金剛心輝シャイニングディオーネ~世界一面倒くさい魔王とヒロインの純愛(?)凌辱バトル~ 作:johnny内藤
◇
「これで終わりですっ! カッティングぅぅっ……ブレぇぇぇーーぃドっ!」
海上に架けられた橋梁を空から見下ろしながら……姫菱陽花梨ことシャイニングディオーネが、聖なるエナジーによって形成された輝く刃をひらめかせた。
この日は魔王オブジディアが橋を落として交通を麻痺させようとしているという噂を聞きつけ、それを阻止すべく文字通り飛んできたのだ。
――ギャギィィィィンッッ!
「――くっ……!?」
「ハハハハハッ、なんだその腑抜けた剣は!」
そんなディオーネの一撃を、ダークアメジスティアが槍の一振りで弾き返した。
「クククッ……やはり母親がいないと何もできないのか? そんなに魔王様を止めたいのであれば、今日もママについてきてもらうべきだったなぁ!」
「お、お母さんが来るまでもありません! 今日は私ひとりの力で、あなたたちを止めてみせます!」
アメジスティアに挑発されて、ディオーネはムキになって叫び返した。
――ブラックディオーネという新たな力を得て、再び往年の力を取り戻した姫菱純玲。
彼女の中で聖と闇がひとつになったエナジーは、どうやら非常に不安定であるらしい……ということが、先日の一件以降わかった。
融合しながらも常に反発し合っている矛盾したエナジーは、それ故にすさまじい力を純蓮に与える反面消耗も大きく、回復には多大な時間を必要とする。
つまり純玲は一度ブラックディオーネに変身した後、数日間は戦えない状態に陥ってしまうのだ。
この日は運悪く、魔王の襲撃と純玲の休息が重なってしまった。
そのためシャイニングディオーネは独力で彼らを止めに来たのだが――
「ハァアアアァァッッ!!」
――バキィイイイイインッ!!
「きゃあぁぁあああああっ!?」
上段から振り下ろした斬撃にブラッタースピアの切っ先を合わせられ、ディオーネは武器の刀身を砕かれてしまった。
粉々になった刃がまばゆい光の粒と化し、そのまま空中に霧散していく……。
急いでクリスタルに力をこめて、再び刃を形成しようとするディオーネ。しかし――
「させんッ!!」
――ガッ!!
「ぁっ、ぅぐ……っっ!?」
素早く頭上に回り込んだアメジスティアが、ディオーネの首筋めがけて槍の石突を打ち下ろした。
半球型の石突は首を貫通してしまうということはなかったものの、そのぶん強烈な打突を発生させて、彼女の脳を激しく揺さぶった。
ディオーネは自分の意識が遠ざかっていくのを感じながら、深い海へ向かって真っ逆さまに落ちていく――
(だめっ……海……手、動けなっ……溺れ……死ん……っっ)
かすんでいく思考の中で、ディオーネの脳裏にそんな言葉がよぎっていく。
いかに頑丈な正義のヒロインであろうと、溺れてしまえばどうなるか……そんなことは、彼女自身もまったく知らないことだった。
間近に迫った死を実感しながら、ディオーネが見たもの――
――ドサッ!
「……っとと。危ないことするなぁ、叔母さん……」
(…………く、黒河……くん……?)
――それは海面からたった数メートルほどの位置で、落下中の自分を受け止めてくれた魔王だった。
「……お前、けっこう重いな。胸も太もももプヨプヨしてるし、そのせいか?」
先日さんざんエナジーを搾られたことへの仕返し……と言わんばかりに、魔王が仮面の下で毒を吐いた。
しかし当のディオーネの耳には、そんな言葉などまるで届いてはいない。
(く……黒河くんにお姫様抱っこ……お姫様抱っこ……お姫様抱っこ……っっ♡♡♡)
……そう。いまのディオーネは脇や膝の裏に彼の手を挿し込まれ、まるで絵本に出てくる王子様に抱きかかえられるプリンセスのような体勢になっていた。
先ほどまで死を連想させるワードが飛び交っていた脳内は、一瞬でその言葉一色に埋め尽くされてしまう。
「今日はまた少し趣向を変えてみてな――――お前の――――の頃の思い出――――れを利用させてもらう――――」
(ああ……黒河くん、何かしゃべってる……近いなぁ……仮面取ってくれないかなぁ……)
魔王の言葉を聞き流しながら、ディオーネはぼやけていく視界の中心でジッと彼の顔をとらえている。
「――――に、お前を――――せる―――――そんなヤツらに大切な思い出を穢されたら――――お前もますます人間に――――だろうな――――」
(……今日も何かするのかな……男の人たちを使って……私がいやがるようなこと……)
朦朧とする意識の中で、過去に魔王から受けた凌辱の場面を思い出す。
陽花梨にシャイニングディオーネを辞めさせるため、彼は手段を選ばない。時に見ず知らずの男たちをけしかけ、時に彼女の母親まで巻き込んで――
魔王に与えられた屈辱……曜が与えてくれた快感……。
(………………)
そんな今までのイキ地獄が、頭の中でフラッシュバックしたディオーネは――
(……私、今日は黒河くんに……どんなことされちゃうんだろう………………♡……)
――自分でも気づかぬうちに、期待と被虐の悦びが入り混じっていた目を細め、唇にうっすらと笑みを浮かべるのだった。
◇
――ミ~~~ンミンミンミンミン……
「…………はっ!?」
どこからともなく聞こえてくるセミの声に、ディオーネの意識が引き戻された。
ここはダークアメジスティアの空間ではない。かと言って、どこか知らない別の土地でもなかった。
「……あれ? ここって……わ、私の街?」
ディオーネはキョロキョロと周囲を見渡し、不思議そうに呟いた。
そう。彼女が立っていたのは、自身もよく知る都内の住宅街だ。
自宅からは数十メートルも離れていない路上。彼女はいつの間にか、そんな場所に立たされていたのだ。
いつかと違い、身体が何かに固定されている様子もなく自由に歩き回れる。
今日は何かするのをやめにして、魔王は自分を解放してくれたのだろうか? そう思えるほど、ディオーネの目の前には何の変哲もない日常の光景が広がっていた。
普段とまるで変わらぬ、いつも通りの自分――
「…………あれ?」
そう思ったところで、ディオーネは
「なんか……毎朝見る街とは、違うよね……?」
自分を取り囲んだ、見慣れた街並み。
それは毎朝学園に通うたび彼女が目にする光景とは、若干の食い違いがあった。
「えっと……あそこのおうちって、たしか建て替えられたはず……だよね?」
ディオーネは右前方にある青い屋根の家を指さして、自分の記憶と照らし合わせてみた。
……間違いない。あの家は古くなったという理由でもう何年も前に再建されて、今は黒い屋根になっているはずだ。
電信柱に貼られている選挙ポスターには、ディオーネも覚えていないほど昔の候補者の顔写真が載っていた。
他にもずいぶん前に閉店してしまった喫茶店や、撤去されたはずの公衆電話など――周りには、彼女の記憶をくすぐるものが溢れていた。
だが激しい違和感があるのは、何も街の風景だけではない。
「な、なんか私の背……小さくなってない!?」
……そう。彼女はいつもよりはるかに低い視点から、不思議な懐かしさを感じさせる街を見上げていたのだ。
そう言えばさっきから耳に届く自分の声も、心なしか普段より高く感じる。
まるで過去に戻ってきてしまったかのような感覚。それは昔、母と一緒にシャイニングディオーネごっこをしていたあの頃のような――
「そっ、そうだ! 鏡……!」
ディオーネは慌てて辺りを見渡し、自分の姿を確認できるものを探す。
そして曲がり角にあったカーブミラーを見つけ、そこに映った自分を見ると――
「え……ええええええええええええっっ!?」
彼女は驚きのあまり、愕然としてしまった。
映っていたのは、純白のコスチュームを身にまとった正義のヒロイン……ではなかった。
そこにいたのはなんと、昔のように白いワンピースを着た、当時の姿そのままの姫菱陽花梨だったのだ。
「なっ……なんでなんでなんでっ!? なんで私、小さくなってるの!?」
ピョンピョンと飛び跳ねながらミラーに姿を映し、ディオーネは……いや、陽花梨は自分の顔や身体を指で触って確かめてみた。
触覚は問題なく機能している。つまりこれは、間違いなく自分の身体ということで――
「ま……まさかアメジスティアに夢でも見させられてる!? で、でもなんで私を昔みたいな姿にする必要が……?」
まさか現在よりも力が弱かった頃まで自分を若返らせて、やっつけるつもりじゃ……?
そう思って周囲を警戒するが、魔王やアメジスティアが現れそうな気配は微塵も感じられない。
まったくもって不可解な事態に、陽花梨は首をかしげた。
――ミ~~~ンミンミンミンミン……
「……それにしても」
徐々にこの異常事態に慣れ始めてきた陽花梨が、先ほどまでよりも落ち着いた様子で街を観察する。
数年前とまったく変わらぬ光景。夏の暑さに負けないよう懸命に騒ぐセミの声が、次第に彼女の心もあの頃に引き戻していくようで――
「ふふっ……なんだかなつかしくて、楽しい感じ♪」
もっと他の場所も見てみたい……そう思って、陽花梨はテクテクとその場から歩き始めた。
「わぁっ、転校していったみっちゃんのおうち! そうそう、このころはまだあったんだよねぇ。……あっ! おとなりのコウが死んじゃうのって、たしかこの何年か後なんだよね? ふふっ……せっかくだし、後でなでさせてもらいに行ってみようっと♪」
大好きだった犬のことを思い出し、ついにはスキップまでし始めてしまった陽花梨。
彼女にとってのノスタルジーに満ち溢れたこの街に、どっぷりと魅了されてしまっているようだ。
いまの姿や周囲の風景に合わせるように、精神も少しずつ退行してきているようだ。陽花梨の頭の中からは、たったいま自分がもっとも警戒しなければならない相手のことがスッポリと抜け落ちている。
「…………そうだっ!」
陽花梨はあることを思い立ち、足を止めた。
「お母さん、どうしてるかなぁ」
そう。ここが陽花梨がよく知る昔の街なら、家には母親である純玲がいるはずだ。
「陽花梨が立派な正義のヒロインになれますように」と、あの頃の自分に期待して、後押ししてくれた優しい母。
成長した今では、念願のシャイニングディオーネになれた。エナジーの使い方だって、昔よりずっと上手くなった。
それを教えてあげて、またあの頃の