金剛心輝シャイニングディオーネ~世界一面倒くさい魔王とヒロインの純愛(?)凌辱バトル~ 作:johnny内藤
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次の日、目覚めると――いつもと変わらない、いたって普通の朝だった。
「…………やっぱり、夢?」
そう呟いた俺だが、夕べの出来事は今でも鮮明に覚えており、生々しい女体の感触が肌に焼き付いている。
アメジスティアは、夢の中でたしかにこう言った。
『目が覚めたら、昨日までとはまるで違う貴方に生まれ変わっているはずです』
……しかし何の変化も感じられない。
肌の色がアメジスティアみたいな紫に……なっている様子はない。体調はごくごく普通。熱っぽい感じもない。
考え方にも特に変化はなかった。別に人に危害を加えたいだなんて思わないし、魔物を憎む気持ちもこれまで通りだ。
なら他に何が――
「…………っ!」
眠りに落ちる前、最後に見たものを思い出し、俺は上着の襟を引っぱった。
そしてネックレスを手に取ると――
「…………夢じゃなかったのかよ……」
チェーンの先についている石は、夕べと同じように漆黒の輝きに満ちていた。
俺は手で口を覆いながら、このあり得ない現実を噛みしめる。
(俺が魔王……? だって俺はたしかに人間として生まれて、父さんと母さんに育てられた普通の子供で……)
幼い頃よくなついていた妹の笑顔を思い出し、頭をかきむしる。
そう、こんなことあるわけない。夕べのことはやっぱり夢で、魔王とかいうのは俺の妄想。人助けのためにあちこち奔走して、魔物のことばっかり考えてるから、頭の中がそっちに引っ張られたに違いない。
ネックレスは……よくわからないけど気温とか日光の当たり方とか、何か条件が重なったことで色が変わった……みたいな? そういうことには詳しくないけど、いくらでも説明がつきそうなものだ。
「……! そうだ、叔母さん……ッ!」
今朝はまだ叔母さんの顔を見ていない。
叔母さんさえ普通にしていれば、あれが現実じゃなかったと確信が持てる。
俺は跳ねるようにベッドを降り、廊下へ飛び出した。
(お願いします、どうかいつも通りの叔母さんで……!)
そう祈りながらリビングの扉を開けると――
「――おはようございます、魔王様」
そこには、俺の前に跪くように顔を伏せている叔母さんの姿があった。
「………………おば……」
ダークアメジスティアの姿ではない。普段通りの格好をした英子叔母さんが、アメジスティアと同じ口調で、うやうやしく俺に挨拶をしているのだ。
……いよいよ現実を受け止めなければならないようだ。しかし心の準備などできていない俺は、ヨロヨロとふらついて扉の横の壁に背中をぶつけてしまった。
「………………」
叔母さんはそのままの姿勢で何も言わない。
俺が呼吸を整え、話しだすのを待っているのだろうか。
それから一分ほど。俺はたっぷり深呼吸し、早鐘のように打ち続ける心臓をなんとか落ち着かせて……やっとの思いで口を開いた。
「…………きかせてよ。俺が魔王っていうのは、どういう……?」
「はい。お話します」
叔母さんは、その口からは聞いたこともないような凛とした声でそう答えた。
◆
――今から数十年前。ダークアメジスティアたち魔族を率いて人間界に侵攻した魔界の王、それがオブジディアだ。
絶大な魔力を持つ彼は、多くの魔物を生み出し人間たちを蹂躙していった。
だが闇あるところに光あり。虐げられる人間たちを救済するため、魔界と対をなす光の世界からひとりの使者がやってきた。
その名はシャイニングディオーネ。
この世で唯一魔を滅することができる、聖なるエナジーを操る光の戦士だ。
何年間にもわたる激しい戦いの末、オブジディアはついにシャイニングディオーネに斃された。
しかしこの世に満ちる闇のエナジーをかき集め、魔王はいつの日か復活すると宣言する。
シャイニングディオーネは来るべきその日に備え、人と交わり子を残し、自らの力を後世に受け継いだ。
……やがて魔王のさまよえる魂は、現代において、とある人間の子供として転生する。
しかし魔力も闇のエナジーも失った魔王を探し出すことは、いかに魔族と言えど困難を極めた。
数年間を費やした捜索の末、魔王の転生体が住むであろう街を絞り込むことはできた。だが特定は不可能――
そこで痺れを切らせた強硬派の魔族が行動を起こした。
子供が真に魔王の生まれ変わりであれば、災禍の炎で死ぬことなどない……そんな考えのもと、その街を丸ごと焼き払ったのだ。
そしてようやく見つけたのが、大侵攻で生き残った数少ない子供のひとり――幼き日の黒河曜だった。
魔族たちにとって計算外だったのは、曜の精神力が非常に強く、魔王としての力を無意識に抑え込んでいることだった。
そのため魔族たちは、曜の成長と共にオブジディアの魂が成熟するのを待つことにした。
そのうえで人間界に再び破壊をもたらし、世界を闇のエナジーで満たす……それを曜に捧げることで魔王が復活すると、彼らは信じていたからだ。
魔族の中でも、とりわけ幻惑や精神操作の術に長けていたダークアメジスティアは、曜の親類縁者の記憶を操り叔母として接近。同居人として世話をしつつ、魔王を養育していた。
すべては曜を魔王として覚醒させ、自分たち魔族を再び率いてもらうために――
◆
「………………」
叔母さんの話を聞いた後――俺は取り乱すこともなく、先ほどと変わらぬ姿勢で自分の前に跪く彼女を見下ろしていた。
「じゃあ叔母さんが……俺の叔母さんだったっていうのは嘘なの?」
「はい」
淡々とした俺の問いに、叔母さんが即座に返事をする。
「子供のころから怪我の治りが早かったのは、俺の中にある魔王の魂ってやつが影響してるから?」
「はい」
「俺が住んでた街を焼いたのは、俺ひとりを探し出すため?」
「はい」
「じゃあそのために俺の父さんと母さんと……妹を巻き込んで殺したの?」
「………………はい」
――ガツッ!!
「……ぁぐっ!?!?!?」
次の瞬間、叔母さんの身体が跳ね上がり、天井へ
そして受け身を取る暇もなく、潰れたカエルのように床にへばりつく。
跪いていた叔母さんの顎を、俺が衝動的に蹴り上げたのだ。
「ぁがっ、がっっは……! ゲホ、ゲホゲホッ、ゲホッ!!」
フローリングの床に這いつくばりながら、痛みに悶える叔母さん。
……しかしその顔は言い知れない悦びの色に染まり、瞳は歓喜でにじんでいた。
「ああっ、そのお力……それこそが、貴方が人ならざる魔王であることの証……!」
両目から涙をこぼしながら、叔母さんが俺の足にすがってくる。
その姿に嫌悪感を抱きつつも……俺は自分の力に困惑していた。
女性とは言え、大人ひとりの身体を天井まで軽く蹴り飛ばすほどの脚力……昨日までは持ち得なかった人外の力を発揮し、俺は図らずも自分がすでに人間ではないということを証明してしまったのだ。
「…………ッ!!」
その戸惑いを隠すように、硬く拳を握った。
「……ふざけんなよ。そんなことのために家族を巻き込んで……何年も俺を騙して、俺に優しくしてくれて……!」
――アナタを好きにさせて。
その言葉を口にすることができず、俺は奥歯を噛みしめる。
(もし本当に、俺にそれだけの力があるなら――)
今すぐにでも、俺から家族を奪った魔族の仲間……人間の敵であるこの女を引き裂いてやろう。
そう思い、俺は片手を振り上げた。
しかし――
「………………ッ!」
俺の脳裏に、かつて目にした光景が甦る。
親戚の家をたらい回しにされていた俺を迎えに来て、一緒に暮らそうと言ってくれた叔母さんの顔。
風邪を引いたとき、いいと言っているのにわざわざ仕事を休み、看病してくれた叔母さんの顔。
入学試験に受かったことを伝えると、目に涙を浮かべて喜んで、お祝いをしてくれた叔母さんの顔。
そして家出をした俺を見つけたときの、心の底から安心したような叔母さんの顔――
あれがすべて演技だったとは思えず……いや、思いたくなく。俺はその腕を振るうことができなかった。
「…………クソォッ!!」
振り上げた拳の行き先を求めて壁を殴ると、そこに容易く穴が空いた。
足元にうずくまり、唇から血を流す女。見た目は人間のそれだが、これは仮初の姿だ。
本来は憎むべき魔族のはず……しかし初恋の人の顔をしたこの女を手にかけることは、俺にはできなかった。
「…………チッ」
俺は踵を返して自室に戻り、バッグに衣類を詰め込んだ。
そしていまだにリビングの床から立ち上がれないでいる叔母さんに一瞥もくれることなく、その横を通り抜けて玄関に向かう。
「ま……魔王様、何を?」
「出て行くんだよ。人間の世界を乗っ取ろうとしてるヤツとなんか、一緒に住めるわけないだろ?」
「しかし、行かれるあては……?」
「……あるわけないだろ。でも俺の家族を殺したアンタとは、一秒だって同じ家にいたくない」
「魔王様、私は――」
まだ何か言いたげな叔母さんの言葉を拒絶するように、ガチャガチャと乱暴にドアノブを回し、扉を開ける。
「……いえ、わかりました。ですがオブジディア様。貴方が魔王である以上、必ず私のもとへお戻りになられるはず。その時まで、アメジスティアはここでお待ちしております――」
俺はその声に応えることなく……思い切りドアを閉め、マンションを飛び出した。