配信しか出来ないと追放された俺、迷惑系エロ配信者になってダンジョンで【通信】スキルで好き勝手する事にしました 作:九凪
俺の名前は白峰勇也。
大手ダンジョン探索パーティー『ブレイブハーツ』の一員として、これまで数々のダンジョンを踏破してきた。
俺のスキル【通信】は、ダンジョン内のどんな場所からでも外部と連絡を取り、リアルタイムで配信することを可能にする。このスキルのおかげで、俺たちは常に視聴者と繋がり、数多のスパチャと名声を手に入れてきた。
俺は裏方として、パーティーの活動を世に伝える重要な役割を担っていた……
はずだった。
◇
俺たちはダンジョン下層二階に最近開いたという「奈落の大穴」の前にいた。
その穴は、深層へと直通しているらしく、底の見えない暗闇が、見る者の心を凍えさせる。周囲には、これまで見たこともないような不気味なオーラが漂い、危険な気配が充満していた。
「おい、勇也」
リーダーの誠也が、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて俺を呼んだ。誠也はいつもそうだ。パーティーの顔として、常に俺たちを引っ張ってきたカリスマ性のある男だが、時折見せるその笑顔の裏には、冷酷な計算が隠されていることを、俺は薄々感じていた。
「なんだ、誠也。この穴、本当に深層に繋がってるのか? すごく深いが――」
しかし誠也は俺の言葉を遮るように手を上げた。
笑顔で。
「今から勇也がパーティ離脱して! 一人でこの奈落の大穴へと突撃しま~す!」
誠也の声が、ダンジョンに不気味に響き渡る。
その言葉に、俺は一瞬、何を言われたのか理解できなかった。パーティ離脱? 俺が? 冗談だろう。
「な、何を言ってるんだ、誠也? 俺がパーティを離脱するなんて、聞いてないぞ!」
俺は混乱しながら誠也に詰め寄った。しかし、誠也は悪びれる様子もなく、肩をすくめてみせる。
「いやー、いっちょ面白いインパクトのある動画欲しくてさ。お前のスキル【通信】は確かに便利だけど、それだけだろ? このアイテムで代用できるからお前はいらねーわ」
誠也がそう言って取り出したのは、手のひらサイズの奇妙な機械だった。
それは、淡い光を放ち、どこか神秘的な輝きを帯びている。
レアアイテム「無限配信基点装置」。別名「無限Wi-Fi」。どんな場所でも配信が可能になるという、まさに俺のスキルを無力化するような代物だった。
「そんな……まさか、俺を、切り捨てるのか?」
俺の頭の中は真っ白になった。
これまで苦楽を共にしてきた仲間たちが、俺を不要だと切り捨てる。信じられない。
「そーゆーこと。Wi-Fi男。お前、たかだか通信費ゼロになる程度の能力でイキってんじゃねーよ」
そう言い放ったのは、パーティーのムードメーカー的存在だったケンジだ。いつもは俺に友好的な態度を見せていたはずなのに、その目は冷え切っていた。
「そうよ、勇也。正直、あんたのスキルなんて、ただの道具じゃない。私たちはもっと上を目指したいの。あんたじゃ足手まといよ」
パーティーの癒し系担当のリナが、冷たい視線を俺に向けていた。その表情には、これまで俺が見てきた優しさの欠片もなかった。
「……勇也さん、ごめんなさい。でも、誠也さんの言う通りです。私たちは、もう、あなたの力は必要ありません」
もう一人の女性メンバー、ユキが、悲しげな顔をしながらも、誠也の言葉を肯定する。その声は震えていたが、俺を突き放す意思は明確だった。
俺は、これまで彼らのために尽くしてきた。
危険なダンジョンで常に外部との接続を維持し、視聴者のコメントを拾い、パーティーの魅力を最大限に引き出す努力をしてきた。それなのに、俺はただの「道具」だったというのか? 使い捨ての、不要な存在だったというのか?
「嘘だろ……みんな、俺を、見捨てるのか……?」
俺は震える声で、目の前のパーティーメンバーたちに問いかけた。
しかし、彼らの目は、もう俺を見ていなかった。
彼らの視線の先には、ライブ配信のコメント欄が映し出されている。
俺も慌てて自分のスマホの画面を確認した。そこには、俺たちの配信を見ているリスナーたちのコメントが怒涛のように流れていた。
『頑張れwwwwww』
『お前の席ねーから』
『お前のことは忘れないぞ三分くらい』
『Wi-Fi男なんていらないからなあ……』
『地獄から舞い戻ってこいwww』
『もっとやれ!』
『誠也さん最高!』
『勇也ざまぁwww』
『ついにクビか、遅すぎたな』
『あいつは最初から嫌いだった』
『邪魔者が消えて清々するぜ』
『これでブレイブハーツはさらに強くなる!』
『勇也は深層の肥やしになれ!』
『落ちる瞬間まで配信しろよ!』
俺は、画面に流れるコメントの嵐に絶望した。
これまで俺を応援してくれていたはずのリスナーたちが、俺を嘲笑し、突き放している。
俺の存在を否定し、奈落の底に落ちることを望んでいる。
これまで俺が築き上げてきたものは、全て偽物だったのか。
俺の価値は、彼らにとって、この程度のものだったのか。
「おい、勇也。まだスマホなんて見てんのか? もうお前には必要ねーだろ」
誠也が、俺の手からスマホをひったくるように奪い取った。
そして、何の躊躇もなく、そのスマホをダンジョンの床に叩きつけた。パキ、という鈍い音と共に、俺のスマホは無残にも画面が割れ、機能停止した。
「これで完全な能無しだ。さっさと消えろ、勇也」
誠也は俺の胸を思い切り蹴り飛ばした。俺はバランスを崩し、そのまま奈落の大穴へと吸い込まれていく。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉっ!」
俺の悲鳴が、虚しくダンジョンに響き渡る。
しかし、俺を助けようとする者は誰もいない。
パーティーメンバーは冷たい目で俺を見下ろし、リスナーたちは「もっと!」「最高!」と歓喜のコメントを流している。
体が宙を舞い、風を切る音が耳元を通り過ぎていく。底の見えない闇が、俺を飲み込もうとしている。
恐怖、絶望、そして、裏切りへの怒り。様々な感情が渦巻き、俺の心をかき乱した。
どれほどの時間、落ち続けたのだろう。意識が遠のきそうになったその時、ドォンッ! という衝撃が全身を襲った。
「ぐっ……ぁあ……!」
全身を激痛が貫く。
骨が軋み、皮膚が裂けるような感覚。
なんとか体を丸め、衝撃を和らげようとしたが、無駄だった。視界は真っ暗で、どこに落ちたのかも定かではない。
ただ、強烈な痛みだけが、俺の意識を現実へと引き戻していた。
俺は全身を強打し、複数の骨が折れていることがすぐに分かった。
息をするたびに激痛が走り、体の自由もほとんど利かない。だが、奇跡的に、俺は生きていた。奈落の底で、かろうじて息を繋いでいた。
周囲は完全な闇に包まれている。光はほとんど届かず、自分の手すら見えない。
湿った空気と、これまで嗅いだことのないような生臭い匂いが鼻腔を刺激する。ここが、ダンジョンの深層。まさに地獄だった。
遠くから、何かを引きずるような音が聞こえてくる。ガサガサ、ズルズルと、不気味な音は徐々に俺に近づいてくる。
「っ……!」
俺は身動きが取れない体で、必死に気配を探った。暗闇の中に、二つの赤い光が浮かび上がる。
それは、明らかにモンスターの目だった。
「グルルルル……」
低い唸り声が、暗闇の中で響き渡る。小型のモンスターが、俺の負傷した体に気づき、獲物として狙っているのだ。
俺は必死に体を動かそうとするが、激痛でそれもままならない。
「くそっ……こんなところで、死んでたまるか……!」
俺は這うようにして、わずかながら後退した。モンスターはゆっくりと、確実に距離を詰めてくる。
その鋭い爪が、俺の肌を裂くのが目に浮かぶようだった。
その時、背後から、さらに大きな地響きのような音が聞こえてきた。ズシン、ズシンと、地面が揺れる。そして、俺の目の前を通り過ぎようとしていた小型モンスターが、突然、恐怖に怯えたように後ずさり始めた。
暗闇の奥から、巨大な影がゆっくりと姿を現す。
それは、これまで俺がダンジョンで遭遇したどんなモンスターよりも巨大で、禍々しいオーラを放っていた。その巨体は、闇に溶け込むかのように黒く、異様な形をしている。赤い瞳が、俺と小型モンスターを同時に捉えていた。
「嘘だろ……」
俺は、完全に絶望した。
小型モンスターですら対処できない状況で、こんな巨大な、明らかに格上のモンスターが現れるなんて。もう、終わりだ。俺の人生は、ここで、こんな形で、幕を閉じるのか。
誠也、ケンジ、リナ、ユキ、そして、俺を嘲笑したリスナーたち。
彼らの顔が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。
「ふざけるな……なんで俺がこんな目に合わないといけないんだ……!」
俺は、全身の骨が砕けるような激痛と、死への恐怖、そして何よりも、裏切られたことへの、途方もない怒りに震えた。
「許さない……許さないぞ、お前ら……!」
俺は、声にならない叫びを上げた。全身の力が、怒りという形で一点に集中していくような感覚。
「死ね……死ね……死ね死ね死ね死ね死ね死ね――死ねぇぇぇぇぇっ!」
俺の叫びが、暗闇のダンジョンに響き渡った、その時だった。
巨大なモンスターの巨体が、突然、大きく揺らめいた。そして、まるでずるりと地面に崩れ落ちた。
「な……にが……?」
俺は、何が起こったのか理解できなかった。
ついさっきまで、俺を絶望の淵に突き落としていたはずの巨大な魔物が、一瞬にして、まるで何事もなかったかのように、ただの肉塊と化していた。
からん、と何かが落ちる音がした。俺はそれを手に掴む。
だが、その瞬間、俺の意識も限界を迎えていた。全身の痛み、精神的な疲労、そして、怒りの爆発。全てが俺の体を蝕み、抗うことのできない眠気が襲い来る。
俺は、そのまま暗闇の中で意識を手放した。
◇
……どれくらい経っただろうか。
深い闇の中で、俺の意識がゆっくりと浮上していく。全身の痛みはまだ残っているが、先ほどまでの激痛ではない。まるで、体の細胞の一つ一つが、ゆっくりと修復されているような、不思議な感覚だった。
そして、その静寂の中で、俺の耳に、微かな声が聞こえてきた。
「……こっちよ、確かに聞こえたわ」
「私のスマホにも入ってますが、何なのでしょうね、これ」
「さあ。でも助けを求めてる声だったわよ」
「私達と同じ。ですか。雑魚が二人から三人に増えたところで、生き残れるとは思えませんが」
「でも希望は捨てちゃだめよ。鬼が出るか蛇が出るかよ」
「私はどちらもごめんですが」
その声は、少しずつ近づいてきた。