神様が送る世界を間違えたらしい 作:ナヌチュカ
長らくお待たせしてしまい誠に申し訳ありませんでした。
次回の目処も立っていませんが何とか少しずつ書いていこうとは思います。
カマリャールの大通りを高速で駆け抜ける。
その影が通り過ぎる度、鮮血が飛び散り兵士達は銃火に晒され倒れ首や手足が空を舞った。
最早人間どころか普通の生物の目には捉えられない速度で走る彼女は青白い雷光を身に纏い、時折一筋の雷光へとその身を移しさえした。
それが彼女、イルガの使う魔術。
「纏雷」と自ら呼ぶその術式は雷を操り、自分自身を稲妻に転じる事でほんの一瞬雷速の脚を手にすることが出来る。
彼女はDNLFに於ける近大魔導戦術の魁となった
なのでただ速く走り回り、相手に雷を打ち付けるだけでなく様々な応用法を身に付けている。
「なんだよこのクソ展開!!」
「なめてんじゃねえぞこらあッッ!!!」
前衛にいた兵士が30秒と経たずに壊滅し、後衛の部隊も数的優位な立ち位置にあるにも関わらず後ずさりし始める。
その時、交差点の角から1台のピックアップトラックが飛び出した。
QCFのテクニカルに搭載されたブローニングM2重機関銃の弾幕を難無く掻い潜り、左手に持っていた小包のようなものを投げつける。
それが相手に頭上まで飛んだ所で、イルガの手の平から雷撃が放たれた。
一筋の雷光に貫かれた小包、梱包爆薬は炸裂し絶え間ない炎を周囲に撒き散らした。
ただの爆薬ではなく爆裂術式と火炎術式を封入した手製の手投げ弾である。
テクニカルに乗っていた二人の兵士は叫ぶ間も無く灰となり、その周りにいた数人の兵士が火達磨となった。
「ウアアア炎ダーッ助ケテクレーッ」
「後退だ!後退しろ!!」
前線で広がりゆく血飛沫と業火を遮蔽物の影から見守っていた他の兵士達が漸く動き出した。
「敵が後退していくぞ!!」
「今の内だ!押し上げろ!!」
「中佐に手柄を全部取られちまうぞ!!」
《砲手!!前方1時、敵APC!!撃てッ!!》
《発射!!》
待っていましたと言わんばかりに曲がり角から飛び出したBMP-1が72mm2A28低圧滑腔砲を発射し、対面していた敵のM113に
《命中!!目標同じ、再攻撃!!撃てッ!!》
《発射!!》
2発の風穴を穿たれ、後部の兵員昇降ハッチから火達磨になった歩兵達が悲鳴をあげながらヨロヨロと出てくる。
「逃がすなブチ殺せッッ!!!」
BMP-1の同軸機銃と周辺に展開していた歩兵分隊の一斉射撃で背中を見せたQCF兵達は無惨にも蜂の巣となり倒れ伏す。
《All Reaper elements, this is Actual.
《Two-One copies. Ammo’s low, 11 KIA, 14 WIA. Moving on your order》
QCFの壊滅っぷりを見た米軍も後退を余儀無くされ、戦線は局所的ではあるが押し返す事に成功した。
《タクシー1-1より各隊、敵はデーヌ・ラサンカ広場後方10km先まで後退中》
《先走るなよ、真っ先に砲撃で耕されるぞ》
T-55戦車に乗っていた鼠獣人の戦車長、ジジーは車長席ハッチから頭を出し双眼鏡を覗く。
どうやら米軍の
まあ出てこられてもこの旧式のオンボロじゃ相手のしょうが無いのだが。
《リザ、残弾はあと幾つある?》
双眼鏡で周囲を監視しながら足で隣に座っていた砲手である魔人族の女の頭ー正確に言えば戦車帽から突き出た角ーを小突いた。
リザと呼ばれた女はあからさまに不機嫌な顔をしながら弾薬庫に目を移す。
《サボットが7、HEATが4。同軸機銃はあと400発ってとこっスかね》
双眼鏡から目を離したジジーは頭を搔く。
ここ数日の市街地戦で主砲を何十発と撃ちまくったせいで新たに補給した分も既に撃ち尽くしそうになっている。
《一旦引いた方がいいんじゃないスか?どうせ増援来るまでウチら動けませんし》
《今敵の戦車が動き出したら誰が歩兵を守るんだ。例えこんな頼りない装甲でも無いよりマシだ》
《これからカマリャール中央区へ侵攻するってのにその前にやられちゃ本末転倒っスね。 忌憚のない意見って奴っス》
首を横に振りながらリザが片手で弄んでいるのは嘗ては米兵の物だったのであろうM9銃剣。
それの刃に鼻を近づけ、染み付いた血の匂いを嗅ぎながら溜息をつく。
「……フフッ」
彼との友愛の証であり、彼の秘密を知る者としての証でもあるその銃剣を大事そうに鞘に仕舞う。
増援部隊はもうすぐそこまで来ていた。
――――――――――
一方で俺は後方の野戦病院のベッドに横たわっていた。
乱立された集合住宅の一部を間借りして作られたその病室は存外に快適で、窓から吹き込むそよ風が心地よい。
おまけに自分以外の兵士は既に治療を終えて前線に復帰しているので実質貸切状態だ。
この世界に於ける治癒術式の万能さもそうだが、亜人種……特に獣人と半獣人の生命力には常々驚かされる。
人間である俺は傷が完全に癒えるまでの間久しぶりにゆっくりできそうだ。
まあ、シーツの中の下半身辺りでモゾモゾと動く彼女を意識しなければだが。
「んっ♡じゅっ、ジュルルルルるっ♡れぇ……♡」
中にいるのはカラムだった。
目が覚めた頃には彼女は既に潜り込んで俺の竿を咥えており、いつもの光景ながら苦笑いするしかない。
シーツ一枚に隔てられた向こう側でただ快楽という情報だけを脳に送り続けられていた俺の脳裏に浮かぶ限界の二文字。
腰を浮かせ無意識に彼女の頭を掴むと、限界を察したカラムが腰に腕を回し竿を一気に喉奥まで飲み込んだ。
「んもっ♡ぐぽっ♡じゅるるじゅぽっじゅぽっ♡」
亀頭は喉奥で扱き上げられ、カリ首から根元にかけてカラムの舌が這い回る。
ぐぽっじゅぽっ♡と下品な音を立てながら精を搾り取ろうとする彼女の動きに俺は遂に絶頂の一歩手前まで迫った。
「……ッ!?」
しかし、その時突然病室の扉が勢いよく開け放たれた。
カラムは咄嗟にフェラを中断し俺も咄嗟に扉の方を見て、凍り付いた。
「カラム兵長、そこで何をしている」
そこにいたのは、最早敵のだか自分のだか分からない鮮血に塗れた姿のイルガ中佐だった。
慌ててベッドから飛び出したカラムを睨み付ける。
「あ、えーと……お見舞い……そう!お見舞いです!!」
「お前達半獣人の中では、ほぼ治りかけとはいえ重傷者を強姦するのと見舞いは同義なのか?初耳だな」
「うぐっ」
「下手な言い訳はせめて口の周りを拭ってからにしろ。……私へのあてつけかと思ったぞ」
慌てて口の周りに付いていた陰毛だの我慢汁と唾液が混じった白濁液だのをその場にあったウェットティッシュで拭き取ったカラムは、少々不機嫌なイルガ中佐によって病室から追い出された。
二人きりになって、最初に口を開いたのはイルガ中佐だった。
「増援部隊が明日には到着するそうだ。それまではここで体を休めておけ」
「それは良かった。俺も久しぶりの綺麗なベッドを堪能させて頂きますよ」
笑みを浮かべながらそう言ってみせる俺の言葉を虚勢と見抜いたイルガ中佐は体に刻まれた無数の傷を包帯越しに撫でる。
「……今日で何回目だ」
その表情はやけに深刻で、質問の意味を理解している俺も少し躊躇いつつも答えた。
「……257ってとこですね」
「そうか……」
俺が答えた数字を耳にした彼女は表情を更に険しくさせる。
例え、どれだけ無茶をしていたとしても俺が戦術的に重要な存在である事はイルガ中佐も理解しているのだろう。
これ以上何を言ってやればいいのか分からず、半ば無理矢理だが話題を逸らす事にした。
「この戦争、いつまで続くんですかねぇ」
「ああ……その件なんだが喜べ、もうすぐ終わるかもしれんぞ」
「えっそうなんですか」
イルガ中佐は俺のベッドの脇に腰掛け、話し始めた。
「この間の会議で共有された情報だが、どうやら
「……と言いますと?」
「ここに派遣されているアメリカ軍第117特設派遣師団……奴らが政府の意向を無視し独断で作戦を実行している可能性が高いということだ」
懐から手帳を取り出し、中に挟まっていた写真を見せて来た。
完全武装の米兵達が何やら集団の前に立ち塞がり追い返そうとしているようだった。
「諜報班によると米軍上層部や国連の査察を適当に理由を付けて追い返している。まあここでアメリカ人共がやっている事を知れば
「なるほど……でもそれがなんで終戦に?」
首を傾げると彼女は顔をこちらに近付け、声を小さくして言った。
「……これはアーティヤル少将から他言無用で知らされた話だが、総軍司令官と我が師団のアーティヤル師団長含めた参謀将校達が内通者を通じてアメリカ政府と直接交渉をしているそうだ」
「マジですか」
「上手く行けば、アメリカ政府の介入を促した上で仲介を得て停戦合意にも持って行けるかもしれん」
確かにDNLFとQCFは互いの結成前から数えれば千年近い対立の歴史を持つ勢力だ。
その長きに渡る戦争は民と兵に無視できぬ疲労を与え、それに加えて外界からアメリカを通じて渡って来た地球の文化や思想に倫理観が互いの感情に決して小さくない影響を与えていた。
実際、ここ数年で俺が見た限りでもQCFの士気は歴史の勉強で見た時代と比べるまでもなく落ちぶれている。
ほんの百年前までは互いの捕虜の首を刎ねてその数を競い、占領地の住民は陵辱した後に腹を割き生きながらに焼き殺すのが常識とされていたのだから大した進歩だ。
一番この影響を強く感じたのは俺が入隊してからまだ2年と少ししか経っていなかった頃に経験した『ズラン・ブーク要塞攻囲戦』だろう。
界暦1739年、中ソからの手厚い支援を受け押せ押せムードのDNLFは大陸南部の要衝であるズラン・ブーク要塞の攻略に挑んだ。
起伏の激しい山岳地帯を逆手に取った要塞線は何重にも敷かれ、息を荒らげ一山超えた兵士達を出迎えるのは、吐き気を催す数のトーチカ。
前衛のトーチカは12.7mm重機関銃や20mmの対空機関砲に105mm軽榴弾砲が機銃弾、砲弾を雨霰と浴びせかけ後衛からは120mm連装迫撃砲が文字通り死を振りまいた。
ただ、このズラン・ブーク要塞攻囲戦は
この戦闘は歴史上初めての魔導戦略兵器、
俺が元いた世界とは違いこの世界には
詳しい事は余りよく知らないが一説では人類が誕生する遥か昔、地上を支配していた上位種たる竜達の無数の死骸や血が積み重なって地層の一部となり、それが無尽蔵とも言える魔力を生み出しているという。
そして、それを用いたこの世界独自の測量法が存在する。
魔力導波測位法、俗に
波長は数cm単位の僅かなズレで大きく異なる為、それに基づいたアーティヤル法の測定精度は中世の文明レベルにしては異質な程極めて高かった。
DJASはそのアーティヤル法と高位術式である転送術式を組み合わせた高精度の砲撃システムであり、その仕組みを説明すれば……
①迫撃砲や榴弾砲、ロケットなどで魔力導波観測機器を敵陣地上空に打ち上げる。
②観測機器のセンサーが発射と同時に起動し、軌道上の魔力導波を測定し続けリアルタイムで友軍砲兵隊に送信する。
③受信した観測データを基に目標の座標を特定、座標データを転送装置に入力し転送術式のポータル発生位置を調整。
④発生したポータル入口に発砲し、目標の直上に発生した出口から砲弾が放たれる。
……と言ったシステムだ。
現代の地球の誘導兵器に比べれば精度は幾分か劣るだろうが、魔術の何よりもの強みは人工衛星やレーダーなどといった大掛かりな設備を必要とせず、ECMによる妨害も受け付けず、魔力以外の電力や燃料などのエネルギーを必要としない為ライフラインの寸断に強い所だといえる。
まあとにかく、そんな物を使われたズラン・ブーク要塞はトーチカをDNLFに2S4 240mm自走迫撃砲で正確に各個撃破されていった。
要塞の最後方に位置する守備隊司令本部が包囲され陥落寸前まで行った時、本部内では内ゲバが起きていた。
徹底抗戦派と投降派に分かれて激しく言い争っていたが、本部には敵に対抗出来るような装備や兵員などいるはずが無かった。
同時刻、DNLF側の本部でも一人残らず殲滅するべきという声が多く上がる中第13自動車化狙撃兵師団を率いていたアーティヤル少将は皆殺しと叫ぶ将校達を諌め、こう言い放った。
『では妾が彼らの頭と話をつけてこよう』
『正気ですかアーティヤル少将!!人間共と交渉など……』
反発するエルフの青年将校と目を合わせ一息つく。
彼はここ数年QCFとの戦いを経験している若き精鋭である事は間違いないが、それでも足りぬ物はあった。
『聞こう、君はその人間共と実際に面と向かって話した事があるかね?』
『同胞を散々焼き殺して晒し首にした奴らと対話ができると本気でお考えですか……!?』
『そうです!折角我が軍が包囲に成功したのですからこのまま敵本部ごと砲撃で生き埋めにしてやるべきです!!』
『言っておくが遺体に対する辱めや捕虜の拷問、処刑は我々にも突き刺さるぞ。それに、これ以上無駄弾と命を浪費しようとも思わん』
そう言いながら彼女は本部の天幕を出て周りにいた兵士数人を護衛に連れながら勝手に交渉へ出て行った。
結果としてこれは英断だったと言える。
彼女が交渉を申し出た所で投降派だった現地指揮官のカフニル中佐が応じる事を決断したのだ。
そしてその翌日、守備隊本部は武装解除し中にいた120名余が無事に確保された。
これは虐殺の応酬を繰り返していた嘗ての戦史から見れば大きな転換点である。
この出来事が各地の戦線にも影響を齎し、両軍共に虐殺や無謀な特攻を大きく減らす切っ掛けとなった。
結局、どいつもこいつも疲れ果てた自分に『
その嘘を否定する事さえ出来れば手は取り合えるのだと。
ただ、それでも戦いは続く。
大事なのは思想ではなく戦略目標。
我らの悲願、「旧ラーイーンス帝国領土の奪還」を。
亜人種統一国家の再興を目指して。