金剛心輝シャイニングディオーネ~世界一面倒くさい魔王とヒロインの純愛(?)凌辱バトル~ 作:johnny内藤
◆
学園がある街から、一時間ほど自転車をこいだ先にある住宅街。
この日はそこが魔族に襲われたとSNSで知り、俺は授業が終わると同時に教室を飛び出した。
「ハァ、ハァッ……くっ……! チッ……くしょお!」
手を埃まみれにして、倒壊した建物の瓦礫をひたすら取り除く。
足元から聞こえてくるのは、恐怖からか激しく泣き叫ぶ女の子の声。
「待ってろ! 絶対助かるから!」
俺は絶えずその声の主を励まし続け、一個ずつ着実に瓦礫を除けて――
「――ケケェェーーーーーーーッ!!」
「はぁぁぁっ……えぇぇぇぇい!」
――ガキィィィンッ!!
「……ッ!? くそぉっ……!」
頭上で激しい空中戦を繰り広げているのは、鳥の翼を背中に備えた猛禽の魔物。それに輝く剣を携えて、生身で自由自在に空を飛ぶシャイニングディオーネだ。
鋭いくちばしと剣が交差するたび、金属質の重たい音が辺りに響き渡る。
二人がこちらに気づいている様子はない。これなら安心して作業を続けられそうだ。
……いや。
それだけに、ここがいつ戦いに巻き込まれるか予想ができず、かえって危ないとも言える。
俺は一刻も早く女の子を助け出すため、瓦礫をどける腕に力を込める。
「……ッッ、つぅっ!?」
ひときわ大きな壁の残骸を持ち上げようとした時、ズルリと手が滑り、鋭い痛みが走った。
手のひらを見ると、皮がめくれてしまっているようだ。
「ハァ、ハァ……ぐっ……ッ! 誰か手伝えよ! 子供がいるんだ!」
安全な場所へ避難するため、背後を横切っていく何人もの大人たち。
瓦礫に手をかけたまま、俺は助力を求める……が、彼らは我先に逃げようとするばかりで、こちらを気にする者などひとりもいない。
「……チぃッ!!」
助けが期待できない以上、自力で何とかするしかない。
怪我自体は、どうせすぐに治る。俺は手のひらの痛みを見て見ぬふりし、ひとりで瓦礫を除け続けていく――
……やがて幼児ほどの女の子の姿が見えてきた。
よかった。これくらいの大きさなら、隙間から楽に出られそうだ。
俺は瓦礫の間に肩をねじ込み、力いっぱい腕を伸ばしてその小さな身体を引き上げる。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……大丈夫か……? どこも痛くないな?」
女の子は多少のすり傷を負ってはいるものの、骨が折れたりしている様子はないようだ。
「ハァ、ハァ……ははっ。頑張ったな……」
俺は心底安堵し、その子の頭に手を伸ばす――
「ママ……ママぁっ」
「えっ?」
――しかし女の子はそんな俺に一瞥もくれることなく、自分が這い出てきた穴に必死に手を伸ばし、懸命に何かを訴えている。
隙間から見えるのは、瓦礫に押し潰されピクリとも動かないの人間の両脚……。
「…………ッ……!?」
どう見ても手遅れだった。
「……お前のお母さんか?」
俺はその子にこれ以上遺体を見せぬよう、小さな身体をこちらに向けさせ、頭をギュッと抱き寄せる。
「…………ごめんな」
そして痛くなるくらいに奥歯を噛みしめ、一言そう呟いた。
――と。
「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
――ドゴォォオオオオオオン!!
「――んなっ!?」
空気が震えるような轟音。
弾丸のように飛来してきたディオーネが、ここから十メートルも距離がない場所にある、建物の壁をぶち抜いた音だ。
おそらく魔物と空中で激突し、弾き飛ばされたのだろう。コンクリ壁に大きく開いた黒い穴が、その破壊力を物語っている。
「くっ……けほ、けほっ!」
パラパラと音を立てて降り注ぐコンクリートの粉を頭に浴びながら、すぐに立ち上がったディオーネが穴から顔を出してきた。
タイトな白いコスチュームにはところどころ穴が空き、傷ついた肌が露出している。
「……っ、まだです! これくらい、ぜんぜん効きません!」
ディオーネは空中を睨み返し、そう叫んだ。
端正な横顔を痛みで歪めてはいるものの、ダメージ自体は大したことないようだ。たしかな闘志を感じさせる彼女の瞳を見て、俺はホッとため息をつく。
「……チッ。
だがすぐに思い直し、ついつい悪態をついてしまう。
「…………?」
その声が届いたのか、そうでないかは定かではないが……不意にこちらに視線を向けたディオーネと目が合った。
「……えぇっ!? くろ……っっ!! ……ええええええ!?」
「…………???」
一秒に満たないほどの時間見つめ合った後……ディオーネは驚愕の声を上げて、その場で固まってしまった。
(なんだコイツ……一般人が瓦礫の中で子供を助けてるのが、そんなに珍しいのか?)
その不可解なほどの驚きように軽い苛立ちを覚えた俺は、ディオーネの顔を正面から睨み返す。
「あ、あの――」
こちらに向かってディオーネが何かを言いかけた……その時。
「――キケェェェーーーーーーーーッ!!」
「…………ッ!? くっ……!」
彼女にトドメを刺すべく、魔物が地面に向かって急降下してきた。
「ハッ、やぁぁっ! ……このぉっ!!」
追撃への対応に追われ、ディオーネは俺たちの相手をしているどころではないようだ。
鋭い爪やくちばしの連撃をギリギリで捌きつつ、こちらに向かって大声で叫んでくる。
「早く! その子を連れて、早くここから逃げてください!」
「……言われなくても!」
別にあんなヤツの指示に従ったわけではないが、俺は女の子を抱えたまま、急いでその場から駆け出した。
逃げた人間のことになど興味はないらしく、背後からは魔物がディオーネと打ち合う激しい音が聞こえてくる。
……危なかった。見つけるのがもう少し遅れていたら、この子は命を落としていたところだった。
なんとか間に合ってよかっ――
「……ママぁ」
「………………」
そうだった。俺は決して間に合ってなどいなかった。
皮がめくれて痛みが残る手のひらを、固く握りしめる。
……次は間に合わせてみせる。これ以上、俺やこの子のような思いを誰かにさせるのは……!
――こうして魔族に襲われた街を巡り、戦いに巻き込まれた人をひとりでも多く助ける。
それがいま俺が興味を持てる、唯一のことだった。