金剛心輝シャイニングディオーネ~世界一面倒くさい魔王とヒロインの純愛(?)凌辱バトル~ 作:johnny内藤
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「………………」
「………………」
――とある休日の昼下がり。
俺はテーブルに置かれたケーキを睨み殺すくらいの勢いで凝視しながら、対面に座る女性が口が開くのを待っていた。
「………………」
「………………」
原形を保ったままのケーキの隣には、紅茶が注がれたティーカップが置かれている。
もちろん、こちらも手つかずのままだ。
「………………」
「………………」
女性は優雅な所作で自身のカップに口を付け、まるでこの紅茶が無害であることをアピールするかのように、それ傾けてみせた。
「………………」
俺はケーキから目線を外して……しかし相変わらず黙りこくったまま、女性が紅茶を飲む姿を見つめ続ける。
……そして。
「……ふふっ、どうしたの? 遠慮しないで、曜くんも召し上がれ♪」
プルンと潤いを帯びた唇を、カップから離した女性――姫菱純玲さんは、俺と目が合うと、ニコリとほほ笑みながらケーキを勧めてきた。
――この日、俺を自宅(すなわち姫菱の家に)に呼び出したのは、他でもない純玲さんだった。
以前俺のことを調査していた際に、スマホの番号も入手していたのだろう。とつぜん知らない番号から電話がかかってきて、しかもその相手が純玲さんだとわかった時にはひどく驚いたものだけど……。
「たまには会って話さない?」などと軽い調子で誘われたのだが、そもそも俺と彼女は敵同士。ただ世間話をするために呼び出したわけじゃないだろう……ということは容易に想像がついた。
もちろん罠である可能性も充分ある。だけどちょうど俺にも、純玲さんに
いざとなれば、逃げる手段はいくらでもあるし……ということで、俺は危険を承知でこの誘いにあえて乗ってみたのだった。
ちなみに姫菱は外出中で、夕方まで戻らないことは確定しているらしい。(なんでもクラスの友人たちと遊びに行ったのだとか)
「――せっかく美味しいケーキも用意したのに。曜くん、甘いものは苦手だったかしら?」
「別に……。ただ敵の根城で出されたものに手を出すほど、おめでたい頭はしてないから」
いま言ったことは半分事実で、半分嘘だ。
たしかに俺は純玲さんに対してそれなりに警戒心を持っていて、おもてなしの紅茶やケーキにも口を付けないでいるのだが……同時に、甘い食べ物は得意な方じゃない。
「ほら……魔女の家でお菓子を食べたら怖いことが起きるって、相場が決まってるでしょ」
「あら、魔女って私のこと? ひどいわねぇ……何も太らせて食べようだなんてつもりはないわよ?」
俺の皮肉にそう返しながらも、純玲さんは可笑しそうにクスクスと肩を揺らした。
「そんなに警戒することないのに……毒なんか入っていないんだから。さっき、同じポットから紅茶を淹れたのを見てたでしょう?」
……たしかに。
純玲さんはテーブルにひとつしかないティーポットから俺のカップに紅茶を注いだ後、自分のカップにも同じようにした。
だったら俺のカップにだけ細工をしているのでは……なんてことも考えられなくはないのだが、少なくとも紅茶自体に何かを仕込んでいる可能性は低いだろう。
「それに魔族である曜くんを、毒なんかでどうにかできると思う?」
「どうだか……アンタは、エナジーの操作ならお手の物だろ? もしかしたら聖なるエナジーを魔族だけに効く毒に換えて、お茶に混ぜてたりして……」
「まあ……そんなこと、考えたこともなかったわ」
純玲さんは片方の手を頬に当てて、「心外だわ……」とでも言うかのように大げさに傷ついたフリをしてみせた。
「……でも、おもしろそうね♪ ちょっと試してみようかしら」
「いい、いい! やらなくて!」
……しかしすぐにケロッとした表情に戻り、紅茶のポットに手を伸ばす。
俺が大慌てでそれを止めると、純玲さんはあっさりと引き下がって再び自分のカップに口を付けた。
クソッ……早くもペースを握られてしまっているようだ。
なんとかこっちが主導権を奪わないと、このまま延々とからかい続けられそうな気がする……。
「……そう言えば、初めて曜くんの家に行った時。私も同じように、出されたお茶に手を付けなかったわね」
やや遠くを見つめ、純玲さんが過去を思い出すように「ふぅ」と息を吐いた。
そう言えばあの日、俺が出したお茶を、純玲さんは一口も飲んでいなかったっけ。
「今になって、あなたの気持ちがわかったわ……何もしていないのに疑われるっていうのは、たしかにあまり気分がいいものではないわね」
両手で挟み込んだカップをゆっくりと左右に回しながら、純玲さんがしみじみとため息をつく。
「だいたいあなた達の力があれば、お茶を使って私を罠にかける必要なんてないものね。曜くんは純粋に私をもてなしてくれただけなのに、疑ってしまって悪かったわ」
「………………………………」
「…………えっ」
……いや、大正解。
純玲さんの読み通り、あのとき俺は叔母さんに力を借りて、闇のエナジーを変質させた媚薬をカップに仕込んでいたのだ。
結果的には不意打ちで彼女を制圧することができたので、たしかにその策は無駄に終わったんだけど……。
他にもトイレとかキッチンとか、逃走された時のことを考えて、窓枠なんかにも罠を張り巡らせていた。
いや、だって、勝ち筋は一本でも多く用意しておくに越したことはないし……純玲さんがうちの周りを嗅ぎ回ってるって知ってたから、いろいろと準備をしておく時間もあったし……。
……なんだか自分の性根の卑しさを、まざまざと見せつけられた気分だ。
純玲さんと目を合わせているのが気まずくなり、俺は再びテーブルのケーキや紅茶に視線を落とした。
「ふぅん……あの
純玲さんはジトッと目を細め、チクチクと刺すような視線を俺に向けてくる。
いやまあ、たしかにほとんどの策は叔母さんがプロデュースしたようなものだけど……二人でアイディアを出し合って罠を仕掛けている時はけっこう楽しかったから、叔母さんだけを責めないであげて欲しいって言うかなんと言うか……。
「……って、俺のことはどうでもいいだろ。それよりも、話があるからわざわざ呼びつけたんじゃないの?」
このままでは手綱を握られ続け、おかしな方向に話が進んでしまいそうだ。
俺は無理やり話題を変えて、本題に入るのを促した。
そしてティースプーンでカップをガチャガチャとかき回し、おそらく無毒であろうそれにようやく口を付けようとする。
「ふふっ、そうだったわね」
純玲さんも気持ちを切り替えたようで、またいつもの微笑みを浮かべる。
そして俺が紅茶をすするのと同時に、こう切り出した。
「話っていうのは、陽花梨と曜くんのことなんだけど……二人はどこまで進んでるのかな~、って♡」
「ぶふぅッッ!?」
予想外の質問に、唇とティーカップの縁から紅茶が溢れてしまった。
「あらあら、大変……」
純玲さんが布巾を手にして、俺の口元やテーブルを拭こうとする。
俺はそれを乱暴に奪い取って、濡れた部分を自分でぬぐった。
「あのなぁ……いきなり変なこと言わないでくれる? 俺じゃなかったら、顔中ヤケドしてたところだよ」
「大げさねぇ。淹れたてじゃないんだし、そこまで熱くはなかったでしょう?」
純玲さんは呆れたようにそう言った後、目をキラキラと輝かせて、テーブルについた肘で頬杖をした。
「…………で、どうなの? 陽花梨とのお付き合いは?」
「だから、話の入口がおかしいんだって……俺とアイツはなんでもない。だいたい、俺があんな変な女と付き合うわけないでしょ」
こぼれた紅茶を拭き終えた俺は、テーブルに布巾を放り投げながらそう吐き捨てた。
「あら、そんな言い方はないでしょう? うちの子は、どこへ出しても恥ずかしくない自慢の娘よ?」
「いや、変でしょ……少なくとも、俺がこれまでの人生で会った中では、一番変な女だよ」
――そもそも、母親のアンタからしてちょっと変なわけだし。
という言葉が一瞬よぎったが、これ以上面倒くさくなったら収拾がつきそうにないので、心の奥に押しとどめておく。
「そうかしら? たしかにちょっと世間知らずだったり、頑固者だったりするところはあるけど……。ねえ、あの子のどこがそんなに変なのか、よかったら聞かせてくれる?」
純玲さんはキョトンとした顔で首を傾げながら、そう訊いてきた。
……ちょうどいい。これは俺にとっても、前々から気になっていた
だけど変な風に伝わったら、またややこしいことになりそうだ。
俺は慎重に言葉を選びながら、緊張と躊躇で乾いてきた唇をぎこちなく動かす。
「あぁ~~~っと……ちょっと言いづらいことなんだけど……笑わないで聞いてほしいんだけど……」
「ええ、もちろん。真剣な話なら笑ったりしないわよ?」
「えぇ~~~……っと……その…………。前から思ってたことなんだけど…………これは『もしかしたら』の話なんだけど…………もし俺の勘違いだったりしたら、遠慮なく指摘してほしいんだけど…………こんなこと、自惚れてるみたいで本当は言いたくないんだけど…………」
「長い長い! 前置きはいいから、早く教えてちょうだい?」
自分の娘のことだけに、俺がなかなか言い出さないことに焦れているのだろう。
純玲さんは姿勢を正して、はやる気持ちを抑えるように紅茶をすすろうとする。
……そして俺はひとつ深呼吸をし、真顔でこう尋ねた。
「――――アンタの娘は、俺に……………………好意を持ってるんじゃないか……?」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
ティーカップを手にしたまま俺と視線を合わせ、今度はフリーズした純玲さんがたっぷり十数秒ほど黙りこくった後――
「……………………はい?」
呆気にとられたような顔で、そう聞き返してきた。