金剛心輝シャイニングディオーネ~世界一面倒くさい魔王とヒロインの純愛(?)凌辱バトル~ 作:johnny内藤
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――ヒソヒソヒソ……
「………………」
よく晴れたこの日の朝。
いつものように机に肘をついた俺は、時おり感じる周囲からの視線を、目で威嚇しては追っ払っていた。
昨日の事件で制服の上着を失ったため、今朝はワイシャツだけで登校してきたのだが……やや季節外れな俺の姿に――
『なんであんな格好を……?』
『他校の学生とケンカでもして破られたんじゃ……?』
……などとあらぬことを周囲で囁かれ、いい加減うんざりしてきた。
別に彼らからどう思われようとかまわないのだが、おかしな噂を立てられて、それが巡り巡って叔母さんの耳にでも入ったりしたら大変だ。
俺は制服を失った顛末を、クラスメイトたちにどのように納得させようかと頭を捻る。すると――
「お……おはようございます、黒河くんっ」
後ろから、姫菱が声をかけてきた。
どこかモジモジしたような態度は相変わらずだが、普段と比べて表情からは幾分か緊張の色が抜け、ぎこちないながらも自然な微笑みを浮かべている……ような気がする。
「あ、あの……ちょっとだけお時間、いいですか? 二人でお話ししたいことが……」
姫菱の言葉に、周囲が一層どよめいた。
『あの問題児に、クラス委員がとうとうガツンと言うのか?』
『でもそんなことしたら、姫菱さんが何をされるか……』
「………………」
クラスの連中が、あいかわらず無責任なことを囁き合っている。
このままではそのうち『黒河が姫菱を襲った』などといった冤罪にまで発展しかねない。
おかしな推測がこれ以上大きくならないうちに、俺は素直に椅子から立ち上がることにした。
「ぁ……ありがとうございます! それじゃ、廊下の方に……」
姫菱に先導されるままに、俺は教室を後にする――
「――ここにしましょうか。そ、それでですね、黒河くん……」
人通りのない廊下の端に俺を連れ出した姫菱が、おずおずと話を切り出そうとする。
「ああ、ちょっと待った。その前に……」
「…………???」
俺は教室から顔を出し、こちらの様子をうかがうクラスメイトたちをひと睨みする。
面倒ごとに巻き込まれるのは嫌なのか、彼らはあっさりと顔を引っ込めた。
「……で、話って?」
「あっ……は、はいっ! えーっと……まずは黒河くん、今日は話に応じてくれて、ありがとうございますっ」
姫菱がペコリと頭を下げた。そんなことはいいから、早く本題に入ってほしいんだけど……。
「それで、あの……傷の具合はどうですか? あの後やっぱり痛くなってきた……とかは……?」
「ああ、見ての通りピンピンしてる。……まあ、制服はどうにもならなかったけど」
「そ、それで今日はワイシャツなんですね。上着はどうしたんですか……?」
「ああ。叔母さん……えっと、同居してる保護者がいるんだけど。その人に見つかったら面倒なことになるから――」
騒動の後、俺は人目につかない場所でさらに時間を潰し、叔母さんが寝た頃を見計らって帰宅した。
制服を新調するとなると、それなりに金がかかるはずだし……何より、なぜそんなことになったのか説明しなくてはいけない。
俺はこれ以上、叔母さんに金銭的な負担や心配をかけたくない。なので血まみれの制服はとりあえず押し入れの奥にしまい込み、今朝はワイシャツだけで家を出てきた。
……ということを、かいつまんで姫菱に説明した。
「そ、そうなんですね。……でもそれって、見つかって怒られるのを先延ばしにしてるだけなんじゃ……?」
「………………」
さすがは優等生……一分の隙もない、完璧な正論だ。
俺は窓の外に目をやり、青い空を流れていく雲を物憂げに見上げて――
「えと……いくら私から目を反らしても、現実からは目を背けられないんじゃないかな……って?」
「…………なんとかする」
姫菱らしからぬ鋭い指摘を受け、俺は改めて彼女に向き直った。
「そ、それから、どうなりましたか? ひとみちゃんのこと……」
「あの子なら大丈夫。怪我もなくて元気だったし、あの後すぐに親を見つけて、引き渡してきたから」
「そうですか! よかったぁ……」
姫菱は柔和に笑い、安堵のため息をついた。
「えっと……ひとみちゃん、私のこと何か言っていませんでしたか? そのぉ……わ、私が
「それも問題ない。俺たちが魔物に襲われてる間、あの子ずっと眠ってたし」
肝心なところは何も見ていなかったようで、女の子は別れ際、「一緒にいたお姉ちゃんはどこへ行ったの?」と俺に尋ねてきたくらいだ。
「そうなんですね……安心しました」
そのことを伝えると、姫菱はホッとしたようにまた一息。
……が、その表情をすぐに曇らせた。
「そ、それでですね……昨日はいろいろあって、お伝えするのを忘れちゃったんですけど……黒河くんも、できれば、そのぉ~……」
胸の前で落ち着きなく指同士を絡め合わせて、姫菱が不安げな上目遣いで俺を見つめている。
「わ、私のこと、みんなには内緒にしていてほしいんです。私、正体を隠してああいうことをしていて……それが広まると、困ったことになっちゃうって言うか……」
たしかに正義のヒロインの素性が他人に知られるのは都合が悪いだろう。
常に敵から狙われるリスクはもちろん、周囲の人間を巻き込む可能性だって跳ね上がりそうなものだ。
「心配するな。別に俺は、他のヤツに姫菱のことを話すつもりなんて最初からなかったし」
「あ……ありがとございます!」
胸のつかえが取れたかのように、姫菱が顔をほころばせた。
その弛緩しきった表情を見ていると、目の前の少女が、凛々しい目つきで魔物と対峙していた戦士と同一人物だなんて信じられなくなってくる。
「………………」
「………………」
やがて二人の間に微妙な
なんだかお互いが、相手の次の言葉を待っているといった感じだ。
「じゃあ俺は……」
これ以上姫菱から伝えられることがないのなら、もうここにいる意味はない。
そう判断し、俺は彼女に背を向けた。
「……あっ! ま、待ってください、黒河くん!」
そんな俺に追いすがるように、姫菱が慌てて口を開く。
「あ、あの……前にも言いましたけど、危ないところには近づかない方がいいと思います。昨日はたまたまなんとかなったかもしれないけど……黒河くん、なんだか自分から無茶なことをしている気がするから……」
心の底から俺の身を案じ、思いやっているような声色。
それを聞いた俺は……心の中にある、苛立ちにも似た不穏な感情が首をもたげるのを感じた。
「……無茶をしなけりゃ、助からないだろ。アンタが取りこぼした人たちは」
「…………えっ?」
俺は背中を向けたまま、口の中で呟いた。
「く、黒河くん……あの、それって……?」
姫菱が俺を引き止め、その言葉の意味を問おうとしたその時――
――キ~ンコ~ン……
始業のチャイムがそれを邪魔した。
「ほら、さっさと戻るぞ。優等生のアンタが遅刻なんかしたら、それこそクラス中大騒ぎだからな」
俺は横目でチラリと視線をやり、姫菱を促した。
「…………えっと……」
「……チッ」
そして姫菱が戸惑ったようにその場に立ち尽くし、動こうとしないのを見るや……彼女をひとり廊下に残し、俺は教室へと歩き始めた。