配信しか出来ないと追放された俺、迷惑系エロ配信者になってダンジョンで【通信】スキルで好き勝手する事にしました 作:九凪
翌日、笹崎ユニはいつもと同じように、パーティー「水色の鉄」の拠点に集合していた。
どんよりと重い空気が、彼女の心を支配している。
しかし、その澱の底には、昨日までとは質の違う、微かな熱が灯っていた。恐怖と、期待と、そして破滅への渇望が入り混じった、危険な熱だ。
「おい、ユニ! ぐずぐずするな! さっさと準備しろ、荷物持ちが!」
リーダーである斎藤の怒声が飛ぶ。
隣では、盾役の剛田が下卑た笑みを浮かべ、魔導士の美咲は侮蔑の視線を向けるだけだ。
いつもと変わらない日常。それは地獄と同意儀。だが。
(……今日で、全てが終わる)
ユニは唇を噛みしめ、黙って巨大なバックパックを背負った。その中身は空っぽ同然だ。
本当の荷物は、彼女のスキル【アイテムボックス】の中に収納されている。今はまだ、その中に。
彼らはいつも通り、新宿ダンジョンの中層を目指して歩を進める。斎藤たちは、今日の探索で得られるであろう利益の話で盛り上がっている。
ユニがすぐ後ろで、彼らの破滅を願いながら歩いていることなど、知る由もない。
◇
「よぉクズども元気か?」
この俺、黒井勇樹は配信を開始し、視聴者たちに声をかける。
『キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』
『待ってたぜ! 今日の獲物はどいつらだ?』
『鬼瓦様! 今日も最高のエンタメを期待してます!』
『また胸糞悪いことするんだろうな……でも見ちゃう、ビクンビクン』
配信を開始するやいなや、コメント欄は凄まじい速度で流れていく。
「さて、実はだな。こないだ俺達がダンジョン探索をしていた時に、こんなアイテムを手にいれたんだが……」
俺の言葉に、アメリアが自分の胸元に手を入れる。ほぼ無い谷間から取り出されたそれは、一枚のスキルカード。
そう、【スキルスティール】のスキルカードだった。
『え?』
『は?』
『オイオイオイオイそれって』
『嘘だろ? チートアイテムじゃねぇか!』
コメント欄が驚愕の声で埋め尽くされる。
『どういう効果なの?』
『あれは他人のスキル奪えるスキルだよ、スキルそのものを持ってる探索者は未確認だけどスキルカードは何枚か確認されてて、オクで億の値がついてる』
過去に誰かがオークションの落札価格を検索したことがあったのだろう。そんなコメントが流れてきた。
コメント欄は完全に混乱の極みに達している。
『マジかよ……』
『えぐすぎワロタ』
『ユニークスキルまで奪えると聞いた、チートすぎ』
『ちょっと待って黒井様、それ俺が買うわ五千万出す』
『いやうちのクランに言えば時間かかるけど二億出せる』
『売りませんよね? 売らないで下さいお願いします』
金額が釣り上がっていく様子は見ていて愉快だが、そもそも売る気は微塵もない。
「売ってもいいが、お前らにクズどもにこれを使って俺達より面白い事が出来るのか?」
俺の煽り文句とに、コメント欄はさらに過熱していく。
『無理です……』
『黒井様しか使いこなせない代物だよな……』
『ちょっと思いつかない』
『俺なら悪徳商法の連中に使って経済回す』
『金儲けじゃなくて復讐目的なのか……こいつらの思考が読めねぇ……』
「さて。ところで話は変わるが、実はこういう動画を手に入れてな。知ってるか? クラン【白銀の峰】に所属する、パーティー「水色の鉄」」
俺はカメラのアングルを切り替え、手元のパソコン画面を映した。
そこには、笹崎ユニがパーティーメンバーに犯されている、いや調教されている無修正動画が。
当然、モザイクなど一切なし。残酷な真実を、ありのままだ。
『え、ちょっと待ってなにこれ』
『嘘だろおい』
『配信してない探索者パーティーだったけど……こんなことしてたのか』
『うわもろ』
『ひっでぇ……』
『最悪すぎる……』
『配信者じゃないから野放しだったのかよ』
『マジ胸糞悪い奴らだな』
『これは許されない』
コメント欄は阿鼻叫喚の嵐だ。吐き気を催す悪行に対する非難と、人間の業を垣間見たことによる戦慄が渦巻いている。
お前らが言うな、と俺は思うが言わない事にする。
「お前らが言うな」
言ってしまった。
『それはそうwwwwwwwww』
『とりあえず保存した』
『いいよね本物のレイプ画像……やらせAVでは摂取出来ない栄養素がある』
『今晩のおかず決定しました』
『ハアハアハアハアウッ……ふぅ』
『この泣き顔興奮しかしねえ』
『この動画撮影してるやつも絶対ロクな奴じゃねえぞ』
『黒井様は? この動画どこで手に入れたんですか?』
『お前らマジかよ……ふぅ』
『犯されてる子の事も考えなさい! ……ふぅ』
安定のクズどもである。
「許せないよな、許されざるべき悪鬼の所業だよな? ああ、大切にするべき仲間の少女の身体を蹂躙し、調教師、脅迫する。
許せない。そう、俺たちは愛と正義に目覚めたのだ、この悪党どもに天誅をくらわせてやらねばならない!」
俺は大げさに宣言する。
『お前が言うな』
『お前が言うな』
『お前が言うな』
『あっ絶対嘘だ』
『絶対嘘』
『絶対嘘』
『俺たちが言うのも何だけど……』
『でも実際こいつら最悪だわ』
「さて。そして俺は今偶然にも、あいつらが見える範囲にいる。そして手にはこのカードだ。わかるな?」
『わからん……』
『うおおおおおおおお!』
『え? ちょっと待ってこれ俺にも分かるよ。黒井様この動画の主犯全員捕まえて公開処刑するんだ!』
『いや普通にこのカードであいつらのスキル盗むんだろ』
『何を奪うのか』
『スキル奪われたら廃業だろうしな』
『最悪だこいつら』
『今更すぎんだろ』
「そういうことだ。最高のタイミンぐで奴らからスキルを奪う。
今回の主役であり悲劇のヒロインである、あのパーティーの生命線……荷物持ちである笹崎ユニの【大容量アイテムボックス】を、この場で奪い去る。武器も、ポーションも、全てがスキルと共に消失した時、奴らの顔が見ものだろう?
その後どうなるかは……まあ流れ次第だな」
◇
「――ッ!?」
ダンジョンの通路を歩いていたユニの体が、一瞬、硬直した。何か、自分の中から大切なものが、強制的に引きずり出されたような、強烈な喪失感。しかし、それは一瞬のことで、体に異常はない。
「どうした、ユニ? 立ち止まるな!」
「……いえ、なんでもありません」
斎藤に怒鳴られ、ユニは再び歩き出す。だが、彼女は内なる確信を得ていた。
(始まった……!)
そして、その時はすぐにやってきた。
通路の先から、一体のオーク・ジェネラルが、屈強なゴブリン・ソルジャーを十数体引き連れて現れたのだ。中層でも、かなり危険度の高いモンスターの群れだ。
「ちっ、面倒なのが出やがったな! ユニ! 俺の聖剣『エクスカリバー・レプリジン』を出せ! 剛田は『アダマンタイトの盾』だ! 美咲、ポーションの準備をしておけ!」
斎藤がいつものように命令する。ユニは言われた通り、アイテムボックスに意識を集中し、武器を取り出そうとした。
しかし。
「…………え?」
何も起こらない。いつもなら、頭の中に思い浮かべるだけで、瞬時にアイテムが手元に出現するはずなのに。
何も――起きない。
感覚が、つかめない。
「ユニ! 何をもたもたしてる! 早くしろ!」
「……む、無理です! アイテムボックスが……開かない……!」
ユニの悲鳴のような声に、斎藤たちが顔をしかめる。
「はあ? 何言ってやがる! ふざけてるのか!?」
「本当なんです! スキルが、使えない……!」
「美咲! 鑑定しろ!」
斎藤の怒声を受け、魔導士の美咲が杖をユニにかざす。彼女のスキル【鑑定】は、対象のステータスを詳細に読み取ることができる。そして、美咲の顔が、驚愕と絶望に染まった。
「そ、そんな……バカな……!?」
「どうしたんだ!」
「ユニのスキル欄から……【アイテムボックス】が……完全に、消えてる……!」
「な……なんだとぉっ!?」
斎藤の絶叫がダンジョンに響き渡った。
それは、パーティーの死刑宣告に等しかった。彼らの主力武器、予備の装備、数十本に及ぶ各種ポーション、高価なマジックアイテム……そしてクラン【白銀の峰】の隠し財産と隠し帳簿。
その全てが、ユニのアイテムボックスの中にあったのだ。
スキルが消えたということは、それらのアイテムも、スキルという異空間ごと、永遠に失われたことを意味する。
「グルォォォォォ!!」
彼らの混乱を待ってはくれず、オーク・ジェネラルが巨大な戦斧を振りかざして突進してくる。
「く、くそっ! 予備の武器で戦うぞ!」
剛田が腰に差していたショートソードを抜くが、オークの硬い皮膚には傷一つつけられない。
斎藤も、自慢の聖剣がなければただの少し腕の立つ剣士だ。腰には格好をつけるためだけのナマクラ剣しか差していない。
美咲の魔法も、ポーションによる魔力回復がなければすぐにガス欠になる。
「ぎゃああああっ!」
最初にやられたのは剛田だった。
オーク・ジェネラルの戦斧の一撃が、彼の貧弱な盾ごと胴体を両断する。肉塊と化した上半身が宙を舞い、壁に叩きつけられ、真っ赤な血の花を咲かせる。
「ひぃっ! た、助け……!」
斎藤は恐怖に顔を引きつらせ、逃げようとした。
だが、俊敏なゴブリン・ソルジャーたちに回り込まれ、あっという間に囲まれてしまう。錆びた剣で足を刺され、腕を切り裂かれ、地面に倒れ伏す。
「や、やめろ……俺は【白銀の峰】の……斎藤だぞ……! 金ならやる! だから……うわああああっ!」
命乞いも虚しく、ゴブリンたちの無数の刃が、彼の体をズタズタに引き裂いていった。
かつてユニを蹂躙した男の、あまりにも無様で惨めな最期だった。
ユニと美咲は、壁際に追い詰められ、その地獄絵図をただ震えながら見ていることしかできなかった。
◇
『うわ死んだ』
『いやいやいや……え?』
『これはむごいwwww』
『ダン死配信久々に見たわwwww』
『剛田が剛/ /田にwwwww』
『サイトーバラバラじゃんウケるwwwwww』
『予想と違ったけどこれはこれでスカっとする』
『やっぱダンジョンは人が死んでこさナンボやろ』
『表層でヌルくゲームのように攻略はなんか違う』
『攻略すんなら命かけろ、そして死ね』
『メシが美味いですwwwww』
斎藤と剛田の二人がむごたらしく死んだ。
A級と言えど、その武装を奪われ不意打ちされればこんなにもあっけないものか。
「……」
横を見れば、山田がその柔和な顔に凄惨な笑みを浮かべている。
直接の復讐相手ではないといえ、自分を裏切り切り捨てたクランメンバーの滑稽で哀れな死に、喜びを隠しきれないようだ。
このまま全滅するのを眺めてもいいが……。
「行くか」
俺は立ち上がる。
取引したのだ、あの笹崎ユニの命は助けねばなるまい。そうでなければ復讐は成り立たない。
もっとも、彼女の顔を見れば……復讐は達成したとわかる。
このまま死んでもいい、というような恍惚な微笑みを浮かべているからな。
ああ、だからこそ――彼女は助けねばならないだろう。
復讐の甘美を知る者なのだから。