金剛心輝シャイニングディオーネ~世界一面倒くさい魔王とヒロインの純愛(?)凌辱バトル~ 作:johnny内藤
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朝の教室は、この日もいつもと同じ賑わいに溢れていた。
シャイニングディオーネの勝利で終わった、昨日の襲撃事件。
近くの街が魔物に襲われた――と言っても、広い都内に無数にある街の一画が災難に見舞われたに過ぎない。
ほとんどの者はそれを『自分とは関係ない場所で起きた、不幸な災害のようなもの』と捉え、深刻な現実として実感してはいないようだ。
「…………はああぁぁぁぁぁ……」
そんな和気藹々とした教室の隅で……俺は机に突っ伏して、ひとり凹んでいた。
(まさか二日連続で、あんな夢を見るなんて……)
いったいどれだけ溜まっているのか……自分がこんなにも性欲の強い人間だったのかと思うと、なんだか泣けてくる。
しかもよりにもよって、恩人である英子叔母さんと魔族の女を重ねるような夢を見てしまうとは。
俺はそうまで叔母さんを意識して、エロい目で見ているのか……と、情けなさと罪悪感で頭をかきむしりたくなってくる。
そんな思いが外まで漏れているのか、クラスメイトたちはいつも以上に俺を遠巻きに見ている。まるで教室のこの場所にだけ、ポッカリと穴が空いているようだ。
……まあ当たり前か。ひとりで顔を伏せて、周囲にイライラを振りまいてるような奴がいたら、危なっかしくて俺だって声をかけようとはしないだろう。
だが――
「ぇ、えぇっと……黒河、くん……?」
そんな危ない男に、それでも話しかけてくる女がいた……そう、姫菱陽花梨だ。
コイツ、空気が読めないのか? それとも逆に空気を読んで……
『クラスの雰囲気が悪くなるから、イライラするなら別のところでやってくださいませんこと?』
……とでも言いに来たのだろうか。
だとしたらその言葉はごもっとも。もしそう言われたら、俺に反論の余地はないだろう。
さすがは責任感あるクラス委員。教室内の秩序を守るため、正しい判断をしたとしか言いようがない。
「あの、えっと……お、おはようございますっ」
……が、どうやらそれは俺の思い込みだったようだ。
声色こそいつも以上に硬いものの、姫菱は例によって挨拶をしにきただけらしい。
「………………」
普段なら適当に返事をしてお引き取り頂くところだが、今日はそんな気分にもなれない。
俺は黙って顔を伏せたまま、対話の意志がないことを
なんなら寝たふりでもして、このまま立ち去ってもらうのを待つか……。
「あ、あの~……その、ですね……?」
しかし今日の姫菱はしつこかった。
いつもだったらこうすれば諦めてくれるのに、今朝は俺の後ろでモジモジと指を合わせる気配が、いつまで経っても消える様子がない。
やがて意を決したような深呼吸の音が聞こえて……姫菱が、再び俺に話しかけてきた。
「あの……勘違いだったらごめんなさい、なんですけど。……黒河くん、ひょっとして昨日の放課後……魔物に襲われた例の街に、いたりしませんでしたか……? な~んて……」
「………………」
意外な言葉に、俺の肩がピクリと動いた。
……しまった。こんな反応を見せては、寝たふりでスルーというわけにもいかない。
仕方なしに、俺は机に伏せていた頭をゆっくりと上げた。
「あっ……えっと。わ、私も昨日、あの街に住んでる友達と会う約束があって……たっ、たまたまなんです! たまたまその場に居合わせて……そこでたまたま黒河くん……に、よく似た人を見かけた気がして。それで……あの……」
聞いてもいないのに、姫菱が言い訳のような言葉を並べる。
別にこっちは姫菱があの街で何をしていたとか、俺の姿をいつ見られたとかは興味ないんだけど……。
彼女が何を気にしているのかはわからないが、特に隠しておく必要もない。俺は首を横に向け、目線だけで姫菱を振り返った。
「ああ……いたけど」
「ぁ……えっ!? や、やっぱり……」
俺からの返答があったことに驚いたのか、姫菱が一瞬目を丸くした。
しかしすぐに目を伏せ、言いづらいことを言うように、胸の前で手をモジモジさせながら口を開く。
「えっと……できれば、危ない場所には近づかない方がいい……と思います」
「………………」
「その……お子さんを助けていたみたい……ですけど。そういうことは、大人の人に任せて……そ、そうしないと、黒河くんだって危険ですし……」
……なんだ、その手の忠告か。
過去に訳知り顔の教師や警察官から、何度となく聞かされた言葉だ。
やれ「現場を混乱させるな」だとか、やれ「お前が怪我をしたりすると、自分たちの責任になる」だとか――
経験上こういうことを言ってくるタイプには、下手に逆らう方が面倒くさいことになるというのはわかっている。
「……ああ、ああ。わかったよ。心配してくれてありがとうな」
俺は素直に聞き入れたふりをして、再び前を向く。
毒にも薬にもならないこの話を、さっさと切り上げようとしてのことなのだが――
「ま、真面目に聞いてくださいっ。黒河くんの身に何かあってからじゃ、遅いんですよ?」
いつもならあっさり引き下がるはずの姫菱が、今日に限って妙に食い下がってくる。
「私たちを襲う魔族は、人間よりずっとずっと強い力を持ってて……建物だって簡単に壊しちゃって。か、火事になった家とかビルとか、いつ倒れてくるかわからないし……そんな街を歩き回るのは、すごく危ないって言うか……」
「――――。…………」
いつの間にか教室は静まりかえり、二人の会話……と言うより、必死に忠告を続ける姫菱の言動を、みな固唾を飲んで見守っている。
一方的に絡まれているのはこっちなのに、まるで俺が姫菱をいじめているかのような雰囲気だ。
そんな教室内に漂う空気に、抑えていた苛立ちが次第に強くなっていく――
「だから、その……こ、困ってる人を助けるのはとても、とっても立派なことなんですけど! やっぱりそういうのは、大人の人に……」
「……大人が頼りになるって? はは……さすがは優等生。いかにも大人に受けが良さそうなこと言うんだな」
「…………え?」
今度は身体ごと振り返り、俺は正面から姫菱を見据えた。
初めて示した明確な俺の反応に、姫菱は意外そうな表情を浮かべて、子供のように大きな丸い目をキョトンさせている。
「要するに、助けられる命がそこにあっても、そんなの放っておいて自分だけ逃げろってことだろ? そうだよな……まずは己の保身優先。自分で自分の身も守れないやつに、人助けなんてする資格はないよな」
「あ……えっと……そ、そうじゃなくて……」
「どう違う? よかったら聞かせてくれよ。自分のことしか考えてない街の連中と、助けを求める人を平気で切り捨てる正義のヒロイン。アンタが言ってるのは、そいつらがしていることと同じだろ?」
「…………っっ」
苛立ちを込めた言葉を、半ば八つ当たりするように投げつける。
俺の悪意を正面からぶつけられた姫菱は、ショックを受けたように口を押さえ、硬直してしまった。
そんな二人の様子を見て、周囲がざわつき始める。
はたから見れば、この光景は完全に『クラスの人気者をいじめる問題児』といった図式だろう。
……だからまともに相手なんてしたくなかったんだ。優等生と言い合ったって、こっちが損をするばかり――
俺は正面に向き直ると、深いため息をついて、机の横にかけていた鞄を手に取る。
「ぁ……く、くろかわ、くん……?」
クラス中から浴びせられる非難めいた視線を振り切るように、俺は教室の出口に向かって歩き出す。
もういい……これ以上イヤな気分になる前に、今日は自主早退にさせてもらう。
「くっ、黒河くん! あの……絶対に、危ないことはしないでくださいね!」
そんな俺の背中に向かって、姫菱はなおもそう叫ぶ。
俺はそれに応えることなく、教室の扉を黙ってくぐった。