※この作品はR-18です。

淫臭村フィールドワーク〜ムチムチドスケベ欲求不満おんなばかりの田舎村を調査する〜   作:ユリイカ

14 / 27
第14話「声に誘われて」

 谷倉邸の最後部に位置する蔵の裏側から、コツンコツンと音がする。それに続いて聞こえてきたのは、耀もよく知る親子の声だった。夜も間近に迫る薄闇に紛れるように、抑えた声が蔵に響く。

 

「もう大丈夫よ、耀さん」

「ここの窓から抜け出して」

 

 姿は見えないが、間違えるはずもない。橘花親子が、待てど暮らせど戻らない耀を心配してやってきたのだ。

 蔵の上部にある窓から、縄が投げ込まれる。これを伝って登れば、外に出ることも叶うだろう。

 耀は救助の手が差し伸べられたことに感激しながら縄の下へと向かい、ふと気が付いた。

 

「ここって、山の方角なんじゃ……」

 

 この期に及んで脳裏をよぎる、五つの掟。窓から見えるのは黒々とした山の影だ。

 山の方角からの呼びかけに応じるべからず。その掟を破ってしまうのではないかという不安が耀を苛む。だが、そんな彼の逡巡を知ってか知らずか、窓の外からは玲奈の声がする。

 

「耀さん、早く。笙子さんに気付かれる前に脱出しないと」

 

 笙子は先ほどまで、蔵の扉の前で淫らに己を慰めていた。すぐに玲奈たちの存在に気付くことはないだろう。しかし、耀が誰かと話していることを察する恐れは拭いきれない。

 

「本当にここから出ていいのか……?」

 

 蔵の中には、一週間は十分に生活できるだけの物資が用意されている。健気にも笙子は慣れない電子機器まで運び込んでいるのだ。耀を監禁しても、苦しませようという意図は見えなかった。

 蔵の中で見つけた日誌には、百花舞奉納に関する記述があった。しかし、それを読み進める前に中断してしまった。

 男が掟を守らなければならない理由はなんなのか。なぜ村人たちは執拗に掟を守るように言ってきたのか。

 

「耀さん、早く!」

 

 結美の声が急かす。

 耀は次々と湧き上がる疑問の数々を振り払い、垂れ下がった救いの縄に手をかけた。

 末端を木に括り付けているのか、耀が引っ張ってもびくともしない。そのまま体重を預けても問題はなさそうだ。懸念となるのは、大して運動もしていない耀の腕力が耐え得るかという点だけである。

 

「頑張って、耀さん!」

「こっちは安全だから。焦らず落ち着いて」

 

 親子の声を頼りに、壁に足をつけて登っていく。ギシギシと縄が軋み、ボロボロと埃が落ちてきた。しかし異様な状況に脳がアドレナリンを放出しているのか、耀自身も驚くほどの力で着実に窓へ近づいていく。

 

「はぁ、はぁっ!」

 

 荒い呼吸を繰り返しながら、なんとか窓の縁に手をかけた。その時だった。

 

「初瀬川さん? 何を――!」

 

 背後、蔵の扉の向こうから笙子の焦燥した声がした。耀の様子を窺い、彼が壁を登っていることに気が付いたのだ。南京錠を開けようとする金属音が響く。扉が開けば、すぐにでも彼女が飛び込んでくる。

 

「すみません、笙子さん。俺……」

「ま、待ちなさい! 行ってはだめ! 掟を忘れたのですか!」

「外に結美さんたちが待ってくれてるんです。申し訳ないですが、彼女たちの方が信頼できるから」

 

 鉄格子越しに、切羽詰まった女性の顔が見えた。彼女は何かを必死に訴えかけようとしているが、耀は努めてそれを振り払う。

 

「百花舞奉納が終わるまで、出てはなりません!」

「ごめんなさい!」

 

 南京錠が床に落ち、扉が乱暴に開かれる。着物を乱した女村長が飛び込んだ時には、すでに遅く。ゆらゆらと縄だけが揺れていた。

 

「結美さん、玲奈ちゃん!」

 

 窓から外へ出た耀は周囲を見渡す。木々の生い茂る山が目前にまで迫る邸宅の裏側は、久しく人の手も入っていないような有様だ。結美も玲奈も、よくこんなところまで来てくれたものだと感心さえしてしまう。

 しかし、そこには肝心の二人の姿が見当たらなかった。

 

「あれ、二人とも、どこに……?」

「耀さん、こっち!」

 

 困惑する耀に山の奧から声が響く。玲奈のものだ。姿は見えずとも、茂みの奧にいることは分かった。

 

「まずは笙子さんから逃げるのが先決よ。こっちへ」

 

 さらに結美の声も続く。

 耀は深く考える余裕もなく、声のする方へと足を踏み入れた。

 道も整備されていない野生の山の中を、薮をかき分けて入る。声はさらに奧へと進んでいるようだった。

 

「こっちだよ。気をつけてね」

「もうすぐだから」

 

 闇は刻一刻と濃くなり、周囲の景色も塗りつぶされる。耀はスマホのライトを頼りに、山を登っていく。結美たちが姿を現さないことに一抹の不安を覚えても、今更踵を返すこともできなかった。

 いろいろな汗を滲ませながら、次第に傾斜のきつくなる山肌を這うようにして登る。

 

「そもそも、この奧って何があるんだ……?」

 

 土だらけの手で汗を拭いながら、不穏な気持ちがむくむくと膨らんでいく。谷倉邸は桃香村の最奥にあったはずだ。その背後の山に何があるのか、耀は知らない。だが結美と玲奈の声は一定の距離を保ったまま、先へ先へと進んでいる。相変わらず彼女たちの姿は見えない。

 

「光だ」

 

 心が折れそうになったその時、枝葉の影に紛れてぼんやりと光るものが見つかった。耀は一気に活力を取り戻し、一心不乱にその光を目指す。

 

「どんどん増えてる。あれは……提灯?」

 

 点々と光源が並んでいる。山の暗闇のなかで、それは増えていく。

 近づいて詳らかになったのは、それが木々に吊り下げられた提灯であることだった。桃の絵柄が描かれた提灯が、耀を誘うように連なっている。もはや退くことなどできなくなった耀は、その提灯を頼りに進む。

 

「耀さん!」

「結美さん! 玲奈ちゃんも!」

 

 提灯を追いかけて進み、唐突に茂みが終わる。そこは石段が上方へと続く参道のようだった。そこに待望していた結美と玲奈が立っていた。二人は耀を見ると両手を広げ、一目散に近づいてくる。

 

「待ってたわ、耀さん」

「無事でよかった……」

 

 二人の柔らかな肉体が耀を包み込む。その体温と女性らしい匂いに、青年はようやく安堵することができた。

 

「ありがとうございます。まさか、閉じ込められるなんて……」

「本当にびっくりしたわ。まさか、あんな強硬手段に出るだなんて」

 

 信じられない、とばかりに眉を寄せる結美。彼女にとっても笙子の行動は予想外だったようだ。

 

「結美さん、ここはいったい?」

「この先には百花神社があるの。百花舞奉納の舞台になる場所よ」

 

 胸元に耀の頭を埋めるように抱きしめたまま、結美が現在地を説明する。村の最奥、谷倉家の背後に聳える山の中腹に古い神社があるという。普段は村人たちも立ち入らない辺鄙な立地だが、五年に一度の百花舞奉納が繰り広げられる舞台でもある。

 

「百花舞奉納まではあと三日ありますよね。もう提灯が立ってるんですか?」

 

 山を縦に貫くような石段の左右には提灯が並んでいる。さらに紙垂が下がった縄も巡らされ、秘祭の予感が迫っていた。

 

「もう三日しかないのよ。このために、みんな少しずつ準備をしてきたの」

 

 耀の背中に、結美の手が這う。玲奈も彼の腕を抱き込み、谷間に挟み込むようにしていた。

 いやに密着してくる親子に、耀もようやく違和感を抱き始める。

 

「あの、結美さん。ちょっと離れて……」

「ダメよ、耀さん。いつ笙子さんが来るとも分からないもの」

 

 耀が身を引こうとするも、強引に抱き寄せられる。大胆に広げられた胸元の、しっとりと汗ばんだ柔肌に顔面を押し付けられ、耀はくらりとふらつく。

 

「あと三日も待てないよ。ねえ、早く神社へ行こうよ」

 

 どこか甘えたような玲奈の声。彼女は耀の腕を抱き、その手のひらに股間を押し付けてくる。柔らかな恥丘の、ぷにぷにとした感触が布越しに伝わってくる。

 

「ダメよ。祭りの日は決まってるの。――でも、それまで笙子さんから守らないと。拝殿に避難しましょうか」

「んむっ!? 結美さん、玲奈さ――」

「あんまり騒いじゃだめよ。ほら、ぎゅーっ」

 

 しっとりと湿るような空気。さすがの耀も、二人の異様な雰囲気に気がつく。

 急いで彼女たちの抱擁から抜け出そうとするも、強引に抱きしめられる。そのまま彼女たちは、耀を引きずるようにして石段を登る。

 

「ぐぅ、う……。意識が……」

 

 むわりと香る結美の体臭が、耀の思考を鈍らせる。玲奈が押し付けてくる胸がやわらかい。股間が弄られているような気がした。

 だが抵抗することはできない。

 耀は混濁する意識のなかで、結美と玲奈が艶やかな笑みを浮かべていることに気が付いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。