金剛心輝シャイニングディオーネ~世界一面倒くさい魔王とヒロインの純愛(?)凌辱バトル~ 作:johnny内藤
「十年前の大侵攻……知ってるよな?」
「はい、覚えています。魔族が一時的に活動を停止する前に起きた、最後の襲撃事件……」
「そう……そのとき運悪く、俺が家族と住んでた街が襲撃にあってさ。家は崩れるわ、家族全員それに巻き込まれるわで、もうダメかと思ったんだ」
「…………っっ」
ディオーネがまるで自分のことのように表情を曇らせ、唇を噛んだ。
正義のヒロインとして活動している彼女であれば、あの事件に巻き込まれた被害者がどのようにして亡くなっていったかは、俺に言われるまでもなくわかっていることだろう。
「俺は必死になって助けを呼んだよ。でも周りの大人たちは自分が逃げるのに精いっぱいで、誰も子供の声になんか気づかない。そうしている間にも火の手が回って、俺も妹も焼け死ぬ寸前……ってところだった」
「………………」
「そんなとき俺の目の前に現れたのが、街を救いに来た正義のヒロイン……シャイニングディオーネだ」
「……えっ……?」
その名を聞いて、
「ディオーネはすぐに俺の声に気づいて、駆け寄ってくれた。俺は思ったよ。ああ、これで助かる。妹も死なずに済むって」
「………………」
「でも……急にどこか別の方向に目を向けたと思ったら、ディオーネは飛び去っていった。瓦礫に潰されて、焼け死ぬ寸前の俺たちを残してな」
「…………っ!!」
「悲しかったよ。なんで自分たちを見捨てるんだって、怒りすら湧いてきた。……でも、笑うだろ? 後から聞いた話なんだけど、ディオーネが向かった先には、今にも崩れそうなでっかいマンションがあったんだってさ」
「…………、そ……っっ……」
「結果的にマンションは倒壊を免れ、住人たちは無事救出。俺の家族は……まあ、俺を残してみんな、な」
俺は人差し指を立て、徐々に青くなり始めている空を指した。
「言っておくけど、別にアンタを恨んでるわけじゃない。もしあのままマンションが崩れていたら、俺たち一家とは比べ物にならないくらいの犠牲者が出ていただろう。人命救助にも優先順位ってものがある。どの道すべての人を救えないのなら、より大勢を助けにいくのは当たり前だ」
「………………」
「…………だけど。やっぱり俺は、アンタたちを許せそうにない」
ディオーネは顔を伏せ、ビクッと肩を震わせた。
何か言おうと、何度も口をパクパクさせているみたいだけど……どれだけ待っても、出てくる言葉はない。
「……さっきも言ったけど、俺は別にアンタ個人を恨んでるわけじゃない。アンタたちが何人いて、どういうグループなのかは知らないけど……十年前と言えば、アンタも俺と同じ子供だったはずだ。シャイニングディオーネって名前は同じだけど、たぶん別の人なんだろう」
「………………」
肯定も否定もせず、ディオーネはうつむき続けている。
「だいたい、悪いのはどう考えたって人を襲う魔族だし……街を守るために戦う正義のヒロインを責めるってのもお門違いだ。だから、今さらアンタに何かをしてもらおうだとか、ましてや悪いところを直せだなんて思ってないよ」
「………………」
「……その代わり、俺は俺で勝手にやらせてもらう。正義のヒロインが助ける命を選ぶなら、俺はそこからこぼれた命を救いに行く。俺と同じ思いをする子供をひとりでも減らすために。アンタたちが
わざとトゲを含んだ物言いをしたが、ディオーネは何も返さない。
「それが俺なりの、アンタたちへの復讐だよ。さっき、俺が人助けすることを『善意』だって言ったよな? とんでもない、これ以上の悪意があるもんか。ひとり助けるたびに、俺は『ざまあみろ』ってアンタたちを笑ってるんだから」
「………………」
「だからアンタにどれだけ止められようと、俺は襲われた街に入るのをやめはしない。これがアンタに聞かれた、危険を冒す理由の答えだ……満足したか?」
言いたいことをすべて言い……俺はディオーネの答えを待つ。
彼女はさっきから
だが、わざわざ俺をこんな場所まで連れてきて、聞かないで済むような言葉を無理やり引き出したのは彼女自身だ。
被害者の逆恨みに対して、正義のヒロインがどんな答えを返すか見ものだな……などと考えながら、俺は黙って彼女がしゃべり出すのを待ち続ける。
――――そして。
「……黒河くんの言ってること、よくわかります。……痛いくらいに……」
ディオーネはうつむいたまま、かすれた声でようやく呟いた。
「私たちは黒河くんのご家族にとって、とてもひどい判断をしたと思います。そのことは、いくら謝っても謝りきれることじゃ、ありません」
「………………」
「黒河くん……っだけじゃない……。生きていたいって思うのはみんな同じのはずなのに、私たちはそこに優先順位をつけて、助ける命を選んでいます……っ」
言葉の端々に、湿ったものが混じってきた。握った拳は、薄暗がりの中でもはっきりわかるくらいブルブルと震えている。
「正義のヒロインだなんて持てはやされても、すべての人を救えるわけじゃない……百人のために十人、千人助けるために百人の人を見捨てるような戦いを、私たちは続けてきました」
「………………」
「そんなの、恨まれて当然です……私は、黒河くんに何をされたって文句は言えません……だけどっ」
語気を強めて、ディオーネが顔を上げる。
その目には――決して涙など浮かべてはいなかった。
ディオーネは宝石のように輝く瞳に強い意志を込め、俺の目をまっすぐ見つめている。
「だけどお願いです……もう少しだけ待ってください。いつかすべての魔物をやっつけて、世界を平和にする日まで……私たちは、止まるわけにはいかないんです!」
ディオーネは自らを鼓舞するように、震える両手を胸の前で握り合わせる。
「たとえ百万人を救うために、十万人の人から恨まれることになっても……私は必ずやり遂げてみせます。それが正義のヒロインとして、私に課せられた使命ですから……!」
さっきまでの湿った涙声とは打って変わった、澄んだ声が廃ビルの屋上に響く。
そんな彼女の決意に満ちた答えを聞いて……俺はなんとなく負けた気分になった。
「…………ごめんな」
「……えっ?」
俺の発した言葉が意外だったのか、ついさっきまで強い意志を秘めていた目をまん丸く開き、ディオーネがキョトンとした顔を見せる。
「えっ……? な、なんで黒河くんが謝るんですか……?」
「アンタたちを許さないって気持ちは変わらないけど……取りこぼした人の命を、
「……っっ!?!?!? そんなっ……黒河くっ、またそれ……っ! だ、だって、黒河くんぜんぜん悪くなっ……!!」
そう言いながら、ディオーネは大きな目からポロポロと涙をこぼし始めた。
「ここで泣くのか!?」
普通なら、俺がひどい言葉を浴びせた時点で泣くと思うんだけど。
……って言うかさっきまでは、脳内お花畑のヒロインをわざと泣かせて、少しくらいは溜飲を下げようと思ってたくらいだし。
「ひくっ……ひっ、ひっ……! ぅぐっ……ひっく、ぅぅ……ふぅう゛ぅ゛ぅぅぅぅぅ……っっ!」
ディオーネは指で両目を何度も拭うが、次々に溢れ出す涙は一向に止まる気配がない。
被害者遺族の恨み言を正面から受け止める、芯が強くて気丈なヒロイン――そう見直しかけていたところでコレでは、いくら俺でもバツが悪い。
「あー……とりあえず泣き止んでくれないか? アンタがしっかりしてくれないと、俺ここから帰れないんだけど」
「……ひぃえ~~~~~ん! でっ、でっ……ですよねぇぇ~!? ひぐっ……わかってるんです……わかってるんですけどぉ……ひぃンっ! ご、ごっ、ごめんなさぁ~~~い! ごめいわくをおかけします~~~!」
俺の言葉がトドメとなって、ディオーネはより一層泣き声を激しくした。
(……慰め方を間違えたかな)
彼女にプロの(?)正義のヒロインとしての役目を思い出してもらうため、あえて突き放したような言い方をしたつもりだったんだけど……ただ単に、無神経な言葉をぶつけただけだったようだ。
年相応の女の子のように泣きじゃくるディオーネに、なんと声をかければいいのかわからず……俺は本格的に冷え込んできた空の下、ひたすら彼女の嗚咽が止まるのを待ち続けるのだった。