金剛心輝シャイニングディオーネ~世界一面倒くさい魔王とヒロインの純愛(?)凌辱バトル~ 作:johnny内藤
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西日が強まってきた駅前を、俺は相変わらずあてどもなく歩いていた。
衝動的に家を飛び出したせいで財布を忘れていた俺は、泊まる場所を見つけることができず、夕べはけっきょく
その間、口にしたものと言えば公園で飲んだ水だけだ。
幸いと言うかなんと言うか、強い空腹感で思考は鈍っているものの、体力だけはあり余っている。
これも体質が変わったおかげだろうか? どうやら魔族というのは、空腹だけではそう簡単には死ぬものではないらしい。
とは言え、このままずっと宿無し、食事なしというわけにはいかない。
体力の心配をする必要はないものの、腹が減ったままでは気力が湧いてこず、何かをするという意思も失せていく。
頭も痒くなってきたし、風呂にだって入りたい。
……いっそ家に戻るか? いや、でも昨日叔母さんにあんなことをして飛び出してきたわけだし……今さら帰るわけにもいかない。
どうしたものかと、俺が回らない頭で考えていると――
「あっ」
「あっ」
大通りの歩道で、制服姿の姫菱と出くわした。
(…………まずい)
そう言えば、いつもなら今ごろは放課後の時間だ。
授業を終えたクラスメイトが駅前にいても、まったく不思議じゃない。
そんなことも思いつかないくらい、俺の頭は鈍っていたのか……と自分をぶん殴りたくなってくる。
特に姫菱は、いま一番会いたくない人だ。
人々を魔族の手から守護する正義のヒロインと、魔王の生まれ変わりである俺……どう考えても、決して相容れない天敵同士だ。
(……どうする? 見なかったことにするか?)
と、俺があり得ない解決方法で、なんとかこの場を切り抜けようと思ったときだった。
「黒河くん……も、もしかして、サボリですか……っ!?」
綺麗な顔を真っ赤にし、姫菱が俺を咎めた。
「も……もうっ、心配したのに! 二日も無断欠席するから、黒河くんの身に何かあったんじゃないかって!」
「え? えっ? ああ、いや、それは悪かったけど……でも、別にサボリってわけじゃ……」
「信じられませんっ! だったらどうして、私服でこんなところを歩いてるんですか!」
俺が若干ひいてしまうくらいの勢いで、姫菱が詰め寄ってくる。
コイツのこんな怒った顔を見たのは、ゴリラの魔物に襲われた日以来だ。
たしかに俺の格好を見たら、サボリだと思われても仕方ないのかもしれない。
でもそんなに怒ることはないのに……と心の中でボヤくものの、口には出さないでおく。
「まったくもう……あんまり心配だったから、今日こそはお見舞いに行こうと思ってたんですよ?」
「え? 俺の家に?」
「は、はいっ! あの……一応クラス委員だし、責任がありますので……。あっあっ、住所は先生から教えてもらいました!」
急にモジモジしだし、姫菱がうつむき気味に答えた。
そういうことなら逆にツイていたかもしれない。
何せ魔王の俺と、シャイニングディオーネ最大のライバルであるダークアメジスティアこと英子叔母さんが同居している家だ。もし姫菱に踏み込まれていたりしたら、何が起きていたかわからない……。
よく見ると彼女はいつもの通学かばんの他に、有名な洋菓子店の箱を手に提げていた。
「……えへっ。これ、お見舞いの品です。私が好きなお菓子屋さんのケーキ。黒河くんが好きな味がわからなかったから、美味しいのをいくつか選んできました♪」
「そ、そうなのか? でもいくらクラス委員だからって、お前が気を使うことじゃ……」
過大な心遣いは、かえってこちらの負担になる。
そう思い、俺が遠慮がちに口を開いた……その時。
――グゥゥ~~~~~ッ
「………………」
「いまのって……黒河くん、ですよね……?」
俺はあまり甘いものが得意ではないのだが、『ケーキ』という言葉を聞いて急に食欲がわいてきたようだ。
大通りの雑踏にも負けないくらいの音量で、腹の虫が騒ぎ出した。
「……ふふっ。よかったです、ケーキは嫌いじゃないみたいで」
「いや、俺は……」
姫菱がおかしそうに、クスクスと肩を揺らしている。
とてもじゃないが「いま食べられるならなんでもいい」などとは言えず、俺はなんと言い訳したらいいものかと四苦八苦する。
……同時に、昨日から今日にかけて荒みに荒んでいた心が妙に落ち着いてきているのに気が付いた。
なんでだろう。目の前の彼女は、家族を助けてくれなかった正義のヒロインの仲間で、自分と敵対することが宿命づけられた相手だというのに……。
――ひとしきり笑った後。
先ほどの怒りは嘘だったんじゃないかと思えるほどの柔らかい笑みを浮かべ、姫菱が控えめに尋ねてきた。
「……何かあったんですか?」
「………………」
答えに詰まった。
学園を休んだ理由を正直に打ち明けたら、俺は本当に姫菱と敵対することになる。
「実は自分は魔王の生まれ変わりでした」
そんなことを言ったら、彼女はどんな表情を見せるだろう。
笑えない冗談を言ったと軽蔑するだろうか。怒りに満ちた目で睨んでくるだろうか。もしかしたら、クラスメイトの正体が邪悪な魔王だったと知って悲しむかも。
……姫菱の性格だったら、その可能性が一番高そうだ。コイツなら、俺の言葉を真に受けかねない。
できればそれは避けたいところだ。
……なぜ俺は、最近話すようになったばかりのクラスメイトを悲しませることを、こんなに恐れているんだろうか。
自分の中でどんな心境の変化が起きているのか……空腹感で濁った頭では、いくら考えても答えは出せなかった。
「あっ、あの……話しづらいことだったら、無理にとは……」
黙りこくった俺を気遣い、姫菱がそんな助け舟を出してくれた……その時。
――ぞわりっ
「…………ッッ!?」
背筋が。二の腕が。全身が粟立つような寒気に、俺は身をすくませた。
まるで身体中にまとわりついて窒息させられるような、重たくドス黒い気配……。
辺りを見回しても、そこには駅前を行き交う通行人でごった返すいつも通りの風景しか広がっていない。
しかし姫菱の顔を見れば一目瞭然だ。先ほどまでの穏やかだった表情が一変し、彼女は鋭い視線を中空の
「……来ますっ」
姫菱がそう呟いた瞬間。大通りを見下ろすビルの真上の空間に、黒いモヤのようなものが広がっていくのが見えた。