存在であることに変わりはありません。

 

「桐藤の恋の応援をしてあげて……今度は私の相談にも乗ってくれた……私達に対して、ミカはもう十分すぎるほど助けてくれたからね……だからこれは、私なりのご褒美……そう、贖罪でもあるのかな」

「ううん、贖罪なんかじゃないよ……ありがとう、エスミちゃん!!」

 

 彼女は満面の笑みでそのままエスミに抱き着こうとしましたが、それをエスミは『待って』と言葉で制止ます。するとミカの顔が再び不服そうに顔を歪めました。

 

「せめて……せめて、これだけは約束して……〝キスは無し〟なのと、それと〝行為は1回だけ〟。私が出す条件はこの2つだけ。これだけはちゃんとミカも守って……そうじゃないと、私は恋人の桐藤に顔向けが出来ないから……」

 

 そう言葉を伝えると共に自身の片腕を強く掴み、暗い顔をしてミカから顔を背けます。

 

「……うん、良いよ……!!」

 

 だからこそ、エスミは気付きませんでした。

 彼女なりにミカに対して厳しい条件を提示したはずにも関わらず、肝心のミカは何やら良い案を思いついたとばかりに笑みを浮かべていることを。

 

「じゃあさ、エスミちゃん……この後、時間良いかな?」

「えっ、もうするの? それも今日?」

「もちろん!! だって早く済ませた方が良いでしょ? それに私、いざエスミちゃんに『抱いて良い』って言われると、もう我慢出来なくなってきちゃった」

 

 ミカはそのままぎゅうっとエスミに強く抱き着きます。

 今までの想いを全て押し付けるような、凄い抱擁でした。

 

「わかった……分かったから。お願いだから今は離れて……流石に苦しい……」

「うん。オッケー」

 

 そして、意外と素直に引き下がりました。その不思議過ぎる態度に一度は顔をしかめたエスミでしたが、もう気にしては負けだとでも思ったのか、場所を移動するために自身も椅子から立ち上がります。

 その瞬間、ミカは何かを思い出したような素振りを見せて声をかけました。

 

「あっ、そうだ。ねえ、エスミちゃん!!」

「はぁ……今度は何?」

「実はエスミちゃんとナギちゃんの為に使えるかもしれない〝薬〟を外部から取り寄せていたんだけど……使っても良いかな?」

「く、薬?……ちょっと、それ本当に安全なやつなの? もしかして媚薬とかじゃ……」

「あははっ、残念だけど全然違うよ。そもそも媚薬なんて便利な薬、エスミちゃんに使いたくないもん。エスミちゃんには私の愛を一杯味わって欲しいし」

 

 ミカは楽しそうに……そしてこの先の未来を待ち望んでいるかのように、深い笑みを浮かべます。

 

「まあヒントを与えるなら……女の子を気持ちよくさせるのに必要な何かが一時的に出来る……そういう便利な薬かな☆」

「……はい?」

 

 全く見当がつかない様子でエスミは嫌そうに顔を歪めますが、ミカはそんな事はお構いなしに彼女の手を握ると、そのまま自分の部屋へと連れて行くのでした。

 

 そして既に冷めきってしまったエスミのコーヒーが、その場に茫然と取り残されます。

 

 

 

 





栢間エスミの裏秘密?

・こう見えて、愛されたい願望や滅茶苦茶にされたい願望がかなり強い。また本番中はよくパニックになり言葉が酷く荒れてしまう(こっちの方が素)。

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