淫臭村フィールドワーク〜ムチムチドスケベ欲求不満おんなばかりの田舎村を調査する〜 作:ユリイカ
目を覚ました耀は、鉛のように重たい身体に思わず呻き声を漏らした。だんだんと意識は明瞭になっていき、記憶が蘇ってくる。百花舞奉納の最終段として笙子から差し出された桃を口にして、神桃食いを成し遂げた。村の女性達全員との契りを結んだ彼は、そこから長い夜を過ごすことになった。
腰が痛いし、喉が干からびている。目の奥がチカチカと明滅するような倦怠感が残っていた。しかし、笙子の柔肌や結美の爆乳、玲奈のキツく締まった膣肉の感触も、全て鮮明に覚えている。ゆっくりと身体を起こせば、広い畳敷きの和室に淫らな女達が身を寄せ合って眠っていた。
お互いに精も根も尽き果てるまで交じり合ったのだ。
「お目覚めになりましたか」
「笙子さん。……大丈夫ですか?」
まだ日も昇らぬ、朝の汀。ぼんやりと佇む耀の背後から静かに声がかけられる。振り返ったところ、襖を開けて現れたのは、簡単に浴衣を羽織っただけの笙子だった。手には水差しとコップを携え、耀の元へと歩み寄る。
その足取りはどこかぎこちなく、何やら奇妙だ。
「どなたかがこちらの年齢も考えず無遠慮に動かれたせいで、足腰に力が入らないだけです」
腰を気遣いながら、鋭い視線を耀に差し向ける笙子。肌はみずみずしく髪艶もよい笙子だが、結美よりも年上なのだ。耀に抱き潰されて何ともないはずもない。
青年が頭を掻いて謝罪すると、彼女はつんと唇を尖らせたあと、ふわりと口元を綻ばせた。一夜の祭りを経て、彼女の真意も明らかになった。お互いの距離も近づき、親密になった。
「どうぞ。喉も乾いているでしょう」
笙子が持ってきた水を彼に渡す。
耀がありがたく受け取って、喉を鳴らして飲み干すと、彼女は穏やかな表情でそれを見守った。
十人以上の美女を相手に動き続け、身体は干からびる寸前だった。ぬるい水というのもちょうど良く、全身に染み渡っていく。
「少し夜風に当たりましょうか」
部屋の中はまだほのかに甘い残り香がある。二人はそっと足音を殺して縁側へと場所を移す。
山の向こうでは空が薄く白みはじめ、透き通るような風が穏やかに吹き抜ける。隣り合って座布団の上に座った二人は、その幻想的な風景を眺める。
「ありがとうございました。初瀬川様のおかげで、百花舞奉納を次の世代に継承することができました」
「そんな、俺は何も。というか耀君って呼んでくれないんですか?」
昨夜は濃密な情愛と共に下の名前で呼んでくれていた。不思議がって耀が顔を覗き込むと、笙子は頬を赤らめて目を逸らした。
「あれはその、つい気が浮ついてしまったというか。わ、私のようなおばさんに馴れ馴れしくされても……」
「今更何を言ってるんですか」
氷のようなオーラが溶けてしまえば残るのは年不相応の初心な少女のような可愛らしい素の部分である。何度も彼女の膣内で果て、その身体の隅々まで知っている耀は、少し呆れながら笑う。今更、歳の離れなど気にするはずもないというのに。
「それに笙子さんだって、俺の奥さんなんですよね」
冷静になってから改めて口にすると、耀も少し気恥ずかしい。だが百花舞奉納を経て彼は笙子とも婚姻を結んだ。だからこそ余計に、他人行儀な呼び方は気に入らなかった。
だが、予想に反して笙子は口をきゅっと結ぶ。
「……笙子さん?」
薄暮のなか、不穏な空気が滲む。
怪訝な顔をする耀に、笙子はわざわざ正面から向き直った。
「初瀬川様、私が初日に提示した掟を覚えていらっしゃいますか」
耀には不可解だった。
笙子が提示した掟は、耀を百花舞奉納の供物とし、その負担を考えてのものだったはず。祭りの前に体力を浪費しないようにという笙子の気遣いだったはずだ。百花舞奉納は終わり、神桃食いも成し遂げられた。今や掟のことを考える理由もない、はずだ。
彼女から提示された掟を、耀は思い出していく。
一つ、男子は桃を食べるべからず。
一つ、山の方角からの呼びかけに応じるべからず。
一つ、夜獣の声あれば部屋から出るべからず。
一つ、日没後は湯に浸かるべからず。
一つ、酒精を摂るべからず。
思い返せば提示された初日から、順調に全て破っている。
「最後の一つを、思い出してください」
掟は五つ。
否、最後の一つは意図的に除外されていた。曰く前五つの掟をどれか一つでも破れば意味のないものだ、と。
「一つ、祭囃子はなきものとせよ。でしたよね」
笙子は頷く。
「元々五つの掟を破られた場合には、初瀬川様の負担を考え、百花舞奉納は行わないつもりでした。しかし、無事に奉納が捧げられたいま、六つ目の掟も考えなければなりません」
「その、祭囃子はなきものとせよ、というのは」
たおやかな美熟女は睫毛を伏せる。膝の上に置いた手をきつく握りしめ、何かに耐えているようだった。
「――初瀬川様、昨晩のことは全て忘れてください。何もかも、ただの夢なのです」
「何を言って……」
「百花舞奉納とは、次の世代の子を成すための儀式。一人の男を取り合って、女達が争う醜い嫉妬の坩堝です。だからこそ最後には全員と契りを結ぶという無理のある解決で収めるのですが、そうそう上手くいくはずもありません」
愕然とする耀に、笙子はつらつらと語る。
「百花舞奉納の夜は、後々の禍根の種となります。過去には何度も痴情のもつれが起こったと言われています」
「だから、忘れろって言うんですか」
彼女も苦しげに胸を押さえながら、頷いた。
耀は全身の血が逆流するような錯覚を抱く。成り行きとはいえ百花舞奉納に加わり、彼女達と激しく交わった。彼女達から囁かれた言葉は全て嘘なのか。いや、違うはずだ。――だが、役目を終えれば邪魔だというのか。
「申し訳ありません、初瀬川様。これが掟なのです」
昏い感情に支配されそうになった耀ははっとする。彼の目の前で笙子はぽろぽろと大粒の涙をこぼしていた。
仮初とはいえ、彼女とも契ったのだ。一夜で終わる泡沫の関係だと知っていてなお、彼女は耀と結ばれることを選び、喜んだ。結美も玲奈も、他の女性達もそうなのだ。
笙子にとっては、二度目の夫との別れになる。それを承知で、彼女は選んだ。そこに嘘があろうはずもない。
「――待ってください」
「ダメなんです。掟は絶対のもの。耀さんの身を守るためにも、彼女達が目を覚さないうちに村を出た方がいいでしょう」
谷倉邸には車がある。それを使えば、町に降りることもできる。
だが耀は首を横にふる。笙子の肩に手を置き、至近距離で見つめる。青年に顔を寄せられ、美熟女は悲しげに瞳を揺らす。
「笙子さん、俺を閉じ込めていた蔵にもう一度案内してくれませんか」
「何を言って……。もはや時間はそう残されていないんですよ」
夜は間も無く明けるだろう。笙子はその前に彼を見送るつもりだったらしい。
「いいえ。だからこそです。蔵の中に古い史料がありました。それを調べさせて欲しいんです」
困惑する笙子に、耀は訴える。
「こんなのはあんまりだ。誰も幸せにならない伝統なんて、あっていいはずがない。何か見落としていることがあるかもしれない」
彼のまっすぐな瞳。
「お願いします。この村の歪んだ掟を、調べさせてください」
最初に顔を合わせた頃とは見違えるようだ。笙子はその真剣な眼差しに、思わず胸を高鳴らせてしまう。彼のことは忘れなければならないと、何度も自分に言い聞かせてきたというのに。その虚勢が濡れた和紙のように容易く破れてしまう。
溢れ出す熱い想いが、咄嗟の行動になる。
「んっ、ちゅぅ――」
唇をぴったりと重ね、彼の温度と味と匂いを感じ取る。
どちらからともなく舌を絡め、丹念に唾液を混ぜ合う。
青年のしっかりとした腕が笙子の細い背中を抱きしめた。
「――はぁっ、はぁ」
息継ぎもなく、濃厚なキス。
窒息寸前までそれを堪能した後、笙子は口元を拭いながら立ち上がる。
「こちらへ。ご案内しましょう」
「ありがとうございます。笙子さん」
一千年続いた因習を断ち切るため、耀は古い蔵へと向かう。