※この作品はR-18です。

IF・好きとかとちゃうし!   作:白米おじさん

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 前提:もしもふたりが女の子同士だったらのIF物語。

 洛風(女):ささやかスレンダーはんなり狐目美女。艶のある長い黒髪。細煙管が良く似合う。基本性格は(男)とほぼ同じ。より余裕があるフリをするのが得意。
 書き分けのため洛風(男):神戸弁→洛風(女):京ことばになります。






借家:好きとかとちゃうよ。

 なんだか暖かく……そしてふわふわと柔らかいものに包まれているような気がして、宵宮の瞼がぱちりと開いた。

 寝起き特有の穏やかな眠気。深く息を吸う度に身体の力が抜け、心地よさで微睡む。二度寝なんて贅沢な朝や、と、瞼を閉じて──「ふぎゅっ、」と情けない悲鳴を上げた。鼻をむぎゅっと抓まれたらしい。

 いったい誰が! と、思考が目覚め、同時に昨晩のことを思い出した。

 

「──ッ洛風!?」

「ふふ、おるよぉ」

 

 バッと飛び起き、ぱちぱちと瞬いて焦点を合わす。霞んだ視界はすぐに澄み、あきれ顔の洛風が映った。眠たげな狐目は記憶の中よりも柔らかい。

 その目に宿るものが〝愛しさ〟だなんて宵宮には気付けない。だけどなんとなくドキドキと胸が高鳴って、頬が熱くなった。

 

 宵宮は熱くなった頬を手のひらで扇ぎ冷ましながら、チラッと視線を落とす。

 のっそりと身を起こした洛風の肩から長い黒髪が流れる。緩んだ衿元から白い柔肌が見えた。欠伸をする薄い唇。

 ずっと会いたかったひと。

 ああ、帰って来たのだ。嬉しくて幸せでたまらない。胸に咲き誇る大輪の花火のような明るい気持ちにつられ、宵宮は両腕を広げて目の前の女の胸へと飛び込んだ。

 

「──ひゃっ、…こら。ウチを潰す気なん?」

「えへへ、」

「かわゆく笑ろてもあきまへんえ」

「……うち、可愛え?」、

「そらもうとびきり。……──ッて、ああもう、もぉあかんってぇ…」

 

 肩を押し返されても離れるつもりはない。ぎゅうっと強く抱き着くと、細身である洛風の身体はすぐに傾げた。ふたりで揃って布団の上にすっ転ぶ。

 床に押し倒した洛風の、長い黒髪が敷き布に広がっている。婀娜(あだ)な光景。くらッとするほど色っぽい──と思うわけもなく。鈍感を極めた宵宮は、好いた女が今目の前へ居る喜びにばかり耽る。頬を胸元に摺り寄せて、煙草の匂いを肺いっぱいに吸った。

 

 どうやら鎖骨に当たる吐息が擽ったいらしい。洛風は「ンン、」と、喉奥でくすくすと笑い、しかしやはり宵宮を抱きしめてくれることは無く。肩が押され、距離が開く。

 宵宮はしぶしぶ離れ……彼女のすぐ目の前で正座を崩して座った。

 

「……くっついたらあかんの?」

「あきまへん」

「むぅ……。昨日は許してくれたやんか」

「ほんまはあかんのよ。でも、フフ、まさかしがみついたまま寝るやなんて……」

「あんたが帰ってくるの遅いんが悪い!」

「あらま、怒られてしもた。堪忍え」

 

 怒り任せに叫んで頬を膨らませて。拗ねた顔をしたら甘やかしてくれるということは経験則で分かっている。どんなわがままも優しく許してくれる。だからこうして怒ったら抱き締めさせてくれるのだと思い──宵宮はフト気付く。

 ──あれ? 洛風って、うちのこと好きやって言うたっけ?

 

 寂しかった、と。会いたかった、と。そう言って抱きしめ合った。接吻(キス)もした。

 だけどなんだかよくわからない璃月語を並べられただけで、好きだとは言われていないかも。

 もしかして、女の子だから抱きしめてくれただけ? 久々の再会に感極まって勢い余っただけ…?

 

「……、…るおふぇん……」

「マ。今笑うた烏がもう泣いてはる」

「や(だ)って……」

「なんやの。お腹空いたん?」

 

 宵宮は首を横に振り、ひとつぶ涙を零す。

 途端、洛風はぎょっと肩を跳ねさせる。「えっ、ァ、えーっとな、」と。右往左往と狼狽えてから、慌てた顔で宵宮の頬を撫でた。

 

「な…、なぁに、どないしたんよ」

「うち……、男の子がよかった…」

「あらら。誰かにいじめられたん?」

「ちゃうくて、……男の子やったら、洛風も好きになってくれるやろって……」

「んー……」

 

 小首を傾げた洛風が静かに唸る。返事は無い。

 宵宮はとうとう涙をほろほろ零し、着物の裾をぎゅっと握った。

 そんな指を解くように、洛風の細い指が甲を撫でる。

 

「宵宮」

「……ぐす、」

「昨晩(きのう)あない騒いだんに、もう忘れたん?」

「……洛風、好きって、言うてない……」

「言うたやないの」

「言(ゆ)ってない!」

「ウチは好きでもない子ぉに接吻(キス)するような女やないんやけども」

 

 ぱちくり、と目を見開き。涙が止まった宵宮に、洛風は顔を寄せ声を落とす。

 細い狐目がじぃっと覗き込んだ。

 

「しゃあないなぁ、わからせたろ」

「……?、」

「好きな子にしかしいひん(しない)ごっつい接吻(キス)したろな」

「ぁぇ」

 

 いまなんて?

 ──と、聞き返す隙もなく。間近に寄った狐目と塞がれた唇に、宵宮の意識は白む。

 

 

 ***

 

 

 ……胸元にしがみ付いて悶絶する宵宮を抱きしめて、洛風はくすくすと木の葉が転げるように笑う。

 ちょっと口付けて唇を舐っただけ。舌もまだ入れてやいないし、触れ合った時間にすればほんの数秒。

 だというのにこのかわい子ちゃんは腰砕けになったらしい。

 マァなんて愛いのやら。恋を自覚した少女とはかくあれかしだ。

 

「ふ、ふ、」

「……いじわる……」

「意地がわるいからなぁ、もっかいしたろか?」

「いやぁッ!」

「アハハ」

 

 キャン、と子犬のように叫んで、宵宮は身を丸めて逃げの姿勢を見せる。すっかり怯えてしまったらしい──それでも膝元から離れようとしない小娘に、洛風はたまらず大声で笑った。

 

 洛風とていっぱしの大人並みに肉欲を持ち合わせているのだから、好いた子をチョイチョイと揶揄(からか)ってやりたくはある。とはいえやりすぎたやろか、とは今更の感想だ。

 そういえば相手は昨晩口づけただけで気絶した小娘だった。コリャ反省、と、同でも良さげに思案しつつ、洛風は指先で金髪を弄ぶ。

 彼女の言動からはただ単に好きだからくっ付きたい! という幼い好奇心が丸見えだというのに。

 

(──マァ。まさか、ほんまに好きって告白してくれるやなんて……)

 

 同性ゆえの壁は聳(そび)え立つもの。特に女同士となれば接触に対する抵抗は薄い。元より歳の差があるのだ。年上の姉に対するような、ただのアコガレかもしれない。

 それでも。

 抱き締め合うことに照れ、口づけることに逃げ出そうとする羞恥心を、恋心と呼ばずして何とする。

 

「……ふふ、」

「なに…、なんでまだ笑ろとるん……」

「やァ、なに、悪いン(ひと)に取っ捕まったなぁ、て」

「だれがぁ」

「あんたはんやよ、かわい子ちゃん」

 

 洛風はくすくすとまた笑って、宵宮のまろい頬をチョンと突いた。揶揄っていることに気付いたのか、彼女はぷうっと頬を膨らませて顔を逸らす。そういうところも愛らしいのだが、あまり遊んでやってはまた泣かれるかもしれない。

 膝上の金髪を擽り、小さな頭を優しく撫でる。「ン、」と小さく頷いた宵宮が可愛らしくて手が止められないまま、ぼんやりと考える。

 鈍感を極めた少女というのはどんな思考回路に曲解するかわからないものなのだ。

 うっかり他に好きな男が居る、とでも思われたら大惨事まちがいなし。じゃあどうするべきか、と洛風は考えて。

 

「……そやなぁ」

「ん…?」

「──なァ、宵宮。ウチが昨晩(きのう)言うた詩(うた)、覚えてはる?」

「うん、……まぁなんや、言っとる意味わからんかったけど……」

「うふふ。ほな、翻訳(やく)したろ」

 

 撫でられている張本人はといえば、心地よいのだろうか、眦を細めるばかり。そんな彼女の金髪を指先で遊ばせて、洛風は口を開く。

 

「〝雨雷に拒まれてもあなたの元へ帰ります。愛しいあなたと共に老いるまで手を握っていたいのです〟」

 

 宵宮は長い睫毛を上下させ、まんまるい瞳を瞬かせ……そうして考え込んだ数秒後(のち)、顔を一気に朱へ染め上げる。声も無く口をハクハクと開いては閉じる少女の愛い顔に、洛風はたまらず喉を鳴らす。

 

 見下ろした狐目に嗜虐欲が滲んでいたのだろうか。途端、逃げようとする宵宮を捉え、洛風は耳元で本意を囁いた。直訳とは異なる、古い詩(うた)に含まれた、〝生涯を共に過ごしたい〟という意味を。

 

「──~~~~ッ!!」

 

 どたどた、ばたん! 激しい音を立て、宵宮は部屋の隅へと逃げた。窓の下に飛び込んで壁に寄り、どこにも逃げ場がないと気づくと膝を丸めて縮こまる。

 まるで背毛を逆立てる子猫のようだ。

 しかし睨みつけてくる丸い瞳と唸る喉は子犬のよう。

 いずれにせよ小動物である。

 

「かぁ(わ)いらしなぁ」

「う"──ッ!」

「なんやぁ、ウチのこと嫌い?」

「ッ好き!」

「ウチら、恋人やものね」

「っっ!っ、れも、でも、ぅぅ…」

「でも?」

「……どきどきして、慣れへん…」

 

 とうとう、宵宮は膝を抱えて頭を隠してしまう。耳どころか項までもを真っ赤に染めあげている。愧死(きし)しかねないほどの照れ具合だった。

 可愛くて可愛くてしょうがない。洛風の心は荒波の如く乱れてしまう。

 髪を払うふりをして、洛風は顔を伏せる。宵宮の位置からでは──最も、既に膝を抱えた彼女からは見えまいが──表情が見えないように隠し、赤くなった頬を慌てて風元素で冷ます。

 ここまで大人の女として手のひらで転がしたのだから、ぎりぎりまでそうして(・・・・)いたいと思うのは浅はかなプライドによるものだろう。

 

 ようやく顔の熱が引くと、洛風は重い腰を上げ、宵宮の元へと足を摺る。

 

「宵宮。手習(てなら)いと一緒やよ。慣れたらええの」

「……、慣れる気がせんときは?」

「もっとたくさん練習しまひょ」

「…練習?」

 

 ん、──と。己(おの)が唇を指先で突き、洛風は眦を細める。愉悦に歪んだ洛風の狐目と、大輪の花火のように煌めく宵宮の瞳が交差した。

 どういう意味が理解しようと考えているのだろう。

 少しだけ待ってやろうと思って……やっぱやめた。

 

「そ、そ、そんな、練習やなくて、本番やとおも……、」

 

 目尻の紅に負けないほどの真っ赤な顔で口籠る彼女に、洛風は容赦なく唇を重ねた。

 

 

 

 ──借家の戸が壊れる五秒前の話。

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