金剛心輝シャイニングディオーネ~世界一面倒くさい魔王とヒロインの純愛(?)凌辱バトル~ 作:johnny内藤
◇
「………………はぁ」
本日何度目かのため息。
陽花梨は自宅の食卓で、浮かない顔をして母の手料理を黙々と食べていた。
「………………」
そんな娘の様子をテーブルの対面から眺めつつ、姫菱純玲が思案する。
(……最近、やっぱり陽花梨の様子がおかしいわよね)
そう。魔王との戦いから還るたびに、陽花梨は落ち込んだり、妙に上機嫌な様子でニコニコしていたかと思えば、また激しく沈んだり……。
そんな不安定な娘の感情を、純玲は母としてとても気にかけていた。
なにより陽花梨の内に秘められた聖なるエナジーが、以前と比べてほんのわずかだが弱まってきているのも気になる。
まるで娘の中に
恐れていた事態……まさか魔王から闇のエナジーを注ぎ込まれ、侵食されているのではないかとも危惧する。
気になると言えば、娘がいまだに魔王の正体や、敵とどういった戦いをしているかの詳しい話を打ち明けようとしてくれないことだ。
そのことについては今までも何度か尋ねてみたのだが、普段は素直で聞き分けがいい陽花梨も、その話題になると途端に口をつぐんでしまう。
何か言えない理由でもあるのだろうか。もしかして脅されている……?
(いえ……陽花梨の態度はむしろ、誰かを庇っているような……)
どちらにせよ、その正体はできるだけ早く知っておきたい。
もしそれが判明し、頑なに口を閉ざす理由がわかれば、娘の心理状態をケアすることもできるかもしれないからだ。
……とは言え、根が頑固者である娘が一度話さないと決めたことだ。簡単には教えてくれないだろうと予想し、純玲もまた落ち込んだ気分になってしまう。
「………………はぁ」
「………………ふぅ」
姫菱家の食卓で、母娘のため息が重なった。
◇
「あっ、姫菱さんトコの奥さん! どうですか、今朝採ってきたばかりの大根! まだ泥がついてて新鮮でしょ? 奥さんのために、一番立派なのをとっておいたんですよ!」
「ウチのも見て行ってください! 今日は活きがいい鯛が入ってますから!」
「ふふっ、いいわね。少し見せてもらおうかしら♪」
駅前の商店街で、純玲は夕食のための買い物をしていた。
美人でスタイルがよく、金払いもいい純玲。そんな彼女は、商店街ではマドンナ的存在として歓迎されている。
中でも八百屋と魚屋の若い主人は特に純玲を気に入っており、常連の中でも特別扱いしていることを隠そうとはしなかった。
「ウチの野菜を食べてるから、純玲さんはいつまでも若いままなんですよね」
「それなら俺の店だって負けてないよ。コラーゲンにDHAたっぷり! 魚さえ食べてりゃ、純玲さんみたいな美人になれるんだ!」
「あらあら、困ったわ……あんまりオバさんをからかっちゃダメよ?」
「い、いやっ! 純玲さんはぜんぜんオバさんなんかじゃないですよ!」
八百屋の主人は、むかし国体にも出場したことがあるスポーツマン。いまでも休日のトレーニングは欠かさず、たくましい肉体を保っている。
魚屋の主人は毎日重いトロ箱を運び、こちらもよく鍛えられた精悍な身体つきをしている。
そんな健康的で若々しい二人から慕われることに悪い気はせず、純玲もついつい彼らの店を贔屓にしてしまっていた。
「ふふふっ……けっきょく言われるがままに買わされちゃったわね」
買い物バッグから大根と鯛の尻尾をはみ出させ、純玲が家路につく。
そして駅前の交差点で信号待ちをしていた――その時。
――ゾクッ!
「…………っっ!?」
信号が青に変わって、通行人たちが横断歩道を渡り始める。
しかし純玲はその場で足をすくませ、歩き出すことができなかった。そんな彼女を見て、数人の歩行者が不思議そうに首を傾げ、そのまま通過していく。
(な、何コレっ……なんて強い、闇の――)
……そう。彼女はとつぜん強烈な闇のエナジーの気配を感じ、動くことができなくなってしまったのだ。
現役のシャイニングディオーネとして戦いの日々を送っていたあの頃でも、こんな強いエナジーを感じたことはない。
これは魔族の中でも、彼らを束ねる幹部クラスのもの。あるいはそれ以上の――
(ま……まさか、魔王!?)
純玲はその気配を追い、周囲の人たちから見て不自然ではない程度の動きで辺りを見渡した。
そして――
(…………っ! いた!)
闇のエナジーの中心にいる人物。それは堂々と横断歩道を渡り、こちらに近づいてくる。
すさまじいプレッシャーに耐えながら、純玲は目を細めてその顔を見る。
(…………お、男の子……?)
それは陽花梨と同じ学園の制服を着た、学生だった。
若いオオカミを思わせるような、鋭い眼光。しかしそれ以外は取り立てて特徴もない、普通の青年だ。
彼はその鋭い目を眠たそうに弛緩させて、無防備そのものといった様子でこちらに向かって歩いてきて――
(…………っっ!!)
――やがて何事もなく、純玲とすれ違った。
大きな胸の下で、早鐘のように心臓が脈打つ。いまの一瞬で、純玲は長いあいだ戦い抜いてきた日々を凌駕するほどの緊張を感じていた。
(ま、まさか、あんな若い子が……魔王?)
さりげない動作で振り返って、純玲はその背中を目で追った。
しかし考えてみれば魔王は一度その身を滅ぼされ、現代に生まれ変わっているはずだ。肉体的にはあれくらい若くても、なんの不思議もない。
もしも魔王が社会に溶け込んで、人間として生活し、成長しているのだとしたら……警戒しなくてはいけない。
周囲の人間を油断させ、人間界を内側から取り込んでいくことだって考えられる。
それに同じ学園に通っている以上、彼と陽花梨が何らかの関係を持っている可能性だって充分ある。
まさか陽花梨が魔王の正体を明かさないのは、彼に原因が……?
いずれにせよ、このことは慎重に探っていく必要がある。
(陽花梨……ごめんね)
純玲は秘密を守りたがっている娘に心の中で謝罪しつつ、何がなんでも彼の素性を明らかにしなくては……と決意した。