※この作品はR-18です。

淫臭村フィールドワーク〜ムチムチドスケベ欲求不満おんなばかりの田舎村を調査する〜   作:ユリイカ

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第2話「冷徹の美熟女村長」

 白樺荘は桃香村唯一の宿泊施設だが、客室は四つだけという小規模なものだった。床板の軋む廊下を歩きながら、女将の結美が滑らかに説明を施す。

 田舎の年季の入った建物ということであちこちに歴史を感じさせるが、そんなことは耀にとって些事に等しい。なんといっても、この民宿では結美という絶世の美女と一つ屋根の下で過ごせるのだ。

 

「ごめんなさいね。ここでは私と娘も暮らしているから、騒がしいかと思うけど」

「いえ、気にしませんよ」

 

 結美は優しげな眼差しの、おっとりとした美人だ。ふくよかな肢体は着物を纏っていっそう魅力的で、近づけば花のような香りさえしてくるようだった。高校生の娘がいるようで、油の乗った女盛りの年頃である。

 何を隠そう、耀は結美のような年上の包容力に溢れた女性が好みだった。

 張り切って答える耀に、結美は安堵の笑みを浮かべる。

 

「ありがとう。若い男の子が村に来るなんて初めてのことだから、心配だったの。ご飯は腕によりをかけて作るから、楽しみにしててね」

 

 こんな美熟女と共に暮らせるだけでなく、その手料理までご馳走になれるのだ。これだけでも、はるばる田舎の秘境まで赴いてきた甲斐はあるというものだった。

 浮き足立つ耀の前で、結美の邪魔にならないよう一纏めにした長い髪が軽く揺れる。彼女が振り返った拍子に、帯の上から迫り上がる爆乳が跳ねる。

 

「お部屋はここを使ってね。一応、ワイファイ? も使えると思うから」

 

 本人はあまり機械に強くはないのだろうか。若干心許ない説明を伴いながら、引き戸が開けられる。そこはこじんまりとした6畳ほどの小部屋だが、必要最低限の家具は揃えられていた。隅々まで掃除も行き届き、耀としては文句など言うものもない。

 

「私の部屋はこの隣だけど、普段は食堂の方にいることが多いわ。何かあったら気軽に仰ってちょうだいね」

「ありがとうございます。とってもいい部屋ですよ」

「ふふっ。ありがとう。張り切ってお掃除しましたから」

 

 思わず舌が踊る。そんな耀に結美は嫌な顔もせず、純朴な笑顔で喜んだ。

 こんなに愛嬌もある年上女性との共同生活が送れるとは。恨みかけていた教授にも、今は足を向けて寝られない。

 羽のように軽い足取りで室内に入り、荷物を置いた耀。だがその直後、やらねばならぬことを思い出し、再び気持ちが重くなる。

 

「あの、結美さん」

 

 この民宿の女将は、名前で呼んでほしいと耀に言った。共に暮らす娘も同じ苗字だから、という理由であったが、耀としては一気に距離感を縮められた気がしてむしろ嬉しい。

 少し胸を高鳴らせながら名前を呼ぶと、結美はくるりと振り返る。その勢いで再び揺れる胸に視線を向けぬように注意しながら、耀は口を開く。

 

「谷倉さん、のお宅に伺いたいんですけど、場所を教えてもらえませんか?」

 

 教授の知り合いだというこの村の代表者。そんな谷倉何某に、入村後すぐ挨拶しなければならない。そもそも名目上はフィールドワークのためにやって来たのだから、最低限の礼儀は弁える必要があった。

 耀の問いかけに、結美はすぐに頷く。

 

「谷倉さんはこの村に一軒だけよ。村の一番奥にある大きなお屋敷だから、迷うこともないと思うわ」

「そうでしたか。ありがとうございます」

 

 ここまで運んでくれたタクシーの運転手も谷倉の名前を知っているようだった。桃香村の代表であるという話は間違いではないらしい。

 

「それじゃあ、少し出かけてきます」

「いってらっしゃい。お夕飯の準備をして待ってるわ」

 

 時刻はすでに夕方に迫っている。おちおちしていると日が暮れて、挨拶どころではなくなるだろう。耀は後ろ髪を引かれる思いで荷物を整え、白樺荘を出る。わざわざ玄関まで付いて来てくれた結美に見送られ、こんな生活も悪くないと思いつつ、村の中央を走る太い道を辿る。

 

「それにしても、田舎の割に道路も立派なんだな」

 

 遠目に見た村の印象とは裏腹に、間近に迫ると新たな発見がある。アスファルトの敷かれた道路は幅広で、街頭も煌々と灯りを放っている。こんな田舎に、と思えば失礼かもしれないが、ここまでの道のりを鑑みれば驚くほどに整備が行き届いている。

 その割に道ゆく人々の影はまばらで、活気にあふれた町というわけではない。この対比もまた耀を混乱させた。

 

「村の人たちに話しかけた方がいいのかな。いや、その前に挨拶が先か?」

 

 大通りを歩いていると、時折視線を感じる。そちらに目を向ければ、物陰にさっと隠れる人影が見えた。やはり余所者は珍しいのだろう。じっとりとこちらを値踏みするような視線に、耀はうんざりし始める。

 だが、そのうちにまた別の違和感も抱く。視界に入る村民が皆、年齢の差はあれど目の覚めるような美女ばかりなのだ。結美ほど鮮烈な美貌ではないものの、都会を歩けばすぐにスカウトやナンパを受けそうな者ばかり。しかも、

 

「……男の人はいないのか?」

 

 道ゆく人々がことごとく女性だった。農作業帰りらしい作業着姿の女性もいるが、男性の姿は見当たらない。ただの偶然かと思ったが、それも続けば奇妙に感じる。

 彼女たちはじっと耀を見つめ、視線を返せばさっと物陰へと隠れ、あちこちでヒソヒソと囁いている。いくら美人ばかりでも、その壁のある反応はむず痒い。

 耀はいっそ村民の視線を気にしないようにして、道を歩く。やがてなだらかな坂道となり、それは急斜面を登る長大な石段へと変わった。

 

「マジかよ……」

 

 大通りは間違いなくこの石段に向かっている。他に迷うような分岐はなかった。

 何より、石段の頂上に立派な屋根付きの門構えが鎮座していた。あそこが村長である谷倉家であることは明白だった。

 都会育ちの耀は絶望に打ちひしがれながら、意を決して石段を登る。まだ春先とはいえ、長旅の果てに立ちはだかる石段は過酷だ。百段を超えて、意識朦朧としながら登り終えた彼は、もはや立っているのもやっとだった。

 

「はぁ、はぁ……。田舎の家、ヤバすぎる……」

 

 なぜこの石段だけは整備してくれなかったのか。

 そんな恨み節まで漏れそうになった耀を迎えたのは、余所者を阻むように閉じられた門扉だった。すでにうんざりしながら周囲を見渡すと、脇戸の傍に現代的なインターホンが付いていた。

 呼吸を整え、ボタンを押す。聞き慣れた電子音が鳴ったかと思うと、すぐに応答があった。

 

『初瀬川さんですね。話は伺っております。どうぞ、奥へ』

 

 名乗る暇さえなく、招かれる。不思議に思って頭上を見れば、門の軒先にひっそりと監視カメラがぶら下がっていた。

 脇戸を恐る恐る押し開け、奥へ進む。

 

「おお……。豪邸だ……」

 

 そこは新緑に彩られた開放感あふれる屋敷だった。教養のない耀にも一目で格が違うと思わせるほどに、洗練された美がそこにある。

 砂利の敷き詰められた庭を突っ切り、大名屋敷もかくやという威風堂々とした主殿の玄関に向かう。耀が引き戸の前に立つと同時に、それが音もなく開かれた。

 

「ようこそいらっしゃいました。遠路はるばる、ご苦労様です」

 

 言葉の内容とは裏腹に、ぴしゃりと言い放つような冷たさのある声だった。

 驚く耀を見下ろしたのは、黒い和装に身を包む中年の女性だった。年齢は結美と近しいだろう。しかし第一印象はずいぶんと違う。

 ほっそりとした手足に、すらりとした長身。切れ長な瞳は威圧的で、一本筋の入ったように背は真っ直ぐに伸び、厳かな空気さえ醸している。いかにも土地の重鎮と言わしめるような。それでいて、間違いなく美人である。ただし結美が万人を引き寄せる美人ならば、彼女は万人を跳ね除けるような雰囲気がある。

 

「ずいぶんと遅い到着でしたね」

「あ、いえ。すみません……」

 

 突き放すような口調に戸惑いながら、咄嗟に謝る。

 女性は彼を一瞥し、くるりと背を向けた。帯に描かれた白い花が、耀の視界に飛び込んでくる。

 

「どうぞ、奥へ。時間がありませんので」

 

 にべもなく、促される。

 耀は色々な不安が噴出するのを感じながら、足音もなく歩く美熟女の後を追いかけた。

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