配信しか出来ないと追放された俺、迷惑系エロ配信者になってダンジョンで【通信】スキルで好き勝手する事にしました 作:九凪
「絶っっっっっ対に許せないっ!」
少女が叫ぶ。
彼女の名は遠山ミコト。ダンジョン配信者だ。
探索者クラスはB。しかし最近A級に上がることが目前と言われている、新鋭の探索者である。
彼女は先週から注目度を増していた。
それは彼女の行った功績――本人はそれを功績と認めていないが――のたまものだ。
御岬瀬里奈救出。
迷惑系悪徳クラン『黒い復讐者《ネーロヴェンデッタ》』によって汚され放置された彼女の元にいち早く駆けつけ救出した、勇敢な少女。
彼女は怒っていた。
ミコトは瀬里奈の大ファンだ。瀬里奈の配信を見て自分も探索者、配信者になったといっていい。
そんな憧れの少女が――汚れた欲望によって汚された。
今でも覚えている。
駆けつけた時、目も虚ろに動かなくなった、死んでいるのかと思った彼女の姿を。
抱きかかえた時、ねっとりと付着した、汚らしい液体を。
脳裏にこびりついて忘れられない。
許せない。
絶対に許せない!
「私は、宣言します! あの悪徳クラン、黒い復讐者《ネーロヴェンデッタ》をぶっ倒し、警察に突き出してやると!」
◇
そんな動画が、ネットニュースで流れていた。
「……正義の味方、か」
俺は、冷笑を浮かべた。
その言葉には、言いようのない嫌悪感が滲んでいたと自分でもわかる。
正義を振りかざす奴らが、俺は一番気に入らない。
俺が、そして山田が奈落に突き落とされたのは、まさにその「正義」に酔いしれた奴らの手によってだった。
俺のパーティーの誠也、ケンジ、リナ、ユキ……あいつらは、いつも愛だ正義だ友情だとご高説を垂れておきながら、あっさりと俺を捨てた。
山田の仲間たちもそうだった。【時間停止】など、犯罪者の使うスキルだと言って、彼の弁明を聞きもしなかった。
彼らの正義は、常に自分たちの都合の良いように定義され、その狭い視野で、俺たちを断罪した。
あの時、俺たちを奈落に突き落とした奴らの顔は、まさにこの遠山ミコトと同じ、歪んだ「正義」に満ちていた。
「次のターゲットは、決まったな」
俺は、端末の画面を消し、冷たい声で呟いた。隣にいた山田が、眼鏡のブリッジをくいと上げながら、静かに頷いた。アメリアは、リンの頭を撫でながら、無邪気な笑みを浮かべている。
「えー、また新しいおもちゃが増えるの? 楽しみだね、ゆーくん!」
彼女の声は、まるで新しいゲームを始める子供のようだった。リンは、アメリアの腕の中で寝息を立てている。平和なものだ。
「山田、計画を練るぞ。遠山ミコトを、俺たちの次の舞台に引きずり込む」
「承知いたしました」
山田は、即座に小型端末を取り出し、新宿ダンジョンの地図を呼び出した。彼の思考は、すでに次の獲物をどう狩るかでフル回転しているのだろう。
「彼女は、我々の悪評を利用して、正義のヒーローを演じようとしている。その心理を逆手に取るのが最も効果的でしょう」
山田は、新宿ダンジョンの構造図と、過去の探索者たちの活動記録、そして遠山ミコトに関する情報を瞬時に照合していく。
「彼女は、御岬瀬里奈を救えなかったことへの自責の念、そして我々への強い義憤に駆られている。その感情を煽り、我々が用意した舞台へと誘い込む必要があります」
「具体的には?」
「我々に関する偽の情報を流し、彼女の注意を引く。そして、我々の『偽貌の仮面』の特性を利用し、彼女が最も信頼しそうな人物を装って接触するのです」
山田は、地図上の特定の場所を指差した。
「新宿ダンジョンの下層には、幾つもの穴が点在するエリアがありますね」
「穴って……俺達が落とされたような?」
「いえ、階層をぶち抜くような穴ではなく、深く大きな崖みたいになってますね。
奈落の淵、と呼ばれています」
「奈落の淵、か。いい場所だ」
俺は、口元に笑みを浮かべた。そこは、俺たちがかつて突き落とされた場所を想起させる。正義を振りかざす者が、奈落に落ちる。これ以上の皮肉があるだろうか。
「そこに、我々が捕らえた新たな『被害者』がいるという情報を流す。もちろん、その被害者は、遠山ミコトが助けたくなるような、弱く、純粋な存在であると偽装するのです」
「なるほど。そして、彼女がその情報を信じ、助けに向かった先で……」
「ええ、我々の罠にかかる。彼女は正義感から、救助を優先し、周囲への警戒を怠るでしょう。特に、彼女の仲間たちも、彼女の感情に流されやすいタイプと見受けられます」
山田の分析は、まさに的を射ていた。ミコトのようなタイプは、自分の正義感を満たすためなら、多少の危険は顧みない。そして、その正義感が、彼女を奈落へと誘う。
「少年、か」
俺は、ふと、あるアイデアを思いついた。山田の計画に、さらに一手加える。純粋な子供の姿を借りて、彼女の警戒心を完全に解き放つ。
最も弱い存在が、最も残酷な裏切りを演じる。それは、最高のコンテンツになるだろう。
「最も効果的で、かつ彼女の心理に深く作用するでしょう」
山田は、俺の意図を瞬時に理解し、さらに詳細な計画を練り始めた。ターゲットは、新宿ダンジョン。時間は、彼女が最も活発に活動する時間帯。そして、最も効果的な「餌」の選定。全てが、俺たちの狂宴のために用意される。
◇
数日後、新宿ダンジョンは、いつも通りの喧騒に包まれていた。
探索者たちが、それぞれの目的のために、ダンジョンの奥深くへと足を踏み入れていく。そんな中、一際目立つ三人組がいた。
遠山ミコトと、彼女の二人の男性探索者仲間だ。
ミコトは、小型端末を片手に、ライブ配信を行っていた。チャンネル名は「正義の狩人ミコト、黒い復讐者《ネーロヴェンデッタ》を追う!」
「皆さん、こんにちは! 正義の狩人、遠山ミコトです! 今日も黒い復讐者《ネーロヴェンデッタ》という悪党を捕まえるために、新宿ダンジョンを捜索しています!」
ミコトの声は、ダンジョン内に響き渡る。彼女の表情は真剣そのもので、その瞳には、強い意志が宿っていた。彼女の仲間たちも、彼女の背後を固め、警戒を怠らない。配信のコメント欄には、彼女を応援するコメントが殺到している。
『頑張れミコト!』
『悪党を捕まえて!』
『瀬里奈ちゃんの仇を!』
「黒い復讐者《ネーロヴェンデッタ》に関する情報をお持ちの方はいませんか?
どんな些細な情報でも構いません! 彼らの居場所、特徴、あるいは最近目撃した場所など……何でも教えてください!」
ミコトは、道行く探索者たちに声をかけ、情報を求めていた。
多くの探索者が、彼女の熱意に押され、それぞれの知る情報を伝えようとする。
しかし、そのほとんどは、噂話や不確かな情報ばかりだった。
俺たちは、その様子を遠くから『偽貌の仮面』で姿を変え、観察していた。山田は、ミコトの配信の視聴者数とコメントの傾向を分析し、最適なタイミングを見計らっていた。
「では、お願いします」
山田の言葉と同時に、一人の少年が、ミコトたちの元へと駆け寄ってきた。中学生くらいである。少年は、顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくっていた。その姿は、純粋で、見る者の同情を誘う。
「うっ、ううっ……ミコトさん! ミコトさん!」
少年は、ミコトの足元に縋り付くようにして、声を上げた。
「どうしたのキミ? なぜ泣いているんだ?」
ミコトは、少年のただならぬ様子に、優しく声をかけた。
彼女の表情は、正義感に燃える探索者の顔から、困っている子供を心配する優しい表情へと変わっていた。
「ボクの、ボクの仲間が……黒い復讐者《ネーロヴェンデッタ》に……!」
少年は、嗚咽を漏らしながら、言葉を絞り出した。
その言葉に、ミコトの表情は一変した。黒い復讐者《ネーロヴェンデッタ》。その名を聞いた途端、彼女の瞳には、再び強い怒りの炎が宿った。
「何があったんだ!? 詳しく教えてくれ!」
「ううっ……ボクの仲間が、一緒に探索していた仲間が、黒い復讐者《ネーロヴェンデッタ》に捕まって、連れていかれちゃったんです! 助けてください! お願いします!」
少年は、必死にミコトに助けを求めた。
その姿は、あまりにも痛々しく、ミコトだけでなく、彼女の仲間たちも、そして配信を見ている視聴者たちも、心を揺さぶられた。
『なんてひどい』
『助けないと』
『正義の鉄槌今こそ!』
『大丈夫だ少年、ミコトちゃんが助けてくれるぞ!』
「わかった! 必ず助けてやる! キミ、その仲間が連れていかれた場所を教えてくれるか?」
ミコトは、迷うことなく、少年の申し出を受け入れた。
彼女の正義感が、彼女を突き動かしている。
俺は、遠くからその様子を見て、口元に薄い笑みを浮かべた。計画は、順調に進んでいる。
「はい! こっちです! 早くしないと、みんなが……!」
少年は、ミコトの手を引くようにして、ダンジョンの奥へと走り出した。
ミコトと彼女の仲間たちも、少年の後を追う。そして視聴者たちは、正義の狩人ミコトの活躍に熱狂していた。
『行けミコト!』
『少年を助けてやれ!』
『悪党を懲らしめて!』
少年は、ダンジョンの複雑な通路を、まるで知り尽くしているかのように進んでいく。ミコトたちは、少年の案内を信じ、警戒しつつも、その足取りは速い。
彼らは、正義の炎に燃え、一刻も早く被害者を救い出そうとしていた。
やがて、少年は、薄暗い通路の突き当たりで足を止めた。
そこは、行き止まりのように見えた。
壁は、粗い岩肌で覆われ、奥には何も見えない。
「ここですよ」
少年は、突然、それまでの泣き顔とは打って変わって、冷たい声でそう言った。
その声は、子供とは思えないほど、感情がこもっていなかった。
ミコトは、少年の異変に気づき、警戒心を高める。
「キミ、どういうことだ? ここは行き止まりじゃないか?」
ミコトが問いかけると、少年は、ニヤリと口角を上げた。その顔は、先ほどの純粋な泣き顔とは全く異なり、悪意に満ちた笑みを浮かべていた。
次の瞬間、少年はミコトと彼女の仲間たちを、背後から強く突き飛ばした。
「なっ!?」
ミコトたちは、突然のことに対応できず、バランスを崩した。
彼らが突き飛ばされた先は、壁だと思っていた場所にぽっかりと開いた、巨大な縦穴だった。奈落の底へと続く、真っ暗な崖。
彼らは、悲鳴を上げる間もなく、その穴へと吸い込まれていった。
少年は、ミコトたちが奈落の底へと落ちていくのを確認すると、満足げにその場に立ち尽くした。そして、その影から、俺が姿を現した。俺は、少年の前に歩み寄り、懐から小銭を取り出すと、少年の手に握らせた。
「ご苦労だったな。約束の報酬だ」
「ありがとうございます、黒井さん! うひょー!」
少年は、満面の笑みを浮かべ、俺に頭を下げた。
彼の顔には、もはや悲しみの影は微塵もなかった。ただ、金を手に入れたことへの純粋な喜びだけが、そこに広がっていた。少年は、俺に一礼すると、足早にその場を去っていった。
……まあ、ネタバレすると仮面で縋手を変えたアメリアなのだがな。
俺は、少年が去っていくのを見届けた後、奈落の底へと続く穴を覗き込んだ。
深さは……10メートル。普通の人間なら落ちて死ぬが、ダンジョンに入る事でレベルやスキル、ステータスで強化された探索者達なら死ぬことはないだろう。
穴の底で、ミコトたちは痛みに顔をゆがめながら立ち上がり、俺達を見上げる。
その顔は正義の怒りに満ちていた。
そう、その顔だよ。
その顔を、恐怖と苦痛と絶望に染めてやる。