※この作品はR-18です。

配信しか出来ないと追放された俺、迷惑系エロ配信者になってダンジョンで【通信】スキルで好き勝手する事にしました   作:九凪

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第18話 復讐の甘美

 翌日、笹崎ユニはいつもと同じように、パーティー「水色の鉄」の拠点に集合していた。

 どんよりと重い空気が、彼女の心を支配している。

 しかし、その澱の底には、昨日までとは質の違う、微かな熱が灯っていた。恐怖と、期待と、そして破滅への渇望が入り混じった、危険な熱だ。

 

「おい、ユニ! ぐずぐずするな! さっさと準備しろ、荷物持ちが!」

 

 リーダーである斎藤の怒声が飛ぶ。

 隣では、盾役の剛田が下卑た笑みを浮かべ、魔導士の美咲は侮蔑の視線を向けるだけだ。

 いつもと変わらない日常。それは地獄と同意儀。だが。

 

 

(……今日で、全てが終わる)

 

 ユニは唇を噛みしめ、黙って巨大なバックパックを背負った。その中身は空っぽ同然だ。

 本当の荷物は、彼女のスキル【アイテムボックス】の中に収納されている。今はまだ、その中に。

 

 彼らはいつも通り、新宿ダンジョンの中層を目指して歩を進める。斎藤たちは、今日の探索で得られるであろう利益の話で盛り上がっている。

 ユニがすぐ後ろで、彼らの破滅を願いながら歩いていることなど、知る由もない。

 

 

 ◇

 

「よぉクズども元気か?」

 

 この俺、黒井勇樹は配信を開始し、視聴者たちに声をかける。

 

『キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』

『待ってたぜ! 今日の獲物はどいつらだ?』

『鬼瓦様! 今日も最高のエンタメを期待してます!』

『また胸糞悪いことするんだろうな……でも見ちゃう、ビクンビクン』

 

 配信を開始するやいなや、コメント欄は凄まじい速度で流れていく。

 

「さて、実はだな。こないだ俺達がダンジョン探索をしていた時に、こんなアイテムを手にいれたんだが……」

 

 俺の言葉に、アメリアが自分の胸元に手を入れる。ほぼ無い谷間から取り出されたそれは、一枚のスキルカード。

 そう、【スキルスティール】のスキルカードだった。

 

『え?』

『は?』

『オイオイオイオイそれって』

『嘘だろ? チートアイテムじゃねぇか!』

 

 コメント欄が驚愕の声で埋め尽くされる。

 

『どういう効果なの?』

『あれは他人のスキル奪えるスキルだよ、スキルそのものを持ってる探索者は未確認だけどスキルカードは何枚か確認されてて、オクで億の値がついてる』

 

 過去に誰かがオークションの落札価格を検索したことがあったのだろう。そんなコメントが流れてきた。

 コメント欄は完全に混乱の極みに達している。

 

『マジかよ……』

『えぐすぎワロタ』

『ユニークスキルまで奪えると聞いた、チートすぎ』

『ちょっと待って黒井様、それ俺が買うわ五千万出す』

『いやうちのクランに言えば時間かかるけど二億出せる』

『売りませんよね? 売らないで下さいお願いします』

 

 金額が釣り上がっていく様子は見ていて愉快だが、そもそも売る気は微塵もない。

 

「売ってもいいが、お前らにクズどもにこれを使って俺達より面白い事が出来るのか?」

 

 俺の煽り文句とに、コメント欄はさらに過熱していく。

 

『無理です……』

『黒井様しか使いこなせない代物だよな……』

『ちょっと思いつかない』

『俺なら悪徳商法の連中に使って経済回す』

『金儲けじゃなくて復讐目的なのか……こいつらの思考が読めねぇ……』

 

「さて。ところで話は変わるが、実はこういう動画を手に入れてな。知ってるか? クラン【白銀の峰】に所属する、パーティー「水色の鉄」」

 

 

 俺はカメラのアングルを切り替え、手元のパソコン画面を映した。

 そこには、笹崎ユニがパーティーメンバーに犯されている、いや調教されている無修正動画が。

 当然、モザイクなど一切なし。残酷な真実を、ありのままだ。

 

『え、ちょっと待ってなにこれ』

『嘘だろおい』

『配信してない探索者パーティーだったけど……こんなことしてたのか』

『うわもろ』

『ひっでぇ……』

『最悪すぎる……』

『配信者じゃないから野放しだったのかよ』

『マジ胸糞悪い奴らだな』

『これは許されない』

 

 コメント欄は阿鼻叫喚の嵐だ。吐き気を催す悪行に対する非難と、人間の業を垣間見たことによる戦慄が渦巻いている。

 お前らが言うな、と俺は思うが言わない事にする。

 

「お前らが言うな」

 

 言ってしまった。

 

『それはそうwwwwwwwww』

『とりあえず保存した』

『いいよね本物のレイプ画像……やらせAVでは摂取出来ない栄養素がある』

『今晩のおかず決定しました』

『ハアハアハアハアウッ……ふぅ』

『この泣き顔興奮しかしねえ』

『この動画撮影してるやつも絶対ロクな奴じゃねえぞ』

『黒井様は? この動画どこで手に入れたんですか?』

『お前らマジかよ……ふぅ』

『犯されてる子の事も考えなさい! ……ふぅ』

 

 安定のクズどもである。

 

「許せないよな、許されざるべき悪鬼の所業だよな? ああ、大切にするべき仲間の少女の身体を蹂躙し、調教師、脅迫する。

 許せない。そう、俺たちは愛と正義に目覚めたのだ、この悪党どもに天誅をくらわせてやらねばならない!」

 

 俺は大げさに宣言する。

 

『お前が言うな』

『お前が言うな』

『お前が言うな』

『あっ絶対嘘だ』

『絶対嘘』

『絶対嘘』

『俺たちが言うのも何だけど……』

『でも実際こいつら最悪だわ』

 

 

「さて。そして俺は今偶然にも、あいつらが見える範囲にいる。そして手にはこのカードだ。わかるな?」

 

『わからん……』

『うおおおおおおおお!』

『え? ちょっと待ってこれ俺にも分かるよ。黒井様この動画の主犯全員捕まえて公開処刑するんだ!』

『いや普通にこのカードであいつらのスキル盗むんだろ』

『何を奪うのか』

『スキル奪われたら廃業だろうしな』

『最悪だこいつら』

『今更すぎんだろ』

 

「そういうことだ。最高のタイミンぐで奴らからスキルを奪う。

 今回の主役であり悲劇のヒロインである、あのパーティーの生命線……荷物持ちである笹崎ユニの【大容量アイテムボックス】を、この場で奪い去る。武器も、ポーションも、全てがスキルと共に消失した時、奴らの顔が見ものだろう?

 その後どうなるかは……まあ流れ次第だな」

 

 

 ◇

 

「――ッ!?」

 

 ダンジョンの通路を歩いていたユニの体が、一瞬、硬直した。何か、自分の中から大切なものが、強制的に引きずり出されたような、強烈な喪失感。しかし、それは一瞬のことで、体に異常はない。

 

「どうした、ユニ? 立ち止まるな!」

「……いえ、なんでもありません」

 

 斎藤に怒鳴られ、ユニは再び歩き出す。だが、彼女は内なる確信を得ていた。

 

(始まった……!)

 

 そして、その時はすぐにやってきた。

 通路の先から、一体のオーク・ジェネラルが、屈強なゴブリン・ソルジャーを十数体引き連れて現れたのだ。中層でも、かなり危険度の高いモンスターの群れだ。

 

「ちっ、面倒なのが出やがったな! ユニ! 俺の聖剣『エクスカリバー・レプリジン』を出せ! 剛田は『アダマンタイトの盾』だ! 美咲、ポーションの準備をしておけ!」

 

 斎藤がいつものように命令する。ユニは言われた通り、アイテムボックスに意識を集中し、武器を取り出そうとした。

 しかし。

 

「…………え?」

 

 何も起こらない。いつもなら、頭の中に思い浮かべるだけで、瞬時にアイテムが手元に出現するはずなのに。

 何も――起きない。

 感覚が、つかめない。

 

「ユニ! 何をもたもたしてる! 早くしろ!」

「……む、無理です! アイテムボックスが……開かない……!」

 

 ユニの悲鳴のような声に、斎藤たちが顔をしかめる。

 

「はあ? 何言ってやがる! ふざけてるのか!?」

「本当なんです! スキルが、使えない……!」

「美咲! 鑑定しろ!」

 

 斎藤の怒声を受け、魔導士の美咲が杖をユニにかざす。彼女のスキル【鑑定】は、対象のステータスを詳細に読み取ることができる。そして、美咲の顔が、驚愕と絶望に染まった。

 

「そ、そんな……バカな……!?」

「どうしたんだ!」

「ユニのスキル欄から……【アイテムボックス】が……完全に、消えてる……!」

「な……なんだとぉっ!?」

 

 斎藤の絶叫がダンジョンに響き渡った。

 それは、パーティーの死刑宣告に等しかった。彼らの主力武器、予備の装備、数十本に及ぶ各種ポーション、高価なマジックアイテム……そしてクラン【白銀の峰】の隠し財産と隠し帳簿。

 その全てが、ユニのアイテムボックスの中にあったのだ。

 スキルが消えたということは、それらのアイテムも、スキルという異空間ごと、永遠に失われたことを意味する。

 

「グルォォォォォ!!」

 

 彼らの混乱を待ってはくれず、オーク・ジェネラルが巨大な戦斧を振りかざして突進してくる。

 

「く、くそっ! 予備の武器で戦うぞ!」

 

 剛田が腰に差していたショートソードを抜くが、オークの硬い皮膚には傷一つつけられない。

 斎藤も、自慢の聖剣がなければただの少し腕の立つ剣士だ。腰には格好をつけるためだけのナマクラ剣しか差していない。

 美咲の魔法も、ポーションによる魔力回復がなければすぐにガス欠になる。

 

「ぎゃああああっ!」

 

 最初にやられたのは剛田だった。

 オーク・ジェネラルの戦斧の一撃が、彼の貧弱な盾ごと胴体を両断する。肉塊と化した上半身が宙を舞い、壁に叩きつけられ、真っ赤な血の花を咲かせる。

 

「ひぃっ! た、助け……!」

 

 斎藤は恐怖に顔を引きつらせ、逃げようとした。

 だが、俊敏なゴブリン・ソルジャーたちに回り込まれ、あっという間に囲まれてしまう。錆びた剣で足を刺され、腕を切り裂かれ、地面に倒れ伏す。

 

「や、やめろ……俺は【白銀の峰】の……斎藤だぞ……! 金ならやる! だから……うわああああっ!」

 

 命乞いも虚しく、ゴブリンたちの無数の刃が、彼の体をズタズタに引き裂いていった。

 かつてユニを蹂躙した男の、あまりにも無様で惨めな最期だった。

 

 ユニと美咲は、壁際に追い詰められ、その地獄絵図をただ震えながら見ていることしかできなかった。

 

 

 ◇

『うわ死んだ』

『いやいやいや……え?』

『これはむごいwwww』

『ダン死配信久々に見たわwwww』

『剛田が剛/ /田にwwwww』

『サイトーバラバラじゃんウケるwwwwww』

『予想と違ったけどこれはこれでスカっとする』

『やっぱダンジョンは人が死んでこさナンボやろ』

『表層でヌルくゲームのように攻略はなんか違う』

『攻略すんなら命かけろ、そして死ね』

『メシが美味いですwwwww』

 

 斎藤と剛田の二人がむごたらしく死んだ。

 A級と言えど、その武装を奪われ不意打ちされればこんなにもあっけないものか。

 

「……」

 

 横を見れば、山田がその柔和な顔に凄惨な笑みを浮かべている。

 直接の復讐相手ではないといえ、自分を裏切り切り捨てたクランメンバーの滑稽で哀れな死に、喜びを隠しきれないようだ。

 このまま全滅するのを眺めてもいいが……。

 

「行くか」

 

 俺は立ち上がる。

 取引したのだ、あの笹崎ユニの命は助けねばなるまい。そうでなければ復讐は成り立たない。

 もっとも、彼女の顔を見れば……復讐は達成したとわかる。

 このまま死んでもいい、というような恍惚な微笑みを浮かべているからな。

 ああ、だからこそ――彼女は助けねばならないだろう。

 復讐の甘美を知る者なのだから。

 

 

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