金剛心輝シャイニングディオーネ~世界一面倒くさい魔王とヒロインの純愛(?)凌辱バトル~ 作:johnny内藤
「……あァ~ん? なんだテメェら。こんなところに人間が隠れてやがったのか」
魔物は振り返るなり、そこにいた俺たちの顔を見回して、唇の端をニヤリと吊り上げた。
「ヘッヘッヘ……広場にいたヤツらはあらかた逃げちまったから、次の獲物を探しにアッチの通りまで跳んで行こうとしてたんだが……まさかその途中で、こんなネズミどもが見つかるとはなァ」
「……チッ――!」
なんてことだ……この小路を避難場所に選んだのは判断ミスだったらしい。
頬を伝う汗を拭っている余裕もなく……俺はできるだけ二人を遠ざけるよう、魔物との間にジリジリと割って入っていく。
「ンン~、そうだなァ。邪魔な男はさっさと殺して、女は犯してェ~……
ゴリラそっくりな顔を醜く歪め、魔物が舌なめずりをした。
人間を意図的に恐怖させようという、悪意に満ちた笑顔……その効果は
……どうする?
三人とも無傷で逃げ切る……というのは現実的ではない。
直線しかないこの狭い路地裏では、すぐに追い付かれてまとめて殺されてしまうだろう。
かと言って、戦ってどうにかできるような相手でもない。
武器を探そうにも、ここにあるのはせいぜい折れ曲がったカラーコーンや、錆びた自転車くらいなものだ。
だったら、いっそ俺が囮になる?
だけど相手は、人間の身体を片手で軽々と振り回すような怪物だ。
こんなヤツと戦ったところで、果たしてどれだけ時間が稼げるか……。
ダメだ……取れる行動が限られすぎているうえに、どれを選んでも絶望的。
ならせめて捨て身で飛び掛かり、傷のひとつでも付けてやろうか。
目などを狙えば、命と引き換えに少しは痛手を負わせられる可能性も――
「――黒河くん、逃げてください! ここは私が……」
ついつい自暴自棄になりかけていた俺の背後から、姫菱がそんな提案をしてきた。
「魔物相手に説得でもするのか? いくらクラス委員でも、今度ばかりは相手が悪いと思うけど……」
「そ、そんなことじゃありません! それよりも、ひとみちゃんを連れて早く! できるだけ遠くに!」
姫菱が果敢に叫ぶ。
……まさか俺だけじゃなく、コイツまでヤケを起こしたんじゃないだろうな?
「オイオイ、何をグズグズしてんだァ~~~? どっちが先にヤラれるか、ま~だ決まらねえのかよ」
野太い指で鼻をほじりながら、魔物が退屈そうにあくびをした。
「ヘッヘッヘ……ま、死ぬのがちょっとだけ早いか遅いかの違いだ。三人仲良く天国に連れて行ってやるからよォ。ソッチの姉ちゃんは別の意味で……だけどなァ」
ゴリラの顔に浮かぶ下品な笑み……このままでは、姫菱がただ殺されるよりもひどい目に遭うことは明らかだ。
「迷っている暇はありません……黒河くん、早くっ!」
「バカ言うな。アンタに時間稼ぎをさせるくらいなら、俺が――」
「そうじゃないんです! な……なんて説明したらいいのかわからないんですけど……とにかく私ひとりなら、まだみんなが助かる可能性が……!」
もどかしそうに口ごもりながら、姫菱が必死で何かを訴えようとしている……が。
「オラオラッ、時間切れだァ!!」
焦れた魔物が、丸太のような腕を振り上げた。
その先端で鈍く光る、分厚くも鋭く尖った獣の爪。その切っ先は、互いにかばい合う俺と姫菱に向けられている。
そして次の瞬間、それが容赦なく振り下ろされた……!
「チッ――!!」
俺は咄嗟に姫菱を押し倒し、覆いかぶさるようにアスファルトに身を投げた。
「……えっ?」
どこか間の抜けたような、姫菱の声。
同時に、無防備な俺の背面が魔物の目の前に晒されて――
――ザクッ!!
「…………っっ! がっっ……は!?」
背中に灼熱を感じ、俺はたまらず地面に転がった。
「くろかわくん……? 黒河くんっ、大丈夫ですか!? 起きて! 返事をしてください!」
姫菱が叫びながら、俺の肩を必死に揺さぶる。
背中から腰にかけて、熱いものがじんわりと伝っていく感触……。
こんなの、確かめなくても理解できる。爪で引き裂かれてバックリと割れた背中から、大量の血が流れているらしい。
「黒河くんっ!!」
「うる、さいな……起きてる。生きてるって……」
「なんで……どうしてですかっ! 私、逃げてくださいって言ったじゃ……! 黒河くん、なんでいつも私の言うこと聞いてくれないんですか!」
「……まあ、反抗期? 昔っから、アンタみたいないい子は……得意じゃなくて」
「そんなっ……そんなこと、なんでいま……!」
幸いなことに、あまりの痛みで逆に感覚が麻痺してしまったのか……ヨロヨロとだが、俺は立ち上がることができた。
背中の傷が姫菱に向き、それをまともに見たのか、彼女が息を飲む声が聞こえてくる。
「ほら行けよ。これでもう、譲り合う必要もなくなったろ? 俺がコイツを……まあ、何秒かくらいはもたせてみるから。アンタは、その子と一緒に」
「あァァあ~~~~ん? なに寝言ほざいてんだ人間ごときがよォ。死にかけのザコに、オレ様をどうにかできるわけねェだろ?」
正面から睨みつけると、魔物は愉しそうに白い歯をむき出しにした。
かすんできた目で前を見つめたまま、俺は背後の姫菱にだけ聞こえるように声をかける。
「もし無事に逃げられたら、探してやってくれ……その子の親」
「黒河くっ……! 待って、私は――」
「それから……朝、ひどいこと言ってごめんな」
「――え?」
俺の血で赤く染まった爪を剝き出しにして、魔物が再び剛腕を振りかぶった。
「ヘッヘッヘッ……脚でも折って動けなくして、目の前で姉ちゃんを犯してやろうと思っていたんだがよォ。その様子じゃ、放っておいても死んじまいそうだなァ?」
唇の端からよだれを垂らしながら、ゴリラが心底おぞましい笑みを浮かべる。
「こちとら久しぶりの人間狩りに来てるんだ……そんなつまんねぇ死に方をされるくらいなら、オレ様が直々にブチ殺してやるぜェ!」
いくら怪我の治りが早いとは言え、次の一撃を受ければ、さすがの俺もひとたまりもないだろう。
死ぬ覚悟なんてできているわけじゃないけど……最後にこの二人が逃げる時間を稼げるなら、
そう自分に言い聞かせ、俺は静かにまぶたを――
「――――あン?」
「……うん?」
……閉じようと思った次の瞬間。魔物の素っ頓狂な声が聞こえ、俺はすぐさま目を開けた。
「……姫菱っ!?」
そこにいたのは姫菱だった。
こちらに背中を向けて、魔物から俺をかばうように立ちはだかっている。
「おいっ……なんのつもりだ!? アンタがさっさと逃げてくれないと、その子がっ!」
このバカ優等生……こんな時にまで、人を見捨てることができないのか!?
考え自体はご立派だが、ここでその行動はあまりにも空気が読めていない。
いつもの朝の教室で、クラスから孤立している問題児に声がけするのとはわけが違うんだ……!
「……ごめんなさい黒河くん。私が迷っていたばっかりに、こんなひどい目に遭わせてしまって」
「は……? い、いいから、そこどけって! 三人とも無駄に死ぬことは――っっ!?」
なんとかこの場から退かせようと、姫菱の肩に手をかけようとした――その時。
俺はあるものの存在に気が付いた。
(…………光?)
姫菱の周りを蛍のようにフヨフヨ漂う、小さな光の粒。
どうやらそれは、彼女自身の身体からこぼれているようだ。
やがてその光は全身に広がっていき、姫菱の身体がまばゆい輝きに包まれていく……。
「なッ……なんだァ、この不快なエナジーは! まさか、テメエが……ッ!?」
その輝きから目を背けるようにして、魔物が一歩、二歩とさがっていく。
そして――
「ダイヤモンドパワー! クリービング!」
姫菱が叫ぶと同時に全身を覆った光が弾け飛び、一瞬彼女の裸体が露わになる。
次の瞬間、キラキラと宙を舞う粒子が形ある物体となって、再びその身を包んでいく。
長い脚を護るタイトなブーツ。腰を覆ったヒラヒラのミニスカート。一点の穢れもない純白のボディスーツ。
サラサラのロングヘアーは徐々に輝きを帯びていき、やがて美しいブロンドに染まる。
見慣れた制服姿から一転。白くきらめくコスチュームに身を包んだクラスメイトの姿は――
「闇を清める不屈の心――
――俺の大嫌いな、魔物から街を守る正義のヒロインその人だった。