金剛心輝シャイニングディオーネ~世界一面倒くさい魔王とヒロインの純愛(?)凌辱バトル~ 作:johnny内藤
「……あくしゅかい?」
あまりの速度で激動していく展開についていけず、シャイニングディオーネが小首を傾げた。
アメジスティアは口からマイクを遠ざけて、二人だけに聴こえる程度の声でほくそ笑む。
「クックック……その通り。言わば今日は、貴様らがファンをもてなす感謝祭。ヤツらが手にしているグッズは、生涯かけて集めたコレクション――もしくは、先ほど別の空間で行われた物販イベントで購入したものだ」
「ええぇぇ……?」
長年の戦闘経験をもってしても読み切れなかった事態に、ブラックディオーネも複雑な表情を浮かべている。
「し、司会のお姉さん! まだですか!?」
「早くしてくれよ! こっちは何年も追いかけてきた正義のヒロインと、ようやく会うことができたんだぞ!」
決壊寸前の堤防のように、熱量を膨れ上がらせていく男たち。
その誰もが、アメジスティアをイベントの司会者だと信じ切っているようだ。
マスクで顔を隠しているとは言え、この特徴的な紫色の肌。一目で魔族だとわかりそうなものだが――
(もしかしたら、闇のエナジーを使った、何らかの精神処理を受けているのかもしれないわね……)
その可能性を頭の片隅に置きつつ、ブラックディオーネは油断することなく彼らを見据える。
いずれにせよ、この場は流れに身を任せて、なるようになるしかない――!
二人は警戒心を解くことなく、テーブルの下で硬く拳を握った。
『それでは、物販会場でお配りした整理券番号の若い方から、順番に前へお越しください!』
アメジスティアが進行を取り仕切り、ファンたちを案内する。
もはや暴動は避けられない……とまで思われていたのだが、彼らは意外にも秩序正しく列を作り、長机の前に並んでいる。
二つの列の先頭に立つ男たちは、憧れの新旧ヒロインを前にして、まるで少年のように目を輝かせていた。
「ど、どうも……っ! 初めてこんなに近くで見られて、とても光栄です!」
「……っ!? あっ、は、はいっ! あ……ありがとう、ございます……?」
シャイニングディオーネの前に立った青年が、ズボンの折り目に指を合わせて深々とお辞儀をした。
青年の予想外の行動にどう反応していいのかわからず、ディオーネは曖昧に言葉を濁しながら、自らも頭を下げる。
「お、覚えてないとは思うんですけど……俺、前に住んでた街が怪物に襲われたとき、あなたに助けられたことがあって。その時から、ずっとファンだったんです!」
「えっ? そっ、それはそれは、ご丁寧に……ご、ご無事で何よりでした!」
「それで、今日あなたに会えるかもしれないってことでイベントにも参加させてもらって……へへっ。グッズもいっぱい買っちゃいました」
青年が照れくさそうに鼻をこすりながら、紙袋を掲げた。
中には丸まったポスターや、Tシャツが入っているようだ。
「これからも応援してるんで……また怪物たちから、俺たちを守ってください!」
「は……はいっ! がんばりますので、よろしくお願いします!」
青年が差し出した手を両手で取り、ブンブンと上下に振るシャイニングディオーネ。
握手を終えてあっさりと去っていく彼の背中を眺めて、呆けたように口を半開きにさせていた。
――一方、反対側の席では。
「感激です、シャイニングディオーネ! 本物のあなたに会えるなんて……」
「え、ええ……こちらも、なんと言えばいいのか……」
ブラックディオーネの前に立っているのは、髪の毛に少々白いものが目立つ、中年男だった。
「もう何年も前に世代交代しちゃったけど、僕は今でもあなたのファンです! あのキラキラ輝く、白いコスチューム……ブラウン管の前で、いつも夢中になってヘリ中継を見てました!」
「そ、そうねぇ……危ないから近づかないでほしいって、テレビクルーの人たちには何度かお願いしたんだけど……」
「あっ! で、でも、今の黒いコスチュームも、すごく似合ってます! 一度は前線を退いたあなたが、二号ヒロインとして主役を助けに来る……燃えます! 燃えて萌える展開ですっ! やっぱり先代ヒロインはそうでなくっちゃ!」
中年男は広めの額に汗を光らせながら、熱弁を振るう。
ブラックディオーネはその勢いに圧倒されるように、上半身を思わず後ろに引いてしまう。
『はーいお客さん。持ち時間はひとり一分までですからね。待っている方も大勢いるので、握手が済んだら列を離れてくださーい』
「そ、そういうことなので! 僕の中では、いつまでもあなたが永遠のヒロインです、ブラックディオーネ……いや、シャイニングディオーネ!」
アメジスティアに急かされた男は、ブラックディオーネの手を固く握り、満足げに去っていった。
「………………」
「………………」
――意外すぎる事の運びに、二人は呆然と絶句する。
魔王に敗れた自分たちは、男たちの慰み者になるはずではなかったのか……。
目の前にいる彼らは、そのために集められたのではなかったのか……。
そう思っていたのだが、ファンたちは定められた規則を守り、握手を終えると晴れやかな顔をして去っていく。
敗北した正義のヒロインを、肉欲に駆られて求めてきたこれまでの男たちとは、まるで逆……。
会場に集まった彼らは、全員が全員、心から二人を想っているようなのだ。
――とある客とシャイニングディオーネとの間で、こんなやり取りがあった。
「あ……あの、ディオーネ……サイン、お願いしてもいいですか!?」
「えっ!? サ、サインって……!」
落ち着かない面持ちで色紙とペンを突きつけてきたのは、ディオーネよりも少し年下と思しき少年だった。
よほど緊張しているのだろう。あどけない顔を真っ赤にして、ダラダラと汗をかいている。
そんな頼みに、初めてサインを求められたディオーネは戸惑ってしまう。
(ど、どうしよう、いきなりそんなこと言われたって……。ああっ、でも一分しかないんだよね……? こんなに必死になってお願いされてるのに、お断りするのも悪いし……。ええっと、サインって名前を書けばいいんだよね……?)
状況に流されながらも、ディオーネ少年の求めに応じてペンを走らせた。
……しかし。
「はいっ、で、できましたっ」
「あ、ありがとうございます!」
少年は両手で色紙を受け取ると、感激したような様子で目を落とした。
「…………あれっ? ひめ、びし……ひ、か……?」
「――えっ? ……ああああっ!!」
不思議そうに首をひねった少年を見て、ディオーネは自らの過ちに気づいた。
そう……生まれてこの方、自分がサインを書くことになるなどと夢にも思っていなかった彼女は、ついつい本名である『姫菱陽花梨』の名を色紙に記してしまったのだ。
「ご……ごめんなさいっっ! それはちがうんです……! あの、あの……それはぜったい秘密にしなくちゃいけなくて……っ!」
激しく動転したディオーネが、オロオロと泣き出しそうな顔で説明する。
……すると少年は何かを察したようにうなずくと、彼女に顔を寄せ、口元を手で隠しながらささやいた。
(は、はい、わかってます……ぼく、誰にも言いませんから。こ、これは家宝にして、墓場まで持っていきますので……!)
(あ……っ)
少年はサイン色紙を大事そうに胸に抱くと、握手も忘れてそそくさと列を離れていく。
「………………」
ディオーネはそんな彼の姿を、信じられないものを見るような目で、ぼんやりと見つめていた。
……このように、二人のもとには善良なファンが次から次へと訪れ、会場は和気藹々とした雰囲気に包まれていた。
最初は戸惑っていたシャイニングディオーネも、少しずつ積極的にファンとの握手に応じるようになり、ついには彼らの熱い想いに胸打たれ、涙ぐむまでになっていた。
「……えへっ。今まで、みんなのためにがんばってきてよかったね、お母さん!」
握手の合間、ディオーネが母の方に顔を向け、嬉しそうに言った。
「こんな機会を用意してくれるなんて……。黒河くんも、やっと私たちのことを認めてくれたのかな……♪」
目頭を熱くしながら、次のファンの手を取るディオーネ。
――しかし母は、疑うことを知らない娘の無邪気さに、呆れ半分の苦笑いを浮かべてしまう。
(のん気な子ねぇ……あの曜くんが、この程度で済ませるわけないじゃないの)
そう……黒河曜は、「やる」と言ったら必ず「やる」男だ。
そんな彼が、家族の仇にも等しい正義のヒロインを、こんな温かなイベントで接待するはずがない。
何か必ず裏があるはず――
ブラックディオーネは緊張感に満ちた心の内を、余所行きの笑顔で覆い隠し、ファンの求めに応じ続けていた……。
次からHシーンなのですが、あまりブツ切りになるのもよくないので
ある程度まとめて投稿できるようになるまで、更新はお休みします。