金剛心輝シャイニングディオーネ~世界一面倒くさい魔王とヒロインの純愛(?)凌辱バトル~ 作:johnny内藤
◇
――正午過ぎの教室。
現代文の授業を受けていた姫菱陽花梨は、黒板の前に立つ先生に気づかれないよう、教室の隅にある席にチラリと視線を向けた。
(黒河くん……今日はお休みなのかな?)
朝から誰も座ることがなかったその席は、四時限目の授業が始まっても空席のままだった。
本日黒河曜が欠席するという報せは、クラス委員である彼女にも届いていない。
たしかに曜はクラスでも浮いた存在で、協調性こそまるでないものの、不良というわけでは決してない。
現に無断欠席といったことは今まで一度も――まあ自主的に早退したことはあったが――とにかく、学園に断りもなく休んだことなどなかったはずだ。
そんな彼が、いったいなぜ……? と、陽花梨は首をかしげた。
(ま、まさか昨日、どこかに怪我をしてたとか……?)
倒壊寸前の建物の中を、子供たちを助けるために奔走したのだ。その可能性はじゅうぶんある。
いかに彼が、傷の治りが異常に早い不思議な体質の持ち主だったとしても、それがどれほどまでの怪我をカバーできるかなんてわからない。
もし曜が怪我のせいで休んでいるんだとしたら、その原因は自分にある……と、責任感の強い陽花梨は考えた。
(どうしよう……放課後、お見舞いに行ってみようかな? あっ、でも私なんかがいきなりお邪魔しても迷惑かも……黒河くん、そういうの嫌がりそうだし)
カチカチとせわしなくシャーペンをノックしながら、いつものようにぶっきらぼうに目を反らし、憎まれ口をきく彼の顔を想像する。
(で、でもクラス委員としては、欠席したクラスメイトの様子も見に行かなきゃだし……何かお土産を持っていけば受け入れてくれるかな? ケーキとかシュークリームとか……あ、でも私、黒河くんが好きなものとか知らないし……)
ノックを続けられたシャーペンはすでに芯を出しきっており、カチャカチャと軽い音を立てて空打ちを繰り返している。しかし考えに耽る陽花梨は、そのことにまったく気づいていない。
(こんど訊いてみようかな、黒河くんの好物とか。あっ、でも急にそんなことしたら、変に思われるかも!? もしかしたら私が黒河くんのことを……き、気にしてるとか思われちゃったりして……? きゃ~っ♡ きゃ~~~っ♡ 違うって~~~♡ 私はあくまでもクラス委員として心配してるだけで、べっ別に好きとかそういうんじゃ……! でも最近、黒河くんとすご~く距離が縮まったって言うか……き、昨日だって、それまで『アンタ』なんて呼ばれてたのが、いつの間にか『お前』に変わってたり……も、もうっなに~~~!? 黒河くん、いつも急だよぉ~~~♡♡♡)
「ひ、姫菱、大丈夫か? 具合が悪いなら、保健室にでも……」
自分に向けられた教師の声も耳に入らず、陽花梨はひとり机に顔を伏せ、脚をバタバタさせていた。
クラスきっての優等生が初めて見せる姿――
顔を覆った腕の中で、陽花梨が真っ赤になってにやついていることを知らない同級生たちは、ただただ困惑するだけだった。
◆
――夕日が差してきた公園。
自宅だったマンションからだいぶ離れたその場所で、行くあても金もなく、俺は朝からベンチに座って時間を潰していた。
だが、そろそろ学校を終えた子供たちが集まってくる時刻だ。
いつまでもここにいては人目が気になるし、場所を移すことにしよう……そう考え、俺は重い腰を上げた。
「……しかしどうするかなぁ、これから…‥」
もちろん、このままフラフラとさまよっているわけにはいかない。どこか住むところとか、働くところも見つけなくては。
……でも住所不定の学生を雇ってくれる働き口なんてあるのだろうか?
いまの俺は、まさに天涯孤独。家族を失った子供のころを思い出す。
脳裏に浮かぶのは、そんな自分に優しく手を差し伸べてくれた――
「…………チッ!」
俺は頭を振り、その光景を吹き飛ばす。
そう……今までのことはぜんぶ嘘だったのだ。俺をからかう笑顔も、無防備にスキンシップを取ってきたのも、時折見せた優しさも、すべては俺を魔王として目覚めさせるため――
「……って、魔王ってなんだよ! ぜんっっっぜん意味わかんねぇーーー!!」
とつぜん腕を振り上げて叫んだ俺を見て、今まさに公園に向かおうとしていた子供たちが慌てた様子で駆け出した。
「はぁ……」
俺は小さくなり、いそいそとその場を去る。
いきなり魔王だなんだと言われても、まったく実感がわかない。
あまりの現実感のなさに、ひょっとして俺は夕べから長い夢を見続けているのではないか……とさえ思えてくる。
――そんなことを考えながらデタラメに歩いてるうちに、いつの間にか薄暗い路地裏に入り込んでいたようだ。
この辺りはホームレスの住処として知られる場所だ。ホームレスと言っても、シャイニングディオーネと魔物の戦いに巻き込まれ、住む家を失った人たちのことなのだが……。
ビルの影には、雨除けのブルーシートで覆われた段ボールハウスが点在している。
……ちょうどいい。行くあてもないことだし、俺も今日からここいら一帯の仲間に入れてもらおうか……といった考えが頭をよぎった。
その時――
「いやぁあああああああああああっ!?」
甲高い女性の悲鳴が、路地裏に響き渡った。
声がした方を向くと、道端に並んだ段ボールハウスのひとつが、ガタガタと揺れていた。