金剛心輝シャイニングディオーネ~世界一面倒くさい魔王とヒロインの純愛(?)凌辱バトル~ 作:johnny内藤
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――都心から外れた、隣県との境にほど近い場所にある郊外。
魔物の襲撃を受けたその街で、俺はいつものように自転車を走らせていた。
この辺りは建物が少なく、周囲は空き地や野原ばかりだ。
逃げ遅れた人を探すなら、もっと入り組んだ住宅街などを目指すべきだろう。
そう思い、俺がペダルを踏む足に力を込めた時だった。
「――黒河くんっ!」
とつぜん名前を呼ばれたと思ったら、空からシャイニングディオーネが降りてきた。
……しまった。見通しのいい場所を走っていたせいか、またうるさいのに見つかってしまった。
急ブレーキをかけた俺は内心うんざりしながら、何か言われる前に自分から口を開くことにする。
「なんだよ、今日もお説教に来たのか? 学園の外でまでクラス委員気分だなんてご立派だがな……悪いけど、俺はアンタの言うことを聞くつもりなんて――」
「わかってます。今日は止めに来たんじゃありません」
俺の憎まれ口を受け流し、ディオーネは引き締まった表情で答えた。
「それより、急いでここから離れてください。ここならあまり人もいなくて、私も思いっきり戦えそうだから……魔物がこちらに来るよう誘導したんです」
なるほど。市民を戦いに巻き込まないよう、一応の配慮はしているようだ。
「さっきまで私が戦っていた場所……ここから少し北にある区画に、逃げ遅れた市民がいます。黒河くんは、その人たちのところに行ってあげてください」
「……いやいや、俺だってただの一般市民だぞ? なんでアンタの命令に従う必要が……」
「命令じゃありません、お願いです」
煽るような物言いに少しも動じず、ディオーネがまっすぐ俺の目を見つめる。
信頼……というか、「この男なら
今をときめく正義のヒロインに、そんな挑発をされたら――
「とにかく急いでください! 私は私にできることを全力でします! だから、黒河くんも……!」
「……ああ!」
俺はペダルに全体重を乗せて、そこから走り出した。
……まんまと乗せられたようで面白くないが、俺がこのままここにいても、ディオーネの邪魔になるだけだろう。
だったらせめて逃げ遅れた人を助けに行った方が、彼女にとっての不安材料も減って戦いやすくなるはずだ。
「気を付けてくださいね!」
背後からかけられたその声に、首だけ振り向いて返事をする。
「そっちこそな! 絶対に魔物をここから逃がすんじゃないぞ!」
「もちろんです……私、正義のヒロインですから♪」
ついさっきまで引き締まっていた頬をゆるませ、ディオーネが俺に向かって笑いかけた。
いつもだったらその空気を読まない表情にイラッとしそうなものだが、今日はなぜかそんな気も起らない。
ディオーネが俺に人助けの使命を託したように、俺も彼女の笑顔に戦いの行方を託し、前方を見据える。
その時、俺の頭上を弾丸のように突き抜けていく魔物の影がよぎった。
――ッッドォオオオォォォーーーーーーーンンン!!
それから間を置かず、後方から響いてくる大きな激突音。
だが俺は振り返りもせず、彼女に言われた目的地に向け、ひたすら自転車を漕ぎ続ける――
◆
「ハァ、ハァ……ここかっ!?」
ディオーネが言っていた区画に着くと、目の前には今にも崩落しそうな、大きな立体駐車場があった。
中から聞こえるのは子供の声。
泣き声が重なり合って、下手くそなコーラスのようになっている様子から察するに、数名の子供たちが取り残されているようだ。
建物の出口を見ると、その前に黄色いエプロンを付けた女性がいた。
駐車場内にいる子供たちとは別の子らを引き連れたその女性は、建物に向かって必死で呼びかけている。
俺は路上に自転車を乗り捨て、女性に声をかけた。
「おい、大丈夫か? アンタは? 子供たちは何人いる?」
「え、ええっ!?」
いきなり詰め寄ってきた見知らぬ男に、最初は驚いたようだが……すぐに俺の目的が人命救助だということをわかってもらえたようで、女性は詳しいことを話してくれた。
彼女はこの街の保育施設の職員で、預かっている子供たちと散歩をしている最中、街が魔物の襲撃に遭ったらしい。
そして数名の市民と共に駐車場に逃げ込んだはいいのだが、魔物とシャイニングディオーネとの激戦の余波を受け、建物が崩落を開始。
彼女は他の人々に紛れて、数名の子供たちを連れて逃げ出すことができた。だが残りの子供がそのまま駐車場内に取り残されている……ということだ。
「一緒に逃げた、他の連中は?」
俺が尋ねると、彼女は悲しそうにうつむいて首を横に振った。
(要するに、見捨てられたってことか……)
思わず出そうになる舌打ちを口の中に押しとどめ、俺は建物に向かって駆け出した。
「あ……あの、どうするんですか!? 建物の中はボロボロで、とても人が入れるような状況じゃ……」
「だったらいつ崩れるかわからないんだ、なおさら急がないとだろ!?」
俺の勢いに押されたのか、女性はすぐに言葉を飲み込み、躊躇いがちにうなずいた。
「アンタはここにいる子供たちをしっかり見ていてくれ。たったひとりの先生がうろたえてちゃ、コイツらまで不安になるからな!」
「は……はいっ! お願いします!」
すぐに気持ちを切り替えた女性の声に後押しされ、俺は建物内に侵入した。
「…………すごいな、こりゃ」
言われた通り、たしかに中はボロボロだった。
通路にはところどころ穴が空き、小さな子供が自力で逃げ出せるような状況じゃない。
俺は床を崩さないように気を使いながら、上の階を目指す。
二階は特に激しく壊されており、人が上るための階段は潰れていて使えないようだ。
仕方なく遠回りし、俺は外部に露出した車用の坂道を伝い、三階へ上がることにした。
(ここもボロボロだ。俺が乗ったら崩れたりは……しないよな?)
坂道に大きく開いた穴。もはや車はもちろん、数名の人が無事に通過できるかも怪しい。
大穴から覗くと、一階と二階を繋ぐ坂道はすでに崩落している。
つまりここから落ちれば、そのまま地面に真っ逆さま……。
俺は手のひらの汗をズボンで拭い、慎重に坂道を上がっていく。
――三階に着くと、駐車場の片隅で固まっている子供たちの一団を見つけた。
「おい、無事か! 誰も怪我してないか!?」
とつぜん現れた俺の姿を見て、子供たちは一斉に泣き声を上げ始めた。
「だ、大丈夫、何もしないから……な? 俺はお前らの先生に頼まれて、助けに来たんだ」
俺は左右の手のひらを下に向け、彼らをなだめるようなジェスチャーをした。
その動きと
「……よし、いい子だ。それじゃあ今からお前らを助けてやるから、俺の話をよ~く聞け?」
さすがにこのボロボロの建物内で、すべての子供たちがまとまって動くのは危険すぎる。
なので俺は子供たちを数人単位のグループに分け、少しずつ連れ出すというプランを説明した。
子供たちは存外に聞きわけがよく、涙をこらえて俺の話に耳を傾けてくれた。
「――んじゃ、最初に避難するのは……」
そう言って、俺が手前にいた子供たちに声をかけようとした時だった。
「私だ! 私を先に救助しろ!」
そんな声が、駐車場に残されていた車の陰から聞こえてきた。
「……あん?」
俺はそちらを振り向いた。
声の主は、スーツを着たサラリーマン風の男だったようだ。
置き去りにされていたのは子供だけじゃなかったのか……と、俺はその存在に初めて気が付いた。
男は眼鏡の下で苦しそうにあえぎながら床に伏せ、こちらに向かって腕の力だけで這いずってくる。
「いやいやいや、アンタ大人だろ? こういう時は、普通子供が優先じゃ……」
「ふざけるな! 私は足が折れているんだ! その子たちは怪我もないし、自分で歩けるだろう!?」
そう言う男の足首から先は、たしかに不自然な方向に折れ曲がっていた。なるほど、逃げ遅れたのはそのためか。
「いや、だからってこの状況でそれは……」
「なんだその言い方は! では君は、ここで私に死ねって言うのか!? その子たちを助けたら、私を見捨てて逃げる気だろう!」
唾を飛ばしながら、無茶苦茶なこと言うサラリーマン。
こんなヤツ無視して、助けるのは後回しにしてやってもいいのだが……そのあまりの剣幕に、せっかく落ち着きかけていた子供たちも、再び泣き出しそうになってしまった。
ここでパニックを起こされたら、救助どころではなくなる――
俺は仕方なしに、男の救助を優先することにした。
「……悪いな、すぐ戻るから。それまで大人しく待ってられるな?」
子供たちの中でもリーダー格と思しき男の子に声をかける。
男の子は大きな目を涙で濡らしながらも、俺の言葉にコクリとうなずいた。
そして俺はサラリーマンに肩を貸し、来た道を引き返す。
ここへ来るときもそうだったが、二階へと通じる坂道は大きくえぐれていて、人が立てるようなスペースは残り少ない。
俺はできるだけ地面を揺らさぬよう、わずかに残った足場をすり足で通り抜ける……。
「お……おい、もっと速く歩けないのか?」
「これが限界だよ……これ以上急いだら、足場が崩れちまう」
「くそぉ、こんな簡単に崩れる建物を作りやがって……帰ったら、この駐車場の運営会社を訴えてやる!」
「あーそうですか……どうぞご勝手に」
「……痛ぅッッ!? おい、いまわざと急いだだろ!? こっちは怪我人なんだ、もっとゆっくり歩け!」
避難の間も、男は俺の顔のすぐ横で、大声でわめき続けていた。
「……ガキ共のほうが、よっぽど利口じゃねえか」
俺はそう毒づきながら、男を出口まで送り届けた。
「――あっ! お、お帰りなさ……って、えっ? えっ?」
保育士の女性が急いで駆け寄ってきたが、俺が連れてきたのが子供じゃないと見るや、目を丸くした。
「ああ、悪い……ちょっとワケありで、な? 一応、その人のこともよろしく」
俺は男を女性に預け、再び駐車場の中へと舞い戻った。
――そして往復を繰り返すこと数回。ほぼすべての子供たちを、無事に建物から避難させることができた。
連れ出すたびに、女性は目に涙を浮かべて子供たちを抱きしめる。
それを見届けて、俺は残りの一組を助け出すため建物内に侵入した。
「……よく我慢したな。お前らで最後だ」
その場に残っているのは、リーダー格の男の子。
そして、彼と一緒にいると最後まで言い張った女の子だ。
俺は二人を連れて、例の穴が空いた坂道をゆっくり下る。
しかし――
(……まずいか? 少し急いだほうがよさそうだ……)
往復を繰り返し、すでに何人分もの体重を支えてきた床。
パラパラと破片がこぼれ、心なしか足元がぐらついているように感じる。
――すると。
「…………きゃあっ!」
女の子がコンクリートの欠片に足を取られ、転んでしまった。
勢いよく前に倒れ、両手を床に着く……その時。
――ガラガラガラガラ!!
「…………ッッ!? くっ――」
俺たちが立っていた足場がひび割れ、通路が崩落した。