配信しか出来ないと追放された俺、迷惑系エロ配信者になってダンジョンで【通信】スキルで好き勝手する事にしました 作:九凪
「降りてこい、黒い復讐者《ネーロヴェンデッタ》!」
下から女の声が跳ね返ってくる。遠山ミコト。声は掠れていたが、折れてはいない。彼女は自分の配信端末を胸元に固定し、崖壁に身を寄せながら上方を睨む。二人の男の仲間が背を預けるように左右へ構え、崖際に臨戦の気配が張りつめた。
「さあ、正義の味方はどうでるかな」
俺はカメラに目線を寄こし、笑みだけを落とす。
すでに配信は行われている。遠山ミコトまチャンネルはまだ【通信】スキルによってジャックはしていないが、俺たちのチャンネルではとうに生配信が行われていた。
『見事に落ちたなあ』
『アホスwwwwwwwwwwww』
『うーんすっごい騙されてて草』
『これからどうする? 水責め? 毒ガス?』
『次はミコトちゃんが犯されると聞いて』
『全裸待機』
『今日のために食費削ってスパチャ代溜めて来たぞ』
『お前ら……クズだな俺含めて』
「行くか。山田、そしてアメリアは待機な」
「わかりました。油断しないでくださいよ」
「頑張れー」
山田と、今しがたやってきたアメリアが言ってくる。
それを見て、下でミコトが肩を揺らし、刃を構え直した。彼女の眼差しは真っ直ぐだ。落下の衝撃で頬に血が乾いている。その真っ直ぐさが、俺は嫌いだ。
俺は飛び降りて、彼女たちの前に対峙した。
「ようこそ、奈落の底へ。正義の狩人さんたち──」
俺の声が、洞窟に反響する。
「さあ、正義の味方はどうでるか。視聴者の皆さん、お待ちかねのショータイムだ」
ミコトは、怒りを宿した目で俺を睨みつけた。
「ふざけるな! 私たちをこんな場所に落として、何をするつもりだ!」
「何をするつもりだ、だって? ライブ配信だよ。さっきまでお前もやっていただろう? 喜べ、主役はお前たちだ」
この日のために用意した配信ドローンが飛び、ミコトの顔をクローズアップする。彼女は怒りに震えながらも、勇気を振り絞って立ち上がった。
「三対一だけど……卑怯だなんて言わないでよね!」
ミコトが叫ぶや、崖の狭い棚で一気に詰めてくる。背後の男は片手斧と盾、もう一人は短槍と短剣。狭所での三方向同時の打ち込み。
教科書通りの連携だ。
(足元に岩、右三歩先に空隙。下は風。注意しろ!)
俺は【通信】スキルを使う。
ゴブリンや深層の魔物に使った、死ねという意思ではなく、ただ足元に注意しろという通信。
だがそれはただの音声による表層的な通信ではない。深層意識、魂に直接【通信】を叩き込んだ。
三人の足が、瞬時に鈍った。
膝が微かに震え、視線が落ちる。その一拍で十分だ。俺は刃を落としてある剣の峰で横へ払う。鉄と骨の鈍い音。盾の男の肩口に打撃が入り、体勢が崩れる。
槍の穂先が俺の首を目掛けて滑る前に岩に打ち当たり、火花を散らした。
「お前たちの正義は、足元しか見ない」
ミコトが牙を食いしばり、俺の剣に自分の刃を合わせた。腕は強い。覚悟も、ある。だが、覚悟が戦術になることはない。
(左から魔物が来る! 眼前の敵より危険だ注意しろ!)
再度【通信】をする。
ミコトは一瞬、左に気を取られた。当然何もない。
彼女自身、自分がなぜ左に気を取られたのかわかっていないようだ。
俺は踏み込み、鍔迫り合いの圧で彼女の剣腕を押し下げ、柄頭で胸鎖の上を突く。
「かは――っ!」
息が詰まった音。彼女の視界から光が揺らぐ。
『おいおいどうしたミコトwwww』
『弱wwwwwww』
『ヘイヘイヘーイビビってるーぅ』
『いやマジ弱くね』
『こんなへたれだっけ』
『集中しろよバカ女wwwwwwwwww』
『いや黒井様が強いんだろ』
『まあ立ち回りみたら確かに強いけどミコトがヘボい』
俺のチャンネルで視聴者たちが湧く。
対して……
『どうしたミコトちゃん!』
『動きがおかしい』
『いつもの精彩欠いてるなんで』
『集中して!』
ミコトのチャンネルの視聴者たちは心配して騒いでいた。
そうだ。
それが見たかった。だがまだだ。
俺はミコトから距離を取り、剣先を下ろした。同時に、俺の背後から狂暴な、そして邪悪な気配が波のように溢れ出す。
「なっ――!?」
「多対三は卑怯だ――なんて言うなよ?」
暗闇の裂け目という裂け目、岩肌の小穴という小穴から、黄緑の目が一斉に開く。ゴブリンどもだ。百では利かない。ざわざわとした足音、乾いた笑い声、石刃の擦れる音。
「リン、いい子だ」
俺が肩越しに名を呼ぶと、岩陰からゴブリンプリンセス・リンが無表情に現れた。
これは彼女のスキル【眷属召喚】だ。
召喚されたゴブリンたちは彼女の命令を聞く。そう、彼女を通じて、俺の命令も。
「殺すな。骨は折っていい。動けなくしろ」
「ギャヒャアアアアア!」
群れが一斉に飛びかかり、盾の男の足元へ絡みつく。
「くそっ!」
槍使いは踵を払われ、短槍が岩棚に落ちて跳ねた。ミコトは歯を食いしばって剣を振るい、三体、四体とゴブリンを薙ぎ払う。
だが、薙ぎ払った分だけ、新しい腕と脚が絡みつく。
数は力だ。
いくら単体では雑魚モンスターのゴブリンとはいえこの数では、正義の味方といえどたまったものじゃない。
彼らの息は上がり、動きは鈍り、反撃は防御へと変わっていく。そして防御は――崩される。
『うおおおお、ミコト落下配信草』
『逃げろって、無理だろこれ』
『殺すなって言ってるのが一番怖い、何する気』
『むしろ殺してやれよwww』
『スパチャ投げたら何してくれる?』
『すでに投げてるぜ ¥10000』
「落ち着けクズども。お楽しみの時間はたっぷりある」
俺は眼前の光景を見て笑う。
もはや一方的だ。
ゴブリンたちは俺の殺すなという命令を忠実に守り、笑いながら三人を地面に押し付け抑えている。頭を踏みつけて笑っているゴブリンたちは、もう数を30匹まで減らしていた。
「なるほど、流石は正義のヒーロー探索者を名乗るだけの実力はあるか」
「くっ……卑怯者!」
ゴブリンに頭を踏みつけられながら、ミコトが唸る。
『おまいう』
『三対一だけど……卑怯だなんて言わないでよね!(キリッ)』
『ブーメランいただきましたwwwwww』
『うわーなんてひきょうなんだー(棒』
『草wwwww』
視聴者たちの言う通りだ。
俺は崖上に顔を向け、アメリアを呼ぶ。
「アメリア」
「はいはーい」
軽やかな声が響き、アメリアが滑るように降りてきた。彼女は新しいテイムカードをくるくると指で弄び、胸元で止める。そしてカメラに向かって言った。
「紹介するねー。こないだテイムした、新入りのオークレディちゃんたち」
カードが裂け、半透明の紋が空間に走った。次の瞬間、二体の巨大な女性型の影が岩棚に跪く。
厚い筋肉と苔むした革装備。
豚と人間を掛け合わせたような醜い顔。
そして……豊満な胸。
雌オークだった。
『出たwwwwwwwww』
『嬉しくない女性型モンスター』
『こないだの配信見た時目を疑った』
『流石のアメリアちゃんも百合しなかった』
『あれはないwwwwwwww』
この二匹はこの間捕まえたレアモンスターだ。
アメリアの【テイミング】は女性型モンスターにだけ有効という仮定はどうやら正しかったようだ。
まあこれを女性型と呼ぶかどうかは意見がわかれると思うが。
「さーて! オークといえば当然! 女の子にひっどーいことするわけですが!
じゃあメスオークはどうなる? どうする?
答えは……こうでーす!」
アメリアの言葉と共に、オークレディの目が情欲に輝く。
その視線の先は……
「ひ、ひいいっ」
「や、やめろ……」
ミコトの仲間の二人の男性探索者だ。
「やっちゃえ☆」
「ブヒィィィィィッ!」
アメリアの命令で、二体のオークレディはミコトの仲間二人に襲いかかる。
二人を襲えているゴブリンたちを吹き飛ばし、のしかかってく。
彼らは必死に抵抗するが、力の差は歴然だった。あっという間に押さえつけられ、オークレディの太い腕と身体に絡め取られていく。
『おい何見せてくれてんねんwwwwwwwww』
『ミコトちゃんのエロ配信見に来たらメスオークの逆レ始まったんですけどwwwwww』
『グロ配信始まったwwwwww』
「安心しろ。ちゃんとモザイク処理はする」
俺は【通信】スキルで画像に修正を加える。全裸になったオークレディの胸や腰にモザイクを入れた。
ただし、あくまで俺のチャンネルのみだ。
現在、ミコトの配信していたチャンネルには無修正の放送事故が克明に流れ、阿鼻叫喚の地獄絵図になっている。
なお俺の【通信】スキルによるジャックのため、運営が動画を削除することもできない。地獄だな。
そう、地獄は始まったばかりだ。