金剛心輝シャイニングディオーネ~世界一面倒くさい魔王とヒロインの純愛(?)凌辱バトル~ 作:johnny内藤
◇
――そして現在。
「…………魔宝石」
曜が手にさげた石を見て、陽花梨が重々しく口を開いた。
曜はネックレスを上着の中に戻し、先ほどから変わらぬ淡々とした口調で言う。
「この石は、俺が産まれたときから傍にあったらしくてな……これこそが、俺が人間じゃないってことの証だろ?」
「黒河くん……それじゃあやっぱり、あなたは……」
「ああ、名実ともに人間の敵らしい。……それに、その人間に味方するお前のな」
彼のきっぱりとした物言いに、陽花梨が一瞬だが泣きそうな表情を浮かべる。
「そんな……っ! 私は、黒河くんと戦いたくなんて……!」
「甘えるなよ。絶対に守るって決めたんだろ? どんな目に遭わされても、どんな痛い思いをしてでも……お前を簡単に裏切って、表面上の感謝しかしないゴミみたいな人間たちを」
「…………私は、感謝がほしいわけじゃありません」
陽花梨は精一杯虚勢を張り、悲しみを悟られぬよう固く拳を握りしめる。
「まあ、すぐにわかる時がくる。人間っていうのが、お前が思ってる以上にクソで、救う価値なんかないヤツらだってことが」
「黒河くん……それでも私はみんなを守り、命を助けたいです。……それに、あなたの心も」
「……優等生のくせに、やっぱりとんでもないバカだな」
最後にそう言い捨てて、曜は陽花梨を残して教室へと戻っていく。
込み上げてくる涙を強い心で抑え込み、陽花梨も一足遅れでその背中を追うように廊下を後にした。
◆
――その日の放課後。
とある郊外の街を選び、俺はダークアメジスティア――英子叔母さんが本来持つ、魔族としての姿――と共に、彼女の力を借りてそこへ
「便利だね、『影から影に移動する術』。……必死に自転車こいで、遠くの街まで駆けつけてたのがバカらしいや」
「フフ……練習なされば、魔王様もすぐ使いこなせるようになりますよ」
高いビルの屋上に立ち、町並みを見渡す……。人通りはそれなりに多いものの、企業が撤退したビルやシャッターの降りたテナントも多く目につく。
……まあ魔王として初めての仕事をするには、これくらいの規模の街の方がちょうどいいだろう。
「……しかし、息苦しいなコレ。正体を隠すなら、絶対に外すわけにはいかないんだけどさ……」
人間の姿しか持たない俺は、アメジスティアのアドバイスにより、闇のエナジーから作り出したマスクとマントを装着している。
「お似合いですよ、魔王様……♡」
自ら率先してそれをデザインしたアメジスティアが、胸の前で両手を握ってうっとりと目を細めている。
俺的には、いかにも「悪者です」感が強すぎて若干ダサ……いや、せっかくアメジスティアが用意してくれたのだ。これ以上は思うまい。
「じゃ、さっそく始めようか……アメジスティア、まずはあそこの廃ビルを壊してくれる?」
「廃ビル……ですか? どうせ破壊するなら、人が大勢いるビルのほうが効果的かと思いますが」
「いいんだよ、今日は
「ハ……。しかしいずれこの世界に侵攻する同族のためにも、ひとりでも多く殺したほうが都合がいいのでは――」
――ガシッ!!
「ぅぐッッッ!?」
俺の指示に疑問を呈したアメジスティア。
次の瞬間、俺の腕が彼女の首に伸び、その身体を10センチほど浮き上がらせた。
「……何か勘違いしてない? たしかに俺は人間の敵にはなったけど、魔族の味方になったってわけでもないんだ。十年前に俺が住む街を焼いて、家族を殺したこと。忘れたわけじゃないから」
「ぐッ……ガッ……!? ま゛……まお……っさま……ッッ!」
「アイツとの一件が片付くまでは共同戦線を張るけど、そこから先はどうなるかわからない。だからまあ、それまではせいぜい俺の機嫌でも取っててよ」
首の肉にめり込ませていた指を離すと、着地したアメジスティアがわずかによろめき、赤いものが混じった咳をした。
「ゲホッ! ゲフッ……! しょ……承知しました、魔王様の思うとおりに。で、ですが完璧にお望みに応えられるかは……」
「ああ、善処してくれたらいい。やれる範囲でね」
「ハッ!」
やがて俺たちの存在に気づいたのか、周囲の人々がこちらを見上げてザワつき始める。
「さあ、魔王様……最初が肝心ですよ?」
「わかってるって……あー、コホン」
アメジスティアに促され、俺はマスクの下でひとつ咳ばらいをした。
そして空を切るように腕を横なぎに払い、わざと大げさな口調で叫んだ。
「愚かな人間たちよ! 我が名は魔王オブジディア! この世界を手中に収めるため、永き眠りから目覚めた破壊者だ!」
ビルを囲む群衆のどよめきが、いっそう強くなった。
「もはや貴様らには絶望の未来しかない……助かりたくば、貴様らが信奉する正義のヒロインとやらに祈ってみろ!」
用意していたセリフを最後まで言い切り、俺は腕を下げた。
(……ちょっと芝居がかりすぎたかな?)
言ってから後悔した。しかし――
「魔王様……ご立派です……♡」
「やめてよ……マスクがなかったら、まともに顔を上げていられないくらい恥ずかしいんだから」
アメジスティアは先ほどと同じポーズで、子供のお遊戯会を見守る母親のように目を潤ませていた。
その隣で、俺は誰に知られることもなく、顔を真っ赤に染めていた。
――やがてアメジスティアが、俺の命令を実行に移すべく飛び上がった。
「……一応聞いておくけど、お腹の傷はもういいの?」
「ご心配なく……魔王様から賜った信頼とエナジーにより、あれしきの傷、とっくに治してしまいました」
「それならいいけど……ま、気を付けて」
その言葉に凛とした微笑みで返し、アメジスティアが廃ビルへと向かっていく。
「さあ逃げろ、逃げ惑え! 己を守る力も持たぬ人間どもよ!!」
アメジスティアが槍を振るうと、破壊力を伴った闇のエナジーが、斬撃の軌跡を描いて放たれた。
それは廃ビルの壁を削り、柱を砕き、建物全体をぐらつかせる。
先ほどの演説が効いたのかは定かではないが、すでに群衆は避難を始めており、周囲に人の影はまばらになっている。
その後もアメジスティアが順調に破壊を続け、いよいよビルが崩落すると思われた……その時。
「そこまでです! ダークアメジスティア!」
遠くの空から、光の尾を引きながらこちらに近づいてくる飛翔体。
それは間違いなく――
「来たな、シャイニングディオーネ!」
……そう。変身を終え、この街に駆け付けた姫菱だ。
そのコスチュームは以前と同じ輝きに満ちていて、人間たちの手で無残に破られた痕跡は残っていない。
高速で接近するディオーネを迎え撃つべく、アメジスティアが切っ先を向ける。
「はぁぁぁっ……! カッティングぅ、ブレぇぇード!」
それに呼応するように、ディオーネもまた光の剣を生成する。
そして二人が刃と刃を合わせようとした刹那――
――ババババババババッ!!
「…………っ!?」
「ま、魔王様……!?」
俺は空を飛んで両者の間に割って入り、ガラスのように固めて圧縮した闇のエナジーを盾に、ディオーネの剣を防いだ。
闇のエナジーで作られた障壁と、聖なるエナジーで作られた刃……相反するエナジー同士が互いの領域を侵食し合い、激しい音と明滅が繰り返される。
「――っ、く……っ!」
やがてディオーネが、弾かれるようにその場から飛びのき距離を取る。
「その強力なバリアー……あなたは、いったい……!?」
「思ったより早かったな。あんな目に遭ってもまだ人間を守りたいって言ったのは、嘘や強がりじゃなかったんだ」
仮面の下で漏らした俺の言葉に、ディオーネは表情を凍らせた。
「……っっ!? そんな……黒河く――」
「あー……一応、この場では魔王オブジディアってことで通してくれるか? 正体を知られたくないって点では、お互い事情は同じだろ?」
「……へっ? えっ? そ、そうですね……それは、まあ……」
一瞬、言いくるめられたように目をそらしたディオーネ。
しかしすぐに戦意を込めた瞳で俺を見つめ直した。
「くろ……っ、ま、魔王オブジディア! あなたは、本気でこの世界の人たちを……!」
「ああ。苦しめ苦しめて、苦しめ抜いて追い詰める。嫌だっていうなら、俺を殺してでも止めてみろよ」
「……っ!! そ、そんなことできません! できませんけど……私は私なりのやり方で、あなたを必ず止めてみせます!」
「ハッ! 貴様ごときが魔王様を止めるだと……? 面白いッ! やれるものならやってみろ!!」
その時、俺の後ろにいたはずのアメジスティアが、ディオーネの頭上から奇襲を仕掛けた。
「くっ……!!」
――ガキィィィィィン!!
咄嗟に剣を構えたディオーネがそれを受け止めるが、体勢を崩してしまう。
それを見逃さず、アメジスティアが槍を続けざまに突き出し、息もつかせぬ連続攻撃を仕掛ける。
「そらそらそらそらッ! 思い上がるな、まだ未熟な小娘の分際で!」
「ぅくっ……! ぐっ……!」
「先日はやむを得ず共闘という形を取ってやったがな……馴れ合いはあの日限り! 今日こそは貴様に引導を渡してやる!」
「そ、それはこっちも同じです! あなたみたいな魔族には、私は絶対負けません!」
激しく打ち合う二人。
俺はそれ以上干渉せず、戦いの成り行きを見守っている。
……その時。
――ズゴゴゴゴゴゴ……!!
「…………っ!?」
自重を支えきれず、廃ビルが轟音を立ててついに崩れ去った。
ディオーネは一瞬そちらに気を取られる――それは彼女にとって致命的な隙となった。
「どこを見ている! くらえッ、アメジストエクスキューション!!」
「……っっ!? きゃああぁぁーーーーーーーーーっ!!」
アメジスティアの槍から放たれた極太の闇の光線が、ディオーネを飲み込んだ。
黒き破壊の光を全身に浴び、彼女はそのまま地面に墜落していく。
それを追うように俺たちも地上へと降り立ち、身動きが取れないディオーネを見下ろす。
「ぅ……うぅぅぅっ……!」
ディオーネがうめき声をあげ、頭を振っている。
全身を地面に強く打ち付けたようだが、命に別状はなさそうだ。
しかしダメージは甚大なようで、もはや戦闘に使えるほどのエナジーは、彼女には残されていないだろう。
「決着か……アメジスティア」
「ハッ、魔王様……手はず通りに」
俺が顎で合図すると、アメジスティアがうやうやしく頷いた。
「わ、私をどうするつもりですか……?」
「言っただろう? 人間なんて守る価値がないってこと、たっぷり教えてやるって」
ディオーネの疑問に、俺がそう答えた瞬間。
「――――っっ!?」
ディオーネが地面に触れている箇所……正確には彼女の影が、泥のように粘性を帯び、その身体を飲み込み始めた。
「こ、これはっ……!?」
「フフフッ……光栄に思うがいい、シャイニングディオーネ。魔王様のご命令により、貴様を我が世界に招待してやろう」
「あなたの世界って……ど、どういう意味ですか、アメジスティ――っっ」
アメジスティアが念じると、俺たちの影もまた同様に、底なし沼のようになる。
三人はそろって影の中に沈んでいき……やがてその場所には誰もいなくなった。