金剛心輝シャイニングディオーネ~世界一面倒くさい魔王とヒロインの純愛(?)凌辱バトル~ 作:johnny内藤
……あれ? なんだこの反応。
予想では、俺の言葉を聞いた純玲さんが――
『言われてみればそうかもしれないわね……』
とか、
『とうとう気づいてしまったのね。実はそれにはこういう
みたいな返答をしてくるはずだったんだけど……。
いま言ったことは、思い込みや自意識過剰から出た言葉なんかでは決してない。
これまでの姫菱との会話や交流から俺なりに導き出した、ほぼ正解に近い推理だと思っていた。
……だけど母親である純玲さんの、このリアクション。やっぱりただの勘違いだったのか――?
「ッッ……!?」
そう思い至った瞬間、耳の奥で『ゴゥ』と血流が速くなる音が聴こえた。
自分の意思に反して、顔面がどんどん熱くなっていくのを感じる。
俺は赤くなった頬を見れらまいと、目の前に思い切り突き出した手のひらをブンブン振りかざし、純玲さんの視線を遮った。
「あっあっあ……や、やっぱりいまの無しッ! 嘘! 間違えた! 俺が言いたかったのはそういうことじゃなくて……って、て言うか違ってたら指摘してって最初に……!」
そのあいだ無言を貫き、取り乱した俺の姿を静観していた純玲さん。
やがて自分の頬に片手を当てて、
「……ふぅ。二人の関係がなかなか進展しないのは、どうやら曜くんに問題があるみたいねぇ」
「えッ!?」
ため息の意味がまったくわからず、思わず目を見開いてしまった。
「ど、どういうこと? そんな
「そりゃあ困るわよ。さんざん勿体付けて前振りした挙句、世界中で自分だけが気づいたような顔で『空って、本当は青いんじゃないか?』って聞かれたんだもの。この子はいったい何を言ってるのかしら……なんて、頭が少し止まっちゃった」
ずいぶんと持って回った言い方だけど……要するに『見ればわかる』ということを言いたいのだろうか?
「え~~~……っと? それじゃあ、娘さんはやっぱり……」
「好きよ。勘違いなんかじゃなくて、陽花梨は間違いなく曜くんのことが大好きね」
(……やっぱり)
純玲さんが妙なリアクションをするせいで少々自信が揺らいでいたが、思った通り、俺の推理は当たっていたらしい。
俺を見るアイツの瞳や、いくら突き放してもじゃれついてくるような諦めの悪さ……。
うすうす感づいてはいたのだが、純玲さんの言葉でそれが確信に変わった。
……そしてそのことを意識した途端、また耳の奥で血潮がうなり、顔から火が噴き出しそうになった。
「非情で狡猾な魔王を演じておきながら、実際は鈍感なお人好しだったり……ドライな一匹狼に見せかけて、照れ屋なへそ曲がりだったり。こう言ったらなんだけど、あなた世界で一番面倒くさい性格しているわよ?」
「………………」
「ふぅ…………こんな
「…………余計なお世話ですよ」
再び長いため息をついた純玲さんに、俺は苦虫を噛み潰しながら、せめてもの憎まれ口を叩いた。
「――それで? そのことと『陽花梨が変』っていうことが、どう繋がるの?」
「いや……変でしょ。俺を好きになるとか」
「どうして?」
「だって俺たち、魔族と人間だし……」
「あら、そんなの関係ないじゃない。現に国や肌の色が違っても互いに好きになる人たちは、世界中に大勢いるわけだし」
「だからそれは人間同士の話でしょ。しかも俺とアイツは、ただの魔族と人じゃない……魔王と正義のヒロインっていう、交わることなんて絶対ありえない存在なんだから」
「それだって、曜くんが自分で決めつけているだけでしょ? 思い込もうとしていると言ってもいいわね。ともかく、大切なのは当人たちがどう思っているかであって、生まれや立場は重要なことじゃないわ」
さすがは姫菱の母親なだけあって、この人もなかなか強情だ。
こっちは至極まっとうな主張をしているつもりなのだが、
「曜くんはどうなの? 曜くんだってあの子のこと、好きでいてくれているんでしょう?」
「……………………」
……それどころか、逆にこっちが黙らされてしまった。
「曜くんはひねくれ者だから、素直に口で伝えるなんてことはないでしょうけど……。好きでもない女の子のために、人間であることをやめてまで魔王になる人はいないわよね?」
「……たまたまだよ。人間どもに愛想が尽きて、魔王になってアンタたちを皆殺しにしてやろうって思ってたタイミングで、アイツがあんなことになったから」
「そう? その割には、人殺しよりもシャイニングディオーネと戦うことにご執心に見えるけど」
嫌味なほどに落ち着き払った態度で、純玲さんが紅茶を口に運ぶ。
その減らず口をなんとか閉じさせたくて、俺は
「いいのかよ、こんな魔族に娘を差し出すようなことを言って? 俺が人間の男たちを使ってアイツに何をしているか、知らないわけじゃないんだろ」
「………………」
それを受け、さすがの純玲さんも一瞬口をつぐんだ。
そして心を落ち着かせるようにカップを傾け、乾いた唇に潤いを与える。
「まあ、価値観の違いは多少あるにせよ……。でもそれって、曜くんなりにあの子を救おうとしているわけよね。正義のヒロインという呪縛から解き放って、悪意を持った人たちから守ろうっていう」
「………………」
「そして陽花梨は陽花梨で、あなたを救いたいと思っている……立場は逆だけど、まったく同じ想いとやり方でね」
空になったカップに紅茶を注ぐため、純玲さんがポットに手を伸ばした。
俺にも
「ここまで気持ちが通じ合っているのなら、何も迷う必要はないじゃない。人間だとか魔王だとか、つまらないことにこだわってないで、早く付き合っちゃえばいいのに」
「…………付き合えるわけないだろ」
「それはどうして?」
吐き捨てるように言った俺はティーカップをテーブルに置くと、包み込むようにそれを両手で覆った。
少しでも加減を間違えたら砕けてコナゴナになってしまいそうな、陶器の脆さ。
それを感じた俺は感情に波を立てないよう、努めて冷静にと自分に言い聞かせて言葉を紡ぐ。
「……知ってるか? 十年前の大侵攻。あれは俺を探すために、魔族たちが起こしたんだと。魔王の生まれ変わりである俺を探すために、街ひとつが焼かれて……」
砂糖を入れた紅茶を、スプーンでかき混ぜようとしていた純玲さん。
その手がピタリと止まった。
「俺の家族は、俺のせいで殺されたんだ。……いや、家族だけじゃないな。何百、何千っていう人たちが、何も知らないまま巻き込まれて、焼かれながら死んでいって――」
「………………」
「なのにひとりだけ生き残った俺が、自分を好いてくれる女と付き合って幸せに過ごす。そんなこと、できるわけ――していいわけ、ないだろ」
最後のほうは、かすれた声を絞り出すのがやっとだった。
しかし言葉は届いたようで、さっきまで流暢にしゃべっていた純玲さんが、今度は押し黙ってティーカップの中身を見つめている。
――――そして沈黙が何秒か続いた後。
顔を上げた純玲さんが、重たそうな唇を開いた。
「曜くんが、頑なに陽花里を受け入れようとしないのは……やっぱり私が原因なのかしら? 私が曜くんのご両親や、妹さんの仇で……あの子は、その娘だから――」
「………………」
否定はできなかった。
あのことについては純玲さん側の事情も気持ちも、充分に理解しているつもりだ。
まだ人命救助に奔走していたころ、もしも純玲さんと同じ状況を突きつけられていたら、俺だってどちらを選択したか――
だけど百人は下らないであろうマンションの住人のために、自分の家族三人の命を差し出して、「みんなが助かってよかった」と思えるほどには、俺はまだ割り切れてはいなかった。
「……許すのは、怖い?」
「………………」
「何年もの間、私を憎むことで前に進んで、人助けに明け暮れて……。そんな曜くんからしたら、私を許すことでその原動力がなくなってしまうのは不安かしら」
そうかもしれない。
この十年間、俺は正義のヒロインに復讐するため、なんとかやってこられたんだ。
なのに今さらその動機がなくなったら、いったいどうなってしまうのか――自分でも想像がつかない。
「……私はあのとき、間違ったことをしたとは思ってないわ。だけど、ひどいことをしたと思ってる」
「………………」
「私は大人として……あなたに深い傷を負わせた者として、一生恨まれ続けられるべきかもしれない。それがあなたの歩く力になるなら、背負い続けて責任を全うすべきなのかもしれない」
両手で挟んだティーカップが、ミシリと小さな音を立てた。
俺は鼻から深く息を吸い、自然と強張っていく指を弛緩させる。
「だけど私のせいで、娘の初恋が台無しになるのはいや」
「………………」
「またあなたに、一生消えない痛みを押し付けることになるわ。単なる母親のエゴだって、軽蔑されるのもわかってる。でも――」
やめてくれ。
その先を聞いたら、俺は――――
……そんな願いを余所に、純玲さんが淡々と続ける。
「――――ごめんなさい、曜くん。十年前、あなたの家族を助けられなかったこと……許してちょうだい」
「……………………」
純玲さんは堂々と正面を見据え、思いのほかはっきりとした口調でそう言った後……俺に向かって頭を下げた。
俺はその姿を見返すこともできず、ただ黙って一連の動作を視界の端で感じていた。
――十秒、二十秒。
そこから互いに口も開かず、壁掛け時計の針を耳にしていた。
先に沈黙を破ったのは俺だった。
手のひらに収まったティーカップは――縁すら欠けることなく、形を保ったままだ。
「初恋なの?」
「…………えっ?」
俺がいきなり話し始めたことに驚いたのか、純玲さんが目を丸くして顔を上げた。
「だからアイツは、俺が初恋なのかって。アンタがさっきそう言ったろ?」
「ぁ……ええ、そうよ。小さいころから、あの子に好きな男の子がいたなんて聞いたことないわ」
「…………そうなんだ」
気を抜くと頬が緩みそうになってしまうのをごまかすため、俺はわざと大振りな動作で深呼吸をして、斜め上に視線を投げた。
「……実は俺、昔はアンタのファンだったんだ」
「えっ、そうなの?」
脈絡のない話を切り出したにもかかわらず、純玲さんは普段と変わらぬ世間話をするように、自然に対応してくれる。
「それはそうでしょ。どこからともなく現れて、街を襲う怪物から人々を守る正義のヒロイン……しかもそれがとびきり綺麗なお姉さんときたら、子供なら誰だって憧れる」
「お姉さん、ねえ……十年前のことにしたって、もういい歳だったんだけど」
照れ隠しをするように、純玲さんが困った顔で茶化しながら頬をかいた。
「……これを聞いたら絶対いい気になるから、アイツには黙っていてほしいんだけど」
他に誰かが聞いているわけでもないので、特に意味もないのだが……俺はテーブルに肘をついて前のめりになり、内緒話をするように声をひそめた。
「特にアンタの……コスチュームっていうのかな? あのフリフリがついた衣装が、子供ながらに
「あら♪」
「男のくせに、って思うかもしれないけど……妹が買ってもらったシャイニングディオーネ人形が羨ましくて。なんとか自分のものにしてやろうと、アレコレ悩んだよ」
「あったわねぇ、そういうの。もっとも私たちは誰とも提携なんかしてないし、無許可で売られていた海賊版でしょうけど」
長いまつ毛をパチパチさせて、純玲さんが苦笑いを浮かべた。
こうして近くで顔を見ると、本当に綺麗な人だ。
俺は姿勢を戻して、再び椅子に腰を落とした。
――――そして。
「…………だけど正義のヒロインの人形は、家ごと焼かれて燃え尽きた」
「……………………」
「あの夜シャイニングディオーネは、妹と一緒に俺の前で燃えて、
今度は純玲さんの顔をまっすぐ見つめて。
その言葉は、自分でも驚くくらいすんなりと喉から出た。
恨み節じゃない。
ただ、これが現在の俺であることを、純玲さんに知っていてほしかった。
「…………そう」
短く呟くと、純玲さんは「ふぅ」と息を漏らしながら目を伏せた。
カップの中ですっかり冷めてしまった紅茶の