金剛心輝シャイニングディオーネ~世界一面倒くさい魔王とヒロインの純愛(?)凌辱バトル~ 作:johnny内藤
◇
「――はっ! やぁっ! そこですっ!」
「ギャッ! ギャッ!」
大きな翼をバサバサとはためかせ、巨大なコウモリの魔物が空中を逃げ回る。
シャイニングディオーネは自らも飛行しながらそれを追いかけ、手の甲のクリスタルから放たれる光線を続けざまに発射する。
――そして魔物が疲弊して動きを鈍らせたその瞬間……聖なるエナジーを凝縮させた、最大出力の大技をお見舞いした!
「……逃がしませんっ! 必殺ぅぅ……シャインブラスタぁぁーーーーーッ!!」
「ギャァアアアアアアアアアアアアッ!!」
渾身のビームをその身に浴びせられて、コウモリの魔物はあえなくこの世から消滅した。
「悪は絶対許しません……シャイニングディオーネの勝利です!」
高らかに宣言すると、地上のあちこちから彼女を称える喝采が上がった。
それを聞き、ディオーネは達成感に満ちた笑みを浮かべる。
今日は魔物に指令を出すダークアメジスティアが不在だったためか、街への被害が最小限で済んだからだ。
(いつもこうならいいのにな……)
……そんな想いを抱きながらも、過酷な現実を知るディオーネは、しっかりと気を引き締めて次の戦いを見据える。
「………………」
そのことはひとまず横に置いておき……彼女には、現在とても気になっていることがあった。
「まさか……」とは思いつつ、キョロキョロと地上を見回すディオーネ……すると。
「…………あっ!」
案の定と言うか、なんと言うか……。
変身することで抜群の視力を発揮するようになるシャイニングディオーネの双眸が、ここから数100メートル以上は離れている路上に
彼女は空中ですぐさま身をひるがえし、その地点を目掛けて飛行を始めた。
◆
「ありがとう……ありがとうねぇ、お兄さん……」
「ああ、いいからいいから。もう家族に心配かけるなよ?」
俺に向かって手を合わせ、何度も何度も頭を下げる老人。
ついさっきまで、崩れかけの家屋に取り残されていたお婆さんだ。
駆け付けた俺の助けを「この家と一緒に死にたいから……」と頑なに拒む彼女を根気強く説得し、やっとの思いで家族のもとまで送り届けたのだ。
助ける前も、助けられた後も、老人というのはなかなか人の話を聞いてくれない……。
今度は「お兄さんに何かお礼を……」としつこく食い下がってきたお婆さんの言葉をどうにか振り切った俺は、いろんな意味で疲れ果てながら、帰宅の途につくことにした。
――その時。
「やっぱり! 黒河くんっ!」
「…………はっ?」
上空から名前を呼ばれたと思ったら、姫菱陽花梨――もとい、彼女が
……放課後、街でたまたま見かけたクラスメイトへの挨拶……にしては、表情が険しいようだ。
「なんだ、アンタか……驚かせるなよ」
「驚かせるな……じゃないです! 私、黒河くんに『危ないところには近づかないように』って、もう何度も言ってるじゃないですか! なんでわかってもらえないんですか!」
今まで見たこともないくらいの剣幕で、俺を叱りつけるディオーネ。
しかし俺は耳の穴を指でかきながら、それを右から左へと受け流す。
「危なくはないだろ。今日の魔物は、アンタがあっさり倒したみたいだし」
「…………怒りますよ?」
低い声でそう言い、脅すように俺を見つめるディオーネ。
だがそんな顔で睨まれてもかわいいだけだ。
「もういいだろ? ちょうど用事も終わったところだし……アンタの言う通り、危ない場所からはさっさと立ち去るからさ。そこどいてくれ」
「黒河くんっ! 真面目に――」
軽くあしらう俺を、ディオーネは感情的になって怒鳴りつける。
……しかし。
「…………はっ!?」
正義のヒロインが、制服姿の学生に詰め寄っている……そんな光景に周りの人たちが奇異の目を向けていることに気が付き、彼女は目を丸くする。
「~~~~~……っっ!」
そして顔を真っ赤に染め、恥ずかしそうに下を向いてしまった。
(よかった。これでうるさいのに絡まれることも……)
そう思いながら、俺がうつむく彼女の横を通り抜けた……その時だった。
――ガシッ
「…………えっ?」
「黒河くん、ついてきてください!」
とつぜん背後から抱きしめられたと思ったら、俺の足が地面から離れ、全身を浮遊感が包んだ。
「お……おいっ!? 『ついてこい』って……こういうことを言うんじゃないだろ!?」
世間一般では、こういうのは『拉致』と呼ばれる行為だ。
ものすごいスピードで通り過ぎていく、下界に広がった街並みを無理やり眺めさせれながら……俺は何の抵抗もできないまま、正義のヒロインに連れ去られていくのであった。
◆
――そこから少し離れた別の街。
適当な廃ビルを選び、ディオーネが俺を抱えたまま、その屋上に降り立った。
太陽はすでに西に傾き、街は夕焼け色に染まっている。ワイシャツだけでは少し肌寒さを覚える時間帯だ。
「……生身で空を飛んだのなんて初めてだ。魔物に殺されかけた時より怖かったかも」
俺なりのジョークを言ってみたのだが、受けなかったようだ。
ディオーネはクスリともせず、真剣な顔で俺を見つめている。
「黒河くん……あなたはどうして、自分から危険を冒すようなことをするんですか? もちろん人助けのためだっていうのはわかります。でも私たちの敵――魔族の怖さは、黒河くんも充分過ぎるほどわかっているでしょう?」
「………………」
ディオーネの言葉を受け、俺の脳裏に、実際に死にかけた昨日の光景がよみがえる。
「いくら黒河くんが善意の行いをしているからって、それで魔族が見逃してくれるなんていうことは絶対にありません。魔物に襲われた街に近づくっていうのは、彼らの破壊行動に巻き込まれる可能性を、わざわざ自分から高めているっていうことなんですよ?」
それは承知している。俺が今まで生きていられたのも、いくつもの偶然が奇跡的に重なったおかげに過ぎない。
「……そ、それに黒河くん…………なんだか私に……反感……みたいなものを、持っているみたいだし」
胸の前で指をモジモジさせるいつものポーズをしながら、ディオーネが言いづらそうに口を開いた。
「あ、あの……私、黒河くんに何かしたでしょうか? 黒河くんを怒らせるようなこと……」
わずかに顔を伏せ、ディオーネが目線だけで俺を見上げている。
その目はどこか怯えたように揺れていて、答えを聞くのが不安……といった気持ちをありありと表している。
俺は彼女から顔を背け、ビルから見える風景に目線を移す。
無理に答える義務もないのだが、ひとりでここから飛び降りるわけにもいかない。
俺はなんとかこの場を収めるため、適当な言葉を選んでそれに答えた。
「……別になんでもないよ。今日だってアンタに逆らったわけじゃなくて、偶然あそこの近くにいただけで――」
「うそ! 黒河くん、いつもそうやってはぐらかして、本音でしゃべってくれません!」
その場しのぎの俺の返事は、ディオーネの怒声に遮られてしまった。
彼女が腰の横で握った小さな拳が、プルプルと震えている。
「お願いします……私にいやなところがあったら教えてください。も、もちろんすぐに……とはいかないかもしれませんが、できるだけ直せるように努力しますから……」
今にも消え入りそうな声を必死に絞り出し、ディオーネが懇願する。
長いまつ毛をしきりに動かし、まばたきを繰り返しているようだ。もしかしたら、泣きそうになるのを我慢しているのかもしれない。
「……黒河くんも含めて、大勢の人を救うのが私の使命です。……なのに、その人たちから嫌われてしまうのは悲しいですから……」
ディオーネの口から語られる、崇高な目的と想い。
その言葉を聞いて……俺の中で抑えていた、行き場のない感情が膨れ上がっていく。
「――――大勢の人を救うのが使命……か。だったら、その手からこぼれた人たちはどうなる?」
「……えっ?」
伏せていた顔を上げ、ディオーネがこちらを見た。
さっきまで視線をそらしていた俺がまっすぐ自分を見つめているのに気づき、少し驚いているようだ。
「大勢を救うために切り捨てられた、少数の人はどうすればいい? 誰も助けてくれなくて、無事だった人たちの笑顔を外から見せられて……誰にも怒れず、誰を恨むわけにもいかないその人たちの気持ちは、どこへ行けばいいんだ?」
「……そ……それはっ」
突然の逆質問に、戸惑いの表情を隠せない正義のヒロイン――
だが、その問いかけをした者の背景に何があるのかを察することはできたようで……彼女は息を飲みながら、慎重に言葉を紡ぐ。
「黒河くん……あなたは――」
「………………」
赤く染まった街並みに再び目線を戻し、俺は重い口を開いた。