「と、思っていまして。」
「成る程な。」
俺は次の日真下さんに牧場へちょっとした小旅行に付いて提案していた。
「悟史君の提案なら皆んな快く頷いてくれるだろう、今年に入ってから外にも出ていないしな、新しく仲間も増えた、きっと親睦にも繋がる、俺はいいと思うぞ。」
「良かった、それじゃ皆んなに提案して、、、。」
「あ、ついでにまだちょっと先だけど、今回の旅行ついでに報告したい事がありましてぇ。」
「え?なに?」
真下さんの反応にホッとしているとむぎわら君から報告を受ける事になり俺は無意識に緊張してしまう。
「7月に社長が悟史君に会いたいってプライベートビーチへお誘いが掛かってまーす。」
「え?プライベートビーチ??社長さんが?」
俺は以前会った社長さんの顔を思い出す前に更にむぎわら君から報告を受ける。
「うんで、8月盆は陽久さんの前の所からお祭りに来て欲しいと要望が届いてまーす。」
「夏もあるの?」
秋頃、収穫祭的な意味合いで神の御使的な存在の陽久さんと巨根祭に参加したのは覚えているが、どうやらそこの宗教団体は夏祭りもあるらしい。
「そうみたい、夏祭り?後現当主が修行を終えて帰って来たらしいのと、陽久さんの次の代の御使様が就任成された様で?此処でもやっぱり陽久さんには顔を出して欲しいらしく?」
「うん、とりあえず祭りは陽久さんの意見を聞いてみます。」
「お願いしまーす、後この2つ、牧場の皆んな参加で良いらしいので、楽しい豪華な夏休み的に思って貰えればいいかな?」
プライベートビーチに以前の祭りも賑やかだった所の夏祭り。
「確かに?豪華かも知れない。」
俺は真下さんの方を見ると、真下さんは頷いてくれる。
「楽しい夏になりそうだな。」
「そう、ですよね。」
海、、、真下さんの水着姿ちょっとしたえっちなハプニングがあったり、祭り、、、真下さんの浴衣、神社裏でえっちな雰囲気になったり、手を繋いで打ち上げ花火見たり、、、。
確かに楽しいと言うか、美味しいイベントにはなるかも知れない、、、なると良いなぁ。
「んじゃそれもゆっくりよろしく、イベント予定日は共有のtodoリストに入れておくねー、話し合いが終わったら牧場見学とバス予約も言って貰えればやるから。」
「何時もありがとう、むぎわら君」
「いえいえ、どういたしましてー、あ、それと相良さんは人に影響するフェロモン持ちでしょ?向こうで一人一人対応して貰うのも難しいだろうから此方で相良さん用の抑制剤を用意する予定なんだけど、飲んでくれるかなぁ。」
「抑制剤か、一応どんなものか教えてもらっていい?」
「うん、こんな感じのやつ。」
俺と真下さんはタブレットに映った薬剤を眺める。
「休薬期間は、無いんだね。」
少しホッとして薬の内容を更に眺める。
種類にもよるが、休薬は乳牛、肉牛で期間が分かれる、休薬が終わるまでは出荷が出来ず、乳牛は短い期間で24時間、長いもので130時間、肉牛は更に長く短い期間で1日、長くて59日と肉牛の方が休薬期間が長い。
薬の種類によっては搾乳牛や、子牛、分娩予定のある牛などはそもそも使えないのだが。
今回は休薬無しで搾乳牛にも使える人型牛専用の薬らしく副作用も少ない。
「後は、相良さんの意見を聞かないとな。」
薬を服用して貰わなければ牧場のスタッフさん達やお客さんに影響が出てしまうだろうからもし、相良さんが望まないのであれば残念ながら相良さんはお留守番して貰うか、イベントとして控える事も考えなければならない。
「皆んなに言う前に、相良さんに聞かないといけないですね。」
「そこまで慎重にならなくても大丈夫だと思うぞ?」
「そうですか?」
俺は牛舎無いの雰囲気は人伝程度なので、真下さんがそう言うのなら大丈夫かも知れない。
「あー、丈雄君は一緒に行く気満々ですよ。」
「え?あ、あぁ、、、そっか。」
俺はむぎわら君から丈雄君の名前を聞いて納得する、そう言えば牧場見学はどうだろうかと晩御飯を一緒に取った丈雄君に相談したな。
俺はまずい事をしてしまったかも知れないと口に手を当てる。
丈雄君と仲の良い相良さん、きっと丈雄君は一緒に行こうと既にわくわく誘っているだろうし、相良さんも丈雄君が一緒なら俺が居ても渋々頷くだろう。
「後出しで薬の事を伝えたら、、、怒りませんかね?」
「あー、でも移動とか、そう言う時は飲んで貰ってたから、拒否感はないと思う、副作用もその時は出てない風には見えたよ?」
「悟史君が聞くのが問題なら俺が聞いてこよう、人との距離はまだある人だからな。」
俺は真下さんの言葉に頭を下げてお願いする、出来るだけ穏便に終わらせたい、と言うか相良さんに負担を掛けたくない。
「んじゃ、そこそこ纏った様だし、一旦僕はさよならしますよ?」
「うん、むぎわら君、色々ありがとう。」
「はいはい、2人とも頑張ってねー。」
むぎわら君の通信が終わると俺と真下さんは自然と目が合う。
「久しぶりの旅行計画だな、楽しもう。」
「はい。」
その後、真下さんが相良さんの薬の件と皆んなの意見を纏めてくれ、一緒に散策コースをまとめ、皆んなに確認して貰ったり、むぎわら君に予約のお願いをして貰ったりとサクサクと予定は決まり順調に目的の牧場へ辿り着く事となった。
「此処も草だらけだねぇー。」
「そうだね、こんなに広いけど手入れがちゃんと行き届いている感じがするね。」
牧場の入り口を潜ると広い草原が広がっており丈雄君は両手を広げてその環境を楽しんでいる、早めに牧場へ来たつもりだったが、既に色んな人達が芝生で寛いだり遊んだりしている様子が伺える。
「あっ、悟史さん!トラクターある!」
「本当だ目立つね。」
丈雄君が指を指した方を見ると赤いトラクターが芝生の真ん中にポツンと置かれていた、多分見せ物的に置いてあるのだろう、トラクターの周りはぐるりと柵に囲まれており説明看板が立っていた。
「で、真下、最初の一周する奴はどっちにあるんだ。」
「地図で言うと現在が此処で、乗り場はすぐ近く、、、4番の場所になります。」
「おい、丈雄!移動だぞ!!」
「はーいっ!」
俺は丈雄君に手を引かれて相良さんの近くまで行く、相良さんは少し眉を顰めるがくるりと進行方向を向いて真下さんの誘導の元歩き出す。
「皆んなも付いてきてね。」
俺は後ろにいる皆んなに振り返り確認を取るとそれぞれから疎らに返事を貰い、一緒に目的地へ短い距離を歩く。
「ようこそシロツメ草牧場へ、大柄な方は客車へは1人ずつ、一緒の方は1名迄でお願いします。」
「はい。」
案内のガイドさんが客車の扉を開けてくれて皆んなが乗り込むのを見守ってくれる、1番目は真下さん、秋茂君、俺、2番目は達也君、友伸君、和夫さん、そして3番目は相良さんと丈雄君、4番が陽久さんと誠華君が予定通りに乗り込む。
「それではいってらっしゃいませ〜。」
客車の扉を閉じたスタッフさんは俺達に手を振ってくれてトラクターがゆっくり動き出す、それに戸惑いながら手を振りかえしたり、慣れている様に手を振りかえしたりと様々な反応をするスタートを切り、トラクターはゆっくり広い牧場を一周していく。
「此処まで広いと相当管理が大変だろうな。」
「そうですね、テーマパーク的な部分もありますし、人員は多いでしょうね。」
広い芝生、そして大きな木製の遊具やソフトクリームなのど軽食屋を眺めいるとポツリと真下さんが呟き俺は頷く。
この牧場はテーマパーク的な部分も有り家族で賑わっているのが目立つ、勿論ちゃんと牛小屋もあるし、羊、山羊、馬なども飼育されておりちゃんと牧場として運営はされていて柵の中でのんびり草を喰む羊の群れを俺達は揺れる客車の中で眺める。
「俺初めて動物見ました。」
「そうだよねぇ、どう?実際見て。」
秋茂君は羊の群れじっと興味深そうに眺めている。
「いっぱいいるし、もこもこしてて、なんか、丸くて凄いですね。」
「そっか、後で近くへ見に行こうね。」
「はい。」
予定ではトラクター一周が終わった後は羊の餌やりを眺めたり、牧羊犬のショーも見学する予定なのでじっくり羊を見学出来ると思う。
草薫風を感じながらトラクターに揺られのんびりと広い牧場を眺めるとふと真下さんと手が重なる、チラリと横を見ると真下さんと目が合いなんだか恥ずかしくなってしまい俺は視線を戻す、そしてその事に少し後悔して真下さんの手を握り返すと真下さんも手を握り返してくれた。
本当、俺恵まれているよなぁ。
「お、悟史君、ポニーだ。」
「え、あぁ、本当ですね。」
真下さんは俺に近寄ってポニーを指差す、ポニーはお客さんを乗せてスタッフさんにゆっくり誘導されていた。
「馬の足は、細いな。」
「そうですね、確かに。」
俺は顔が今にも触れ合ってしまいそうな距離にある真下さんにドキドキしつつもポニーを眺める、ポニーの乗馬体験は基本60kg迄でと子供がメインで体験するもので残念ながら今回ポニー乗馬体験はスケジュールにはない、それでも皆んな興味深そうに声を上げ楽しそうにポニーを眺めていた。
「お疲れ様でした、降りる際は足元に気をつけて、お荷物の忘れ物のなき様確認をお願いします。」
トラクターの牧場一周が終わり乗り場へ戻ってきた俺達は客車の扉をスタッフさんに開けてもらいそれぞれゆっくり客車を降りる。
「またのご利用をお待ちしております。」
「ありがとうございました。」
「お姉さんまたね!」
丈雄君がお礼と共に手を振るとスタッフのお姉さんは嬉しそうに手を振り返してくれた。
「さて、次は牧羊犬だな。」
「そうですね。」
「わーいっ!さっき見た羊さん大きかったね、楽しみ。」
「、、、うん。」
真下さんと行き先を確認していると丈雄君は嬉しそうに秋茂君へニコリと微笑む。
「秋茂さん羊ってどれくらいもこもこしてるかな」
「どれくらい、、、いっぱい?」
秋茂君は丈雄君に質問されて手を広げて大きさを想像している。
「だよね!フッサフサのもこもこだよね!」
「うん。」
「ほら、立ち止まってないで移動すんぞ。」
「はーい、羊一緒に見ようね!」
「うん。」
相良さんは真下さんと再び場所を再確認してからズカズカと先頭を切って歩き出し、丈雄君は秋茂君の手を繋いでその後を歩き出す、俺はぐるっと皆んなを確認してから微笑ましい姿を眺めゆっくり先頭に付いて歩く。
「皆んなも気になった物ありました?」
「僕大きい三角の建物が気になりました。」
俺は一周した際に気になった物があったか目的地へ向かう道中に皆んなに聞いてみると友伸君が建物について聞いてくる。
「あれは意味あるんですかね?」
「長くててっぺんが三角の建物だよね?それならサイロだよ、牧草などを乳酸発酵させる場所なんだ。」
「乳酸発酵?」
「うん、サイレージって言ってね、牧草なんかに空気を遮断して乳酸発酵をさせると牛達に取って美味しいご飯になるんだよ。」
「へぇ、そうなんですね。」
美味しいご飯って大切ですもんね!と言う友伸君に俺は頷く。
「動物達にはしっかり食べて健康に過ごして欲しいからね。」
「ですよね!」
友伸君はニコニコとご機嫌そうでそんな柔らかい雰囲気のまま皆んなと雑談をしながら目的地までゆったりと歩く。
「でっかいっ!」
「間近で見ると迫力がありますね。」
羊のエリアに到着するとその大きさに丈雄君は耳を上げて喜び、放牧されている羊達が柵の近くで草をブチブチと千切り咀嚼する音に警戒しながら達也君は耳を下げて慎重に観察している。
「三頭ぐらいは同時に持ち運べそうだな。」
「そうですね。」
「陽久様汚れてしまいますよ、一頭づつ丁寧に運ぶのが宜しいかと思います。」
「実際にしちゃ駄目ですからね?」
相良さんと陽久さんは羊を触りたいらしく何頭抱えられるか相談していた。
「さて、そろそろ観客席に座ろうか。」
真下さんの一声でまた俺達は少し歩いて牧羊犬ショーが行われる場所へ入場して観客席に座る。
「俺犬見てみたかったんだ、司先生に教えて貰ったんだけど牧羊犬って一種類じゃなくてボーダーコリーとか、シェットランド、、、?」
「シェットランドシープドッグ?」
「うん!シェットランドシープドッグとか種類が有るの!」
長い名前の犬種を秋茂君が横でサポートしながら教えてくれる、俺は2人を褒めながら2人が司さんから学んできた事を聞く。
「皆様お待たせしました、本日は牧羊犬ショーへお越し頂きありがとうございます。」
牧羊犬ショーのスタッフの挨拶が始まり皆んな一斉に会場の方を見る。
「さて、では今回の牧羊犬、2匹、ご紹介をさせて頂きます、まず、足元にいるラフコリー、そして奥の柵に羊と一緒に奥で待機しているボーダーコリーになります。」
スタッフ近くにもう1人、笛を咥えたスタッフが居てその人の側に立つラフコリーを眺めてから、視線を奥の柵へやると羊の群れ共にもう1匹の牧羊犬は白黒のボーダーコリーがチラリと見える。
「ボーダーコリーは羊の上に隠れてよく見えませんね、羊の上に乗って貰って皆さんに紹介したいと思います。」
皆んなで奥の柵を眺めていると笛が鳴り羊の上にボーダーコリーが乗り姿を見せてくれる。
まばらに拍手が鳴りボーダーコリーは直ぐに羊から降りて見えなくなる。
「それでは、本日のメインイベント!羊さん達に登場して貰いましょう!拍手でお迎えをお願いします。」
客がそれぞれ拍手をすると、スタッフが柵を開ける、そこからボーダーコリーに追いかけられゾロゾロと羊の群れが足早に会場に現れ無造作に広がっていく。
羊も可愛いよなぁ、大学時代羊の世話もしていたけど一頭一頭可愛くて特に親を探して鳴く子羊が可愛くて作業する手を止めてじっと眺めてしまっていた。
ボーダーコリーの誘導で羊は観客席近くに集まり、羊達が逃げない様ボーダーコリーは羊の群れの周りをぐるぐると素早く回る。
「それでは反対側の柵の方へ誘導させようと思います。」
スタッフさんがそう言うとピュイと犬笛が鳴り2匹の牧羊犬が20匹ぐらいは居るであろう羊の群れを協力して柵へ誘導して行く。
「近づいただけでも羊は逃げるんだね。」
「そうだね、吠えたり噛んだりもしないで居るだけで羊達は動いてるね。」
丈雄君は少し緊張しているのか仕事をする犬をじっと見つめながら俺の服を握る、牧羊犬2匹は群れを一塊にしつつあっという間に指定された柵へ全ての羊を入れてしまう、その事に皆んな興味深げに声を溢し集中して牧羊犬ショーを眺めている。
「なんか羊も緊張しててこっちも緊張しちゃいますね。」
「そうですね、でも走る姿はもこもこしてて可愛いですね。」
羊と牧羊犬の緊張感に共感して居た友伸君の隣に座っている和夫さんは羊のフォルムが気に入った様で嬉しそうに走る羊を眺めて居た。
「丈雄頑張れば出来そうだぞ。」
「あんなに速く走れないよ。」
相良さんはそう言って丈雄君に笑い掛ける。
そしてその後も数匹の羊を指定の場所へ誘導したり、小さな柵へ入れたりと牧羊犬の活躍を皆んなで眺めた。
「見事なお仕事ですな。」
「ええ、牧羊犬と言うのは主人の言う事もちゃんと聞いていてお利口ですね。」
陽久さんも誠華君も満足そうに牧羊犬の仕事を眺めている。
「犬ってあんなに速く走れるんだね、凄かったぁ。」
「あれだけ本気で走られたら追いつけないよね。」
牧羊犬ショーの舞台である広い空間、その中を猛スピードで走り回る牧羊犬達の姿はとても力強く頼もしかった。
「さて、この後、羊と触れ合えるらしいから俺達も移動しようか。」
真下さんの提案に皆んな賛同して羊が放し飼いされている柵の中へ向かう。
「真下さん的にはどうでした?」
俺は少しの移動の間真下さんの方を見て感想を聞く。
「普通に驚いたな、犬の動きも、羊の動きにも。」
「そうですか、良かったです。」
「来てよかったと思ってる。」
「はい。」
俺達は羊の柵に着いてそれぞれ消毒してから柵の中へ入る。
「思ったより弾力が有ります。」
「ぬいぐるみとは違った手触りですね、少しチクチク?ごわごわしますね。」
友伸君と和夫さんは同じ羊の背中を触らせて貰いながら真剣に羊の事を考えていた。
「なぁ、丈雄、羊と俺ならどっちがふさふさだ?」
「え?んー、羊はもっこもこ、相良さんはもっふもふ?」
「んだそれは。」
「へへ。」
相良さんは何故か羊と自分を比べ始め丈雄君は可愛い擬音語で答える。
「よく見ると羊の毛ってくるくるしてますね。」
「ね、バネみたいだよね、これも品種改良で出来た体質なんだよね。」
俺は羊の毛に指を突っ込んでいる達也君を見守りながら答える。
「品種改良するきっかけってなんですか?」
「えっとね、改良前は内側は縮んだ毛で、外側が真っ直ぐだったんだ、それだと糸などに加工しにくいから縮れた毛だけに改良した、だったと思う。」
俺は大学で先生から教わった事を思い出しながら達也君に答える。
「成る程。」
達也君は納得してくれた様で何かを思う様に真剣に羊の毛を触る。
「、、、。」
「秋茂君は、触るの怖い?」
「いえ、どの子なら触っていいか迷ってました。」
「成る程?」
秋茂君は羊と少し距離をとっていてじっと羊達を見守っていたので俺は声を掛ける、どうやら羊の様子を伺っていたらしく俺は一匹の羊に近づいて一撫でしてから秋茂君に手招きする。
「この子とかどう?大丈夫そうだよ?」
「、、、ありがとうございます。」
秋茂君は恐る恐るそっと羊に近づいて手を伸ばしそっと羊の毛に触れると緊張して上げていた耳を下げる。
「弾力が有りますね。」
「ね。」
秋茂君が羊をじっと観察しながらそっと羊を撫でる姿を微笑ましく見守る、俺達は満足いくまで羊と戯れさせて貰った。
その後、皆んなで羊の触れ合いをしっかりと楽しんだ後は芝生の広場に戻り少し早めのお昼を取る事にした。
「えっと次はいよいよ牛さんを見て勉強して、その後触れ合い広場?で小動物?を見るんだよね?」
「うん、その予定だよ。」
誠華君を中心に用意したお弁当を食べながら丈雄君はこの後のスケジュールを確認してくるので俺はあっていると頷く。
「俺、祖牛を今まで見た事なくて、さっき遠目で見ててもかなり大きそうだったからちょっと心配。」
最初に乗ったトラクターが牽引する客車から眺めた牛達を思い出し、眉と耳をげながら丈雄君はお重から選び取ったおかずを見ている。
「基本柵の中だし、おっとりした性格だから大きな声を出したり、乱暴な事をしなければ仲良くなれるよ。」
「仲良くかぁ、、、言葉とか通じるかな?」
「それは、、、俺も分からないかも。」
ホルスタインは個人差はあれど基本おっとりとした性格だ、大きな音などでストレスを与えない限りゆっくり観察させてくれるだろうが、人型牛と会話出来るかは正直分からない、これまで勉強して来た本には意思疎通が出来ている派と出来ない派が疎におり、しっかりとした研究記録は以外に少なかった。
人型牛と牛を同時に飼う事例は結構あるのだが、その記載に目を通していても人間が何となくそう感じる、と言う程度の共感や気付きを大袈裟に書いたのではないかと言う微妙なラインの物しか今の所俺は発見出来ていない。
人型牛と祖牛がしっかりと会話し意思疎通出来ているか?その問いに俺は自信を持って頷けなかった。
「まぁ、会ってみよう、実際に会ってみれば何か感じるものがあるかも知れない。」
「うん。」
真下さんも祖牛に会うのは今日が初めてだ、と言うより陽久さんと、誠華君を除き皆んな初めてらしい、そんな状態でも真下さんの落ち着いた存在感は皆んなを安心させるのか皆んなお弁当を口にし始めた。
そわそわと静かにお昼を食べ終え俺達は牛舎の区画へ向かう。
牛舎は牧場の端にあり人が少なくとても静かだった。
皆んなで柵に横並びになって放牧されている牛を見守る、牛は穏やかに草を喰んでいたり座って居たりと開放的に過ごして居た。
「お、なじ、、、かなぁ?なんか、、、模様が白黒でも色々あってなんか違う気がする。」
丈雄君は納得出来ないようで目を細め首を捻る。
「羊よりもっと大っきくてゴツゴツしてて少し怖いですね。」
友伸君は怖いと言いながらも少し耳を上げ、神妙な顔をして牛を見守る。
「俺も、、なんか、違う感じがしますね。」
達也君も納得出来ないようで耳を下げ首を傾げ牛を眺める。
「おっぱいも大きいですね。」
「そうですね、重そうです。」
和夫さんも秋茂君も驚いているもののそれ以上の興味はなくのんびり牛を眺めている。
俺は様々な反応に思わず隣にいる真下さんの方を見てしまう。
「大きいな。」
「そう、ですか。」
真下さんも感想に困っているのか眉を下げて此方に微笑む。
「悟史君はこのホルスタインと言う種類の乳牛を沢山飼育していたのだろう?」
「沢山って訳では無いですけど、まぁそうですね。」
俺は柵からちょっと顔を出した牛に手を伸ばし近づいて来てくれた牛に指の腹で顔をくしくしと擦ってやる、長いまつ毛と大きな瞳は此方を見て満足そうに俺の手を舐め返事をしてくれる。
可愛い。
飼育数は少ない方だったが育てて来た数は俺が物心ついた時から色々と関わってきたので沢山の乳牛と関わって来たとは思っている。
病気の事も、性格の事も、エサの事も、色んな事を考えさせられながら日々を乳牛と過ごして来た、もう関わる事は殆どないだろうと思うとあの忙しさに寂しさを覚える。
「元気でのんびり過ごすんだぞ。」
「悟史さんお手を。」
「ありがとう。」
俺は誠華君に手拭きを貰い、手を綺麗にしてから皆んなと近くにある資料館へ向かう、牛舎の区画には牛に関してのちょっとした資料館がある、軽い牛の基礎知識や、歴史ある白黒写真の牛や、この牧場の創設者の事、管理がデジタルへ移行する歴史、出荷量や、この牧場の加工品についてなど小さいながらに内容は中々充実して居た。
「牛乳瓶も形が違う。」
「ねー、鉄?の奴もあるね、そっから、、、瓶?これは見た事あるー。」
「、、、俺初めて見るかも。」
「そっかぁ、、、あれ?もしかして俺達もこんな瓶に入ってるのかな?」
歴史順に並んでいる牛乳容器の展示をじっと見つめる秋茂君と会話している丈雄君は自分達の乳がどんな容器に入っているのか気になる様で俺は瓶を指差し答える。
「容器は瓶のこの形で、蓋はプラスチックのキャップだよ。」
「そうなんだ、、、悟史さんもしかして俺達のおっぱい飲んでる?」
「え?うん、むぎわら君が品質確認の為に冷蔵庫に色々入れてくれて、、、。」
丈雄君が目を細め此方を見るので俺は言葉が止まってしまう、だ駄目だったかなぁ。
「ふーん、ねぇ?俺のおっぱい美味しい?」
「混合ではあると思うけど、美味しいです。」
「そっかぁ。」
「、、、すみませんでした。」
目を細め、にやりと口角を上げ此方を見る丈雄君に気まずくなり俺はつい謝罪の言葉が飛び出る。
「別にいいよ、俺もうちょっと体に気をつけて美味しいおっぱい出せる様になろうかなぁ。」
「け、健康でいてくれるのは此方としても嬉しいです。」
「ふふー、わかった、俺頑張るね。」
「はい。」
気まづい、本当に気まづい。
小さな資料館の見学時間はあっという間に過ぎて少し歩いて乳製品加工が見れる工場へ足を踏み入れる。
搾乳してから商品と出荷するまでの工程は多い。
搾乳、集乳、計量、受入検査、冷却、貯乳、ゴミ取り、予備過熱、ホモジナイズ、加熱殺菌、冷却貯乳、包装、出荷検査、冷蔵、出荷。
壁に貼ってある出荷までの流れの説明を皆んなで眺めこれから見学する工程を確認する。
「悟史さん、均質化、ホモジナイズって必要なんですか?」
気になる言葉が出て来た様で達也君は俺にホモジナイズついて聞いてきた。
「あぁ、うん、脂肪球を細かくして同じ大きさにするんだけど、脂肪球が大きいと上に上がってクリーム状に固まるんだよね。」
「脂肪球?」
「脂肪球膜で包まれた中性脂肪、あ、脂肪はえっと、動物性常温固体の油で、中性脂肪は血液を通るエネルギーの事、、、で大丈夫かな?」
「大丈夫です、常温固体なんですね。」
「うん、なので細かくして、栄養の吸収と味を均質にするのがホモジナイズ?」
難しい単語だと分からないかな?と俺は達也君の反応を見ながら大学で学んだ事を砕いて説明する。
「、、、あの。」
「何?」
達也君が物言いたげに服をちょいと引っ張るので俺は達也君に顔を寄せる。
「俺のホモジナイズしてないんですけど、、、味ってどうでした?」
耳元でそっとそんな事を言われて俺は一瞬脳内が欲に染まるがそれを顔に出さない様にして達也君のほんのり赤くなった顔を見る。
「均質してないから濃くて美味しく感じるよ、下に脂肪球の小さい物が溜まるから後味はさっぱりかな。」
「そう、ですか。」
俺の反応に納得いかず拗ねている様な照れている様な表情の達也くんに機嫌を直して貰おうと俺は達也君の頭を軽く撫でておく。
「他に気になる事は有る?」
「いえ、ありがとうございます。」
「此方こそ、お役に立てて良かったです。」
お礼を言う達也君の様子に歳上としてちゃんと教える事が出来て俺はホッする。
一通り出荷迄の工程を確認した俺達は皆んなで牛乳が包装されるまでの過程をそれぞれのペースで眺める。
「瓶じゃない、牛乳パックだ。」
「いっぱい並んでますね。」
丈雄君はと友伸君は仲良く並んでベルトコンベアで流れ行く大量の牛乳パックを眺めている。
「こう見ると牛乳の需要は高いんだな。」
「そうですね、それと賞味期限も短いので、都度新しい牛乳が必要って言うのもあるかも知れないですね。」
牛乳の賞味期限は一週間程度、保存期間は短い。
「賞味期限か、成る程な。」
真下さんも牛乳の包装過程が気になる様で結構真剣に眺めている。
「牛の奴すげえな、こんなに出してるって事だろ?」
相良さんがライバル心を出して負けてらんねぇなと溢すと近くの和夫さんも同意しつつ優しく微笑む。
この工場見学の終わりには乳製品のお土産が並んでいてその商品を皆んなで眺める、俺は近くにあったチーズを何と無しに眺めていると友伸君が近づいて来た。
「これは、、、美味しんですか?」
「美味しいよ。」
「美味しいんですか、、、。」
チーズの見た目に友伸君は目を細め懐疑的にチーズを見つめる。
「牛乳ってこんな形にもなるんですね。」
「そうだよ、他にもヨーグルトとか、ソフトクリームとか、ケーキとか色んな美味しい物に変わるんだよ。」
「牛乳って実は凄いんですね!」
美味しい物に変わる、その言葉に目を輝かせて嬉しそうにする友伸君に俺は微笑んで頷く。
「あっ!チーズはどう加工するんですか?」
「牛乳にレンネットって言う物を混ぜると固まってチーズになるんだよ。」
「レンネット?」
「レンネットは草を食べない、、、離乳して居ない6ヶ月以内の仔牛の第4胃袋から、、、キモシン、レプシンの事、、、で、それ以外にも植物性や、微生物系が、、、有りますね。」
レンネット、チーズの始まりは遊牧民が若い牛の胃袋に乳を入れて旅に出てチーズになったと言う所から始まったらしい。
そして動物性レンネットとは6ヶ月未満の仔牛を捌いて第4胃袋から凝乳酵素を抽出する、それを純粋な目で食べ物を見つめる友伸君に話せないと俺は言葉を濁す。
仔牛は乳を消化する為に第4胃袋にキモシンが沢山ある、草を食べ始めるとキモシンが減る為、大きくなる前に屠殺をするのだ。
レンネットは他の代用品も出てはいるが、未だに仔牛のレンネットを使う場所も当然ながらある。
ソーセージとかも腸詰だし、フォアグラとか、ほら、無理やりご飯を食べさせて作ったりするし、、、案外人間は強欲で残忍なのかも知れない、いや、命を頂くから勿体無い精神?
違うな、仔牛の肉は柔らかくて美味しいってあるじゃないか、ただの食の追求、強欲かな。
「悟史さん?お腹空いちゃいました?」
「え、あ、うん、美味しそうな物を見てるからね。」
レンネットの説明にまずい事をしたな、と思っていると友伸君はその様子に気づいて声を掛けてくれる。
人型牛は人の形をしているから保護の形が違うだけで、依然家畜としての存在で、、、もし人の形をして居なかったら、、、そう思うと俺は背筋が冷たくなる。
「他の所も見てみようか。」
「はい、あ、悟史さんが好きな牛乳加工品ってなんですか?」
「うーん、チーズ、ヨーグルト?」
俺は頭の中で美味しいそうな蕩けたチーズと普段食べるヨーグルトを抵抗無く思い出す、そして己の軽さに落ち込んでしまう。
「悟史さん?」
「うん、大丈夫。」
「生クリームは脂肪分が膜に覆われている為水分と混ざり合っていますが、振動を与え脂肪膜が割れると脂肪同士がくっ付きバターとなります。」
牛乳工場の端、バター作り体験会の区画が有り、俺達は生クリームが入った瓶を受け取り皆んなでスタッフの説明を聞く。
「それでは頑張って10分程度振ってみましょう!降り過ぎて瓶が飛んでいってしまわない様気を付けて下さいね。」
「はーい。」
「はい。」
それぞれスタッフさんに行儀良く返事をして皆んなで一斉に瓶を振る。
「中々固まらないですね。」
「ねーもっと振るればかわるかな?」
「うゔ、思ったより手が痛いです。」
達也君、丈雄君、友伸君はお互いの瓶を見せ合いながら振った生クリーム見比べている。
「まだまだ振ってみて下さいね。」
「はーい。」
「おい陽久、小さ過ぎで瓶飛びそう何だが。」
「両手で包むなんてどうでしょう?」
相良さんと陽久さんから見ると生クリームの入った瓶はとても小さく見える、その為振っていた瓶が何処かへ飛んでいってしまいそうで不安な相良さんは陽久さんに助けを求めていた。
「和夫さんはどんな感じです?」
「私もまだですね、何というか泡が硬くなって降りにくくなってますね。」
「僕もです。」
「それを降り続けると行成水分と脂肪に分かれますよ〜、あとちょっとです、頑張りましょう。」
「はいっ。」
皆んな打ち解けてるなぁ、と暖かい会話を横で聞きながら俺も瓶を降り続ける。
バシャ。
水音が聞こえた方、隣の席を見ると秋茂君が1番にバター作りに成功していた。
「え!?秋茂さん凄い!見せて見せて。」
「うん。」
秋茂君は分離した物を丈雄君達に見せていてる。
「俺も頑張るっ、秋茂さんありがとう。」
「うん。」
「おめでとうございます、此方の容器に取り出して塩と混ぜると有塩バターになりますよ、そのまま蓋をすれば持ち帰れますので、出来ればその日のうちに食べて下さいね。」
「、、、はい。」
秋茂君はバターに塩を混ぜて少し味見をしていた、耳が少し上がって此方を見る。
「どう?」
「脂っこいけど、美味しいです。」
「そっか、頑張ったもんね。」
「はい、、、少し食べてみます?」
「いいの?」
「はい。」
俺は秋茂君が作ったバターを口に運んで貰い一口貰う。
「バターだね、それにこの塩美味しいね。」
「はい。」
「ありがとう。」
「はい。」
秋茂君とほんわか会話しているとあちこちで水音が聞こえる、皆んな着実にバターが作れている様だ。
バシャ、俺も振った生クリームがやっと分離した様で手元の瓶から水音が鳴る。
「俺も出来た。」
俺は瓶をテーブルに置き疲れた手を振る。
「人力だと中々疲れるな。」
「ですね。」
真下さんも分離が終わった様でお互い作り終えた瓶を並べて見比べる。
「貰った生クリームからこれぐらいしかバターが出来ないと言う事は実際にはかなりの量が必要になって来そうだな。」
「そうですね、普段使っているバターはこれぐらいのサイズを買ってます。」
俺は普段使っているバターの箱のサイズを手で表す。
「残ったこの汁は勿体無いな。」
分離した水分の方を見て真下さんは眉を顰める。
「分離した水分の方はバターミルクといって、カルシウムやリン脂質などが豊富で低脂肪高タンパク、とっても栄養価が高いんですよ、加工してパウダーなどで販売されたりしますね、お菓子などに良く使われるんですよ。」
「成る程、ちゃんと活用先があるんですね。」
「はい、そうなんです。」
真下さんの疑問にスタッフさんは丁寧に対応してくれる。
「じゃぁ、これ飲んでも大丈夫ですか?」
「はい、問題無いですよ。」
隣で聞いていた秋茂君も気になった様で分離したバターミルクに口をつける。
「、、、薄いです。」
「そっかぁ、俺も、、、確かに?」
俺と秋茂君は何だかおかしくて笑ってしまう。
「これを粉などにして凝縮する事で乳風味が強くなりますね。」
「成る程、使える様色々考え工夫しているんだな。」
真下さんは分離した瓶を少し持ち上げて中身を見ている。
「そうですね、牛乳の加工品は多いですし、当たり前の存在になってますね。」
そう言うと真下さんは此方を見てにっこり笑う。
「俺達も祖牛の様にそう有りたいものだな。」
賑やかな牛乳工場での体験で皆んなの仲の良さを見られて良かったと思う、俺は固まったバターを頂いた容器に丁寧に詰め替えた。
「モルモット、ひよこ、うさぎ。」
「どれも可愛いですね。」
「そうですねぇ、皆んな可愛いですね。」
牛乳工場を見た後は触れ合い広場に来た、そこでは選んだ動物を触らせてくれる様で写真に映る動物のポスターを丈雄君、友伸君、和夫さんが真剣に覗いて、秋茂君、相良さんがそれを見守っている。
「陽久、俺ら潰しちゃうんじゃねぇか?」
「なに、手をお椀型にして動かさなければ良いのです、強く触らない限り問題ありませんよ。」
「陽久様は動物にも愛されますからね、きっと選ぼれた子も安心してぐっすりですよ。」
相良さんは自分の大きさと小動物の差にゲージを見下ろしながら心配しているが、経験者としての助言を陽久さんがしていくれていた。
「真下さんは決めました?」
「ひよこにしようと思ってる。」
「ひよこかぁ、可愛いですよね。」
実家にあった鶏小屋、ひよこが生まれた時は可愛くて毎日小屋に張り付いていた事を思い出す、俺もひよこにしようかなぁ。
触らせてもらう動物を決めた後それぞれ椅子に座りスタッフさんから小動物を受け取る。
俺と真下さん、秋茂君に達也君、誠華君はひよこ。
丈雄君、陽久さん、和夫さんはモルモット。
相良さん、友伸君はうさぎを選んだ。
「可愛いねぇ。」
「、、、うん。」
相良さんと秋茂君に挟まれモルモットをそっと撫でる丈雄君の声はモルモットの可愛さで溶けている。
「陽久、、、。」
「大きい声を出さぬ様、そっと撫でてみて下さい。」
うさぎを選んだ相良さんのお膝の上にはうさぎが丸まっている、手をお椀にするんじゃ無かったのか、、、想定外の動物との触れ合いに相良さんは陽久さんに助けを求め、そして恐る恐るうさぎに触れる。
「、、、あったけぇな。」
「生き物ですからね。」
可愛く、柔らかく、そして生きている事を証明する様に心臓や呼吸の振動を手のひらで感じながら俺は皆んなのそっと喜ぶ声を聞く。
「悟史君のひよこは、寝てるな。」
「寝ちゃいましたね。」
「俺もです。」
「本当だ、寝顔可愛いよね。」
俺は真下さんと達也君に挟まれて手のひらに座って目を閉じるひよこを見守る、小さい鳥の足はつんつんしているが、黄色の羽毛はふわりと柔らかく、小さいオレンジ色の嘴がとても可愛い。
俺はひよこを起こさない様手を動かさずにそっと見守る。
時間いっぱい迄触れ合い、触れ合い館から出た俺達の空気は柔らかく微笑ましいものになっていた。
「もっと触りたかったけど、触り過ぎるとストレスになるんだよね。」
「そうだね、いっぱいお客さんも来きて触れ合いするだろうしね。」
丈雄君は耳を下げ名残惜しそうにガラスケースを覗く、やっぱり動物飼うか?飼いやすい動物、、、亀、インコ、ハムスター、モルモット、ハリネズミ、、、。
「ん?」
飼育し易い動物を考えていると近くに山羊小屋が有りふと足が止まる。
山羊小屋の中には生後1か月にも満たない子ヤギが2頭居て、お母さんヤギの近くを歩いている。
ほんのり色付いた可愛いピンク色の鼻、角も無く、足もふわふわで短い、口元も小さくV字の形をしていて、そして幼く柔らかい耳が垂れ下がっていて大変愛らしい。
お母さんヤギに近づきおっぱいを飲み短くふわふわな尻尾を元気よくプルプル振るその姿に俺は思わず足を止めてしまう。
あれ!?子ヤギってこんなに可愛いんだっけ!?
俺は余りの可愛さに柵に手を置いて前のめりになって子ヤギを眺める。
「悟史さん?」
「子ヤギ、、、可愛い。」
そう言えば実家でもヤギは飼育してなかったし、大学でもヤギを飼っていたが、世話をする機会は他の動物と比べて少なかった。
改めて思う、子ヤギはとんでもなく可愛いんじゃないかと!
「悟史さーん。」
「どうしよう、凄く可愛いね。」
や、ヤギなら雑草を食べてくれるし、、、子ヤギが見たい、触れ合いたい、牧場としてヤギを飼うのも有りかも知れない。
ぴょんぴょん跳ねて、草を喰み、足を伸ばして横になり可愛い小さな蹄を見せ、鳴き声も可愛い子ヤギに俺はうっとりと見惚れる。
何もかもが可愛い。
「おーい、悟史さーん、、、真下さーん。」
「悟史君。」
「はっ、すみません。」
俺は真下さんにグイッと腰を引かれ、直近で俺の顔を覗く真下さんに足を止めた事に謝る。
「悟史君。」
「はい。」
「俺も可愛い方だぞ。」
「え?はい、そう、ですね?」
真下さんはカッコいいし、可愛いですね????
え?あ、、、嫉妬?そんな馬鹿な、、、いや、真下さんなら子ヤギにだって嫉妬しそう、、、。
俺の顔が徐々に赤くなるのを認識し始めた頃には悪戯に成功した様な顔でにっこり真下さんは笑う。
「悟史君は子ヤギが気に入ったのか?」
「あ、はい、可愛いと思います。」
「そうか、、、。」
真下さんはそう言ってヤギの方を眺める。
「悟史さーん、真下さーん!」
「今行く。」
真下さんは俺の方を見て微笑みしっかり手を繋いで俺と共に呼んだ丈雄君の方へ歩き出す。
俺子供みたいじゃん。
「真下さん、ごめんなさい。」
「ふふっ、、、気にしてないよ。」
「笑わないでください。」
真下さんの背中が震えていて笑いを堪えている事に気づいて恥ずかしくなる。
「いや、そんな叱られた子供の様に謝られるから。」
「すみませんでした。」
やっぱり、俺は少し自暴自棄気味に謝る。
「こっちこそすまない、、、ふっ。」
「真下さんっ。」
俺達はバスの帰り時間迄の少しの間最初に見た広い芝生の遊び場で時間を潰す。
「悟史さん!ぐるぐるやって!!」
「いいよ。」
俺は丈雄君を後ろから抱いてくるくると回す、太陽も傾いて来て風が涼しくなって来た。
「今日色々見たねぇ。」
「そうだねぇ。」
ぐるぐる回し足を地面に付けた丈雄君は今日を振り返る。
「悟史さんありがとうね。」
「此方こそ、相良さんの件ありがとう。」
「相良さんとも遊びたかったんだー、一緒に来れて楽しかったよ?」
「うん、俺も。」
1人も欠ける事なく此処に来れた事、皆んなで同じ思い出を共有出来る事、それが何よりも嬉しい。
家に帰るまでが遠足なんて言うけど、今日を無事に過ごせて良かった。
「おい、丈雄!フリスビーするぞ。」
「するー!じゃ悟史さん行って来ます!」
「いってらっしゃい。」
俺は相良さんに呼ばれた丈雄君を見守り広げたレジャーシートに座る。
フリスビーには秋茂君も参加していて、達也君と友伸君は近くに展示されているトラクターを眺めている。
「悟史さん、宜しければどうぞ。」
「ありがとうございます。」
俺は和夫さんから水筒の温かいお茶を頂きお礼を言って口を付ける。
「和夫さんは今日、如何でしたか?」
「実は牧場から出てこうして旅行をするのは初めてだったんです、見た事の無いものばかりで、驚いてばかりでした。」
「そうでしたか、あの、疲れてませんか?」
「少しだけ、でも優しいこの牧場の方々と此処に来れてとても楽しい思い出が出来ました、悟史さん、ありがとうございます。」
「いえ、えっと、これからもこうやって外に出て思い出が作れたらなって、思ってます。」
「楽しみにしてます。」
和夫さんから嬉しい感想を貰い俺は和夫さんと笑い合った、7月も8月も旅行の予定が有る、和夫さんもまた一緒に楽しめたら嬉しいと思う。
「和夫さーん!和夫さんも休憩?一緒にフリスビーしない?華ちゃんも陽久さんもー!」
「陽久様と私は休憩しております、お好きに遊んでいて下さい。」
「はーいっ!和夫さんはー?」
「参加しても良いですか?」
「もちろーん!!」
「行ってきます。」
「はい。」
和夫さんはよいしょと立ち上がり大きく手を振る丈雄君の元へ近づきフリスビーに参加する、相良さんも遊ぶ仲間が増えた事で遠くからでも見てわかるほどご機嫌な表情だった。
「真下さんは、花冠ですか?」
和夫さんがフリスビーに参加する姿を見守り、俺は隣でシロツメクサの花を摘み取り手を動かしている真下さんに聞く。
「小さい頃、姉さん達に作り方を教えて貰ってな、牧場主に褒めて貰いたくて姉さん達に混ざって練習した事が有るんだ。」
真下さんは幼い頃の話をしながら手を動かす、俺は昔話をする真下さんは懐かしむ様な寂しい顔をすると思った、けれど目の前の真下さんは凄く優しい表情をしていて此方に微笑む。
その甘い表情にドキリとするも、真下さんは手元に目線を戻して作業に戻る。
「器用ですね。」
「久しぶりだから自慢は出来ないがありがとう。」
陽久さんの近くに座っていた誠華君もじっと真下さんの手元を見つめている。
陽久さん、誠華君、俺に見守れながら真下さんは黙々と花冠を編んでいく。
「久しぶりに作ったから歪な部分があると思う、受け取ってくれるか?」
「勿論、あの、ありがとうございます。」
真下さんはそっと花冠を俺の頭に乗せ満足そうに笑う、その笑顔に僅かに幼さが見え、きっと幼い頃の真下さんは健気で可愛いかったのだろうと勝手に想像してしまう。
真下さんは歪と言うが作業を見守っていた俺から見たらとても綺麗に編めていると思った。
真下さんの俺に上げたいと思ってくれたその心が嬉しい、真下さんの暖かい心に目が滲み、胸がいっぱいになる。
「ありがとうございます。」
「如何いたしまして。」
俺は再びお礼を言って頭に乗った花冠にそっと触れる、そして仲良くフリスビーで遊ぶ皆んなを真下さんと眺めた。
牧場見学も無事に終わり、自宅に荷物を置いて少し休憩したら直ぐに夕方の搾乳が始まる予定だ、皆んなはしゃぎ過ぎたのか帰宅のバスの中では仲良く寝息を立て、自宅に辿り着いた時にはバスを降りる足取りは覚束なく、皆ゆっくりとバスを降りる。
「夕方の搾乳までまだ時間があるからゆっくり休んでね。」
「むぅ。」
「丈雄君もお疲れ様、一旦荷物置いて来てね。」
「うん。」
バスを降り眠気目で此方に抱きつき甘える丈雄君の頭を撫でると満足した様で直ぐに俺から離れる、それからバスの運転手に手を振りお礼を言って、自分の荷物を持って皆んなと牛舎へ向かう。
「忘れ物は無いようですが、大丈夫でしょうか?」
「はい、今日はありがとうございました。」
「またのご利用お待ちしております。」
俺はバスの中を確認してくれた運転手と挨拶をしてバスが遠ざかるのを見守ると真下さんが俺の荷物を持ってくれる。
「すみません、ありがとうございます。」
「悟史君も今日はお疲れ様。」
「此方こそ、真下さんもお疲れ様でした。」
お互い無事に旅行が終えられたとホッと息を吐き出す、そのタイミングが合ってしまった為お互いに笑いあう。
「なんとか無事終わりましたね。」
「そうだな、危な気な事もなく無事に終わってよかった。」
俺は荷物を持ってついて来てくれる真下さんと一緒に自宅へ向かい玄関の鍵を開ける。
「悟史君。」
「真下さん?、、、んむっ。」
玄関の扉を開け靴を脱ぎ少し廊下を歩いた所で真下さんに壁に軽く押しやられ、熱の篭った瞳で顔を撫でられたと思ったら唇を奪われた。
突如として襲って来た甘く情熱的なキスに戸惑いつつも直ぐに唇は離れる。
「すまない少しだけ。」
真下さんは俺の返事も待たずに再び口を重ね驚いて口元の緩んだ俺の口内に舌を侵入させる、人よりも基礎体温の高い人型牛の熱い舌、それに蹂躙される様に舌が絡み合う。
「〜っっっ!、、、んっ、、っ!」
真下さんの乱暴な荒い息が俺に掛かり、何時もよりも濃い真下さんの匂いに俺も熱が移った様で体がじわじわと熱を帯びて意識がふわふわと心地良くなる。
やっっば、、、、今日の真下さんエロすぎ。
旅行の為、今日、相良さんがフェロモンを抑える薬を飲んでいたとしても一応として俺もフェロモン抗体剤は服用していた、、、それでも舌を絡める気持ち良さと真下さんの積極的な情欲を浴びて俺も真下さんに腕を回し舌を積極的に絡めてしまう、、、気持ちよさに真下さんに沈みかけるが、それでも俺はこの後のスケジュールを思い出し慌てて真下さんを押して距離を取る。
「真下さんそろそろ搾乳時間なんで、そのっ。」
「わかってる、、、わかってる。」
真下さんは両手で俺の顔を包んで逃げられない様固定して丁寧に俺の口内を舌で触る、ねっとりと丁寧に唾液をお互い混ぜ合い、唾液の橋を真下さんが拭き取り俺の顔を撫でる。
「すまない。」
「いえ、、、その、大丈夫ですか?」
激甘なキスに脳が溶けているがそれでも頭の端にはヒートの事があり俺は真下さんの体調を確認する。
「あぁ、、、多分。」
「搾乳したら直ぐ夕食ですよね。」
夕食の管理は真下さんがメインでしている、体調によってはむぎわら君がサポートしたり、誠華君や和夫さんに任せる事も考えなければならない。
「そう、そうだな。」
「我慢出来そうですか?」
真下さんは頷いてくれるので、俺は少しホッとする、多分緊急性のあるヒートでは無いようだ、よかった。
「すまない、悟史君もこれから搾乳の準備があるだろ?」
「あ、いえ、その、、これは、、、。」
ぼんやりしている俺を今度は真下さんが心配してくれる、先程の濃厚なキスでこんな事になっているとは思うが実はもう一つ理由がある。
「その、何時もより真下さんの匂いが、、、濃くて。」
普段、訓練だろうと、恋人としてのセックスだろうと、真下さんは体を清めて行う様にしていた、勿論、それは管理する仲間の為、俺の為ではある。
けれど今日はそんな事前準備も無くいきなり真下さんの濃い匂いを嗅がされて思っていた以上に体にスイッチが入ってしまったらしい。
甘い草の香りの奥、何時もよりも濃い真下さんの雄の匂い。
「本当、すまない、搾乳迄後ちょっとしか無いが、、、。」
真下さんは困った様に眉を下げ俺を深めに抱きしめてくれる、それに俺は迷いなく腕を回し真下さんの匂いを鼻腔いっぱいに満たされる様息を吸う。
俺は本当、真下さんドストライク。
「今はこれで我慢してくれ。」
「え?」
真下さんは俺の太ももを掬って横抱きにして座り、素早く片手で俺のズボンのベルトを外しチャックを下げ下着ごと一気に膝迄ずり下ろす。
「真下さん?」
中途半端な状態のちんぽを空気に晒され、俺は困惑するも真下さんは余裕の無さを隠す様に微笑み俺の半立ちを握る。
「あ"っ、いや、大丈、、、ぶっ、、、んっっ。」
疼いていた小さな熱が真下さんのゴツくて男らしい手で簡単に大きな火になって行く、真下さんの太ももに頭を乗せ気持ち良さに体を反ると俺を支えて伸ばしていた腕の根本、脇に顔が近づき、その臭いにゾクゾクと体が痺れる。
「成る程、そう言うのも好きなのか。」
「っっ、、、ま、真下さん。」
「後でまたじっくりやろうな。」
真下さんは俺のちんぽに唾液を塗って滑りを良くして血の巡りが良くなった俺のちんぽをシコシコと面倒を見てくれる。
「〜っっっ!!真下さんっ、、、イ"っ、、、イ"ぐっ、、!!」
色々と条件が揃い過ぎていて俺のチンポは直ぐに勢いよく精子を真下さんの手の中にぶち撒ける。
やばい早漏と思われたかも、、、そんな心配をする中運んでくれたカバンを真下さんは側に引き寄せティッシュを取り出し汚れを拭き取ってくれる。
「いっぱい出たな。」
「真下さん。」
「ん?続きは夜しよう。」
「はい。」
いや、そもそも真下さんから始めたんじゃ、、、俺はその言葉を呑み込み真下さんを不満そうに見上げると優しく真下さんは俺の頭を撫でる。
「そろそろ時間だな、行こうか。」
「、、、はい。」
昨日は楽しい牧場見学を皆んなとして、帰宅後色々あったがその夜期待通り、真下さんと甘くて濃いエロいセックスをして、未だ重い体で半目になりながら俺が朝食を取っているとむぎわら君から連絡が来た。
「おは〜。」
「うん、、、おはよう。」
「え?なに、大丈夫?」
「、、、うん、まぁ、、、、、大丈夫。」
「なら良いんだけど?」
「で、何かあった?」
むぎわら君からの業務連絡に特に心当たり無くなんだろうなとお茶に手を付け口の中の物を飲みこむ。
「あぁ、うん、新たに1名ほど仲間を受け入れようと思いまして。」
「、、、成る程、俺は大丈夫だから、後は皆んなと相談かな?」
「決断早いねぇ、なら、真下さんにもデータ送っておくね。」
今の所集団での大きな亀裂も無く、皆思い思いに協力して過ごしている、作業に関しても負担は感じていないので大丈夫だろうとあっさり俺は頷く。
そもそも皆んな良い人達なのだ、何かあっても支えられるだろうと俺は判断している。
「後は話がまとまり次第再度むぎわら君に報告するね。」
「よろしくお願いします〜、で、後昨日の旅行データも一緒に送っとくね。」
「ん?」
旅行データ?ご飯を咀嚼しながら頭を捻っているとテーブルに置かれていたタブレットの画面が光る。
俺はそれをずるずる引っ張って来て画面を確認する、すると昨日の牧場見学を楽しんでいる俺達の写真がファイルに纏めて送られて来た。
「いつ撮ったの?」
「その瞬間?悟史君も真下さんもカメラの事言わないから、撮っておいた方が良いかなって色々やってみた。」
「色々って、、、。」
むぎわら君の発言に訝しながらも俺は写真の数々をスクロールして眺める、皆んなでトラクター遊覧車に乗っている写真から始まり、牧羊犬ショーで驚いて目が丸くなって耳を上げているコミカルな表情の友伸君、これは羊を真剣に観察しながら羊の毛に指を突っ込んでいる達也君、陽久さんに花咲き誇る笑顔でお手製の料理を渡す誠華君、それぞれ複雑そうな顔をして一列に柵の前で並び牛を眺める皆の姿、、、どれも楽しかった思い出で、むぎわら君への懐疑心は薄らぐ。
ファイルの最後の方、青空にフリスビーが浮かんでいる所を俺は真下さんお手製のシロツメ草の花冠を頭に乗せ隣に座る真下さんと一緒に眺めている写真を見て目を細めてしまう。
シロツメ草の花冠は生花、次の日には所々茶色くなっていてやはり保存は難しく、今朝はその様に寂しさを感じていた。
初めて真下さんから貰った花冠は写真で色鮮やかに残っている。
「ありがとう、むぎわら君。」
「如何いたしまして、じゃ、新入りの件よろしくね。」
「うん。」
「正勝です!牛年齢21!人年齢42!!よろしくお願いします!!!」
「ここの管理をしている悟史君と牛舎管理をしている真下だ、今日からよろしく。」
「うっす!よろしくお願いします!!!」
あれから皆んなの意見なども聞いたのだが皆んなあっさりと受け入れに頷いてくれてスムーズに数日後には正勝君を牧場へ迎え入る事になった。
正勝君は珍しくもこの牧場の服装、ワンポイント牛柄繋ぎをオーバーサイズでゆるっと着こなし、丈雄君の様に日に焼けたこんがり肌で薄眉坊主、秋茂君と同じギザ歯で目は鋭い三白眼と、元気な野球坊主の様な印象を持つ、今は緊張している様で声もハキハキと大きく、益々野球っ子の様に見えた。
「よろしくね!正勝君!!」
「よろしく、、、。」
「よろしくお願いします!」
早速丈雄君と秋茂君が正勝君に挨拶をして施設の案内に正勝君を移動させる。
「元気な子の様だし、丈雄君達なら傷心があっても上手くサポート出来ると思う。」
「そうですね。」
今はまず皆んなと、環境に慣れる所から、俺と真下さんは新しい仲間が上手く馴染めるよう願いながら仲良く話しかける丈雄君達を見守る。
「紫陽花もいい感じに咲いて来たなぁ。」
牛舎周りに花を彩ろうとして周辺にある紫陽花を摘み、家に持ち帰り挿し木として根を生やしてから鉢植えで育ててみたが、ピンク、紫、青と土に工夫をして色調整をしてきた結果ちゃんと予想通りの色合いが出せたと思う。
花の量も多いので室内に飾る用としてわき芽に気をつけながら数個剪定していく、紫陽花は匂いがあまりない、人より敏感な人型牛でも紫陽花なら室内に置いても問題なく愛でられるだろう。
「お疲れ様です。」
「どうも。」
紫陽花の手入れをしていると和夫さんに挨拶をされる。
「紫陽花のお手入れですか?」
「はい、綺麗に咲いたので室内でも置いて貰おうかと。」
「そうですか、良ければお手伝いしましょうか?」
「ありがとうございます。」
和夫さんも牛舎周りの花達の水やりをしてくれていて植物に興味がある様だった、今度花の植え替えに誘ったら頷いてくれるかも知れない。
「優しい匂いがしますね。」
手に持っていた紫陽花を和夫さんに持って貰うと和夫さんは目を細め微笑む。
「似合いますね。」
「え?あ、ありがとうございます。」
少し照れている和夫さんに俺も微笑む、和夫さんと紫陽花、似合うなぁ。
俺は紫陽花を摘み終わるとそれを牛舎内の何処に飾ろうか迷う、誠華君の方が詳しいかな?
「紫陽花を牛舎内で飾りたいのですが、誠華君は中にいますかね?」
「ええ、リビングで作業していましたよ。」
俺は和夫さんに案内されて牛舎にお邪魔する、相良さんは新しく来た正勝君に興味がある為今は皆んなと施設周りを散歩している、直ぐに怒られて追い出される事はないだろう。
「誠華君、紫陽花を飾りたいのですが。」
「あら、綺麗に咲いてますね。」
誠華君は裁縫の手を止めて俺達の側による。
「何処に飾ろうか迷ってまして、お願い出来るかな?」
「ええ、確か、花瓶があった筈なので用意しますね、陽久様のお部屋にも飾っていいでしょうか?」
「それは勿論是非。」
和夫さんと俺は誠華君の指示を聞きながら紫陽花を花瓶に分けて指定された場所に紫陽花を飾る。
「牛舎内は白いので、紫陽花がよく映えますね。」
「良かった、もし希望が有ればまた用意するから俺でも真下さんでも気軽に言ってね。」
「それではその時は遠慮なくお願いさせて頂きますね。」
紫陽花の位置を調整する誠華君は機嫌が良い、それに俺と和夫さんは目を合わせて微笑み合う。
昔から怖がられていた。
「お前面悪いよなぁ。」
「正勝が何もしてないのに睨んだ」
「お前目つきわっる。」
「あ?いや、どうせ正勝がやったんだろ?謝りなよ。」
特に何もしていない、けれど怖がられるし、悪い事をして無いのに何故か謝るのは俺の方、理不尽な環境で怒りを表しても性格が悪いと否定される、、、それなら悪でいい、お前らの望んだ通りでいい、そうして悪いフリを今度はすると嗜められる。
お前らが望んだのに、何故否定するのか、正勝は自分が何なのか分からなくなっていた。
「俺丈雄!よろしくね!」
無邪気で真っ直ぐな眩しい好意に正勝は心臓が痛くなる。
捨てられた先の牧場で、今まで得られなかったものを浴びて如何すればいいか分からなくなる、これ以上、嫌われたく無い、否定されたく無い、、、その事に頭がいっぱいで、必死になると如何しても発する言葉は硬い、そんな自分が情けなくて恥ずかしい。
丈雄にいい所を見せたくても近くにいるデカくて存在感のある秋茂に全てを取られる様で何かをしたくても行動には移せなかった。
「相良さんも一緒に散歩しよ!!」
「お、いいぞ、正勝これからよろしくな!」
「はいっ!!」
「元気があっていいじゃねぇか。」
そして秋茂より更にでかい相良にもう正勝は出る場所を無くしたと感じる。
正勝の周りでは大型の人型牛など存在せず話題にもならなかった、だからこそ人外的な何かを感じ正勝は恐怖さえ感じていた。
俺、悪い事したら本当に消されるかも知れない。
そうで無くても悪い事にされて相良という化け物に始末されるかも知れない、正勝は怯えたまま前を行く仲間について行く。
「正勝君大丈夫?森怖い?」
「いえ、そんな事、無いです。」
「、、、えい。」
怯えて尻尾と耳が垂れている正勝に気付き丈雄は正勝の手を握る。
「俺と手を繋いでも大丈夫?」
「っ!大丈夫っです。」
「よし!じゃこのまま冒険しよう!」
「うっす。」
丈雄は優しい、正勝は今までこんな近距離で敵意無く向き合ってくれる人は居なかった、手汗を心配しながらも正勝は丈雄の手の温度に安心し少しだけ耳が持ち上がる。
わかんない、わかんないけど、、、もう帰る場所は無いんだ。
正勝は怯えを隠す様に一歩踏み出し案内された場所を巡る。
8月中に海と祭り投稿したいよーっ!!!!!