※この作品はR-18です。

淫臭村フィールドワーク〜ムチムチドスケベ欲求不満おんなばかりの田舎村を調査する〜   作:ユリイカ

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第13話「ムチムチドスケベオナニー村長」

 蔵の闇にも次第に目が慣れ、内部の様相が詳細になる。そこには笙子の言葉通り、しばらく過ごすために必要なだけの水と食料が用意されていた。スマホは圏外でインターネットにアクセスすることはできないが、なぜか真新しい漫画やゲームなども置かれている。

 

「よくわからない監禁部屋だなぁ。妙に快適そうな感じもするし、準備が整ってるし」

 

 当初は絶望に暮れていた耀も次第に落ち着きを取り戻し、状況を確認するだけの余裕が出てきた。計画的な犯行だったのか、蔵の中には娯楽の類まで揃えられている。五十代の笙子が、わざわざ町に降りて若者の好みそうな漫画やゲームを購入する様子を想像すると、笑いさえ込み上げてくる。

 漫画はシュリンクが施されたままで、最新のゲーム機は梱包だけ解かれて置かれている。ケーブルの接続やセッティングまではできなかったらしい。

 騙して部屋に閉じ込めた割に手厚いもてなしが、ちぐはぐな印象だった。

 

「古そうなものもいっぱいあるな。骨董品ばっかりだけど、壊したらヤバそうだ」

 

 蔵は壁面に棚が備えられ、そこに古めかしい品々が置かれていた。薄く埃の積もったものばかりで、笙子も普段は訪れていないことが察せられる。壺や巻物、屏風、茶器など、耀にはその価値も推し量れない。とにかく蔵に納められている以上、壊していいはずもない。

 閉じ込められた腹いせに破壊できるほど、耀も図太くはなかった。

 

「あそこの窓から、出られないか……?」

 

 蔵の奥には、木の格子が嵌め込まれた窓があった。そこからはわずかに山の迫る青空が垣間見える。とはいえ、かなり高い位置に設けられた窓で、そこまで登るのは難しそうだった。

 前方の扉と、後方の嵌め殺しの窓。外界に繋がるものはその二箇所以外には見当たらない。

 耀は用意されていた大きなクッションに身を預けつつ、どうしたものかと思い悩む。

 

「笙子さんは、百花舞奉納が終わるまでここにいろって言ってたよな」

 

 別れ際に残された言葉を反芻する。

 彼女はやはり、百花舞奉納を外部の者に見せたくないのではないか。だからこそ無理難題の掟を突きつけ、あまつさえ監禁という強硬手段に出たのではないか。

 しかし、と耀は被りを振る。

 

「掟を破ったら、毎回エロいことが起きてた。玲奈ちゃんが言うには、桃香村の女の人はみんな性欲が強いらしいし……」

 

 よくよく考えれば、結美も玲奈も世間一般の女性と比べて性に積極的だった。玲奈は耀と出会ってから、その燻る欲求を解放させたような気もするが、それにしても随分と激しく求められた。

 耀は考えるほど、掟の存在について疑問が増えていく。

 

「仮に掟を破るとエロいことが起きるとして、なんで破ったら百花舞奉納に参加できなくなるんだろうか」

 

 一つ、仮説として挙げられるのは、色欲に負けた男には神聖な儀式に参加する資格なしと判断されるというものだ。しかし、それにしては結美も玲奈も、耀が百花舞奉納に参加することを疑っていない。自分たちが隠していれば大丈夫だと言っていた。

 村人たちとのインタビューの中でも、たびたび掟のことを尋ねられた。きちんと守っているか、食事と休養は取っているか、しつこいくらいに確かめられた。彼女たちも、耀が祭りに参加することを確信しているような口ぶりだった。

 今年は正式な百花舞奉納が行われると、皆が喜んでいた。耀は結局、今まで正式な百花舞奉納というものの詳細については調べることができずにいた。

 

「……何か、この蔵に手掛かりはないかな」

 

 蔵の中には美術品や骨董品に紛れて、古い書物もいくらか置かれている。笙子の言っていた古い史料は耀を誘き寄せるための餌だったが、本当にそれに類するものがないという確証もない。

 クッションから立ち上がり、スマホのライトを点けて周囲を見渡す。歩けば埃が舞うような蔵の中だ。笙子も物質を運び込んだのちは早々に退散したのだろう。奥の方は手付かずである。

 

「時間だけはあるし、調べるとするか」

 

 持ち主に無断で蔵を漁るのは趣味の良い話ではないが、監禁されているのだからこれくらいは許してもらおう。汚損にだけは気をつけつつ、耀は棚に置かれた書物に手を伸ばす。

 

「流石に古いな。字も達筆だし……」

 

 和綴じの書物は、その外見に違わず古い。文字も当然のようにくずし字で、不真面目な学生である耀がすらすらと読解できるはずもなかった。とはいえ、彼には現代の利器が味方についている。スマホには、くずし字を解読するためのアプリが入っていた。

 

「講義課題を楽するために入れててよかった。何が身を助けるか分からないな」

 

 静かな蔵の中でほくそ笑み、耀は紙面にスマホを向ける。自動的に文字を認識し、文章を解読してくれる。とはいえ、正確に意味の全てを翻訳してくれるわけではない。耀はメモ帳に翻訳の結果を書き写しつつ、内容を紐解いていく。

 どうやら、それはかつての谷倉家当主が記した日記のようだった。達筆な運びで記されているのは、当時の日々のことである。

 

「百花舞奉納に関わることはなさそうだけど……」

 

 有力な手掛かりは、一見したところでは発見できない。

 しかし仮にも民俗学を専攻する身として、当時の暮らしに興味がないわけでもなかった。耀はクッションに身を沈め、笙子が用意した漫画やゲームには見向きもせず、黙々と解読作業に没頭した。

 少しずつ明らかになる情報を整理していくと、やはり桃香村ははるか昔から女性が壮健で活発な土地であったようだ。山神の加護によるもの、と幾度となく繰り返されている。

 逆に男性に関する描写は少ない。もともと男が生まれづらい血筋なのか、日記の執筆時点で数年前に生まれた男児のことが折に触れて丁重に言及されている程度だ。

 

「桃の話だ」

 

 読み進めるうち、桃という字が現れる。耀は掟にある言葉を思い出しつつ、文字を追いかけていく。

 桃香村の名の通り、この谷では桃が育てられていた。山神の加護を受けた特別な桃は、女性を強くするという。

 

「百花舞奉納は、桃の恵みに感謝するためのものだったのか」

 

 延命長寿、悪病退散、心身健康、安産祈願のご利益があるとされる山神。その化身とされる桃。それらに対して感謝を伝え、また百花のごとく咲き誇れと祈願する。それが百花舞奉納である。

 百の花が乱れ咲くように、村人たちが総出で踊り、舞う。それはそれは華やかなもののようだ。その際には桃から作られた酒も供され、老いも若きも垣根を越える。祭りの会場となる神社には甘い香りが満ち満ちて、誰も彼もが酔いしれる。

 

「甘い、香り……?」

 

 集中していた耀は、はたと気付く。鼻先を微香がくすぐった。甘い、桃のような匂い。

 

『んっ……。んん……っ』

 

 それと同時に、耳に何かが聞こえてくる。窓を見れば、すでに夕暮れにせまっていた。朝から蔵に閉じ込められ、一瞬で一日が過ぎようとしていた。我ながらその集中力に感心しつつ、彼は扉の向こうの気配を捉える。

 

「笙子さんか? でも、何か様子がおかしいような」

 

 怪訝に思いながら、足音を殺して扉の方へ。上部に嵌められた格子から、そっと外を覗き込む。

 

「あっ♡ だめ、こんなこと……♡ 羽瀬川さんには我慢を強いているのに……っ♡ んんっ、でも、あぅっ♡」

「っ!?」

 

 そこで見たのは、壁に背中を預け大胆に足を開いて股間をまさぐる女村長の姿だった。口に布を噛み締めて声を抑えようとしているが、髪が乱れるほどに夢中になっている。着物の隙間から胸元に手を入れて、己の乳房を揉みしだいている。帯が解け、白い襦袢が露わになるなか、彼女は薄く茂った秘園を指でむしるように刺激している。

 思わず声を出しそうになるのを必死に堪えながら、耀はその光景をまじまじと見つめる。蔵の中は暗く、耀の姿をうまく隠しているようだ。笙子は彼の存在に気付かぬまま、扉の向こうの彼を想って艶声を漏らしている。

 

「ああ、ぅ♡ 結美さんも、玲奈さんも、あんなに雄臭べっとりさせて素知らぬ顔して……♡ 村じゅうに声も響いて♡ バレてないはずがないでしょう♡ んぉおっ♡ だめ、またイっちゃう♡ ああんっ♡」

 

 ぐちょぐちょと蜜壺をかき混ぜる音がする。熟れきった肉体を持て余すように、女は己を刺激する。敏感な部分を執拗に捏ねて、己を慰める。

 冷厳とした居住まいからは想像もできないほど乱れた姿、とろけた目と涎を垂らす紅色の唇に、耀は視線を離せない。

 彼に見られていると思いもせずに、女は自慰に更ける。奥歯を噛み締めて声を殺しながらも、指は止められないようだった。

 

「んおぉおおっ♡ いぐっ♡ 大きいの、ぅんんっ♡ はぅうっ♡」

 

 一際強い快楽が迫り、女は四肢を投げ出してブルブルと震える。年齢に不相応な、艶やかな肌は血色を良くしているように見えた。

 汗ばみ、甘い淫臭が広がる。全身を弛緩させて快楽の余韻に浸っていた笙子は、はっと我に帰ると乱れた衣をかき集める。半裸のまま立ち上がり、扉の方へ。

 耀が慌てて蔵の奥へと戻り、クッションに座って背を向けると、彼女はじっと視線を向けた後、ひっそりと帰って行った。

 

「笙子さんも、淫乱な桃香村の女だったんだ……」

 

 耀は高鳴る鼓動を抑えながら、荒い呼吸を繰り返す。

 この村には、ムチムチとした男を興奮させる魅力的な体つきをした欲求不満のドスケベ女しかいないのだ。その気質こそが、桃香村の女たちの血筋なのだ。

 現実離れした突拍子もない結論だが、妙に納得できた。耀という若い男を見る村民たちの視線の意味が。彼女たちもまた、耀を狙っていたのだ。

 

「おーい」

 

 その時だった。

 蔵の方へ、声がする。こつん、こつん、と石のようなものが外から投げつけられる音も続いた。

 驚き身構える耀に、再び声が。笙子のものではない。山に向かう、窓の方からだった。

 

「耀さん、大丈夫?」

「助けに来たよー」

 

 その声は、白樺荘の親子のものだった。

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