金剛心輝シャイニングディオーネ~世界一面倒くさい魔王とヒロインの純愛(?)凌辱バトル~ 作:johnny内藤
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黒河曜が自宅のマンションを飛び出してから、一日以上が経過した。
ダークアメジスティアは、彼女が人間として生活する際の形態である藤村英子の姿のまま、リビングでティーカップを傾けていた。
――魔王の生まれ変わりである曜なら、必ずこの部屋に戻る。
自らが言い放ったその言葉……そして曜を信じ、その帰りを待ち続けているのだ。
「…………
唇の傷に熱いレモンティーが染み、英子が顔しかめた。
昨日、自身の生い立ちを知った曜に蹴り上げられた際にできたものだ。
激情にかられた魔王が力任せに付けた傷は、魔族の治癒力をもってしても塞がるのに時間がかかるようだ。
英子は唇に指をあて、昨日の出来事を振り返る。
――力を取り戻したばかりでありながら、自分を天井まで蹴り上げた脚力。
初日としては完璧だ……この調子であれば、闇の力を自由に操ったり、空を飛べるようになるのも時間の問題だろう。
ひとつ懸念があるとすれば、彼が持つ人間としての意志の強さ。
ただでさえ誕生以来、魔王としての自我を完全に封じ込めてきたほど強い精神力を持っているのだ。
長年にわたって凝り固まった魔族への憎悪は、簡単に解けるものではない。
……いやしかし、人間に対する曜の信頼感が希薄なのも、また事実だ。
幼いころ周囲の大人は誰も相手にしてくれず、同じ年ごろの子供ですら価値観が合わず、孤立していた日々。
だからこそ彼は、そんな自分に手を差し伸べた叔母に懐き、甘え、深く信頼するようになったのだ。
(初めてお会いした時の曜様は、まるでオオカミの孤児のようだったな……すべてを警戒し、信じることができず、遠ざけようとして。そんな彼が、私の正体も知らず少しずつ心を開いていく様は――)
「フフッ、クックックック……」
ふっくらとして艶のある唇を歪め、英子が魔族らしい邪悪な笑みを浮かべる。
そして――
(――いま思い返しても、頬が緩んでしまうほど愛らしかった……ッッッ♡♡♡)
気を抜くと全身を抱きしめて身もだえしそうになるほどの胸キュンを強靭な自制心で抑えつけ、英子は再びティーカップに口を付けた。
――彼女が曜の出奔をあえて放置しているのは、彼に改めて人間の本性というものを認識してもらうためだ。
人間とは、臆病で自分本位で卑怯なもの……独りになって街をさまよっていれば、嫌でもそれを見せつけられることになるだろう。
その時こそ彼は人間に絶望し、魔王としての自我に目覚める。そして魔族らしく、自らが望む通りに生きるのだ。
人間界の統治に、自分を虐げた人々の殺戮。魔王の力があれば、何をするにも思いのままだ。
そして曜が誇り高き魔王として世界に降臨した時、その横には右腕として付き従う自分の姿が――
「……い、いやっ! 私はあくまでも魔王様の養育係として数年間お傍にいただけで……右腕などという大それたことは……ま、参ったなぁ!♡♡♡」
いち部下としてあるまじき幻想を抱いてしまったことを誤魔化すように、英子はレモンティーをスプーンでグルグルかき回し、一気にそれを煽る。
「…………痛ぅッ!」
そして唇の怪我を思い出し、肩をビクッと震わせた。
「しかし魔王様、遅いな……」
時計を見ると、時刻は昼過ぎ。
英子の予想では一夜明けたくらいのころには、世間に打ちひしがれた曜がこの部屋に帰ってくるはずだったのだが……。
「ひとつ探しに行ってみるか?」
そう言うと英子はティーカップを置き、椅子から立ち上がる……が。
「……フッ、何を心配しているのだか」
すぐに思い直して再び席に着いた。
まだ全盛期には程遠いとはいえ、曜は魔王オブジディアの生まれ変わりだ。
人間の力でどうにかできるわけはないし、ましてや危害を加えるなんていうことは不可能なはず。
ならば自分はこの家で悠然と構え、彼がいつ帰ってきてもいいようにしておくことこそが最善策。
それこそが魔王に対する忠誠と信頼の表れ。英子は固くそう信じる。
(……ククッ。この私がこんな気持ちを抱くとは……人間でもあるまいに。これも何年もの間、魔王様の保護者役を演じてきたせいか?)
相手がこの世に唯一無二の魔王とは言え、魔族である自分がこんなにも他者を心配するなんて……と、英子は自嘲した。
たしかにかつて曜が家出をした際は全力で捜索したし、学校でイジメられたと知ったら相手の保護者に抗議しにいったし、曜が魔王であることを知らない魔物が彼を襲っていたときには、万感の怒りを込めて粛清した。
しかしそれはあくまでも魔王復活という目的のためであり、本当の意味で彼の身を案じたわけではない。
……ないのだが。
――カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ
「………………」
壁にかけた時計の針が時を刻むごとに、英子の苛立ちが増していく。
一応曜にはスマホを持たせてはいるのだが、いま電話をかけても出てはくれないだろう。
GPSで居場所を探すという発想も、機械に疎い彼女には出てこなかった。
一時間が経った。もうとっくに昼食時は過ぎている。曜様はお腹を空かせていないだろうか。
二時間が経った。そろそろ曜様が通っている学園の授業が終わるころだ。もしやクラスメイトと出くわして、その家に上がり込んでお世話に……などという事態にはなっていないだろうか。
「も、もうっ! あの子ったらどこで何してるんだか!」
ついつい英子の口から、長年演じてきた叔母としての言葉が出てしまう。
もはや心の底から湧き上がる不安を隠すこともできず、焦りは募っていくばかりだ。
「……仕方ない。魔王様の自主性を尊重しないようで気が引けるが、少しだけ……ほんの少しだけ様子を見に行くだけだから……」
とうとう痺れを切らし、英子が椅子から立ち上がった。
もっと時間が経てば曜の中で闇のエナジーが増大していき、それを察知することもできるだろう。
しかし曜は、まだ目覚めたばかりの未熟な魔王だ。英子ほどの強いエナジーを持たない彼の居場所を特定することは難しい。
「――アメジストパワー……クリービング!」
虚空に手をかざした英子がそう口にすると、彼女の身体から闇の粒子があふれ出し全身を覆い尽くす。
やがてそれが収束していくと、闇の中から英子本来の姿――ダークアメジスティアが現れた。
「魔王様、貴方のアメジスティアがいま参ります! ……どうかご無事でッ!!」
アメジスティアは颯爽とリビングの窓を開けると、ベランダの手すりを乗り越え大空へと飛び立った。