金剛心輝シャイニングディオーネ~世界一面倒くさい魔王とヒロインの純愛(?)凌辱バトル~ 作:johnny内藤
第7話-1
◇
先日の襲撃事件を受け、姫菱陽花梨が通っている学園は一時休校となっていた。
数日経ってようやく街も落ち着きを取り戻し、久しぶりに授業が再開されたこの日。通学かばんを提げた陽花梨が、教室の扉を静かに開けた。
――カラカラッ
「あっ、おはよう姫菱さん。久しぶりっ」
「え……? あっ、そ、そうですね。お久しぶり……になっちゃいましたね」
まるで別のクラスの様子を伺うかのように、恐る恐る自分の教室へと足を踏み入れた陽花梨。
そんないつもと違った彼女の様子に気づくこともなく、級友たちが普段と変わらぬ調子で挨拶をしてくれた。
陽花梨は丁寧に挨拶を返すが、意識は別のところに向けられていた。
(………………っ!)
陽花梨がこわごわと視線を向けた、教室の片隅。
そこは和気あいあいとしたムードに包まれたクラスの中で、唯一冷たく、重い雰囲気が漂う空間だった。
そしてその中心……隅の席には、陽花梨が探していた
「…………黒河くん……」
それは陽花梨もよく知るクラスの問題児の、以前と変わらぬ姿だった。
……いや、変わらないのは姿だけだ。
気だるそうに机に肘をつき、誰とも話をしようとしないのは少し前までの黒河曜と同じなのだが、彼が纏う雰囲気……いわゆるオーラのようなものが、数日前までの彼とはまるで違っていた。
身も凍るような重圧を感じさせる、誰をも寄せ付けない黒いオーラ――
クラスメイト達はその本質には気づかぬまま、彼を無視するように友人同士で賑わい、無意識にそれを避けている。
なぜならそれをまともに認識すれば、普通の人間では恐怖で心がもたない……もしくは一瞬のうちに魅了されてしまうからだ。
ただそこに座っているだけの彼から放たれる、禍々しい空気。それを直視し、なおも平常心を保っていられるのは、陽花梨が闇のエナジーを纏った魔族との戦いに慣れているからにすぎない。
「………………」
「……あっ。あの……姫菱さん?」
一瞬ためらった後、陽花梨が意を決したように曜の席に向かって歩き始めた。
危ないからやめたほうがいい……と、クラスの女子が声をかけようとする。
しかし陽花梨の決意に満ちた目と、曜に対する意識下の畏怖が、彼女に最後まで言葉を紡ぐことをさせなかった。
「――黒河くん」
「……よう、姫菱。おはよう」
陽花梨が声をかけると、曜はすんなり振り返った。
しかも陽花梨に先んじて朝の挨拶まで。以前までの彼の姿からは考えられない変化に、教室がわずかにどよめく。
こんなに注目されていては話しづらい……。陽花梨は先日のように、曜を人気のない廊下まで連れ出すことにした。
「……少しいいですか?」
「ああ、もちろん」
陽花梨に従い、曜が素直に立ち上がった。
扉へ向かう二人の進路から逃げるように、クラスメイト達は率先して道を空けていく。
――カラカラ……ピシャッ
小さく鋭い音を立てて、教室の扉が閉められた。
クラス一の問題児を連れ出して、廊下で二人きり……という、いつか見たシチュエーション。
しかし陽花梨を心配し、教室から顔を出して様子を伺おうという級友は、この日は一名もいなかった。
「――さて、と」
先日と同じ、人通りのない廊下の片隅。
そこへ連れてこられた曜が、以前とは逆に自分のほうから切り出した。
「もう出てきたんだな。あんなことがあったし、学園に来られるようになるのはもう少し先のことだと思ってたけど……案外たくましいんだな」
「………………っ」
彼が言う
「……ま、それはこっちも同じか。いまさらどの面下げて、学園なんかに来てるんだって思ってるだろ?」
「黒河くん……わ、私、そんなことは……」
「一応、もうしばらくは学生生活を続けようと思ってな。この世界で生きていくのに、人間の身分は何かと便利だから」
淡々とした軽い口調でそう話す曜。
らしくない饒舌な口ぶりから彼が抱いている感情を読み取ることができず、陽花梨はただただただ戸惑うばかりだ。
「……私、まだ信じられません。黒河くんがもう……に、人間じゃ……ないだなんて……」
「まだそんなこと言ってるのか?
「…………っ! それは――っ」
曜が上着から取り出して、陽花梨の目の前でチラつかせているもの……それは以前見た、彼が制服の下に隠しているネックレスだった。
ただし前とは決定的に違うところがある。
それはその先端についている石が、陽花梨が持つブローチとは正反対に、真っ黒に染まりきっていることだった。
◇
――魔族の襲撃により、街が大混乱に見舞われたその翌日。
「………………」
陽花梨は自室のベッドの上で、パジャマ姿のまま膝を抱えてうつむいていた。
食事もとらず、一日中同じ姿勢のまま……彼女は頭の中で、昨夜起きた出来事に思いを巡らせていた。
それは守るべき人々から受けた、残酷な裏切り――ではなく、陽花梨の心の大部分に居座っている、放っておけない
――コンコン
夕暮れ時が過ぎ、空に夜の帳が下り始めたころ。
とつぜん聞こえたノックの音に、陽花梨はむっくりと顔を上げた。
「陽花梨、入るわよ?」
扉を開けたのは母、純玲だった。
まだリビングに降りてくることができない娘のために、夕食をトレーに乗せて部屋まで運んできてくれたようだ。
「……ありがとう、お母さん」
陽花梨は律儀に礼を言い、それを受け取って微笑みを返した。
しかしその声はか細く張りがなく、いつもならまん丸く開かれているあどけない瞳も、どこかうつろで生気がない。
そんな娘の痛々しい姿を見て、純玲は心を痛めていた。
「……ひどい目に遭ったのよね。ごめんなさい陽花梨……こんな過酷な使命を、あなたひとりに背負わせて……」
娘が座るベッドに腰かけ、重苦しい表情を浮かべた母が謝罪した。
陽花梨は無理をするように笑い、努めて明るい声を出す。
「ふふっ、平気だよ。これは誰かがやらなきゃいけないことだから……これくらいじゃ、私の心は折れないもん!」
――身体を汚され、半裸状態でボロボロになっている陽花梨。そんな娘を自宅の庭で発見したのは、他でもない純玲だった。
彼女はその姿を一目見て、陽花梨が敗北したのだと悟った。
そして敗北した正義のヒロインがどんな目に遭うのかということも、かつて人類の守護者として同じ道を歩んできた純玲は――
「……無理をしないでね? 私たちがしていることは、決して義務なんかじゃないの。つらいなら辞めたって、誰にもあなたを責める権利は……」
「ううん、大丈夫。世界には、私にしか救えない人がたくさんいるんだから……その人たちのためにも、私がここで負けるわけにはいかないの」
心と身体を踏みにじられながらも、陽花梨は気丈な笑顔を母に見せた。
「……それに、絶対に助けてあげたい人がいるの。私たちのせいで心に深い傷を負って、人間であることをやめてしまった
「復活した魔王……よね? 夕べ、ものすごく大きな闇のエナジーが生まれたのを感じたわ」
コクリ……と、陽花梨がうなづいた。
「その人が、陽花梨を家まで送り届けてくれたのよね?」
「…………うん」
「ねえ、それは誰なの?
「……ごめんなさい、それだけは言えないの」
申し訳なさそうに目を伏せた陽花梨だったが、その意志は固いようだ。
いつもは素直すぎて逆に不安になるほどだが、一度決めたことは意地でもやり通す……そんな娘の性分をよく知る母は、それ以上の追及はしなかった。
「わかったわ……やれるだけのことはやってみなさい。ただし、絶対に無理だけはしないこと」
「うん……ありがとう、お母さん!」
母の言葉に、陽花梨は昨日以来初めてとなる、心からの笑顔を浮かべた。
「あ……でもどうしたらいいのかな? 闇のエナジーに染まりきった人の心を、助けてあげる方法って……?」
「そうねぇ……仕組み自体はとても単純なんだけど、相手が魔王ともなると難しいかも……」
「……!! そ、それでもいいから、教えてっ!」
「ふふっ、わかったわ。それはね――」
純玲は机に置かれていた娘のブローチを手に取り、聖なるエナジーと闇のエナジー……そして聖輝石と魔宝石に関するレクチャーを始めた。
……一方同時刻。黒河曜が居候している、藤村家のマンションでは――