金剛心輝シャイニングディオーネ~世界一面倒くさい魔王とヒロインの純愛(?)凌辱バトル~ 作:johnny内藤
第18話-1
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朧な雲が月にかかった、静かな夜。
修行の旅と称して山籠もり、各地の道場や格闘技ジム破り……果ては魔界への里帰りまでして自分を磨いたダークアメジスティアが、数日ぶりとなる我が家への帰路を急いでいた。
「フフッ、曜はお腹をすかせてるだろうねぇ……帰ったら大好物を作ってあげなきゃ♪」
人間の姿に擬態したアメジスティア――藤村英子は、家で自分の帰りを待ちわびているはずの甥っ子の顔を思い浮かべ、スキップでもしそうなくらいの軽快な足取りで、ヒールの音を響かせている。
すると……。
――カツ、カツ、カツ、カツ……
向こうからスニーカーを鳴らして近づいてくる、小さな人影が見えた。
人気のない夜の小路で、歩きスマホをしている少女。
パーカーのフードを目深に被っているためわかりづらいが、髪は短くカットしている。
身体の凹凸も少なく、一見すると少年と見間違えそうになるような小柄な女の子が、手にした端末から目も離さずに英子とすれ違った――その直後。
「やぁ~英子
挑発の意思を隠そうともしない、嘲りを含んだ笑い声。
すれ違いざま、英子と少女は互いに振り向こうともせず、背中合わせに足を止めた。
「…………ルビィナか」
鋭い眼差しで正面を見据えたまま、英子が口を開いた。
先ほどまでの浮かれ気分だった表情は消え失せ、別人のように引き締まった顔だ。
「アッハハ♪ ちょっと、やめてよぉ……こっちじゃ“ビィ”って名前で通ってるんだから、この姿をしてる時はそう呼んでくれないと。お互い、人間じゃないってことがバレたらやりづらいでしょ? アメジスティア
「ビィ」と名乗った少女が、英子の方へ振り向いた。
フードを脱ぐと、その下から愛らしくも小憎たらしい、せせら笑いの表情が現れる。
英子もその場でクルリと身体を反転させ、十センチ以上は身長差があろう高い位置から、彼女を見下ろした。
――ビィは英子と同じく、
人の姿に擬態し、情報収集や、魔界と人間界との連絡係を果たすのが彼女の任務である。
「……で、いったい何の用だ? そちらから接触を図ってくるとは、何か緊急の案件でもあるのか?」
「や~、緊急ってワケでもないんだけどね? 最近英子オバさんともご無沙汰だったし、どんな様子かな~って思って顔を見に来たの」
話しながらも、ビィはスマホに目を落としたまま、しきりに親指を動かして、タッチパネルの画面を操作している。
「『いきなり旅に出た』なんて噂を聞いたから、何があったのかと思ってたけど……クスクスクス♪ ま、あのヨワヨワな魔王様のお守りをするには、修行して自分がレベルアップするしかないよね~」
「―――貴様……!」
魔王である曜のことを愚弄され、英子が固く拳を握った。
体内で渦巻く闇のエナジーの流れが加速し、すぐにでも目の前の少女に飛び掛かれるよう、臨戦態勢を整える。
「いやだなぁ、マジになんないでよ……今週はクランバトルのイベントがあってさぁ。こうやってポチポチしてないとすぐにランキングから落ちちゃうから、ムダなリアルファイトなんかしてるヒマないんだよね~」
熱風のようなエナジーの余波を浴びせられながらも、ビィは涼しい顔でスマホを弄り続けている。
「……
「ニヒヒヒッ♪ そっちこそ、他人のこと言えるの~?」
ビィはスマホの画面からようやく目線を上げて、馬鹿にするように英子を見上げた。
「どういう意味だ?」と言いたげに、英子がその目を見返すと――
「十年間も人間としての暮らしにどっぷり浸かって、愛しの甥っ子と甘々な家族生活……。おかげで魔王様はすっかり腑抜けて、人間界の侵攻もぜんぜん進んでないじゃ~ん♪」
「くッ……!?」
痛いところを突かれ、英子が顔をしかめた。
「そんなことはない! 魔王様は、徐々に昔の力を取り戻している最中だ。これから本格的に目覚めの時を迎え、我々魔族を率いて必ずや人間界を……」
「それ、本当に信用できるのぉ? 魔王としての人格は一向に表に出ないまま、シャイニングディオーネとバトって、ヤッたりヤラれたり……最近はそのせいで、せっかく溜めた闇のエナジーも、ちょっとずつ浄化されてるみたいじゃん」
「そ、それは、お仕えしている私が力不足なだけだ! だからより強くなって魔王様を補佐できるよう、こうして修行の旅にだな――」
「そんなん、いくらオバさんが鍛えたってムダムダ~。だって、魔王様にその気があるように思えないんだもん……あの人、本当に魔族のために働いてくれるのぉ?」
大きな目で覗き込むように見つめられ、英子は返答に窮した。
――たしかにビィの言うことも、完全には否定はできない。
闇のエナジーを取り込んで魔力を取り戻したものの、曜は前世の記憶を封じたまま、その力をシャイニングディオーネのためだけに使っている。
それどころか人間を極力殺さぬように立ち回り、いまだに英子以外の魔族を激しく敵視しているのだ。これでは魔族と人間、どちらの味方かわからない。
「……だ、だが
「遅い遅~い。それって何年かかるの? 一年先? 二年先? ひょっとして、もう十年追加で待てとか言わないよねぇ?」
ビィは再びスマホの操作に熱中し、英子の宣言を遮った。
「そんなノンビリやってたら、いい加減魔界の連中だって待ちきれなくなっちゃうよ? 人間界で暴れるのを禁止されてずいぶん経つし、みんな血と破壊を求めてウズウズしてるんだから」
「魔王様が完全復活するまでの辛抱だ、もう少しくらい我慢しろ!」
それを聞き、英子が声を荒らげた。
「それとも貴様らは、魔王様の意向を無視して勝手に動くつもりか? そんな重大な裏切り行為、この私が許すとでも――」
「ハハッ♪ よく言えたもんだよねぇ~……魔王様がやってることこそ、魔界への裏切りじゃない? 正義のヒロインとの、馴れ合いみたいなキャッキャウフフ……おまけに中途半端に先代ヒロインに手ぇ出して、新たな戦士を目覚めさせちゃったって言うじゃない」
そう指摘されて、英子は言葉に詰まってしまった。
たしかにブラックディオーネの誕生は、魔界にとっては無視できぬ脅威になるだろう。この件に関しては明確に英子の……そして魔王である曜の失策だ。
「……ねえオバさん、いい加減認めようよ。今回の魔王様の転生は、失敗だってさ」
もはや英子の顔を見ようともせず、ビィが砕けた軽い口調で続ける。
「いま魔界では、大きな戦いに備えて気運が高まってるんだよねぇ。目的は人間界への大侵攻と――魔王様の抹殺」
「なッ……!?」
信じられないビィの言葉に、英子が息を飲んだ。
「だってしょうがないじゃん? 魔王様の転生体……曜クンだっけ? 彼、精神力が強すぎて、魔王の人格が表に出ることは望めないんだから。だったら魔王の魂を封じたままコロコロしちゃって、次の転生に賭けた方がまだマシってもんでしょ?」
「バカなッ! そんな不敬が許されるはずなどッ――」
「バカはそっちでしょ?
そう言ってスマホを見つめたまま……ビィが唇の両端を三日月のようにつり上げて、邪悪な笑みを浮かべた。
「貴様ァッ……!!」
「怒るくらいなら結果を出しなよ。
激昂する英子をあざ笑うかのように、ビィが淡々と言い放つ。
「いま魔界では、強硬派の魔族が次々に集結してるところだよ? 特にレオクロウ将軍は、前回やられた傷がようやく癒えたところだからね……打倒シャイニングディオーネに向けて、爪を研いでる最中だよ」
レオクロウとは、以前この街を襲った獅子面の魔族のことだ。
強硬派と呼ばれる魔族の中でも、特に闘争を好む彼のこと。シャイニングディオーネとの戦いに曜を巻き込んで殺すことに、何の躊躇も見せないだろう。
そんな彼と同格の魔族が集結している。もしヤツらが本気で人間界に攻めてきた時、自分の力だけで曜を護りきれるのだろうか?
遠からぬ未来の光景を思い描いた英子の背中を、冷たい汗が伝う――
「……アハッ♪ まあまあ……何もボクらだって、同じ魔族をむやみに殺したいわけじゃないんだしさぁ」
ようやくスマホをポケットにしまったビィが、本気とも冗談ともつかない口調で英子にささやきかけた。
「んじゃ、期待してるよ? 魔王様一緒に、
最後にそう言い残し、パーカーのポケットに両手を突っ込んだビィが去って行く。
英子はしかし、遠ざかるその背中を見送るわけではなく――ただただ足元のヒールの先だけを見つめて、拳を震わしその場に立ち尽くしていた。