※この作品はR-18です。

淫臭村フィールドワーク〜ムチムチドスケベ欲求不満おんなばかりの田舎村を調査する〜   作:ユリイカ

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第18話「秘祭の真相」

 耀は再び目を覚まし、再び見慣れぬ天井に首を傾げ、再び拘束されていることに気が付く。しかも今度は全身がぐったりと鉛のように重たく、足だけでなく手も後ろに回して縛られている。ただ寝かされていた部屋は畳敷の広い和室で、怪しげな匂いに満ちているということもない。

 

「これはいったい……うっ」

 

 起きあがろうと身を捩り、頭の鈍い痛みに襲われる。昨晩の濃密な体験が脳裏によぎり、混乱を生じさせた。

 

「目が覚めたようですね」

「笙子さん」

 

 背後で襖が開き、黒い和服に身を包んだ細身の美熟女が入ってくる。鋭い目つきで見下ろす笙子に、耀は思わず膝をそろえて正座した。

 昨夜は谷倉家の蔵に監禁され、結美と玲奈の手引きで抜け出し、山奥の建物の中で彼女たちと熱く交わり、そして笙子に助け出された。目まぐるしく変わる状況を、今の段になってようやく飲み込み始める。

 

「まだ身体には疲労が溜まっています。しっかりと休んでください」

 

 汗を滲ませる耀の元に、お盆に載せられた水差しとコップが寄せられる。それを見て初めて、彼は喉が渇いていることに気が付いた。急かされるように水を飲み干し、乾きを癒す。全身に冷たい水が行き渡れば、少し落ち着きを取り戻すことができた。

 

「すみません。いったい、何がなんだか……」

 

 空のコップを握りしめたまま、耀は眉を寄せる。

 淫らに乱れる結美と玲奈。情事を覗く村人たち。手を引いて走る笙子。記憶が次々と浮かんでは消えていく。

 

「申し訳ございません、初瀬川様」

「えっ!? ちょ、笙子さん!?」

 

 ぼんやりとする耀の目の前で、突然笙子が三つ指をついて頭を下げる。常に凛然としていた村長の突然の行動に、耀は飛び上がって驚く。やめてくださいと訴えても、彼女は頑として動かず、水平にのびた背中と、むっちりとした尻肉が見せつけられる。

 

「突然謝られても、さっぱりなんです。いったい、何があったんですか」

 

 青年が困り果てて説明を求めれば、笙子はゆっくりと顔をあげる。唇を噛み、深い後悔の念を浮かべていた。

 

「本来ならば、初瀬川様をお招きするべきではなかったのです」

「お招きって……」

 

 右下に視線を逸らす笙子の言葉に、耀は耳を疑う。彼がこの桃花村にやってきたのは、全く進捗のない卒論を完成させるためだった。しかも、それは指導教官に命じられるままにやってきただけ。招かれた覚えはない。

 

「もしかして、教授って」

 

 はっと気がつく。

 笙子はぎこちなく頷いた。

 

「彼女も桃花村の出です」

 

 衝撃的な事実が明かされ、耀は唖然とする。

 たしかに彼の所属するゼミの教授は若くして優秀な研究者だ。だが日がな一日を陰鬱とした研究室で過ごし、大学では変わり者として知られている。そんな彼女がなぜ門外不出の秘祭とされる桃花村の百花舞奉納を知り、谷倉家との繋がりを持っていたのかはたしかに疑問であった。

 

「この村が正式な百花舞奉納を執り行ったのは私が十六の頃。もう二十年以上も前のこと。その後も細々と略式で行っていたものの、もはや正式を知る者は少なくなりました。今回、正式な百花舞奉納を成さなければ、もはや失伝してしまいます」

 

 百花舞奉納には正式と略式がある。現在の村民のなかで、前回の正式の百花舞奉納を体験し、また執行することができる者は笙子しかいないという。彼女は村長という重役を務めていることもあり、正式な百花舞奉納の実施は必要だと考えていた。

 しかし、正式な百花舞奉納を行うために必要なものが、ひとつだけたりない。

 

「正式な百花舞奉納に、俺が必要だったんですか」

 

 笙子は頷く。

 頬を薄く朱に染めながら、若い青年を見つめている。

 

「百花舞奉納とは、山の女神に供物を捧げることで豊穣を祈願するもの。豊穣とは、力強く活力の溢れる桃花の娘たちのこと。そして供物とは彼女たちに次の世代を宿す男性のことです」

 

 桃花村の血筋は特殊だ。女性しか生まれぬ代わりに彼女たちは壮健で逞しい。かつては男にも負けず野良仕事に精を出し、現在は村の外で数々の成果を挙げている。そんな彼女たちにとって最大の悩みが、子孫の問題だった。

 普段は男手も必要としない桃花の娘たちだが、子を成すにあたってはそうも言っていられない。しかし、彼女たちは男勝りに逞しく、性欲は無尽蔵そのものだ。男と契ろうにも、その夫婦関係が長続きするはずもない。そこでかつての村民たちは祭りを行うことにした。

 五年に一度、ただその短期間にだけ村の女たちが若く健康な男を招き、その子を孕む。血筋を残し、次世代へと繋げるために。

 それこそが、百花舞奉納の真相だ。

 

「申し訳ありません、初瀬川様」

 

 笙子は秘祭の全貌を詳らかにした上で、再び謝罪した。

 

「それじゃあ、五つの掟というのは……」

 

 耀が初日、笙子から課せられた五つの掟。これを守らなければ百花舞奉納には参加させない、と他ならぬ笙子が明言していた。

 

「日没後は湯に浸かるべからず。夜は女の性欲が高まる時。そのような時間に身を晒すなど、襲ってくれと言っているようなものです」

「そうですかね?」

 

 真面目な顔で断ずる笙子に、耀は思わず首を傾げる。

 色々と言ってはいるが、彼女も桃花村の女性に違いはない。どこか妙な価値観の相違があるような気がしてならなかった。

 

「夜獣の声というのは……」

 

 夜獣の声あれば部屋から出るべからず。

 その掟を破った時のことを思い出しながら、耀が尋ねる。

 

「普段は女ばかりの村ですから。日々溜まったものを己で慰めることはお互い様です。ですので、皆、夜に聞こえた声は全て獣のものとして無視するのです」

 

 旺盛な性欲を持て余した女たちがオホ声オナニーをキめているのは、ド田舎では隠し通すこともできない。だからこそいっそ全員が暗黙の了解として、紳士協定ならぬ淑女協定を結んだということだった。

 

「山の方からの呼びかけに応じない、というのは」

「山にあるのは百花舞奉納の舞台となる社です。そちらから巫女役の女が呼びかけ、男が応じることで祭りが始まります。どんな理由であれ、始まってしまえば止めることはできません」

「えっ」

 

 耀は思わず声をあげる。

 彼は監禁から逃れるため、笙子の制止を振り切って山の方へと向かった。その方角から聞こえた、結美と玲奈の声に応じてしまった。

 笙子は神妙な顔で頷く。

 

「申し訳ありませんが、すでに祭りは始まってしまいました」

 

 彼女の口から、衝撃的な言葉が飛び出す。

 小さな部屋の中で、耀は親娘と交わった。あれは祭りの始まりの奏上だ。

 

「本来なら七日かけて体力を温存してもらうつもりだったのです。しかしあなたはあろうことか橘花の親娘と共に掟を破ってしまった。あの二人と随分とお楽しみだったようですね」

 

 じろり、と美熟女が鋭い目つきを突きつける。この田舎で秘密を隠し通せるはずもない。そんな当たり前を耀は今更思い知る。

 

「ですので、最終手段を講じたのです。せめて百花舞奉納の実施日までは休養を取り、祭りを乗り越えるだけの体力を温存してもらわなければ」

「それが、あの監禁ということですか」

「監禁とは。ちゃんと新しいゲームも用意しましたのに」

 

 心外そうな村長は、唇を尖らせた。彼女も分からないなりに、若者に不自由なく過ごしてもらおうと苦心していたのだ。すべては正式な百花舞奉納を行うために。

 だが耀はそんな笙子の心遣いに気付かず、掟を三度破ってしまった。

 百花舞奉納は、すでに始まってしまった。

 

「大義名分があるのは橘花家。そして祭りの開幕を心待ちにしていた村人たちです。すでにこの屋敷は、彼女たちに囲まれています」

 

 正式な百花舞奉納を体験していない村の女たちは、耀の来村を心待ちにしていた。祭りが行われる時を、一日千秋の思いで待ちわびていた。一日二日、早まってもいいと考える過激派だ。笙子はそんな飢えた野獣のような女たちから、耀を守ろうとしていたのだ。

 

「このままでは、あなたも私の夫のようになってしまいます」

「笙子さんの旦那さん……?」

「前回の正式な百花舞奉納で供物となった男です。――彼は当時の女たちに代わり代わり犯され、衰弱し、心神喪失となって倒れました。それほどまでに、祭りとなった時の桃花の女は手がつけられないのです」

 

 百花舞奉納の恐ろしさを知る女村長は、ぎゅっと拳を握りしめる。

 

「初瀬川様、今ならまだ逃げられるやもしれません。屋敷に古いですが車もあります。それで町まで降りれば、あるいは」

「――笙子さん」

 

 耀を逃せば、百花舞奉納は失伝する。そうと理解しながらも脱出の手引きをする笙子の声を、耀は封じる。

 

「俺、結美さんや玲奈ちゃんには親切にしてもらったんです。他の村の皆さんも優しくて。おかげで卒論も完成させられそうなんです。――ここで逃げたら、みんなに恩を返せないし、大学だって卒業できませんよ」

「そんなことは……」

「俺にできることなら、手伝わせてください」

 

 真剣な顔でそう言って、直後に彼は苦笑する。

 

「いや、違うな。俺、結美さんや玲奈ちゃん、それに笙子さんが他の男と祭りをやってほしくない」

「なっ!? ふ、二人はともかく、私は……」

「今回が最後のチャンスっていうのは、前回を知る笙子さんが参加できるのが今回までってことなんですよね。俺、笙子さんも綺麗だと思ってるし、その、セックスしたいですよ」

「っ!」

 

 もはや恥も外聞もない。

 素直な気持ちをそのまま投げつけると、美熟女はあからさまに顔を真っ赤にして狼狽える。そんな姿も可愛らしく、蔵の扉の前で淫らに鳴いていた姿を思い出してしまう。

 彼の興奮を、笙子も感じ取ったのだろう。彼女は腹を括り、

 

「もはや猶予はありません。――初瀬川様、こちらをお飲みください」

 

 懐から小瓶を取り出す。栓を開けて差し出されたそれから香るのは、ツンと突き抜けるような酒精の気配。

 

「笙子さん。これって掟を破ることになるんじゃ」

 

 酒精を摂るべからず。

 提示された掟のうちの一つにあたる。

 しかし笙子は眉間に皺を寄せて耀を一蹴する。

 

「すでに三つも破った分際で何を言っているのです。すでに祭りは始まってしまいました。でしたら、今はなりふり構っている暇はありません。さあ、早く」

 

 痛いところを突かれ、耀は押し付けられるまま小瓶を受け取る。笙子に急かされながら、その中身を一気に煽る。

 

「んぐっ!?」

 

 喉が焼けるように熱い。その炎は瞬く間にに全身へ駆け巡り、血液が沸騰したような興奮を抱く。

 

「桃花村の山に生える希少なキノコ、カブトワリタケを用いた赤酒です。これを飲めば、三日三晩の戦を戦い抜けると言われるほどの強壮薬。理性を外し、欲望を剥き出しにして、百花舞奉納を戦い抜くのです」

「ふぅ――! ふぅっ!」

 

 耀は奥歯を噛み締めながら、必死に耐える。

 頭の中が激しく明滅し、思考は千切れて吹き荒れる。もはや笙子の声もほとんど聞こえていない。思うことはただ一つだけ。

 

「笙子さんを犯したいっ!」

 

 目の前に佇む和装の美熟女。そのしなやかな肉体に向かって飛び込んだ。

 

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