「好きです…!付き合ってくださいっ!」
夕焼けに染まる教室。整えられた机たち。そんな場所で一人の男子高校生が一人の女子生徒に告白していた。男子の方はイケメンでもないが、とても誠実そうで、真っ直ぐな少年だ。対して女子生徒は豊満な体をしていて、大玉スイカがあるのかと思わせるぐらいの巨乳で綺麗な髪を短く切り揃えている。手足もスラリと伸び、スポーツをしているのか、いい足もしている。
「はい…!私も…あなたが好きです…!」
女子生徒は綺麗な顔立ちを少し歪ませて涙を零す。そんな彼女の泣き顔はとても綺麗で、男子生徒は自然と女子生徒に向かって駆け出し、抱きしめた。
そんな男子生徒と女子生徒の告白シーンを液晶で見る。体験版とはいえここまで遊ばせてくれるなんて、凄いゲームだなと俺は思った。
ーーー
『幸せの色』というR18ゲームの体験版を初めてプレイした。元々は家庭用ゲームばかりを触っていた俺だが、高校生にもなりそういう恋愛に対しても浮ついた気持ちが芽生えてくる年頃だ。そう言うわけでパソコンを持っていない俺はスマホ移植版の『幸せの色』をプレイ。最初のある程度のところまでと思いきや、告白までやらせてくれるなんて思いもしなかった。
とはいえ、体験版はそこまで。製品版をプレイしたいと思いつつ、せっかくなら社会人になってからプレイしてみたいものだ。いつも通り学校に行き、ぼっち飯を堪能した後は特に部活に勤しむわけでも、勉学に励むわけでもなく、バイトをするわけでもなく。ただ家に帰って課題を終わらせて、風呂に入ってえっちな絵を見てシコって寝る。本当に何もない。そんな怠惰な日々を送っている。
『幸せの色』のようなキラキラした青春…と言えるのかは正直分からないが、ああ言うものにやはり人は憧れるものである。自分にはないもの、自分が体験したことのないもの。人はやはり欲望まみれである。
体験版だからなのかえっちシーンなどはなかったのだが、ヒロインの立ち絵を見てシコリたくなったので、スマホのロックを解除して、ゲームを起動し、ヒロインの姿を見ながらシコる。
「バックでやってブルンブルン揺れる乳見ながら犯したい…」
そんな薄暗い気持ちが湧いてしまう。こんな綺麗な子がえっちの際にどんな声を出すのか。そんないやらしい妄想ばかりが膨らむ中、射精。
実家暮らしということもあり、声を出さずに射精するのも得意になったものだ。綺麗にしてから手を洗い、就寝した。
ーーー
朝。やけに瞼に光を感じて目を開ける。
「え…?」
なんだろう。いつも見慣れていた天井ではない。それに今出した声も…なんだか…。
ゆっくりと上体を起こすと、眼前に広がる部屋の景色が全く違う。俺の最小限のものだけで、殺風景な部屋じゃない。可愛らしい家具に囲まれて、鏡もあるし、姿見もある。それに色合いだって………。
ベッドも明らかに違うが、ベッドから足を出して、ベッドから降りる。そんな簡単な動作すら明らかに自分の体ではない事に気がついた。着ている服もそうだが、何より胸がある。とんでもない巨乳だ。しかも腕も足も細いし、腕や足の毛がない。昔流行った入れ替わり…と言うやつなのかと確認するためにもすぐ姿見の前に立つ。
「嘘……でしょ……」
俺としては嘘だろ?と言ったつもりが勝手に変換されている。この声、この容姿。知っている。誰なのか。でもこれって……。
「私…
『幸せの色』のメインヒロインであり、たくさんのルートがある女。そんな彼女に俺はなっていた。
「お姉ちゃーん?起きてるー?」
ガチャっと音を立てて部屋の扉を開けて顔をひょっこり出すのは天内奏の妹であり、プレイヤーの間ではママと呼ばれている少女
「う、うん!どうしたの?緑」
どうしたんだ?と言ったつもりだが、やはり自動的に奏が言いそうなセリフに変換されるようだ。俺としては助かるような助からないような……。
「お姉ちゃんさ、彼氏出来たんだって〜?」
小悪魔的な笑みを浮かべ桃色の髪を揺らす緑。緑という名前なのに髪色が桃色なのは何故。対して奏の髪色は
「な、なんで知ってるの!?」
緑は姉である奏と違い、たくさんの交友関係がある。姉である奏は奥手で、交友関係も少ないが、緑は積極的で包容力に溢れているとの声を聞いたことがある。そのためママなどと呼ばれているのだが。ちなみに緑は13歳である。
「聞いたよー!雪ちゃんから!」
「ゆ、雪…もうバラしちゃったのね…」
どうやら告白のことまで話し合えるほど奏と雪は仲がいいようだ。『幸せの色』は主人公視点で物語が進むため、分からない点も多い。後でスマホのロック解除して連絡とか何してるのか見てやるぜ…。とは言っても記憶自体を覗けるから別にではあるのだが。
「うん。雪ちゃんがね『やっと付き合い始めたよ、あの二人』って愚痴ってた」
「うぅ…その節は大変お世話になりました…」
奏の記憶を見ながら、そう答える。実際何度も主人公との関係について雪に相談していたようで、途中からうざがられてるな…。雪のうんざりとした表情を見れば誰でも大変そうだと推し量れてしまうぐらいには。
「ね、連れてきてよ!お姉ちゃんの彼氏さん見たいなー!」
可愛らしいポーズをとっている緑。本当に可愛い。こんな妹がいたらきっと鼻が高いだろうな…。というか13歳でそのデカさ。知ってはいたが、こう見ると…それにスタイル良すぎるな…。
「また今度ね」
ゲームのルートだけの話をするなら、奏は純愛、寝取られ、友達エンド後なんだっけ…色んなルートがあるんだよな…。確か。俺は純愛派なので他のルートはやるつもりがないからちゃんと調べてないんだよな…。調べすぎるとネタバレを踏む可能性もあるし…。というか彼氏であり、主人公のあいつに妹と会わせてもいいのか…?浮気…いや、そんな選択肢…いや!でも…うーん…。会わせないでおくか…。念の為に…妹を信用してないとかじゃなくて、単に主人公が妹と浮気とかいう最悪なアレがないとも限らないし…。
「えー!お姉ちゃんのけちー!」
可愛い。なんだろう。この可愛いの権化は。うん、会わせないでおこう。俺みたいに転生?系してる奴がいたら嫌だしな…。特に主人公。つまり俺の彼氏である奴の中身が俺みたいにこの『幸せの色』のことを知ってるやつだと…何か悪さされそう…な気がする。うん…取り敢えず彼氏であるゲームでは主人公の彼に会わないと。緑とかいう可愛いの塊である妹を置いて俺は登校の準備をする。
奏の体だし、大切ににしないと。恐らく時系列的なあれなら純愛ルート…のはず。くっ…寝取られルートとか友達エンドの方も体験版で触れておくべきだったか…?どちらにせよ今は進むしかないし…。純愛ルートから他のルートに逸れないようにしないと…。というか奏の意識みたいなのはあるのだろうか?今は中身俺が100%だが…。どちらにせよ製品版をプレイしてないから全容が分からん…。
スマホのロックを解除し、彼氏であるやつに連絡を取る。どうやらもう家の前で待っているらしい。なんとまぁ…青春なのだろうか。ただ俺としては彼女が家に迎えにきてくれるのがよかったのだが…まぁ仕方あるまい。
というか年齢=彼女いない歴の俺に色恋は難しい。今更ながら緊張してきたぞ…。やべ…どんな顔して主人公に会えばいいんだ?
制服を着て、学生鞄を持って玄関に移動し意を決して、家を出る。
「おはよう、奏」
「う、うん。おはよう
イケメン…とは言うほどでもなく、だけどブサイクなわけでもなく普通。でもなんかカッコよく見えるのは何故だ…。身長も恐らく170あるかないか。手足が長いわけでもないのに。何故?アイテムとか?そもそもアイテムの概念があるのか…?ゲームでは確か好感度を上げやすくするものとか下げやすくするものがあったはずだが…。
「奏?どうしたの?」
碧。デフォルトの名前と言うことは確か名字は田中とかだったはずだ。にしても主人公は別にとくにこれと言って強調するようなものがない。まじで普通の男子である。中身は…プレイヤーとかじゃないよな?探りをいれたいけど、変に探って疑われるのもよくないだろうし…。
「なんでもないよ。ごめんね、行こう?」
「うん。行こうか」
そう言って碧は俺の手を自然に掴んで握ってくる。何してくれてんの!?いや!恋人なんだし!?普通だけど!?中身俺なんだわ!!今時ってこんなスピード早いわけ!?記憶によれば恋人になってから数日だけど!?
「奏、嫌だった?」
「へっ!?な、なんで?」
そう言って碧は当たり前のように指を絡ませて、顔を覗いてくる。こ、こんなシーンあるのか!?くそっ!俺が製品版をプレイしていればこんなことで動揺なんかしねぇのに!!
「凄く顔に出てるよ。奏」
「嘘!?顔に出てた!?」
奏は確かに顔に出やすい子だけど、中身が俺なせいで…!くそっ!俺が主人公側がいいのに!ドギマギさせんなよ!こっちは奏の体に入ってる?せいで凄く意識してしまう。あまり顔を近づけないで欲しい。心臓が爆発しそうだし、体が熱くなる。
「奏、本当に可愛い」
そう言って当たり前のように壁に押しやって所謂壁ドン状態にしてくる。な、なんだこいつ…!?製品版だとこんなこともしてるのか!?
「え、あ…」
だめだ…頭が真っ白になりそう…顔が近づいて…。
「ちょっと。朝から盛るのはやめてくれない?」
凛とした声。この声は…。間違いない!数々のプレイヤーの心を奪い、攻略できないことを嘆く人を見て、先にクリアしていた人たちが
「
兵藤雪。奏の友人であり、人気投票においてメインヒロインである奏と同率一位の女。人気投票で一位になったし、攻略できるように!とファン達は言っていたが、公式はその要望を叶えることはなく、ファン達は二次創作で雪を攻略するゲームなどを作ろうとしたが、あまりにも雪についての情報が公式のプロフィールや、インタビューなどでもなく、そもそも作ることすら難航し、未だに誰も雪を二次創作でも攻略されていないことから、二次創作でも攻略できない女として名を馳せていたはずだ。
「奏もその盛りついた猿みたいな男から放れたら?」
とても冷静で綺麗な声。切れ長の瞳は俺を捉え、じっと見つめてくる。本当に美人だな…雪。まじで。こんな子がクラスにいたらもう男子達の性癖は決まったようなものだろ…。スタイルも当たり前のようにいいし、所謂美乳ってやつだったはず。大きすぎず、小さすぎず。黄金比?だのなんだのネットじゃ話題だったはずだ。足細いし長い。髪も腰あたりまで伸ばしてるし、本当に美人すぎる。本当に同じ高校一年生か?
「奏?呆けてないで早く放れたら?」
「え、うん…」
雪の声で我に返る。ゆっくり碧から放れ、雪の隣に移動。じっと雪の顔を見つめる。本当に美人だ。何度も言いたくなるほど。俺が男としてここにいたらもう恋に落ちてたろうな。というか間違いなく雪が初恋の人いっぱいいるだろうな。
「そんなに見てどうしたの?私にキスでもしてくれるの?」
「え、あ、その…雪はやっぱり綺麗で本当に美人で…」
そう言うと雪はじっとまた俺を見つめて頬を撫でてきた。表情は変わらず、真顔のまま。そんな顔すら美しい雪。あぁ……本当に綺麗な人。
「急に口説いてくるなんて猿に怖いことでもされたの?」
「ええっ!?さ、猿って…」
「そこの猿よ。朝から奏に手を出そうとしてたそこの猿」
そう言って雪は碧を指差しし、碧は頬をぽりぽりと指で掻いていてる。雪は自然に俺の肩に手を置いて引き寄せる。奏の身長は152cmなのに対して
雪の身長は167cm。雪に後ろから抱きしめられるような形になる。
「田中。奏の恋人であるあんたにキツく言いたくないけど、時と場所ぐらい考えてよ。あんたはどうでもいいけど、奏は私の大切な友人なの。奏に何かあったらあんたのこと許さないから」
声に少し怒気を孕ませて言い放つ雪はとてもカッコよくて、本当に友人思いの優しい子なんだと思う。声では強く言うけど、俺を抱きしめた時から変わらず優しく抱擁してくれている。
「奏があまりにも可愛すぎてさ。悪い悪い」
「うちの学校そこそこ色恋に厳しいんだから。ちゃんとそこらへん考えて」
両手を前で合わせて、頭を軽く下げる碧。それに対して雪の表情は変わらず……ちょっと待って?色恋に厳しい…?
「ね、ねぇ…雪?うちの学校って色恋…厳しいの?」
俺の言葉に雪は抱擁を解き、俺の両肩を掴んで真っ直ぐ目を見てから口を開く。
「えぇ、厳しい。校内でキスしてたら停学とかあるはずよ」